チリ税制改正の概要

チリ税制改正の概要
2015 年 3 月
独立行政法人日本貿易振興機構(ジェトロ)
サンティアゴ事務所
進出企業支援・知的財産部
進出企業支援課
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目次
Ⅰ.はじめに ..................................................................................................................... 1
Ⅱ.各論の解説 ................................................................................................................. 4
第1章
法人税 .............................................................................................................. 4
1.新しい法人税の課税方式 ..................................................................................... 4
2.第 1 カテゴリー所得税の税率 ............................................................................ 11
3.課税所得を越える配当と再投資利益.................................................................. 11
4.繰越欠損金の取り扱い ....................................................................................... 11
5.過少資本税制 ..................................................................................................... 12
6.損金不算入経費および移転価格調整にかかるペナルティ税 .............................. 14
7.費用の損金算入 ................................................................................................. 14
8.海外投資に対する新たな報告規制 ..................................................................... 15
9.のれん................................................................................................................ 15
10.キャピタルゲイン課税 ................................................................................... 16
11.タックスヘイブン対策税制 ............................................................................ 17
12.固定資産税の税額控除 ................................................................................... 18
13.中小企業者に対する制度 ................................................................................ 18
14.ストックオプション ....................................................................................... 19
15.個人所得税の最高税率の引き下げ.................................................................. 19
16.チリ所得税法第 57bis 号における優遇措置の廃止 ......................................... 19
17.貯蓄促進策 ..................................................................................................... 19
第2章
付加価値税(VAT) ...................................................................................... 20
第3章
外資法 600 号 ................................................................................................. 21
第4章
租税回避防止規程 .......................................................................................... 21
第5章
自動車税 ........................................................................................................ 22
第6章
環境税 ............................................................................................................ 23
第7章
印紙税 ............................................................................................................ 23
第8章
その他 ............................................................................................................ 24
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チリ税制改正の概要
Ⅰ.はじめに
2014 年 3 月 11 日に発足したチリのミチェル・バチェレ大統領政権は、公約として掲げた教育制
度改革に対する財源確保や、税負担格差の是正、租税回避の防止等を目的として、2014 年 4 月 1
日にチリ税制改正法案(以下、“新税制”)を議会に提出した。新税制には、法人税法・付加価値
税法等の多岐に渡る制度改正が含まれている。
新税制は 4 月に議会に提出された後、上院・下院における審議を経た後、2014 年 8 月 9 日に
235 ページに及ぶ更なる制度改正を織り込んだ修正案が提出され、議会での承認を経て憲法裁判所
により認可された。最終的に 2014 年 9 月 29 日に新税制(法令 20780 号)が官報に掲載され、新
税制が制定された。
今回の税制改正は、過去 30 年で最大規模の税制改正といわれるほど、多岐に渡る包括的な制度
改正が含まれている。新税制の特徴の一つは、その複雑さであり、条文上の規定が曖昧または実務
上の取り扱いが明確でない規定も多く含まれるため、チリ税務当局(IRS)からそれらを補うため
の適用指針が今後も継続して公表されるものと思われる。
本稿では、新税制のうち特に日系企業に影響が大きいと考えられる主要な税制改正項目の概要に
ついて解説する。以下は主要な改正項目を簡潔に要約したものである。より詳細な内容については、
「Ⅱ.各論の解説」をご参照いただきたい。
なお新税制に含まれる各項目は、2017 年にかけて段階的に施行されることが予定されている。
新税制のうち、既に施行されている一部の新制度もあるため、新制度の施行時期は一律ではない
ことに留意が必要である。
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<主要な改正項目の概要>
項目
概要
法人税
 二つの納税方式
新税制では Fully Integrated Regime(統合制度)と Semi Integrated
Regime(半統合制度)の二つの制度が選択適用される。いずれの制度を
選択しても法人税率は 2014 年以降、段階的に上昇し、最終的に適用され
る法人税率・時期は統合制度:25%(2017 年)、半統合制度:27%
(2018 年)となる。
また、追加源泉税の課税方式を巡り両制度では異なる取り扱いが規定さ
れている。統合制度では配当の有無にかかわらず所得発生ベースで追加源
泉税(税率:35%)が課されるのに対し、半統合制度では従来の制度を
踏襲し、配当時点で追加源泉税(税率:35%)が課される制度となって
いる。いずれの制度においても、納付した First Category Income Tax は
追加源泉税から税額控除されるが、半統合制度では投資者である株主・所
有者の居住国とチリとの租税条約の有無により、税額控除の取り扱いに違
いがあるため、制度選択においては留意が必要である。
 再投資にかかる優遇税制の廃止
チリ法人から受け取った配当を受領日から 20 日以内にチリに再投資す
る場合、追加源泉税が免除されるとする従来の制度で設けられた再投資
にかかる優遇税制が廃止される。[2017 年以降]
 繰越欠損金
繰越欠損金は将来にわたり繰り越すことが継続して認められるが、従来
の制度で認められた過去の課税所得に遡及して相殺することは認められな
い。[2017 年以降]
 過少資本税制
純資産の 3 倍を超える負債に対する借入利子等の費用で、源泉税の優
遇税率(4%)が適用される費用項目についてはその超過部分にかかる借
入利子等の費用につき 35%の源泉税が課される。新税制では借り入れに
含まれる範囲が拡大され、純資産の 3 倍を超える負債の有無は毎事業年
度末に検証する必要がある。[2015 年 1 月 1 日以降]
 ペナルティ税率の上昇
一定の要件を満たす損金不算入経費に対するペナルティ税率が従前の
35%から 40%に引き上げられる。[2017 年 1 月 1 日以降]
 費用の損金算入
商標権・ロイヤルティー・特許権等、一定の要件を満たす項目を関連会
社であるチリ非居住者に支払う場合、原則としその支払いに対し源泉税を
納付している場合に限り、チリ法人で損金算入が認められる。
[2015 年 1 月 1 日以降]
 のれん
企業買収・合併等の組織再編で発生した税務上ののれんを 10 年間にわ
たり定額償却できた従来の制度が廃止される。ただし 2014 年 12 月 31 日
以前に開始された組織再編は一定の要件を満たすことで、従来の取り扱い
を継続適用できる。[2015 年 1 月 1 日以降]
