全文 - 産学官の道しるべ

2015
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Journal of Industry-Academia-Government Collaboration
Vol.11 No.2 2015
http://sangakukan.jp/journal/
創刊 10 周年 特別企画 “ 連 携 人”100 人 が
発 信してきたこと
前編
2005~2009 年:TLO、コーディネーターに期待
座 談 会「 TLO の 新しい 姿 」
技術移転から“イノベーション移転”へ
特集
産学官2月号.indb
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ビジネス・インキュベーション再考
2015/02/12
9:25:48
巻 頭 言
産学官連携・新産業創出拠点“イノベーションハブ・KRP ”
〈集・交・創〉の精華を京都から世界へ
座談会「 TLO の新しい姿 」
技術移転から“イノベーション移転”へ
森内敏晴… ……… 3
大西晋嗣/水田貴信/大西由香… ……… 4
特 集 ビジネス・インキュベーション再考
CONTENTS
ビジネス・インキュベーションのフレームワーク
ビジネス・インキュベーションの課題と今後の展望
丹生晃隆… …… 15
地方創生とインキュベーション・マネジャーの役割
西山英作… …… 19
さがみはら産業創造センター
資本は「公」
、経営は「民」
いおう化学研究所
野長瀬裕二… …… 11
山本 満… …… 22
万能の分子接合技術、多様な分野で活躍
今村千早… …… 25
京都・長野・福井・滋賀広域連携
スーパークラスターの Good Practice
西本清一… …… 28
キャリアとしての大学知財人材
「専門家」として認められ徐々に幅広げる
新城裕司… …… 31
産学官連携ジャーナル創刊10周年 特別企画 “連携人”100 人が発信してきたこと
前編
2005 ~ 2009 年:TLO、コーディネーターに期待
連載
各国の研究開発戦略
第 7 回 中国
二歩先の「先進製造技術」目指す
視点 / 編集後記
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産学官2月号.indb
… …… 33
周 少丹… …… 40
… …… 43
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9:25:48
巻
頭
言
産学官連携・新産業創出拠点“イノベーションハブ・KRP ”
〈 集・交・創 〉の精華を京都から世界へ
森内 敏晴
もりうち としはる
京都リサーチパーク株式会社 代表取締役社長
1989(平成元)年、わが国初の民営リサーチパーク「京都リサーチパーク(以下「KRP」)」が
誕生した。大阪ガス株式会社の決断と実行力、京都産業界の力の結集、さらに京都府と京都市の
協力が実を結び、京都大学を中心とする“知の拠点”との間で、京都地域の産学官連携拠点の礎
が築かれた。KRP 発祥の精神は、弊社の社是〈集・交・創〉に反映されている。
KRP の東地区開設から四半世紀を経た現在、西地区と併せた総面積 5.6 ヘクタールのエリアに
合計 340 の公的産業支援機関、大学、多様な産業分野の企業が集積し 4 千人が活動する、京都の
産学官連携・新産業創出拠点にふさわしい陣容になった。開設当初の 34 機関・団体・企業から
実に 10 倍規模に達し、今やサイエンスパーク関連の国際組織* 1 からも認知された都市型リサー
チパークに成長した。
昨年 10 月、今日までの発展を見届けてきた関係者が一堂に会して「KRP 地区開設 25 年」を
祝したが、KRP コミュニティーの構成員が相諮り、この節目を期して産学官連携拠点 KRP の〈集・
交・創〉機能を進化させ、科学技術イノベーションの精華を京都から世界へ発信し続けるハブへ
の思いを込めた、“Innovation Hub KRP”を内外に宣言するロゴを制定した。
盆地特有の風土と 1200 年の歴史に培われた文化で形成された“京都のエートス”が色濃く影
響を及ぼす京都地域は、伝統の中に先進を生む気性に富み、異分野を束ね総合化する優れたプロ
デューサーをいつの時代も輩出してきた。今年は琳派四百年記念に当たるが、今日世界的に有名
な“琳派”の始祖、本阿弥光悦は典型的なアート ・ プロデューサーである。
今後、KRP 地区は京都発イノベーションのハブとして、大学の科学技術シーズを社会実装へ橋
渡しするアクセラレーター機能を担い、地域のみならず世界の持続的発展への貢献を目指すが、
そのために KRP をコアとして大学、公的機関、産業団体、金融機関他を包含し、“京都のエート
ス”に合致した“イノベーション・エコシステム”の構築が必須との認識から、オール京都体制
でその整備に着手した。この整備に伴い、従来の研究統括、研究者、産学官連携コーディネーター
などの他に、新たなプレーヤーの登場が求められる。例えば、科学技術の専門的知識と深い洞察
力を基盤に、人文科学や社会科学とも融合を図り、複数の専門分野を横断する要素技術の統合を
通じて新産業振興につながる製品化に導く総合プロデューサーである。また、起業を志す若い人
財が多数 KRP に集まるよう、ビジネスの入口から出口までワンストップで支援する一連の役割
を担ったプレーヤー群も必要となる。
今後とも KRP 地区の動きにご注目いただければ幸いである。
*1 IASP(International Association of Science Parks and Areas of Innovation)、ASPA(Asian Science Park
Association)、AURP(Association of University Research Parks)
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座談会「TLO の新しい姿」
技術移転から“イノベーション移転”へ
参加者
大西 晋嗣
おおにし しんじ
関西 TLO 株式会社
代表取締役社長
水田 貴信
みずた たかのぶ
株式会社東北テクノアーチ
代表取締役社長
大西 由香
おおにし ゆか
わが国の大学に技術移転機関(TLO)の制度が導入されるようになって16年余り。
着実に実績を積み上げてきた半面、当初関係者がもくろんでいたようには知財の活
用は進んでいない。次々と設立されたTLOは、整理・淘汰(とうた)の時期を経て、
新しい時代を迎えている。初期に設立され、現在も精力的に活動しているTLOは数
少ない。新しいTLO像を探った。
静岡大学 イノベーション
社会連携推進機構 知的財
産管理室 室長、准教授
■大学とのすみ分け
大西(由)
大学から産業界への特許の移転という仕組みが導入されて、技術移
転機関(以下「TLO」)や大学の産学連携組織の整備が進んできました。そし
て、技術移転の実績をそれぞれの大学と TLO が積み重ねてきましたが、どう
も 10 年前に思い描いていたような像にはなっていないような気がします。今
日は、この技術移転をより加速させるためにはどうしたら良いのかについて、
お話をお伺いできればと思います。
大学の知的財産本部整備事業、産学官連携戦略展開事業を経て、現在、リ
サーチ・アドミニストレーター(URA:大学等における研究マネジメント人材)
の導入が進んでいます。このような過程を通じて、大学と TLO の連携はどう
変化してきたのでしょうか。
大西(晋) 日本版バイ・ドール条項*1ができて 16 年たちました。TLO は、大
学とうまくすみ分けができつつあるなと思っているんです。特に大学内部の知
財管理業務がものすごく強くなってきて、今ほとんどの大学で、先生方が発明
を出したいと言ったら出願の判断まで普通にいけるじゃないですか。大学のそ
この仕組み自体はすごいなと思っています。われわれとすみ分けができてきた
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*1
日 本 版 バ イ・ ド ー ル 条 項 の
詳 細 に つ い て は、 経 済 産 業
省の関連ウェブサイトを参
照されたい。
http://www.meti.go.jp/policy/
innovation_policy/powerpoint/
houritsu/30jonihonbanbidole.
htm
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のはマーケティングです。当初は TLO も大学の知財部もやる
ことはよく似ていましたが、ここ 10 年ぐらいで TLO は営業
に特化してきて、大学はその管理に関する業務に特化されてき
ています。
大西(由) そのすみ分けは何かきっかけがあったのですか。
大西(晋) TLO の意義が一瞬なくなりかけましたよね。大学と
やっていることが一緒なので、誰がしてもいいんだという話に
なるじゃないですか。そのときに、僕たち TLO の特徴は何だ、
何を一番重要視すべきかと考え、それはやっぱりマーケティン
グだったので、僕たちはそこに特化していった。その他の業務
は大学と一緒に協働してやっていくというものでした。
水田 どんな整備事業、補助事業であっても、目指すところは同
じだったはずです。つまり、製品とか事業化という目に見える
形を増やすべく産学連携を強く活性化する、ということだった
大西晋嗣氏
と思います。大学でも TLO でも、資金や人材が潤沢で全部自
分でやれればよかったのですが、実際はそうはいかなかった。
そこで大学と TLO はお互いの得意分野で機能的に分業して、限られたリ
ソースを適切に配分して、目指す成果を挙げる仕組みにした。それが知的財産
本部整備事業から始まった一連の取り組みと理解しています。分業体制も成熟
し、全体に目指す方向に着実に成果が蓄積してきていると私は見ています。
■企業が何を求めているのか
大西(由) TLO 内部には変化はなかったのでしょうか。
水田 ありました。ただそれは整備事業の有無より、ゴールを達成するために、
企業側が求めていることは何なのかとか、どういうソリューションを出してい
くべきかなどを考え、悩み、実行する 10 年、15 年の過程で生じた変化であっ
た、と思っています。
【関西ティー・エル・オー株式会社】
関西の広域 TLO としてスタートし、現在は連携大学のエリアを広げている。
設立:1998 年 10 月(TLO 承認:同年 12 月)
本社:京都市下京区
株主:学校法人立命館、京都大学、和歌山大学等
京都大学、九州大学、京都府立医科大学、和歌山大学、岡山大学の 5 大学と連携。
海外の提携大学の研究成果(知的財産)を日本国内の企業に紹介。
【株式会社東北テクノアーチ】
東北地域の大学等の知的財産の活用を目指す広域型 TLO。
設立:1998 年 11 月(TLO 承認:同年 12 月)
本社:仙台市青葉区
株主:東北地区国立大学教員等
東北大学、弘前大学、岩手大学、秋田大学、福島大学、山形大学、東北学院大学、お茶の水女子大学、岩
手医科大学、福島県立医科大学の 10 大学と連携。
【静岡大学 イノベーション社会連携推進機構】
設立:2012 年4月
産学官連携と地域連携に係る活動を一元化し、研究成果の社会還元および地域課題の解決を目的とした社
会連携活動を推進している。機構内に産学連携推進部門、地域連携生涯学習部門、知的財産管理室、社会
連携相談室を設置。
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大西(由) 大学側というよりは、企業の動きに合わせてということでしょうか。
水田 TLO の役割上、そうですね。最初の 10 年ぐらいは、弊社でも技術移転
というのは契約締結して渡すまでがゴールと思っていました。後は企業側の資
金力や開発力にお任せし、形になるのを待っていた、という時代でした。
ところが渡した後、人、金、技術のどこかで引っ掛かり、形にならないこと
も多かった。そこで、技術を渡す以外に、技術を形にしてもらうための支援活
動、具体的には、研究開発用の資金をライセンシーさんと一緒に取りに行くお
手伝い、部品のサプライチェーンをお持ちでない企業への部品メーカーのご紹
介、さらに販路開拓や資金調達のアドバイスなどを、必要に応じて、出来る範
囲で考えながら実行するようになってきました。
やるべきことを把握しながら、
少しずつ仕事の仕方を変えてきたという面はありますね。
大西(由) 大学側の課題になりますが、大学がもっとこうなったら TLO と一
緒に走りやすい、という部分はありますか。
大西(晋) TLO は何にフォーカスしてやらなければいかんかというのは分かっ
た。餅は餅屋ということで分業もできてきたので、今度は「結果」を出してい
かなければいかんと思うんです。大学の知財部門の人たちは、僕たち外部の
TLO ではケアできないような大学内部のことをよく知っていますよね。産業
界と大学の間に立っている僕らと、大学の関係者はもっと情報共有を深め、イ
ノベーションに結び付けていかないとと思っていますね。
水田 機能的な分業は円滑に回っていると思います。しかし行き過ぎた分業、例
えば大学はここまで、TLO はこれしかしないなどとして協働せず垣根ができ、
機能的な分業ではなくなる側面も課題として潜在します。大学内でも知財、共
同研究、ベンチャーなど各部門間で生じ得ます。垣根にこだわり、越えないが
ためにいろいろとつまずく、というところがあると思います。
あと、お互い会社形態ですので自前で人材を確保し固定していかないと、今
後 10 年、
20 年と続けられないと思います。残念ながら大学の産学連携に関わっ
ている方々は任期付き雇用が多いので、ノウハウの蓄積には課題があると思い
ます。大学にとっては、人材をどう確保するかが大きな課題になるのではない
でしょうか。
大西(由) お二人が指摘された課題は、大学の中にいて、日々痛感している問
題でもあります。特に、人材の入れ替わりというのは、今後、大学の産学連携
を考えたときに一番の問題だと思います。簡単な解決策は今のところ何も見当
たらない、非常に厳しい問題です。
■技術移転への理解進む
大西(由)
大学からの技術移転に対して企業側はどう変化してきたかについて
お聞きしたいと思います。大学の知財整備が始まったころは、とにかく出願す
るというような特許が多かったと思うのですが、最近になってようやく大学の
中でスクリーニングが行われるようになったと思うんです。そういった特許が
企業にちゃんとライセンス化されるようになったのでしょうか。
大西(晋)
ライセンス化はされやすくなってきていると思います。日々営業活
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動をしている感覚的な話ですが、例えば 7、8 年前は、企業に
は大学の技術を買うこと自体に抵抗があって、
「何でわざわざ
買ってまで」とか「なぜ大学のそんな技術を実用化しなければ
いけないんだ」みたいな反応がありました。でも最近は随分と
変わっていて、多くの業界で、まず大学の発明をきっちりと評
価していただけるようになりました。大学のネタはかなりアー
リーなのも誰もが分かっていて、でも、そのアーリーな技術を
生むために自社では研究要員を抱えられないし、そもそもそん
な研究所もない。だったら、アーリーな技術であってもきっち
りと評価して、リスペクトして、それを社内に導入して、商品
化の検討をしようという土台ができつつあると思いますね。
水田 同感ですね。やはり TLO という存在自体も認知されてき
たのもあると思います。最初の 10 年ぐらいは、やはり大手企
業が相手の技術移転が多かったと思いますが、おかげさまで大
水田貴信氏
手企業の方々には、TLO について分かっていただけていて、
それが中小企業の方々にも徐々に広がってきていると思います。
大西(由) TLO の機能への理解は業種によって異なると思いますが、いかがで
すか。
大西(晋)
昔は「製薬会社さんは商売しやすかったな。そのほかの業界はしん
どいですね」みたいな話をよくしました。しかし今は、昔商売しにくかった他
の業界での動きが目立っています。
水田 創薬系の技術であれば、1 知財 1 製品のような保護が可能なので、その技
術が必要かどうか、投資していくかどうか企業側も判断しやすいという側面は
あったと思います。今はオープンイノベーション志向も高まり、産業界は総じ
て、欲しい特許、技術はリスペクトして投資していくという雰囲気になってい
ると思います。今後は、そういう潮流に対して、大学がどう技術を出せるかが
焦点になってくるかなとは思います。
■日本企業の反応速まる
大西(由) 国内と海外企業の反応の違いはどうですか。
大西(晋)
最近はそんなに違いはなくなってきましたよ。前は圧倒的に海外企
業が速かったんですけどね。要らんものは要らんと言うし、ほしいものはほし
いと言うし、回答は非常にはっきりしていたんで、僕らも商売をやりやすかっ
たんですけど、最近、日本の企業も、要らないものは要らないと言いますし、
われわれも要るんですか、要らないんですかという話をちゃんとお話しできる
ようになってきている。それは、自社でやるよりライセンスを買った方が、圧
倒的にスピードが勝ち取れるという文化に、日本もだんだんなじんできたので
はないでしょうか。
水田 確かに今、国内でも TLO とか産学連携が認知されてきたので、やっぱり
いろんな判断のスピードが速くなっていると思います。ただ、やはり海外企業は、
それでもまだ速いと私は思いますね。メールで価格の応酬をしている間にもう
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商談が決まって、
「じゃ、後はもう契約書案を送って」というような具合です。
このスピード感は、やっぱり海外のほうが圧倒しているかなと思いますね。
