動物実験委員会教育訓練配布資料5

苦痛除去の具体的な方法
鎮静法・麻酔法・鎮痛法・安楽死法
1
鎮静・麻酔の目的
動物を不動化し,処置を容易かつ迅速化する.
処置に伴う苦痛を最小限に留める.
⇒Refinement
鎮静・麻酔処置に際して行うべきこと
動物の順応・訓化 → ・輸送ストレスに伴う代謝変化の正常化.
・動物の正常な状態を把握できる.
・保定操作に慣れさせることができる.
・麻酔前の興奮を抑えることができる.
・麻酔の導入処置を円滑にできる.
麻酔(術)前検査 → ・状態不良による麻酔事故(実験以前
に動物が死亡すること)の防止.
麻酔(術)前の絶食→
・嘔吐や誤嚥による麻酔事故の防止.
・麻酔前6~12時間の絶食.
・ウサギ・小型げっ歯類では原則不要.
麻酔を中心とした動物の処置の流れ
動物の導入
実験に際しては,動物の苦痛を軽減する為に,
結果に支障のない範囲で以下のような処置が望まれる.
(効果発現後)
訓化
絶食
術前検査
導入麻酔
(6~12時間)
鎮痛・鎮静剤や抗コリン剤等
(7日以上)
適切な術後処置
前投薬
覚醒
術創の定期的な消毒や
抗生剤の投与等
鎮痛処置
維持麻酔
鎮痛剤等の適用
⇒実験内容によっては必ずしも
鎮痛剤が適用できない場合がある.
この場合は可能な限りの他の処置を
施す努力をする.
麻酔前投与薬の例 ①
投与量(mg/kg)と投与経路
薬剤名
アトロピン
ジアゼパム
ミダゾラム
メデトミジン
キシラジン
ケタミン
(麻)
( i.v.:静脈内投与 i.m.:筋肉内投与 i.p.:腹腔内投与 s.c.:皮下投与)
ハムスター
効果等
マウス
ラット
スナネズミ モルモット
0.04
0.05
0.04
0.05
抗コリン作用
s.c.
i.p., s.c.
s.c.
s.c.
(気道分泌抑制等)
5
2.5-5
5
i.m., i.p
i.m., i.p
i.m., i.p
5
5
5
i.m., i.p.
i.p.
i.m., i.p.
0.03-0.1 0.03-0.1
鎮静(軽度)
0.1
0.1-0.2
0.5
s.c.
i.p., s.c.
i.p., s.c.
i.p.
i.p.
5-10
1-5
5
2
5-10
i.m., i.p.
i.m., i.p.
i.m.
i.m.
i.m., i.p.
100
50-100
i.m., i.p.
i.m., i.p.
100-200
i.m.
用量依存性に鎮静,
鎮痛及び筋弛緩作用
同上
100
鎮静
i.m., i.p.
(高用量で深い
鎮静と不動化)
コンビネー
ションで使
用すること
が多い.
系統によって著しく感受性が異なることがあるので注意する.
使用には麻薬研究者免許が必要!
麻酔前投与薬の例 ②
投与量(mg/kg)と投与経路
薬剤名
効果等
ウサギ
0.05
フェレット
イヌ
ブタ
s.c., i.m.
0.05
0.05
0.05
又はグリコピロ
又はグリコピロレート
s.c., i.m.
s.c., i.m.
s.c., i.m.
0.5-2
2
-
1-2
i.v., i.m.
i.m.
ミダゾラム
0.5-2
-
メデトミジン
0.1-0.5
-
アトロピン
0.01-0.1
ジアゼパム
ウサギではアトロピン分解酵素を持つ個
体もい
体もいるのでグリコピロ
るのでグリコピロレートも記載した
i.m.
鎮静(軽度~中等度)
-
-
鎮静(軽度)
0.1-0.8
-
i.v., i.p.
s.c., i.m.
抗コリン作用
(気道分泌抑制等)
s.c., i.m.. i.v.
キシラジン
2-5
1-2
1-2
i.m.
i.m.
i.m.
ケタミン(麻)
25-50
20-30
通常単独で用いない
i.m.
i.m.
アザペロン
-
-
-
用量依存性に鎮静,
鎮痛及び筋弛緩作用
-
10-15
i.m.
鎮静・不動化・多少の鎮痛
(内臓痛には無効)
5
鎮静(中等度~高度)
i.m.
注射麻酔薬の例 ①
投与量(mg/kg)と投与経路・麻酔時間
薬剤名
マウス
ラット
ハムスター
スナネズミ
モルモット
ペントバルビタール
40-50 i.p.
