MPVR画像が手術支援画像として 有用であった肺動静脈分離撮影の1例

CT Technology Forum:一般演題発表
一般演題発表
「画像診断または治療に役立ったCT画像症例」
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MPVR画像が手術支援画像として
有用であった肺動静脈分離撮影の1例
国家公務員共済組合連合会 虎の門病院 放射線部
川内 覚
肺静脈を区域レベルまで各々露出,処理をして切離す
はじめに
る必要があるため,肺動静脈の描出を目的に含めた
呼 吸 器 外 科 手 術 の 術 前 検 査 とし て 行 った3D-CT
3D-CTAの適用となる.したがって,部分切除術,区域
angiography
(3D-CTA)
においてvolume rendering
(VR)
画
切除術の双方の治療に対応できるような撮影,画像作
像とmulti projection volume reconstruction
(MPVR)
画像
成が必要であると考えた.
のfusion画像が手術支援画像として有用であった症例
肺動静脈分離撮影では,肺動静脈,気管支,腫瘍の
を報告する.
fusion画像を作成する必要があること,また腎機能障害
に伴う造影剤使用量の制限から,血管と実質臓器の十
症 例
分なコントラストを確保することを重点におき,撮影プ
70歳代,男性.2012年12月に指摘された S 状結腸癌
ランの設定を行った.
に対して2013年 1 月,腹腔鏡下 S 状結腸切除術を施
スキャンプロトコールを図 1 に示す.本症例では,
行.その際に,右のS6に小結節を指摘され,経過観察
造影剤と生理食塩水の注入を 2 回に分けて行うdouble
の方針となっていたが,術後半年のフォローアップCT
dose injection法を用いた.選択的に肺動静脈を造影す
で腫瘍の増大と,周囲胸膜の引き込みが見られたた
ることを目的として,1 相目の造影剤注入を行い,肝臓
め,外科手術の方針となり,術前検査として造影CTの
などの実質臓器を濃染させることを目的として,2 相目
依頼がなされた.
で残りの造影剤注入を行った
(図 2)
.
呼吸器外科手術の術前検査としてのCT撮影の目的
肺野に関しては,既知のとおり右のS6に小結節が認
は,①病変部の質的診断
(原発性・転移性)
,②他臓器
められたが,転移性病変は認められなかった.図 3 の
転移・遠隔転移の有無,③術式に合わせた支援画像
造影画像では,肺動脈相において肺動脈が784.1HU,
(部分切除・区域切除・葉切除)
を作成することである.
肺静脈が653.9HUという高いCT値を得ることができ,
しかし,本症例では血清クレアチニン値1.39mg/dL,推
良好な分離撮影を行うことができた.また低管電圧撮影
定糸球体濾過量38.8mL/min/1.73m とCKDの重症度分
により造影剤の減量にかかわらず,平衡相においても転
類においてG3bの中等度∼高度腎機能障害を認めたた
移診断に支障のないコントラストを得ることができた.
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め,放射線科医師より造影剤減量の指示があり,造影
画像処理として肺動静脈,気管支,骨のVRのfusion
CTを施行した.
画像を作成し,手術時のシミュレーション画像とした.
当院では 3 ポートVATSと呼ばれる 3 つのポートを使
用して,そこから手術器具を操作する手術を採用して
いる.術前検査では,腫瘍が転移性であるか,原発性
であるか不明であったため,まず術中に部分切除術を
施行し,術中迅速病理診断を行い,原発性の場合には
右のS6区域切除術に移行する方針となった.
撮影プランの設定と画像作成のポイント
使用装置は,80列MDCT装置Aquilion PRIME
(東芝
メ デ ィカ ル シ ス テ ム ズ)
, ワ ーク ス テ ーシ ョン は
Ziostation2
(ザイオソフト)
である.
部分切除術においては,ターゲットの腫瘍に対して
適切なマージンをとって切離する必要があるため,切
離範囲の決定には葉間胸膜と病変部の位置関係の把握
が重要となる.
