9 2施設における経験的治療としての極低出生体重児(1500g 未満)の

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2施設における経験的治療としての極低出生体重児(1500g 未満)の敗血症疑診例に対
するピペラシリン/タゾバクタムとアンピシリン+ゲンタマイシンとの比較検討
Results of a two-center, before and after study of piperacillin-tazobactam versus ampicillin and
gentamicin as empiric therapy for suspected sepsis at birth in neonates ≤ 1500 g.
Chong E, Reynolds J, Shaw J, et al. J Perinatol. 2013,33(7):529-32
【はじめに】新生児の早発型敗血症 EOS に対する経験的治療 empiric therapy は,私の研修医時代(19 年前)
からアンピシリン ABPC+ゲンタマイシン GM(AG 併用療法)が推奨されていました.新生児領域においても
ABPC 耐性菌の出現が問題視されつつあるにもかかわらず,2014 年の現時点でもコクランレビューにおいて AG
併用療法に勝る抗菌薬はないとされています.今回は,“本当に AG 併用療法に代わる empiric therapy はない
のか”という疑問に答える文献を紹介します。
【要約】〈対象〉2007~2011 年に米国の Wesley Medical center と Tulane Lakeside Hospital の2施設に入院した
極低出生体重児 VLBWI のうち,EOS が疑われ empiric therapy を受けた 714 例を後方視的に検討した.このう
ち,2007~2009 年に 499 例が AG 併用療法,2010~2011 年に 214 例がピペラシリン/タゾバクタム PIPC/TZ(PT
単独)で empiric therapy が実施された.〈結果〉両群の患者背景に差はなかった.AG 群において,壊死性腸炎
NEC(12% vs 1.4%, p<0.0001)とオムツ皮膚炎(48% vs 17%, p<0.0001)が有意に多かった.その他,重症脳室内
出血や脳室周囲白質軟化症,聴力障害,入院期間,死亡率,大腸菌の耐性化率などに関しては両群で有意な
差はみられなかった.〈結論〉PIPC/TZ 単剤による empiric therapy は,AG 併用療法と比較して NEC とオムツ皮
膚炎の発症が低く,耐性菌増加などの細菌学的な有害事象もなかったことから PT は AG の代替薬として期待で
きる.
【太田のコメント】AG 併用療法の問題点として,ABPC に関しては,通常量ではリステリア髄膜炎に無効であるこ
と,出生前暴露が NEC のリスクを高めること,ABPC 耐性大腸菌を蔓延させること.GM に関しては,聴覚毒性や
腎毒性,動脈管開存症への影響が懸念されています.この文献では,両群で治療効果に有意差がないのもか
かわらず,PT 群で NEC とオムツ皮膚炎の発症が有意に減少することが示されました.この現象には PIPC/TZ
が嫌気性菌にも抗菌力を有しており腸内細菌叢のバランスを大きくみださないことが影響していると予想されま
す.今後さらなるエビデンスが集積されれば,PIPC/TZ は AG の代替薬となり得ると考えます.
(小児科 太田 栄治)