meningitis -retention syndrome

内科合同カンファレンス
沖縄県立南部医療センター 2年目研修医 上田江里子
■症例:27歳女性 ■主訴:発熱 頭痛 全身倦怠感 ■現病歴: 受診3週間前 咽頭痛、湿性咳嗽あり。LVFX処方され帰宅。 受診1週間前 発熱、咽頭痛、湿性咳嗽あり。近医受診し、扁 桃腫大、白苔付着、右頸部リンパ節腫脹あり、 セフカペンピボキシル処方され帰宅。 受診2日前 再度38度台の発熱あり、頭痛出現。 受診前日 夕方から尿出なくなる。嘔吐1回、悪寒戦慄あり。 受診当日 頭痛や全身倦怠感が増悪し、朝にER受診、 導尿にて 500mlの排尿あり。一旦帰宅したが、 自宅で立てなくなったため、同日再受診し入院。
■既往歴:特になし ■内服歴:ロキソプロフェン 2回内服 ■月経歴:33日周期、整、随伴症状なし ■家族歴:特になし ■生活歴:喫煙なし、機会飲酒 入院時身体所見
BP106/56mmHg HR82/分 RR18/分 BT37.0℃ SpO2 97%(RA) 意識清明 眼瞼結膜貧血なし 項部硬直あり jolt accentuaIon陽性 頸部リンパ節腫脹なし 口腔内白苔なし 口唇アフタなし 肺野:清 crackleなし wheezeなし 心音:整 雑音なし 腹部:平坦軟 腸蠕動音亢進減弱なし 圧痛なし 背部:肋骨脊柱角叩打痛なし 脊椎叩打痛なし 皮膚:皮疹なし 両側下腿浮腫なし 末梢冷感なし 外陰部びらんなし アフタなし 神経学的所見
脳神経学的所見異常なし 筋力:MMT上下肢ともに5 上肢Barre徴候陰性 感覚障害なし 腱反射:下顎反射+ その他上下肢++/++ 病的反射:Hoffman反射陰性 Babinski反射陰性 肛門の表在反射軽度?低下 肛門括約筋収縮軽度?低下 鑑別診断? 検査?
血算
WBC
RBC
Hb
Ht
Plt 7400 /µl
432 万/µl
12.5 g/dl
36.6 %
19.1 万/µl
検査所見 生化学 T-­‐bil 0.7mg/dl AST ALT
LDH
γGTP
Na
K Cl BUN
Cr
CRP
血糖
13 IU/L 9 IU/L 169 IU/L 92 IU/L 138 mEq/L 3.8 mEq/L 103 mEq/L 8 mg/dl 0.6 mg/dl 0.27mg/dl 92 mg/dl 尿検査 比重 1.007 pH 7.5 尿糖 (−) 尿蛋白 (−) 尿潜血 (−) ビリルビン (2+) 亜硝酸塩 (−) 髄液
細胞 58 /µL
好中球 87 %
リンパ球 13 %
比重 1.005
蛋白 73
Glu 48 mg/dl
胸部レントゲン
頭部CT
明らかな占拠性病変なし
腰仙部MRI
左T2WI、右造影T1WIのいずれも明らか脊髄
円錐・馬尾の明らかな異常を認めない 頭部CT
明らかな占拠性病変なし
腰仙部MRI
左T2WI、右造影T1WIのいずれも明らか脊髄
円錐・馬尾の明らかな異常を認めない meningi&s-­‐reten&on syndrome (髄膜炎ー尿閉症候群) CTRX
Acyclovir
入院後経過
体温
(℃)
39.0
38.0
37.0
36.0
退院
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 1回自尿量(ml)
50
残尿(ml) 260
200
100
225
300
50
25
病日
CTRX
Acyclovir
入院後経過
体温
(℃)
39.0
38.0
37.0
36.0
髄液ヘルペスPCR陰性
尿道バルーン抜去 退院
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 1回自尿量(ml)
50
残尿(ml) 260
200
100
225
300
50
25
病日
CTRX
体温
Acyclovir
入院後経過
血液培養陰性 αblocker開始 (℃)
39.0
38.0
37.0
36.0
髄液ヘルペスPCR陰性
尿道バルーン抜去 退院
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 1回自尿量(ml)
50
残尿(ml) 260
200
100
225
300
50
25
病日
CTRX
体温
Acyclovir
入院後経過
血液培養陰性 αblocker開始 (℃)
39.0
38.0
37.0
36.0
髄液培養陰性 コリン作動薬開始 髄液ヘルペスPCR陰性
尿道バルーン抜去 退院
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14 1回自尿量(ml)
