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科学研究費助成事業の
分野別採択状況からみる
「強み」
と大学経営
合田哲雄 文部科学省学術研究助成課長
1
研究力の
「新ランキング」
?
2014 年のノーベル物理学賞を受賞さ
究者は例外なく科研費のヘビーユー
担っている科研費は、全ての分野をカ
れた赤崎勇教授、天野浩教授をはじめ
ザー。300を超える専門分野ごとに毎
バーし最も信頼性の高い「研究評価」
世界的水準の顕著な業績をあげた研
年 6000 人の研究者がピアレビューを
の一つであると言ってよいだろう。
3 「専門分野ごとの過去5年の採択数」とは?
その配分結果については従来、東
学・政治学分野は、
「基礎法学」
「公法
カバーし、②専門的で公正な審査(ピ
京大学は採択数 3690 件・交付金額 219
学」
「国際法学」
「社会法学」
「刑事法
アレビュー)によって採択される科研
億円、京都大学は 2961 件・143 億円な
学」
「民事法学」
「新領域法学」
「政治
費について、③過去 5 年間にわたる、
どと大学ごとの採択数や交付金額を
学」
「国際関係論」といった細目に分
④交付金額ではなく採択件数を集計
公表してきた。しかし、これではそれ
かれている。今回新たに公表したの
することにより、それぞれの大学が各
ぞれの大学がどのような分野で研究
は、この専門分野(細目)ごとに、過去
専門分野にどれくらいアクティブな
力が強いかは分からない。
5年間の新規採択件数を集計し、上
研究者を集積し、
少額科研費を活用し
位 10 大学をリストアップしたデータ
た萌芽的で新規性の高いものも含め
である。
て、いかに積極的に研究活動をしてい
「大学の真の『実力』を知りたい」
10 月に文部科学省が専門分野ごとの
校、意外な弱点も」
(日本経済新聞)な
-高校生やその保護者、
企業、
起業家、
科学研究費助成事業(以下科研費)採
どと報じた。本稿では、この公表の趣
ファンドマネージャー、非営利法人、
択数上位10大学を初めて公表した際、
旨や背景、傾向分析を述べたうえで、
専門分野(分野細目)に分かれて審
官公庁、社会人入学や海外からの留
各紙は「大学の研究力 新ランキン
大学経営へのインパクトについて考
査、採択がなされている。例えば、法
学希望者、学生や大学教員、そして大
グ」
、
「 地方大学一芸の強み」
( 朝日新
察してみたい。なお、本稿で意見に関
学経営者などに共有する思いだろう。
聞)
、
「旧帝大、伝統的分野で強み 新
わる部分は執筆者の個人的見解であ
だからこそ、国内外を問わず数多くの
分野、私立・地方大など健闘」
(日刊工
り、所属機関の公式見解を示すもので
「大学ランキング」が存在する。昨年
業新聞)
、
「私大・地方大が健闘 伝統
はないことを予めお断りしたい。
2
助成事業)は研究者の間で最も信頼さ
知的・文化的価値の創造
科研費の役割②
真理の追究
〜ボーア型研究〜
厳正なピアレビューにより、大学や高
27 万人の中からアクティブな研究者 6
~7 万人程度を選び、支援している。
また、
「 基盤研究C」は年間の研究費
(直接経費)が平均で110 万円である一
方、
「基盤研究S」は3000 万円といった
科研費の役割①
【研究者】
企業
大学
公的機関
総数
ように、研究費額に応じて種目が分か
れており、比較的少額の科研費がわが
国の学問生産の量(論文生産数)を、高
額の科研費が質(論文被引用トップ
1%/10%の割合)をそれぞれ支え、わ
が国の学術研究の基盤となっている。
42
リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015
経済的・社会的・公共的価値の創造
刺激
技術的成立性の証明
※〜パスツール型研究〜
JST/ 戦略創造の
役割①
科研費等によって
生み出される
優れた科学的知見
専の教員、研究機関の研究員など全国
専門分野ごとの上位10 機関に名前
革新的な新技術
シーズの創出
Active Researchers
6 〜 7 万人
科研費申請登録者 27 万人
48 万人
32 万人
3 万人
83.6 万人
JST/ 戦略創造の
役割②
国立 8 万人、公立 1.5 万人、私立 12 万人、その他 5.5 万人(研究開発独法、国立試験研究機関
※革新的ゆえに民間企
業等による参入・投資・
