報告書(PDF:698KB)

埼玉県における「日本語を母語としない子ども」に対する
教育支援ネットワークの形成
石戸教嗣 埼玉大学教育学部総合教育科学講座 教授
要約
ニューカマー受け入れの課題は、各県によって事情が異なり、全国一律の施策を打ち出しにくい。
その中で、地域に定住するニューカマーは着実に増えていて、特にその子どもに対する教育支援の
あり方が問われている。本県は都市散在型の県として、ネットワーク・ガバナンスのタイプのニュ
ーカマーの子どもに対する教育支援のモデルを作ることが有効と思われる。
[研究組織]
石戸教嗣(埼玉大学教育学部総合教育科学講座)
藤波香織(埼玉県県民生活部国際課主査)
濟木亨(埼玉県企画財政部改革推進課主査)(~平
成24年9月)
田辺敦規(埼玉県企画財政部改革推進課主査)(平
成24年10月~)
山尾三枝子(埼玉日本語ネットワーク副代表)
伊藤結花(財団法人埼玉県国際交流協会)
[研究期間]
平成24年度
1.研究の背景
グローバル化は日本社会が避けて通れない
流れであり、外国人増加率が全国平均に比し
高い埼玉県においては「多文化共生」型の地
域づくりはいっそう重要な課題となりつつあ
る。中でも、「ニューカマー」( 1990年入管
法改正以降に新たに日本に来た外国人)の子
どもが市民あるいは地域人材として成長する
ことの教育的課題は枢要である。
ニューカマー問題は、これまでは主に集住
地域におけるものであったが、グローバルな
水平的移動によって、地域に散在する型へと
変化してきている。本県は、一部に集住的地
域もあるが、基本的に散在型であり、全国的
にも注目すべき地域である。そのとき、家族
とともに来日する子ども、あるいは呼び寄せ
によって来日する子どもに対する教育は独自
な課題として浮上してくる。
埼玉県における外国人登録者数は、平成 23
年末において 11万 9700人である。この数字は、
過去最高であった平成 21年末の 12万 3600人か
ら減少しているが、長期的な趨勢としては、
今後も増加していくことが予想される。平成
13年から 23年までの 10年間で、日本全体で外
国人登録者数は 16.9%増加したのに対して、埼
玉県は 34.5%の増加率で、相対的に高い増加
- 1 -
率を示している。
こういった変化は同時に、外国につながり
がある子どもの数の増加をもたらしている。
『学校基本調査』によれば、埼玉県の中学校
に在籍する外国人の生徒は、平成 17年度には
798人であったが、平成24年度には1218人 と 、
この7年間で約 1.5倍となっている。また、埼
玉県の公立学校における日本語指導が必要な
外国人児童生徒数は、平成 17年度に 861人であ
ったのが、平成 22年度には 1424人と約 1.6倍と
なっている。
このように、外国人の増加傾向の中でも、
子どもの増加はそれを上回る増加を示してい
る。これは、 1990年の入管法の変更による増
加が、主に南米日系の成人男子の出稼ぎ労働
者によるものであったのに対し、近年は経済
・文化のグローバル化に伴う家族単位での水
平的移動あるいは国際結婚によるものへと変
化しているためであろう。
このとき、学校における外国人の子どもの
受け入れという課題が独自なものとして存在
している。すなわち、子どもは、大人と異な
り、言語・思考・アイデンティティが形成途
上であり、受け入れ側の対応によってその形
成結果が大きく変わってくると考えられるか
らである。
「日本語を母語としない子ども」たちは、日本
社会にとってグローバルな人材としての可能性を
秘めた存在である。しかし、これまで、日本社
会におけるニューカマーの子どもの受け入れ
についての明確な指針はない。また、研究面
でも、日本の学校における彼らに対する教育
支援の姿勢・体質についての評価は分かれて
いる。すなわち、それが同化主義・適応主義
かどうかについて、また日本の学校文化をめ
ぐる評価は分かれている。他方で、ニューカ
マーの子どもへの支援に関する研究はほとん
どが集住地域を対象にしていて、都市型散在
地域においてそれをどう進めるべきかの研究
はほとんどなされていない。
2.目的
どもとどのような関係をもっているのかを把
握する必要もある。
本研究は、埼玉県が「多文化共生社会」を目指
すうえで、ニューカマーの子どもの教育をめぐる
実態を明らかにしつつ、教育支援のあるべきモデ
ルとその実践的課題を探るものである。
教育支援を考えるうえでまず考えておかねばな
らないことは、1)支援に対するニーズの質と量
であり、2)また、支援する側の人的・物的な資
源とその動員可能性である。
1)に関わっては、すでに先行研究でも明
らかなように、ニューカマーの子どもへの教
育支援では、学校内での日本語指導の充実の
課題に加え、学校外でも日本語・教科学習の
支援を求める声が強い。(『外国にルーツを
持つ子どもの実態調査』新宿区、平成 24年)
この教育要求は、単に日本語能力・学力を付
けたいというものではなく、子どもが日本社
