Cancer Genome Scanning in Plasma: Detection

Journal Club 2013 chan
Journal Club 2013 chan
Cancer Genome Scanning in Plasma: Detection of Tumor-Associated Copy
Number Aberrations, Single-Nucleotide Variants, and Tumoral Heterogeneity
by Massively Parallel Sequencing
K.C. Allen Chan1,2,3, Peiyong Jiang1,2, Yama W.L. Zheng1,2, Gary J.W. Liao1,2, Hao Sun1,2, John Wong4, Shing Shun N.
Siu5, Wing C. Chan6, Stephen L. Chan3,7, Anthony T.C. Chan3,7, Paul B.S. Lai4, Rossa W.K. Chiu1,2 and Y.M.D. Lo1,2,3,*
1 Li KaShing Institute of Health Sciences,
2 Department of Chemical Pathology,
3 State Key Laboratory in Oncology in South China, Sir Y.K. Pao Centre for Cancer,
4 Department of Surgery, and
5 Department of Obstetrics and Gynaecology, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, Shatin, New Territories, Hong Kong SAR, China;
6 Department of Surgery, North District Hospital, SheungShui, New Territories, Hong Kong SAR, China;
7 Department of Clinical Oncology, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, Shatin, New Territories, Hong Kong SAR, China.
* Address correspondence to this author at: Department of Chemical Pathology, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, 30–32 NganShing St., Shatin, New Territories,
Hong Kong SAR. Fax +852-26365090; e-mail [email protected].
ジャーナルクラブ
血漿の癌ゲノムスキャン:大規模並行シークエンシングによるがん関連コピー数異常、
一塩基変異、腫瘍不均質性の検出
■要旨
【研究背景】癌由来 DNA は癌患者の血漿中で見られる。この研究では、癌患者からの血漿中 DNA をショットガン大規模
並行シークエンシング(MPS)を用いて、癌ゲノムを非侵襲的に調べるものである。【方法】4 人の肝細胞癌患者と、乳癌と
卵巣癌の同時性癌患者を募集した。DNA は腫瘍細胞から抽出し、術前、術後の血漿サンプルはショットガン MPS により
分析した。【結果】我々は癌患者血漿中のゲノム全域のコピー数異常と、ポイントミューテーションのプロファイリングを解
析した。ゲノム全域でのアレル欠損とポイントミューテーションの集積を特定、定量することで、血漿中の癌由来 DNA の
分画濃度を明らかにし、また腫瘍サイズや外科療法とこれらの濃度の相互関係を示した。更に、二つの同時性癌を持つ
患者を調べることで、複雑な腫瘍学シナリオの分析にこの方法が使用可能であることも明らかにした。腫瘍組織の複数
域シークエンシングと血漿 DNA のショットガンシークエンシングの使用を通して、血漿 DNA シークエンシングは癌の不均
質性を調べる効果的な方法であることを示した。【結論】血漿のショットガン DNA シークエンシングは、癌の特定、モニタリ
ング、研究において効果的な方法である可能性がある。
1
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■本文
癌患者の血漿中での癌由来 DNA の存在は、癌の特定とモニタリングといった絶好の機会を与えてくれる(1,2)。実際、癌
関連マイクロサテライト変性 (3,4)、遺伝子変異 (5 -9)、DNA メチル化変化 (10,11)、ウイルス性核酸 (12) が違う種類の
癌患者の血漿中で見出だされている。癌マーカーとしての血漿 DNA についてのこれまでの報告のほとんどは、PCR
(3,4,12)、デジタル PCR (5-7)、デジタルライゲーション分析 (9)などの方法により、癌と関係することが知られている特異
的な分子ターゲットを検出することに焦点をあてていた。大規模並行シークエンシング(MPS)の出現により、いくつかの研
究グループが新しい血漿 DNA ベースの癌マーカーを開発する為、この方法を取り入れた。ひとつのアプローチとして、
MPS を腫瘍サンプルに用いて、さらに血漿中で検出できる特異的ゲノム再配列を初めて特定する方法となった(13,14)。
他のアプローチは、ターゲット増幅産物のシークエンシングをベースにして、癌で一般的に見られる遺伝子変異を探すこ
とである(8)。
ターゲット特性のため、上記のアプローチでは癌患者の血漿中腫瘍ゲノムを部分的に垣間見ることしかできない。循環
血液中の腫瘍ゲノムをゲノム全域の視点で見ると、非ターゲットにランダムな、またはショットガンシークエンシングアプロ
ーチが望ましい。この点で、妊婦の血漿から DNA をショットガン MPS により得た結果から、非侵襲性出生前診断の分野
は非常に発展した(15)。このアプローチは、非侵襲的に胎児の染色体異数性(16-18)を検出し、胎児のゲノムスキャン
(19,20)を可能にした。
この論文では、癌由来の遺伝子コピー数変動と血漿中 DNA のミューテーションを、非侵襲的にゲノム全域からの視点で
得るためのショットガン MPS の使用を報告している。更に我々はこのアプローチを、腫瘍不均質性を例とする、重要な腫
瘍特質を説明する為に使用できることを示そうとした。
■方法と材料
サンプル採取
原発性肝細胞癌(HCC)患者と、慢性 B 型肝炎キャリアを Hong Kong の Prince of Wales Hospital の Department of Surgery、