リスク負担の判断が困
難な技術シーズについ
て、民間企業等がリス
ク判断することを可能
とするために行うもの
大学院 (博士) 7.5 万人 (1.5 万人 / 年) …理学 0.5 万人、工学 1.4 万人、保健 2.6 万人
国立 5 万人、 公立 0.5 万人、 私立 2 万人
大学院 (修士) 17 万人 (8 万人 / 年)
国立 10 万人、 公立 1 万人、 私立 6 万人
大学 (学部) 256 万人 (60 万人 / 年)
国立 45 万人、 公立 12 万人、 私立 199 万人
…理学 1.5 万人、 工学 7 万人、 保健 1 万人
…理学 8 万人、 工学 40 万人、 保健 28 万人
高等学校基礎学力テスト(仮)・大学入学希望者学力評価テスト(仮)
「科学の甲子園」など
高校生 360 万人(120 万人/年)←理数教育の充実、
PISA 調査レベル 5 以上 16 〜 28 万人 / 年
小・中学生 1,000 万人(120 万人/年)←中学校・理科時数 33 %増
など
るかを可視化していると言えよう。
図表 2 細目別採択上位 10 機関の機関数(機関種別)
があがった大学・研究機関の国公私立
上のエッジがあることが分かる。専門
図表 1 科学研究費助成事業の仕組み
このデータは、①全ての学問分野を
専門分野別上位 10 大学の傾向分析
国公私立を問わず多くの大学に研究
言うまでもなく科研費(科学研究費
究費)である。図表 1に示したように、
4
ごとの割合等は図表 2の通りであり、
科研費はわが国最大の研究評価
れているわが国最大の競争的資金(研
前述の通り、科研費は 300 を越える
分野ごとの状況の傾向は次のように
分析することができる。
※下線を引いた細目については次ページ図表3に掲載。
理工学系、生物系、人文学・社会科学系
ごとのトレンド
企業等の研究所 3 機関 1%
社団法人・
財団法人
17 機関 5%
国公立試験
研究機関
特殊法人・
独立行政法人
38 機関
11%
国立大学
84 機関
23%
16 機関 4%
短大・高専
12 機関 3%
大学共同利用
機関法人
細目別採択件数
上位 10 機関に
入っている機関
362 機関
16 機関 4%
公立大学
37 機関
10%
私立大学
第一に、専門分野の状況を大括りに
139 機関
39%
捉えれば、理工学系は、特に伝統的な
ディシプリン
(物性Ⅰ、物性Ⅱ、数理物
理・物性基礎、物理化学、有機化学、無
学(天然資源系薬学、人体病理学)
、聖
田大学、立命館大学、日本福祉大学と
機化学等)を中心に京都大学、東京大
路加国際大学(生涯発達看護学)
、昭和
いった私立大学も生物系以上に大きな
学、
東北大学、
大阪大学といった研究大
大学(機能系基礎歯科学)がそれぞれ
存在感を示している。特に、立命館大
学(リサーチユニバーシティー)が比較
の分野で1位となる等私立大学のプレ
学は人文地理学、
経営学、
社会学と幅広
的強い(P45図表 4)
。他方、生物系は、
ゼンスも大きい(P45図表 5)
。人文学・
い分野で1位となっている
(P46図表6)
。
東京大学が大きな存在感を示す一方
社会科学系は、東京大学、北海道大学、
なお、大学以外でも、東京文化財研
で、慶應義塾大学
(呼吸器外科学、産婦
大阪大学、東京芸術大学などに数多く
究所(文化財科学・博物学)
、海洋研究
人科学、眼科学、形成外科学)
、北里大
の研究上の強みがあると同時に、早稲
開発機構(地質学)
、科学警察研究所
リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015
43
図表 3 専門分野別上位 10 大学
■ 物性Ⅰ
順位
■ 有機化学
機関種別名
機関名
新規採択
うち女性
累計数
順位
機関種別名
機関名
新規採択
累計数
うち女性
1
国立大学
東京大学
45.5
2.0
1
国立大学
京都大学
33.5
0.0
2
国立大学
東北大学
30.5
0.0
2
国立大学
大阪大学
28.0
0.0
3
国立大学
大阪大学
23.0
2.0
3
国立大学
東北大学
21.0
1.0
4
特殊法人・独立行政法人
独立行政法人理化学研究所
18.0
1.0
4
国立大学
東京工業大学
19.0
0.0
5
特殊法人・独立行政法人
独立行政法人物質・材料研究機構
17.0
0.0
5
国立大学
九州大学
16.5
0.0
6
公立大学