40-50 i.p.
50-90 i.p.
60-80 i.p.,
35 i.p.
(20-40 min)
(15-60 min)
(30-60 min)
(20 min)
(60-90 min)
チオペンタール
30-40 i.v.
30 i.v.
(5-10 min)
(10 min)
-
-
-
プロポフォール
25 i.v.
10 i.v.
(5-10 min)
(5 min)
-
-
-
200 + 10 i.p.
50 + 2 i.p.
40 + 5 i.p.
ケタミン(麻)
+ キシラジン
80-100 + 10 i.p. 75-100 + 10 i.p.
(20-30 min)
(20-30 min)
(30-60 min)
(不動化のみ)
(30 min)
ケタミン(麻)
+ ジアゼパム
100 + 5 i.p.
75 + 5 i.p.
70 + 2 i.p.
50 + 5 i.p.
100 + 5 i.m.
(20-30 min)
(20-30 min)
(30-45 min)
(不動化のみ)
(30-45 min)
ケタミン(麻)
+ ミダゾラム
100 + 5 i.p.
75 + 5 i.p.
(20-30 min)
(20-30 min)
-
-
-
240 i.p.
-
-
250-300 i.p.
-
1000 i.p.
1000-2000 i.p.
-
トリブロモエタノール
(15-40 min)
ウレタン
-
(15-30 min)
1500 i.p.
循環抑制が小さく,360分以上の長時間麻酔が可能であるが,発がん性があり,調整等には適切な設備が必要.
また,覚醒させる処置には使用しないこと.
注射麻酔薬の例 ②
投与量(mg/kg)と投与経路と麻酔時間
薬剤名
ウサギ
フェレット
イヌ
ブタ
20-30 i.v.
20-30 i.v.
20-30 i.v.
(20-40 min)
20-30 i.v.
又は35 i.p.
(30-40 min)
(20-30 min)
30 i.v.
-
10-20 i.v.
6-9 i.v.
(5-10 min)
(5-10 min)
-
5-7.5 i.v.
2.5-3.5 i.v.
(5-10 min)
(5-10 min)
25 + 1-2 i.m.
5 + 1-2 i.v.
(20-30 min)
(30-60 min)
-
25 + 5 i.m.
25 + 2 i.m.
10-15 + 0.5-2 i.p.
(20-30 min)
(20-30 min)
-
ケタミン(麻)
+ ミダゾラム
-
-
-
10-15 + 0.5-2 i.p.
ウレタン
1000-2000 i.v.
1500 i.v.
1000 i.v.
-
ペントバルビタール
チオペンタール
プロポフォール
ケタミン(麻)
+ キシラジン
ケタミン(麻)
+ ジアゼパム
(30-60 min)
(5-10 min)
10 i.v.
(5-10 min)
35 + 5 i.m.
又は10 + 5 i.v.
(20-30 min)
(20-30 min)
(20-30 min)
吸入麻酔薬の導入・維持濃度
導入濃度(%) 維持濃度(%)
エーテル
10~20
4~5
エンフルラン
3~5
2~3
イソフルラン
4~5
1~3
セボフルラン
4~5
2~3
各動物のMAC(最小肺胞内濃度)を参照し,1.5MAC程度で維持するとよい.
特にマウスでは系統による感受性の差が著しいので濃度管理に注意する.
使用に議論のある麻酔薬
エーテル(ジエチルエーテル)
引火性及び爆発性を有する為,術者に危険が及ぶ.また,
刺激性もある為,気道分泌亢進等がみられ,喉頭痙攣の原因
となりうる.本学では使用を推奨していない.
ペントバルビタール
安全域が狭く,麻酔事故のリスクが高い.また,鎮痛や筋弛緩は
ほとんど得られない為,単剤での使用は推奨されない.
ウレタン
催奇形性及び発癌性が認められる.
トリブロモエタノール(アバチン)
貯蔵液が変性すると重篤な刺激性と腹膜癒着を起こす.
術後に投与可能なNSAIDsの例
投与量(mg/kg)と投与経路・方法
薬剤
マウス
アスピリン
カルプロフェン
ラット
モルモット ウサギ
120 p.o. 100 p.o. 87 p.o.
-
5 s.c.
-
フェレット
イヌ
100 p.o. 200 p.o. 10-25 p.o., q8h
1.5 p.o.,
-
b.i.d.
ブタ
-
4 i.v., s.c., u.i.d.
2-4 s.c.,
又は1-2 p.o., b.i.d.,
u.i.d.