■各大学の課題を知りソリューションへ
大西(由) 大学と TLO はどう連携していったらいいのでしょうか。特に地方
大学は、いわゆる広域 TLO と連携していく図が思い浮かぶのですが、そういっ
たときに、TLO 側から見て、大学の体制がどうであれば連携しやすいですか。
大西(晋)
どこの大学も知財部ってできていますよね。先生方が発明を出した
いと言ったら出願までの一連のプロセスに対応できる大学は多い。次に、どう
するか。技術移転のプロであるわれわれが先生方に伝えなければいけないこ
と、フェース・ツー・フェースでやっておいた方がいいことはありますが、僕
らが大学にへばりついているわけにはいかない。そういうときに知財部の方々
と日々コミュニケーションを取りながら、サポートしていただくとか、そうい
う連携でうまくいくんじゃないかと思っています。
水田 どううまく連携したらいいかは、こうあるべきですと一律に決めない方が
いいと思っています。地方の大学であれば、教育研究の使命に加え、地元、地
域に根差した貢献が強く求められているところもあります。私たちは多くの大
学と連携していますけど、それぞれにお話を聞いて課題を知り、TLO として
はこういうソリューションを出せます、これで解決になるようであれば連携を
組んで頑張らせてくださいという方法を取っています。連携を組んで何年か後
に状況は変わるでしょうし、そのときに何ができるかを、お互いベストマッチ
ングを前提にその都度協議していくのが大事だと思っています。
大西(由)
大学によって状況が違うので、それに合った連携の仕方が幾つもあ
るということですね。
そのときに、
研究者のそばにいる大学の知財部門のスタッ
フというのは重要だと思います。しかし、現実には地方大学の知財部門という
のは人がどんどん削られて、1、2 名のところもあったりします。TLO と大学
が連携するに当たって、大学に必要な最低限の体制についてお伺いしたいので
すが、大学が特許出願まで持っていける、そのラインは必ず確保してほしいと
思われていますか。
大西(晋)
それは絶対必要ですね。マーケティング以外を運用できる組織は必
要だと思いますよ。そこのガバナンスが効いていなかったら、もう好き勝手な
組織になりますので。特許に興味を持っている先生方に対応できるだけの人数
は必要だと思います。求められる業務というのは、発明の届け、出願から管理
までを出せる数ぐらいですね。
水田 TLO との分業をどうやるかで人員配置を決めていくことも必要かと思い
ます。例えば、「大学ではここしかできません、後は TLO でお願いします、
託します」ということはありで、その結果大学の知財部に部員 1 人しかいな
い体制になっても決して悪いと私は思っていません。発明者にヒアリングをす
る創出の段階、中身を評価する段階、保護、管理する段階、出来上がったもの
を外に出す段階のどこからでも、
「後はお願いします」
「お引き受けします」と
いうことでお互いが機能していれば、それはいい関係だと思います。
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■外注感覚は技術移転の退化
大西(由)
TLO 側がやりますよという業務は、TLO ごとにか
なり差があるんでしょうか。
水田 私はあると思います。
大西(由)
そうすると、大学側も自分たちができるのはどこま
でで、どこからお願いするかということを明確にして、それを
やってもらえる TLO を探す必要があるということですね。
大西(晋) そうですね。よく議論したほうがいいですよね。
「簡
単に外注ができるじゃないですか。これ、TLO に出します」
、
また TLO も「外注費をもらっているし……」みたいな話になっ
たら、日本の技術移転は単なる受発注の関係になりますよね。
人数とか機能とか、そういうのはもちろんそろえていただきた
いんですけど、地方大学が TLO を使うときに、われわれは何
大西由香氏
を目指しているかを明確にされたほうがいいと思います。
僕たちも大学と新しい連携を始めようとか、連携の仕方を変えようというと
き、お金をもらって外注だからと割り切るつもりは全くなくて、各大学でチー
ムをつくるわけです。このチームのゴールは何だ、求めるところはどこだとい
うのをきっちり協議させてもらった上で、では、僕たち TLO の仕事はこうい
うことですねと決めさせてもらっています。
水田 全く同感ですね。産学連携で成果を挙げるんだというゴールが共通である
ことが大事ですね。例えば、ヒト・モノ・カネの削減目的だけ、第 3 者的見
解として手続き上必要なだけで外注したいのであれば、TLO 以外でもできる
ところはあると思います。
逆に是が非でも知財化し、活用することにお金を投じていかなければならな
いなんてルールがある訳じゃないですし、外注して任せるまでして本当にすべ
きことなのかは、冷静に考えていただきたい。知財を活用してこうしたいんだ
という思い、ゴールが同じであれば TLO を使ってくださいということでしょう。
大西(由) 地方大学が広域 TLO と組むときに、自分たちのゴールはまず何な
のかと。それを一緒に達成できる TLO はどこなのかというのをちゃんと考え
ないとうまくいかないということですよね。
大西(晋) そうですね。
大西(由)
そのあたりの自覚が地方大学は少し欠けているような気がしていま
す。大学も TLO もお互いに自分たちの役割を明確にし、TLO とのマッチン
グの段階できちんと話し合いをして、こことだったら一緒にやっていけるなと
いうのが明確になれば、最大限のパフォーマンスを引き出すことにつながるの
かなと思いますね。
■世界で戦えることを証明したい
大西(由) 5 年後、10 年後、どういうことをやっていきたいですか。
大西(晋) TLO の業務活動としては、関西 TLO は頑張っているねと、皆さん
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に言っていただけるぐらいまで、生き永らえたと思っているんです。ただ、成
功しているとは全く思っていなくて、中長期的には、日本の TLO と日本の大
学が組むと世界で十分戦えるというのを証明したいと思っているんです。生き
永らえてはいるけど、成功していないので、このままずっと続いてしまうと、
やっぱり日本の技術移転は東大 TLO だけが成功しているみたいな話になるで
しょう。いやいや、そんなことない、日本全体がそうなんだというのを示すと
いう明確な目標はあります。
大西(由) 仰るとおり、ふたを開けてみたら東大 TLO だけというのは、地方
大学に身を置く立場としては、想像したくないことですね。そうじゃないよと
示したい、すごく分かりやすい目標だと思います。
水田 10 年、15 年やってきた歴史、それはそれでお互い一つの成功事例だと思
うんですよ。そして出願件数とかライセンス金額とかだけで産学連携を評価す
る時代は多分終わっていて、連携を組んで大学と TLO がうまくやっているん
だったら、そういう評価軸に載ってこなくても、それはそれで成功のモデルと
考えるべきです。
およそ 15 年ほど活動してきたのに、ここでずるずると産学連携の旗を降ろ
す大学や TLO を増やしてはならんと思っているので、次の発展ののろしを上
げるのはうちであるように頑張りたいとは思っています。
自問自答していますが、「テクノロジー・トランスファー」という表現でイ
メージできる範囲の仕事で TLO が満足している時代は終わり、イノベーショ
ン創出のためにできる、すべき仕事も含めてやる、
「イノベーション・トラン
スファー」と勝手に呼んでいますが、そういうフェーズに入ったのではないか
と思います。まだトライアルなので、
本当にうまくいくか分からないながらも、
今はそれが TLO の出せるベストソリューションかなと思っています。
大西(由)
お二方から技術移転の現状や今後の目標などについてお伺いしまし
た。大学ではコンスタントに特許出願できるようになりましたが、ライセンス
等の技術移転をどのように行うかは、各大学の戦略や置かれた状況により異
なっています。今回のお話から、大学が技術移転機関と連携する際に必要とな
る体制や心構えのヒントを得ることができました。今後、大学、特に地方大学
と技術移転機関との有機的な連携が至る所で形成されて、水田社長の仰った技
術移転の次の段階、イノベーション・トランスファーを共に目指すことができ
ればと思います。本日はどうもありがとうございました。
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特集
ビジネス・インキュベーション再考
特集
ビジネス・インキュベーションの
フレームワーク
起業家支援過程において、インキュベーション施設、ベンチャーキャピタル、シー
ド・アクセラレーター、大学、その他の支援機関がそれぞれどこまで何をするべきな
のか。各支援機関の境界線が年々ファジーになっている。イノベーション施設の環
境変化と求められる支援戦略を整理した。
■はじめに
第 3 次ベンチャーブームの最盛期、1998 年に新事業創出促進法が制定された
が、この法律の中でビジネス・インキュベーション推進が提唱されていた。
当時、イギリスのように 1980 年代に 10 パーセント超の高失業率を経験した
野長瀬 裕二
のながせ ゆうじ
山形大学大学院 理工学研
究科 教授
国では、
「雇用創出」がビジネス・インキュベーション政策の目標として重視さ
れていた。それに対し、20 世紀末のわが国は、バブル崩壊後に高まったとはい
え失業率は 3 ~ 4 パーセント台に止まっていた。むしろ開業率が 4 パーセント
前後とアメリカ等に比し低い事を問題視し、
経済のダイナミズム向上をビジネス・
インキュベーション政策に求めようとする意見が強かった。
本法律制定後に日本新事業支援機関協議会(以下「JANBO」
)という起業支
援組織が設立された。
JANBO の事務局は一般財団法人日本立地センター内に置かれた。そして、イ
ンキュベーション施設で起業家をふ化させる際には、インキュベーション・マネ
ジャー(以下
「IM」
)
が必要とされることから、
JANBO では IM 養成に力を入れた。
当時、筆者は江崎玲於奈博士から JANBO フェローの委嘱を受け、各地域のイ
ンキュベーション施設の諸活動を、支援される起業家側の視点に立ち調査する機
会を頂戴した。
■地域とビジネス・インキュベーション
インキュベーションという語句は、必ずしもインキュベーション施設という
ハードのインフラを伴う概念ではない。経済学の分野では、地域を基盤としたイ
ンキュベーション仮説について古くから研究がなされている。
起業環境のよい地域では、①リスクに挑む風土 ②起業家人材の一定の集積 ③
ファイナンスの基盤 ④人的ネットワークの基盤──が見られる。例えば、シリ
コンバレーやイタリア北部等の著名地域産業モデルを見ると、
ファイナンスが
「ベ
ンチャーキャピタル(以下「VC」
)
」なのか「のれん分け」なのかといった相違
はあろうと、古くからこれら①~④が見られる。
インキュベーション施設においては、IM の活躍により施設内部にこれらの特
徴を備えたエコシステムが構築され、施設外にそのダイナミズムを波及させ、地
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域の起業環境向上に寄与していく事が理想とされる。そして、ダイナミズムを波
及させて行くためには、図 1 に示されるインキュベーション・サイクルの確立
が鍵となる。
図1 インキュベーション・サイクル
インキュベーション施設を卒業した起業家たちが地域で活躍し、施設に新しく
入居した後輩起業家のふ化に協力する。成功した起業家たちも後輩の斬新な技術
やビジネスモデルに刺激されていく。このサイクルを回していく中で地域の起業
環境が向上していく。
IM には、起業家側から信頼され、施設内・地域内で、さらには地域を越えて
求心力を持ち、このサイクルの influencer としての役割を果たすことが望まれる。
IM が起業家から信頼されていくと、高レベルな相談に対応していくにつれて
支援ノウハウが蓄積されていく。起業家が成功して、施設を卒業した後も、信頼
される IM には相談が来る。その過程で施設に入居したばかりの後輩起業家と先
輩起業家の接点も生まれる。
近年、補助金申請書の作成支援業務のウエートが高いインキュベーション施設
も見られる。起業家支援には、こうした業務も無論有益だが、最も重要な支援は、
売上高によりキャッシュが入る仕組みを早期に確立するように導くことである。
売上高こそが起業家の万病に効く特効薬といわれる。この部分の支援に成功した
IM は、卒業後も起業家から信頼される。そうした蓄積こそが、influencer とし
ての役割を果たし得る基盤となる。
起業環境のよい地域に「元気な」インキュベーション施設があり、求心力のあ
る IM がいるという状況が求められている。
■インキュベーション施設の諸活動と環境変化
インキュベーション施設の諸活動は、Smilor ら(1986)の定義を要約すると、
①ネットワーク ②ファイナンス ③教育・指導 ④施設と料金設定 ⑤共有サービ
ス──等に類型化される。これらは前項で論じた起業環境のよい地域の特徴とあ
る程度共通している。
Smilor らは、インキュベーション施設を VC 以前のアントレプレヌールを支
援するメカニズムの一種と当初見なしていた。
一方、今や投資ファンドを持つインキュベーション施設の事例も見られる。
VC がインキュベーション機能を保有しようという事例も同様に見られる。
起業家支援過程において、インキュベーション施設、VC、シード・アクセラレー
ター、大学、その他支援機関が、それぞれどこまで何をするべきなのか。各支援
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特集
機関の境界線が年々ファジーなものとなる「多様化」という環境変化が近年生じ
ている。
ビジネス・インキュベーションとは、インキュベーション施設における起業
支援の概念というより、ファジーな起業家支援過程の全体を表す概念となりつつ
ある。
力量のあるインキュベーション施設になるほど、多くの支援機能・支援リソー
スを内包し、支援過程における活動範囲が広くなる。それに対して、公的支出削
減等の影響でリソースを減らしているようなインキュベーション施設では、
「元
気な」状態を保つのが困難となる。
活動範囲の集中と選択、他機関との連携について、適宜見直していく柔軟性が
求められる時代となりつつある。
そしてもう一つの環境変化として、各種起業支援機関が「専門化」し、バイオ
事業、デバイス事業、金融事業等、先端的な産業に特化する事例が増えてきた。
高度に専門化されたインキュベーション施設では、IM にも高度な専門知識が求
められ、大学の関与するウエートが高まる。
一方、リスクヘッジを考慮に入れると、例えば VC の場合、投資ポートフォ
リオを特定事業分野に狭めるべきではなく、
分散投資すべきとする考え方もある。
専門化に対応しようとする起業支援機関は、そうしたデメリットを上回るメリッ
トを追求する必要がある。
広範な事業分野に投資するよりも、専門化した方がトータルで高利回りのリ
ターンを得る事ができる。インキュベーション施設においても、そうしたロジッ
クを内包した投資機能を保有することが一つの解となり得るだろう。
もう一つの解として、
国策で専門化された起業支援機関を整備する方法がある。
近年、民間投資の時間軸より長期的な視点を持った産業政策としての体制整備
の事例が各国で見られる。先進国の一部では民間ベース、大学ベースによる多様
化と専門化への対応が進み、新興国の一部ではダイナミックな国家戦略による体
制整備が見られる。わが国では、1986 年に民活法に基づき、かながわサイエン
スパーク(KSP)というアジア最先端の施設が整備されたが、今後の環境変化へ
の対応のスタンスはどのようにあるべきか。それが今問われている。
■インキュベーション施設の支援機能と支援リソース
インキュベーション施設は、起業支援機関として環境変化に対応し、図 2 に
示される保有すべき支援機能と支援リソースを明確化し、集中と選択に基づく支
援戦略を確立していく事が求められる。実は、これは IM の領域を超え、インキュ
ベーション施設の「経営者」の力量に依存する問題である。わが国の起業支援組
織の課題は、今や IM というより「経営者」の輩出と育成にあるといえるだろう。
図 2 に示される支援機能は、Smilor らのインキュベーション施設の活動類型
を基礎とし、最近の動向に応じて修正したものであり、支援リソースは、インキュ
ベーション施設の経営資源体系に基づき類型化したものである。
これらのうち、どの支援機能や支援リソースを内部化し、どこを外部化し、外
部の誰と連携するべきか。多様化と専門化が進展する中で、どのような起業家を
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どのように支援するべきか。
こうした支援戦略が各インキュベーション施設には求められている。特に、地
方圏のインキュベーション施設については、
支援機能・支援リソース面で脆弱(ぜ
いじゃく)な事例も散見される。
今後のインキュベーション施設には、ネットワーク機能を強化し、国内外の顧
客、供給業者、大学等との迅速なリンケージを可能とする広域プラットフォーム
を共有する事が求められよう。
図2 インキュベーション施設における環境変化と支援戦略
●参考文献
1.Smilor, R. W. & Gill, M. D. Jr.. The New Business Incubator : Linking Talent, Technology,
Capital, & Know-How. D. C. Heath and Company, Lexington Books. 1986, 224p.