Department of Medicine and Therapeutics からそれぞれ募集した。インフォームドコンセントと施設のレビュー理事会の承
認を得た。HCC 患者は全員、Barcelona Clinic Liver Cancer stage A1 であった。インフォームドコンセントは研究の性質と
起こりうる結果を説明した後に得た。乳癌と卵巣癌の同時性癌患者は Prince of Wales Hospital の Department of Clinical
Oncology から募集した。すべての対象者からの末梢血サンプルは EDTA 入り試験管に採取した。HCC 患者の腫瘍組織
は、癌切除術中に採取された。
血液処理
末梢血液サンプルは、1600g で 10 分間、4℃で遠心分離した。血漿部分は 16000g で 10 分間、4℃で遠心分離し、-80℃
で保存した。4.8mL の血漿からの細胞フリーDNA は、QIAamp DSP DNA Blood Mini Kit (Qiagen)の血液・体液プロトコー
ルにそって抽出された。血漿 DNA は SpeedVac® Concentrator (Savant DNA120; Thermo Scientific)で濃縮し、その後の
DNA シークエンスライブラリの準備の為、それぞれのケースを 40µL の最終液量にした。
ゲノム DNA 抽出
ゲノム DNA は、QIampDSP DNA Blood Mini Kit の血液・体液プロトコールにより、患者のバッフィーコートサンプルから抽
出した。DNA は QIampDNA Mini Kit (Qiagen)により腫瘍組織から抽出した。
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DNA シークエンシング
ゲノム DNA サンプルのシークエンシングライブラリは、Paired-End Sample Preparation Kit (Illumina)でメーカーの使用説
明書にそって作成された。簡潔には、1-5µg のゲノム DNA は初め Covaris S220 Focused-ultrasonicator で 200-bp フラ
グメントに切断した。その後、DNA 分子は T4 DNA ポリメラーゼと Klenow ポリメラーゼで末端処理をした。そして T4 ポリ
ヌクレオチドキナーゼは、5’末端をリン酸化する為に使用した。3’末端のオーバーハングは 3’-5’エキソヌクレアーゼ欠
損 Klenow フラグメントにより作成した。Illumina アダプターオリゴヌクレオチドは粘着末端に結合させた。アダプター結合
DNA は 12 サイクル PCR で増幅した。血漿 DNA 分子は短いフラグメントであり(21)、血漿サンプル中の総 DNA 量も相対
的に少ないので、断片化のステップは省き、血漿サンプルから DNA ライブラリを作成する段階で 15 サイクル PCR を使用
した。
Agilent 2100 BIoanalyzer(Agilent Technologies)は、アダプター結合 DNA ライブラリの質とサイズを確認する為に用いた。
その後 DNA ライブラリは、KAPA Library Quantification Kit (KapaBiosystems)の使用説明書にそって測定された。
DNA ライブラリは希釈され、paired-end シークエンシングフローセルにハイブリダイゼーションした。DNA 群は TruSeq PE
Cluster Generation Kit v2(Illumina)を用い、cBot クラスター生成システム(Illumina)上で生成され、その後、TruSeq SBS
Kit v2 (Illumina)を用い、HiSeq 2000 system (Illumina)上で 51 x 2 サイクル、又は 76 x 2 サイクルと続いた。
シークエンスアラインメントとフィルタリング
Paired-end シークエンシングデータは Short Oligonucleotide Alignment Program 2 (SOAP2) の paired-end モードにより
分析した(22)。それぞれの paired-end 測定で、それぞれの末端から 50 bp 又は 70 bp は、非反復マスク法ヒトゲノムリフ
ァレンス(Hg18)に整列させた。2 塩基のミスマッチまでを、それぞれの末端のアラインメントとして認めた。その後、2 つの
末端の可能なアラインメントのゲノム配位を、どの組み合わせでも正しい定位で同じ染色体上に整列するのか、≤600 bp
の挿入サイズとなるのか、ヒトゲノムリファレンスの単一位置にマップするのかを確定する為に分析した。複製されたリー
ドは paired-end リードと定義され、挿入された DNA 分子がヒトゲノムにおいて同一の始まりと終わりを示した。そして複製
されたリードは先に述べたように取り除かれた(19)。
マイクロアレイ分析
HCC 患者の腫瘍組織とバッフィーコートから抽出された DNA は、以前報告したように(23)、Affymetrix Genome-Wide
Human SNP Array 6.0 system で遺伝子型を特定した。マイクロアレイデータは Affymetrix Genotyping Console version 4.1
で処理した。遺伝子型特定分析と一塩基多型 (SNP) コーリングは Birdseed v2 algorithm により、以前報告した方法
(24) で行った。バッフィーコートと腫瘍細胞の遺伝子型判定データはヘテロ接合性の消失 (LOH)域の特定と、コピー数
分析を行う為に用いた。コピー数分析は、Affymetrix からのデフォルト・パラメータを用いた Genotyping Console と、ゲノ
ムセグメントサイズが最小で 100 bp、またセグメント中に最小 5 遺伝マーカーあるもので行った。LOH 域は、腫瘍組織中
で 1 コピー、バッフィーコート中で 2 コピーある領域、またバッフィーコート中ではこれらの領域の SNP がヘテロ、腫瘍組織
中では SNP がホモであるとして特定した。腫瘍細胞中で LOH を示す遺伝領域において、バッフィーコートには存在するも
のの腫瘍組織には存在しない、または量が低下している SNP アレルは、染色体領域の欠失セグメント上のアレルである
とみなされた。バッフィーコートと腫瘍組織の両方に存在するアレルは、染色体領域の非欠損セグメントに由来するもの
であるとみなされた。
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アレイ比較ゲノムハイブリダイゼーション分析
