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Proceedings of the 43rd Annual Meeting of the English Language Education Society of Japan
日本英語教育学会第 43 回年次研究集会論文集
カリキュラム構成が教員の‘活用する力’の認識に及ぼす影響
―「高校国語」と「国際バカロレア DP Language A」の比較から―
御手洗
明佳 1
〒169-8050 東京都新宿区西早稲田 1-6-1
E-mail: 1 sayaka-mitarai@akane.waseda.jp
1 早稲田大学教育学研究科
概要 本稿の目的は,高校国語と国際バカロレア(IB)DP Language A のカリキュラムに「思考力・判断力・
表現力等」
(以下,
‘活用する力’とする.
)がどのように組み込まれているか比較し,そのカリキュラム構成が教員
の認識に影響を及ぼしていることを明らかにすることにある.分析の結果,両カリキュラムの特色は,高校国語で
は特に「読むこと」がカリキュラムの中で比重を占めており,IB-DP Language A では「話すこと・聞くこと」
,特
に「書くこと」に比重が置かれたカリキュラム構成になっていた.また, ‘活用する力’に焦点を当てると,高校
国語では‘活用する力’を教科の「観点別評価」項目である「話すこと・聞くこと,書くこと,読むこと」の根底
に含まれる構成要素として位置づけており,教員たちは生徒の学習過程から‘活用する力’を発見することが期待
されていた.それに対し,IB-DP Language A では,
‘活用する力’を形成するための「行動」要因を明確化してお
り,教員たちはルーブリック評価基準をもとに生徒らから‘活用する力’形成に関連ある行動(認知過程を含む)
を質疑応答によって引き出そうとしていた.さらに両教員へのヒヤリング調査から,高校国語教員たちにとって‘活
用する力’は多角的多面的に幅の広い概念として認識されているのに対し,IB-DP Language A 教員たちにとって
‘活用する力’は,各教科,各項目,各試験問題のどの行動に規定されるのか共通した認識が共有されていた.以
上の結果から,能力要素の規定要因の明確化は‘活用する力’形成において教員の認識に影響を及ぼしているとい
える.
Effects of curriculum has on the perception of teachers
-Comparing IB-DP and language subject in Japan-
Sayaka Mitarai 1
1 Waseda
University 1-6-1 Nishiwaseda, shinjyuku-ku, Tokyo 169-8050 Japan
E-mail:
1 sayaka-mitarai@akane.waseda.jp
Abstract This paper reveals that the curriculum of "IB-DP language" and "language subject in Japan"
compared to how 'new skills' or is built in, and the curriculum is affecting the perception of teachers. This
paper set the three problems.First,the characteristics of both the curriculum something.Second,the 'new
skills’, how it is constructing the curriculum. Third, how does it whether they affect the recognition of
teachers. Result of the investigation, the first, in the case of a "national language of Japan", "reading
skills" is important in the curriculum, and "the power hear power and speaking" and "IB-DP language A", a
feature of both the curriculum, especially it had become the curriculum is important in "thing to write". The
conclusion, clarification of the elements of the new skill has had an impact on the recognition of teachers.
1. 先 行 研 究 の検 討 と 課題 設 定
よ っ て そ の 重 要 性 が 明 確 と な っ た「 自 ら 考 え ,判 断 し ,
本 稿 は ,「 高 校 国 語 」 と 「 国 際 バ カ ロ レ ア ・ デ ィ プ
表 現 す る 力( 思 考 力・判 断 力・表 現 力 等 )」を 指 す こ と
ロ マ プ ロ グ ラ ム Language A( 以 下 IB-DP Language A
とする.この‘活用する力 ’への関心は,日本では本
と す る .)」 の カ リ キ ュ ラ ム に 「 思 考 力 ・ 判 断 力 ・ 表 現
田 ( 2005) の 『 ポ ス ト 近 代 型 能 力 』 に 端 を 発 し , 松 下
力 等 」( 以 下 ,
‘ 活 用 す る 力 ’と す る .)が ど の よ う に 組
( 2010)に よ っ て よ り 明 確 に 提 起 さ れ た〈 活 用 す る 力 〉
み込まれているか比較し,そのカリキュラム構成が教
概念の一端を成す能力 概念である.本稿でこの‘活用
員の認識に影響を及ぼしていることを明らかにした.
す る 力 ’に 注 目 す る 理 由 と し て「 1990 年 代 以 降 ,初 等・
ここで用いる‘活用する力 ’とは,新学習指導要領に
中等教育と高等教育の違いを問わず,また,国の違い
御手洗 明佳, カリキュラム構成が教員の‘活用する力’の認識に及ぼす影響―「高校国語」と「国際バカロレア DP Language A」の比較から―,"
日本英語教育学会第 43 回年次研究集会論文集, pp. 71-79, 日本英語教育学会編集委員会編集, 早稲田大学情報教育研究所発行, 2014 年 3 月 31 日.
This proceedings compilation published by the Institute for Digital Enhancement of Cognitive Development, Waseda University.
Copyright © 2014 by Sayaka MITARAI.
All rights reserved.