2.Chrisman, J. J., Hoy, F. & Robinson, R.B. Jr.. New Venture Development:The Costs and
Benefits of Public Sector Assistance. Journal of Business Venturing. 1987, Vol. 2, Issue 4,
p315-328.
3.野長瀬裕二 . 地域産業の活性化戦略~イノベーター集積の経済性を求めて~ . 学文社 , 2011, 233p.
4.福嶋路 . ハイテク・クラスターの形成とローカル・イニシアティブ―テキサス州オースティンの奇跡はな
ぜ起こったのか . 東北大学出版会 , 2013, 406p.
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特集
ビジネス・インキュベーション再考
特集
ビジネス・インキュベーションの課題と今後の展望
わが国でビジネス・インキュベーション施設が整備されるようになっておよそ30
年。これまでの取り組みは、わが国の産業振興に何をもたらし、どんな課題を残し
たのか。ベンチャー育成が叫ばれている今、再検討する。
■はじめに
ビジネス・インキュベーションは、しばしば「事業創出」や「企業ふ化」とも訳
される。1950 年代後半の米国において、閉鎖された工場施設の有効活用方策* 1
として産声を上げたこの事業は、現在では開発途上国を含め世界各国で進められ
ている。日本においても米国発の新事業創出や地域経済活性化の一手法として注
目され、90 年代後半以降、数多くのインキュベーション施設が設置された。地
方再生やベンチャー育成があらためて叫ばれている今、ビジネス・インキュベー
ションを考えてみたい。
■インキュベーション関連政策の背景
日本における産業振興政策の一つの流れは、
「国土の均衡ある発展」の考え方
に基づく、大都市圏から地方への産業の分散と、地方での産業集積の促進といえ
るだろう。1983 年には「テクノポリス法* 2」が制定され、26 の地域がハイテ
ク産業の集積地として指定された。86 年には「民活法* 3」によるリサーチ・コ
ア整備事業が進められ、89 年には、ソフトウェア産業や研究開発機能の地方移
転を意図した「頭脳立地法* 4」が制定された。続く 92 年には、
「地方拠点法* 5」
が制定され、オフィス機能の地方分散が図られた。これらの政策は、研究開発の
ための拠点や施設整備を含んでおり、企業向けの賃貸スペースも整備された。
どこが日本における最初のインキュベーション施設かについては諸説あるが、
現在も稼働している施設となると、86 年に民活法の適用を受けたかながわサイ
エンスパーク(株式会社ケイエスピー)が挙げられる。その後、90 年には、同
じくリサーチ・コア事業により 21 世紀プラザ研究センター(株式会社テクノプ
ラザみやぎ)が設置された。
丹生 晃隆
たんしょう てるたか
島根大学 研究機構産学連
携センター 連携企画推進
部門 准教授・産学連携マ
ネージャー
*1
全米ビジネス・インキュベー
ション協会(NBIA)による
と、1959 年 に 米 国 ニ ュ ー
ヨーク州で設立された
Batavia Industrial Center
が世界で最初のインキュ
ベーション施設といわれる。
https://www.nbia.org/
resource_library/history/
*2
高度技術工業集積地域開発
促進法(1998 年廃止)
*3
民間事業者の能力の活用に
よる特定施設の整備の促進
に関する臨時措置法(2006
年廃止)
*4
地域産業の高度化に寄与す
る特定事業の集積の促進に
関する法律(1998 年廃止)
*5
地方拠点都市地域の整備及
び産業業務施設の再配置の
促進に関する法律
■地域プラットホームの整備
1990 年代に入ると、バブル経済の崩壊によって日本経済は長期の低迷期に突
入する。円高によって製造業の海外移転が進み、産業空洞化による経済の衰退が
指摘されるようになった。この影響は地方だけでなく都市経済にも及ぶ。90 年
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代から開業率と廃業率の逆転現象も指摘されるようになり、経済の新陳代謝を促
す新規創業への期待が高まった。国の産業振興施策としても、それまでの産業の
地方分散から、地域の産業集積や固有資源を基盤とした新たな事業を生み出すこ
とを支援する方向へと大きくかじを切ることになる。99 年には、地域の産業資
源を活用して地域産業の自律的発展を促す事業環境の整備を目的とした「新事業
創出促進法」が制定された。都道府県および政令指定都市には、研究開発から商
品開発、生産、販売に至るまで「ワンストップサービス」を提供する中核的支援
機関が設置され、連携する支援機関とともに「地域プラットホーム」が整備され
た。2000 年には日本新事業支援機関協議会(以下「JANBO」
)が設立された。
■ JANBO の活動
JANBO は、全国の地域プラットホームを束ねるネットワーク組織であり、会
員は中核的支援機関を担う都道府県および政令指定都市が設置する財団法人や第
三セクター等であった。JANBO の活動は、地域の新事業創出において「支援を
支援する」ものであり、フォーラムの開催や情報提供、顕彰事業等が行われた。
JANBO は、新事業創出の具体的な支援手法としてインキュベーションに着目し、
国内外の先進事例の調査や将来ビジョンの策定を行った。
また、
インキュベーショ
ン施設の設置状況の調査を定期的に実施し、インキュベーション施設に必要な要
件として表 1 の四つを定めた** 1。 2000 年には、新事業創出を支援する人材と
して「インキュベーション・マネジャー(以下「IM」
)養成研修」が開始された。
当初この事業は JANBO の自主事業として始まったが、2002 年から経済産業省
** 1
日本新事業支援機関協議会.
JANBO 10 年 の 歩 み 19992009.2009.
*6
の補助事業となり、JANBO の主要な活動の一つとなった* 6。
2007 年 ま で に 国 の 補 助 事
業として約 600 人の人材が
養成された。
表 1 インキュベーション施設の必要要件
①起業家に提供するオフィス等の施設を有していること
図1:インキュベーション施設の設置年((一財)日本立地センターによる報告書を元に筆者作成)
②起業、成長に関する支援担当者による支援を提供していること
③入居対象を限定していること
④退去企業に、
「卒業」と「それ以外」の違いを定めていること
30
25
20
15
200
182
1983 テクノポリス法
1986 民活法
1989 頭脳立地法
1992 地方拠点法
2000 新事業創出促進法、JANBO設立
2000~新事業支援施設整備費補助金
新事業創出型事業施設整備
2004~大学連携型起業家育成施設整備
180
160
140
120
100
80
10
60
40
5
20
0
0
1986
88
90
92
94
96
98
設置数(左軸)
2000
2
4
6
8
10
12
累積(右軸)
図 1 インキュベーション施設の設置年((一財)日本立地センターによる報告書を基に筆者作成)
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2000 年当時、日本において「インキュベーション施設」として捉えられてい
たものの多くは、
それまでの政策で整備された施設であり、
施設の賃貸が主であっ
たと考えられる。施設におけるソフト支援の重要性をいち早く唱え、支援人材の
育成を行ったという点で JANBO の功績は大きい。また、地方における支援人
材のネットワーク形成に果たした役割も大きく、現在でも各地で支援者の輪が培
われている。
図 1 に、日本におけるインキュベーション施設の設置年を示す** 2。設置数は
2000 年から 2004 年にかけて大きく増加した。設置数の増加には、経済産業省
の新事業支援施設整備費(BI 補助金)を活用した地方自治体による整備や、独
立行政法人中小企業基盤整備機構による新事業創出型事業施設(15 施設)や大
学連携型起業家育成施設(17 施設)の整備が背景にある。
地域プラットホームを束ねる機関として設置された JANBO であったが、そ
**2
一般財団法人日本立地セン
ター.平成 25 年度地域産業
活性化対策調査(ビジネス・イ
ンキュベーション手法調査)報
告書.2014, 61p.
経 済 産 業 省. http://www.
meti.go.jp/meti_lib/
report/2014fy/E003805.
pdf, (accesed2014-05-12)
の根拠法となる新事業創出促進法は、2005 年に中小企業新事業活動促進法に継
承され、2009 年には 10 年にわたるその活動に終止符を打つことになった** 3。
活動の一部は全国イノベーション推進機関ネットワークに継承され、また新たに
民間団体として日本ビジネス・インキュベーション協会(JBIA)が設立された。
**3
梶川義実.日本新事業支援機
関協議会からイノベーション
ネットへ.産学官連携ジャー
ナル.2009.Vol.5,No.2,
p.16-18.
■日本におけるインキュベーションの課題
2009 年に JANBO は活動を終えたが、日本において新事業創出の必要性が
低下したわけではない。その後も地域経済を取り巻く厳しい環境に変わりはな
く、また一方で日本経済再生への期待が高まる中で、あらためて新規創業やベン
チャー企業によるイノベーション創出が注目されている。このように、まさに
「インキュベーション」が求められている「今」において、具体的な手法や政策
として「インキュベーション」がほとんど取り上げられていないのはなぜだろう
か。一つには、政策の「サイクル」が背景にあるのだろう。筆者も政策担当者か
ら「施設整備も一巡した。インキュベーションは終わった政策」と聞くこともあ
る。しかしながら、一度整備された施設は存在し、新規創業支援が必要な状況は
全く変わっていないことを念頭に置く必要がある。
私見を交えるが、
インキュベー
ション施策を十数年来見てきた者として、多少なりとも批判的に現在の日本のイ
ンキュベーション事業を取り巻く課題と今後の方向性を考えてみたい。
1.設置目的の明確化
地方のインキュベーション施設を訪問すると、入居希望者が少ないという声を
よく聞く。結果的に入居対象を「緩く」し、既存の中小企業や誘致企業の受け皿
としているところもある。施設の活用という点でそれ自体は問題ないが、イン
キュベーション施設本来の設置目的は何か今あらためて問い直す必要がある。当
然ながら設置目的には達成すべき数値目標を伴うものである。また、公的な施設
であれば、創業間もない企業に対して包括的な支援サービスを提供し、信用力の
補完やリスクの軽減を行う等、
営利企業では扱いにくい領域を意識すべきである。
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2.事業の継続性への配慮
IM 研修によって支援人材は育成されたが、支援機関の職員には常に異動が伴
う。また、関連予算の縮小等によって、支援人材の雇用が継続されないケースも
ある。筆者が 2011 年に実施した調査* 7 では、支援人材の雇用形態は、約半数
が嘱託や事業委託といった「非正規雇用」であり、人材の面からも事業の継続性
が危ぶまれている。設置者側は、支援人材の役割と活動内容を明確にした上で、
それに見合う雇用条件と給与条件を設定すべきである。支援者の活動に対しても
*7
2011 年 に 日 本 の イ ン キ ュ
ベーション施設 287 カ所に
対して実施。回答回収率は
33.1 パーセント。
明確な評価基準が必要であり、その意味では支援人材のさらなる専門職化が求め
られよう。
3.成果の公開
インキュベーションによる成果は、設置目的に応じて、例えば入居企業による
雇用創出や売上増加(+納税額の増加)
、卒業企業数、新しい製品やサービスの
事業化、資金調達額、生存率や地元定着率等、さまざまな指標で捉えられる。施
設を企業同士の交流の「場」と考えると、コラボレーションの件数も成果となる
だろう。しかしながら、
施設の成果を公開しているのは極めて少数である(図 3)
。
成果としての具体的な数字は、政策的にも成果を挙げていることを示すエビデン
図2:支援人材の雇用形態(n=92)(筆者によ
図3:成果の公開(n=89)(筆者による2011年
る2011年調査)
調査)
スとなる。また、成果を公開することで、新しい入居希望者を引きつけることに
もつながろう。内部データとして把握するだけでなく、成果の数字は積極的に公
開していくべきである。
その他
出向 その他
経営者・代表
2.2%
出向
経営者・代表
0.0% 2.2%
6.5%
0.0%
6.5%
業務委託
正社員
業務委託
正社員
17.4%
正職員
17.4%
正職員
(管理職)
(管理職)
16.3%
16.3%
委嘱
委嘱
6.5%
6.5%
嘱託
嘱託
(年契約等)
(年契約等)
26.1%
26.1%
正社員
正社員
正職員
正職員
(一般職員)
(一般職員)
25.0%
25.0%
図 2 支援人材の雇用形態(n=92)
(筆者による 2011 年調査)
ほぼすべて
公開してい
ほぼすべて
多くは公開
る
公開している
している
多くは公開し
3.4%
3.4%
3.4%
ている
3.4%
一部のみ公
一部のみ公
開している
開している
20.2%20.2%
全く公開し
ほとんど公
開はしてい
ない
ほとんど公開
はしていない
22.5%
ていない
全く公開して
いない50.6%
50.5%
22.5%
図 3 成果の公開(n=89)(筆者による 2011 年調査)
■おわりに
インキュベーション施設の設置目的が明確にされていない、事業の継続性が担
保されていない、成果も公開されていない―これら三つの課題は、インキュ
ベーション施設が適切に「マネジメント」されていないことに起因するものであ
る。また、
そもそもマネジメントの主体や担い手は誰なのかという「ガバナンス」
にも起因するものである。あらためてインキュベーション施設の在り方を問い直
す時期に来ている。
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特集
ビジネス・インキュベーション再考
特集
地方創生と
インキュベーション・マネジャーの役割
地方創生のためには、
「起業」だけでなく地方の既存の小企業のイノベーション創
出も支援すべきではないか。欧米と比較しながら、わが国のビジネス・インキュベー
ションの課題を整理し、インキュベーション・マネジャーの新しい役割を提言する。
■はじめに
私が所属する東経連ビジネスセンターでは、新潟県を含む東北 7 県の企業の
新規事業への実践的な支援を行っている。このため、日常からインキュベーショ
ン・マネジャーの方々と打ち合わせをする機会も多い。
本稿では、政府が声高に「地方創生」を叫ぶ今、日常的にインキュベーション・
マネジャーと接する中で私が感じている「地方創生とインキュベーション・マネ
ジャーの役割」について考えてみたい。
西山 英作
にしやま えいさく
一般社団法人 東北経済連
合会 産業経済部長/東経
連ビジネスセンター セン
ター長
■成長志向で支援する米国のインキュベーション・マネジャー
2005 年にボストンのインキュベーション・マネジャーと意見交換をしたこと
は、私にとって印象深い出来事だった。彼は民間でインキュベーター(ビジネ
ス・インキュベーション施設)を経営しながら、ファンドレイジング(財源獲得)
に成功し、起業家への助言と投資を同時に行っていた。まさに株式公開等の出口
を見据えたインキュベーションの実践である。彼とのエキサイティングなディス
カッションの後、
私は「これこそがわれわれが目指すべき取り組みだ」と強く思っ
たものだ。
翻ってわが国に目を転じると、ファンドを持っているインキュベーターは一握
りである。地方の多くのインキュベーターは第三セクターとして運営され、株式
公開等の出口を意識した支援は少ないのが実情だ。
さて、ここでインキュベーションとは何かについてあらためて整理したい。欧
米で活躍するコンサルタントであるルスタム・ラルカカ氏によると、
インキュベー
ションとは、
「スタートアップ期およびアーリーステージの企業に対し、彼らが
持続し、成長し、利益を上げるために必要な支援を供給するプロセスであり、こ
の支援は最低限 ①ビジネスに関する密度の高い助言サービス ②作業スペースの
貸与の二つによって成り立つ。インキュベーションの目的は、一定期間経過した
ら施設を出て市場において独立して存続できるような成功企業を生み出すこと」
であるという。
インキュベーションの定義を確認すると、出口は必ずしも株式公開や M&A