会で生活していくうえで必要な総体的な能力
の 形成への 要求と してとら えるべき であろう。
ここから、ニューカマーの子どもへの教育
としては、学校における指導と学校外におけ
る支援の両側面を見据え、その両者の分担あ
る いは連携 のあり 方を探る ことが求 められる。
他方で、ニューカマーの子どもの教育課題
として実践的にも、先行研究でも明らかにな
っていることとして、高校進学の壁がある。
また、近年では、それと連続して大学進学の
壁の問題も大きくなってきている。これは単
に受験対策という問題としてとらえるべきで
はなく、日本語指導と学力形成との関連づけ 、
また彼らの日本社会における役割とキャリア
形成の問題としてとらえるべきである。
ニューカマーの子どもにとって、生活の場
が学校であるとき、彼らは日本の学校が抱え
る問題、たとえば、いじめ問題にも直面する
ことが予想される。このことは、ニューカマ
ーの子ども支援に関わる者の間では伝聞とし
てはよく聞くことであるが、その実態は明ら
かではない。アイデンティティ形成上の課題
を抱える彼らが、学習面だけでなく、学校生
活面でも安心して通えるようにするという課
題がある。
他方で、ニューカマー生徒への教育支援は 、
その当面性のゆえに、学習・学校生活に関わ
ること、とりわけ初期日本語指導に限定され
がちであるが、多文化共生の地域づくりにと
っては、より長期的な視点に立つことが求め
られる。ニューカマーの子どもの教育的ニー
ズは、彼らとその家族が置かれている生活構
造によっても大きく異なる。すなわち、彼ら
が日本社会で生活していくうえでの展望や子
どもに対する期待がいかなるものであり、子
- 2 -
2)の支援側の課題としては、本県ではす
でにこの 10年間、県内各地でニューカマーの
子どもへの教育支援活動を行う日本語教室が
作られ、活動してきている。しかし、そこで
の課題としては、支援者の高齢化と活動の継
承、また、支援される子どもとの年齢ギャッ
プ、支援者が学習指導ができないといった状
況がある。また、各教室間でなされてきてい
る実践を相互に共有する活動は、県国際交流
協会が開催する研修会などにとどまり、日常
的なものとなっていない。
本研究では、これらの課題にアプローチす
るうえで、「ネットワーク」という概念に注
目し、ニューカマーの子どもへの支援を地域
ネットワーク、学校と地域の支援教室のネッ
トワーク、あるいは支援者と研究者とのネッ
トワークという複合的なネットワーク形成を
構築する方向性と展望を描いて研究に取り組
んだ。
3.方法
上に示した課題に取り組むために、本研究はつ
ぎの3つの柱を立てた。
(1)「日本語を母語としない子どもの学習支援
教室」の県内における新規設置可能性を探る
(2)「日本語を母語としない子どもに対する教
育支援」に関する埼玉県内研究者のネットワーク
の形成を模索する
(3)埼玉県における「日本語を母語としない子
ども」の生活・学習の実態を調査する
この3点はつぎのような観点と方法で、取り組
まれた。
(1)「多文化共生社会」を目指すうえで、ニュ
ーカマーに対する支援は、公的機関だけではなく、
地域・市民のボランタリーな組織によって担われ
るべきである。特に、ニューカマーの子どもに対
しては、年齢が近い若者世代の支援が有効と考え
られる。その先行事例として、埼玉大学と埼玉県
国際交流協会が共催する大宮ソニックにおける
「多文化共生広場」があり、その取り組みを分析
しつつ、他地域にも広げる可能性を探る。
それに向けて、ニューカマーの子どもへの支援
の経験が深い関係者、各関係機関・団体への聞き
取り調査を行う。
聞き取り・見学は、つぎの5か所に対して行った。
・「K市子どものための日本語教室」
・W市教育委員会
・「多文化共生センター」(三河島)
・荒川区立第九中学校
・本庄S中(「通訳」として生徒支援を10年以上続
けているKIさんに話を伺った。)
・本庄TS学園
(この他、・K市教委日本語教室、K市成人講座関
係者にも話を伺った。)
つぎの5人が呼びかけ人となり、県内の多文化
教育に関心を持つ大学関係者・在住研究者に参加
を呼びかけ、現在までに31人の参加が得られた。
呼びかけ人:石戸教嗣(埼玉大学)、門美由紀
(立教大学)、小出慶一(埼玉大学)、中本進一
(埼玉大学)、結城恵(群馬大学)
(2)埼玉県内に所在する大学は62大学にのぼり、
地域の知的インフラとして潜在的な支援可能性を
もっていると思われる。その可能性を引き出すた
めに、県内各大学の多文化教育・異文化間教育・
日本語教育者間のネットワークを形成し、研究面
のみならず、「日本語を母語としない子ども」の
支援に関する実践的な情報交換の場とすることも
企図する。
「埼玉県多文化教育研究協議会」を発足させ、
その活動を通じて埼玉県内の多文化教育関係者間
のネットワークを形成する。
(3)埼玉県における外国人の人口は全国5位で
あるが、他県に比べて散在的であり、「日本語を
母語としない子ども」は学校の中で「見えない存