を問わず夥しい数の能力概念が提唱されている」
(松下
が 試 み る の は , 矢 野 ( 2012) の 視 点 で あ る . 矢 野 は ,
2010) と 指 摘 さ れ て い る よ う に , 国 境 を 越 え た 共 通 の
‘活用する力’に関して注目している訳ではないが,
教育目標が 広がる中,実際の教育現場でその影響は同
IB ス ク ー ル と 日 本 で IB デ ィ プ ロ マ を 導 入 し て い る IB
様なものとして受入れられているのかという疑問に端
スクールの比較をとおして 時間的余裕がなくなること
を発している.本稿が対象としている「高校国語」や
を指摘している.矢野のカリキュラム分析の視点を踏
IB-DP Language A に も 同 様 の 教 育 目 標 が み ら れ る . た
まえることによって各科目における‘ 活用する力’形
とえば,本稿で‘ 活用する力’とする「思考力 ,判断
成 で は な く ,カ リ キ ュ ラ ム 全 体 を 通 し た‘ 活 用 す る 力 ’
力 ,表 現 力 」も 平 成 23 年 か ら 順 次 実 施 さ れ て い る 新 学
形成について比較・検討することが本稿のねらいであ
習指導要領において従来の「知識や技能」と並んでそ
る.このような問題意識のもと,以下の3点を課題と
の習得が目指される教育目標である.さらに,先進国
し て 設 定 す る .第 一 に ,両 カ リ キ ュ ラ ム の 特 色 は 何 か ,
お よ び 日 本 だ け で は な く「 グ ロ ー バ ル・ス タ ン ダ ー ド 」
第二に‘活用する力’はどのようにカリキュラムに組
の大学入学資格・教育プログラムである国際バカロレ
み込まれていたか ,第三に ,それは教員の認識にどの
i
ア で も 同 様 の 傾 向 が 見 ら れ ,知 識 基 盤 社 会 の 到 来 や グ
ように影響を及ぼしているのか,を設定とした.
ロ ー バ ル 化 の 進 展 に 伴 い 各 国 が ‘ 活 用 す る 力 ’へ の 注
2. 分 析 概 要
目を示して いる.
本 稿 は ,高 等 学 校 国 語 教 員 と IB-DP Language A 教 員
このように注目される ‘活用する力’であるが,先
へのインタビュー 分析と授業見学によって得たデータ
行 研 究 を 管 見 す る 限 り ,日 本 の 動 向 と 他 国( イ ギ リ ス・
を も と に 分 析 す る .分 析 に 使 用 し た 資 料 は ,国 語 で は ,
ア メ リ カ・ド イ ツ・オ ー ス ト ラ リ ア・フ ィ ン ラ ン ド 等 )
「 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説〔 国 語 編 〕」や 各 学 校 で 使
のそれとは異なった進展を示している .まず,日本に
用されていた教科書,およびノートや授業中配布され
お い て は ‘ 活 用 す る 力 ’す な わ ち「 ポ ス ト 近 代 型 学 力 」
た プ リ ン ト で あ る . IB-DP Language A で は , IB-DP
と は 何 で あ る の か ,そ の 存 在 自 体 の 解 明 す る 立 場 (本 田
「 Language A: Literature guide」お よ び 日 本 語 ワ ー ク シ
2005,岩 木 2004, 松 下 2010,),と ポ ス ト 近 代 型 学
ョップで使用された資料,授業中に配布されたプリン
力 モ デ ル を 検 討 す る 立 場( 佐 伯
1982, 梶 田 1944, 岩
ト で あ る . IB ス ク ー ル へ の 訪 問 は , 2008 年 〜 2013 年
2005),さ ら に‘ 活 用 す る 力 ’必 要 性 を 前 提 と し て
に 日 本 4 校・英 国 1 校・フ ラ ン ス 1 校 の 計 6 校 に 訪 問 ,
能力を身につけるためにはどのような 実践が有効かと
授業参観および教員へのヒヤリングをおこなった.ま
い う 実 践 型 の 立 場( 北 島 2011, 藤 井 2012, 溝 田 2013,
た,後期中等教育国語教員への授業見学および ヒヤリ
力 久 2013, 寺 嶋 他 2013 他 ii)が あ る .こ の よ う に 日
ン グ は , 2013 年 6, 7 月 に 関 東 圏 域 の 私 立 ・ 都 立 学 校
本 の 場 合‘ 活 用 す る 力 ’自 体 の 再 検 討 と モ デ ル の 提 示 ,
に よ っ て 実 施 し た ( 訪 問 校 5 校 , ヒ ヤ リ ン グ 10 名 ).
または各単元・教科・学校という単一のアクターから
3. 分 析 結 果
3. 1 両 カ リ キ ュ ラ ム の特 色
3. 1. 1 「 読 む こ と 」 重 視の 国 語 科目
川
の言及が目立つ.
一方,他国に目を投じると‘活用する力 ’の解明
や実践報告について日本同様,多くの研究がなされて
分 析 の 結 果 ,高 校 国 語 で は 教 育 内 容 の 中 で「 読 む
い る 点 は 共 通 し て い る ( Spencer & Spencer 1993 ,
こ と 」 に 比 重 が あ り , IB-DP Language Aで は 「 書 く こ
Sennett 2006, Bauman 2005, Winter et al 1981). し
と」に比重が置かれているという違いが明らかになっ
かし,異なっている点として他国が‘ 活用する力’と
た .ヒ ヤ リ ン グ 分 析 か ら ,高 校 国 語 教 員 の T教 諭 は「 国
いう教育目標を皮切りに実行する 「教育のスタンダー
語」という科目について「何を書いているか」を「読
ド 化 」( R. W. Tyler1973, 久 田 2007, 石 井 2009)
む 」の が「 国 語 で あ る 」と 語 っ て い る .
(下線部は筆者
のためのカリキュラム 改革は日本の教育基本法改正お
による加筆)
よび新学習指導要領の改革とは主旨を異にしている .
樋 口 ( 2009) に よ れ ば , 教 育 の ス タ ン ダ ー ド 化 と は 教
質 問 者:生徒 から 定期テ スト の点 を上げ たい と聞 か
育内容の国家的な統一化という「 インプット」志向か
れたら 何て アドバ イス しま すか?
