米国特許商標庁発表の特許事由適格性判断のための 暫定ガイダンス

米国特許商標庁発表の特許事由適格性判断のための
暫定ガイダンス(速報 代表クレームなし)
服部健一
米国弁護士
2014 年 12 月
はじめに:
最高裁の Alice 判決を受けて、米国特許商標庁は、101 条の特許事由適格性判断のため
の従来の審査ガイドラインに代わる新しい暫定ガイダンスを 2014 年 12 月 16 日に発表
した。この暫定ガイダンスは、直ちに、現出願そして新しい出願の全てに適用される。
米国特許商標庁は、今後公共ヒアリングとミーティングを行って、この暫定ガイダンス
を最終ガイダンスとして完成させる予定である。
特許事由適格性判断のフローチャート
暫定ガイダンスは、冒頭に出願中の製品そして方法に係わるのクレームの特許事由適格
性を判断するためののフローチャートを示した。
そして、クレームの特許性を評価する前に、クレームを最も広く、リーズナブルに解釈
し、次にクレームを全体として(as a whole)分析する、と述べている。「全体として」とい
う文言は、自明性に関する 103 条に規定されている用語であるが、発明を評価するとき
にクレームの文言だけでなく、二次的考察事項(予期せぬ効果、商業上の成功等)も考慮
しなければならないという意味である。
今回の暫定ガイダンスは、審査官はクレームが 101 条の特許事由、あるいは判例法上の
不特許事由を記載しているかの判断において、クレームの記載を示してオフィス・アク
ションに説明しなければならないことを強調しており、審査官が感覚的に結論すること
を禁じているので、特許事由に係わる審査は従来より質が良くなると期待される。
但し、どのようなクレームの場合に不特許事由になると判断されるかの具体的指針はあ
まり記載されておらず、その点の今後のヒアリング等の意見を聴取してから決定される
としている。最終ガイダンスの作成は恐らくこれから半年近くはかかるものと考えられ
る。
以下に暫定ガイダンスの概要を記載する。
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米国商標特許庁暫定ガイダンス(代表的クレーム記載なし)
フローチャート
ステップ1
否
クレームは、101条のプロセス、
機械、製造物、又は組成物のいずれかに
係わるものであるか?
諾
ステップ2A
否
Mayoテストのパート1
クレームは、自然法則、自然現象、又は、
抽象的アイディア(判例法による非特許
事由)に向けられたものであるか?
諾
諾
ステップ2B
否
Mayoテストのパート2
クレームは、判例による不特許事由を越
えるような実質的重要な差異をもたらす
更なる追加限定があるか否か?
クレーム発明は、101条の特許事由である
クレーム発明は、101条の特許事由ではな
い
注 1:特許事由適格性を判断しながら、審査をコンパクトに行うため、全てのクレーム
は他の特許要件である 102 条(新規性)、103 条(自明性)、112 条(記載要件)、そして 101
条(実用性、発明者、ダブルパテント)更に判例上の自明性ダブルパテントも考慮して審
査されなければならない。
注 2:従来のガイダンスとの相違点
①全てのクレーム(ものと方法)は、判例法上の不特許事由に関しても、同じステップが
適用されなければならない
②自然創造物を含むクレームは、ステップ 2A において、自然の産物であるという特許
事由例外にクレームは向けられているか、分析される。この分析は、クレームは自然創
造物と比べて、顕著な差異をもたらす特徴があるか否かを見出して行われる。クレーム
が特許事由例外に該当する場合(顕著な差異をもたらす特徴が記載されていない場合)
のみステップ 2B へ行く
2
I.
判例によって不特許事由になるとされた主題に該当するか否かを判断するた
めの 2 ステップ
A. フローチャートのステップ 2A(Mayo テストのパート 1)
クレームは、判例によって不特許事由になると判示された自然法則、自然現
象、又は、抽象的アイディアに該当するかを分析する。
1. クレームは何に向けられているか?
クレームを正しく解釈するためには、出願人は何を発明し、何に特許を求
めているかを理解する必要がある。
2. クレームは、どの不特許事由に該当するか特定する
Myriad 判決では単離された DNA そのものは不特許事由であると判示され
たが、そのような約 20 の判決の具体例が紹介されている。
3. 自然の創造物
a. クレームは、自然の創造物そのものをクレームしているかを判断す
るために、自然の創造物に比べて「顕著な差異がある特徴を示して
いるか(markedly different characteristics)」の分析が重要である。
b. 顕著な差異がある特徴の分析のために、クレーム発明の構造、機能、
その他の特性を下記のような点から分析する
 バイオロジカル又は薬学的特性
 科学的又は物理的特性
 (遺伝)表現的特性
 科学的、又は、遺伝子的又は、物理的構造、又は形態
B. フローチャートのステップ 2B(Mayo テストのパート 2)
クレーム中の限定又は限定の組み合わせは、クレーム発明を実質的に判例法
の不特許事由以上のものにしているかを決定する。
1. 「実質的に不特許事由以上のもの」にする場合とは、
 他の技術又は技術分野に改善をもたらしている、
 特定の装置を不特許事由に用いている、
 特定のものを異なる状態にしたり(reduction)、異なるものにする
ように変態(transformation)をもたらしている、
 既存技術以上の特別の限定・方法を追加して、クレームを特別の有
益な応用にもたらしている、
 他の意義のある限定を利用している場合である。
(その他の多くの例が記載されている)
2. クレームが複数の例外(不特許事由)に該当している場合
3
まず 1 つの例外に該当するか否かを分析する
3. 整合性をもって、効率良く分析を進める
クレーム全体として(二次的考察事項を考慮して)分析して、不特許事由に
該当しないことが自明の場合は、本ガイダンスの全分析は必要でなくなる。
II.