在」になりがちである。したがって、彼らが抱え
る教育面の独自な困難についての学校関係者の認
識も必ずしも明確ではない。埼玉県における「日
本語を母語としない子ども」の生活・学習実態に
ついて県内の状況を把握するために、生徒および
保護者に対する調査を実施する。
4.結果
(1)子ども支援教室を開設するには、継続して
活動できる場所・支援参加者・子どものニーズ・
活動資金の4つの条件が揃う必要がある。
子どものニーズについては、それが集積してい
る地域として、川口・本庄を候補として挙げ、そ
れぞれ関係者に聞き取りを行い、そのニーズを確
認した。場所については、可能性があるものの、
教室の鍵の受け渡しなどの管理面での支障がある
ことが分かった。最も難しいのは、人的な学生ボ
ランティアの確保である。候補となる地域には地
元・拠点となる大学がないため、学生が通うこと
が難しい。また、貧困家庭の生徒への学習支援活
動などの有償ボランティアに携わる学生も多く、
これらの条件を満たすことがいかにして可能とな
るかを探ることがこれからの課題となる。
この協議会の発足によって、埼玉県内の多文化
共生に関する一つの研究ネットワークが整備でき
たと思われる。
同研究協議会は、発足後、これまで以下の3回の
セミナーを開催した。
〇第1回:8月21日
「外国につながりがある児童・生徒をめぐる学
校と外部機関の連携」
報告者:石戸教嗣(埼玉大学)
〇第2回:12月15日
「埼玉県南部における中国系ニューカマー生
徒の実態」
a)学校ボランティアの視点から:S中におけ
る生徒の聞き取りによる
報告者:寿超(上海出身・埼大大学院修士
課程)
b)学校教師の視点から
報告者:古山美保(S中学校英語教諭)
c)地域における日本語・学習支援教室の視点
から
報告者:瀬尾円(台湾出身。かわぐち子ど
ものための日本語教室)
〇第3回:3月20日
「日本の学校における多文化教育の課題と方
向:アメリカの動向をふまえて」
報告者:川崎誠司(東京学芸大学准教授)
(3)公立中学校における「日本語を母語としな
い」生徒・保護者に対する質問紙調査の結果
①概要
<調査対象>
本調査の対象となったのは、埼玉県の公立
中学校に在籍する「日本語を母語としない子
ども」とその保護者である。
埼玉県はニューカマーが散在する県である
が、県内には「日本語を母語としない生徒」
が在籍しない学校も相当数あるため、つぎの
ように対象校を限定した。
外国人登録者数あるいは比率で県内上位 10
(2)「埼玉県多文化教育研究協議会」の結成
- 3 -
市町 (計16市町)の全公立中学校、および日本
語 指導対応 加配教 員が配置 されてい る中学校 、
国際交流員の派遣実績のある公立中学校 計
210校。
<在日年数>(図2・図3)
20%
生徒
15%
<調査方法・手順>
・調査質問紙の中学校への送付(平成 24年 10
月):さいたま市立中学校にはさいたま市教
委を通じ、他の県内の公立中学校には質問紙
を郵送した。
・質問紙の手渡しと回収(平成 24年 10月~ 12
月):各学校において、「日本語を母語とし
ない」と思われる生徒に、回答言語版の質問
紙を手渡し、家庭で記入してもらい、郵送法
で回収した。
・手渡し状況の報告(平成 24年 10月~ 12月)
:質問紙を送付した各中学校から、調査対象
となった生徒の人数および質問紙の手渡し数
をファックスで報告していただいた。また、
依頼した回答期限を過ぎた各校には、eメール
によって報告の督促を行った。
10%
5%
0%
1 2 3 4 5 6 7 8 9 101112131415161718
年以内
12
%
保護者
10
8
6
4
2
0
1 3 5 7 9 11 13 15 17 19 21 23 25 27 29 31 33 35 37 39 41
年
調査対象者数・実施率・回収率 は表 1の通り
である。
③主要な結果
表 1. 調 査 対 象数 ・ 実施率 ・ 回 収率
A
調査対象生徒数(「日本語を母語としな
い生徒」数)
B
手渡し数
C
調査実施率(A/B)
D
返送数
E
回収率(D/B)
<学校生活>
1029 人
SQ11―あなたの学校に通う理由は何ですか?(複数)
(図
475 通
4)
46%
80
151 通
%
32%
70
60
50
表1において、D以外は推定値である。これは、
質問紙を各学校で手渡し、郵送で回収するという
調査方法にもよるが、同時に、調査対象者(母数
集団)の人数自体が推定値によってしか得られな
いためである。
40
30
20
10
0
②回答者の属性
<出身地域(生徒)>(図1)
男子
女子
39.7
16.6
9.9 5.3 4 4 12.6 7.9
「SQ3
0%
20%
中国(60人)
ブラジル(15人)
韓国(6人)
その他(19人)
40%
60%
80%
100%
あなたの今の学校での様子についてお聞き
します。当てはまるものすべてに○をつけてください。
」
フィリピン(25人)
ベトナム(8人)
ペルー(6人)
