News Letter - 天然物ケミカルバイオロジー | 分子標的と活性制御

文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究
(領域提案型)
」
天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御
Chemical Biology using Bioactive Natural Products as Specific Ligands
MAR.2015
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News
Letter
CONTENTS
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2-5
特集:ChemBioChem若手座談会
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5-7
お知らせ
http://chembiochem.jp/
特 集
ChemBioChem 若手座談会
左から:海老根さん、谷口さん、久世さん、中山さん、加藤さん
座談会参加者(所属は平成26年10月29日時点)
平成26年10月29日(水)・千里ライフサイエンスセンター(大阪)
れたのですが機器分析だけでは確実に決定しきれない部
海老根真琴さん(九州大学大学院・理学研究院)
分を含んでいるため、全合成により立体化学を決定する
谷口 透さん(北海道大学大学院・先端生命科学研究院)
ことを試みています。また、合成研究を軸として抗真菌
久世 雅樹さん(神戸大学大学院・農学研究科)
活性の発現メカニズムを明らかにすることで、選択毒性
中山 淳さん(徳島大学大学院・ヘルスバイオサイエンス研究部)
の高い抗菌化合物の創製ができればと考えています。
加藤 泰彦さん(大阪大学大学院・工学研究科)
【進行】井本 正哉(慶應義塾大学・理工学部)
谷口:北海道大学大学院・先端生命科学研究院の谷口で
品田 哲郎(大阪市立大学大学院・理学研究科)
す。北大で学位を取得しましたが、その間コロンビア大
学の中西香爾先生のところで2年間、ハーバード大学の
今回は、大阪・千里ライフサイエンスセンターからで
ダニエル・カーン教授のところで2年間留学いたしまし
す。
た。専門はキラル分光分析ということで、午後の講演で
お話しさせていただきますので、詳しい内容はセッショ
井本・品田:忙しいところお集まり頂きありがとうござ
ンまで残しておきたいと思います。キラリティーの天然
います。まず自己紹介をお願いします。
物から生命の起源を探っていきたいと考えています。ま
た、生体高分子などにおけるマクロのレベルのキラル
海老根:九州大学大学院・理学研究院の海老根です。東
ティー、例えば螺旋構造等が生理活性に及ぼす影響など
北大学出身で、天然物の全合成を行ってきました。現在
について調べていきたいと思っています。
は、抗真菌活性をもつポリエンポリオール化合物など、
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海洋微生物由来の化合物の全合成研究を行っています。
久世:神戸大学大学院・農学研究科の久世です。名古屋
題材にしている化合物は NMR 解析で立体化学が決定さ
大学で学位を取得したのですが、学生のころから生物の
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光る仕組みについて研究しています。3年前から神戸大
に移り、関西の近海に潜っては、これまで知られていな
い光る生き物を探しています。生物が光る仕組みについ
ては、基質の化学構造とタンパクの構造決定から機能研
究に至る道筋で解明したいと考えています。近畿の海に
潜ってみると海綿が結構生息していることが分かり、軟
体動物好きの私としては、海綿からの生物活性化合物単
離なども手掛けたいと考えています。
品田:私は昆虫を題材にした研究でフィールドに出るこ
とがありますが、フィールドワークは楽しいですよね。
品田:ここからは、若い皆さんのケミカルバイオロジー
に対する思いや考えをお聞きしたいと思っています。ご
井本:光る生物ということは、蛍光タンパク質を狙って
出席の方々は、専門性に富んでらっしゃるので、面白い
らっしゃるのですか?