のようなキャピタルゲインでリターンを得ることではなく、施設を卒業して自立
することである。しかし、
わが国では、
入居期間を定めていないインキュベーター
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も少なくない。中には創業以来、20 年近くインキュベーターに入居している大
学発ベンチャーもある。
インキュベーターの収入は入居スペースの賃貸料である。
入居を続けてもらうことは、インキュベーターにとっては安定した収入を得るこ
とにつながり、
確かに運営は楽である。しかし、
創業者向けの密度の濃い助言サー
ビスや、廉価にスペースを提供するというインキュベーター本来の趣旨から外れ
ている。
さらにルスタム・ラルカカ氏は、インキュベーション・スタッフとは「インキュ
ベーションのプログラムを推進し指揮する、より抜きの専門家チームであり、通常、
インキュベーターのフルタイムの従業員である。彼らはクライアント企業に対し、
カウンセリング、訓練、外部専門家の紹介、その他いろいろな支援サービスを提
供し、シードキャピタル(元手となる資本)
・情報・外部の専門家や施設のネット
ワークに対するアクセスを調整・援助する」であるとし、インキュベーション・
マネジャーは、インキュベーション・スタッフの「頭(かしら)
」としている。
ここで私が注目するのは「シードキャピタル・情報・外部の専門家や施設の
ネットワークに対するアクセス」である。ボストンでディスカッションしたイン
キュベーション・マネジャーは「少額投資し、知財の確立を支援し、成長に向け
てベンチャーキャピタルが投資しやすい状態を作る」と言っていた。まさにボス
トンでは成長志向のインキュベーションが行われており、わが国の現状とは大き
なギャップを感じた。
■わが国のインキュベーションは失敗したのか
わが国は 2001 年に大学発ベンチャー 1,000 社計画を発表し、ベンチャーファ
ンドも数多く生まれた。しかし、
大学発ベンチャーがインキュベーターに入居し、
ファンドから投資を受け、株式公開を達成した事例は必ずしも多くない。だから
と言って、
わが国のインキュベーションは失敗したと結論付けてよいのだろうか。
20 年近く同じインキュベーターに入居している大学発ベンチャーは、インキュ
ベーション・マネジャーの持つ支援ネットワークを高く評価し、売り上げも年々
着実に伸び、研究者の雇用にも貢献している。こうした事例もインキュベーター
の成果として評価すべきではないだろうか。
インキュベーションの概念はもともと米国から来たものだが、現在、わが国は
どのように捉えているのだろうか。日本ビジネス・インキュベーション協会(以
下「JBIA」
)によると、ビジネス・インキュベーターの目的は、創業支援ではなく、
産業創造である、という。つまり概念を幅広く捉えている。
また、インキュベーション・マネジャーの機能を「地域の中で仕事を創出する
仕組みを Produce し、起業適性者を見つけ Commit(協働)し、起業家に育て、
仕事をつくり、
生活の場を維持する一連の活動をする」
としている。インキュベー
ション・マネジャーは、起業家を支援するだけでなく、
「生活の場の維持」とい
う地域貢献を期待されている。人材の流動化が進み、大企業や大学から起業家が
数多く生まれる米国モデルを単純にコピーしてもうまくいかない。わが国でイン
キュベーションを考える時、起業支援だけでなく、産業創造という幅広い捉え方
が必要であることに私も同感だ。
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特集
■わが国のインキュベーション・マネージャーを取り巻く環境
最近、20 年近くの経験を有するベテランのインキュベーション・マネジャー
の佐藤利雄氏と意見交換する機会があった。彼とのディスカッションで、私は、
超高齢社会・人口減少時代に突入したわが国のインキュベーションは大きな曲が
り角に来ていると実感した。
彼は「10 年ぐらい前から創業相談が極めて少なくなった。地方、特に郡部は
創業支援だけでは駄目だ。既存企業を支援しないと、地方から企業が消え、雇用
が消え、地域が消えてしまう」と言うのだ。まさに“消滅可能性都市”を実感し
ているのである。
わが国産業の新たな発展に向けては、株式公開する企業を増やすことは極めて
重要である。しかし、地方創生を実現するには、起業だけでなく、既存の小企業
がイノベーションを起こして生き残るための支援体制を構築することがより重要
である。地方、とりわけ小都市の場合は、株式公開、施設からの卒業を問わず、
地域の起業家や経営者に寄り添うことが大切なのではないだろうか。
■「地方創生」とインキュベーション・マネジャーの今後の在り方
JBIA の 25 年にもわたる活動により、幸いインキュベーション・マネジャー
の存在意義が高まり、地域の産学官のネットワークの中心になっている方も増え
ている。政府は「地方創生」を“Regional Innovation”と英訳している。われ
われは、企業、大学等、支援機関のネットワークの結節点となるインキュベーショ
ン・マネジャーを生かし、地域イノベーションシステムを構築する足掛かりにす
べきだ。
第 3 次安倍政権は「地方創生」という大きな課題に本格的に取り組むことに
なる。超高齢・人口減少時代が到来した今、わが国では、起業だけでなく、既存
の小企業のイノベーション創出にも着目すべきだ。地道な活動に汗をかく地方の
インキュベーション・マネジャーこそが「地方創生」に向けた貴重な資源になる
可能性がある。
■おわりに
急成長する東アジアとの大競争が激化の一途をたどる中、本当の意味で地方が
生き残るには、より高いステージへの成長を支援することが欠かせない。各県の
中核的支援機関は、インキュベーション・マネジャーを信頼し慕う企業群から成
長の可能性が高い企業を発掘し、
戦略的に成長支援を実施することも重要である。
つまりインキュベーション・マネジャーに今求められている役割は、成長可能性
企業の裾野を広げることではないか。
「地方創生」に向けて、地域の産学官はイ
ンキュベーション・マネジャーと共に、戦略的な成長支援を行う体制を構築して
いくことが重要だと考える。
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特集
ビジネス・インキュベーション再考
さがみはら産業創造センター
資本は「公」、経営は「民」
ビジネス・インキュベーターでうまくいっている施設はごく一部といわれる。都市型
の成功例の一つが「さがみはら産業創造センター」。その成功の理由は?
山本 満
やまもと みたす
株式会社さがみはら産業創
造センター 専務取締役
■さがみはら産業創造センターの現状
株式会社さがみはら産業創造センター(以下「SIC」
)は新事業創出促進法に
基づく第 1 号のビジネス・インキュベーター(インキュベーション施設)とし
て 1999 年に相模原市、独立行政法人中小企業基盤整備機構、地域の金融機関な
どからの出資を受けて設立された。SIC の企業理念は
「総合的なインキュベーショ
ン活動を通じて、地域経済の発展に貢献する」である。施設整備では、2000 年
に SIC-1 がオープン、2002 年にポストインキュベーションの役割を担う SIC2、2011 年に同 SIC-3 がオープンしている。
主たる事業は賃貸、経営サポート、研究開発支援、人材育成、投資の五つである* 1。
支援サービスは入居企業に限らず、相模原市および周辺地域の中小企業に提供
しており、経営資源の約半分は地域企業に向けられている* 2。
現在の体制は常勤取締役2名、インキュベーションマネージャー 7 名、施設
管理、総務・財務、広報各 1 名。第 1 期に約 2,000 万円の経常損失を計上した
がそれ以降は投資事業による評価損を計上した 2011、2012 年度を除きコンス
タントに利益を上げている。2013 年度の売り上げは 3 億 6,500 万円、経常利
益は 2,300 万円。売り上げの 53%、利益の 68%を賃貸事業が稼ぐ。経営サポー
トの有料化、投資事業有限責任組合の運営など多元的な財源確保に努めているが
90%超の高い入居率を保つ賃貸事業が SIC の屋台骨を支えている。
2014 年 3 月時点で入居企業は 93 社、全体の売り上げは約 155 億円、雇用は
348 名である。業種は半導体関連、工業用材料、情報通信・電子機器、ヘルスケア・
バイオ、ソフトウエアと幅広い。
*1
5 事業の詳細は以下の通り。
・三 つの施設合わせて125
室のオフィスやラボを起
業家や新分野進出を目指
す中小企業に提供する賃
貸事業
・財 務、知的財産、販路、
海外展開などの経営課題
を支援する経営サポート
事業
・燃 料電池などをテーマと
した産学連携や企業間連
携による研究開発支業事
業
・経 営塾、職場リーダー養
成塾、子どもアントレプ
レナー体験事業などの人
材育成事業
・ベ ンチャーファンドであ
る「SIC1号投資事業有限
責任組合」を運営する投
資事業
*2
SIC の 企 業 理 念 で「 地 域 の
インキュベータ」をうたっ
ている。
■成果(SIC で育った企業)
1.動物アレルギー検査株式会社
創業者である増田健一氏は鹿児島大学獣医学科を卒業し
獣医師の資格を取得後、動物病院勤務を経て、米国ノース
カロライナ州立大学、東京大学、独立行政法人理化学研究
所において動物の免疫・アレルギー分野での先端的な研究
を重ねた。同分野では国内の第一人者である。2007 年、
KSP(かながわサイエンスパーク)で理研発ベンチャーと
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写真 SIC-3 外観
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特集
して同社を創業し、本格的な事業展開を図るため同年に拠点を SIC に移し今に
至っている。
アレルギー学、
免疫学の最先端の研究成果をベースに犬のアレルギー
検査システムを事業化し、3 種類の検査サービスを全国の約半数の動物病院に向
けて提供し高い評価を得ている* 3。
2.株式会社共立
2000 年 4 月の SIC-1 オープンと同時に入居した共立工業株式会社は 1956
年創業の相模原市内の中小企業。大手エンジニアリング企業向けに圧力容器を製
造する下請け企業だったが、製造業の空洞化が進む中、下請け企業としての限界
*3
直近の年間売上高は約 3 億
円。また、顧客から強い要
望のあった犬の食物アレル
ギー療法食の開発に成功し、
ペットフードメーカーとタ
イアップして、原料を厳選
した犬用アレルギー療法食
を 2014 年秋から販売開始
している。
を感じた二代目の社長が自社ブランドを持つ小さな「メーカー」になることを目
指し、新たに環境装置事業と真空装置事業を立ち上げた。新規事業に取り組んで
16 年、環境装置事業と真空装置事業が売り上げのほとんどを占めるまでになり、
100%の下請け企業から自社ブランド製品を持つ中堅のメーカーへの脱皮を果た
している。多くの中小企業が脱下請けを目指し新規事業に挑戦しているが、ここ
まで徹底した事業転換に挑戦し成功した事例は極めて少ない。新規事業の開発と
販売部門を分離独立させて新会社「株式会社共立」を設立している* 4。
3.レボックス株式会社
2008 年に相模原市内で創業したレボックス株式会社は生産ライン等で使用
する検査カメラ用 LED 光源のメーカー。太陽光パネルや液晶テレビなどのフィ
ルム表面検査、果物の糖度測定、古文書の解析などその用途は広い。同社を立
*4
直近の年間売上高は約 16 億
円。食品の残りかすの肥料化
などの資源リサイクルプラン
トでは高い性能から圧倒的な
シェアを誇るとともに、真空
装置事業でも粉体スパッタリ
ング装置の開発に成功するな
ど国内外から注目される存在
になっている。
ち上げたのは機械専門商社出身の CEO の鎌田英洋さんと精密機器メーカー出
身の CTO の三留正浩さん。別々に会社を起業したが合流して同社を創業した。
2011 年に SIC-3 に入居し、成長を遂げ、直近の年間売上高は約 6 億円。同社
は「光で未来を変えてゆく」をテーマに掲げ、検査カメラ用 LED 光源にとどま
らず、植物工場の光源や葉物野菜の鮮度維持のための光源開発に取り組んでい
る。2012 年に神戸の先端医療センター病院内に出張所を開設し、医療現場や臨
床センターで用いられる各種測定機器・照射機器の開発に取り組むなど光の技術
をベースに挑戦を続けている。
■ SIC が失敗しなかった理由、成功した理由
SIC は、都市型のビジネス・インキュベーターとして成功したものの一つとい
われているが、その理由について整理してみたい。
1.恵まれた立地環境
SIC は首都圏近郊の神奈川県相模原市に位置する。相模原市と隣接自治体を合
わせると 200 万人超の人口を擁する。自動車、電機、機械などの大規模工場や
研究開発型中小企業が多数立地し、大学・研究機関も集積するなど起業家やベン
チャー企業が産まれ育つための環境がそろっている。
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2.経営の自立
相模原市などからの出資金で株式会社を作り、その会社が自前で土地と施設を
整備し、施設が生み出す賃貸料収入でスタッフを雇用し、企業支援を行うという
のが SIC のビジネスモデルである。自主財源を持ち国や地方自治体に依存せず、
自分のことは自分で決めることができる。また、
初代社長はベンチャー起業家で、
役員にはこれまで行政機関の OB は一人も在籍していないなど「資本は公」
、
「経
営は民」という考えが徹底されている。その背景には相模原市、初代社長、さら
に今でも厳しく経営をチェックしている社外取締役が果した役割が大きい。ま
た、相模原市は SIC の経営が安定するまでの間、人的にも資金的にも多くの支
援を惜しまなかった。
3.プロパーのインキュベーションマネージャー
SIC の創業当初は相模原市などからの出向者が大半を占めていたが、4 期目か
らプロパーのインキュベーションマネージャーの採用に踏み切った。現在のイン
キュベーションマネージャー 7 名は全員がフルタイムのプロパー社員。入居企
業の経営支援はもちろんのこと、さまざまな事業を企画から運営まで受け持ち活
躍している。スタッフの量、質、意欲は全国的にもトップクラスであり、SIC の
力の源泉である。
4.ポストインキュベーション施設の整備
2000 年の SIC-1 オープン以降、増資や補助金、自己資金を使ってポストイ
ンキュベーターである SIC-2、SIC-3 を順次整備してきた。これらのポストイ
ンキュベーターは SIC-1 で育った「卒業企業」や地域で育った起業家にさらな
る成長の場を提供している。その結果、起業間もない企業から上場一歩手前の企
業まで幅広いステージの 100 社近い企業が SIC に集積することになり、入居企
業間の協業や補完関係が一層進むなど「集積の効果」を高めている* 5。
5.多様な支援サービス
SIC は入居企業だけでなく地域企業も対象としてベンチャーファンド、燃料電
* 5
また、年間数十社の地域企業
に対しても支援サービスを提
供しており、それらを含めれ
ばさらに大きな効果を生むこ
とになる。
池研究会、経営塾、カイゼン活動支援、デザイン支援、台湾ビジネスマッチング
などの支援サービスを開発してきた。こうした多彩な支援サービスが、インキュ
ベーションマネージャー個人の経営支援にとどまらない支援の幅と奥行きを生ん
でいる。また、SIC には弁理士、公認会計士、社労士、デザイナーといった専門
家が多数入居しているのも特徴で、企業支援に欠かせない存在となっている。
■おわりに
成功の理由を整理すれば失敗しない最低限の条件が整っていたこと。そして、
顧客のニーズに即した事業開発や創意工夫を積み重ねてきた二点に集約される。
どちらを欠いても上手くいかなかったと思う。今後も恵まれた条件を生かし、地
域社会の発展に大きく貢献できるよう挑戦し続けていきたい。
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いおう化学研究所
万能の分子接合技術、多様な分野で活躍
物質と物質とをくっつける、接着という概念。それを新しく捉え直し、独自の接合・
接着技術で 21 世紀型のモノづくりを提案する企業が岩手県盛岡市にある株式会
社いおう化学研究所(以下「SCL」)だ。同社を設立し、代表取締役社長・研究所
長を務めるのは岩手大学名誉教授の森邦夫氏である。
元東北大学総長/元総合科学技術会議議員の阿部博之氏(科学技術振興機構顧問)
と共に同社を訪問し、森社長にお話を伺った。
今村 千早
いまむら ちはや
独立行政法人科学技術振
興機構 産学連携展開部
研究支援グループ 主査
■「接着剤が厚みを持ってはいけない」
― 新しい接着の概念とは?
