ベトナム減価償却 の基礎知識

ベトナム減価償却
の基礎知識
<主な根拠規定>
・Circular No.45/2013/TT-BTC
2013 年 8 月
ベトナム会計事務所
(http://www.vn-office.com)
目 次
第1章
ベトナム減価償却の会計と税務の関係 ................ 1
1.
会計の基本的な考え方 ........................................................ 1
2.
税務の基本的な考え方 ........................................................ 2
3.
両社の関係 .................................................................. 2
第2章
税務上の減価償却に関する用語 ..................... 3
1.
用語の定義 .................................................................. 3
2.
残存価額・償却限度額 ........................................................ 5
第3章
認識基準 ......................................... 7
1.
有形固定資産 ................................................................ 7
2.
無形資産 .................................................................... 8
第4章
取得原価の測定 .................................. 10
1.
有形固定資産 ............................................................... 10
2.
ファイナンス・リース ....................................................... 12
3.
無形資産 ................................................................... 13
第5章
取得原価の変更 .................................. 17
第6章
耐用年数 ........................................ 18
1.
新品の有形固定資産 ......................................................... 18
2.
中古品の有形固定資産 ....................................................... 20
3.
無形資産 ................................................................... 21
4.
耐用年数の変更 ............................................................. 21
第7章
償却方法 ........................................ 23
1.
定額法 ..................................................................... 23
2.
定率法 ..................................................................... 24
3.
生産高比例法 ............................................................... 25
4.
留意事項 ................................................................... 26
5.
減価償却方法の登録 ......................................................... 29
6.
減価償却方法の変更 ......................................................... 29
第8章
1.
固定資産の管理方法 .............................. 31
ファイル管理 ............................................................... 31
2.
固定資産の分類 ............................................................. 31
第9章
修繕費と資本的支出 .............................. 34
第 10 章 リース資産 ...................................... 35
第 11 章 少額な固定資産 .................................. 37
第1章 ベトナム減価償却の会計と税務の関係
ベトナム会計基準(以下 VAS)では、有形固定資産の会計処理は VAS 3 号「有形固定資産」
にて、無形固定資産の会計処理は VAS 4 号「無形資産」において規定されています。
1.
会計の基本的な考え方