無記入(12人)
(図 5)
- 4 -
%
80
22.7
60
40
0%
44.7
20.6
20%
40%
かなりある
どちらでもない
20
9.2 2.8
60%
80%
少しある
あまりない
100%
「Q23b 将来の目標に向けて勉強している」(図 8)
0
38.6
0%
男子
34.3
20%
40%
かなりある
どちらでもない
ほとんどない
女子
21.4
3.6
2.1
60%
80%
少しある
あまりない
100%
「Q23c 勉強をするとき計画を立てている」
(図 9)
SQ18―母国にいた時と今を比べて、生活はどんな変化が
ありましたか?(5段階)
d.学校に対する満足度(図6)
13.0
31.9
0%
40.0
0%
20%
19.0
40%
32.0
60%
増えている
どちらでもない
減っている
20%
40%
かなりある
どちらでもない
4.05.0
80%
34.1
100%
少し増えている
少し減っている
<勉学状況>
ニューカマー生徒の勉強への意欲は、全体的に
見て良好である。全体の 67%の生徒が「勉強のや
る気」があると答えている。授業が分からない、
学力がつかないという現実があるにもかかわらず、
向学心を持ち続けていることは、ニューカマー生
徒をとらえるうえで重要な視点であろう。
また、Q23b「将来の目標に向けて勉強している」
率も全体で約7割と高い。おそらく、日本の中学
生の平均をはるかに超える率であろう。これはま
た、欧米各国において移民の方が学歴アスピレー
ションが高いという OECD 国際調査の結果とも一
致するものである。
(『移民の子どもと学力』p.110)
「Q23a 勉強のやる気」
(図 7)
13.0
60%
8.0
80%
100%
少しある
あまりない
「勉強のやる気」は 65%以上が「ある」と回答
している。しかし、在日年数別で見るとき、
「やる
気」は
「在日 2-5 年」層で一時的に減少している。
これは、日本における生活に慣れ、来日初期の緊
張感から解放される反面、日本の学校でのこれか
らの勉強の見通しを持つことの困難さによると考
えられる。
0%
2年未満
2-5年
6年以上
20%
40%
17.9
22.9
60%
51.3
20.5
31.4
31.4
かなりある
どちらでもない
ほとんどない
80%
34.3
45.7
100%
7.72.6
11.4
0.0
8.6 5.7 8.6
少しある
あまりない
図10.「勉強のやる気」(在日年数別)
<日本語指導>
「SQ27 日本語指導の時間を増やしてほしいですか?」
(図 11)
- 5 -
80.0
母
国
で
70.0
60.0
37.5
27.1
18.8 11.15.6
50.0
40.0
現
在
30.0
38.1
15.0
29.9
14.3 2.7
20.0
10.0
0%
0.0
全体
2年未満
2-5年
20%
40%
a.十分
c.どちらでもない
e.まったく不足
6年以上
60%
80%
100%
b.ちょうど
d.不足
物価水準の違いはあるが、来日前は「中の上」
の階層であったと思われる。来日後は、生活が厳
しくなっていることが窺える。
<保護者の生活・経済状況>
(図12・13における「父」「母」は、いずれも外国
出身の人である。)
<保護者の来日理由>
「PQ84 どんな仕事をしていますか?」(図12)
PQ72-あなた(保護者)が日本に来た理由は何です
か?(複数回答)(図 15)
16%
父
56%
母 5% 17%
0%
13%
20%
自営業
アルバイト
16%
49%
40%
60%
正社員
働いていない
13%0%
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
16%
80%
100%
派遣社員
「PQ83 毎日、何時間くらい働いていますか?」
(図13)
2年未満
2-5年
父 0%
6%
31%
16%
母
0%
50%
12%
20%
52%
40%
60%
働いていない
4時間以下
9~12時間
13時間以上
6年以上
13%
来日が最近になるほど、経済的理由は減少して
いる。最近来日した層では、国際結婚による理由
が多い。来日理由は多様化し、経済的理由・文化
的理由・家族的理由が混在するものとなっている。
あるいは、
「外国に住んでみたかった」というよ
うに人生経験の機会としてとらえる場合もある。
「日本の文化に興味がある」が多いのも、それを
裏づけるものである。
19% 1%
80%
100%
5~8時間
父親は 63%が 1 日 9 時間以上の長時間労働であ
る。母親はアルバイトが多いため、「5~8 時間」
の労働時間の層が多くなっている。ここから、特
に父親が家庭内で子どもとの会話時間が十分にと
れていない様子が窺える。
<滞日意思>
「SQ41 あなた(生徒)の将来についてお聞きします。
」
(図 16)
PQ85-母国にいた時、収入は生活に十分でしたか?
PQ86-現在の収入は生活に十分ですか?