HCC 患者のバッフィーコートと腫瘍組織から抽出された DNA サンプルは、SurePrint G3 Human High Resolution
Microarray Kit (Agilent) により以前報告された方法 (25) で分析した。HCC 患者のアレイ比較ゲノムハイブリダイゼーシ
ョンデータは、Partek® Genomics Suite によりコピー数変動のために分析した。未加工のプローブ量はシークエンス中の
GC 含量により調節した。これは、すべてのサンプルのフラグメントの長さとプローブのシークエンスを調節すると同時に、
シグナル量のプローブレベルでの標準化が続く。コピー数の増減は、コピー数状況の異なる区画を得るために、Partek
Genomics Suite version 6.5 で可能な Genomic Segmentation アルゴリズムのデフォルト・パラメーターを応用し検出した。
シークエンシングによる腫瘍組織サンプル中のコピー数異常の検出
ゲノムコピー数異常を調べるために(例:コピー数の増減)、我々はゲノムを同じサイズのセグメントに分割し(window/bin
あたり 1 Mb)、それぞれの bin とマッピングするシークエンスリードを一致させた。大量処理シークエンシング技術にバイア
スをかける GC 依存型シークエンシングにより(26)、GC 関連バイアスを修正する為に、統計的修正法である回帰スムー
ジング法 (LOESS)を用いた (27)。この方法では、以前報告された通り(28)、修正ファクターは LOESS 回帰モデルにより
それぞれの bin に対して計算された。その後、それぞれの bin のリードカウントは bin に特異的な修正ファクターで調節し、
すべての bin のリードカウント中央値で標準化した。GC 修正の後、腫瘍組織の調節リードカウントの、バッフィーコートで
Atumor は腫瘍組織の標準化 GC 調整リードカウントであり、
のそれに対する比率は以下の式により計算された:
ABC はバッファーコートの標準化 GC 調整リードカウントである。
その後、すべての bin に対して、log2(R) の頻度分布を作成した。この分布プロットは、特定のコピー数分布を示した後、
それぞれの bin でのコピー数変化を示す腫瘍組織において、腫瘍細胞(F)の割合を推定するのに用いた。
頻度分布プロット上で、R がおおよそ 1 [例:log2(R)=0]になる中央のピークを確認した。このピークは、コピー数異常のな
いゲノム領域を示している。その後、中央ピークの左側、右側に存在するピークを確認した。これらのピークはそれぞれ 1
コピー減少、1 コピー増加を示している。中央ピークから左側ピーク、右側ピークへの距離は以下の式
で表され、腫瘍組織中の腫瘍細胞(F)の割合を決定する為に使用した。上記の式の Rright は右側
ピークの R 値、Rleft は左側ピークの R 値である。その後、すべての 1-Mbbin でのコピー数変化 (CN)値は以下の式:
により算出した。Rbin は bin の R 値、Rcen は中央ピークの R 値を表している。
血漿中のコピー数異常の検出
我々は、様々なゲノム領域の血漿 DNA のゲノム表現を分析した。まず、腫瘍組織のコピー数異常分析と同じように、ゲノ
ム全体を 1-Mb window に分割した。そして GC 修正リードカウントを(上記に示したように)1-Mb window ごとに決定した。
統計的 Z スコアは、1-Mb window 中の血漿 DNA 表現がリファレンスグループと比較した時、優位に増加したか、又は減
少したのか決定する為に用いた。リファレンスグループは 16 人の健常人コントロールからなる。この研究において、1-Mb
bin それぞれの GC 修正リードカウントは、サンプル中の GC 修正リードカウントの中央値に標準化した。標準化した血漿
DNA 表現はコントロールのデータと比較した。Z スコアはコントロールの平均と SDs を用いて、それぞれの 1-Mb window
ごとに算出した。Z スコアが<-3 から>3 の領域は、それぞれ有意に過小評価、過剰評価であるとみなした。
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血漿中のコピー数異常確認に必要な分子数
コピー数異常分析において、血漿中の腫瘍由来のコピー数異常を検出する感受性と特異性を、染色体領域の血漿 DNA
表現測定の正確さ、そして癌患者の血漿中癌由来 DNA 分画濃度により決定した。血漿 DNA 表現測定の正確性は同様
に、分析した血漿 DNA 分子数の影響を受けた。この点から、分析に必要とした血漿 DNA 分子数と血漿中の腫瘍由来
DNA 分画濃度との関係を決定するシュミレーション分析を行った。よって、我々は腫瘍関連コピー数異常の検出で 95%の
感受性を達成した。影響を受けた領域がコピー数変化を-1、+1、+2 持つとするシナリオ、また 1%から 50%の範囲の腫
瘍由来 DNA 分画濃度でコンピューターシュミレーションを行った。それぞれのシュミレーション分析において、ゲノム全域
を 3000 bins に分割した。この数値は、1-Mb の分解能を用いた実際の実験分析で用いたものと似ていた。
我々は、bins の 10%は腫瘍組織中で染色体異常を呈すると仮定した。腫瘍組織において、全分子が影響を受けた領域
内で bin に落ちる予測分画(P)は
であり、CN はコピー数変化を示す。この情報から、血漿中
での予測変化を算出した。
血漿中では、全分子が影響を受けている領域で bin に落ちる予測割合(E)を
と計算することができ、f は血
漿中の腫瘍由来 DNA の分画濃度を示す。
1000 の正常症例と 1000 のがん症例のシュミレーションは、血漿 DNA 分子が二項式分布を取るとの仮定の元に行った。
予測血漿表現は上記のように算出し、増加し続ける分子数は 95%の検出率になるまで分析を続けた。シュミレーションは
R の rbinom 機能で行った(http://www.r-project.org/)。
腫瘍関連一塩基変動の検出
我々はペアーの腫瘍と constitutional DNA サンプルを、腫瘍関連一塩基多様性(SNVs)を特定するためにシークエンスし
た。我々は constitutional DNA (例:バッフィーコート DNA)のホモ接合位に起こる SNVs に焦点をあてた。原則として、腫
瘍組織のシークエンシングデータで検出されるが、constitutional DNA 中には存在しないどの塩基変異も、変異の可能
性がある(例:SNV)。しかし、シークエンスエラー(シークエンスされた塩基の 0.1% - 0.3%)のため、もし腫瘍組織のシークエ