大阪府立大学
14.0
0.0
6
国立大学
東京大学
16.0
2.0
7
特殊法人・独立行政法人
独立行政法人日本原子力研究開発機構
13.0
1.0
7
国立大学
筑波大学
15.5
0.0
8
国立大学
筑波大学
12.5
0.0
8
国立大学
名古屋大学
14.0
1.0
8
国立大学
京都大学
12.5
1.0
9
国立大学
群馬大学
9.5
0.0
10
国立大学
東京工業大学
11.0
0.0
10
公立大学
大阪府立大学
9.0
0.0
■ 眼科学
順位
■ 社会学
機関種別名
機関名
新規採択
うち女性
累計数
順位
機関種別名
機関名
新規採択
累計数
うち女性
(法医学)
といった特色のある研究機関
5 分野(計算機システム、感性情報学、
維材料 3 位)
、長崎大学(寄生虫学1位、
がそれぞれの専門分野において独自
デザイン学、科学教育、生産工学・加工
感染症内科学1位)
、群馬大学(病態検
の存在感を示している。
学)で10 位以内に入っており、教育機
査学 2 位、麻酔科学1位)
、新潟大学
(歯
能の強化とともに研究力の充実を図る
周治療系歯学1位)
、広島大学(化学物
という同大学のビジョンと戦略を垣間
性・移動操作・単位操作1位、
有機材料・
見ることができる。
ハイブリッド材料 2 位)
、山形大学(デ
私立大学の大きな存在感
第二に、第一で述べた大括りのトレ
ンドにおいても、私立大学はわが国の
研究上の拠点としての機能を担って
を仔細に見てみると、多くの私立大学
その中核を担うことが期待されている
宇都宮大学(感性情報学1位)
、九州工
が特に新しい専門分野に積極的に挑
地方国立大学にも、
「宝の山」が多く存
業大学(学習支援システム1位)
、奈良
戦している姿も浮かび上がってくる。
在する。例えば、信州大学(高分子・繊
女子大学
(衣・住生活学1位)
、
琉球大学
図表 4 科研費(理工系)において採択件数 1 位となっている細目数
慶應義塾大学
46.0
17.0
1
私立大学
立命館大学
38.0
10.0
2
公立大学
京都府立医科大学
42.0
13.0
2
国立大学
東京大学
33.0
8.0
3
国立大学
東京大学
31.0
5.0
3
私立大学
早稲田大学
32.0
7.5
例えば、ヒューマンインタフェース・イ
3
国立大学
大阪大学
31.0
3.0
4
国立大学
東北大学
22.0
11.0
5
国立大学
北海道大学
28.0
5.0
4
私立大学
立教大学
22.0
7.0
ンタラクション
(慶應義塾大学、立命館
国立大学
京都大学
28.0
2.0
6
国立大学
大阪大学
21.0
5.5
国立大学
東北大学
27.0
6.0
7
私立大学
関西学院大学
20.0
2.0
8
国立大学
九州大学
22.0
3.0
8
私立大学
法政大学
18.0
5.0
国立大学
熊本大学
17.0
5.0
9
国立大学
京都大学
17.0
5.5
大学)
、感性情報学(早稲田大学、中央
国立大学
旭川医科大学
15.0
1.0
10
国立大学
一橋大学
16.5
3.5
10
特殊法人・独立行政法人
15.0
3.0
大学、
東京電機大学、
東京都市大学、
金
■ 知能ロボティクス
機関名
順位
機関種別名
機関名
うち女性
2
国立大学
愛媛大学
15.0
6.0
究力を発揮している。個別の大学に
着目しても、例えば、カリキュラムフ
3
特殊法人・独立行政法人
独立行政法人産業技術総合研究所
6.0
1.0
3
国公立試験研究機関
国立感染症研究所
13.0
4.0
4
私立大学
早稲田大学
5.0
0.0
4
国立大学
三重大学
9.0
2.0
5
企業等の研究所
株式会社国際電気通信基礎技術研究所
4.0
0.0
5
国立大学
東京大学
7.0
0.0
ローに基づいた徹底した「人材を伸ば
す」工学教育で有名な金沢工業大学は
私立大学
立命館大学
3.0
0.0
5
国立大学
東京医科歯科大学
7.0
0.0
国立大学
電気通信大学
2.5
0.0
5
国立大学
金沢大学
7.0
0.0
8
国立大学
北海道大学
2.0
0.0
5
国立大学
大阪大学
7.0
2.0
8
国立大学
埼玉大学
2.0
0.0
9
私立大学
順天堂大学
6.0
0.0
8
国立大学
東京工業大学
2.0
0.0
9
私立大学
東京慈恵会医科大学
6.0
0.0
8
国立大学
九州大学
2.0
0.0
8
私立大学
千葉工業大学