森 20 世紀の接着は、モノとモノの間にのりを塗って貼り合わせるというイ
メージ。つまり、被着物同士の距離は遠く、分子間力で結合しているので接着
力も弱い。一方、現代のモノづくりはナノサイズを制御しようというものだか
ら、接着剤が旧来のように厚みを持ってはいけない。一分子の層で、被着物同
士の距離を 0.2 ~ 0.5 ナノメートル以内に近付け、共有結合で強固にくっつ
けること。いうなれば、分子接合技術だ。
同社は、あらゆる素材同士を接合することができる万能の分子接合剤・接合技
術を開発し、さまざまな企業に技術提供している。シリコーンやフッ素という、
くっつかないものの代表のような素材でも接合できる。デモンストレーション実
験を拝見した。
まずは、ポリイミドと架橋シリコーンゴムという、産業界に広く使われている
が難接着性の素材同士だ。架橋シリコーンゴムにはあらかじめ表面処理を施し、
共有結合の生成反応を起こさせるための官能基(水酸基)を付与しておく。ポリ
イミド板を分子接合剤である TES(トリエチルシリル化剤)0.1 パーセント溶液
に浸漬し、乾燥させて、架橋シリコーンゴムとポリイミドをヘアアイロンで挟む
と、120 度、1 分で両者はしっかりと接合された。
次は架橋フッ素ゴムとアルミニウム。架橋フッ素ゴムは、もともと TES と反
応できるため、官能基を付ける表面処理は必要としない。アルミニウム板を同じ
く TES 0.1 パーセント溶液に浸漬し、乾燥。金属板はポリイミド板に比べて表
面粗さがあり、接合させる素材間の距離を縮めにくいので、プレス機でしっかり
加圧する必要があるが、120 度、1 分でこれも見事に接合した。
その他には炭素繊維と架橋シリコーンゴム、炭素繊維と架橋フッ素ゴムの組み
合わせを見せていただいた。炭素繊維は自動車や航空機等に幅広く活用されてお
り、接合部分にゴムが使用されている例もあるが、同社の分子接合技術を利用す
れば、強度はより上げられるという。
また、分子接合技術はめっき処理にも応用できる。表面処理したガラスに、金
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属イオンと還元剤を吹き付けると、見る見るう
ちにめっき塗装された。従来の化学めっきでは
触媒にパラジウムを使用していたが、同社の技
術では不要。パラジウムは高価な希少金属であ
り、コスト、環境負荷、安定した供給への不安
という問題点があるが、パラジウム不使用であれ
ばこれを回避できる。また、浸漬処理ではなく吹
き付け処理であるところも、めっき対象が巨大
な構造物であっても扱える強みとなっている。
■非流動体接合による中空封止
森 邦夫 教授
実際にビジネスへと展開された例を二つ紹介する。
同社の技術提供先である株式会社朝日ラバー(本社:埼玉県)が生産し、F 社
が販売している IC タグは、技術的には世界初の非流動体接合による中空封止製
品だ。架橋シリコーンゴムと架橋シリコーンゴムの間に IC とアンテナを封入し、
SCL の技術で接合。従来の IC タグに比べ価格も重さも半減され、10 億円以上
の売上げにつながっている。
また同じく朝日ラバーでは、DNA を短時間で解析するポータブル型解析装置
のチップ部分を実用化し、すでに 1 億円以上を売り上げている。チップとなる
マイクロ流体デバイスの作製には、架橋ゴムと樹脂を分子接合する SCL の技術
が応用された。解析装置本体は N 社で販売予定であり、世界の科学捜査機関に
よる犯罪捜査や、医療・ヘルスケア、災害時の身元確認など幅広い領域に展開す
ることを想定している。すでにニュージーランドとアメリカの捜査機関に導入さ
れ、ユーザーの検証結果を踏まえつつ拡大を図る計画だ。
― 技術開発や応用展開には、常に社会とのつながりを意識しているさまがうかがえ
る。そのきっかけ・原動力は?
森 『失われた 10 年』はなぜ生じたのか?に対する関心・反省がある。80 年
代の日本はすごかったが、その後の競争に勝つ手段を考えられなかった。悪い
のは政策や官僚、経済学者ではなく、技術の進化を怠った大学人・企業技術者、
世界市場の要求に応えようとしなかった技術者に原因があると思っている。そ
の悔い・反省が原点にある。
かくいう森社長自身も、苦い経験がある。70 年代後半に金属とゴムの接着技
術が自動車のタイヤ製造に導入された。まだ接着の理論や機構などは明らかに
なっておらず、基礎研究の積み重ねが必要であった時期にもかかわらず、イタリ
ア、ドイツ、アメリカから次々に引き合いがあり、急成長に舞い上がったのだ。
しかし 80 年代に入りタイヤの仕様が少し変わり加工条件が若干変化すると、も
はや対応できなくなった。
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森 人件費が安いからと中国へ製造委託するようになり、日本では技術の分か
る人間が失われた。技術部門は外部から部品を購入し、トラブルがあると購入
先に解決させるから、社内の技術力が向上せず、教育者も育たない。仕様を変
えるとなっても、現場の人間が理解できず、モノづくりのシナリオを描けない。
これは大企業から町工場に至るまで、多くの企業を訪問して感じたことだ。コ
ストが高くつくから日本で作らないというのではなく、コスト差があるのなら、
コスト差を埋められる技術開発を行うべきだと痛感した。
その言葉を裏付けるように、SCL では実験・検証に重点を置き、社員各人は
1 カ月に 1 冊の大学ノートを実験記録に消費する。森社長の恩師である中村儀郎
岩手大学名誉教授から受け継いだ精神だ。
■封止、電磁波シールド、放熱がキー技術
― 今後の展開や目標は?
森 接合・接着技術の展開としては、封止、電磁波シールド、放熱の三つが
21 世紀初頭のキー技術になると考えている。封止は安心・安全社会の構築に
不可欠であり、実用化例で示したとおり。電磁波シールドは、情報通信社会に
不可欠であり、化学めっき塗装による自動車・飛行機・ビルの窓ガラスや電磁
しゃへい
波の遮蔽分野への応用が考えられる。放熱は、熱発生源から冷却部位へきちん
と熱を伝えることが大事で、接触熱抵抗を高くしないために接合部位に分子接
合技術が使われるだろう。
夢は、世界に顕著な技術格差をつくること、その中で、岩手に技術拠点をつ
くること。拠点ができ、格差ができれば、それを追い越そうと世界競争が起こ
せっ さ たく ま
り切磋琢磨する。それが世界全体の発展、人類への貢献につながると信じている。
阿部氏は同社技術を興味深そうに見学し、応援メッセージを寄せた。
「モノづくりの根幹を変える可能性を持ってお
り、画期的な接合技術に育ててほしい。新事業
分野への応用を図り、世界の産業界の現状を打
開する岩手発技術としての発展を期待する」
森社長の活力、エネルギーが伝わってくるか
のような、充実したインタビュー時間だった。
SCL の今後に期待したい。
阿部博之氏(中)に説明する森教授(右)
。
左は筆者
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京都・長野・福井・滋賀広域連携
スーパークラスターの Good Practice
各地域で取り組まれてきた地域科学技術振興施策の研究成果を生かし、社会ニー
ズ、マーケットニーズに基づいて広域連携を図る「スーパークラスタープログラ
ム」。京都、長野、福井、滋賀の4地域の広域連携では、革新的シリコンカーバ
イド(SiC)パワーデバイスの社会実装を目指している。
独立行政法人科学技術振興機構(JST)研究成果展開事業(スーパークラスター
プログラム)が 2013 年 12 月 1 日にスタートしてから 1 年余りが経過した。こ
西本 清一
の間、革新的シリコンカーバイド(以下「SiC」
)パワーデバイスの社会実装促
にしもと せいいち
進を目標とする京都・長野・福井・滋賀広域連携スーパークラスターは SiC デ
京都大学名誉教授/
公益財団法人京都高度技
術研究所(ASTEM)理事
長
(中核機関代表者)/
地方独立行政法人京都市
産業技術研究所理事長(代
表研究統括)
バイスを搭載した多様な製品を相次いで試作提案し、関係者は短期間での目標達
成に手応えを感じている。
■国主導の戦略テーマ「クリーン低環境負荷社会実現ネットワークの
構築」に向けてパワー半導体の社会実装に照準を合わせた二つの
スーパークラスター* 1
近年、電力エネルギーの高効率利用 = 省エネルギーに対する関心が高まり、
シリコン(Si)に代わる次世代パワー半導体(電力制御用半導体)の素材として
SiC とガリウムナイトライド(以下「GaN」
)が注目されている。JST のプログ
ラムでは、京都地域と愛知地域がコアクラスターとなり、それぞれ「SiC パワー
デバイスの社会実装」と「GaN パワーデバイスの開発」を目指して研究開発に
取り組んでいる。各コアクラスターは、3 地域のサテライトクラスターと広域連
* 1
スーパークラスタープログラ
ムの詳細については、JST の
関連ウェブサイトを参照され
たい。
ht tp:/ / w w w.jst.go.jp/
super-c/
携のスーパークラスターを形成している。京都地域コアクラスターには、長野・
福井・滋賀地域がサテライトクラスターとして参画している。これまで地域ごと
に取り組まれてきた地域産学官連携プログラムの研究成果を高度活用してパワー
デバイスの本格的普及を加速し、次世代パワーエレクトロニクス分野におけるわ
が国の国際競争力を強化する狙いがある。
■ SiC パワー半導体の実用化への道を切り開いた京都地域の産学官連携
世界の SiC パワー半導体研究のパイオニアは松波弘之京都大学名誉教授* 2 で
ある。1970 年ごろ SiC の基礎研究に着手し、SiC エピタキシャル結晶の製造法
(1987 年)
、耐圧 1,000 ボルト以上のショットキーダイオードの製造法(1993
年)をいずれも世界で初めて確立した。
* 2
京都大学を定年退職後、JST
イノベーションプラザ京都館
長を経て、現在は JST 産学
連携アドバイザーとしてスー
パークラスターでも指導的役
割を担っている。
文部科学省の第Ⅰ期知的クラスター創成事業(2002~07 年度)が京都地域で
始まると、松波名誉教授の後継者の木本恒暢教授が参画し、地域内のローム株式
会社との間で産学官連携による SiC デバイスの研究開発が大いに進捗した。さ
らに、第Ⅱ期の事業(2008~12 年度)では、2010 年に国内初の SiC ショット
キーダイオードと世界初の SiC パワー MOSFET(金属酸化物半導体電界効果ト
ランジスタ)、2012 年には世界初のフル SiC パワーモジュールの量産に相次い
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で成功した。
30 年余りにわたる大学の基礎研究(第 1 ステージ)を基盤とし、合計 11 年
間の地域産学官連携研究開発(第 2 ステージ:学から産への橋渡し)による第
一世代 SiC パワーデバイスの量産化達成を経て、SiC パワーデバイスの社会実
装加速(第 3 ステージ:本格普及)を目指すスーパークラスタープログラムへ
と滑らかにつながり、SiC パワーデバイス実用化への道を着実に切り開いている。
■ SiC パワーデバイスの社会実装促進を目指した研究開発体制
京都地域コアクラスターには、大学を中心とする ①高性能材料・デバイス研
究開発グループ ②回路・システム研究開発グループ ③アプリケーション研究開
発グループに加え、④産産学連携実装化推進研究開発グループを編成し、SiC パ
ワーデバイスの製品化展開を強力に推進する体制で臨んでいる。
立案段階から、SiC の物理特性を最大限に引き出す合理的な回路・システムの
設計開発研究が SiC パワーデバイスの社会実装を促進する要になると認識して
おり、SiC 搭載の製品やシステムの開発案件ごとに専門の大学研究者を配置して
いる。そのような産学連携体制を背景に、従来の取り組みにはなかった新しい試
みとして異分野の産産連携も組み込んだ産産学連携を最重点取り組み課題に挙げ
ており、スーパークラスター参画企業のほか、コアサテライト地域内の製品開発
型中小企業を積極的に発掘し、産産学連携をコーディネートしている。これまで
の成果に照らし、この試みは大いに功を奏していると思われる。
■ JST 戦略室の設置と機能
JST スーパークラスタープログラムには、従来の地域産学官連携プログラムに
はなかった新しいマネジメントシステムが導入されている。京都地域コアクラ
スターの場合、中核機関の公益財団法人京都高度技術研究所(ASTEM)2 階に
JST 京都事務所(戦略室)が置かれ、①大学と企業の両方で研究開発に従事した
経験のある鈴木彰戦略ディレクター(以下「SD」
)②企業出身で半導体部品の商
品企画戦略、マーケティング、セールス分野で豊富な経験を蓄積している瓜生禮
一 SD ③行政の立場で地域産業振興の実務に精通している江川博 SD が配置され
ている。このように産学官各界から適材適所で SD が任用されており、学学連携、
産学連携、産産学連携、地域間広域連携のコーディネートとマネジメントの機能
を果たしている。
これらの SD チームと中核機関代表兼代表研究統括の筆者は文字どおり「一つ
屋根の下」
で業務を共有している。さらに JST の松波産学連携アドバイザー
(SA)
も交えて、日常的に各研究開発課題の進捗状況を把握し、点検評価を通じて課題
ごとの見直しや選択と集中を図るなど、効果的に対応し得る体制が構築されてい
る点も大きな成功要因である。
■ Good Practice の事例紹介
1.産産学連携の「オープンイノベーション」による SiC 搭載機電一体 SR モー
タシステムの研究開発
日本電産株式会社は、永久磁石をまったく使わないレアアースフリーなスイッ
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チドリラクタンス(以下「SR」
)モータに SiC 搭載インバータの駆動技術を適用し、
機電一体型の SR モータ駆動システムのコンセプトモデル試作に世界で初めて成
功した(写真 1)。SiC デバイスの性能を引き出すための回路技術を大阪大学と
立命館大学、インバータ用 SiC パワーデバイスをローム社、平滑用フィルムコ
ンデンサをニチコン株式会社がそれぞれ開発した。この SiC 搭載機電一体 SR モー
タは、従来の Si 搭載インバータとモータの別置きシステムに比べて、小型化(従
来比 32 パーセント)
・軽量化(従来比 69 パーセント)を達成している。
写真 1 SiC 搭載機電一体 SR モータ
2.ベンチャー企業による高電圧パルス発生器の開発と商品化
ベンチャー企業の株式会社京都ニュートロニクスは、京都地
域コアクラスターから産学連携支援を受けるとともに、ローム
社との産産連携により、SiC MOSFET アレイの直列接続による
高電圧パルス発生器を世界で初めて開発し、その性能を実証し
た。このパルス発生器を量産するため、新たに福島 SiC 応用技
研株式会社を設立して製造を開始している。既に複数の受注が
あり、今後、超小型加速器、医療機器電源、産業応用など多様
な分野での応用が期待されている(写真 2)
。
写真 2 高電圧半導体スイッチモジュールの構造
3.中小企業によるオール SiC 統合型新パワー制御システムの試作
京都地域内中小企業の株式会社アイケイエスは、京都地域コアクラスターの
大阪大学との産学連携により、オール SiC の 10 キロワット級統合型新パワー制
御システムを試作した。ビルや工場のエネルギーマネジメントシステム(BEMS
や FEMS)
用の SiC 搭載マイクロスマートグリッドシステムに用いる予定であり、
他府庁の助成金も獲得し、株式会社竹中工務店を加えた産産学連携が始まった。
4.京都-福井地域間連携による SiC MOSFET 搭載リチウムイオン電池の保護回路試作
SiC MOSFET の高耐圧特性(耐圧 900~1,200 ボルト)に着目し、リチウム
イオン電池 7 直列パックを使用することにより、蓄電池システムの高電圧化を
達成した。京都地域コアの同志社大学、京都地域企業の株式会社ジーエス・ユア
サコーポレーション、福井地域サテライトの福井大学が広域連携し、現状の 4.2
ボルトの充電上限電圧を 4.8~5.0 ボルトに引き上げる研究を展開しており、次
世代蓄電池の新規格に大きな影響を及ぼす成果が生まれつつある。
その他の取り組み事例は省略するが、ベンチャー企業や商品開発型中小企業を
積極的に発掘し、産学連携支援と SiC パワーデバイスの活用機会を積極的に設
けた結果、多様な機能を発現する試作品が次々と生まれつつある。併せて、大企
業を含む産産学連携を通じてオープンイノベーションが促されるなど、SiC ユー
ザーの裾野拡大につながってきた。世界各国で官民挙げての国家プロジェクトが
進む中、JST スーパークラスタープログラムの Good Practice から、今後の地
域産学官連携プログラムが果たすべき役割が見えてきた。
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キャリアとしての大学知財人材
「専門家」として認められ徐々に幅広げる
大学における産学官連携も知的財産も素人だった筆者は、いかにして「専門家」
として認められ、幅広い業務に取り組めるようになったのか。
■コーディネーターになったきっかけ
大学院修士課程修了後、技術系総合職として企業に就職した。企業には 8 年
強勤務し、その間は現場や本社企画部門で業務に携わっていた。研究開発部門で
はなかったため、
産学官連携や特許という言葉すら聞いたことがない状況だった。
恥ずかしながら、国立大学が法人化したことすら知らなかった。
そんな私がコーディネーターとなったのは、会社の制度を利用して九州大学ビジネ
新城 裕司
しんじょう ひろし
宮崎大学 産学・地域連携
センター 知的財産部門長
ススクール(QBS)で学ぶ機会を得たことがきっかけとなっている。在学中に、知的
財産や研究シーズの商業化等のトピックスを学ぶ講義があった。当時は「世の中には