ら ,そ れ ぞ れ の 段 階 に お け る 到 達 目 標 を 規 定 し ,そ の
T教 諭: 生徒 から です か .教 科書 を音読 しま しょ う
達成すなわち教育の成果を テストによって評価すると
と言っ てい ます . 教科 書の 文章を .音 読を
してス ラス ラ読め た と か, 何が書 いて いる
かって いう のを読 むの が国 語 だか ら ,ただ ,
ノート を見 返して 「あ ぁ , そうだ った な 」
って思 うの ではな くて ,教 科書を 読ん で ,
そのと きの 気持ち とか ,一 番重要 なま とめ
いう「アウトプット」志向への転換を示している.つ
まり,能力形成という単体への視点というよりもカリ
キュラム全体を根底から改革するムーブメントの頂点
に教育目標として‘活用する力’が位置づけられてい
るといえるのである.こうした先行研究を踏まえ本稿
72
の文章 はこ こだ , とか , い うのを 理解 でき
す こ と ・ 聞 く こ と 」 , 「 B. 書 く こ と 」 と 〔 伝 統 的 な
るようになると読めたってことだから ,あ
言 語 文 化 と 国 語 の 特 質 に 関 す る 事 項 〕と を 中 心 と し て ,
と は ,漢 字 は 落 と さ な い っ て こ と で す か ね .
そ の 内 容 を 発 展 さ せ た 科 目 」 で あ り , 「 現 代 文 A」 で
は ,「「 C. 読 む こ と 」の 近 代 以 降 の 文 章 の 分 野 と〔 伝
T教 諭 に よ れ ば ,「 音 読 を し て ス ラ ス ラ 読 め た 」と か
統的な言語文化と国語の特質に関する事項〕とを中心
「何が書いているかを 読む」ことが「国語」であると
として,その内容を発展させた科目」となっている.
述べている .また,教科書の文章から「そのときの気
他 の 科 目 が 3領 域 1事 項 に つ い て ど れ を 重 視 し て い る か
持ち」や「一番重要なまとめ」の部分を探し出すこと
図 式 化 し た も の が 図 表 2で あ る .
がわかれば,
「 読 め た 」と い う こ と を 証 明 し て い る の だ
と 説 明 し て く れ た .つ ま り ,国 語 と は ,
「 読 解 力 」で あ
る と い え る . こ の T教 諭 の 発 言 は , 一 人 の 教 員 の 意 見
であるが,国語という教科を端的に言い当てている.
それは,国語という教科の構成が「読むこと」に比重
がおかれた構造をもっているからである.高等学校学
習 指 導 要 領 解 説〔 国 語 編 〕に よ れ ば ,
「 国 語 」と い う 科
目は,必履修科目となる「国語総合」と選択科目であ
る 「 国 語 表 現 」,「 現 代 文 AB」,「 古 典 AB」 に よ っ て 構
成されている.この必履修科目と選択科目の関係は,
「国語総合」が教科の目標を全面的に受けているのに
対して,
「 国 語 表 現 」,
「 現 代 文 AB」,「 古 典 AB」は ,教
科の目標の 「それぞれの部分」を重点的に扱う科目と
いう位置づけにある.学習指導要領がいう「それぞれ
の 部 分 」 と は , 内 容 構 成 要 素 の こ と で あ り ,「 A. 話
図 表 2. 「 国 語 総 合 」の 領 域 等 と の 関 連 か ら み た 各 選
す こ と・聞 く こ と 」,
「 B. 書 く こ と 」,
「 C. 読 む こ と 」,
択科目の指導事項
さ ら に〔 伝 統 的 な 言 語 文 化 と 国 語 の 特 質 に 関 す る 事 項 〕
高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 〔 国 語 編 〕 第 一 章 総 説 ( p.
と い う 3領 域 1事 項 を 指 し て い る .( 図 表 ○ )
12) よ り
図 表 2 か ら ,「 国 語 表 現 」で は ,
「話すこと・聞くこ
と 」と「 書 く こ と 」,「 現 代 文 B」で は ,「 話 す こ と・聞
く こ と 」,「 書 く こ と 」,「 読 む こ と 」,「 古 典 AB」 で は
「読むこと」を「国語総合」の 3 領域の発展した科目
と し て 位 置 づ け て い る .ま た ,
〔伝統的な言語文化と国
語の特質に関する事項〕では強弱はあれども全ての科
目の中で扱われる構成となっている.この図表を見る
と,3 領域の中で「読むこと」への発展を促す科目が
多い構成になっていることがわかる.この図表をみる
限り,「話すこと・聞くこと」と「書くこと」の能力
を 伸 ば し た い と し た 場 合 「 国 語 表 現 」 や 「 現 代 文 B」
を選択すれば問題ないように思うが,ここには注意す
べ き 事 項 が 2 点 あ る .ま ず ,1 点 目 に「 現 代 文 」と「 古
典 」 に 付 さ れ て い る 「 A 科 目 」,「 B 科 目 」 の 分 類 で あ
る .学 習 指 導 要 領 に よ れ ば「「 A」「 B」は ,科 目 の 性
図 表 1.
3領 域 1事 項 の 図
格の違いを示している .「A 科目」は ,言語文化の理
高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説〔 国 語 編 〕第 一 章 総 説( P.
解を中心的なねらいとし,「B 科目」は読む能力を育
5) よ り
成 す る こ と を 中 心 的 な ね ら い と し て い る 」( p.13)と
あ る . つ ま り 「 現 代 文 A」 と 「 古 典 A」 で は , 「 言 語
例えば,
「 国 語 総 合 」で は ,3領 域 1事 項 の す べ て が 踏
文 化 の 理 解 」 を 「 現 代 文 B」 と 「 古 典 B」 で は 「 読 む
ま え ら れ て い る の に 対 し ,「 国 語 表 現 」 で は ,「 A. 話
能 力 の 育 成 」に 重 点 を 当 て て い る こ と に な る .よ っ て ,
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図 表 に あ る 「 現 代 文 B」 で は 「 話 す こ と ・ 聞 く こ と 」
か質問した時の返答である .