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 タックスヘイブン対策税制
新税制ではタックスヘイブン対策税制が規定され、チリ法人がタックス
ヘイブンにある法人を支配する場合、当該法人からの配当・利子等の受動
的所得はチリで課税対象とされる。[2016 年 1 月 1 日以降]
 個人所得税の最高税率の引き下げ
チリ居住者(個人)に対する総合補完税の累進税率の最高税率が 40%
から 35%に引き下げられる。[2017 年 1 月 1 日以降]
付加価値税(VAT)
外資法 600 号
租税回避防止規程
自動車税
環境税
印紙税
その他
不動産売却取引につき、付加価値税が課される事業者の範囲が拡大され
た。[2016 年 1 月 1 日以降]
外国からの投資優遇政策であった外資法 600 号が廃止される予定であ
る。[2016 年 1 月 1 日以降]
ただし、従来の外資法 600 号に代わる新制度の制定が予定されている
ため、今後の動向には引き続き留意が必要である。
納税者が行う行為・取引等に経済的実態がなく、単に税務上の利益を享
受することを目的として行われることを防止するため、租税回避防止規程
が導入される。[2015 年 9 月 30 日以降]
窒素酸化物の排出量と燃費水準に応じた自動車税が導入された。自動車
税の負担(課税額の算定方式)は 2017 年にかけて段階的に引き上げられ
る。[2014 年 12 月 29 日以降]
粒子状物質・窒素酸化物・二酸化硫黄・二酸化炭素といった環境汚染物
質の排出につき、環境税が導入される。[2018 年以降]
新税制では、印紙税率が従来の 2 倍に引き上げられる。
[2016 年 1 月 1 日以降]
新税制で新たに導入される二つの課税方式とは別に、再投資収益基金
(FUT)からの配当促進策(2015 年の期間限定措置)を設けている。
一定の要件を満たす場合、再投資収益基金からの配当は 35%ではなく
32%の軽減税率を適用した追加源泉税が課される。[2015 年限定]
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Ⅱ.各論の解説
第1章
法人税
チリ居住者法人(“企業”)から生じた事業所得は、2014 年においては 21%の第 1 カテゴリー
所得税(First Category Income Tax : FCIT)が課されるが、従来の制度では企業が獲得した利益
が株主・所有者に配分された場合、現金主義により株主・所有者がチリ居住者個人の場合は総合補
完税(累進税率)、チリ非居住者法人の場合は追加源泉税(Additional Withholding Income Tax :
AWIT)(税率:35%)が課されてきた。ただし、企業によって支払われた第 1 カテゴリー所得税
は、株主・所有者が負担する追加源泉税から税額控除されるため、チリ非居住者法人に対して配当
された利益に対する最終的な税負担率は 35%とされてきた。
第 1 カテゴリー所得税の納税義務のある企業には、チリ所得税法第 14 号において、各社単位で
の課税所得や税額控除可能額を記帳するため、“Retained Taxable Profits Ledger”(通称、
“FUT” , 再投資収益基金)と呼ばれる帳簿組織が設けられてきた。
1.新しい法人税の課税方式
新税制においては 2017 年以降、チリ所得税法第 14 号は廃止され、納税者は二つの制度、すな
わち、1)Fully Integrated Regime(“統合制度”)もしくは Attributed Income Regime(“帰
属所得制度”)、または、2)Partially Integrated Regime(“半統合制度”)を選択適用するこ
とになる。
1.1 新制度の選択
新規に事業を開始する納税者は、チリ税務当局に事業開始の宣誓書類を提出する際、納税方式を
選択しなければならない。一方、既存の納税者は新しい納税方式が適用される事業年度の 3 カ月前
までに、選択した制度をチリ税務当局に対し通知しなければならない。
納税方式の選択は、会社形態に応じた選択要件を満たす必要がある。有限会社 (LIMITED
LIABILITY COMPANY )または株式会社(COMPANY BY SHARE/“Sociedad por Acciones”)で
は、定款に規定のとおり、株主・所有者の全会一致による同意が必要とされる。一方、株式会社
(STOCK CORPORATION/”Sociedad Anónima”)では、上場・非上場を問わず、臨時株主総会
に お い て 議 決 権 を 有 す る 株 主 の 3 分 の 2 超 の 同 意 が 必 要 と さ れ る 。 株 式 会 社 ( STOCK
CORPORATION/COMPANY BY SHARE)または有限会社で、少なくとも 1 人の所有者がチリ居
住者個人でない場合で(すなわちチリ非居住者法人である場合)、当該会社が期限までに選択した
納税方式をチリ税務当局に通知しない場合、適用されるデフォルトの制度は半統合制度とされる。
デフォルトの制度を選択する場合を含め、納税者はいったん選択した制度を少なくとも 5 事業年
度にわたり継続適用する必要があり、5 事業年度経過後は、ほかの制度に変更することが認められ
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ている。その場合、新しい制度の適用が予定される事業年度の 3 カ月前までにチリ税務当局に対し、
制度変更を通知しなければならない。
上記とは別に、2017 年 1 月 1 日以前に既に事業を開始した納税者に対しては、異なる規定を設
けている。すなわち、2016 年 6 月 1 日以前に事業を開始した納税者は、2016 年 6 月から 12 月ま
での期間中に、そして 2016 年 6 月 1 日以降に事業を開始した納税者は、チリ税務当局に対し事業
開始の宣告書類を提出する際に、選択する制度を通知する必要がある。いずれのケースにおいても、
定款に規定の株主・所有者の全会一致による同意が必要とされる。ただし、上場株式会社において
は、臨時株主総会において議決権を有する株主の 3 分の 2 超の同意が必要とされる。
1.2 新制度の主な特徴
A. 統合制度(Fully Integrated Regime)
統合制度の概要
統合制度を選択する納税者は、納税者が直接獲得した課税所得に対して 25%(2017 年以降)の
第 1 カテゴリー所得税が課されるのに加え、その事業年度において、1)納税者自身が直接稼得し
た課税所得、2)納税者に帰属された所得、すなわち統合制度を選択する投資先企業から帰属され
た所得、または半統合制度を選択する投資先企業から受け取った配当金を、自らの株主または所有
者に帰属させなければならない。
最終的には、最上位者にあたるチリ非居住者である海外の株主・所有者に至るまでこうした所得
の帰属プロセスを積み上げた結果、チリ非居住者である株主・所有者に対し、35%の追加源泉税が
課される。ただし、投資先である下位企業から帰属された利益が上位企業の税務上の欠損金と相殺
されない限り、下位企業が納付した第 1 カテゴリー所得税(税率:25%)は税額控除され、また、
帰属された利益から実際に支払われた配当については、チリで追加で課税されることはない。
帰属利益に対する課税(Taxation on Income Attributed)
統合制度を選択するチリ法人の株主・所有者であるチリ非居住者(法人または個人)は、チリ法
人が所得を獲得した事業年度において、実際の配当の有無にかかわらず 35%の追加源泉税が課さ
れ、チリ法人が納付した第 1 カテゴリー所得税(税率:25%)は追加源泉税から税額控除できる。
海外の親会社がチリに子会社(中間持ち株会社)を有し、その中間持ち株会社がさらにチリ法人
(孫会社)に投資する場合、子会社であるチリ法人(中間持ち株会社)は、自らが直接獲得した所
得に加え、以下の投資先から帰属された利益についても株主・所有者(すなわち親会社)に帰属さ
せなければならない。
1.
2.
3.
4.
統合制度または半統合制度を選択する投資先
正規の帳簿組織とは別に算定された実質所得に対して課税された投資先
みなし所得制度が適用される投資先
中小企業者に適用される税制を採用した投資先
また、半統合制度を選択する中間持ち株会社であるチリ法人(子会社)が、統合制度を採用する
チリ法人(孫会社)を直接的または間接的に保有する場合、統合制度を選択するチリ法人(孫会社)
5
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から中間持ち株会社であるチリ法人(子会社)に帰属された所得は、チリ非居住者法人である海外
の親会社に帰属させなければならない。
従って、統合制度を選択する企業が獲得した所得は、その企業が属する持ち株会社グループ
(holding entities)のほかの企業が選択する制度にかかわらず、チリ非居住者である最上位の親会社
まで所得の帰属プロセスが継続され、最終的に最上位の親会社に対して追加源泉税(税率:35%)
が課され、下位企業が負担した第 1 カテゴリー所得税(税率:25%)は税額控除される。ただしこ
の帰属プロセスにおいて、下位企業から帰属された利益が上位企業の税務上の欠損金と相殺される
場合は、上位企業は下位企業が納付した第 1 カテゴリー所得税(税率:25%)の還付を請求すること
ができる。
※統合制度における課税方式の計算例
チリ法人
課税所得
第 1 カテゴリー所得税(FCIT/税率:25%)・・・①
処分可能利益
第 1 カテゴリー所得税の税額控除
追加源泉税の課税ベース
株主への帰属利益
第 1 カテゴリー所得税の税額控除(加算調整)
追加源泉税の課税所得
追加源泉税(税率:35%)
第 1 カテゴリー所得税の税額控除
追加源泉税(純額:株主の追加負担)・・・②
最終税負担(①+②)
金額
1,000
250
750
250
金額
750
250
1,000
350
(250)
100
350
事業年度末において帰属される利益の概念
事業年度末において帰属される利益には、以下の項目が含まれる。
1. 事業年度末においてチリ法人が直接獲得した課税所得
2. 子会社(孫会社を含む)から帰属された利益
(子会社から帰属された利益が自らの税務上の欠損金と相殺される場合、または孫会社か
ら帰属された利益が子会社の税務上の欠損金と相殺される場合を除く)
3. 統合制度または半統合制度を選択する子会社(孫会社を含む)からの利益配当
(35%の追加源泉税が課されるもの。ただし利益配当が自らの税務上の欠損金と相殺され
る場合を除く)
受け取った利益配当は、第 1 カテゴリー所得税(税率:25%)が課される課税所得とし
て扱われ、子会社が納付した第 1 カテゴリー所得税は税額控除される。
帰属された利益に適用される第 1 カテゴリー所得税の所得税率を用いて税額控除額を算定する。
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複数の株主・所有者間での利益帰属
上記 2.で説明した子会社から帰属される利益は、チリ法人の株主・所有者の間で取り決めた割
合、または株主・所有者の会社資本に対する出資割合に応じて算定される。
整備が必要な帳簿
統合制度を選択する会社は、以下の内容を期末時点で記帳した帳簿を整備しなければならない。
1.