こんな変わった仕事があるのだな」くらいの物珍しさが先立っていたが、技術好きで
新しい物好きの性格には面白そうな仕事に映り、印象深かったことを覚えている。
QBS を修了し MBA 取得後も本社企画部門に在籍していたが、諸般の事情に
より宮崎県に移り住むことになった。転職活動の開始だ。しかし、宮崎ではなか
なか仕事が見つからなかった。ほとほと困っていた時に偶然、宮崎大学で知的財
産業務担当の公募が行われていることを知った。業務内容を調べてみると、あの
時に面白そうだと感じた「変わった仕事」であることが分かり、これまでのキャ
リアとはほとんど無縁だったが、やる気だけで応募し、宮崎大学産学・地域連携
センター(当時は産学連携センター)に採用された。
■現在の職務内容
採用当時は知的財産部門スタッフ(教務職員)として業務(発明等届出の対応、
出願・中間処理等)をしていた。また、知的財産と関連する共同研究や受託研究
の契約調整も行っていた。表に示す業務分類の「知財創生」および「技術契約支
援」に相当する業務である。
現在は知的財産部門長(准教授)として職務に就いている。私が昇任した年度か
表 産学官連携コーディネーターの業務分類
業務分類
知財創生
研究開発支援
シーズ PR
技術契約支援
ニーズ調査
事業化支援
海外展開
地域貢献
組織運営
人材育成
スキルアップと
ネットワーク構築
業務内容
発明相談、特許調査(含特許マップ作成)
、特許出願(含共同出願、海外出願)
、特許中間処理・登録
研究開発プロジェクト支援、研究開発戦略構築、 オープンイノベーション参画、補助金申請支援
シーズ集作成、イベント出展・発表、ウェブ掲載、企業訪問、マッチング
共同研究・受託研究契約、守秘義務契約、共同出願契約、MTA、ライセンス契約
シーズ探索、企業探索、企業訪問、市場動向調査・分析
ベンチャー起業化支援、金融連携、利益相反マネジメント、ビジネスモデル提言、販路開拓
技術契約支援、イベント出展、販路開拓、市場分析
企業相談窓口、地域研究会運営、社会ニーズ調査
産学官連携企画、人事、予算策定
研修会運営・講師、インターンシップ、OJT 指導、 学内周知・啓蒙
研修や会議、交流会への参加
出典:文部科学省 科学技術・学術政策局 産業連携・地域支援課、産学官連携コーディネーターの活動・スキル・資質、2004 年
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ら技術移転業務を大学主体で行う体制となったため、「産学官連携コーディネーター」
としては、 従来の担当業務に加え、「シーズ PR」
「ニーズ調査」も業務範囲に加わっ
ている。さらに関連して、
利益相反マネジメントや安全保障輸出管理にも参画している。
■キャリアという視点で意識していること
既に述べたように、大学でのキャリアは産学官連携も知的財産も全くの素人状
態からスタートした。新参者が初めに意識したことは、産学官連携・知的財産に
関わる教員に「認めてもらう」ということだった。その手段として、知的財産に
関する知識を身に付けることを考え、弁理士* 1 の資格取得を目指した。幸か不
* 1
る。もっとも、本学では知的財産が関連する研究開発プロジェクトを、知的財産
法改正により、弁理士法第
1条(弁理士の使命)に「弁
理士は、知的財産に関する
専門家として、知的財産権
の適正な保護及び利用の促
進その他の知的財産に係る
制度の適正な運用に寄与し、
もって経済及び産業の発展
に資することを使命とす
る。」が規定され(下線は筆
者が付した)、弁理士が知的
財産の専門家であることが
明示されている。
の「活用」形態として認識されるようになったので* 2、このようなコーディネー
* 2
幸か、知的財産業務は大学の中で競合がないので、知的財産に「詳しい人」とし
て、早い段階で認めていただけるようになった。
基本的に私の職務は全学的な知的財産業務の管理運営なのだが、最近では特定
の研究開発プロジェクトの企画段階からお声掛けいただく機会がある。ポストア
ワード/プレアワード、全学/特定という二軸で考えれば、両者は対極の位置に
あるが、仕事の幅を広げるという意識でコーディネートを行うように心掛けてい
ト活動も広義には知的財産業務に含まれることになる。
■今後のキャリア、目指すべきところ
宮崎大学知的財産戦略
(2012 年 6 月改訂)
http://www.miyazaki-u.
ac.jp/crcweb/hpdata2010
/chizai/201206chizai.html
仕事を進めるうえで、MBA と弁理士という二つの資格(正確には前者は学位
だが)は、大きな意味を持っている。特に弁理士に関しては、知的財産業務を主
としている私にとって、
「詳しい人」ではなく「専門家」として「認めてもらう(信
用してもらう)
」のに役立っていると実感している。
ところで、大学の知的財産実務やコーディネートの個人実績・職能は、研究業績
のように論文数等の客観的な評価指標が十分に確立していないように思われる* 3。
このことは前掲の「産学官連携コーディネーターの活動・スキル・資質」等これ
までにも指摘されている。他方、 多くの大学が配置に取り組んでいるリサーチ・
アドミニストレーター(URA)については、 URA を育成・確保するシステムの
整備事業として当初より「スキル標準** 1」の作成が進められた。職名は異なる
が、 産学官連携によるイノベーション創出を目指す職種として参考とすべき点は
多くあると感じる。このように自身の能力やスキルを客観的に示す指標
(資格等)
を持つことは、キャリア形成過程で考慮し取り組むべきことだと思う。
とはいえ、資格というものは一定の知識や技能の水準をクリアしていることを
* 3
JREC-IN Portal で 大 学 や 研
究機関での求人公募を検索
すると、職種(教員、URA、
産学官連携コーディネーター
等)が多様であり、
それに伴っ
て応募要件や必要書類もさま
ざまである。
** 1
国立 大学法 人 東 京 大学.平
成 25 年 度 科 学 技 術人材 養
成等委託事業「リサーチ・ア
ドミニストレーターを育成・確
保するシステムの整 備(スキ
ル標準の作成)
」成果報告書.
2014,164p.
示すものにすぎず、本人の活動で真価が発揮される。好きで「変わった」業界に
入った以上、私も活動の幅広さと深さを心掛け、一つでも多くの大学の研究シー
ズが商品や事業に発展することを目指したい。研究シーズを守り、つなぎ、育て
ることが私の役割だと思っている。
最後に、拙稿を記すに際しあらためて認識したことがある。私が目指すキャリ
アは「お見合いのおばちゃん** 2」である。
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** 2
渡部俊也 , 隅藏康一.TLO と
ライセンス・アソシエイト 新
産業創生のキーマンたち.第
2 版,株式会社ビーケイシー,
2002,p. 214-216.
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産学官連携ジャーナル創刊 10 周年 特別企画
“連携人”100人が発信してきたこと
前編
2005~2009年:TLO、コーディネーターに期待
月刊「産学官連携ジャーナル」はおかげさまで 11 年目に入りました。創刊は 2005 年 1 月。TLO 法
(1998 年)
、産業活力再生特別措置法(日本版バイ・ドール条項、1999 年)等により技術移転(大学
等の研究成果を産業界で活用)を促進する仕組みの改革が進んでいた時期でした。創刊前年の 2004 年
4 月には国立大学が法人化され、大学は技術移転のための仕組みづくりに本格的に取り組み始めていま
した。以来、小誌は産学官連携の変化に対応し、狭義の産学官連携、技術移転にとどまらず、イノベーショ
ン、起業・大学発ベンチャー、知的財産、高度人材育成、大学の社会貢献などさまざまなテーマの情報
を発信してまいりました。
小誌は基本方針で「科学技術振興機構(JST)の機関誌・広報誌にしない」とうたっています。府省
庁やさまざまな支援機関に横串を刺すこと、産・学・官の連携を促進するのが小誌の役割です。
これまで掲載してきた記事の中から、話題になった記事、歴史的な“証言”となるインタビュー記事、
科学技術イノベーションを推進する上で示唆に富む記事など 100 編を選び、2 回に分けて紹介します。
前編の対象は創刊から 2009 年まで。この時期は、
「産学官連携とは何か」
「大学の役割は」が繰り返し
問われ、TLO(技術移転機関)
、産学官連携コーディネーターへの期待が高まった時期でした。
(本誌編集長 登坂和洋)
産学官連携の要諦
●「産学官連携」の特徴の 1 つにスピルオーバー(波及効果)がある。「産」と「学」が当初の目的を達成す
べく「連携」する際に、経済的、社会的、ひいては文化的な付加価値が派生的に生み出されることがしばし
ばある。一部を「産」あるいは「学」が回収することもあるが、多くの場合、受益者は社会全体であり、公
共経済学で言う外部性の問題が発生する。またこれらの派生効果を事前に特定することは難しい。それがゆ
えに、個々のアクターの最適化の解と社会的最適の間に相違が生じるのである。そこで登場するのが「官」
である。
──原山優子氏、2005 年 7 月号、産学官エッセイ・産学官連携とは?
●産学官連携を推進している一企業として、次のことを期待したい。まず、地域の活性化をあげたい。これ
は欧州の大学に多くの例が見られ、我が国でも京都、浜松の各企業群への、京都大学、静岡大学の長期にわ
たる技術的支柱としての役割が知られている。次に、我が国の産業振興への寄与をあげたい。
──庄山悦彦氏、2005 年 12 月号、巻頭言
●失敗を恐れずにチャレンジする人たちが、国内外から参加して生き生きと仕事ができるか、そのような「場」
を作れるか、これこそが日本の「産学官連携」の課題なのである。──黒川清氏、2006 年 1 月号、巻頭言
●産学連携のポイントは、複数ディシプリン融合型のイノベーションを推進する型の研究開発と、担う人材
の育成にあります。なぜかと言えば、産業界における研究開発は、基本的にほとんど融合型です。
──山野井昭雄氏、2006 年 10 月号、連載「産業界に聞く産学連携」産学連携による人材育成の必要性
●産学官連携研究においては、シーズである基礎研究成果の根源が日本発であり、革新性を含んでいること
が望まれる。一方、成果が革新的であるほど、工業化を達成するまでに長期間を要することが一般的である。
高いリスクを覚悟した上で、息の長い基礎学術研究と応用開発を行うことが求められる。
──井上明久氏、2006 年 12 月号、巻頭言
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●わが国の産学連携事業は大学技術移転促進法(TLO 法)が施行された 1998 年以降に本格化し、2004 年
の国立大学の法人化を契機に、多くの研究大学が特許等の知的財産の機関管理と技術移転によるその活用に
踏み出し、確実に進展している。この活動も第 2 ステージを迎え、これまでの事業を正しく評価し、必要が
あれば軌道修正する時期を迎えた。
──清水 勇氏、2007 年 6 月号、巻頭言・第 2 ステージに入った産学連携
●仙台堀切川モデルの成功は、地域中小企業が製品化・実用化できない最後の数%の技術課題を大学教員が
抽出し、問題設定し、解決支援することで、製品化・実用化が達成できることを明示し、地域中小企業、大学、
地方公共団体の 3 者へ産学連携成功の可能性を示唆したという意味で、その意義は大きい。
──林 聖子氏、2007 年 10 月号、仙台堀切川モデル─地域中小企業との産学連携成功の秘訣─
大学の役割
● 1989 年東京大学の総長室に英国のサッチャー首相
(当時)
を迎えて懇談した。そして英国の政府機関のエー
ジェンシー化や、大学の教育・研究の評価に基づく政府の財政支出の話を聞いた。そのとき私は大学の評価
に対する英国方式に批判的な気持ちを述べた記憶がある。と同時に国立研究機関や特殊法人のエージェンシー
化が日本でも起こる可能性を予想した。
──有馬朗人氏、2005 年 4 月号、巻頭言
●なぜ米国は不振から脱却したのかを分析すると、1 つには大学が大きく貢献していることがわかりました。もとも
と日本の大学、特に国立大学はヨーロッパ流の考えで、基礎研究と、それを通じて人材を輩出すること(教育)に
重きを置いていましたが、米国の大学は社会との連携の中で研究や教育活動をするという社会貢献の考え方が非常
に強かったのです。
──古川勇二氏、2005 年 5 月号、特集「産業クラスター計画発足から今日までの経緯」
●大学は従来タイプの教育・研究にとどまらず、社会的な問題解決のための教育・研究を積極的に進めなけ
ればならない。大学は、
「象牙の塔」から「開かれた大学」へと転身しなければならない。
──清成忠男氏、2007 年 3 月号、巻頭言・産学連携・大学の課題
●大学が実際に大規模な臨床試験を行うのは非常に難しいのではないかと思います。治験に近いところまで
インキュベーションして、高額で企業が引き取ってくれるところまでは大学の先生がボランタリーワークで
行う、あるいは川上の段階から大学と企業の共同研究テーマにする、といった方法があると思います。
──秋元 浩氏、2007 年 3 月号、連載「産業界に聞く産学連携」
医薬品の研究開発から製品化まで:産学連携で学に何を期待するか
●地域振興のためには、地域の特長を生かした研究によるイノベーション創出や地域が求める人材育成が有
効であるが、ここに知の拠点として大学の活躍の舞台がある。大学を中心として、地域企業や地方公共団体
との連携を緊密にし、知の融合を図ることで、地域資源を最大限に活用した効率的なイノベーションシステ
ムを構築することができる。
──野間口 有氏、2008 年 3 月号、巻頭言・地域振興のための産学官連携
●大学で営まれている教育活動の目的は、企業の目的と相通ずるものがあり、かつそれぞれは密接に関連し
ている。大学は優秀な人材を輩出し、企業は商品やサービスを生み出すことで、共に「世の中の役に立つ仕事」
を行っている。
──森下洋一氏、2008 年 10 月号、巻頭言・企業経営と大学経営
●大学は、未来の社会を築くことに役立ってくれる人々を育てることが使命である。そして、社会を実際に
動かし、その働きを持続発展する役を担う産業界がその人々を受け止めて活躍の場をつくる。そのことは今
も昔も変わらない。しかし、それが単純な人材の引き渡しではなくなってきたのは、終身雇用制による産業
界が、従来の OJT によって人を育成する方法を大幅に変えつつあることから分かる。産業そのものが多種多
様になり、さらに 1 つの企業における仕事も大変多様で複雑になると同時に、変化も激しくなった。
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──白井克彦氏、2009 年 2 月号、巻頭言・新しい人材育成の道をつくろう
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●かつての華やかな映画産業は衰退し、撮影所というシステムは徐々に崩壊、いまやほとんど以前のように
は機能していません。では次の時代のために一体どこで映画人を育てるのか、
今のままで映画業界はよいのか、
という問題が提起されます。そこで登場するのが大学です。
──安藤紘平氏、2009 年 5 月号、特集「育て新人 コンテンツ産業新潮流」
産学連携でハリウッドに挑む―新しい映画人材育成
大学産学連携組織を整備
●徳島大学の産学官連携の目的は、まずは大学の研究、特に基礎研究の活性化・充実化です。それが達成さ
れてはじめて新しい産学官連携ができるのではないかと思うわけです。そして大学の研究成果を社会に出す
ために研究推進、技術移転、知財の権利化・保護、インキュベーション、リエゾンという 5 つの機能を充実
させなければいけなく、機能ごとに組織をつくりました。
──佐竹 弘氏、2005 年 1 月号、特集「徳島産学官連携 20 年」
●(奈良先端科学技術大学院大学知的財産本部の取り組みには)4 つのポイントがあります。第 1 ポイントは、
「教員との密接なミーティングによる意識改革。全研究室・全知的財産の把握」です。第 2 ポイントは、
「迅
速なレスポンスで、早期の把握と相談から 10 日以内の判断」です。大学として出願するかどうかの目安を提
示するようにしています。第 3 ポイントは、「厳格な評価体制。必ず出口(ライセンス・共同研究・競争資金
獲得等)のある特許出願」です。評価会議を年間約 50 回開き、特許性よりも出口があるかどうかの市場性を
重視しています。第 4 ポイントは、「創造性・展開性ある技術移転。発明者とコーディネータの密接なコラボ
レーションによる市場開拓」です。
──久保浩三氏、2007 年 6 月号、インタビュー・スピーディーな運営でライセンス収入は全国トップ級
知財立国を目指す
●世界一の研究をすることがあって、初めて、世界一の知財立国になれるのです。次は、その研究を世界一
に役立てること、日本からいいベンチャーが生まれる、いい商品が生まれるよう進めることです。そして、
産学連携関係者の隅々にこの目標を浸透させるという「知財の風土改革」を起こすことです。
──荒井寿光氏、2007 年 2 月号、インタビュー・日本を知財立国世界一へと推進
●我々が目指す知財立国の目標は、知的財産の創造、保護、活用の「知的創造サイクル」の好循環が自律的
に起こる社会である。それを人材の観点からみると、「知的創造サイクル」の各段階を担う多様な人材が絶え
ず供給され、参入してくる社会になることだと思う。
──小川 洋氏、2007 年 9 月号、巻頭言・知的財産人材について想う
TLO が始動
●(TLO をつくるうえで重視しなければならない点は)まずは目的をしっかり持つことです。どういうこと
を重視するか、技術移転なのか、特許なのか、その 2 つ以外にも選択肢はあると思いますが。
──安田耕平氏、2005 年 1 月号、対談・TLO 活動の本質を問う!