と「書くこと」の能力を育成すると記載しつつもその
K 教 諭 : 螺旋 型に , かつ , 色ん な 事に バ ラン スよ
比重は「読む能力に焦点を当てているといえるのであ
くやれるカリキュラムになってないから.
学習指導要領とか見ると.教科書通りや
ると , 作文 なんて 全然 でき ないで す .
る .2 点 目 に 大 学 入 試 問 題 と の 関 連 で あ る .図 表 3 は ,
『 大 学 受 験 パ ス ナ ビ で , 勉 強 法 を 知 る 』 の HP に 記 載
されていた大学入試センター試験〔国語〕の問題を過
去 5 年分,分析をおこなったものである.
質問者:なぜ?
K 教 諭:え っと ,書か せる ことが 圧倒 的に 少ない .
例えば,作文の単元は4つあるとするで
しょ? 4 つ をそ れぞ れ 4 時間 ずつ くらい や
るの .全部で 16 時 間く らい やっ て いる の
だけど ,書い て い る作 文は 4 つと いう訳 .
だから慣れない.それはなんか違うと思
う.
K 教諭は,3 年間を通じて発展的な授業設計を希望
しており,現在の状況を「教科書通りやると,作文な
んて全然できない」と話してくれた,作文とは「書く
こ と 」で あ り ,年 間 に 16 時 間 ,作 品 数 は 4 つ だ と 説 明
してくれた .その時間数と本数の少なさを生徒が「書
くこと」に「慣れない」要 因と考えていた .ここから
も「高校国語」のカリキュラム構成が「読むこと」に
比重があり ,「書くこと」「話すこと・聞くこと」の
成果を確認しにくくなっていることがわかる.
3.1.2 バ ラ ン ス を 重 視 した IB-DP Language A
つ ぎ に 「 IB-DP Language A 」 に つ い て み て い く .
図 表 3. セン タ ー試 験 (国 語 )の 出 題傾 向
「 IB-DP Language A」に つ い て ,パ リ 国 際 学 校 IB 日 本
『大学受験パスナビで ,勉強法を知る』
語 学 科 教 師・ IB-DP Language A 部 門 試 験 官 で あ る 石 村
http://passnavi .evidus.com/advice_subject/201212/04
に よ れ ば ,「 Language A の 授 業 は 日 本 の 国 語 と は か な
( 2013 年 7 月 10 日 閲 覧 )
り 違 う も の 」( 石 村 2013:313)と 指 摘 し て い る .さ ら
に 教 科 の 特 徴 を「 生 徒 自 ら が 学 び ,言 語 の 根 本 で あ る ,
こ の 図 表 3 に よ れ ば ,過 去 5 年 間 ,問 題 の 構 成 は「 第
1問
評 論 的 文 章 」,「 第 2 問
古 文 」,
「第 4 問
読んで理解し分析し,自己の考えを口頭および筆記で
文 芸 的 文 章 」,「 第 3 問
わかりやすく表現するという点で徹底している .そし
漢 文 」と 一 貫 し て い る こ と が わ か る .
て そ こ に 「 文 学 」 と い う 軸 が あ る こ と が 重 要 だ .」( 石
また,解答方式もマークシート記入方式の解答方法で
村
2013:313) と 述 べ て い る . 「 文 学 」 を 軸 と し 「 自
あるため,「話すこと・聞くこと」,「書くこと」は
己の考え口頭および筆記でわかりやすく表現する」こ
問 わ れ ず ,現 代 文 と 古 典( 古 文・漢 文 )の 読 解 問 題( 読
と を「 徹 底 し て い る 」科 目 で あ る「 IB-DP Language A」
む こ と )の み 問 わ れ る こ と に な っ て い る .こ の よ う に ,
の実践は以下の内容になっている .
大学入試センター試験の問題で高得点を獲得するため
に は「 現 代 文 AB」と「 古 典 AB」の 習 得 が 必 須 と な る
・コメンタリー演習(隔週)
ことがわかる.よって ,全国の大学受験を念頭におく
・エッセイ演習(隔週)
進学校にとって,選択科目の「国語表現」を選択する
・口頭試験演習(毎週)
ことは極めてリスクを負う選択であり 3 年間で「国語
・漢字テス ト(毎週)
総 合 」,「 現 代 文 AB」,「 古 典 AB」 を 受 講 す る 学 校
・長文読解問題演習(毎週)
iii
が多いといえる. また,「書くこと」に関して教 員
・ Extended Essay( 8000 字 )
は以下のような認識も確認された .以下は国語を担当
する K 教諭に今後どのような授業設計をしていきたい
こ れ は ,石 村 が ISP(International School of Paris)で 実
74
践 し て い る 授 業 内 容 で あ り 1 校 の ケ ー ス で あ る が , IB
ガ イ ド に 従 う 必 要 が あ る IB で は 多 様 性 は あ れ ど も ,そ
う大きく異なっていないことを前提に授業内容につい
て確認していく.上記にある,コメンタリー演習(口
頭 試 問 演 習 )・エ ッ セ イ 演 習( 小 論 文 演 習 ),Extended
Essay( 課 題 論 文 )は「 書 く こ と 」と「 話 す こ と・聞 く
こと」,長文読解問題演習は「読むこと」に分類され
るだろう.なぜこのような授業実践をおこなうのか,
カリキュラム構成の分析から行う .