会社が自ら獲得した所得(“帳簿1”)
課税所得(純額)およびそれが帰属される株主・所有者とその帰属割合。
当課税所得からは、 チリ所得税法第 21 号 2 項に規定された 損金不算入費用(disallowed
expenses)(ただし 40%のシングルタックスが課される項目を除く)を控除しなければならな
い。
2.
第三者から帰属された所得(“帳簿 2”)
チリの他法人(子会社、孫会社)から帰属された利益の金額、帰属される株主・所有者およ
びその帰属割合。
3.
免税および非課税所得(“帳簿 3”)
最終税が課されない免税所得および非課税所得。
ただし、a) 株主・所有者に対して子会社から帰属された利益と相殺された自らの税務上の欠損
金、b) 免税所得または非課税所得に関連したコストおよび支払額は当帳簿から除く。
4.
配当につき最終税が課される所得(“帳簿 4”)
会計上の純資産または税務上の純資産いずれか高い金額から、帳簿1および帳簿 3 に記帳さ
れた正の合計額および資本金を控除した後の残高(実際に配当された場合に最終税が課される
所得額となるもの)。
2017 年 1 月 1 日時点において、再投資収益基金(retained taxable profits, FUT)を保有す
る納税者はその金額から、課税所得・非課税所得、再投資利益制度(後述“3.課税所得を超え
る配当と再投資利益”参照)を通じて受け取った金額を控除し、課税所得を超える配当額(該
当がある場合)を加算する必要がある。
5.
利益処分・配当(“帳簿 5”)
各事業年度における利益処分・配当。
6.
税額控除の累積残高(“帳簿 6”)
半統合制度から統合制度への移行、または半統合制度を選択する会社が含まれる合併により
半統合制度を選択する会社が保有した税額控除額の残高(納付した第 1 カテゴリー所得税)。
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利益配当への課税
統合制度を選択する会社が、実際に利益配当した場合の取り扱いは以下のとおりである。
a)
利益配当額は利益配当が行われた事業年度の前事業年度末時点における帳簿1・帳簿 3・帳
簿 4 から順番に拠出されなければならない。再投資収益基金がある場合、利益配当額はまず再
投資収益基金から拠出され、それを超える金額は帳簿 4 から拠出される。利益配当額が上記す
べての帳簿から拠出しきれない場合、その残額は利益配当が行われた事業年度末における各帳
簿残高から拠出される。
b)
帳簿1・帳簿 3 に記帳された金額から拠出された利益配当は、チリでは追加の課税はされな
い。 帳簿 4 から拠出された利益配当は、チリ非居住者である株主・所有者に配当された時点
で 35%の追加源泉税が課されるが、第 1 カテゴリー所得税(税率:25%)は、事業年度末にお
いて納税者が帳簿 6 に記帳した税額控除残高を保有していれば、税額控除できる。半統合制度
から統合制度への移行により納付した税金に起因して税額控除残高がある場合、税額控除額は
「配当ד第 1 カテゴリー所得税率 ÷(100-第 1 カテゴリー所得税率)”」により算定され、
帳簿 6 の税額控除(累積額)の残高から充当される。
事業年度末において税額控除残高がないため税額控除を受けることができない場合、納税者
は第 1 カテゴリー所得税に相当する税額を自発的に仮納付し、配当に課された最終税から税額
控除を受けることを選択することができる。仮納付額を算定するためのベースとなる課税所得
の金額は、翌事業年度以降の課税所得から減額できる。
帳簿 4 からの配当は第 1 カテゴリー所得税が課され、もし配当の受取人が統合制度を適用する
場合は、その配当額は最上位の株主・所有者に至るまで利益の帰属プロセスが継続される。配当
に関連する税額控除は、第 1 カテゴリー所得税から税額控除される。
再投資収益基金がある場合、実際の配当金が帳簿 1 および帳簿 3 からの拠出を上回る場合、
帳簿 4 より先に再投資収益基金から拠出され、再投資収益基金からの配当にかかる税額控除額に
ついては従来の制度における手続きを踏襲する(すなわち、再投資収益基金に記帳された課税所
得に対し既に第 1 カテゴリー所得税を納付している場合、当該課税所得を源泉とした配当にかか
る追加源泉税から第 1 カテゴリー所得税が税額控除される)。
B. 半統合制度(Partially Integrated Regime)
半統合制度の概要
半統合制度を選択する企業は、課税所得、発生ベース(acrrued income)に対して 27%の第 1
カテゴリー所得税が課される。従来の制度と同様に現金主義により、チリ非居住者の株主・所有者
に対して利益が配当された時点で、35%の追加源泉税が課される。ただし、チリ法人が支払った第
1 カテゴリー所得税はその 65%までしか税額控除されない。しかし、チリ非居住者の株主・所有者
がチリと租税条約を締結する国に居住する場合は、第 1 カテゴリー所得税の全額が税額控除される。
従って半統合制度においては、チリで獲得された所得に対する実質的な税負担は、チリ非居住者
の株主・所有者がチリと租税条約を締結する国に居住する場合は 35%となるが、そうでない場合
には、44.45%の税負担を強いられる。
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※半統合制度における課税方式の計算例
チリ法人
課税所得
第 1 カテゴリー所得税(FCIT/税率:27%)・・・①
処分可能利益
第 1 カテゴリー所得税の税額控除
追加源泉税の課税ベース
配当処分額
第 1 カテゴリー所得税の税額控除(加算調整)
追加源泉税の課税所得
追加源泉税(税率:35%)
第 1 カテゴリー所得税の税額控除
税額控除されない金額の追加納付 (*1)
追加源泉税(純額:株主の追加負担)・・・②
最終税負担(①+②)
(*1):270×35%=94.5
租税条約なし
1,000
270
730
270
金額
730
270
1,000
租税条約あり
1,000
270
730
270
金額
730
270
1,000
350
(270)
94.5
174.5
350
(270)
-
80
444.5
350
(参考)チリと租税条約締結国(2014 年 11 月末時点)
オーストラリア、ベルギー、ブラジル、カナダ、コロンビア、韓国、クロアチア、デンマーク、エ
クアドル、スペイン、フランス、アイルランド、マレーシア、メキシコ、ノルウェー、ニュージー
ランド、パラグアイ、ペルー、ポーランド、ポルトガル、英国、ロシア、スウェーデン、スイス、
タイ(その他、条約締結済であるもいまだ施行されていない国:オーストリア、米国、南アフリカ)
整備が必要な帳簿
半統合制度を選択する会社は、以下の内容を記帳した帳簿を整備しなければならない。
a) 免税および非課税所得(“帳簿 1”)
事業年度末において、追加源泉税が適用されない免税所得と非課税所得を記帳しなければな
らない。チリ所得税法第14号で規定された統合制度または半統合制度が適用されるほかの企業
から受け取った免税所得と非課税所得も併せて記帳される。
ただし、a) 株主・所有者に対して子会社から帰属された利益と相殺された自らの税務上の欠
損金、b) 免税所得または非課税所得に関連したコストおよび支払額は当帳簿から除く。
b) 税額控除の累積残高(“帳簿 2”)
追加源泉税が課される配当の支払いに対して株主・所有者が税額控除できる金額を記帳しな
ければならない。半統合制度では上述のとおり、第1カテゴリー所得税の65%までしか税額控除
が認められないため、税額控除が認められない35%の第1カテゴリー所得税と、それ以外の税額
控除できる金額を分けて記帳しなければならない。
c)
利益処分・配当(“帳簿 3”)
各事業年度の利益処分・配当
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最終税が課される課税所得
事業年度末において半統合制度を選択する納税者は、利益処分に応じて最終税(35%の追加源泉
税)が課される課税所得を算定しなければならない。その金額は‘最終税が課される課税所得’と
して認識され、企業の会計上または税務上の純資産(いずれか高い方)から、免税または非課税所
得、インフレーションの調整を加味した資本金(当事業年度における増減額を含む)を除いて算定
される。(新税制では条文上の明示はないものの、実務上は統合制度における“帳簿4”に相当す
る帳簿を備える必要があると思われる。)
2017 年 1 月 1 日時点において再投資収益基金を保有する納税者は、再投資収益基金の残高を最
終税が課される課税所得の計算から除外する必要があり、2017 年 1 月 1 日時点で最終税の課税が
行われていない課税所得を超える利益処分がある場合、ここに加算しなければならない。
利益処分はまず、前事業年度の最終税が課される課税所得から拠出され、それで補えない場合は
前事業年度の免税所得または非課税所得から拠出される。それでも補えない金額については、利益
処分が行われた事業年度の上記所得から同じ順序で拠出される。しかし、企業が再投資収益基金を
保有する場合、前事業年度の免税所得または非課税所得から拠出された後、再投資収益基金から拠
出される。
最終税が課される課税所得から拠出された海外への利益処分は 35%の追加源泉税が課されるが、
