GEによるAlstomエネルギー事業買収提案の狙い(PDF

第 109 号(2014020)
2014 年 6 月 9 日
みずほ銀行 産業調査部
Mizuho Short Industry Focus
GE による Alstom エネルギー事業買収提案の狙い
【要旨】

2014 年 4 月、米 GE が仏重電メーカー大手 Alstom に対してエネルギー部門の買収を提案した。

GE が今次大型買収提案を実施した狙いとして、①ガスタービン事業の強化、②火力発電事業戦略の転
換、③サービス事業の強化 の 3 点が想定される。

日系メーカーも長期的な視点での国際競争力の維持・強化を狙った戦略の構築が求められる。
GE が Alstom エ
ネルギー事業の
買収を提案
2014 年 4 月、米 GE が仏重電メーカー大手 Alstom に対して同社エネルギー部門の買
収 を 提 案 し た 。 対 象 と な る の は Alstom の Thermal Power 部 門 ( FY2014 売 上 高
EUR8,787M)、Renewable Power 部門(同 EUR1,829M)、Grid 部門(EUR3,777M)であり、
Alstom の売上全体の約 7 割を占める。買収金額としては、総額約 1.7 兆円が提示された。
独 Siemens も Alstom のエネルギー部門買収に興味を示していることや、フランス政府の意
向が大きく影響することが想定されることもあり、2014 年 5 月末時点ではディールの行方は
定まっていない状況ではあるが、GE が提案どおり買収に成功すれば、エネルギー関連売
上高が約 5 兆円の巨大企業が誕生することとなる(Oil&Gas 事業を除く)。しかし、現状でも
世界最大の重電メーカーGE が、規模でも技術でも GE のレベルには至らない Alstom の買
収提案に踏み切った理由は、買収提案に続いて実施された説明会を経ても充分に明らか
であるとは言い難い。そこで、GE が Alstom 買収提案を行った狙いについて、事業戦略面
から 3 点を仮説として挙げてみたい。
【図表 1】Alstom 事業ポートフォリオと今次対象領域
Thermal Power
今
次
対 Renewable Power
象
領
域 Grid
売上高
営業利益
売上高
営業利益
売上高
売上高
営業利益
Total
GE(参考)
Siemens(参考)
(mEUR)
(mUSD)
(mEUR)
8,787
24,274
10,239
930
4,992
1,693
1,829
(上記に含める)
5,174
7,569
6,167
82
3,777
営業利益
Transport
Alstom
売上高
営業利益
306
211
110
-156
5,876
5,885
6,318
330
1,166
-448
20,269
146,045
75,882
1,463
24,478
5,843
※Thermal 実績は、GE: Power & Water, Siemens: Fossil Power Generation
Renewable 実績は、Siemens: Wind Power
Grid 実績は、GE: Energy Management, Siemens: Power Transmission
Transport 実績は、GE: Transportation, Siemens: Transportation & Logistics
(出所)各社 IR 資料よりみずほ銀行産業調査部作成
ガスタービンの
単品販売および
メンテナンス事
業の強化
1 つ目の狙いとして、ガスタービン事業の強化が挙げられる。大型ガスタービンは技術的
な参入障壁が高く、世界的にプレイヤーは GE、Siemens、Alstom、三菱日立パワーシステ
ムズの 4 社に限定されている。中でも、GE は既に各地域においてシェア 1 位を独占するト
ッププレイヤーであるが、Alstom を加えることにより、いずれの地域においても 2 位の
Siemens に 1.5 倍~2.5 倍の差をつける圧倒的事業者となる。プレイヤーは限られるものの、
アジア地域などでは競争が激しくなりつつあり、Alstom を取り込めれば、GE にとって最重