減価償却というのはもともと会計から生まれた資産の原価配分方法です。会計の目的は、
企業の営業成績を測定することになるので、減価償却についてもその企業にとってより適
した見積もりに基づく計算が行われなければなりません。従って、会計では耐用年数や残
存価値について、その企業が置かれる企業環境やその資産の使用度や耐用年数等を考慮し
て各社が個別に見積もっていくことを前提としています。
減価償却計算の要素
ベトナム会計基準では、減価償却とは、有形固定資産の償却可能価額(取得原価から残存
価格を控除した金額)を規則的にその耐用年数にわたって配分することを意味します(VAS3
号-5 条)。そして適用する減価償却方法は、その企業のその資産の経済的便益が企業によっ
て消費されるパターンを反映しており(VAS3 号-29 条)
、その具体例として、定額法、定率
法、生産高比例法が挙げられています(VAS3 号-32 条)
。これらの規定における減価償却計
算の要素である各用語の定義(VAS 3 号 5 条)を確認してみると、これらの要素は、各企
業が独自の状況を考慮して見積もり、決定するものであることがよく分かります。
(1) 取得原価
有形固定資産の取得において、その資産が使用可能な状態になるまでに企業にて発生した
すべての費用のことです。
(2) 耐用年数
有形固定資産が事業活動においてその効果を生じさせることが出来る期間のことです。そ
の期間は以下の要素により計算されます。
•
企業によってその資産が使用できると見込まれる期間
•
企業がその資産から得られると見込まれる生産高もしくはこれに類する単位数
1
(3) 残存価額
企業が資産の耐用年数到来時に、その資産から得られると見込まれる金額から見積処分費
用を控除した純額をいいます。
(4) 償却可能価額
財務諸表に記載されている有形固定資産の取得価格から、残存価額を控除した価額を言い
ます。
2.
税務の基本的な考え方
税務上においても、会計上の減価償却という方法は認めているものの、その計算方法には
各企業の個別の判断や恣意が入る余地が多く、公平な課税のためには減価償却計算に制限
を設け、画一的に税務上の減価償却費を算定しなければいけません。そこで、ベトナム法
人税規定(Circular No.45/2013/TT-BTC)では、取得原価、耐用年数、減価償却方法等に
ついて一定のルールを設けており、法人税の課税所得の計算において減価償却費が損金と
して認められるためには、法人はこれらの規定に従って計算することが求められます。
3.
両社の関係
このように会計と税務の目的は異なるものであり、税法上に減価償却の関する規定がある
からといって、会計上の計算にそのまま適用できるとは限りません。例えば、税法におい
て機械の耐用年数が 5 年と規定されていても、それは課税所得を公平に計算するための規
定であって、会計が目指すような損益計算を考慮して規定されているわけではありません。
会計では、税務上どのように規定されていようと、その機械の耐用年数が 10 年と見積もれ
るならば 10 年度で、また 3 年と見積もれるならば 3 年で償却すべきです。
なお、ベトナムの実務上の処理は、煩雑さを避けるために、会計上も、法人税法上の減価
償却方法等を用いて減価償却費の計算を行っているようです。
2
第2章 税務上の減価償却に関する用語
減価償却に関する用語は、法人税規定において以下のとおり定義されています。この定義
は、次章以降の理解の前提となりますので、必要に応じて都度確認してください(Circular
No.45/2013/TT-BTC 2 条)
。
1.
用語の定義
(1) 有形固定資産
以下の 3 条件をすべて満たす、稼働中の資産のことです。
①
物質的実体があること
②
有形固定資産の条件を満たすこと(後述)
③
事業活動に用に供されており、その原型を留めていること
具体例:家屋、ビル、設備、輸送手段
(2) 無形固定資産
以下の 3 条件をすべて満たす資産のことです。
①
物資的実体がなく、総投資額が確定していること
②
無形固定資産の条件を満たすこと(後述)
③
事業活動の用に供されているもの
具体例:土地使用に直接関連する費用、出版権・特許権・著作権に関する費用
(3) ファイナンス・リース資産
ファイナンス・リース会社から企業にリースされている固定資産のことです。リース契約
期間が終了したとき、借手は、そのリース契約に記載されている条件に従い、その資産を
購入する権利、又は、そのリースを更新する権利を有します。リース契約書にて特定され
る 1 つの資産に対する総リース支払額は、そのリース契約が締結された時のその資産の価
値と同額かそれ以上でなければなりません。
(4) オペレーティング・リース資産
上記のファイナンス・リース資産の定義に該当しないリース資産は、すべてオペレーティ
ング・リース資産となります。
3
(5) 類似固定資産
同じ産業でかつ同じ価値であり、類似の用途に用いられている固定資産のことです。
(6) 有形固定資産の取得原価
固定資産を所有する目的で、企業で生じた総費用であり、その費用の計算は、資産が使用
可能な状況になった日までとします。
(7) 無形固定資産の取得原価
無形固定資産を所有する目的で、企業で生じた総費要であり、その費用の計算は、資産が
使用可能な状況になった日までとします。
(8) 固定資産の合理的な価値
等価交換の状況下で、充分な知識を有する者同士(プロ同士)で交換した場合の資産の価
値のことです。
(9) 固定資産の耐用年数
以下のいずれかの期間となります。
①
その企業が計画している事業活動の用に供される資産の使用期間
②
以下の条件をすべて満たす場合にその固定資産を使用した場合の可能生産
量により決定される期間