上述のとおりチリとの間で租税条約を締結する国の株主・所有者への処分を除き、税額控除は第 1
カテゴリー法人税の 65%までしか認められない。免税所得または非課税所得から拠出される利益
処分は最終税の負担対象とはならず、帳簿1から拠出される。再投資収益基金からの利益処分は
35%の追加源泉税が課され、第 1 カテゴリー所得税の全額が税額控除される。
利益処分を受けた株主・所有者が統合制度を選択する場合、最終税が課される課税所得から拠出
された利益処分は、株主・所有者において 25%の第 1 カテゴリー所得税が課される課税所得とし
て扱われ、投資先が納付した第 1 カテゴリー所得税は税額控除される。最終的に最上位の株主・所
有者に至るまで、当課税所得の利益帰属プロセスが継続される。
一方、利益処分を受けた株主・所有者が半統合制度を選択する場合、最終税が課される課税所得
や再投資収益基金からの利益処分は株主・所有者において第 1 カテゴリー所得税の納付対象とはな
らない。最終税が課される課税所得から拠出された配当に対し、投資先が納付した第 1 カテゴリー
所得税は 65%までしか税額控除が認められないため、残り 35%は税額控除できずに(追加源泉税
の納付という形で)チリ政府に対する納付義務を負う。ただし、再投資収益基金から拠出された配
当に対する税額控除は従来の制度と同様に、その全額が税額控除される。
最終税が課される課税所得から拠出される海外への利益処分にかかる税額控除額は、
「配当ד第 1 カテゴリー所得税率 ÷(100-第 1 カテゴリー所得税率)”」で算定される。
この計算において使用される第 1 カテゴリー所得税の税率は、前事業年度末において適用される
第 1 カテゴリー所得税率を使用し、当事業年度の利益から拠出された場合には利益処分された事業
年度末における税率を使用する。以上の算定式で計算された税額控除額は、会社が利用可能な税額
控除の累積残高(“帳簿 2”)から拠出される。税額控除を適用する際は、税務当局への返済を伴
わない税額控除(例:35%の税額控除をチリ政府に納付する義務がないもの)から優先して拠出し、
その次に返済を伴う税額から拠出する。条文上の規定が明確ではないが、返済を伴わない税額控除
には、例えば再投資収益基金に記帳された課税所得から拠出された利益配当に関連した税額控除な
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どが該当すると思われる。(この場合、第 1 カテゴリー所得税はその全額が税額控除されるため、
その一部をチリ政府に納付する義務のない税額控除として扱われるものと思われる。)
事業年度末において、“帳簿 2”に記録された税額控除の累積残高がなく、利益処分に関して税
額控除を受けることが出来ない場合、納税者は第 1 カテゴリー所得税に相当する税額を自発的に仮
納税し、配当に課された最終税から税額控除を受けることを選択することができる。これにより仮
納付された第 1 カテゴリー所得税は翌事業年度以降において、納税者が支払う第 1 カテゴリー所得
税から税額控除することができる。
2.第 1 カテゴリー所得税の税率
統合制度では、第 1 カテゴリー所得税率は従来の 20%から 2017 年にかけて段階的に 25%へと
き上げられる。一方、半統合制度では、従来の 20%から 2018 年にかけて段階的に 27%へと引き
上げられる。2017 年以降において、両制度の適用税率が異なるため、留意が必要である。
各年度別の適用税率の推移は以下のとおりである。
年
2014
2015
2016
2017
2018
統合制度
21.0%
22.5%
24.0%
25.0%
25.0%
半統合制度
21.0%
22.5%
24.0%
25.5%
27.0%
3.課税所得を越える配当と再投資利益
チリ国内における再投資を促進するため、従来の制度ではチリ企業から配当を受け取った海外の
株主・所有者は、配当を受け取った日から 20 日以内に(既存または新規を問わず)チリ企業に対
し投資を行った場合、本来課されるべき 35%の追加源泉税が免除される措置が設けられていた。
新制度では 2015 年および 2016 年に限り適用される移行措置を除き、このような再投資にかか
る優遇制度が廃止される。また従来の制度において、一定種類の会社については課税所得を上回る
利益還元およびそれにかかる追加源泉税の課税を繰り延べる優遇制度が設けられていたが、2015
年以降は廃止される。
4.繰越欠損金 (Carry Forward Losses) の取り扱い
新税制では、ある事業年度で発生した税務上の欠損金は、その会社自身の税務上の利益や、子会
社から帰属または還元された利益(最終課税の対象のもの)と相殺することができる。税務上の欠
損金がこれらの利益と相殺しきれない場合、翌事業年度以降の利益と相殺すべく繰り越すことがで
きる。また第 1 カテゴリー所得税を支払った子会社の利益が、親会社の税務上の欠損金と相殺され
る場合、欠損金を計上する親会社は相殺された子会社の利益に対して納付した第 1 カテゴリー所得
税の還付を請求できる。
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従来の制度では税務上の欠損金は、過去の事業年度に遡って過去の利益と相殺したり、過去に納
付した第 1 カテゴリー所得税の還付を請求できたが、2017 年 1 月 1 日以降はそれが認められなく
なる。
5.過少資本税制 (Thin Capitalization Rules)
チリ所得税法第 59 号第1項サブパラグラフ4には、従来の制度に代わるチリの新しい過少資本
税制が規定されている(チリ所得税法第 41F 号)。新制度は 2015 年 1 月 1 日から施行される。
新税制 41F 号では、利子・コミッションフィー・サービスフィー・財務費用・借り入れや負債、
その他契約・事業に関連する契約上のサーチャージで、期末において超過部分と認識される負債に
関連した費用には、35%の源泉税が課される。新税制では、貸し付けに関連して直接的または間接
的に発生した貸し主の費用で、それが借り主であるチリ法人に費用・サーチャージ(以下、“当項
目”)等の項目で請求される場合、そのような項目も負債に含まれる。
上述した 35%の源泉課税の内容は以下のとおりである。
a) チリ居住者(個人・法人)の納税者が、海外に居住する関連会社に対し借入利子等の支払
いをする場合、超過部分の負債に対応する当項目に対して適用される。
b) 35%の源泉課税は毎事業年度ベースで課税される。
c) 納税者の負債合計が、各事業年度末において純資産の 3 倍を超える場合に、負債の超過部
分があるものとみなされる。(“3:1 テスト” )
d) 純資産は各事業年度の 1 月 1 日時点における税務上の純資産額をもとに、必要な修正を加
味される。例えば、関連会社からの直接的または間接的な借り入れを資金としてチリ法人
に対する投資が行われた場合、そのような投資は投資先法人の純資産から控除される。事
業年度中における利益処分は、利益処分前後の期間を比例的に勘案(月数ベースで加重平
均)して、純資産から控除する。
e) 各事業年度末の負債合計額には、チリ所得税法第 59 号 1 項のサブパラグラフ a),b ),c),d),
g),h)に記載された借り入れやその他の負債(当債務が計上された月数で加重平均したもの)
およびそれに関連した利息等の未払い経過勘定などが含まれる。
f) チリ所得税法第 59 号 1 項のサブパラグラフに規定された借り入れやその他負債には、外
国に拠点を置く外国あるいは国際の銀行、または金融機関からの借り入れや、チリ法人か
ら発行された社債などが含まれる。一般に、これらの負債にかかる利子には、4%の軽減
税率を適用した源泉税が課される。
g) 各事業年度末の負債合計額には、チリ居住者法人からの借り入れまたは負債や、チリ法人
の海外拠点で恒久施設 PE(Permanent Establishment)が認定される場合、その拠点が
有する借り入れ・負債も含む。
h) 当該項目の受取人は、以下の要件を満たす場合、支払人または借り主の関連会社として扱
われる。
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i. 受取人が、チリ所得税法第41D号に規定された国または管轄区域に居住する場合。
(それらの国または管轄区域は、タックスヘイブンとして扱われる。)
ii. 受取人が、チリ所得税法第41H号に従い優遇税制が適用される国または管轄区域に居住
する場合。
第41H号では、少なくとも以下の二つの要件を満たす場合には、優遇税制が適用される
国または管轄区域とされる。(ただしOECD加盟諸国を除く。)
a) 外国源泉所得に対する実効税率がチリ所得税法第58項に規定された税率(35%)
の50%未満(すなわち17.5%未満)。
b) チリと情報交換協定を締結していない。
c) OECDまたは国連のガイドラインに沿った移転価格税制に関する国内基準が制定
されていない。
d) 自国の税務当局が第三国の税務当局へアクセスしたり情報交換することを国内法
において認めていない。
e) OECDまたは国連から優遇税制の適用国と認定される。
f) 全世界所得ではなく、もっぱら当該国の源泉所得だけに課税する国。