話が聞けるのではないかと期待しています。とはいえ、
なかなか切り出しにくいかと思いますので、まずは井本
久世:応用面を考えると蛍光タンパク質なのでしょう
先生にオープニングお願いできますでしょうか。
が、私個人的には発光タンパクに興味があります。発光
に関わる基質の消費を伴うため連続性には乏しいです
井本:そうですね、これまでの天然物化学とケミカルバ
が、刺激でぱっと光る生物応答の関連と仕組みを探りた
イオロジーの違いという点から考えてみますと、以前ま
いと思っています。
では生物活性分子を単離構造決定して全合成するのが天
然物化学の王道だったと思います。ケミカルバイオロ
加藤:大阪大学大学院工学研究科・生命先端工学専攻の
ジーとは合成化学を使ってバイオロジーをするものと言
加藤です。計画班の渡辺先生と研究を行っています。東
えるのでは?皆さんはいかがでしょう。
京薬科大学と基礎生物学研究所(愛知・岡崎)でミジン
コに対する毒性を遺伝子レベルで評価する研究に関わっ
谷口:ハーバード大に留学していました。ご存じのよう
てきました。今は、蛍光タンパクの光る仕組みを利用し
に、ハーバードはケミストリー&ケミカルバイオロジー
た化学物質の毒性の活性評価系の構築を試みています。
の発祥地です。印象的だったのは、ケミカルバイオロ
現在は、光る仕組みを組み込んだミジンコを使った遺伝
ジーという新しい領域に対する、周囲の反応が自然体で
子応答機構の解析などの応用研究を進めています。
あったということでしょうか。
中山:徳島大学大学院薬学部の中山です。千葉大学薬学
品田:新しいものを積極的に取り込んで自分のものにし
部の出身で,生物活性化合物の単離構造決定と全合成の
ていく。進取の気性が感じられますね。
両方を行う研究室に在籍し、主に全合成を担当していま
した。その後、スクリプス研究所にて全合成とメディシ
谷口:私の思うケミカルバイオロジーは、先ほど井本先
ナルケミストリーに携わりました。徳島大薬に移ってか
生がおっしゃられていたことに近いのですが、化学と生
らは天然物の全合成と、そのポテンシャルを引き出すケ
物の両方を手掛けつつ有機合成だけではそこには到達し
ミカルバイオロジー研究を行っています。そうですね、
ない研究なのではないでしょうか。
有機合成化学ならではのアプローチから創薬に貢献した
いと思っています。
品田:私自身、合成化学色の色濃いところで研究をして
いますが、将来的に化学で生物学を理解し語る時代が来
井本:疾患にかかわるような細胞表現系をターゲットに
るならば、生物指向の研究者はケミカルバイオロジスト
して、それの表現型を変えるような化合物を天然物・微
と呼ばれてしまうのかもと思ったりしています。全合成
生物の培養液から単離し、その作用機構を追う。それを
研究に携わってきた中山さんはどうですか。
創薬シーズに持っていきたいと考えています。
中山:興味深い生物活性を示し、かつ構造的に複雑な天
品田:全合成を中心に単離・構造決定を含めた総合的な
然物が数多く取られていることは事実ですが、それらの
研究を行っていますが、そうですね、できれば教科書に
作用機序が全て解明されているわけではない。全合成の
残るような仕事をしたいと思っています。
現状を少し厳しい見方で分析すれば、全合成研究の意義
づけの部分に答えて切れていないところは否めないと思
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います。逆にいい方にみれば、この部分(ケミカルバイ
久世:物理・化学・生物学では、分子・化合物・原子・
オロジー)をしっかり埋める合成化学研究が評価される
電子・素粒子といったサイズによる区切りがあります。
ともいえるのではないでしょうか。合成化学者にしかで
分子・原子より小さい次元で議論するのが物理だとする
きないケミカルバイオロジーを目指したいと思う私に
と、メタンからタンパク質・細胞くらいまでの領域が化
とっては、いい機会であると思っています。最近では、
学、タンパク・細胞レベルは生物学といった具合です。
タンパク同士を連結するための方法論や、新しい反応
化学と生物学の境界領域としてバイオケミストリーがあ
(水中、熱をかけない。金属を使わないなど)開発など、
ります。天然物化学とバイオケミストリーの違いを考え
従来の有機溶媒の世界とは違う観点から、有機合成化学
ていたことがありましたが、両者の違いは化学構造式を
を考えて始めています。
どこまで書くか(書くことにこだわっているか)にある
のかなと思っています。本題のケミカルバイオロジーに
品田:加藤さんはどうですか?
ついては、天然物化学を包括した細胞レベルの領域を化
学者が研究する学問、あるいは、分子生物学の手法では
加藤:ミジンコを使った研究を行っていますが、生物活
カバーできないところを化学の立場からアプローチする
性物質の作用機序を解析するためにはモデル動物の系
ものと考えています。天然物化学とケミカルバイオロ
が役立つと考えています。ミジンコはゲノムも解読され
ジーの違いは、一言で言い表せないところはあります
ているので、化学物質に対する応答メカニズムを明らか
が、天然物化学では小分子とタンパク質を1:1対応で
にするよい評価系になると思っています。分子生物学的
捉えるところを、ケミカルバイオロジーでは生物活性分
な手法を利用することで、これまで分かっていなかった
子が細胞に及ぼすさまざまな現象を取り扱う、いわば受
生物活性天然物の作用機序が明らかにできれば面白いと
け皿が大きいところにあるのかもしれません。
思っています。天然物探索にも利用可能と思っています。
井本:久世さんが興味を持っている、光る生物をケミカ
井本:ミジンコの系に興味があるので、もう少し具体的
ルバイオロジーで考えてみるとどうなるでしょうか?
に聞かせていただけますか?