(図 14)
- 6 -
8.5
0%
47.2
20%
44.4
40%
a.母国に帰りたい
*保護者の記述
自由記述欄に記入がなされたのは、95 通であっ
た。生徒の記述が現在あるいは当面のことに集中
しているのに対し、保護者の記述は子どもの来日
前からの変化、子どもの将来についての時系的な
内容となっている。主な内容は、以下のようであ
る。
60%
b.日本に居たい
80%
100%
c.分からない
・勉強しなくなった、あるいは勉強時間が大きく
減ったことを挙げる場合が多い。その反対に、生
徒が自覚的・自発的に勉強するようになったとい
う場合もいくつかある。
・高校進学に関しての情報が入手できない、ある
いは得ようとしても言葉の限界で理解できないこ
とを挙げている。
・学校での補習、あるいは地域の日本語教室での
学習支援の強化を求める声がある。
「母国に帰りたい」という生徒は 1 割に満たな
いが、約半数が、将来生活する国について迷いや
不安を感じている。
(保護者もほぼ同じ結果である。)
④自由記述
* 生徒の記述
自由記述欄に記入がなされたのは 74 通であっ
た。(保護者が記入したと思われる 1 通を除く。
)
それらの文章において触れられている事項をカウ
ントしたところ、表 2 のようになった。
5.考察
(1)新しい教室の設置の可能性
大学が関わる継続的なニューカマーの子ども支
援活動は、日本ではそれほど多くはない。(日本
における学生の活動例としては、Club of Children
and Students(CCS)があるが、これには大学は関与
していない。)
「多文化共生広場」は、埼玉大学のサテライト
教室を会場とし、学生に活動の場を大学が用意す
る形をとっている。また、日本語指導の経験豊か
な市民アドバイザーとの協働という形をとってい
る。それに参加する学生のほとんどはボランティ
アであるが、「学校フィールド・スタディB」と
いう科目としても受講できる。大学生のボランテ
ィアは、大学の教育と関連するとき、「サービス
・ラーニング」としても位置づけられる。
「多文化共生広場」が大学主催で、教育学部の
授業の一環として「サービス・ラーニング」とし
ての性格が強いとき、つぎのように、「広場」の
活動が他の日本語教室と違う面をもたらしている。
・「広場」の活動は、単なるニューカマー支援
ではなく、教職を目指す学生にとって、「学び」
とは何かを再認識する場となっている。
・そこでは、外国の異質な学校生活・教育体験
を持つ子どもとの関わりを通して、日本の教育シ
ステムの異質性を学ぶ場ともなっている。
・ニューカマーの子どもの多様な学びの質を知
ることを通じて、学生が日本の学校において獲得
してきた通念的な学習観・教育課程観を見直す機
会となっている。「多文化教育」とは、単に異文
表 2.自由記述の内容(生徒)
日本語の問題
21
(通)
成績・勉強関係
19
いじめ・友人関係の問題
17
高校進学問題
16
政治・国家間の問題
7
生活問題(病気、自分のこと)
5
問題ない(現状の肯定)
13
・日本語能力、成績・勉強の問題、高校進学への
不安が大多数を占めているのは、設問による回答
と一致している。
・総じて文章のレベルが構文・語彙とも不十分さ
を感じる。そのため、問題が深刻であっても、そ
れを伝える手段、コミュニケーションの力が備わ
っていないという印象を受ける。
・いじめや差別について訴える記述が多い。表現
能力の不足とも合いまって、教師に言えずに、一
人で抱え込む場合が日本人の生徒のいじめの場合
よりも多いと想像される。
・調査時期が尖閣諸島をめぐって日中関係が悪化
した時期と重なったため、両国関係の改善を願う
声が出されている。
・少数であるが、病気を抱えている生徒もいると
思われる。それは、「頭痛」
「病名不明」といった
記述内容から、精神的ストレスによることを予想
させる。
- 7 -
化について知り、理解するということにとどまら
ず、自らの文化として内在化させた教育文化をも
う一度振り返ることでもある。
・教育学における「ナラティブ的アプローチ」
を意識し、子どもとの対話的な関係を築くことに
よって、ニューカマーの子どもとの関係が一方向
的な「支援・被支援」関係とならないように留意
している。
・子どもと年齢の近い大学生や文化を同じくす
る留学生による支援は、子どもにとってそれだけ
で親近感を持つが、それだけでなく、大学生・留
学生にとっても、多文化社会を協働して作る貴重
な経験となっている。
ニューカマーの子どもへの支援を大学の教育活
動の一環としてとらえたとき、文部科学省が、学
校におけるニューカマーの児童・生徒への教育を
特別な教育課程として位置づける動向も考慮され
るべきである。この流れは、大学における教員養
成において「ニューカマーの児童・生徒への特別
な教育」という科目の設置につながると予想され
る。その場合、大学の同科目の履修を地域の日本
語教室におけるサービス・ラーニングとする場合
が出てくるであろう。
サービス・ラーンニングに対する大学側の構え
と同時に、それに応える地域市町村の役割も大き
い。市町村が場所、広報などの面で日本語教室の
設置に積極的に関わることが求められる。
語指導に限定せずに、「多文化ソーシャルワーカ
ー」あるいは「エスニック・ソーシャルワーカー」
的な活動としても位置づけるべきであることが指
摘された。