iii. 貸し主・借り主が同一の持ち株会社に属する、または貸し主・借り主が互いの資本また
は利益の10%以上を直接的または間接的に保有する、または貸し主または借り主のいず
れかの資本または利益の10%以上を、直接的または間接的に保有する共通の株主のもと
で事業を営む場合。
i) 一方で、チリ所得税法第 41F 号では関連会社からの負債を定義している。
j)

第三者がチリ法人の借り入れに対して保証を付す場合の当該借り入れ。
(第三者が借り主の関連者ではなく、保証業務を独立第三者間取引の条件で行う場合
を除く。)

上記の関連者ではない第三者が、借り主の関連企業から資金提供を受ける契約を結
んでまたは受けて、それを原資に貸し付けを行った場合の当該借り入れ。
35%の源泉課税を適用するための課税標準は、海外の関連会社に支払う当該項目の合計に、
企業の負債合計額から純資産の 3 倍を控除した金額を、企業の負債合計額の合計で割った
割合(超過割合)を用いて計算する。
新税制には明確に規定されていないが、すべての負債は負債合計額に含まれるものと考
えられ、軽減税率 4%の源泉税が課される項目(源泉税が課されない項目を含む)が過少
資本税制の対象とされる。
k) 当該項目につき支払われた源泉税は最終税から税額控除される。また借り主に課された過
少資本税は損金算入できる。
l) チリで施行するプロジェクトのため、関連会社以外の企業からの借り入れで、貸し主が借
り主の株式(配当などによる還元を含む)による債権保全を要求し、利子または保証料が
独立企業間原則に従い決定される場合、過少資本税制の例外が設けられている。
m) 35%の源泉課税は、借り主が銀行または保険会社の場合は適用されない。
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6.損金不算入経費および移転価格調整にかかるペナルティ税
従来のチリ所得税法第 21 号では損金不算入経費につき、チリ法人または要件を満たす場合はそ
の株主(この場合は 10%を上乗せ)に対し、シングルタックスを課す制度が設けられていた。
合理的根拠のない株主・所有者に対する支払いや会社資産の没収等に相当する損金不算入経費が
ある場合、35%のシングルタックスが課されてきた。それ以外にも、販売された商品の販売価格が
市場価格よりも低いためチリ税務当局から評価額是正の指摘を受ける事例など、チリ税務当局が評
価額の是正権限を行使する場合、証憑不足やその他の事情により納税者の課税所得を税務当局が決
定する場合、またはチリ所得税法 41E 号に準拠して移転価格調整が適用される場合にも、シング
ルタックスが課されてきた。
新税制では、2017 年 1 月 1 日以降、シングルタックスの税率が 40%に引き上げられる。
また損金不算入経費がチリ法人の株主または株主の関連会社に利益をもたらす場合、そのような
損金不算入経費は総合補完税( Global Complementary Tax : GCT )(チリ居住者の場合)または追
加源泉税(チリ非居住者の場合)の対象となり、10%の追加税率がさらに上乗せされるため留意が
必要である。
7.費用の損金算入
新税制ではチリ所得税法第 59 号に規定された項目(商標権・ロイヤルティー・特許権・コンピ
ュータソフトウェアの使用または利子の支払い・海外に提供されたサービスに対する報酬・エンジ
ニアリングや専門的業務に関しチリ国内または海外に支払わる報酬など)のチリ非居住者に対する
支払いにつき、受益者であるチリ非居住者が支払人であるチリ法人の関連会社である場合、新たな
規制を設けている。新税制は 2015 年 1 月 1 日以降に適用される。
一般に費用はその発生時点で損金算入されるが、新税制では上記費用が支払人であるチリ法人に
において損金算入されるためには、チリの法律または租税条約により追加源泉税の適用対象外であ
る場合を除き、追加源泉税を納付済みの場合、もしくは実際には納付未了であっても証憑類の存在
により受益者に対する当該費用の支払いが確定していることが必要である。
その他、従来の制度では、資本持ち分・株式・証券・その他資産(不動産除く)を取得するため
に発生した利子やその他金融費用の損金算入に関する取り扱いが不明確であったが、新税制では損
金算入条件を満たす限りそのような損金算入が認められることになった。当規定は、2014 年 10 月
1 日以降に施行されている。
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8.海外投資に対する新たな報告規制
新税制では納税者は毎年 6 月 30 日までに、過年度における海外投資の状況を報告するため、投
資金額とその内容、投資先の相手国・地域の情報を含む申告書をチリ税務当局に提出しなければな
らない。もしその投資が海外の株式を含む場合、当該株式の持ち分割合と投資先企業の情報を申告
書に記載する必要がある。特に、チリ税務当局が認定したタックスヘイブンや、低税負担国への海
外投資の場合は、チリ所得税法第 41H 号により納税者は当該投資の現在の状況、海外企業による
当該投資への関与状況について報告する義務がある。いずれの場合も、上記の要請に従わない場合、
投資先からの利益あるいはみなし利益配当があるものとみなされ、チリ所得税法第 21 号のペナル
ティ税が課される。
納税者の税務上の純資産が税務上の資本金と非課税所得の累積額を上回る場合、その超過額は最
終税の課税が未了の金額とみなされ、チリ所得税法第 21 号によるペナルティ税が課される。また
納税者から税務当局に対する虚偽の報告がされた場合、課税額の 50%~300%相当額のペナルティ
課税が追加され、納税者は Tax Code 97 条 4 項に従い有罪となる恐れがある。新税制には外国信
託法に関連した納税者に対する新しい報告制度も含まれるため、該当企業は留意が必要である。
チリ国内での投資が上記報告規制の対象に含まれない場合であっても、新税制ではチリ国内で受
動的所得を獲得した株主・所有者の税負担を過度に繰り延べる、または軽減するためチリ法人を利
用することは認められない。チリ税務当局が租税負担回避を目的として行われた取引と判断した場
合、チリ所得税法第 21 号のペナルティ税が課され、場合によっては有罪となる恐れがある。
9.のれん
税務上ののれんは、対象企業の株式や持ち分を取得した場合、株主・所有者が支払った金額と、
対象企業の税務上の純資産のうち、取得された株式または持ち分に相当する金額との差額により算
定される。一般に税務上ののれんは、当該投資が処分されるまで損金算入できない。
しかし、チリ所得税法第 31 号 9 項では、子会社がチリの親会社に吸収合併された場合、親会社
が将来年度において享受する税務上ののれんは、吸収された子会社が保有する各非貨幣性資産がそ
の合計に占める割合を基準として、市場価値を限度として各非貨幣性資産に按分される。従って、
これらの非貨幣性資産は税務上、のれんの按分により資産価値が評価替され、将来年度において費
用計上または減価償却により損金算入される。従来の制度では、非貨幣性資産に按分されなかった
税務上ののれんは、10 年間にわたり毎期定額償却により損金算入することが認められていた。
新制度では上記取り扱いが廃止され、2014 年 12 月 31 日以降に行われた合併につき、非貨幣性
資産への按分後に残った税務上ののれんは、10 年間での定額償却による損金算入が認められなく
なる。(ただし、2015 年 1 月 1 日以前に完了した合併を除く)
ただし 2015 年 1 月 1 日以前に合併手続きが開始され、2016 年 1 月 1 日までに完了した合併に
ついては、2014 年 12 月 31 日以前に合併手続きが開始されたことを証する公正証書を添えて申告
を行うことで、新税制の適用が除外される。
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10.キャピタルゲイン課税
従来のチリ所得税法第 17 号 8 項では、キャピタルゲインは資産の売却・処分等によりそれが実
現したときに限り、第 1 カテゴリー所得税と総合補完税(チリ居住者個人)、または追加源泉税
(チリ非居住者)が課されてきた。ただし、a) 1 年超保有されたチリ法人の株式を、b) 株式の売却
を常習的に行わない者が c) その関連会社以外の第三者に売却した場合、株式売却にかかるキャピ
タルゲインは第 1 カテゴリー所得税としてシングルタックス(2015 年:22.5%)が課されるとい
う例外が設けられていた。個人または個人株主により保有される会社による不動産の売却または移
転によるキャピタルゲインは、a) 不動産が 1 年超保有され、b) 個人が不動産売買を事業として営
んでおらず、c) 購入者が関連会社でない場合、には非課税とされていた。資産の売却が上記いずれ
にも該当しない場合、キャピタルゲインは通常の事業所得に含めて課税されていた。
2017 年 1 月 1 日以降、新税制では第 1 カテゴリー所得税としてシングルタックスを課す取り扱
いが廃止され、“常習的”という概念が削除された。また、“関連会社”に関する概念または規制
は、証券法第 96 号から第 100 号の改定に従い、同一の企業グループに属する会社へと範囲が拡大
された。
第 1 カテゴリー所得税が課される納税者には、以下の制度が適用される。
A.