要プロダクトであるガスタービンの競争環境を緩和し、より強固な地位を築くことが可能とな
る。また、ガスタービンは発電所稼働後のメンテナンスの利益率が非常に高いため、
Alstom の顧客ベースを加えることで、ストックビジネスの基盤を強化するとともに、メンテナ
ンス契約の着実な受注を狙うものと推測される。
© 2014 株式会社みずほ銀行
1/3
【図表 2】大型ガスタービン地域別納入実績(台数ベース)
欧州 大型GT納入実績
米州 大型GT納入実績
600
200
180
500
160
140
400
120
100
300
80
60
200
40
20
100
0
0
GE+Alstom
GE
Siemens
MHPS
Alstom
アジア 大型GT納入実績
その他地域 大型GT納入実績
250
400
350
200
300
150
250
200
100
150
50
100
50
0
GE+Alstom
GE
Siemens
Mapna
Turbine
MHPS
Alstom
Others
0
GE+Alstom
GE
Siemens
Alstom
MHPS
Others
(出所)McCoy Power Report よりみずほ銀行産業調査部作成
(注)100MW 以上ガスタービン 2000-2010 年累計
GE はこれまでガ
スタービンに注
力
ガスタービン単
品戦略から転換
する狙い
ガスタービン単
品戦略から転換
する狙い
情報を集めるほ
ど利活用の可能
性は広がる
2 つ目の狙いとして、GE の火力発電事業の戦略転換を挙げる。GE は世界最大の重電メ
ーカーであるが、製品ごとのシェアを見ると、グローバル市場はもとより、米国内でもトップシ
ェアを確保する製品は限られている。しかしながら、ガスタービンは世界シェア 5 割弱と圧
倒的なシェアを有しており、GE がガスタービンにいかに注力してきたかがうかがえる。事実、
GE の火力発電事業は、競合他社のように自ら EPC のリスクを取ることはせず、ガスタービン
単品販売およびメンテナンスの事業モデルを進めてきた。技術障壁の高いガスタービンで
技術リーダーシップを取ってきた結果、ガスタービンという圧倒的な製品を有し、自ら EPC リ
スクを取らずとも、グローバルにシェアを拡大することが可能であったといえる。
しかし、近年、高効率ガスタービンの開発では GE は他社に先行を許している。Siemens
の SGT6-8000H や三菱日立の M501J は、GE に先駆けて GTCC 熱効率 60%超を達成し
商業化されている。もちろん、GE も続いて同レベルの機種を開発し、日本国内で東芝との
協業により受注を果たしている。しかし、ハイエンド品の開発競争が激しくなる中、長期的な
視点に立ち、これまでのようにガスタービン単品の技術リーダーシップで市場を広く押さえ
ていく戦略に持続性があるかと考えた際、1 つ目の狙いとして挙げたガスタービン事業規模
追求の戦略のほかに、GE の火力発電事業戦略の根本的な転換が方向づけられた可能性
がある。即ち、Alstom が有する蒸気タービンや排熱回収ボイラといった製品群や、発電所
全体をシステムとして設計する EPC 部隊を取り込むことによる、これまでの GE のガスタービ
ン単品販売からの脱却である。特に新興国戦略を睨み、Alstom のエンジニアリングや保守
といったソフト面のノウハウが重視された可能性がある。
3 つ目の狙いとして、サービス事業の強化が挙げられる。ここでは、ガスタービンに付随
するメンテナンスサービスではなく、新たな事業分野としての発電所運転稼働後の付加価
値サービスを想定する。GE は産業にまつわる製品や部品をインターネットでつなぎ、集め
た情報をリアルタイムで利用することにより社会全体の効率化を図る”Industrial Internet”を、
産業革命、IT 革命に次ぐ第 3 の革命と位置付けている。重電産業で言えば、まずは発電
機器に複数のセンサーを設置して集めた情報を解析し、故障予兆をフィードバックするサ
ービスが想定される。これにより GE は他社の機器も含めた運転稼働情報を常時収集する
ことが可能となる。
Alstom のインストールベースは 353GW 存在し、GE の 1,000GW に加わると、顧客基盤