2.0
0.0
9
特殊法人・独立行政法人
独立行政法人国立国際医療研究
センター
6.0
2.0
8
私立大学
福岡工業大学
2.0
0.0
機関種別名
機関名
新規採択
うち女性
累計数
35
1
1
33
・生物系細目数:135 細目(※1)
・集計機関数:38 機関
30
※2 赤い囲みは私立大学
25
国立大学
岡山大学
18.0
5.0
私立大学
昭和大学
17.5
8.5
8
国立大学
長崎大学
14.0
4.0
8
私立大学
愛知学院大学
14.0
1.0
10
私立大学
日本大学
11.5
3.0
リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015
2
2
2
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
1
独立行政法人
森林総合研究所
独立行政法人
農業環境技術研究所
公益財団法人
がん研究会
公益財団法人
東京都医学総合研究所
科学警察研究所
国立 医薬品
食品衛生研究所
6
7
0
国立感染症研究所
13.0
生理学研究所
19.0
3
国立遺伝学研究所
徳島大学
3
昭和大学
国立大学
4
京都府立医科大学
5
5
聖路加国際大学
7.0
名古屋市立大学
23.5
高知県立大学
東京医科歯科大学
群馬大学
国立大学
6
香川大学
4
7
5
広島大学
5.0
筑波大学
28.0
新潟大学
広島大学
東京農工大学
国立大学
9
横浜市立大学
3
10
10
浜松医科大学
独立行政法人
水産総合研究センター
独立行政法人
農業生物資源研究所
北里大学
1.0
東京医科歯科大学
34.0
東京海洋大学
大阪大学
九州大学
国立大学
長崎大学
2
14
慶應義塾大学
独立行政法人
理化学研究所
千葉大学
10.0
北海道大学
独立行政法人農業・食品
産業技術総合研究機構
東北大学
35.0
大阪大学
新潟大学
東京大学
国立大学
16
15
京都大学
1
44
1
20
■ 歯周治療系歯学
順位
1
図表 5 科研費(生物系)において採択件数 1 位となっている細目数
︵細目数︶
6
7
1
独立行政法人
産業技術総合研究所
1.0
1
独立行政法人
海洋研究開発機構
11.0
1
独立行政法人
海上技術安全研究所
大阪大学
2
独立行政法人
宇宙航空研究開発機構
国立大学
2
核融合科学研究所
2
0
山形大学
6.0
広島大学
28.5
名古屋大学
長崎大学
3
東京工業大学
国立大学
3
九州大学
1
大阪大学
2.0
東京大学
16.0
東北大学
東京大学
京都大学
国立大学
4
5
野を中心に、多くの私立大学が高い研
1
10
10
沢工業大学)等の新しい学際・融合分
新規採択
累計数
※1 1位に複数の大学がノミネートされて
いる細目があるため、各大学の細目
数と理工系細目数とは一致しない
(生
物系、人文社会系も同様)
。
独立行政法人
農業生物資源研究所
機関種別名
・理工系細目数:91 細目(※1)
・集計機関数:16 機関
20
独立行政法人
日本原子力研究開発機構
順位
20
15
沢工業大学、近畿大学)
、科学教育(金
■ 寄生虫学(含衛生動物学)
新規採択
うち女性
累計数
21
20
(立命館大学、千葉工業大学、福岡工業
9
位)
、
岡山大学
(情報セキュリティ1位)
、
25
大学、早稲田大学)
、知能ロボティクス
10
独立行政法人国立病院機構
(東京医療センター臨床研究センター)
︵細目数︶
第三に、地方創生の参謀本部として
私立大学
5
学(電力工学・電力変換・電気機器 2
いることが分かるが、個別の専門分野
1
7
バイス関連化学1位)
、
豊橋技術科学大
地方国立大学は「宝の山」
リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015
45
図表 6 科研費(人文社会系)において採択件数 1 位となっている細目数
(細目数)
16
15
14
・人文社会系細目数:58 細目(※1)
・集計機関数:20 機関
※2 赤い囲みは私立大学
9
8
6
6
4
4
4
3
3
2
2
2
1
1
1
1
1
1
1
1
独立行政法人国立文化財
機構奈良文化研究所
独立行政法人国立精神・
神経医療研究センター
大学共同利用機関法人
人間文化研究機構
国立国語研究所
国立民族学博物館
東京外国語大学
日本福祉大学
神戸大学
九州大学