株式や資本持ち分の売却によるキャピタルゲイン
課税対象となる所得は、販売価格からインフレ調整された購入価値を控除した額となるが、
統合方式(上記 1.2.A 参照)を選択する納税者は、売却益から未配分の帰属利益持ち分の
うち売却した株式に相当する額を控除することができる。
取得後 1 年以内に株式や資本持ち分を売却した場合、キャピタルゲインは第 1 カテゴリー
所得税に加え、総合補完税または追加源泉税が課される。一方、取得後 1 年を超えて売却さ
れた場合、総合補完税または追加源泉税が課される。総合補完税が課されるチリ居住者の場
合、売主が株式を保有した事業年度(最長 10 年間)に渡り課税を繰り延べることができる。
B.
不動産の売却によるキャピタルゲイン
2017 年以降、不動産の売却によるキャピタルゲインは、通常の課税所得として扱われる
ため、納税者が選択する課税方式に従い課税される。また不動産の売却によるキャピタルゲ
インが非課税とされる従来の措置は、2017 年以降に廃止される(ただし、チリ居住者個人
が 2004 年 1 月 1 日以前に取得した不動産の売却によるキャピタルゲインは除く)。
不動産価値の向上をもたらす修繕費用が不動産の一部を構成する場合には、修繕費用は購
入価額に含まれ、チリ税務当局に事前申告すれば、固定資産税のための鑑定評価額にも含め
ることができる。
取得後 1 年以内に売却された不動産のキャピタルゲインは、第 1 カテゴリー所得税と、総
合補完税または追加源泉税が課される。一方、取得後 1 年を超えて売却された不動産のキャ
ピタルゲインは、総合補完税または追加源泉税が課される。総合補完税が課されるチリ居住
者の場合、キャピタルゲインは、売主が不動産を保有した暦年期間(最長 10 年)に渡り課
税を繰り延べることができる。
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2017 年以降、納税者が保有する不動産の件数や販売件数にかかわらず、分譲地や建物の
販売(取得または建設から 4 年経過後の場合)、その他資産の販売(取得から 1 年経過後の
場合)によるキャピタルゲインで 8,000 UF(※)未満のものは非課税所得として扱われ、
8,000UF を超えるキャピタルゲインは、納税者の選択により総合補完税または 10%のシン
グルタックスが課される。
(※2014 年 12 月 31 日時点の UF と為替相場を用いて換算すると 321,396 米ドル相当額)
相続で取得した不動産にかかる相続税または贈与税はキャピタルゲイン課税から税額控除できる。
2014 年 9 月 29 日(新税制の公布日)以前に取得された不動産の取得価額は、取得価額(インフ
レ調整含む)に修繕費用(該当ある場合)を加味した金額、2017 年 1 月 1 日時点の固定資産税の
ための鑑定評価額(インフレ調整含む)、もしくは 2014 年 9 月 29 日までのある一定時点におけ
る公正価値で納税者が税務当局に証明したもののいずれかを納税者が選択する。
11.タックスヘイブン対策税制
(Controlled Foreign Corporations Rules :CFC)
新税制ではチリ所得税法に新しくタックスヘイブン対策税制(第 41G 号)が規定され、2016 年 1
月 1 日以降施行される。
チリ居住者法人が直接的または間接的にタックスヘイブンに認定される国の居住者(法人)を支
配する場合、タックスヘイブン国での受動的所得はチリで課税される。新制度は、納税者が外国被
支配企業に持ち分を有する場合、または外国被支配企業から受動的所得を受け取る場合に適用され
る。
チリ居住者法人がほかの会社の資本・議決権または利益の 50%超を直接的または間接的に保有
する場合、当該ほかの会社はチリ法人に支配されているものと扱われる(持ち分比率の判定には、
チリ法人の関連会社が保有する持ち分も含む)。またチリ法人が、単独またはほかの関連会社と共
同で、主要な役員や事務執行者を直接的または間接的に任命・変更・解任する権限を有する場合、
または外国会社の定款を一方的に変更する権限を有する場合、当該外国会社を支配しているものと
みなされる。子会社が第 41H 号に規定された低税率国に設立されている場合、外国被支配企業と
みなされる。ただし、納税者は外国会社を支配していないことを証明することもできる。
新制度では、受動的所得には主に以下の項目が含まれる。
a) 配当(子会社が孫会社から受け取った配当を原資に親会社に配当した場合で、子会社が持
ち株会社に該当するなど、当配当が実質的に受動的所得と認められるものを含む。)
b) 利子 (一定の要件を満たす金融機関からの利子を除く。)
c) 商標権・特許権・コンピュータプログラム等の使用から生じるロイヤルティー。
d) 資産のキャピタルゲインまたは受動的所得を生み出す権利。
e) 不動産収入(非支配企業が不動産業を営む場合を除く)
チリ法人の所得の 80%超が外国被支配企業からの受動的所得である場合、すべての所得が受動
的所得として扱われるが、受動的所得が外国被支配企業の所得総額の 10%を超える場合のみ、当
制度が適用される例外措置が設けられている。
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外国非支配企業の所得の算定においては、以下の規定が適用される。
1) 受動的所得はチリの規制に準拠して計算される必要があり、事業年度末においてチリ
法人の純所得に加算される(外国被支配企業が欠損金を計上する場合を除く)。
2) 受動的所得に関連した費用は受動的所得から控除される。
3) チリ所得税法第21号の損金不算入費用の規定は、外国被支配企業にも適用される。
4) 2,400米ドル相当額 を下回る受動的所得はチリで課税対象外とする。
チリ居住者法人は一定の要件を満たす場合、上記の受動的所得に対して海外で課された法人税を
税額控除できる。租税条約締結国または情報交換規程の締結国であれば、直接の投資国ではない第
三国にある企業(いわゆる孫会社)で課される法人税も税額控除することができる。
12.固定資産税の税額控除
不動産事業を営む事業者につき、新税制ではリース資産にかかる固定資産税の取り扱いに改正が
ある。2015 年度において固定資産税の 50%が第 1 カテゴリー所得税から税額控除できるが、2017
年以降においては、第 1 カテゴリー所得税から税額控除できなくなる。
13.中小企業者に対する制度
新税制には、中小企業者に関連した以下の制度改正が含まれる。
年間売上高が 4,178,100 米ドル相当額未満の中規模会社は、内部留保された未分配利益の 20%
(統合制度を選択した場合)または 50%(半統合制度を選択した場合)を、課税所得の計算基礎
から控除することができる。いずれのケースにおいても、控除額の上限は 166,000 米ドル相当額と
される。当制度を適用するためには、ほかの会社に対する投資から得られる所得、証券からの利子
等の所得が収益総額(グロス)の 20%を超えてはならない。
年間売上高が 2,090,000 米ドル相当額未満の小規模会社は、正規の帳簿組織を整備する必要はな
く、キャッシュフローベースの収支を計算基礎とした納税制度を適用することができる。また個人
によりすべての持ち分を保有される事業(企業)は、第 1 カテゴリー所得税が課される代わりに所
有者である個人が当該事業から還元された利益に対し、総合補完税(個人所得税)を負担する制度
を選択することができる。
また一定の要件を満たす場合、中小企業からチリ非居住者に支払われた広告宣伝、寄付金、技術
利用を目的とした支払いについては追加源泉税の適用対象外とされる。
2015 年 1 月 1 日以降、中小企業者に該当する企業は、付加価値税の納付期限を通常の納付期限
よりも最長 2 カ月延期することができる。
その他、既存の中小企業者に対する制度は廃止され、みなし所得制度における年間売上高の上限
額は、運送業では 200,000 米ドル相当額、農業では 375,000 米ドル相当額、鉱業では 710,000 米
ドル相当額に大幅に減額されている。