●(どんなビジネスプランで TLO 経営に当たろうと考えたか)特許は売れないことはもうわかっていたので、
産学官連携を中心にやっていこうと。具体的には特許を実用化・製品化する共同プロジェクトのマネジメン
トビジネス、つまりプロジェクト管理で経営していこうとプランしました。
──井深 丹氏、2005 年 3 月号、インタビュー・私が実践する産学官連携
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●大学内部の TLO は、先生の意向に縛られすぎて、あまり有効な特許を出願できないとか、研究費の確保に重
点を置き過ぎて失敗する例が多い。外部の TLO は、米国にはありますが、こちらは逆に、大学の意向とは関係
なく、どんどん金儲けに走ってしまう。/すると、このちょうど中間に位置して、大学の意向も考えながら、だけ
ど大学に完全にどっぷりつからずに、外部としての目線も持てるのがちょうどいいだろうと考えたわけです。
──西澤昭夫氏、2006 年 11 月号、特集「TLO 再考」インタビュー・
TLO 成功の鍵は「人」の育成にかかっている
コーディネーターへの期待
●産学官連携コーディネーター 104 名が配置されている大学・高専は 80 校であるが、全国 600 余の大学の
一部であり、近畿地区でも 21 名のコーディネーターがお世話できているのは 22 大学、近畿にある 100 大学
の 2 割である。そこで昨年来約 20 大学を訪問し、今年 3 月に 100 大学に呼びかけたところ 90 数大学から
何らかの連携を取ってほしいとのレスポンスがあった。今後、地域の国公立系機関のコーディネーターも含
めて連携の輪を広げていきたい。
──谷口邦彦氏、2005 年 8 月号、連載「ヒューマンネットワークのつくり方」
コーディネーター活動と恒常的ネットワークづくり
●コーディネーターはヒューマンネット・ビジネスなのである。
──平野武嗣氏、2006 年 1 月号、連載「ヒューマンネットワークのつくり方」
ヒューマンネット・ビジネスの創造─あなたはヒューマンネットワークを構築できているか?─
●コーディネータの使命は、大学の知である研究成果を企業に移転し、企業から成果使用料として獲得した
果実を新たな知の創造に還元するという、知的循環サイクル形成をリードすることにある、と考えられる。
このような技術移転に関する大学の基本理念はコーディネータ活動の原点であり、規範である。
──齋藤省吾氏、2007 年 4 月号、特集「コーディネータの責任と権限」
イノベーションの模索
●イノベーションを起こすためには革新的な発明やアイデアが必要であり、そのシーズは大学に数多く存在
している。しかし、大学にはシーズを事業化して付加価値創造に結び付ける力が十分ではなく、社会を大き
く変えるイノベーションにはつながりにくい。その意味で、優れたノウハウや経験を有しているのが企業で
ある。また、国家レベルの巨大プロジェクトのように、企業としての事業化が難しい分野では、政府の政策
的な方向付けや研究開発資金の果たす役割は欠かせない。
──北城恪太郎氏、2005 年 9 月号、巻頭言
●シーズドリブン型の産学連携からニーズドリブン型の産学連携へのシフトが必要だということです。これ
は 21 世紀のイノベーション創出構造の変化に伴うことだと思います。20 世紀はキャッチアップ型でした。
(中略)トップランナーになった現在は、白紙に巨大な大きなピラミッド型のイノベーションを自分で描いて、
それを創らないといけないのが 21 世紀型の日本のイノベーション構造です。社会のニーズに基づいた産学連
携が不可欠です。ちなみにこれは第 3 期科学技術基本計画の新機軸です。
──柘植綾夫氏、2006 年 11 月号、連載「産業界に聞く産学連携」
産学連携がブリッジする知の創造とその経済的価値の結合─日本のとるべき科学技術立国への道は─
●イノベーションを日常の中で生み出すことは容易なことではない。何よりも自由で多様な発想とこれらを
融合させる環境づくりが大切である。特に固定化された組織ではイノベーションを生み出すことは難しい。
常に組織の変革を行い、人材を流動化させていくことが必要である。米国のシリコンバレーにおいて盛んに
新しいビジネスが起こるのは、人種、国境を越えた有能な人材が常に流入し、切磋琢磨(せっさたくま)を伴っ
たコミュニケーションの中から新しいイノベーションが生まれているからに他ならない。
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──小島順彦氏、2008 年 1 月号、巻頭言・新産業イノベーションを目指して
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●クリエイティビティーとイノベーションは違います。クリエイティビティーというのは誰にでもあるんで
しょうけれども、イノベーションはそういうわけにはいかない。社会的な修練が必要です。イノベーション
というのは文化なり何なりの集合体の上に乗っかってできること。やる人々の修練だけでなく、それを組織
する人がそれなりの考え方と実行力を持ってないとできないですね。
──林 主税氏、2009 年 6 月号、特集「産学官連携の新たな挑戦」修練を積んだ人がイノベーションを起こす
人材が要
●現在の複雑で不透明な時代においては、1 つの学問で現実の問題に対応することが困難な場合が増えてい
る。よって、領域・分野横断的な問題解決アプローチが重要になってくる。同じように、大学においては学
部・研究科の縦割り、官庁においては省庁の縦割りでは現実の問題に対応できない。昨今、領域間・分野間
などの研究資金の配分や、その方式の決定、プログラムオフィサー間の調整などを役割としてプログラムディ
レクターが活躍し、これらの溝を補っている努力が見られるのは好ましいことだ。
──安西祐一郎氏、2008 年 2 月号、巻頭言・産学官連携の在り方
●大学時代の学習熱心度は、卒業時の知識・能力獲得程度に影響を与える。その知識・能力の量が、現在の知識・
能力獲得程度につながり、ひいては現在の地位も規定する。直接的ではないが、こうした間接的な効果が大
学時代の学習にはある。大学時代、熱心に学習していた者ほど、社会に出てから活躍する可能性が高いとい
うことである。 ──濱中淳子氏、2008 年 4 月号、連載「新しい技術者像を探る」
工学系卒業生のキャリア形成(上)大学時代の過ごし方と技術者の地位
●地域においてイノベーションの担い手となっている中小企業では、開発に従事する技術人材が不足してい
る。イノベーションの担い手と言うからには、
研究開発を行うだけでなく、
市場化まで含めた製品開発力を持っ
ていることが必要である。
──児玉俊洋氏、2008 年 6 月号、特集「科学で地域を元気にする」
開発型の中小企業における博士人材活用の場
●日本の技術者は国際標準のエンジニアと同等である、と主張するには、その能力についても同等性の裏付
けがなければならない。エンジニアに求められる complex な課題に対する対処能力、換言すれば知識応用力、
問題分析力、デザイン力、評価力、公益・法規・環境・倫理への責任力、チーム力、コミュニケーション力、
プロジェクトマネージ力、継続学習力のすべてにわたって、世界標準に欠けることがあってはならない。
──大橋秀雄氏、2009 年 3 月号、連載「新しい技術者像を探る」日本の技術者、世界のエンジニア
コミュニケーションを深める
●異分野融合による研究開発を進める場合、必要なことは説明責任だと思います。まあ、それほど堅苦しく
考えなくてもいいのですが、要は自分が考えていることを、分野の違う人にちゃんと理解してもらえる言葉
で話せなければいけません。
──田中耕一氏、2005 年 9 月号、対談・質量分析計をめぐるノーベル化学賞受賞エンジニアと
医師の産学連携の実際
●今、われわれがパソコンに期待しているのは演算能力のスピードではない。多くの機能の中で、最も利用
頻度が高く、重要視されているのは、インターネットや E メールに代表される快適な相互通信の環境、コミュ
ニケーション機能である。しかしながら、計算機能中心で進化してきたコンピュータは、コミュニケーショ
ン機能を最適化する道具ではないのである。
──原 丈人氏、2005 年 11 月号、コンピュータの次世代基幹産業は何か?
そして世界のどの国が主導するか?