久世:私が興味を持っているところは光る瞬間なのです
加藤:これまでは個体数の減少、子供の数が減る、形質
が、よく研究されているホタルでさえも酸素基質を体内
の変化を指標に応答を調べていましたが、私が行ってい
でどのように集約しているのか、そのプロセスはあまり
るのは特定の遺伝子の応答の解析です。化学物質によく
理解されていません。ケミカルバイオロジーという観点
応答する遺伝子を探索し、遺伝子の発現を可視化しま
からみても、面白い題材だと思っています。
す。ミジンコのいいところは、感度がよいこと、飼育し
やすい、薬剤への暴露が簡単など取り扱いやすいところ
品田:海老根さんはいかがでしょうか?
です。一番魅力的なのはハエ等の他の節足動物よりもヒ
トに近い遺伝子をたくさんもっているところです。将来
海老根:全合成研究を主体とするケミカルバイオロジー
的には、ミジンコにヒト遺伝子(ミジンコヒト型)を入
を目指していますが、取り扱っている化合物のサイズが
れてヒトに影響のある化合物の反応をみることも可能だ
大きなものが多く、正直なところ作るだけでも一苦労で
と思っています。天然物の探索にも使える可能性は高い
す。また、少しでも構造を変えると活性がなくなったり
と思っています。
してしまい、プローブ化できないものも多いようです。
品田:久世さんはいかがでしょう。
井本:分子量はどれくらいですか。
海老根:いまは1,300くらいのものを扱っています。
井本:分子量が大きいですが、エリブリンの成功例もあ
るし。可能性は十分にある。
海老根:そうですね。Lipinski 則で述べられているよう
に、分子量500程度の化合物でないと創薬研究の標的
にはなりにくいと言われている中で、エリブリンが出て
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きたことは大変励みになっています。とはいえ先ほども
開を考えないといけない。新しい発展を目指すには様々
触れましたが、巨大な天然物のどの部分を修飾すればい
な研究者が集まるケミカルバイオロジーのような研究会
いか、デザイン分子の合成経路をどうするかなど、全合
で色々な人と話をしていくことが大事だと思っています。
成とは違う問題点もあって、試行錯誤しています。ま
た、最近では比較的大きなサイズの天然物合成を手掛け
井本・品田:だいぶ盛り上がりましたが、時間がやって
る研究者が少なくなっています。天然物合成は伝統ある
まいりました。今回も皆さんのお考えを聞くことができ
研究分野だと思っていますが、さらなる発展に向けてど
て、大いに楽しませていただきました。本日は、ありが
うしたらいいか考えさせられることがあります。その意
とうございました。
味で、天然物ケミカルバイオロジーに大きな可能性を感
じています。
品田:谷口さんは面白い分析手法を展開されています
が、ケミカルバイオロジー研究への応用という観点から
はどうでしょうか。
谷口:分析手法や分子プローブ化などに関して、新しい
手法を開発することで今まで見えなかった新しいものが
見える、というような単なる後追い研究に留まらない展
3-1.一般シンポジウム 天然物ケミカルバイオロジー
お知らせ(関連学会情報等)
(3)
:天然物ターゲット ID 最前線
平成27年3月28日(土)14:30~17:00 神戸学院大
❶地区ミニシンポジウム・仙台
学 B 号館1階 B104
講演者(予定):臼井健郎(筑波大院生命環境)、坂本聡(東
平成27年3月19日(木)14:00~16:00
工大院生命理工)
、川谷誠(理研)
、荒井雅
於・東北大学(片平キャンパス)生命科学研究科プロジェク
吉(阪大院薬)
ト総合研究棟 1階講義室104号室・105号室
オーガナイザー:荒井雅吉(阪大院薬)
、叶直樹(東北大院薬)
講演者(予定):Erich Kombrink(マックスプランク植物育
種研究所、ドイツ)瀬戸義哉(東北大学)、
石丸泰寛(東北大学)
平成27年3月24日(火)13:30~17:00
講演者(予定):X iaoguang Lei (Peking University,
China)、Richard Payne(The University
of Sydney, Australia)
、田中浩士(東工大)
、
藤本ゆかり(慶應大)
、清水史郎(慶應大)
、
末永聖武(慶應大)
、田代悦(慶應大)
於・神戸
4-1.天然物化学研究の最前線:生合成とケミカルバイオ
ロジーの新展開
主催:日本化学会学術研究活性化委員会
共催・後援:新学術領域研究「生合成マシナリー」総括班・新
学術領域研究「天然物ケミカルバイオロジー」総
括班
平成27年3月26日(木)13:30~16:55 S8会場
平成27年3月25日(水)~28日(土)
❹日本化学会第95春季年会(2015)
於・日本大学理工学部 船橋キャンパス
於・慶應義塾大学理工学部(矢上キャンパス)厚生棟・大会議室
❸日本薬学会 第135年会
平成27年3月26日(木)
~29日(日)
❷地区ミニシンポジウム・横浜
(14号館3階1433教室)
予定講演者(敬称略)
: 江口正(東工大理工)
、渡辺賢二(静