一橋大学
筑波大学
(自然人類学 3 位)
、香川大学(胎児・新
1
1
お茶の水女子大学
京都大学
広島大学
東北大学
立命館大学
東京芸術大学
大阪大学
北海道大学
東京大学
早稲田大学
0
2
るとともに、競争的資金等により教育
多くの要路の共通理解の形成を促し、
者の研究ステージに応じ、
細目を超える
研究活動の革新や高度化・拠点化を図
「日本再興戦略 2014」
、
「科学技術イノ
創造的な研究を引き出す科研費改革、
4
るはずの「デュアルサポートシステム」
ベーション総合戦略 2014」
(2014 年6月
③大学における学術研究を真理の探
自然災害科学・防災学
9
脳計測科学
2
が機能不全を起こしていることであ
閣議決定)
、学術分科会
「我が国の学術
究と社会実装へと展開するための構造
哲学・倫理学
10
り、
政府に対しては予算・制度両面にわ
研究の振興と科研費改革について」
化など競争的資金改革、が一体的に検
文学一般
8
英語学
5
たって学術政策・大学政策・科学技術
(中間まとめ)
(同年8月)
に反映された。
討されているが、これらの議論のベー
日本史
9
政策に横串を通し、基盤的経費・科研
また、現在、文部科学省や総合科学技
スとなっているのも、前述した中間報告
9
費・科研費以外の競争的資金等の一体
術・イノベーション会議、産業競争力会
である。中間報告がトリガーとなって、
細目名
12
10
図表7 科研費細目別採択数
上位10機関の例(新潟大学)
順位
環境モデリング・保全修復技術
6
自然共生システム
基礎法学
会計学
10
ナノ構造化学
10
的改革によるデュアルサポートシステ
議においては、第三期国立大学中期目
それぞれの大学の構想力や機能をそ
素粒子・原子核・宇宙線・宇宙物理
10
ムの再生を、大学には明確で周到な戦
標期間と第五期科学技術基本計画が
の特性に応じて最大化できるような
略のビジョンに基づく自らの教育研究
スタートする2016 年に向けて、①各大
ファンディングや評価の仕組みをどう
上の強みの明確化と学内外の資源の
学のビジョン・強みを踏まえた教育研
構築するかについて、基盤的経費から
数理物理・物性基礎
9
地質学
9
設計工学・機械機能要素・トライボロジー
8
通信・ネットワーク工学
6
たものが多い。これまで高等教育の
計測工学
10
柔軟な再配分や共有を求めた。中間
究組織の再編成や学内資源の再配分
競争的資金までを見渡した大胆な議論
生児医学1位)
、浜松医科大学(精神神
世界では暗黙知のように認識されて
エネルギー学
6
を促すための(国立)大学改革、②研究
が、
今まさに行われている。
いた、長い蓄積に基づくそれぞれの大
6
報告の構想力は経済界関係者を含む
経科学1位)
、熊本大学(消化器外科学
神経生理学・神経科学一般
神経解剖学・神経病理学
5
3 位)など枚挙に暇がない。これらの
学の強みや特色が、今回のデータによ
神経化学・神経薬理学
9
ゲノム医科学
3
地方国立大学の研究上の強みは、上田
り可視化されたと言うことができる。
蚕糸専門学校(信州大学)や長崎医科
他方、前述のように金沢工業大学の黒
大学東亜風土病研究所
(長崎大学)
等、
田壽二総長の強力なリーダーシップ
戦前からの研究上の蓄積が現在でも
(旧)
農業土木学・農村計画学
解剖学一般
(含組織学・発生学)
医学物理・放射線技術
6
大学経営へのインパクト
だからこそ、今後、各大学に求めら
ば、
わが国には市場規模は小さいが世
の研究力の実相を示すデータは、高校
10
れる構想力や戦略は、
その大学の規模
界市場シェアは高い「グローバルニッ
生やその保護者にとってもますます重
等に応じて大きく異なってくる。例
チ産業」
が数多く存在する。特定分野
要となっていることは論を俟たない。
4
7
病院・医療管理学
6
は、同大学をわが国の大学教育のモデ
呼吸器内科学
9
腎臓内科学
6
えば、東京大学のように科研費を活用
で高い研究力を持つ大学がこれらの
慶應義塾大学の上山隆大教授によ
確実に息づき、さらに発展した成果で
ルとしてだけではなく、研究上の強み
神経内科学
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産業とどう向き合うかは、大学駆動型
れば、イギリス・タイムズ誌が世界大
を多数持つ研究力の高い大学へと導