ンスデータ中で一つでも一塩基変化があれば腫瘍関連 SNV とみなしてしまうと、ゲノム中で何千万個という偽陽性が確
認されることになる。偽陽性の数を減らす一つの方法は、腫瘍関連 SNV であると決定する前に、腫瘍組織のシークエン
スデータ中で、同じ塩基変化が複数回確認されなければならないという基準を設定することである。シークエンスエラー
の発生は確率過程であることから、シークエンスエラーによる偽陽性の数は、腫瘍関連 SNV とみなすために必要な SNV
の発生数を増やせば、指数関数的に減少するものである。一方で偽陽性の数は、シークエンスの深さが増すことで指数
関数的に増加する。これらの関係は、ポアソン分布、二項性分布機能により予測できるであろう。この点から、我々は観
察される SNV が腫瘍関連とみなすための発生域値を決定する数学的アルゴリズムを開発した。このアルゴリズムは腫
瘍シークエンスデータ中の特定塩基の実際範囲、シークエンスエラー率、最大偽陽性率、変異検出に対する最適感受性
を考慮している。
この研究において、我々は偽陽性を減らすために非常に厳密な基準を設けた。constitutional DNA シークエンシングに
おいて変異が全くなく、特定の塩基番号へのシークエンスの深さが>20 倍でなければならないとした。この発生域値は偽
陽性検出率を<1×10-7 にコントロールするのに必要なレベルである。このアルゴリズムで我々は、配列性人工産物によ
る偽陽性を最小限にするため、セントロメア、テロメア、また低密度域に見られる SNV は除外した。また、dbSNP build 135
データベースの既知の SNPs にマッピングする推測上の SNVs も除外した。
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■結果
血漿中の腫瘍関連コピー数異常
腫瘍関連コピー数異常をショットガン MPS によって、癌患者の血漿で検出できるかどうか検証した。末梢血液サンプルは
4 人の HCC 患者から、治療目的の外科的切除前と 1 週間後に採取した。血液サンプルは、血漿と血球とに分画した。ま
た DNA は、それぞれの腫瘍から採取した。4 つの腫瘍サンプルのコピー数異常は MPS、また 1 又は 2 つのマイクロアレ
イプラットフォーム(Affymetrix and Agilent)により分析した。コピー数異常は、腫瘍組織のゲノム全体を通して 1-Mb
window で分析し、16 人の健常人コントロールグループの血漿サンプルと比較した。データは 3 つのプラットフォームを通
し て 一 貫 し た も の で あ っ た ( こ の 論 文 の オ ン ラ イ ン 版 の Data Supplement の Fig.1 参 照
http://www.clinchem.org/content/vol59/issue1)。
そして我々は、4 人すべての HCC 患者から得た術前、術後の血漿サンプルを、MPS を用いて分析した。シークエンスの
深さの平均は、一倍体ヒトゲノムの 17 倍の範囲であった(15.2 倍から 18.5 倍の範囲)。Fig.1 は、それぞれの患者の術前、
術後の血漿中における、腫瘍のゲノム全体のコピー数異常の Circos プロット(30)を示す。それぞれの症例で、腫瘍組織
サンプル中に見られる特徴的なコピー数異常は、術前の血漿サンプル中でも観察された (Fig.1)。血漿 DNA の領域表現
での有意な変化は、1-Mb window に対応する 16 人の健康人コントロールの平均表現から >3 SDs として定義した。
すべての症例において、コピー数異常は術後血漿サンプルでほとんど完全に消失した (Fig.1)。血漿中の様々なクラス
の腫瘍関連遺伝子異常の検出能は Fig.2 に示す。比較のため、HCC でない 4 人の B 型肝炎キャリアからの血漿 DNA
サンプルの分析にも同じ方法を用いた (Fig.1 E; オンライン Data Supplement の Fig 2 参照)。これらの対象者は血液採取
から更に1年間追跡し、HCC のないことを確認した。これらの対象者で、シークエンスした bins の 99%は、血漿中で正常な
発現を示した (オンライン Data Supplement の Table 1 参照)。同様に、16 人の健常人コントロールのシークエンスした
bins の平均 98.9%が、血漿中で正常な発現を示した (オンライン Data Supplement の Table 2 と Fig.3 参照)。これらの結
果は血漿中のコピー数異常分析は、癌患者と癌のない対象者を区別するのに特異的であると示している。しかしながら、
血漿コピー数分析の特異度は HCC 患者では下がるようである。よって 4 人の HCC 患者において、コピー数異常のない
領域の中央値 15% (2% - 48%の範囲)が、異常な血漿 DNA 発現を示す対応する腫瘍組織に存在する (オンライン Data
Supplement の Table 1 参照)。この問題は考察の中でさらに詳細を検討する。
ゲノム全域凝集性アレル欠損分析により特定される血漿中腫瘍 DNA の分画濃度
血漿中腫瘍関連 DNA の分画濃度は、ゲノム全域で、血漿ショットガン MPS データで LOH を示す SNPs のアレル数を分
析すること、つまり「ゲノム全域凝集性アレル欠損 (GAAL)」分析と名付けた方法により測定した。その分析において我々
は、Affymetrix SNP 6.0 マイクロアレイで証明される、腫瘍中の LOH を示す SNPs を選択した。腫瘍中で欠損したアレル
の血漿中濃度は、欠損していないものよりも低濃度であった。濃度の差は血漿サンプル中の腫瘍関連 DNA の濃度と関
連している。よって、腫瘍関連 DNA の血漿濃度 ( C )は以下の式から
推定することができ、Nnondel
は腫瘍組織中の非欠損アレルのシークエンスリードを示し、 Ndel は腫瘍組織中の欠損アレルのシークエンスリードを示
す。
Table 1 は、4 症例それぞれの血漿サンプル中の腫瘍 DNA 分画濃度をリストしたものである。腫瘍のサイズは、術前の血
漿中腫瘍由来 DNA の推定分画濃度と関連しているようである。たとえば、4 人の HCC
症例で最も大きい腫瘍 (13 cm)をもつ患者の総血漿 DNA の 52%は、腫瘍由来 DNA であると推測した。4 症例それぞれ
において、腫瘍の外科的切除後、腫瘍由来 DNA の分画濃度は減少した (Table 1)。
6
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Table 1. Fractional concentration of tumor-derived DNA in plasma by GAAL analysis.