岡県大院薬)
、阿部郁朗(東大院薬)
、
池田治生(北里大)
、不破春彦(東北
大生命)
、井上将行(東大院薬)
、掛
谷秀昭(京大院薬)
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❻新規素材探索研究会第14回セミナー
4-2.Asian International Symposium
Natural Products Chemistry, Chemical Biology/
平成27年6月5日(金)
Biofunctional Chemistry and Biotechnology
於・新横浜フジビューホテル(新横浜)
平成27年3月27日(金)13:00~17:30
予定講演者(敬称略):
A. R. Pradipta(RIKEN)、Kimberly Cornelio(Osaka
University, ERATO, JST)、Hiroshi Nonaka(The
❼第8回公開シンポジウム
University of Tokyo)、Qiangbin Wang(Chinese
Academy of Sciences)、Richard J. Payne(The
平成27年6月8日(月)
~9日(火)
・10日(水)
U n i v e r s i t y o f S y d n e y )、 P e n g C h e n ( P e k i n g
於・東 北大学(片平キャンパス)さくらホール・東北大学
University)、Xiaoguang Lei(Peking University,
(川内キャンパス)萩ホール
China)、Masaatsu Adachi(Nagoya University)、
講演者(予定)
:浜地格(京大)
、村田道雄(阪大)、小路弘行
Yuuichiro Hori(Osaka University)、Osamu Ohno
(㈱ Prism Pharma)
、萩原正敏(京大)、青
(Keio University)
木淳賢(東北大)、有本博一(東北大)
、藤本
ゆかり(慶應大)
、三尾和弘(産総研)
※10日(水)に日本ケミカルバイオロジー学会第10回年会
とジョイントセッション開催予定
❺日本農芸化学会2015年度大会
平成27年3月26日(木)~29日(日)
於・岡山大学 津島キャンパス
❽第7回若手研究者ワークショップ
5-1.大会シンポジウム(日本学術会議食料科学委員会農
平成27年6月9日(火)午後
芸化学分科会共同開催):天然物ケミカルバイオロジー研究
於・東北大学(北青葉山キャンパス)理学研究科合同C棟 の新展開
青葉サイエンスホール
平成27年3月29日(日)
於・岡山大学津島キャンパス
講演者(予定): 吉 田稔(理研)、石橋正己(千葉大)
、難波
康祐(徳島大)、西山賢一(岩手大)
、清田
❾日本ケミカルバイオロジー学会第10回年会
洋正(岡山大)
平成27年6月10日(水)
~12日(金)
世話人: 桑 原重文(東北大)、清田洋正(岡山大)、上田実
於・東北大学(川内キャンパス)萩ホール
(東北大)
講演者(予定): 山 本雅之(東北大)
、平間正博(東北大)、
今井由美子(秋田大)
、嶋田一夫(東大)、
5-2.大会シンポジウム:異分野融合による天然物創薬
永井健治(阪大)
~生理活性物質から医薬品シーズへ~
平成27年3月29日(日)
於・岡山大学津島キャンパス
世話人: 井本正哉(慶應大)、長田裕之(理研)、田代悦(慶
應大)
5-3.大会シンポジウム:生命恒常性の維持に寄与するケ
ミカルリガンド受容機構の新展開
平成27年3月29日(日)
於・岡山大学津島キャンパス
世話人:宗 正晋太郎(岡山大)、浜本晋(東北大)、伊原誠
(近畿大)
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❿第38回日本分子生物学会・第88回生化学大会合
同大会
平成27年12月1日(火)
~4日(金)
於・神戸ポートアイランド
⓫環太平洋国際化学会議2015
⓬第57回天然有機化合物討論会
The International Chemical Congress of Pacific Basin
平成27年9月9日(水)
~11日(金)
Societies
於・神奈川県民ホール
Molecular Function of Natural Products: Advances
towards Chemical Biology(#237)
平成27年12月15日~20日
於・ホノルル・USA
文部科学省科学研究費補助金「新学術領域研究(領域提案型)」(平成23~27年度)
天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御 News Letter Vol.9
発行人 新学術領域研究「天然物ケミカルバイオロジー:分子標的と活性制御」事務局
発行日 2015年3月
企画・編集 井本正哉(慶應義塾大学理工学部生命情報学科)、品田哲郎(大阪市立大学大学院理学研究科)
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