第2回セミナーでは、K市S中学校で3年間にわ
たりボランティアとして活動してきた大学院生の
報告があり、中国出身者が多く在籍する学校にお
いてもニューカマーの生徒が孤立しがちであるこ
とが報告され、彼らをつなぐ支援の必要性が指摘
された。
第3回セミナーでは、学校における多文化教育
のあり方について議論がなされた。ニューカマー
の子どもへの支援は、学校外だけでなされるべき
ではなく、学校におけるマジョリティである日本
人生徒の彼らに対する理解の促進が課題として指
摘された。また、多文化教育のプランづくりに、
県内の各大学に籍を置く留学生に参画してもらう
ことも一つの方策であるという意見も出された。
(2)「埼玉県多文化教育研究協議会」における
論議から見えたこと
① 学校におけるニューカマーの子どもへの教育
的支援は、「初期日本語指導」がほとんどを占め
ている。本県では、さいたま市において日本語指
導員を派遣する制度が比較的整っているが、県下
の他の市町村ではその体制はまちまちである。
その指導時間を増やしてほしいという声が強い
ことが、本調査からも分かった。また、初期日本
語指導の手を離れる「来日2-5年」の層においても、
60%が日本語指導の時間増を求めている。
(3)「日本語を母語としない」子どもとその保
護者に対する今回の質問紙調査から見えたこと
これまで具体的に見えなかった彼らの生活・勉
学の実態が浮かび上がってきた。
データの詳細な考察は別途刊行を予定している
調査報告書に譲るが、ここでは、いくつかの主要
な点を挙げておく。
第1回セミナーでは、報告者(石戸)が2011年
に埼玉県内の小中校に行った「学校と学校外の機
関との連携」調査結果から、小中学校において学
校内で解決できなかった問題事例を検討した。そ
のうち、ニューカマーの子どもの問題として挙げ
られた42ケースにおいて、解決がなされたと述べ
ている例は1ケースにとどまる。また、連携先を
挙げた事例は、日本語教室が1ケースで挙げられ
ただけである。
ここから、ニューカマーの子どもへの教育的支
援が他の問題(不登校、虐待など)に比べて体制
的に立ち遅れていることが分かる。また、本県の
場合、ニューカマーの子どもは各学校に散らばっ
て在籍しているので、孤立度が高いことが予想さ
れる。そのため、彼らの存在自体について、何ら
かの形でその情報を集約できる機関あるいは組織
が求められる。それと合わせ、彼らの抱える課題
は、家庭的な問題(虐待、経済的困窮、家庭解体)
と複合していることが多いため、その支援は日本
② 同時に、本調査で明らかになったことは、彼
らが長期的な視点からの、またそれぞれの事情(属
性)に応じた特別な教育的配慮を必要としている
ことである。
本調査から、ニューカマーの生徒の日本の学校
への評価・満足度が予想したレベルよりも高いこ
とが分かった(図6参照)。しかし、彼らへの支援
が初期日本語指導に偏っていることの問題点も浮
かび上がった。
具体的には、在日年数「2-5年」の生徒は日本語
会話が問題なくなるため、指導の手が離れるが、
彼らの内面では初期適応段階を経て、改めて日本
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の学校・社会との関わりについて迷いが生じてい
る。
③ 「女子」は「男子」に比べて学校に対する満
足度が低い(図5)。これは、女子が人間関係をよ
り重視し、ともすれば「仲間」で固まる傾向が強
いためではないだろうか。これは、女子に排除志
向があるということではなく、むしろ受け入れた
後に強い絆を求め、それに応えられないことによ
って疎外感を持つということであろう。女子のこ
ういう特質をふまえた教師の関わりが求められる。
④ ニューカマーは子どもへの学歴期待が高いこ
とが改めて確認された。高校入試に対する不安の
高さもそれに基づいている。また、表面化してき
ているのが、大学進学の課題である。彼らの学力
の質や日本語能力、また進路の多様さを理解した
うえでの対応は、塾・予備校ではできない。
彼らは、一方で低学力の現実があり、他方で潜
在的に高い能力に基づく高い学歴期待を持つとい
うジレンマを抱えている。また、滞日意識に迷い
がある層においては、日本において学歴形成・キ
ャリア形成していくことの見通しを持たない場合
もある。そのとき、彼らの進路選択は、日本人生
徒の場合よりも大きな葛藤を抱える。学力に見合
った、また日本における生活を見通した進路選択
の支援も現実的な課題となる。
ニューカマーの人たちが、母国人同士で結束する
タイプではなく、日本人とのつながりがむしろ中
心となる。(質問紙調査においても、保護者が情
報を得るのは、母国人よりも「仕事先の日本人」
「日本人の友人」が多い。)
しかし、このことは、彼らが地域において日本
人に埋没し、見えない存在となる面をはらんでい
る。
特に、来日して日が浅いニューカマーの子ども
に対しては、独自な教育的支援と意識的な対応が
求められる。このとき、ニューカマーの子どもを
つなぐネットワークの意義が評価される。すなわ
ち、散在型の地域では、ニューカマーの子どもは
学校において、マイノリティであることの孤立感
をいっそう抱え込みやすいため、彼ら同士がつな
がることができる場として、日本語支援・学習支
援の教室の意義が認められる。
b)日本語教室間のネットワーク