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してアクティブに研究している教員
あることが多い。
精神神経科学
麻酔科学
6
を 3000 人規模で擁している大学は、
の成長戦略や地方創生の成否に大き
学ランキングを始めたのは、特にアメ
形態系基礎歯科学
3
病態科学系歯学・歯科放射線学
7
世界水準の研究大学としてこれらの
く関わっている。いずれの構想や戦
リカの研究大学との比較におけるイ
教員をどう組み合わせて刺激すれば
略にとっても鍵は「蓄積」と「マネジメ
ギリスの大学の国際的な通用性に対
より多くの競争的資金を獲得し、研究
ント力」
。この双方を可視化している
する危機感があったからだという。
鍵は「蓄積」と「マネジメント力」
いている。また、
8 年にわたって学部長
を務めている前田健康教授のリードに
このように分野ごとの上位 10 大学
より、新潟大学歯学部は10の歯学系の
を眺めると、大学の研究上の強みを形
専門分野のうち9 分野において10 位
保存治療系歯学
6
補綴・理工系歯学
6
歯科医用工学・再生歯学
6
外科系歯学
9
力を最大化できるかが問われている。
今回のデータは、大学関係者だけでは
このようにランキングは、それにこだ
矯正・小児系歯学
6
歯周治療系歯学
1
他方で、
新潟大学のように科研費で研
なく、企業、起業家、ファンドマネー
わって一喜一憂するためのものでは
社会系歯学
4
究を行っている教員数自体は 600 人
ジャー、
非営利法人や官公庁など大学
なく、自らの強みや特色・課題を冷静
成できるかどうかの鍵は、
「蓄積」
と
「マ
以内に入る
(図表 7)
とともに、高い科研
ネジメント力」であることに気づかさ
費採択率を誇っている。研究上の強
れる。前述の通り、現在の研究拠点は
みをさらに発展させるためには、明確
源の再配分を確実に実行する「強いマ
規模で東京大学と同じ土俵では競合
のステークホルダーにぜひ広くご覧
に認識・分析し、その課題を克服する
場合によっては130 年間にわたる投資
なビジョンのもと自らのエッジを明確
ネジメント」が不可欠であることを改
し難いが、専門分野によっては歯学分
頂きたいと考えている。
ためのビジョンや戦略を形成するた
による蓄積という足場の上で形成され
に把握し、その活性化のための学内資
めて痛感する所以である。
野をはじめ様々な強みを持っている
さらに、中央教育審議会において
めに活用してこそ意味がある。だか
大学は、これらの拠点の研究力を学内
「高等学校基礎学力テスト
(仮)
」や「大
らこそ文部科学省には、今回のデータ
の資源再配分と基盤的経費による安
学入学希望者学力評価テスト
(仮)
」が
を施策の中で最大限活用し、大学ごと
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転換期を迎える大学・学術政策
今、
大学・学術政策は大きな転換期を
対する厳しい見方が止まないのはなぜ
策に関する総合的な審議について(中
定的な支援の獲得を通じ、いかに高め
構想され、K-16 教育(幼児教育から
に異なるビジョンや構想を引き出す
迎えている。厳しい財政状況にあって
か。そう感じる大学関係者は少なくな
間報告)
」は、この問いを率直に分析し
ていくかのビジョンと戦略が求めら
高等教育までの教育)の連続性や一貫
ため、大学との丁寧な対話を積極的に
も
「科学技術関係予算」は増加している
いだろう。科学技術・学術審議会学術
た。その結果、その最大の原因は、本
れていると言えよう。経済産業省の
性の中で子ども達の能力をいかに伸
重ねることが求められていると改め
にも拘わらず、大学における知の創出
分科会(平野眞一分科会長)が 2014 年
来基盤的経費により長期的な視野に
産業バルーンチャート(
「わが国主要
ばすかへと学校教育が大きく舵を切
て認識している次第である。
力や人材育成力が低下し、学術研究に
5月にとりまとめた「学術研究の推進方
基づく多様な教育研究基盤を確保す
産業の国際競争ポジション」
)によれ
るなか、大学教育の基盤である各大学
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リクルート カレッジマネジメント190 / Jan. - Feb. 2015
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