Case
Maximal
SNPs with LOH
dimension of the
in tumor, n
Plasma
Collection time
Nnondela
Ndel
tumor, cm
HCC1
HCC2
HCC3
HCC4

13
6.2
4.2
6.2
Fractional concentration
of tumor-derived DNA
11 310
6040
24 783
498
Before surgery
88 499
42 829
52%
After surgery
94 442
93 584
0.90%
Before surgery
56 611
53 428
5.60%
After surgery
63 694
63 083
0.90%
Before surgery
198 688
190 163
4.30%
After surgery
236 655
233 280
1.40%
Before surgery
2465
2277
7.60%
After surgery
2773
2699
2.70%
Nnondel, 腫瘍組織中で非欠損アレルのシークエンスリードの数;Ndel, 腫瘍組織中で欠損アレルのシークエンスリード
の数
血漿のコピー数異常の検出に影響する要因
血漿中の腫瘍 DNA の分画濃度とコピー数異常のクラスは、血漿中のそれら変化の検出能に大きく影響していた。Fig.1
と Fig.2A は、血漿 DNA シークエンシング結果に見られる腫瘍関連遺伝子異常の割合が、血漿中の腫瘍 DNA の分画濃
度と相関していたことを示す。例えば HCC1 症例は腫瘍サイズが最大であり、血漿中の腫瘍 DNA の分画濃度が最も高
かった症例であり、血漿中で検出される腫瘍関連コピー数異常の割合も最も高かった (Fig.1A)。
HCC1 症例は、腫瘍由来 DNA の分画濃度が 52%であった。治療前、ほとんどの腫瘍性コピー数異常は血漿中で見られる。
腫瘍中で1コピー増加の存在する染色体領域のほとんどで(例:染色体 1p, 3, 6)、z スコアは >20 であり、それらの領域に
おける健常人コントロールの血漿発現平均から 20 SD 上回ることを示している。一方で HCC3 症例は、血漿での腫瘍
DNA 分画濃度が 4.3%であり、血漿中で観察される癌関連異常の割合は低いであろう。1コピー増加のあるどの領域も
(7q, 8q, 13q, 14q)、血漿中での z スコアは >10 であった。
検証されたコピー数異常のクラスは、1 コピー欠損、1 コピー増加、2 コピー増加を含む。4 症例それぞれの血漿中で検出
されるこのような変化の割合は、オンライン Data Supplement の Fig.2A にプロットし、Table 3 にリストした。それぞれの症
例で、血漿中の 2 コピー増加は 1 コピーの変化よりも高い感受性で検出される。4 人の HCC 患者全てにおいて、ほとん
どの腫瘍関連染色体異常は、腫瘍の外科的切除の後消失した (Fig.1; オンライン Data Supplement の Table 3 を参照)。
非侵襲性出生前診断についての以前の研究では、シークエンスの深さが深いほど、低い胎児 DNA 分画濃度でも異数体
胎児の血漿の検出ができることを明らかにした (31)。我々はコンピューターシュミレーションを用い、血漿中の様々な腫
瘍 DNA 分画濃度で、血漿中の腫瘍関連コピー数異常の様々なクラスを検出するために必要なシークエンシングの深さ
との関係を検証した (Fig.2B)。説明目的で、検出能を 95%に固定し、1 コピー欠損、1 コピー増加、2 コピー増加の 3 クラス
の遺伝子異常について検証した。腫瘍由来 DNA の分画濃度が 40%の時、2 コピー増加と 1 コピー増加異常の検出には、
1-Mb window 当たり、それぞれおよそ 180 分子と 800 分子が必要である。腫瘍由来 DNA の分画濃度が 10%に落ちると、
1-Mb window あたり、およそ 2500 分子と 12000 分子がそれぞれの変化を検出するには必要となる。腫瘍由来 DNA 分画
濃度の減少にともなう分子数の指数関数的増加の必要性は、母体の血漿 DNA 分析による胎児染色体異数性の非侵襲
性出生前診断の要件と一致している (32)。
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血漿中の腫瘍由来 SNVs
我々は次に、4 人の HCC 患者の血漿中腫瘍由来 SNVs のゲノム全域検出を行った。腫瘍 DNA とバッフィーコート DNA
を、それぞれ一倍体ゲノム範囲の 29.5 倍 (27 – 33 倍の範囲)、43 倍 (39 - 46 倍の範囲)シークエンスした。4 人の HCC
患者からの腫瘍 DNA とバッフィーコート DNA の MPS データを比較し、腫瘍 DNA 上には存在するが、バッフィーコート
DNA 上には存在しない SNVs を厳しいバイオインフォマティクスアルゴリズムに利用した。このアルゴリズムでは、真の
SNV として分類する以前に、推測上の SNV がシークエンスした腫瘍 DNA フラグメントの域値数だけ少なくとも存在するこ
とが必要となる。域値数は特定の塩基のシークエンスの深さとシークエンスエラー率を考慮して決定した。
4 人の HCC 症例において、腫瘍関連 SNVs の数は 1334 から 3171 の範囲であった。血漿中で検出可能な SNVs の割合
は Table 2 にリストした。治療前、15% - 94%の腫瘍関連 SNVs が血漿中で検出された。血漿中の腫瘍由来 DNA の分画
濃度は、総シークエンス数(例:変異型と野生型)に対する変異型の分画数により決定した (Table 2)。これらの分画濃度
は GAAL 分析で測定されたものと良く相関しており、術後に減少した (Table 2)。
Table 2. Fractional concentrations of tumor-derived DNA in plasma determined by SNV analysis.
Case
No. of
Time
No. of
No. of
No. of plasma
Deduced
Deduced
SNVs
point
tumor-associated
plasma DNA
DNA
fractional
fractional
detecte
SNVs sequenced
sequence
sequence
concentration
concentration
d in
from plasma
reads
reads
of
of
tumor
(percentage of
showing
showing
tumor-derived
tumor-derived
tissue
SNVs seen in
SNVs (p)
wild-type
DNA by SNV
DNA by GAAL
sequence (q)
analysis
analysis
tumor tissue)
Before
HCC1
2840
surgery
2569 (94%)
11 389
31 602
53%
52%
44 (1.5%)
91
46 898
0.40%
0.90%
1097 (35%)
1490
57 865
5.00%
5.60%
72 (2.3%)
206
66 692
0.60%
0.90%
461 (15%)
525
48 886
2.10%
4.30%
31 (1%)
67
58 862
0.20%
1.40%
201 (15%)
248
18 527
2.60%
7.60%
74 (5.5%)
149
22 144
1.30%
2.70%
After
surgery
Before
HCC2
3105
surgery
After
surgery
Before
HCC3
3171
surgery
After
surgery
Before
HCC4
1334
surgery