(なお新税制では物価変動係数である“Unidad de Fomento(UF)”により限度額が規定されて
おり、UF や為替相場の変動により限度額は変動することに留意が必要である。)
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14.ストックオプション
新税制では、チリ法人またはその関連会社からその従業員および役員に対し、チリ国内外で発行
された株式・社債・その他証券に対するストックオプションを付与することから生じる利益や、そ
の権利を行使または処分したことにより得られる利益は、給与所得とみなされる。オプション行使
後の、株式やその他証券の譲渡または処分から得られる利益に対し課税される。
15.個人所得税の最高税率の引き下げ
従来、チリ居住者(個人)には第 2 カテゴリー税(総合補完税)である個人所得税が課されてき
た。チリの個人所得税は累進課税であり、その税率は所得水準に応じて 0%から 40%とされてきた。
新税制では 2017 年 1 月 1 日以降、累進課税の最高税率が 40%から 35%に引き下げられる。
16.チリ所得税法第 57bis 号における優遇措置の廃止
従来のチリ所得税法第 57bis 号では、個人所得税を納付する個人に対し、定期預金・銀行預金・
投資信託・生命保険等の金融商品への投資に対する投資促進制度が設けられていた。
すなわち、当優遇策を適用する納税者は、正味貯蓄残高の 15%を限度として個人所得税からの
税額控除が認められた。この計算に用いられる各年度の正味貯蓄残高は、課税所得の 30%または
65 UNIDAD TRIBUTARIA ANUAL (UTA)(55,000 米ドル相当額)のいずれか少ない額が限度額
とされ、税額控除額が個人所得税を上回る場合には、還付請求を行うことができた。
新税制では、2017 年 1 月 1 日以降、上記制度は廃止される(ただし、上記制度を適用する納税
者に対する移行措置あり)。
17.貯蓄促進策
利子・配当・投資信託・その他チリ財務省やチリ法人が発行する金融商品で証券取引所やその他
規制当局の監督下にある金融商品等から得られる利益は、それらの金融商品に対する投資を同一の
運営管理人(投資先の銀行、証券会社等)に投資したまま据え置く、またはほかの運営管理者に再
投資している期間中、当投資が資金化されるまでの間、課税所得への算入が繰り延べられる。ほか
の運営管理人に対する再投資は、従前の運営管理人の権限委任状が必要となる。
当制度を適用するためには、納税者は投資の実行時点で適用の意思を申告する必要がある。また、
当制度を適用できる貯蓄額は、100 UNIDAD TRIBUTARIA ANUAL (UTA)(85,000 米ドル相当額)
が上限とされるため、納税者が同一事業年度に当制度を利用して投資を行う場合には、限度額を考
慮する必要がある。
これら金融商品に対する投資が資金化された時点で、そこから生じた個人所得に対し総合補完税
が課されるが、適用される累進税率を抑えるため、資金化された事業年度の個人所得に適用される
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累進税率ではなく、投資を継続した期間(ただし最長 6 年以内)に適用される総合補完税の最高税
率の平均を適用することができる。
当制度において投資資金を受け取ることが認められる運営管理者には、以下の報告規制が設けら
れている。



当制度を享受するすべての受益者を記録すること
(投資金額および日付、資金化された金額および日付、貯蓄商品の種類等。これ
らの情報はチリ税務当局に提供される。)
受領した預金、開設された口座、再投資された金額等の情報をチリ税務当局へ通
知すること
投資を資金化した際に、受益者の要請に応じて受益者が受け取った利子を証明す
ること
当制度は 2014 年 10 月 1 日以降、既に施行されている。
第2章
付加価値税(Value Added Tax : VAT)
従来の制度では、付加価値税は移動可能資産の売却および建設会社による不動産の売却に適用さ
れてきた。2016 年 1 月 1 日以降、販売者の業種を問わず、常習的に行う不動産の売却には付加価
値税が課される。購入や建設から 1 年以内の不動産の売却(ただしアパートや作業所といった建物
の場合は購入や建設から 4 年以内の売却)は、常習的に不動産の売却が行われたものと扱われる。
また不動産取引を本業とする事業者による不動産の売却取引は常習的な売却とみなされる(ただし、
抵当権の行使に伴う不動産の処分は除く)。購入時に付加価値税を支払わなかった中古不動産を売
却する場合、売却価額と購入価額の差額が付加価値税の算定基礎(ただし土地の評価額を除く)と
される。
以下の取引は、新税制において付加価値税の対象とされている。





常習的な販売者による不動産による現物出資
会社の清算手続きにおける不動産所有権の処分
常習的な販売者による不動産による現物配当
常習的な販売者による不動産の購入オプション付セールアンドリース契約
固定資産の一部を構成する有形不動産の売却
また以下の取引は、新税制において付加価値税の適用対象外とされる。
(いずれも公正証書または公証人による認証を受けることが必要)




2016 年 1 月 1 日以前に実行または契約された不動産の売却
2016 年 1 月 1 日以前に実行されたリース契約による購入オプション付不動産の移
転
2016 年 1 月 1 日から 1 年以内に行われる建築許可付不動産プロジェクトの売却
チリ住宅省から助成された住宅補助金の受益者に対する不動産の売却
(購入オプション付リース契約による売却を含む)
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第3章
外資法 600 号 (Decree Law 600)
外資法 600 号は外国からの投資誘致を促進するための優遇制度である。外資法 600 号の適用は
投資者が任意で選択するものであり、外国からチリに対する資本投資・物品やその他の投資を行う
企業は、チリ政府(外国投資委員会)と外国投資契約を締結することができる。
外国投資契約には、以下のような典型的な条項が含まれる。





有形資産(新品または中古)・技術または融資等を含む外国通貨による投資
資本・利益還元のための外国為替市場への自由な介入の保証
1 年経過後の投資の撤退
(ただし海外への利益処分は、納税義務を果たしていればいつでも可能)
国内投資家と比較して差別的な扱いを受けないことの保証
10 年間にわたる法人税の一定税率 42%の適用
(ただし、外国投資家はいつでも固定税率の適用を放棄でき、通常の法人税率を
適用することができる。外国投資契約では、鉱業関連活動にかかる鉱業税を 10 年
間にわたり増加させないことも保証している。)
新税制では 2016 年 1 月 1 日以降、外資法 600 号は廃止され、外国投資委員会は外国投資契約を
締結することが認められなくなるが(ただし外国投資契約を締結済の外国投資家の権利には影響な
し)、一方で新税制では 2015 年 1 月 31 日までに、外国投資保護のための新しい制度を定めた議
案を議会に提出することになっているため、新制度の動向には留意が必要である。
2016 年 1 月 1 日時点において、外国投資保護のための新制度が制定されない場合、それまでの
間、従来の外資法 600 号が継続適用される。
第4章
租税回避防止規程 (General Anti Avoidance Rules)
新税制には「租税回避防止規程」が導入され、2015 年 9 月 30 日から施行される。当規程は、施
行後の事実・行為・事業・取引にのみ適用され、納税者は反証がない限り、善意者として行動する
ものとみなされる。すなわち納税者が行う行為・契約または事象は、それぞれの法的な性質に従っ
て認識されなければならない。しかし、租税回避や租税負担の偽装を目的にそのような行動が行わ
れた場合にはこの推定は適用されず、法体系の乱用によっても税務事象は回避されない。
脱税あるいは虚偽が疑われた場合、それを立証する責任はチリ税務当局にあり、そのような脱税