が一気に 1.3 倍に拡大することになる。GE が Alstom の既存顧客に対しても付加価値サー
ビスを展開し、情報を収集することができれば、発電所稼働に関する情報の世界最大の保
有者となるかもしれない。情報をもとにした効率的な運転支援などの付加価値サービスを
© 2014 株式会社みずほ銀行
2/3
提供したり、自社機器の更なる開発に繋たりと、情報を集めるほど、利活用の可能性は広
がる。
更なる再編が継
続する可能性
以上、3 つの GE の戦略仮説を述べたが、当該目線で Alstom のエネルギー事業ポート
フォリオを眺めたときの、各プロダクトと上記狙いとの整合性を検討した。GE が買収に成功
した際の Alstom の個別事業への対応によっては、更なる再編が継続する可能性もあり、注
視が必要であろう。
【図表 3】Alstom プロダクトと GE 戦略仮説との整合性
買収の狙い(仮説)との整合性
GE既存事業
①ガスタービン
強化
②火力戦略の
転換
③サービス強化
ガスタービン
◎
◎
×
◎
蒸気タービン
○
×
○
○
ボイラ(HRSG)
×
×
○
○
エンジニアリング
×
×
○
○
水力
×
×
×
○
風力
○
×
×
○
T&D機器
△
×
×
○
T&D制御
○
×
×
◎
火
力
再
エ
ネ
送
配
電
(出所)みずほ銀行産業調査部作成
GE の石炭火力
への取り組みが
注目される
ガスタービン以外の火力発電機器については、戦略仮説②火力戦略の転換がどこまで
なされるかによって、事業の位置づけが決定されるだろう。GE がこれまで注力してこなかっ
た石炭火力発電まで狙っていくならば、Alstom の石炭火力関連機器はコア事業として位
置付けられるであろうし、あくまで GTCC の中での機器ラインアップ拡大を目指すならば、
石炭火力向けの機器はノンコアとされる可能性もある。
火力以外のポー
トフォリオは個別
に注視していく
必要
火力以外の事業については、個別に見ていく必要があろう。Alstom は世界最大の水力
発電メーカーであるが、水力発電は GE が 1 度脱力した事業であり、今次買収提案におけ
る GE にとっての水力発電の位置づけは不明である。また、風力発電については GE も注力
しているものの国内陸上風力が中心であり、欧州洋上風力を含めたグローバル展開にどの
ように取り組むかによって、位置づけが決まってくるだろう。また、送配電事業は、機器は
Alstom の高電圧機器と GE の中電圧機器の製品補完があり、事業強化には資する可能性
がある。また、送配電を掌る T&D 制御事業はサービス強化の観点からは重要な事業であ
ると推察される。
日系メーカーは
長期的な視点に
立った戦略の構
築が必要
今次買収提案の背景には、GE や Siemens といえども、大型 M&A を活用した更なる事
業規模拡大や戦略転換を目指さなければ、長期的な視点に立った際の競争力維持が難し
くなっているとの危機感があると考えられる。日系メーカーも、今次買収を起点とする更なる
再編への関与や、国際競争力を強化する狙いでの国内再編など、長期的な視点に立った
戦略の構築が求められているといえる。
みずほ銀行 産業調査部
電機・IT・通信チーム
TEL: 03-5222-5083
大野 真紀子
E-mail: [email protected]
© 2014 株式会社みずほ銀行
本資料は金融ソリューションに関する情報提供のみを目的として作成されたものであり、特定の取引の勧誘・取次ぎ等を強制するものでは
ありません。また、本資料はみずほフィナンシャルグループ各社との取引を前提とするものではありません。
本資料は当行が信頼に足り且つ正確であると判断した情報に基づき作成されておりますが、当行はその正確性・確実性を保証するものでは
ありません。また、本資料に記載された内容は予告なしに変更されることがあります。本資料のご利用に際しては、貴社ご自身の判断にて
なされますようお願い申し上げます。本資料の著作権は当行に属し、本資料の一部または全部を、①複写、写真複写、あるいはその他の如
© 2014 株式会社みずほ銀行
何なる手段において複製すること、②当行の書面による許可なくして再配布することを禁じます。
3/3