After
surgery
8
Journal Club 2013 chan
SNV 分析アプローチの特異性を推定するために、我々は健常人コントロール血漿で腫瘍関連 SNVs を分析した (オンラ
イン Data Supplement の Table 4 参照)。16 名の健常人コントロールの血漿中の少数の推測腫瘍関連変異体の存在は、
この方法の「統計的ノイズ」であり、おそらくシークエンシングエラーだろう。このようなノイズから推定した平均分画濃度
は 0.38%であった。
同時性重複癌患者の血漿 DNA 分析
複合癌症例をモニターするための血漿 DNA のショットガン MPS 使用を示すため、58 歳の女性で BRCA1 (breast cancer
1、早期発症)ミューテーション (p. Cys1697*)を持ち、同時性の乳がんと卵巣がんを呈する患者を調べた (Fig.3)。乳がん
は 3cn で左胸に位置し、乳管がんに浸潤していた。患者は両卵巣に漿液性腺癌を呈していた。左側の卵巣には最も長い
部分で 6cm、右側の卵巣には 12cm の腫瘍が存在する。また、網と結腸を含む複数の腹腔内腫瘍沈着物が見られる。網
と S 状結腸と同時に、乳房腫瘍と卵巣腫瘍の外科的切除を同日に行った。乳房腫瘍と左右両側の卵巣腫瘍をこの研究
のために採取した。血漿サンプルは診断時、また術後1日目に採取した。乳房腫瘍 DNA と 4 か所からの卵巣腫瘍 (左卵
巣から 2 か所、右卵巣から 2 か所)は MPS により分析した。同じ側からの卵巣腫瘍サンプルは 4cm 離して採取した。
乳がんと卵巣がんのコピー数異常は Fig.4A にプロットした。4 か所の卵巣がんは非常に似たコピー数異常を示した。一方
で、乳がんは違うパターンのコピー数異常を呈した。術前血漿の異常パターンは、乳がんと卵巣がんの異常パターンの
混合であった (Fig.4B)。乳がんに特異的な遺伝子異常の例は、染色体 6p の欠損、染色体 1q、7p、15q の増幅であった
(Fig.4A)。一方で、卵巣腫瘍に特異的な遺伝子異常の例は、染色体 2、4p、11p、12q、18q、22q の欠損、染色体 3q、5p、
21q の増幅であった (Fig.4B)。乳がんや卵巣がんに特異的なこのような遺伝子異常は術前血漿サンプルですべて観察
されたが、術後血漿サンプルでは消失した (Fig.4A)。乳がんに存在し、卵巣がんには存在しないコピー数異常を呈する 2
つの遺伝子領域の拡大図を Fig.4C
に示す。
乳がんと卵巣がんによる患者の血漿 DNA への相対的関与を調べるため、乳房腫瘍、または卵巣腫瘍のどちらかに特異
的な欠損を呈した遺伝子領域に対し、GAAL 分析を行った。この結果は、乳がんと卵巣がんは術前血漿 DNA にそれぞれ
2.1%と 46%関与していたことを示した (オンライン Data Supplement の Table 5 参照)。それぞれの腫瘍が関与している DNA
の分画濃度は術後、それぞれ 1.3%と 0.66%に減少した (オンライン Data Supplement の Table 5 参照)。
腫瘍不均質性の検討
我々は、卵巣腫瘍 4 か所からのサンプルを検査することにより、腫瘍不均質性 (33)の現象をさらに調べた。コピー数異
常に関しては、これら 4 か所間で違いは観察されなかった (Fig.4A)。我々は、それぞれの場所からの SNV プロファイルと
患者のバッフィーコート DNA を比較した。我々は SNVs を 7 グループに分類した:4 グループはそれぞれの場所で唯一の
ミューテーションを含む (例:グループ A、B、C、D)、2 グループは身体のそれぞれの側の 2 か所で同じミューテーションを
含む (例:グループ AB と CD)、最後のグループは4か所すべてで同じミューテーションを含む (例:グループ ABCD)
(Table 3 と Fig.3)。我々は質量分析ベースの一塩基伸長法 (iPLEX 分析;Sequienom)を用いた検証のため、ランダムに 7
SNV グループそれぞれに対して 10 SNVs を選び出した (オンライン Data Supplement の Table 6 参照)。合計 67 ミューテ
ーションを検証の対象とした。95%以上のシークエンシングによる SNV 結果が iPLEX 分析により確認できた。
9
Journal Club 2013 chan
Table 3. SNV analysis of multiple regions of the ovarian cancer in the patient with synchronous cancers.
Group
No. of
of
SNVs
SNVs
in
tumor
Presurgery plasma
No.
of
No.
of
Postsurgery plasma
Deduced
No.
of
No.
of
Deduced
sequence
sequence
fractional
sequence
sequence
fractional
reads showing
reads showing
concentration
reads
reads showing
concentration
SNVs
wild-type
of
showing
wild-type
of
tumor-derived
SNVs
DNA
plasma (p)
in
plasma (p)
sequence
in
plasma (q)
in
sequence
in
plasma (q)
tumor-derived
DNA
A
71
37
3321
2.20%
5
2149
0.46%
B
122
8
5633
0.28%
1
3516
0.06%
C
168
51
8507
1.20%
2
5438
0.07%
D
248
26
10 880
0.48%
2
7060
0.06%
AB
10
21
423
9.50%
0
297
0%
CD
12
3
569
1.10%
0
333
0%
2216
21 344
70 940
46%
54
61 417
0.18%
ABCD
それぞれのグループからの SNVs は血漿ショットガン MPS データから探し出された。循環腫瘍 DNA の分画濃度をそれぞ
れの SNV グループで決定した (Table 3)。4か所 (例;グループ ABCD) すべてで共通の SNVs により決定された術前と
術後の血漿中腫瘍 DNA の分画濃度は、それぞれ 46%と 0.18%であった。これら後者の数値は GAAL 分析で得られた数
値と良く相関していた (オンライン Data supplement の Table 5 参照)。グループ AB と CD からの SNVs で確定した術前
血漿での腫瘍由来 DNA の分画濃度は、それぞれ 9.5%と 1.1%であった (Table 3)。これらの濃度は右側と左側の卵巣腫瘍
の相対的サイズと一致していた (Fig.3)。場所特有の SNVs (例;グループ A、B、C、D のもの) により確定した腫瘍由来
DNA の分画濃度は全体的に低値であった。増加する「場所特異性」SNVs で測定された血漿中腫瘍由来 DNA 分画の減
少傾向は、考察で取り上げることとする。
■考察
我々のデータは、癌患者の血漿サンプルのショットガンシークエンシングが、癌関連コピー数異常とミューテーションを非
侵襲的に、さらにゲノム全域で分析できることを示した (Fig.1 と Fig.4)。これは以前の、血漿中の少数の癌関連遺伝子変
化を検出することに焦点をあてていた研究 (1) から前進する重要な第一歩である 。このアプローチであれば患者の腫
瘍細胞がもつ遺伝子異常を、癌関連コピー数異常から様々な腫瘍細胞クローンに存在するポイントミューテーションとい
った、全体的な視野をもつ異なるレベルで調べることができる。このアプローチは、術前、術後の血漿サンプルで観察さ