50
残尿(ml) 260
200
100
225
300
50
25
病日
体温
入院後経過
CTRX
HSV IgM(EIA) 0.19 Acyclovir
血液培養陰性 HSV IgG(EIA) 56.4 αblocker開始 CMV IgM(EIA) 1.15 (℃)
髄液培養陰性 CMV I
gG(EIA) 22.8 髄液ヘルペスPCR陰性
コリン作動薬開始 39.0
尿道バルーン抜去 EBV 2.0 38.0
退院
アデノCF 1
28倍 37.0
HIV (−) 36.0
1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12 13 14
髄液ヘルペスPCR 陰性
1回自尿量(ml)
50
残尿(ml) 260
200
100
225
300
50
25
病日
排尿障害について•••
排尿調節
大脳 (抑制中枢) 脳内神経伝達物質 排尿抑制 運動系 骨盤神経 (副交感神経)
下腹神経 (交感神経)
陰部神経 (体性神経)
尿
意
橋 (上位排尿中枢) 尿
意
排尿促進 S2-­‐S4(T6-­‐S4) (下位排尿中枢) 尿
意
排尿促進 膀胱 知
覚
系 求心路 遠心路 尿意
<蓄尿>
交感神経が興奮して、 ・膀胱を弛緩 ・尿道内圧を高める
下腸間膜動脈神経節 (胸腰椎神経核) 交感神経核
骨盤神経 (副交感神経)
下腹神経 (交感神経)
ACh受容体
β2受容体
骨盤神経叢
α1受容体
陰部神経 (体性神経)
陰部神経核
(Onuf核)
求心路 遠心路 尿意
<排尿>
副交感神経が興奮、 抑制作用を解除する
下腸間膜動脈神経節 (胸腰椎神経核) 交感神経核
骨盤神経 (副交感神経)
下腹神経 (交感神経)
ACh受容体
β2受容体
骨盤神経叢
α1受容体
陰部神経 (体性神経)
陰部神経核
(Onuf核)
膀胱平滑筋(平滑筋)
ムスカリン様 Ach受容体
骨盤神経 (副交感神経)
β2受容体
内括約筋(平滑筋)
外括約筋 (横紋筋)
骨盤底筋群
アドレナリン α1受容体
ニコチン様 Ach受容体
下腹神経 (交感神経)
陰部神経 (体性神経)
薬の考え方
排尿筋過活動 OAB(∋ 切迫性尿失禁)
排尿筋の収縮を減弱
抗コリン薬 Β-­‐sImulant
蓄尿障害の薬
α-­‐sImulant 尿道抵抗を増強
腹圧性尿失禁
排尿筋低活動 慢性尿閉(≒溢流性尿失禁)
排尿筋の収縮を増強
ChE阻害薬
排出障害の薬
α1-­‐blocker 抗男性ホルモン
尿道抵抗を減弱
前立腺腫大による尿閉
排尿調節
大脳 (抑制中枢) 尿
意
排尿抑制 運動系 橋 (上位排尿中枢) 尿
意
排尿促進 S2-­‐S4(T6-­‐S4) (下位排尿中枢) 尿
意
排尿促進 膀胱 知
覚
系 排尿調節
大脳 (抑制中枢) 尿
意
排尿抑制 運動系 橋 (上位排尿中枢) 知
覚
系 MRS
尿
意
排尿促進 S2-­‐S4(T6-­‐S4) (下位排尿中枢) 尿
意
排尿促進 膀胱 ここがやられるの
では?
MRSとは
•  無菌性髄膜炎と尿閉が同時に起こる症候群 •  鑑別疾患:仙髄部ヘルペス、Guillain-­‐Barre症候群、 ADEM、脊髄炎など •  症状:髄膜炎+尿閉 脳炎症状(意識障害•痙攣•失語など)なし 脊髄炎症状(対麻痺•感覚障害など)なし •  治療:経過観察、時にステロイド投与 •  尿閉は経過良好のことが多い MRSとは
•  無菌性髄膜炎と尿閉が同時に起こる症候群 •  鑑別疾患:仙髄部ヘルペス、Guillain-­‐Barre症候群、 ADEM、脊髄炎など •  症状:髄膜炎+尿閉 Elsberg症候群 脳炎症状(意識障害•痙攣•失語など)なし 性器ヘルペス感染に併発する 脊髄炎症状(対麻痺•感覚障害など)なし 仙髄神経根に伴った尿閉
•  治療:経過観察、時にステロイド投与 •  尿閉は経過良好のことが多い 神経症状•神経所見
ウロダイナミクス
頭痛•発熱 項部硬直
運動系
感覚系 膀胱機能
ADEM
+
対麻痺
脊髄レベル/ サドル型
排尿筋過活動と 不完全収縮 MRS
+
ー
ー
排尿筋反射消失> 排尿筋過活動 脊髄炎
±
対麻痺
脊髄レベル 排尿筋過活動と 不完全収縮 ー
ー
サドル型
排尿筋反射消失 仙骨部 ヘルペス
MRI所見
大脳白質病変と 脊髄病変 ー
脊髄病変 ー
考察
• 軽度の髄液異常を呈する炎症性神経疾患 末梢性:仙髄部ヘルペス(Elsberg症候群) 中枢性:髄膜炎-­‐尿閉症候群(MRS) 急性散在性脳脊髄炎(ADEM) 脊髄炎 • 無菌性髄膜炎に伴う尿閉は予後良好な事が多いが、 時に重症となることがあり注意を要すると思われる