一方で,区域切除術においては,気管支や肺動脈,
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◆撮影条件
管電圧:100kVp(施設プロトコール:120kVp)
管電流:AEC
(target SD10@5mm AIDR3D
(mid)
)
撮影スライス厚:0.5mm×80row
管球回転速度:0.35sec/rot. ピッチファクター:0.81
焦点サイズ:小焦点
ボーラストラッキング法:有り
(開始ROI:200HU)
軌道同期スキャン
CTDIvol:6.50mGy DLP:1566.6mGy・cm
◆画像再構成条件
スライス厚/スライス間隔:
5mm/5mm
(PACS転送)&
0.5mm/0.5mm
(ボリュームデータ)
再構成関数:FC03+AIDR3D
(standard)
◆造影条件
使用造影剤:イオヘキソール注射液
造影剤濃度:300mgI
造影剤使用量:400mgI/kg(施設プロトコール:600mgI/kg)
図 1 スキャンプロトコール
CT Technology Forum:一般演題発表
単純
ライン確保
患者入室
肺動脈相
肺静脈相
中間相
平衡相
Bolus tracking
抜針
患者退室
2nd Injection
st
1 Injection
30sec
90sec
double dose injection法
1st Injection
Contrastmedium
4.5mL/sec
45mL
2nd Injection
Saline
4.5mL/sec
30mL
pause
Contrastmedium
3.0mL/sec
30mL
Saline
3.0mL/sec
20mL
fractional dose:24.0mgI/kg/sec
図 2 造影剤注入方法
PA : 784.1HU
PA : 136.8HU
Aorta : 143.1HU
PV : 292.4HU
PV : 653.9HU
Liver : 108.4HU
肺動脈相
肺静脈相
平衡相
図 3 肺動脈相,肺静脈相,平衡相における造影画像
MPVR image
MPVR:Multiprojection
volume reconstruction
VR image
(PA+PV+Bronchus+
Bone+Tumor)
Fusion image
図 4 VR+MPVR fusion画像①
肺動静脈と気管支の局所解剖提示することによって,
分岐のパターンと立体走行を外科医に知らせることは
重要であると考える.
A6a
V6 c
次に,肺動静脈と気管支,骨,腫瘍のVR画像と肺野
MPVR画像のfusion画像を作成した
(図 4)
.肺動静脈,
気管支,腫瘍をカラー表示することによって腫瘍に流
入,流出する血管や葉間胸膜との位置関係の把握が容
易となった.胸腔鏡下手術に際し,術野に近いsagittal
viewから画像表示を行うことによって,外科医が求め
る画像を提供できたと考える
(図 5)
.
なお本症例では切除病変の病理診断により,腫瘍は
大腸癌の肺転移であると診断されたため,部分切除術
のみで手術は終了した.
まとめ
本症例では腎機能障害に伴う造影剤使用量の制限を
A6 b
◇肺動脈,肺静脈,気管支,腫瘍をカラー表示してfusionするこ
とにより,MPR画像と比べ,腫瘍に流入・流出する血管や葉
間胸膜との位置関係の把握が容易
◇VR画像のみでは,判別しにくい肺野内の
“深さ”
に関する情報を
提供
図 5 VR+MPVR fusion画像②
fusionさせることによって,有用な手術支援画像を提供
できたと考える.
症例ごとに医師が必要とする画像は異なるため,
100kVpの低管電圧撮影でカバーし,ノイズの増加を逐
我々診療放射線技師は臨床的な知識を十分に身につけ
次近似応用画像再構成で抑えることによって小焦点の
る必要がある.そして外科医が求める手術支援画像を
撮影を実現した.また,造影剤のdouble dose injection
作成するためには局所解剖に精通し,また,装置のス
法によって,良好な肺動静脈分離撮影と術前スクリー
ペックを最大限に活かすように撮影条件,造影条件を
ニング検査を実現させた.更にVR画像とMPVR画像を
設定し,画像処理を行う必要があると考える.
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