れる変化から明らかなように、遺伝子異常の質的、量的側面を連続的に調べることができる。さらにこの方法では、腫瘍
DNA の分画濃度の測定値と腫瘍のサイズの相関によって示される、腫瘍細胞量を評価することができる。この研究では、
そのような一般的な特徴は、HCC、乳がん、卵巣がんの血漿 DNA プロファイルで観察された。
10
Journal Club 2013 chan
GAAL 分析と SNV 分析のどちらも、どの癌を対象にしても血漿中の癌由来 DNA の分画濃度を求めることができる。この
アプローチにより、異なるタイプの腫瘍から血漿中に放出される DNA を比較することができる。LOH 域中の SNPs からの
シークエンス数と、ゲノム全域のポイントミューテーションの蓄積により、これらの分析による測定値は個々の腫瘍関連
遺伝子変化をベースとしたものよりも、より正確性が高いと期待される。
血漿ベースのコピー数分析のベースラインを作成するためのコントロールグループは、癌を持たない健常人で構成され
た。癌を持たない対象者に対するこの種の分析の特異性は、HCC でない慢性 B 型肝炎グループと同様、コントロールグ
ループのブートストラップ分析により求められた。これらの 2 グループにとって、ほんのわずかな領域のみが z スコア <-3、
又は>3 の異常な血漿 DNA 発現を示した。この結果は、このアプローチが癌患者と癌のない患者の区別に特異的である
ことを示している。しかしながら、この方法を HCC 患者の血漿分析に用いた場合、癌のない患者のものと比較して特異
性が低いようである。このことに対する解釈は現在のところ完全には明らかではないが、2 つの可能性が考えられる。ま
ず、癌患者の血漿中でコピー数異常を示す領域での腫瘍 DNA の存在は、コピー数異常を示さない領域からの DNA の相
対的関与に影響するであろう。たとえば、ゲノム全域で多くのコピー数欠損を示す腫瘍に対して、正常なコピー数を示す
遺伝領域に由来する血漿 DNA の関与が相対的に増加することが観察された。この影響は腫瘍 DNA を高い濃度で含む
血漿サンプルでもっとも大きいであろう。実際、HCC1 症例で、未区分の正常領域の割合が最も高く(オンライン Data
Supplement の Table 1 参照) 、血漿中で最も高い腫瘍 DNA 分画濃度であった (52%)。第二に腫瘍不均質性の現象が、
明らかな偽陽性結果の一部を解明できる。つまり、HCC 腫瘍それぞれから採取された単一の腫瘍領域は、採取された
領域に含まれない他の腫瘍クローンから血漿中に放出される特定のコピー数異常を含まない可能性がある。この段落
で述べられている現象について更なる研究が必要だが、現在のところ癌患者と癌のない患者を区別する能力に悪影響
を与えることはないと見られる。
同時性の乳がんと卵巣がんを持つ患者は、症例が非常に重要なコンセプトをいくつも示すことから、注目すべきものであ
る。第一に、注意深くシークエンシングデータの分析をすることで、個々の腫瘍細胞群に由来する血漿中 DNA の存在を
精査することができる。乳がんと卵巣がんに特異的なコピー数異常を示すゲノム領域をターゲットにすることで、それらの
腫瘍の循環 DNA 貯蔵分への相対的な関与についての説明できる (Fig.4B; オンライン Data Supplement の Table 5 参
照)。
血漿 DNA プロファイルにおける腫瘍不均質性の影響を調べるために、患者の constitutional DNA と比較することで、両
側性卵巣癌の 4 か所のミューテーションプロファイルを分析した。我々は、4 か所の領域間のミューテーション共有の程度
により 7 つのカテゴリーに区別することができた。興味深いことに、4 か所すべての領域 (例, グループ ABCD) で共有さ
れたミューテーションは、血漿への腫瘍由来 DNA の関与がもっとも高いことがわかった。一方で、それぞれの領域により
特異的なミューテーションの血漿への関与は低かった。よって、ゲノム全域のアレル欠損量を集積することをベースとし
た GAAL 分析が、ABCD カテゴリーからの SNVs をベースとした分析と同じような腫瘍 DNA 分画濃度を示したことは不思
議ではない。このデータから、癌患者の総腫瘍細胞量の正確な測定には、従来の特定の腫瘍関連ミューテーションをタ
ーゲットとするアプローチよりも、ゲノム全域のショットガンアプローチの方がより代表的全体像を示すことが示唆される。
後者のアプローチにおいて、もし一部の腫瘍細胞のみがターゲットとするミューテーションを有する場合、ターゲットとする
ミューテーションを持たない腫瘍細胞から生じる差し迫った癌の再発や進行を、また治療耐性クローンの出現を見逃して
しまうかもしれない。
実際、腫瘍不均質性の現象 (33)により、モニタリングを目的とした時、真に代表的な腫瘍マーカーを確立するのは困難
である。血漿は体内の様々な不均質な腫瘍から DNA を受けとるため、血漿 DNA のショットガンシークエンシングはすぐ
に利用可能で、体内の腫瘍負荷と腫瘍不均質性を研究できる非侵襲性の方法であるかもしれない。
この研究で我々は腫瘍マーカーとして腫瘍関連 SNVs を使用し、対象癌のミューテーション構造の生態を説明することに
11
Journal Club 2013 chan
焦点を当てなかった。よって今回の研究では、変異シークエンスの特徴の詳細は調べてはいない。しかしながら、今回検
出された腫瘍関連 SNVs の多くは「driver」変異というよりも「passenger」変異であった。この研究の目的は、身体の腫瘍
負荷を評価するための非侵襲的な方法を確立することにあった。よってゲノム全域のミューテーション (passenger と
driver) 検出は、血漿中での腫瘍 DNA のより感度の良い、正確な、そして代表的な検出方法となる可能性に数的優位性
をもたらすと信じている。一方で、driver ミューテーションの選択的分析により、医学的により実用的なターゲットの特定が
すぐに可能になる可能性がある。よって非選択的ゲノム全域アプローチは、より良い癌管理を達成するために、従来の
選択的ターゲットを検出する方法と相乗的に併用することもできるであろう。
癌患者の血漿 DNA が腫瘍 DNA と非腫瘍 DNA の混合から成り、そして多くの患者で腫瘍 DNA は少数派として存在する
と仮定すると、必要な分析力を得るためには比較的深いシークエンシングをする必要がある。よって現在実施しているよ
うに、ここで紹介したショットガンシークエンシング法は、多くのターゲット法と比較して相対的に高価である (8)。今までの
ところの継続的でしかも急速なシークエンシングコストの低下により、近い将来、コストはそれほど大きな障害にならない
だろうと予想される。さらに癌患者が来院次第、血漿サンプルのショットガンシークエンシングの使用、血漿 DNA のショッ
トガンシークエンシングデータのコピー数異常と SNVs への利用、そしてその後のモニタリングを目的としてそのシークエ
ンスを特異的にターゲットとする可能性を描くこともできる。この点で、溶液相ハイブリダイゼーションベースキャプチャー
法は、非侵襲性出生前診断の血漿 DNA 濃縮に使われ、すでに成功を収めている(34, 35)。よって、ターゲット法、ショット
ガン法は、癌の検出、モニタリングに併用して使用できるであろう。
要約すると、我々は血漿 DNA のショットガンシークエンシング法により、癌のゲノムスキャンの方法を示した。この開発は
様々な臨床的、研究的適用性がある。よって、様々な種類の癌を対象とした大規模コホートでこの方法を評価することは、
研究として最重要課題だろう。
(訳者:加藤 久美子)
Acknowledgments
We thank L. Chan, Y. Jin, C. Lee, K. Chow, S.-W. Yeung, X. Su, and C. Chan for technical assistance.