ま ず , 基 礎 知 識 と し て IB デ ィ プ ロ マ プ ロ グ ラ ム は
図 表 5. Language A の 選 択 科 目
大学入学資格取得のための 2 年間のプログラムであり ,
( Language A: literature guide 2013 よ り 筆 者 作 成 )
6 科 目 ( Language A, 言 語 B, 個 人 と 社 会 , 数 学 と コ
本稿では特に「文学」科目に焦点を当てることとす
ン ピ ュ ー タ ー 科 学 ,実 験 科 学 ,芸 術 )と そ の 中 心 に TOK,
る.石村教諭の実践は如何に生まれるのか ,まず図表
課 題 論 文 ,CAS が 各 教 科 を 通 じ て 実 施 さ れ る 構 成 を と
6 に ま と め た 「 Language A 文 学 」 の 評 価 内 訳 を み て い
る .( 図 表 4)
く.
図 表 6. 「 Language A 文 学 」 の 評 価 内 訳
Language A: literature guide 2013.( p.25) よ り 筆 者 作
成
「 IB-DP Language A 文 学 」は ,IB 機 構 に 提 出 が 義 務
づ け ら れ て い る 外 部 評 価( 70%)と 各 IB ス ク ー ル 内 で
行 わ れ る 内 部 評 価 ( 30%) に よ っ て 構 成 さ れ て い る .
図 表 4.
国 際 バ カ ロ レ ア DP モ デ ル
外 部 評 価 で あ る , Paper1 と Paper2 , さ ら に 研 究 課 題
( Language A: literature guide 2013 . p. 10 よ り )
( Written assignment ) で 構 成 さ れ て い る . Paper1 ,
Paper2 で は , DP 最 終 試 験 で こ れ ま で の 授 業 で 実 践 し
その教育プログラムの中の グループ 1 として各生徒
た総まとめとして 2 時間ずつをかけて解説文とエッセ
の 母 語 に よ っ て 実 施 さ れ る の が「 Language A( Language
イを記述することになる.また,研究課題では ,授業
A)」科 目 で あ る .
「 Language A」は「 文 学( HL/SL)」,
で扱った課題について ,
「 討 論 に 関 す る 考 察( reflective
「 言 語 と 文 学 ( HL/SL) 」 , 「 文 学 と パ フ ォ ー マ ン ス
statement)」と エ ッ セ イ を そ れ ぞ れ ま と め る こ と が 課 さ
( SL) 」 に よ っ て 構 成 さ れ て お り ( 図 表 5) , い ず れ
れている.一方,内部評価ではオーラルコメンタリー
か を 選 択 し て そ れ ぞ れ IB 機 構 か ら 要 求 さ れ る 要 件 を
と 議 論( 20 分 ),オ ー ラ ル プ レ ゼ ン テ ー シ ョ ン( 10-15
満たすことが求められる.3 科目の構成からわかるよ
分)の実施が評価に反映することになっている .以上
う に 「 Language A」 は 「 文 学 」 の 授 業 と い う 側 面 を 強
から,
「 IB-DP Language A 文 学 」の 評 価 内 容 は 国 語 の 3
く持つ.
領域と比較するならば ,
「 書 く こ と 」70% ,
「話すこと・
聞 く こ と 」 30% の 構 成 に な っ て い る こ と が わ か る . こ
のことから,
「 IB-DP Language A 文 学 」の 最 終 ゴ ー ル が
エ ッ セ イ ,コ メ ン タ リ ー ,研 究 論 文 を「 書 け る 」こ と ,
ま た は 口 頭 試 験 ( オ ー ラ ル ) で 相 手 の 質 問 を 「 聞 き 」,
「 話 せ る 」こ と で あ る か ら ,授 業 は ,
「 書 く こ と 」,
「話
75
す こ と・聞 く こ と 」重 視 し て い る と い え る .ま た ,
「読
評価」の観点として‘ 活用する力 ’を導入していた.
むこと」に関わる読解力は ,課題に出された文章に対
文 部 科 学 省 は ,新 学 習 指 導 要 領 の 学 習 評 価 に つ い て「 評
して「文章が書ける」というこが ,その文章を「読め
価規準の作成のための参考資料(国立教育政策研究所
ている」という証明になっており ,生徒が提出した結
の ホ ー ム ペ ー ジ:以 下 ,評 価 規 準 作 成 資 料 )」を HP 上
果から生徒の思考の過程を評価しているといえる .
に提示している.この評価規準作成資料には,学習評
「 IB-DP Language A 文 学 」 が こ の よ う な 評 価 構 成 を
価の基本的な考え方,評価規準に盛り込むべき事項,
とっている 理由として「当科目で獲得すべきスキル」
評 価 に 関 す る 事 例 の 3 部 構 成 と な っ て い る .こ こ で は ,
を明確に規定していることが要因として掲げられる.
以 下 の 流 れ で 評 価 の 進 め 方 を 示 し て い る .ま ず ,
「 1. 単
「 IB-DP Language A 文 学 」 ガ イ ド に よ れ ば , 獲 得 す べ
元 又 は 題 材 の 目 標 を 設 定 す る 」,つ ぎ に「 2. 評 価 規 準
き ス キ ル と し て 「 言 語 ス キ ル 」,「 批 判 的 ア プ ロ ー チ 」,
を 設 定 す る 」,「 3. 評 価 規 準 を 〈 指 導 と 評 価 の 計 画 〉
「 文 学 の し き た り ( 約 束 事 )」,「 視 聴 覚 ス キ ル 」 の 4
に 位 置 づ け る 」,「 4. 評 価 結 果 の う ち 〈 記 録 に 残 す 場
点である.これらのスキルが獲得させたか ,評価する
面 〉を 明 確 に す る 」,こ こ で 授 業 を お こ な い 最 後 に「 5.
ためには実際に活用しているところを示すことが必要
観点ごとに総括する」としている .この「観点」とし
と な る .こ こ で ,IB の ス キ ル 獲 得 の 様 子 を 表 し て い る
て,
「 関 心・意 欲・態 度 」,
「 思 考・判 断・表 現 」,
「 技 能 」,
例 と し て , IB 卒 業 生 の コ メ ン ト を 引 用 す る .