7 days
フルニキシン
イブプロフェン
2.5 s.c.,i.m., q12h
-
30 p.o. 15 p.o. 10q4hi.m.,
1.1
0.5-2
1 i.v., i.m., q12h
s.c.,i.m.,
q12h
s.c., q1224h
又は
1 p.o., b.i.d., 3 days
u.i.d.
10 i.v.,
-
10 p.o., q24h
-
q4h
1-2 s.c.,
インドメサシン
1 p.o.
2 p.o.
8 p.o.
12.5 p.o.
-
-
-
ケトプロフェン
-
-
-
3 i.m.
-
2 s.c.,i.m., i.v., u.i.d.
-
その他実施可能な術後処置例
保温
特に処置後,完全に覚醒するまでの保温は有効.
補液
静脈確保が難しい動物では皮下又は腹腔内補液も可能.
(補液剤は必ず体温程度に加温しておくこと)
創感染等の防止
定期的な術創の消毒や適切な抗生剤の投与.
各種動物の皮下及び腹腔内補液量(概算)
動物(体重)
マウス(30 g)
ラット(200 g)
ウサギ(3 kg)
モルモット(1 kg)
ハムスター(100 g)
スナネズミ(60 g)
皮下(ml) 腹腔内(ml)
1-2
2
5
5
30-50
30
10-20
20
3
3
1-2
2-3
体重に応じて適宜,増減する.
抗生剤投与量(mg/kg)と経路・方法
薬剤名
セファレキシン
マウス ラット ハムスター スナネズミ モルモット ウサギ フェレット
15 i.m.
b.i.d
クロラム
フェニコール
エンロフロ
キサシン
オルビフロ
キサシン
ネオマイシン
50 10
s.c. i.m.
b.i.d. b.i.d.
8.5
s.c.
b.i.d.
25 s.c. 15 s.c. 15
s.c.
-
u.i.d
30 s.c.
b.i.d.
u.i.d
b.i.d.
10 s.c.
10 i.m.
u.i.d
u.i.d
b.i.d.
u.i.d.
u.i.d.
u.i.d.
5 2.5-5
5-10 s.c. 2.5 s.c. s.c
i.m.
.
10 s.c.
b.i.d
b.i.d.
ブタ
50 11 i.m.
20 i.m. 15
25
s.c
.
i.m.
s.c.
b.i.d.
2mg/ml 125 p.o. 50 p.o. 5 p.o.
飲水中
b.i.d
イヌ
b.i.d.
t.i.d.
0.5
mg/ml
飲水中
u.i.d.
u.i.d
u.i.d.
10 p.o.
11 p.o.
b.i.d.
b.i.d.
リンコマイシン,クリンダマイシン,ペニシリン系(アモキシシリン,アンピシリン等),マクロライド系(エリスロマイシン等)
はウサギに禁忌.
ウサギ・モルモット等は消化管微生物叢の交代により,重篤な腸管毒血症を起こす可能性がある.
ニューキノロン系の薬剤はこのリスクが少ない.
実施可能と判断される安楽死法
「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」(昭和55
年総理府告示第6号)より抜粋
「実験動物の飼養及び保管等に関する基準」(昭和55年総理府告示第6号)より抜粋
※ 初心者は鎮静又は軽麻酔下で行なうことが望ましい.
バルビツレート
過剰投与(i.v.)
炭酸ガス
頚椎脱臼 (※)
断首 (※)
マウス
○(i.p. 可)
○
○
○
ラット
○(i.p. 可)
○
○
○
モルモット
○(心腔内可)
○
×
×
小型げっ歯類
○(i.p. 可)
○
○
○
ウサギ
○(心腔内可)
○
×
×
イヌ
ブタ
○
○
○
○
×
×
×
×
付記1) エーテルやクロロホルムの使用は,実験者の安全確保の点から積極的な推奨はできない.
付記2) いかなる場合でもクラーレ様作用を持つ神経-筋遮断剤やKClなど,単独使用では苦痛のみを
与えるような薬剤 の使用は認められない.
参考資料
動物実験と福祉リンク集(秋田大学)
http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/info/joho.html
倫理的動物実験リンク集(秋田大学)
http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/kokudou/rinri/hairyo.html
国立大学法人東北大学における動物実験等に関する規定と
その解説(第7版)
http://www.clar.med.tohoku.ac.jp/kitei/7th.pdf
Flecknell, P. (2009): Laboratory Animal Anaesthesia, 3rd ed.,
Academic Press, Massachusetts.
実験動物手技リンク集(秋田大学)
http://www.med.akita-u.ac.jp/~doubutu/ani-exp.html