痙直型とアテトーゼ型脳性麻痺者の立位における

第 49 回日本理学療法学術大会
(横浜)
5 月 31 日
(土)9 : 30∼10 : 20 ポスター会場(展示ホール A・B)【ポスター 神経!発達障害理学療法 1】
0739
痙直型とアテトーゼ型脳性麻痺者の立位における,膝関節伸筋・屈筋の筋活動
の特徴
増地
1)
亮1),横井裕一郎1),佐藤
北海道文教大学
人間科学部
優2),吉田
順一2)
理学療法学科,2)北海道社会福祉事業団福祉村
保健課
key words 脳性麻痺・筋電図・立位
【はじめに,目的】
脳性麻痺(以下 CP)は,小児期は発達に応じて運動機能を獲得するが,加齢に伴う様々な二次的な障害を呈する場合や自立し
た日常生活の遂行が困難となるケースが多い。さらに立位姿勢においては,膝関節屈曲,股関節屈曲の前かがみ姿勢
(couching
posture)
を呈することが多い。このような特異的な姿勢の原因は,感覚・運動を含めた神経系の機能異常,異常筋緊張,関節拘
縮や筋の短縮などが考えられる。しかし,そのような CP 者の立位姿勢における下肢筋がどのように活動しているか,明らかに
なっていない。そこで本研究は筋電図を使用して,1)成人 CP 者の静止立位時の大腿部の筋活動を明らかにすること,2)それ
を健常者と比較し,CP 者の立位の筋活動の特徴について検討することを目的とした。
【方法】
対象は某施設に入所している成人 CP 患者 11 名とした。筋緊張による障害内訳はアテトーゼ型 3 名
(男 2 名,女 1 名,平均年齢
49.7±8.1 才)
,痙直型 8 名
(男 6 名,女 2 名,平均年齢 41.6±10.2 才)であった。健常者は 10 名
(男 5 名,女 5 名,平均年齢 21.1±
0.3,以下健常群)とした。運動課題は 10 秒間静止立位を実施し,表面筋電図測定装置(NORAXON 社製 MYOSYSTEM1200)
を使用した。測定筋は両側の大腿直筋,内側ハムストリングス(以下,内側ハム)とし,運動課題実施中の筋電図を測定した。
CP 群の中には手すりの把持が必要な人が数名おり,その場合は手すりを軽く把持することを許可した。得られた筋電図波形は
等尺性収縮における最大随意収縮
(Maximal Voluntary contraction : MVC)
により正規化を行い, 筋活動量%MVC を算出した。
また運動課題実施中の映像をウェブカメラと同期させて撮影した。撮影した映像から,Image J にて静止立位時の膝屈曲角度を
求めた。10 秒間の静止立位から得られた筋電図波形のうち,最も安定した 3 秒間の筋電図波形抽出し,解析対象とした。比較は
大腿直筋,内側ハムストリングスの%MVC をアテトーゼ群,痙直群,健常群の 3 群間とした。統計処理は正規性が認められた
場合,スチューデント又はウェルチの t 検定,正規性の認められないものにマン・ホイットニ検定を用いた。この時 Bonferroni
の調整を適用し,有意水準は危険率 1.67% とした。また,痙直群の膝屈曲角度と各筋における%MVC との相関の有無をスピア
マンの順位相関係数の検定にて検討した。有意水準は危険率 5% とした。
【倫理的配慮,説明と同意】
対象者には事前に本研究の趣旨および実験の具体的内容・方法について十分に説明を行い同意を得た。
【結果】
立位時の大腿直筋(アテトーゼ型 24.8±3.5%,痙直型 132.9±101.9%,健常者 4.4±5.3%)は,アテトーゼ型と痙直型間,健常者
と痙直型間に有意差が認められ,アテトーゼ型と健常者間には有意差は認められなかった,同様に立位時の内側ハムストリング
ス(アテトーゼ型 26.9±7.2%,痙直型 75.5±49.9%,健常者 6.5±6.1%)は 3 群間すべてにおいて有意差が認められた。また,痙
直型 7 の各被験者の膝屈曲角度と大腿直筋の%MVC には有意な相関は認められなかった。
【考察】
立位時,CP 者(アテトーゼ型と痙直型)は健常者よりも高値な大腿部の筋活動をしている。CP 者の中でも,特に痙直型 CP
者は立位時に crouching posture を呈しており,抗重力筋である大腿直筋の活動量が多くなっていると考えられる。同じ CP 群で
もアテトーゼ型と痙直型の立位はそれぞれ違った特徴が見受けられ,痙直型の立位は大腿直筋の過剰な筋活動量の他に,内側ハ
ムストリングスの筋活動量も高値を示しており,大腿直筋とその拮抗筋にあたる内側ハムストリングスが過剰な同時収縮を起
こしていると考えられる。アテトーゼ型の立位については,痙直型よりも大腿部の筋活動量は少なく,健常者よりも内側ハムス
トリングスの筋活動量が高い数値を示しており,二関節筋である内側ハムストリングスで股関節を伸展させ,体幹の伸展を促す
ことで姿勢制御していると考える。また,膝関節の屈曲角度と大腿直筋・内側ハムストリングスの筋活動量との間に相関が認め
られなかったことから,過剰な筋活動量は膝関節の屈曲角度による要因のみではなく,痙直型 CP の特徴である上位運動ニュー
ロン損傷による筋緊張亢進による要因が大きいと考えられる。また,痙直型の大腿直筋の%MVC が 100% を超えており,これ
は MVC を計測する際の膝関節伸展という単関節の運動よりも,立位の股関節伸展を伴う共同的な関節運動の方が筋活動を発揮
しやすいためであると考える。今後,CP 者の重心動揺,三次元動作解析などの検討をすることで,より多くの特徴を知ること
ができると思われる。
【理学療法学研究としての意義】
CP 者の立位の特徴を筋活動の観点から捉えることで,臨床における CP 者に対する理学療法の一助になると考える。