「理解・知識」がある .また,各教科の評価において
も「 観 点 」が 設 定 さ れ て お り ,国 語 の 場 合 ,
「知識と理
Q: ISD( IB ス ク ー ル 名 ) で 高 校 生 活 を 送 っ た こ と
解 」,「 話 す ・ 聞 く 力 」,「 書 く 力 」,「 読 む 力 」,「 関 心 ・
であなたは変わったと思いますか?変わったと思う場
意 欲 ・ 態 度 」 で あ る . ま た ,「 話 す ・ 聞 く 力 , 書 く 力 ,
合,どのような点で変わりましたか?(大学選択・専
読む力」には「思考力・判断力・表現力等」が含まれ
攻,人生観 ,価値観など)
ておりそれを教員が判断することが求められている .
A: 私 が ISD で学 んだ もっ とも大 きな こと , それ は
さ ら に 注 意 事 項 に‘ 活 用 す る 力 ’に つ い て の 説 明 文 が
「自分 で考 える練 習 」を したこ とで あり ,
「 自分 で判断
ある.以下引用.
する練 習」を した こと であり ,
「 自 分の 決断を 下す 練習」
をした こと です . 記憶 力重 視の択 一式 の学 力で は ,器
用にな るば かりで 真に 「考 える」 力は つか なか った で
しょう から ,もし ISD 時代 がな けれ ば ,私も「枠 組み」
の中の 人生 を送っ てい たと 思いま す .( 航 空 会 社 勤 務 )
今回 ,
「思 考・判 断・表 現」の観点 につ いて は ,
各教科の内容等に即して思考・判断したことを,
その内容を表現する活動と一体的に評価するも
のとし て設 定 して いま す .その ため ,児 童生 徒の
作品な ど思 考・判 断の 結果と して の「表 現」を通
じて評 価す ること が多 くな ります が ,こ こで いう
「表現 」と は ,基礎 的・基本的 な知 識・技能 を活
用する 学習 活動等 にお いて 思考・判 断し たこ とと ,
その内容を表現する活動とを一体的に評価する
ことを 示し ていま す . このた め , 適切に 思考・判
断して いる が ,結果 的に 作品 化など にお いて 表現
できな い場 合など にお いて も ,学習 活動 の過 程に
おいて児童生徒の状況を適切に評価することが
重要であることを示しているものです.例えば,
図画工 作に おける 作品 製作 に当た って ,発想 や構
想が作 品の 実現に つな がら なかっ た場 合で も ,発
想や構 想の 能力に つい て ,そ の過程 を含 めて 評価
するこ とが 大切で す .
( 吉 田 2013:20 よ り . 下 線 部 は 筆 者 に よ る .)
以 上 の コ メ ン ト は ,IB ス ク ー ル で 高 校 生 活 を お く
った卒業生に自身の変化を質問したときの解答の 1 例
である.現在航空会社に勤務する A さん(仮名)は,
IB ス ク ー ル で 学 ん だ こ と と し て「 自 分 で 考 え る 練 習 」,
「 自 分 で 判 断 す る 練 習 」,「 自 分 の 決 断 を 下 す 練 習 」 と
述 べ て い る . IB で は ,「 自 分 で 考 え る 能 力 」,「 自 分 で
判 断 す る 能 力 」,「 自 分 で 決 断 す る 能 力 」 は 「 練 習 に よ
って」身につくものであり ,そのために各科目で獲得
す べ き「 ス キ ル 」を ガ イ ド で 明 確 化 し て い る と い え る .
以 上 か ら , 高 校 国 語 の カ リ キ ュ ラ ム 構 成 で は ,「 読
む こ と 」 の 能 力 に 比 重 が 置 か れ , IB-DP Language A の
カリキュラム構成では「書くこと」の能力に多くの比
重が置かれていることが明らかになった.
3. 2 各 カ リ キ ュ ラ ム 内 で の ‘ 活 用 す る 力 ’ の
位置づけ
に「オーラルとライティングコミュニケーショ ンの両
次 に ,「 思 考 力 ・ 判 断 力 ・ 表 現 力 等 」 の ‘ 活 用 す
方で生徒の表現力を発展させる」と明確に示されてい
る力’を各カリキュラムがどのように位置づけている
る.この「表現力」のように‘活用する力 ’は極めて
か に 注 目 す る .分 析 の 結 果 ,
「 高 校 国 語 」で は「 学 習 の
広い意味を持っている能力といえる.その文脈や役割
一 方 の IB-DP Language A で は ,科 目 の ね ら い の 一 つ
76
によって簡単にその意味を変化させる 能力である.そ
ションできるようになる」ことを目指しており ,それ
の 性 質 の た め か , IB-DP ガ イ ド で は , こ う し た 生 徒 に
こそ「表現力」だと認識していた .
とって必要な,特に試験問題で扱われる用語を明確に
ま た ,言 語 活 動 お よ び「 表 現 力 」は「 各 教 科 」で 実
し て い た . 例 え ば ,「 解 析 ( Anal yse) と は , 本 質 的 な
施するものであると認識している面も多く聞かれた .
要 素 や 構 造 を 引 き 出 す た め に 分 解 す る こ と ( Break
例えば,H 教諭の語りである .
down in order to bring out the essential
elements or structure)」,「 コメ ン ト( Comment)
と は ,判 断を くだ すこ と であ り ,意見 表明 ,また は ,
推 定 の 結 果 を 示 す こ と で あ る ( Give a judgment
based on a given statement or result of a
「言語 活動 」は結 局 他 の人 にわか りや すく 説明で き
るこ と だと 思う . 言語 活動 は各教 科で やり まし ょうっ
てこと だか ら理科 の授 業の レポー トを みん なで 読み合
ってや ろう ってい うの もあ るし , 数学 でい うと ,今ま
calculation)」 と 記 され てい る .