Footnotes
8 Nonstandard abbreviations:
MPS,
massively parallel sequencing;
HCC,
hepatocellular carcinoma;
SOAP2,
Short Oligonucleotide Alignment Program 2;
SNP,
single-nucleotide polymorphism;
LOH,
loss of heterozygosity;
LOESS,
12
Journal Club 2013 chan
locally weighted scatterplot smoothing;
SNV,
single nucleotide variant;
GAAL,
genomewide aggregated allelic loss.
(see editorial on page 6)
Author Contributions:All authors confirmed they have contributed to the intellectual content of this
paper and have met the following 3 requirements: (a) significant contributions to the conception and
design, acquisition of data, or analysis and interpretation of data; (b) drafting or revising the article for
intellectual content; and (c) final approval of the published article.
Authors' Disclosures or Potential Conflicts of Interest:Upon manuscript submission, all authors
completed the author disclosure form. Disclosures and/or potential conflicts of interest:
Employment or Leadership: Y.M.D. Lo, Clinical Chemistry, AACC.
Consultant or Advisory Role: R.W.K. Chiu, Sequenom; Y.M.D. Lo, Sequenom.
Stock Ownership: R.W.K. Chiu, Sequenom; Y.M.D. Lo, Sequenom.
Honoraria: R.W.K. Chiu, Life Technologies (travel grants) and Illumina (travel grants); Y.M.D. Lo,
Illumina and Life Technologies.
Research Funding: K.C.A. Chan, Hong Kong Research Grants Council Theme-based Research Scheme
(T12-CUHK05/10); H. Sun, Hong Kong Research Grants Council Theme-based Research Scheme
(T12-CUHK05/10); A.T.C. Chan, Hong Kong Research Grants Council Theme-based Research Scheme
(T12-CUHK05/10), and the Innovation and Technology Fund under the State Key Laboratory
Programme; R.W.K. Chiu, Hong Kong Research Grants Council Theme-based Research Scheme
(T12-CUHK05/10) and S.K. Yee Foundation; Y.M.D. Lo, Hong Kong Research Grants Council
Theme-based Research Scheme (T12-CUHK05/10), S.K. Yee Foundation, Innovation and Technology
Fund under the State Key Laboratory Programme, and an endowed chair from the Li KaShing
Foundation.
Expert Testimony: None declared.
Patents: K.C.A. Chan, P. Jiang, R.W.K. Chiu, and Y.M.D. Lo have all declared the same set of 5 US patent
applications filed on this work: 13/308473, 61/662878, 61/682725, 61/695795, and 61/711172.
Data and Materials Availability: Sequence data and genotype data have been deposited at the European
Genome-Phenome Archive (EGA, http://www.ebi.ac.uk/ega/), which is hosted by the European
13
Journal Club 2013 chan
Bioinformatics Institute (EBI), under accession number EGAS00001000370.
Role of Sponsor: The funding organizations played no role in the design of study, choice of enrolled
patients, review and interpretation of data, or preparation or approval of manuscript.
Received for publication September 6, 2012.
Accepted for publication September 27, 2012.
© 2012 The American Association for Clinical Chemistry
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Fig.1 4 人の HCC 症例 (A – D)の腫瘍組織サンプル(内側のリング)、術前血漿サンプル (中央のリング)、術後血漿サン
プル (外側のリング)で検出されたコピー数異常と、HCC のない B 型肝炎キャリア (HBV1)の血漿 DNA サンプルのゲノム
表示 (E)。
染色体イデオグラム (プロットの外側) は翼から翼に時計回りの方向で示されている。腫瘍組織では、コピー数の増加
(緑)、又は欠損 (赤)が示されている。血漿サンプルでは、血漿中での増加と減少を示す領域を緑と赤でそれぞれ示した。
Z スコアが -3 から +3 の間の領域は灰色の点で示されている。HCC1 では、2 本の連続する横棒の距離が z スコア 30
を示す。そのほかの症例では、距離は z スコア 10 を示す。
Fig.2 (A) HCC 患者の血漿中での、異なるクラスの腫瘍関連コピー数異常の検出割合。血漿中の腫瘍由来 DNA の分画
濃度 (括弧の中) は GAAL 分析によりそれぞれの症例ごとに測定した。(B), 血漿中の癌関連コピー数異常の 95%を検出
するための、対象 (1-Mb window) のそれぞれの領域の分析に必要な分子の数。
17
Journal Club 2013 chan
Fig.3. 同時性乳がん、卵巣がん患者の腫瘍の位置を示す図
卵巣腫瘍から 4 か所 (A, B, C, D)で採取した。示しているのは、それぞれの卵巣腫瘍域と関連する SNVs から推測した腫
瘍由来血漿 DNA の分画濃度。計算した血漿中の腫瘍 DNA の分画濃度は、予測が複数の腫瘍領域と関連した SNVs を
ベースにしている場合上昇する。
Fig.4. (A) 乳がん (最も内側のリング) と卵巣がん (2 番目に内側のリングから外側へ; A, B, C, D 領域) (B), 乳がんと卵
巣がん(領域 A)、術前血漿と術後血漿 (内側から外側)のコピー数異常。乳がんに特異的なコピー数異常を呈する 2 つの
ゲノム領域は囲われている場所 (染色体 1q)と、矢印 (染色体 6p)。(C), 腫瘍と血漿サンプル中の染色体 1q と 6p の拡
大図。
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