他方で、ネットワーク形成の必要性は、ニュー
カマーの子どもに対する支援の側においても認め
られる。各日本語教室は、個別の経験を蓄積して
いるものの、それを共有することは不十分である。
すでに見たように、その支援は、日本語指導の専
門性が求められると同時に、教科指導においても、
通常の日本人生徒に対する指導とは異なる配慮が
必要である。このような専門性に関わる経験の交
流および日常的な情報交換のためのネットワーク
が求められる。いくつかの日本語教室間では、そ
のような情報交換がなされているものの、インフ
ォーマルなつながりに頼っているのが現状である。
⑤ 自由記述では、「いじめ」や「差別」を受け
ている生徒が少なからずいることが分かった。本
調査の実施時期がちょうど「大津のいじめ自殺事
件」が社会問題化しているときであったこともそ
れには影響しているかもしれないが、見逃すこと
ができない事実である。
質問紙調査から分かるように、ニューカマーの
子どもは日本の学校を肯定的にとらえている。し
かし、同時に、彼らがいじめのターゲットになる
場合も多く見られることから、日本の学校が共同
体的な温かさを持つと同時に、異質な者を排除す
る傾向があることを否定できない。ニューカマー
の子どもに対するいじめをなくすことは、日本人
生徒にとってのいじめ問題の解決につながると思
われる。
c)研究者間のネットワーク形成
これまで、多文化教育に関する県内の大学間の
ネットワークは存在しなかった。「埼玉県多文化
教育研究協議会」の結成によって、今後研究レベ
ルでの交流が深まることが期待される。また、地
域のインフラとしての大学の知的資源の地域への
還元が期待される。
同時に、各大学に在籍する学生および留学生の
ネットワーク化もここから可能性として開けてく
る。すなわち、研究協議会の研究者ネットワーク
を生かし、学生ボランティアの組織化も展望され
る。
6.結論
a)ニューカマーの子どもネットワーク
埼玉県は、一部を除き、ニューカマーが散在す
る地域である。そこでは、集住型地域とは異なる
多文化共生の地域づくりが必要である。すなわち、
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d)日本語教室と学校・教育委員会のネットワ
ーク形成
今回の調査から、ニューカマーの子どもは、日
本語・教科学習の面だけでなく、いじめなどの生
活指導面でも配慮を必要としていることが明らか
になった。このとき、各日本語教室に通う子ども
について彼らが置かれている多様な状況について
学校との情報の共有が必要と思われる。
現在は、ニューカマーの子どもの学校への受け
入れの仕方は、各学校に委ねられていて、学校で
は彼らが問題を起こさない限り特別な扱いはしな
い(できない)という現状がある。市町村単位で
は、ニューカマーの子どもについての情報は「日
本語指導が必要な児童生徒」の数としてしか把握
できていない。この現状に照らして、各市町村の
教育委員会にあっては各学校に対し、ニューカマ
ーの子どもについての啓発がもっとなされるべき
である。
たとえば、「多文化共生広場」はさいたま市教
育委員会に後援してもらい、チラシを各学校に配
布してもらっている。これによって「多文化共生
広場」についての近隣学校の認知もしだいに定着
してきている。このような広報的活動も広い意味
でのネットワークとして位置づくであろう。
今回の調査によって、ニューカマーの子どもへ
の支援が初期日本語指導に偏っていることの問題
が浮き彫りになった。日本語指導員の派遣体制も
市町村によりまちまちであることから、来日年数
が経つに従って複雑化する課題に対処するための、
市町村単位、もしくは学校地域単位での行政、学
校、地域間ネットワークが必要であろう。
a)~d)のネットワークは重層的な関係にあ
る。それを図示すると図17になる。
7.政策への提言
以上のような研究経過から引き出されることと
して、つぎの6点が挙げられる。これらは、いず
れも長期的な見通しの中で政策化されることが期
待されるものである。
①「ニューカマーの子どものための教育相談」の
ための「ワン・ストップ」型のサービス提供の充
実
ニューカマーの子どもの保護者は、子どもの教
育についての不安が高い。また、特に高校進学に
当たっての情報提供を求める声が強い。埼玉県内
では、すでに「高校進学ガイダンス」が開催され
ていて、受験についての概要が説明されているが、
ニューカマーの子どもの背景は多様であり、より
きめ細かな、個別のケースに応じた説明と情報提
供が日常的に求められる。
そのため、「ニューカマーの子どものための教
育相談」といった「ワン・ストップ」型のサービ
ス提供の場が求められる。
指導員派遣に関する情報提供をする際は、ニュ
ーカマーの子ども達の指導にあたって、指導員に
どのような資質が必要とされるかを理解した上で
相談にあたる必要がある。利用される相談窓口と
するためにも、そうした多様な相談に対応できる
相談員の配置や、日本語指導員等支援員の派遣体
制を整えるなど、内容の充実が求められる。
②日本語指導員の「多文化ソーシャル・ワーカー」
としての位置づけ
学校に派遣される日本語指導員(あるいは通訳)
は、ニューカマーの子どもへの初期日本語指導だ
けでなく、子どもの学業全般、家庭との連絡など
の役割を引き受けている。しかし、彼らのそのよ