る力’形成にどのように影響してくるのだろうか.本
では先 生に 教えら れる だけ だった のが ,教 えら れたこ
とをレ ポ ー トにし よう だと か自分 たち で話 し合 って ,
答えだ そう とか , 他の 人と 関わる こと でい いア ウトプ
ットを 目指 しまし ょう とい う方向 性だ と思 う .
だから たぶ ん ,関 わり 合い があっ て , アウ トプッ ト
する場 所が あると いい 言語 活動だ と思 う .
【 H 教 諭:国
節 で は ,課 題 2「‘ 活 用 す る 力 ’形 成 へ の 影 響 を 検 討 す
語】
3. 3‘ 活 用 す る 力’ と 教 員の 認 識
で は ,こ の よ う な カ リ キ ュ ラ ム の 差 異 は‘ 活 用 す
る」に移りたい.ここでは,高校国語教員と
IB-DPLanguage A 教 員 へ の ヒ ヤ リ ン グ 調 査 か ら ,
‘活
H 教 諭 は ,「 言 語 活 動 」 を 「 他 の 人 に わ か り や す く
用する力’に対してどのように認識しているかについ
説 明 で き る こ と 」と 認 識 し な が ら も ,
「言語活動は各教
て明らかにしていくこととする.また,本稿では‘活
科でやりましょう」と述べており ,言語活動に必要な
用する力’のために設置された「言語活動」および,
のは「他の人」との「関わり合い」と「アウトプット
そ の‘ 活 用 す る 力 ’の 構 成 要 素 の 一 つ で あ る「 表 現 力 」
する場所」があることを言語活動の条件として説明し
に注目する .
てくれた.
まず,高校国語教員たちに「近年 ,学校現場で必要
性が叫ばれる「言語活動」および‘活用する力 ’の一
一 方 の IB-DP Language A の 教 員 た ち が「 表 現 力 」に
部である〔表現力〕とはどのような能力だと思うか」
ついてどのように認識しているのだろうか .
と問うたところ様々な意見がでてきた .
(下線部はすべ
て 筆 者 に よ る .)
質問:表現力,言語活動とはどのような能力でしょ
うか.
こ れ ( 表 現 力 ) は , ひ と こ と で こ れ で す ね ,「 イ ン
ターコ ミュ ニケー ショ ン」.言語 によっ ても 文化 によっ
ても異 なる 言語を しゃ べる 他者や 異な る文 化を もつ人
たちに 自分 の言葉 を説 明 , 自分の 考え をそ の人 の言葉
であれ 自分 の言葉 で説 明で きたり 表現 でき たり するこ
とがで きる こと ,と いう のが大 事だ と思 ってい る .
(基
本的な 現代 文の授 業で は) 目の前 の人 にコ ミュ ニケー
ション でき る ,向 こう (レ ベルが 上が る表 現ゼ ミの授
業)で は , 目の前 に“ いな い”人 にも コミ ュニ ケーシ
ョンできるようになること,そういう能力だと思う.
I 教 員 : 口 頭 ,筆 記 等 にお い て , 他 者 の表 現 を理 解
して , 自己 の考え を他 者に 理解さ せる 能力 .【 IB】
I 教 諭 は ,表 現 力 ,言 語 活 動 は ,「 口 頭 , 筆 記 等 」に
よって「他者の表現を理解して,自己の考えを他者に
理 解 さ せ る 能 力 」と し て い る .つ ま り ,
「 IB-DP Language
A」 の 試 験 ( 口 頭 試 験 ・ 筆 記 試 験 ) に つ い て は 「 他 者
の表現を理解して ,自己の考えを他者に理解させる能
力 」で あ る と 意 味 限 定 し て 能 力 を 説 明 し た .次 の H 教
諭 も「 言 語 活 動 」「 表 現 力 」の 意 味 の 多 義 性 を 理 解 し て
【K 教員:国語】
いた.
H 教 諭 :「言 語活 動」, いわ ゆる , コミ ュニ ケーシ
K 教 諭 に よ れ ば ,表 現 力 と は ,
「インターコミュニケ
ョン活 動 で , 受信 ,発 信す ること と考 える .海 外では
「違っ てい ること 」が 基本 なので ,そ のた め言 語能力
が必要 とさ れる .日本 国内で も同 じで はない かと 思う .
「表現 力」 に関し ては , 言 語を使 わな い表 現も可 だ
が ,言 葉で 自己表 現す るこ とは そ の人 の人 生を 楽しく
ーション」であるという.文化や言語が異なる他者に
「 自 分 の 言 葉 で 説 明 で き た り 表 現 で き 」る こ と が 重 要
であり,国語の現代文の授業では「目の前の人にコミ
ュ ニ ケ ー シ ョ ン で き る 」こ と ,ゼ ミ 形 式 を 取 る「 表 現 」
の授業では 「目の前に“いない”人にもコミュニケー
77
するも の と 思う .【 IB】
はわかるのです,生徒は.このテストで何か測られて
いるのかな?それは読解力だよねっていう とそうだよ
H 教諭によれば,
「 言 語 活 動 」を「 コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ
ねっていうんです .問題を解けるってことは,読めて
ン 活 動 」と 言 い 換 え ,
「 違 っ て い る こ と 」を 前 提 と し て
るということだと .読めるって概念についてはわかる
が「 受 信・発 信 す る こ と 」と 考 え て い る .ま た ,
「表現
ん で す け ど .【 T 教 諭 : 国 語 】
力 」に つ い て は ,
「 言 語 を 使 わ な い 表 現 も 可 」と 表 現 を
言語の使用の有無を分類したうえで,
「言葉で自己表現
国語教員 T の発言からは ,生徒は‘読解力’という
することはその人の人生を楽しくするもの」と表現は
概念について「テストで何が測られている」かによっ
人 生 に 関 わ る も の と し て 語 っ て く れ た .こ の「 表 現 力 」
て能力概念を認識しているのではないかと予想してい
と生徒の人生への関わりに対する言及は他の教諭から
る.もし,T 教諭のいうように我々の認識がテストな
聞くことになった .