や偽装の存在は、税務司法裁判所において法的に宣告されなければならない。
税務上の観点からは、納税者が納税行為を回避したり課税所得や税務上の負債が減る場合、納税
義務が果たされないまたは不当に繰り延べられる場合は、法律上の関連性や経済的な実態はなく、
単に税務上の恩恵を享受することを目的として乱用があったものとみなされる。
一方、納税者の法律に基づく行為は合法であるため、より高い税負担をもたらす行為により結果
的に同じ経済的な効果が得られる場合、または選択したある行為が法律に準拠する限り、税負担を
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軽減または税負担の時期を遅らせる結果となった場合でも、税負担回避のための法律の乱用はなか
ったものとされる。
また新税制 Bis4 号には租税回避を防止するための特別規程が明記されており、そこに規定され
た特定の取引に対する司法上の判断には、租税回避規程は適用されない。
第5章
自動車税
新税制では 2014 年 12 月 29 日から自動車税が導入された。新しい自動車税は、窒素酸化物の排
出水準と燃費水準に従い課税され、2017 年まで段階的に以下の算定式により計算される。
2015 年 12 月 31 日以前

UTM(※)に対する税金:[(35 /燃費 (km/lt)) + (60 x 窒素酸化物排出量/km)] x (販売価格
(VAT 込) x 0.00000006)
2016 年

UTM(※)に対する税金:[(35 /燃費 (km/lt)) + (90 x 窒素酸化物排出量/km)] x (販売価格
(VAT 込) x 0.00000006)
2017 年以降
●
UTM(※)に対する税金:[(35 /燃費 (km/lt)) + (120 x 窒素酸化物排出量/km)] x (販売価格
(VAT 込) x 0.00000006)
(※)Unidad Tributaria Mensual(UTM)は、インフレ調整された金額単位(月次ベース)
車両別の燃費水準と窒素酸化物の排出水準は、チリ運輸通信省が発行する規程に定められており、
当規程はチリ税務当局によって課税額の算定に利用される。購入者が直接輸入した自動車は納税額
の算定にあたり、運賃保険料込価格(CIF)を使用することが求められ、運賃保険料込価格が利用
できない場合、税関が算定した価格(関税と VAT 含む)をもとに課税される。
公共交通機関で使用される乗客輸送用車両・タクシー・2000 キロ以上積載可能なトラック・バ
ン・トラクター・救急車・装甲車等の特定種類の車両には、当税制の適用が免除される。積載量
2000 キロ未満のピックアップトラックは、付加価値税の納税者が購入し固定資産として計上する
場合、購入から 2 年以内に処分されない限り、当税制は適用されない。
新車両の購入者がチリ市民登録局において車両登録の際に自動車税を納付する。車両登録には自
動車税の納付証明書が必要であり、同一車両に対する自動車税の納付は一度行えば足りる。
チリ税務当局が 2014 年に発行した通達 119 号では、自動車税の納付と登録はチリ財務省が定め
た申告書様式 88 号を提出(オンラインまたは書面)することとされている。当申告書様式には、
納税者の納税 ID 番号・氏名または企業名・車両の種類および形式・車両識別番号・テクニカル
リポートのコードが記載され、請求書または輸入関連書類の番号・請求書発行者の納税 ID 番号
(該当がある場合)・請求書または輸入関連書類の日付・購入価額(純額)・付加価値税を申告
する必要がある。
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第6章
環境税
新税制には、50MWtを越えるボイラーやタービンといった固定汚染源の使用により排出される
粒子状物質(PM)・窒素酸化物(NOx)・二酸化硫黄(SO2)および二酸化炭素(CO2)につき、
新たな環境税が導入されている。環境省は対象となる固定汚染源の要件に関する年間ルールを発行
する予定であり、当汚染源の使用により上記の汚染物質を排出する場合、以下の環境税が課される。
a) 粒子状物質・窒素酸化物・二酸化硫黄が排出される場合、次の算式に基づき計算された汚染物
質 1 トンあたりの税金に汚染物質排出量の 10 分の 1 を乗じた金額が課税される。
算式:Tij = CDCj x CSCpci x Pobj
用語説明
 Tij = 地方自治体(j)が定める汚染物質1トンあたりの税金(1トンあたり米ドル)
 CDCj = 地方自治体(j)の汚染物質の拡散係数
 CSCpci = 汚染物質(i)別の社会コスト(粒子状物質:0.9米ドル, 二酸化硫黄: 0.01米ドル, 窒
素酸化物:0.0025米ドル)
 Pobj = 地方自治体(j)の人口
二酸化炭素が排出される場合、排出量 1 トンにつき 5 米ドルが課税される。
(ただし一次エネルギー資源としてバイオマスを使用した非従来型の再生可能エネルギーを使用
した固定汚染源からの二酸化炭素の排出には環境税は課税されない。)
環境省が毎年 3 月に公表する前年の汚染物質排出量をもとに算定され、毎年 4 月が納付期日とな
っている。環境税の課税にあたり、汚染物質の排出を規制当局が監督する制度が設けられている。
環境税は 2017 年に排出された汚染物質をもとに適用が開始され、2018 年からの納付となる。
第7章
印紙税
印紙税法第 3475 号(1980 年)では、国内信用取引につき借入期間に応じて月次ベースで
0.0333%、または返済日と満期日までの割合に応じて上限 0.4%(年次ベース)の印紙税が課され
てきた。満期の定めがないまたは要求払いの信用取引は、印紙税率は 0.166%とされてきた。
新税制では 2016 年 1 月 1 日以降、印紙税率が従来の 0.033%(月次ベース)または 0.4%(年次
ベース)から、0.066%(月次ベース)または上限 0.8%(年次ベース)へと引き上げられる。また、
満期の定めがないまたは要求払いの信用取引についても、印紙税率は 0.166%から 0.332%へと引
き上げられる。
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第8章
その他
新税制には、2013 年 1 月 1 日以前に事業を開始した納税者で 2014 年 12 月 31 日時点で再投資
収益基金を保有する納税者に対する選択税制が規定された。すなわち、最終税の課税が未了となっ
ている再投資収益基金からの配当を促進するため、2011 年から 2013 年までの 3 事業年度の平均
利益処分額を超える再投資収益基金からの利益処分につき、35%ではなく 32%の軽減税率を適用
した最終税を納付することができる。
当特例は 2015 年(暦年)のみの期間限定措置であり、この特例を適用した場合の税金申告・納
付は申告書様式 50 号を用いて行う。(過年度の累積)課税所得に対して既に支払った第 1 カテゴ
リー所得税は、当制度を適用して納付する最終税から税額控除することが認められる。
再投資収益基金に記帳された項目のうち、課税所得ではなく会計上と税務上の一時差異(加速度
償却を適用する場合など)に該当する項目や、再投資利益(“3.課税所得を超える配当と再投資
利益”参照)を源泉とする利益からの配当については、32%の軽減税率を適用することができない。
当制度を適用して 32%の最終税が課された課税所得は、再投資収益基金において課税所得から
非課税所得としての扱いに変更(FUNT に記帳)され、(既に最終税が課されているため)2015
年度以降に実際に配当が行われた時点では、追加で最終税が課されることはない。当制度の適用に
より支払う最終税は(チリ法人である親会社の)第 1 カテゴリー所得税計算において損金算入は認
められないが、チリ所得税法第 21 号のペナルティ税は課されない。また株主・所有者からの要請
があれば、利益配当が当制度の適用下で行われたものであることを証明しなければならない。
以上
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