うな活動は学校の中でフォーマルには位置づけら
れてはいない。地域によっては日本語指導員の派
遣制度が整備されていない場合もある。そういう
地域にあっては日本語指導員の役割を明確化すべ
きである。
小中学校で実施している取出し授業等に入る日
本語指導員等の支援者は、教員と協力して日本語
教育および教科学習補助において効果的に支援す
るとともに、学校と地域、家庭をつなぐ多文化ソ
ーシャルワーカー的な役割が求められている。ま
た、地域の日本語教室においても同様の資質が求
められる。この役割を果たすのに必要とされる専
門知識や技能を身につけるためには、教育研修プ
ログラムを作成し、積極的に人材を育成するなど
の施策が求められよう。
また、日本語指導員はほとんどが各学校に1人
ということもあり孤立しがちである。日本語指導
員同士が問題を提起し解決策を一緒に考える場を
設けることが必要である。
「いじめ」については、学校全体が抱える問題
となっている。ニューカマーの子どもをいじめ・
差別から守ることは、日本の学校全体が安心でき
る場となることを意味する。学校生活におけるい
じめ防止などを含めて、日本語指導員等の支援者
が異文化受容の理解を促進する役割を担うことに
よって、日本の学校全体が異質なものに対する許
容性を高めることにつながると思われる。
これらの学習環境の整備は、ネットワーク的な
視点から総合的になされるべきであり、そのため
の調査も必要となるであろう。
③地域における知的インフラとしての大学の活用
大学の潜在的可能性は、研究面だけでなく、若
い人材を抱えていることにある。「多文化共生広
場」の事例が示すように、学生ボランティアはニ
- 10 -
ューカマーの子どもが心を開きやすい。この可能
性を引き出すうえで、ボランティアに参加する学
生へのインセンティブを用意する必要がある。
④「媒介者」としての留学生の活用
また、多文化教育に関心を有する研究協議会の
メンバーの中には、大学において留学生支援に携
わっている者が多い。このことには、埼玉県にお
いて6000人いる留学生の潜在的な力を活用するこ
とも含まれるだろう。留学生は、母国から来た子
どもにとって、単に「通訳」としてではなく、日
本社会への導入を手助けする「媒介者」(mediator)
としての役割を期待できる。
「日本語を母語としない」子どもたちが日本社
会における貴重なグローバルな人材として育って
いくうえで、留学生は彼らの指南役となりうる。
⑤子どもの支援教室のネットワーク化
ニューカマーは地域において孤立して生活して
いる場合もある。これと同様に、その子どもたち
も地域・学校のネットワークから切り離されてい
ることが多い。地域の子どもの支援教室は、単に
日本語・勉強を学ぶ場ではなく、彼らどうしの横
のつながりを持ち、また日本の若者とネットワー
クを形成する場として位置づくであろう。地域に
よっては、日本語教室に通う子どもの数が少ない
場合がある。さらに、複数の日本語教室に通う子
どもも少なくない。こうした現状からも、ニュー
カマーの生徒のネットワークは、日本語教室間の
ネットワークと重ね合わせて位置づけるべきであ
ろう。
⑥ニューカマーの子どもに関する地域連携ネット
ワーク
ニューカマーの子どもへの教育支援がネットワ
ーク的になされるとき、それに関わる行政サービ
スのレベルでは、教育委員会と学校の関係もネッ
トワーク的なものしてとらえられるべきである。
この次元におけるネットワークに関わるのは、地
域の支援教室だけではなく、子どもが生活する家
庭、毎日通う学校とそれを支える教育委員会、複
合的な問題に対処する部門連携的な行政である。
子ども達は、学業や日本語だけでなく、家庭環境
の違いや、母文化との関係、将来の不安など様々
な問題を抱えている。市町村単位、学校単位など
での多層的な相談支援体制による地域連携ネット
ワーク形成が必要となるであろう。
[引用文献]
石戸教嗣「教育・保健・福祉に関するネットワー
クの現状と研究課題」
(教育・保健・福祉に関す
るネットワーク-S県における学校と外部機関
との連携に関する調査研究-(第Ⅰ報))
『埼玉大
学教育学部紀要』Vol.62,No.1,2013
石戸教嗣「ネットワーク社会と教育」石戸編『教
育社会学を学ぶ人のために(新版)』世界思想
社,2013(近刊)
石河久美子『異文化間ソーシャルワーク-多文化
共生社会をめざす新しい社会福祉実践』川島書
店,2003
内海由美子・横沢由実「日本語指導が必要な外国
人児童生徒散在地域における支援のあり方につ
いて―「日本語学習支援ネットワーク会議 07 in
YAMAGATA」の開催から見えてきたこと―」
『山形
大学留学生教育と研究』第1号.2008
OECD『移民の子どもと学力』明石書店,2010
新宿区『外国にルーツを持つ子どもの実態調査報
告書』2012
[本研究を公表した又は公表予定の論文]
『埼玉県における「日本語を母語としない子ども
の生活・学習調査報告書』(埼玉大学教育社会
学研究室),2013年8月(予定)
[本研究を公表した又は公表予定の学会発表]
なし
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図17.ニューカマーの子ども支援のネットワーク
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