現行の規定

通常の生産状況下

その固定資産の環境技術仕様に従った状況下

その稼働に関連するその他の要因
(10) 固定資産の消耗
以下のいずれかの要因により、徐々に低下する固定資産の使用価値のことをいいます。
①
事業活動の用に供することによる使用劣化
②
自然消耗
③
固定資産の使用期間中における技術進歩による陳腐化
4
(11) 固定資産の累積消耗価額
報告日までに計算されたその固定資産の総消耗額のことです。
(12) 固定資産の減価償却
固定資産の取得原価を規則的にその耐用年数にわたって事業活動の費用に配分すること
です。
(13) 固定資産の累積減価償却額
その報告日までに計算されたその固定資産のすべての事業の事業費用に含まれる減価償
却費の総額
(14) 固定資産の帳簿価額
固定資産の取得価格からその報告日までに計算される固定資産の累計減価償却額又は累
計消耗価額を差し引いた残高
(15) 固定資産の修理
最初の標準稼働能力に基づき資産の稼働能力を回復することを目的として、現状回復・保
守・交換・修理時に発生した故障の修理のことです。
(16) 固定資産の機能向上
固定資産に対して追加的に行われる、改善、建設・組立、装置作業のことであり、それに
より、最初の稼働能力に比べて生産性が高まり、製品の質や固定資産の機能が向上する、
または、耐用年数が延びること。および、新しい生産技術を使うことで固定資産の稼働費
用が減少することです。
2.
残存価額・償却限度額
日本では、平成 19 年の税制改正で残存価額および償却限度額は廃止されています。そもそ
も、残存価額とは会計理論上の言語であり、償却限度額とは税務上だけの言葉です。
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ベトナムの会計上は、上述のとおり、残存価額が存在します。一方、ベトナムの税務上は、
残存価格・償却限度額の規定は存在しません。よって、会計上、残存価格があっても税務
上は取得原価の全額が減価償却の対象になると考えます。ベトナムの実務上の処理は、煩
雑さを避けるために、税務上の規定にて減価償却費の計算を行っていますので、会計上の
残存価額はゼロとしているケースが多いです。
6
第3章 認識基準
1.
有形固定資産
(1) 単位
有 形 固 定 資 産 と し て 認識 す る 単 位 は 、 以 下 の 2 つ に 大 別 さ れ ま す (Circular No.
45/2013/TT-BTC-3 条 1 項)
。
①
独立した構成物
②
全体として 1 つ以上の機能を発揮し、かつ、1 つでもその構成物が欠けると全体の
システムとして機能しなくなる分離した複数の構成物が相互作用したシステム
(2) 認識要件
その有形固定資産の単位は、単位毎に以下の 3 要件をすべて満たさなければいけません
(Circular No.45/2013/TT-BTC-3 条 1 項)。
①
固定資産の使用により経済的な便益が生じることが確実な場合
②
使用可能期間が 1 年以上の場合
③
取得原価が信頼性を持って確定されており、その価格が 30 百万ドン(14
万円)以上の場合
分離した複数の構成物が相互作用してシステムとなり、その構成物が別々の耐用年数を有
し、そのシステムの一つの構成物が欠けても、全体としてその主要な活動機能を発揮する
ことができ、各構成物が、固定資産の管理・使用の観点から、別々に管理することが求め
られる場合、その各構成物の 3 要件を満たす場合に限り、各構成物は一つの独立した単位
の固定資産として認識する必要があります(Circular No.45/2013/TT-BTC-3 条 1 項)
。
<生物の場合>
労働を提供し生産物をもたらす生物は、上記の有形固定資産の 3 条件を満たす場合は、有
形固定資産として認識されます(Circular No.45/2013/TT-BTC-3 条 1 項)
。
<果樹・樹木等の場合>
果樹・樹木等は、上記の有形固定資産の 3 条件を満たす場合、有形固定資産として認識さ
れます(Circular No.45/2013/TT-BTC 3 条 1 項)
。
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