完全審査
全てのクレームは、101 条(特許事由)と伴に、102 条(新規性)、103 条
(自明性)、そして 112 条(記載要件)、そして 101 条の他の要件、即ち、
有用性、発明者特定、そしてダブルパテント、更に判例法上の自明性ダブル
パテントについての審査が行わなければならない。
III.
具体例
例1:Diamond(米国特許商標庁長官) v. Chakrabarty
米国特許第 4,259,444 号
改良されたバクテリア(微生物)を用いた処理技術はバクテリアに顕著な差
異があるので特許事由となる、とした歴史的判決。最高裁は付帯意見として
「人類が太陽の下で作った全てのものが特許になり得る(Anything under the
Sun made by man…)」と述べた。
この判決を基にして CAFC はその 10 数年後の State Street 事件でビジネス方
法が特許になると判決した。
例2:Association for Molecular Pathology v. Myriad Genetics, Inc.
米国特許第 5,747,282 号
DNA を単離しただけのものは不特許事由であるが、それを高度化したり、そ
れを用いた乳ガンの発見方法は顕著な差異をもたらしているので特許事由。
例3:Diamond(米国特許商標庁長官)v. Diehr
米国特許第 4,344,142 号
合成ゴムを硬化させるためにコンピューターで計算処理する発明は、全体と
して評価するとコンスタントな温度測定、硬化時間の再計算があり、特許事
由。
例4:Parker v. Flook
数式を用いて触媒の限界をコントロールする出願クレーム
は、数式は顕著な差異をもたらしていないので不特許事由。
例5:Mayo v. Prometheus
米国特許第 6,355,623 号
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医者が、自己免疫病の患者を治療するためにチオプリン薬を用いる方法は不
特許事由。
例6:Alice Corp. v. CLS Bank
米国特許第 5,970,479 号及び同第 7,725,375 号
商取引のリスクを回避するためのコンピューター利用方法は、コンピュータ
ーを用いた点に顕著な差異はもたらされないので不特許事由。
IV.
不特許事由に関する各種判決の要旨
A. 最高裁
1. O’Reilly v. More
再発行特許 RE117
電磁気を利用したテレグラムでも、電磁気の発見に過ぎない場合は不特許
事由。
2. Tilghman v. Proctor
米国特許第 11,766 号
特定の高熱と高圧処理を伴う脂肪の処理は特許事由
3. Mackay Radio & Telegraph Co. v. Radio Corp. of America
米国特許第 1,974,387 号
特定の計算方式で定常波を用いて最善の無線電波を発生させるアンテナは
特許事由
4. Gottschalk v. Benson
二化十進数値を純粋な二進数値に変換する方式の出願クレームは不特許事
由
5. Bilski v. Kappos
取引きリスクを軽減する商取引そのものの出願クレームは不特許事由。
B. Alice 判決前(2010~2014)の抽象的アイディアに関する CAFC 判決
1. SiRF Technology v. ITC
米国特許第 6,417,801 号
GPS を用いて、人工衛星の精緻な位置を算出する方法は、GPS が重要な
機能を有する場合は特許事由
2. Research Corp. Tech. v. Microsoft Corp.
米国特許第 5,111,310 号
5
コンピューターでアスクとハーフトーンをアルゴリズムと計算方式でコン
トロールするクレーム方法は特許事由
3. Dealertrack Inc. v. Huber
米国特許第 7,181,427 号
データを何箇所に送りながら、クレジットのデータ処理する方法は不特許
事由
4. SmartGene v. Advanced Biological Laboratories, SA
米国特許第 6,081,786 号
医療情報を分析して、治療方法を決定する方法は不特許事由
5. Cyberfone Systems v. CNN Interactive Group
米国特許第 8,019,060 号
取引情報を整理、蓄積、送付したりする方法は不特許事由
C. Alice 判決以降の抽象的アイディアに関する CAFC 判決
1. Digitech Image Tech. LLC v. Electronics for Imaging Inc.
米国特許第 6,128,415 号
デジタルイメージを取得、再生、送信等したりする方法は不特許事由
2. Planet Bingo, LLC v. VKGS LLC
米国特許第 6,398,646 号
ビンゴゲームにおいて、不正を防止し、安全性を確保する方法は不特許事
由
3. buySAFE, Inc. v. Google, Inc.
米国特許第 7,644,019 号
取引情報をコンピューターに導入して、契約状況を示す方法は不特許事由
4. Ultramercial, LLC v. Hulu, LLC et al
米国特許第 7,346,545 号
11 の商取引ステップを介して、インターネットで商品を配布する方法は
不特許事由
5. DDR Holdings, LLC v. Hotels.com
米国特許第 7,818,399 号
新しい具体的なウェブページを作成しながら、商取引機会を提出するシス
テムは特許事由
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