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●社会の成熟化に伴い、科学や技術はブラックボックス化し、わたしたちは便利さと引き換えに、科学や技
術のプロセスを五感で感じる機会を失ってきた。しかしながら、科学や技術のもたらす結果を一方的に享受
するだけでは、科学離れ問題や科学リテラシー不足などの社会的リスクを回避することはできない。
──大草芳江氏、2009 年 10 月号、科学と地域社会つなぐ社会起業家
─特定非営利活動法人 natural science ─
技術・科学のもう一つの顔
●我々研究者は本来、ノウハウとして片付けられていた技術や技能を科学的に解明し、さらにその対策を探
ることを使命としてきた。つまり技術の研究は、言わばノウハウのような暗黙知を、形式知にいかに解き明
かすかの仕事をやってきたとも言える。とはいえ、残念ながら依然として多くのノウハウは残されている。
──中川威雄氏、2005 年 3 月号、巻頭言・コーディネートのノウハウ
●従来の科学が求めてきたのは、真理の探究であり、実証論的帰納法に基づくアプローチ、すなわち、人類
の未知の課題を「解く」ことが科学の目的であった。このアプローチは、社会がどう変わろうとも、科学の
基本構造として変わることはない。変わったのは、この構造そのものではなく、科学技術のもう一つの構造
が必要になったことである。
──石川正俊氏、2005 年 5 月号、産学官エッセイ・産学連携の未来
●技術移転の本質は、
「より地域企業へ、
より小企業へ
(sell local, sell smaller)
」
が原則であり、
一時的なイメー
ジに踊らされることなく、技術を育てることが重要である。
──森下竜一氏、2006 年 5 月号、巻頭言・踊り場脱却に向けた産学官連携活動の重要性
●中国の古典に工の字の上の横一本棒は天の与えてくれたもの;資源とか気象の雨・風・太陽光などを示し、
下の横一本棒は地の上の人と社会を示し、この天の賜を有効利用して地の上の人と社会に幸せをもたらすの
が工であるという意味を込めているという記載があると教えられた。西洋の科学技術の発生の多くが武器に
あったのと大きく異なっている。つまり東洋の科学技術は工の字で示されるが、人間と社会への貢献を基調
としていることがかなりはっきりしている。
──西澤潤一氏、2006 年 7 月号、巻頭言
●一生懸命やっていると、必ず新しい考え方やヒントが出てくる。物質は多面的だから、ある面で切ったら
見えないかもしれないけど、別の視点で切れば、必ず新しい顔を見せてくれるんですよ。材料科学を縛るのは、
世の中のために役に立つ、それを目指すことだけです。
──細野秀雄氏、2009 年 6 月号、特集「産学官連携の新たな挑戦」
材料科学の“新大陸”を発見 研究にオール・オア・ナッシングはあり得ない
ベンチャーの心得
●米国で技術力のある VB(ベンチャービジネス)が勃興したのは官の掛け声や補助金ではなく、マイクロソ
フト、インテルなどの成功が次の起業家たちを鼓舞したからである。彼らを鼓舞するのは起業呼び掛けのイ
ベントでも補助金でもなく、過去の成功事例であることを肝に銘じるべきである。
──西岡郁夫氏、2007 年 2 月号、巻頭言・ベンチャーによるイノベーションのために
●人の一生涯の人生と VB(ベンチャービジネス)は共通点が多い。
──堀場雅夫氏、2007 年 4 月号、巻頭言・ベンチャービジネスと産学連携
●大学発ベンチャーとして初の米国でのⅢ相試験にたどり着けたのは、人材が一番大きな理由だと考えている。
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──鍵本忠尚氏、2008 年 1 月号、連載「九州大学発創薬ベンチャーが世界を目指す」
(前編)米国で最終の臨床試験(第Ⅲ相)実施中
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●ハイテク・ベンチャー企業を成功に導くには、イノベーターを越えて、いかにマジョリティを取り込むか
を工夫する必要がある。しかし、多くのベンチャー企業にとって、販売対象をイノベーターからマジョリティ
に移行させるのは非常に難しい。
──大滝精一氏、2009 年 2 月号、特集「独創技術 事業化への苦闘と陶酔」キャズムを乗り越える
歴史に学ぶ
●(産学官連携モデルとして)東工大の例を 1 つ。武井武先生が東工大におられたときのフェライトのお仕
事です。磁性微粒子を使っていろいろものができるぞと、フェライトそのものの開発をしました。戦前から
戦中にかけての当時、特許権そのほかを全面的に取っていたのはヨーロッパのフィリップスという電機会社
でした。発明された武井先生のところに、技術のノウハウはすべてありました。大変な時代に、東京電気化
学工業(現在の TDK)の創立者、齋藤憲三さんと二代目社長の山崎貞一さんがパートナーとなり、これが大
変効果的に生きて、フェライトが開発され商品になり、今の時代を迎えています。
──相澤益男氏、2005 年 1 月号、対談「新時代の産学官連携を語ろう」
●日本人には“宮大工技術”
、
“たたら製鉄技術”
、
“西陣織”
、
“漆塗り”など、元来新しい技術に興味を持ち
自らの工夫で丁寧なものづくりをし、さらにはきめ細かなサービスを提供する DNA が宿っている。
──古池 進氏、2006 年 9 月号、巻頭言
●この炭素繊維は産官連携の代表例である。昭和 34 年、大阪工業試験所(現、産業技術総合研究所)の進藤
昭男博士がポリアクリロニトリル(PAN)繊維を熱安定化してから黒鉛化すると高強度の炭素繊維が得られ
るという基本技術を発明し、PAN の重合と紡糸技術を持つ当社がライセンスを受けて世界で初めて商業生産
につなげた。今で言うところの、オープン・イノベーションである。
──榊原定征氏、2009 年 1 月号、巻頭言・科学技術が地球を救う
●日本化学繊維協会と繊維学会は同年(1990 年)、繊維学会長を団長とし産学官で構成する繊維欧米調査団
を結成し約 2 週間にわたって欧州、米国の主要な繊維工学、衣服工学の学部や学科を持つ大学を訪問調査した。
欧米では繊維は食と同じ重要な分野、どこの国でも「なぜ日本では繊維学が大学から消えていくのか理解で
きない」と一様に聞かれた。
――白井汪芳氏、2009 年 7 月号、特集「多芸多才 繊維の素顔」
国立大学唯一の「繊維学部」 信州大学はなぜ守り続けているのか
●国産合成繊維ビニロンの開発は、学でできたシーズをもとに産学共同研究を経て産が工業化した先駆的な
産学連携事業なのである。しかも、パイロット段階では産・学の研究者が協同しやすい中間的な研究開発施
設および組織をつくって運用するというユニークな手法を編み出している。
――梶谷浩一氏、2009 年 12 月号、特集「日本初―2 つの物語」
「合成 1 号」ビニロンの工業化─先駆的な産学連携事業─
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連載
第7回
各国の研究開発戦略
中国
二歩先の「先進製造技術」目指す
欧米の先進諸国と同様、中国も製造業強化に取り組んでいる。重点分野は、次世
代をにらんだ「先進製造技術」。研究資金の配分でも拡大策を打ち出している。
■迫られた選択:製造業のイノベーション
中国は 2008 年以降、輸出総額が 5 年連続で世界第一位となり、第二位のド
周 少丹
イツとの差を広げつつある。
「Made in China」はすでに世界各国の日常生活に
Zhou Shaodan
浸透しており、
「製造大国」という名を手に入れた。しかし、外資からの技術導
独立行政法人科学技術
振興機構 研究開発戦
略センター 海外動向
ユニット フェロー
入への依存度が高いことや、
製造プロセスにおける高い環境負荷、
低いエネルギー
効率と生産技術力、人件費の上昇といった課題を抱えている。生産技術力は、大
半の企業が第 2 次産業革命レベルである電気エネルギーによる大量生産にとど
まり、情報技術を駆使した生産自動化のような第 3 次産業革命レベルに達して
いない。中国が「製造強国」になるまでには距離がある。
2008 年のリーマンショックの後、欧米の先進諸国は製造業の重要性を再認識
し、それぞれ次世代製造技術に関する政策を打ち出し、最新の ICT 技術や材料
技術などを融合し、製造業強化に向けた支援を行っている。中国は上述の国内固
有の課題を抱えながら、いかにして次世代製造技術の舞台で先進国と競争と協力
するのか──という二歩先を考えざるをえない。中国はイノベーションを創出す
るしかないという選択を迫られている。
*1
■先進製造技術に関連する二つの科学技術政策
2000 年以降、「製造大国」の地位を確立しつつある中国は、資源依存型 ・ 労
働集約型生産方式から脱却し、イノベーションによる国民経済の持続可能な発展
を狙い、国務院*1によって「国家中長期科学技術発展計画綱要 2006-2020 年(以
下「中長期計画」)」が打ち出された。
「中長期計画」は、一点突破で国力を向上
させることや、現在中国が所有していない技術の空白領域を埋めることを目的と
して 16 重大特定プロジェクトを指定すると同時に、将来有望な新市場のニーズ
を見据え、
新しい産業を育成する際の基盤となる「先端技術(8 項目)
」も指定した。
本稿のテーマである先進製造技術は先端技術の一つであり、
「情報技術との融合」
「極限製造*2」「グリーン製造(低環境負荷製造)
」という方向性が定められ、極
限製造技術、次世代ロボット技術*3、重要製品や大型設備の寿命予測技術が重
点分野とされている。
2008 年のリーマンショック以来、欧米や日本は自国の産業の優位なところ
を強める姿勢を示している。中国政府も中期的に産業構造の調整が必要と考え、
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内閣府に相当し、その傘下に
は、科学技術部、教育部、工
業・情報化部などの省庁や、
中国科学院や国家自然科学
基金委員会(ファンディング
エージェンシー)等もある。
国の基本政策を策定する機
関である。
*2
極限製造とは、高温や低温、
強磁場など極端的条件におい
て、極めて複雑な性能を持つ
巨大なまたは微少な部品 ・ シ
ステムを生産することを意味
する。例えば、マイクロ電気
機械システム、マイクロ ・ ナ
ノシステム、超精密 ・ 微細加
工技術など。
*3
構造化されていない環境で人
類に特定のサービスを提供す
るロボット、例えば、警備ロ
ボットや医療ロボットなど。
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2011 年 7 月に中国科学技術部が「中長期計画」の二期目の施策として「国家第
十二次科学技術発展五カ年計画(以下、
「十二 • 五計画」
)
」を打ち出した。先進
製造技術は「先端技術」という位置付けは変わらないが、方向性はグリーン製造
とインテリジェント製造*4に絞られている。また、五つの最優先課題と 10 の重
*4
IM(Intelligent Manufacturing)、
自動的に環境の変化や生産プ
ロセスの調整に適応し、オペ
レーターから最小限の管理と
援助で多種多様な製品を生産
する製造方式のことである。
点技術が指定されている。
図1 先進製造技術に関する方向性と技術分野の変遷
図 1 の通り、当初の「中長期計画」の技術分野を分化したり、統合したりし
たため、
「十二 • 五計画」の技術分野はより明確になった。ただし、次世代ロボッ
ト技術の具体的研究分野は「十二 • 五計画」では言及されていない。また、
「十二
• 五計画」では「情報技術との融合」の表現が消えたが、代わりにそのバージョ
ンアップ版である「インテリジェント製造」が目指す方向とされおり、
製造業サー
ビス化技術における特定の技術分野になっている。
■研究資金の配分
中国中央政府の研究基金は、主として科学技術部「ハイテク研究発展計画(以
下「863 計画」)」と国家自然科学基金委員会(以下「NSFC」
)が先進製造技術
の競争的資金を提供している。
2008 ~ 14 年、科学技術部は「863 計画」 で 2 億 550 万元(約 46 億円)を
投入した。特筆すべきは、「863 計画」 の資金を受け取るには、研究者が競争的資
金と同額の研究資金を自前で用意しなければならないということである。つまり、研究
資金総額が倍の 5.1 億元(約 92 億
円)になるわけである。一方、NSFC
表 1 863 計画および NSFC が拠出する先進製造に関する競争的資金
研究資金機関
プロジェクト名
は 2015 年までに 2,180 万元(約 3.8
介護型ロボット技術
億円)しか投入しなかったが、2014
埋め込み型人工心臓技術
年に国家航天局傘下の中国航天科
学技術グループと協議し、これからの
科学技術部
863 計画
2 年間で宇宙向けの先進製造技術に
1.5 億元(約 27 億円)を投入する。
これは、 先 進 製 造に関する競 争 的
資金の 35.2% を占めるほど多額で、
新たに宇宙技術分野に重点を置き、
強く推進する狙いが自明であろう。
国家自然科学
基金委員会
(NSFC)
総 額
期 間
2,200 万元(約 4 億円)
2008年12月 - 2010年10月
500 万元(約 9 千万円) 2009年 9月 - 2010年12月
MEMS 部品設計、製造および応用技術
8,800 万元(約 15.9 億円) 2011年 1月 - 2013年12月
高性能四足型ロボット技術
4,500 万元(約 8.1 億円) 2011年 1月 - 2013年12月
オートメーション向け無線技術(WIA)
4,500 万元(約 8.1 億円) 2011年 1月 - 2014年12月
クラウド ・ マニュファクチャリング向けプラット
フォーム技術
5,000 万元(約 9 億円)
先進的工作機械のマルチボディのダイナミクスと
制御技術
1,040 万元(約 1.9 億円) 2011年 - 2014年
新型オプトエレクトロニクス材料の精密研磨加工
技術
1,040 万元(約 1.9 億円) 2011年 - 2014年
(宇宙局と共同出資)宇宙技術向け先進製造技術
1.5 億元(約 27 億円)
2011年 1月 - 2013年12月
2015年 - 2017年
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■中国科学院の取り組み
中国科学院
(CAS:Chinese Academy of Sciences)
は 1949 年に創立された、
中国最高レベルの自然科学とハイテクの総合研究機関である。中国国務院に直属
するため、純粋な科学研究にとどまらず、国の政策にも深く関与している。統計
によると、2012 年時点で 104 の研究所と 5 万 2,250 名の研究者を擁する。
先進製造への取り組みに関し、中国科学院は 2009 年に『中国 2050 年に向け
た先進製造技術発展ロードマップ』を発表した。グローバル化、情報化、インテ
リジェント製造、グリーン製造といった分野融合が進展する中で、先進製造を発
展させるためにグリーン製造とインテリジェント製造という二つの方向を示し、
それらを代表するユビキタスベース製造システム(図 2)およびグリーン製造技
術について「~ 2020 年」「~ 2030 年」
「~ 2050 年」の三段階に分けてロード
マップを掲げている。
ロードマップに合わせて、中国科学院は製造技術レベルが高い地域の地方政府
と連携し、先進製造技術向けの研究機関を数多く設立した*5。
*5
例えば、西部大開発の中心地
である重慶に「インテリジェ
ント製造技術研究所(研究
者 100 名余り)
」
、重工業が
密集する東北地域に「東北先
進製造と材料 ・ 大型設備研究
地域センター(研究者 4,755
名、センターを構成する東北
地域の中国科学院 五つの研
究所の研究者合計)
」
「ハルビ
ン産業技術イノベーションセ
ンター」
、華東工業地域に「寧
波先進製造技術研究所(研
究者 130 名)
」
「合肥先進製
造技術研究所(研究者 255
名)
」
「常州先進製造技術研究
開発・産業化センター(研究
者 500 名余り)
」が設置され
ている。また、独自で吉林省
長春市に「光学システム先進
製造技術重点実験室」を設
置し、全国各地での先進製造
技術を推進している。
■期待される産業界の動き
中国では、2011 年 4 月にドイツが発表
した「インダストリー 4.0」戦略が注目を
集めており、これを参考に中国のやり方
について盛んに議論されている。2014 年
10 月、李克強総理がドイツを訪問した際
に、メルケル首相と「インダストリー 4.0」
における中独間協力を含める「中独アク
ションプラン」を発表した。具体的には、
協力の主体を両国の企業にし、「インダス
トリー 4.0」を中独標準化協力委員会のア
ジェンダにする。そして、中独両政府は協
力のフレームワークを構築し、支援策を
策定する。また、中国工業・情報化部 ( 以
下「MIIT」)、中国科学技術部(MOST)
、
独連邦経済・エネルギー省(BMWi)
、独
図2 中国 2050 年に向けた先進製造技術発展ロードマップ
連邦教育研究省(BMBF)の間でダイアロ
(ユビキタス製造システムの例) グを設置する。
2014 年 1 月、MIIT は、工程院(CAE)に中国版の次世代製造技術戦略であ
る「China Manufacturing 2025」産業戦略の策定を依頼し、2015 年に発表す
る見通しである。
(本連載は今回で終わります)
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視 点
大自然の偉大さと不思議に学ぶ産学官連携
文系の産学連携に注力してみよう
★息をのむほど素晴らしい風景に出会うと
★ 「産学官連携っていったら医療とかなんか
き、大自然の偉大さと不思議さを思う。自然
は複雑にも単純にも見えるし、時に力強くも
あり優しくもある。また、一つの大きな自然
の美と映ることもあるし、一つ一つの小さな
美しさに感銘を受けることもある。
産学官連携も同じではないだろうか。確か
にそれは奥が深く複雑だが、理解できるとシ
ンプルだ。そして関係者のことを思う優しい
心や誠意がないと、新しい知見を継続して育
成していくことはできない。研究開発も、支
援機関の活動も人間関係がよくて互いの心が
通っていないと、目標に向けて進めないと思
う。
難しい理 系 の 話でしょう?」。 ある企 業 経 営
者のこの一言を、 皆さんはどう思われるだろ
うか? 私は、 確かに産学連携は敷居が高く、
理系っぽいイメージが強いのだなあと再認識
した。しかし、大学等には多様な学部が存在
する。 いわゆる文系の研究分野もあるし、た
くさんの知的資産(権利化したものに限らず
知識、知恵全般)が詰まっている。「学」 の
世界は企業経営者にとっては宝の山ではない
かとも思う。 文系出身だからこそ見いだせる
価値があると信じて、文系の研究分野にひそ
むお宝を見いだし、中堅・中小企業にとって
身近な産学連携に取り組んでいきたいと思う。
大西 一男 一般財団法人九州環境管理協会
総合企画室 参与
編 集 後 記
中川 普巳重 公益財団法人京都高度技術研究所
新事業創出支援部 コーディネータ
忘れられたインキュベーター
成長戦略の中でベンチャー企業の果たす役割は大きく、国も各種事業を実施しています。
しかし、新事業支援施設であるビジネス・インキュベーター(BI)への期待の声は全くと
いっていいほど聞こえてきません。なぜ忘れられたのか。こうした疑問が、
特集
「ビジネス・
インキュベーション再考」
を企画した背景です。目新しさを求めるという政策の
「サイクル」
のせいだけではなさそうです。わが国の BI の数は、公的機関によって整備されたものだ
けでもおよそ 500 施設。使命を果たしている成功事例はほんの一握りというからまたまた
驚きです。目的が関係者で共有されず、マネジメントが不在。多くの示唆が得られます。
特別企画「
“連携人”100 人が発信してきたこと」の記事作成のために創刊号からの記
事を振り返ってみると、産学官連携の世界の変化の激しさを痛感します。例えば各大学が
相次いで設立した技術移転機関(TLO)
。この 10 年間で整理・淘汰(とうた)が進みま
したが、それは、大学の研究成果を産業界へ移転する新しい仕組みを育てるプロセスだっ
たともいえます。2013 年度の大学等の「特許権実施等収入額」は 22.1 億円と初めて 20
億円を超えました。
産学官連携ジャーナル(月刊)
2015 年 2 月号
2015 年 2 月 15 日発行
PRINT ISSN 2186 - 2621
ONLINE ISSN 1880 - 4128
Copyright ©2015 JST. All Rights Reserved.
編集・発行:
独立行政法人 科学技術振興機構(JST)
産学連携展開部 産学連携支援グループ
編集責任者:
野長瀬 裕二
山形大学大学院 理工学研究科 教授
(編集長・登坂和洋)
問合せ先:
「産学官連携ジャーナル」編集部
登坂、萱野
〒 102-0076
東京都千代田区五番町 7
K’s 五番町
TEL:
(03)5214-7993
FAX:
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産学官の
検索
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インターネット上で広く一般に公開しているポータルサイトです。
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◆ イベント情報
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