どの測定によって規定されているとするならば,
‘活用
する力’も何かしらの明確な測定が必要なのではない
質 問 者 : 担 当科目 と生 徒の 将来は 関わ って くると 思
います か . また , そう 考え るのは なぜ です か .
I 教 諭 : 非 常 に大 き く 関わ る .殆 ど の 生徒 が 日本 語
が第一 言語 である ため ,こ の言語 の伸 びが 他の 教科に
大きく 影響 する . また ,将 来にお いて ,表 現力 はどの
ような 生活 をしよ うと 人生 におけ る重 要な 要素 である .
かと考えられる.
4. 結 論 と 今 後の 課 題
本 稿 は , 高 校 国 語 と 国 際 バ カ ロ レ ア ( IB ) DP
Language A の カ リ キ ュ ラ ム に 「 思 考 力 ・ 判 断 力 ・ 表
現 力 等 」( 以 下 ,
‘ 活 用 す る 力 ’と す る .)が ど の よ う に
組み込まれているか比較し ,そのカリキュラム構成が
I 教 諭 に よ れ ば ,Language A が 母 語 に 相 当 す る 言 語 で
教員の認識に影響を及ぼしていることを明らかにした .
あることから,母語(日本語)の獲得が他の教科に非
課題として ,第一に,両カリキュラムの特色は何か,
常に影響を及ぼすということと,さらには ,そこで獲
第二に‘活用する力’はどのようにカリキュラムに組
得する「表現力」は「どのような生活」をしようとも
み込まれていたか ,第三に ,それは教員の認識にどの
生徒の「人生にお ける重要な要素 」であると認識して
ように影響を及ぼしているのか,を設定とした .調査
いた.
の結果,両カリキュラムの特色は ,高校国語では特に
以 上 か ら ,国 語 国 語 教 諭 と IB-DP Language A 教 諭 の
「 読 む こ と 」が カ リ キ ュ ラ ム の 中 で 比 重 を 占 め て お り ,
「 言 語 活 動 」「 表 現 力 」の 認 識 を 比 較 し た と こ ろ ,認 識
IB-DP Language A で は「 話 す こ と・聞 く こ と 」,特 に
が重なる部分と異なる部分が明らかとなった.すなわ
「書くこと」に比重が置かれたカリキュラム構成にな
ち,認識が重なった部分とは,両者とも「表現力」を
っていた.また, ‘活用する力 ’に焦点を当てると,
「他者との相互関係」を円滑にするための「コミュニ
高校国語では‘活用する力 ’を教科の「観点別評価」
ケーション」のため能力と認識していた点である .ま
項目である「話すこと・聞くこと ,書くこと,読むこ
た,異なった点としては,国語教員が「言語活動」お
と 」の 根 底 に 含 ま れ る 構 成 要 素 と し て 位 置 づ け て お り ,
よび「表現力」を各教科で育む能力であると認識して
教員たちは生徒の学習過程から‘ 活用する力’を発見
いるのに対して,
「 IB-DP Language A」教 員 は ,自 身 の
す る こ と が 期 待 さ れ て い た . そ れ に 対 し , IB-DP
科目のさらに「口頭試験・筆記試験」によってその能
Language A で は ,
‘ 活 用 す る 力 ’を 形 成 す る た め の 行
力が培われると明確にしていた点である.さらに,そ
動要因を明確化しており,教員たちはルーブリック評
こで涵養される能力は ,生徒の人生に影響を及ぼすと
価基準をもとに生徒からそれらの行動(認知過程を含
いうことも認識していた.国語教員への同様に「自身
む)を引き出すための質疑応答が期待されていた .さ
の担当科目が生徒の将来に影響を及ぼすと思うか」と
らに両教員へのヒヤリング調査から,高校国語教員た
いう質問をしたところ ,
「 関 わ る 」,
「関わってほしいと
ちにとって‘活用する力’は多角的多面的に幅の広い
思 う 」,
「 特 に 関 わ ら な い 」と 多 様 な 意 見 が 出 た .な ぜ ,
概 念 と し て 認 識 さ れ て い る の に 対 し , IB-DP
このような違いが出たのだろうか ,少し本論の主題か
Language A 教 員 た ち に と っ て ‘ 活 用 す る 力 ’ は , 各
ら逸れてしまうが興味深い例を示しておきたい .国語
教科,各項目,各試験問題のどの行動に規定されるの
教員へのヒヤリング中 ,T 教諭が話してくれた内容で
か共通した認識が共有 されていた .以上の結果から,
ある.
能力要素の規定要因の明確化は‘ 活用する力’形成に
おいて教員の認識に影響を及ぼしているといえる .
(表現力とは何か)高校生は気づくかもしれないけ
本 研 究 は , 世 界 中 に 散 ら ば る IB ス ク ー ル 教 員 へ の
ど,中学生ぐらいだとわからないかも .生徒は読解力
接近が難しく調査対象者のサンプル数が多いとはいえ
78
シ ー・マ ネ ジ メ ン ト の 展 開 ― 導 入・構 築・展 開 ー 』
(梅津祐良 ・成田 攻・ 横山 哲夫訳 )生 産性 出版 .
[16]久 田 敏 彦 2007「 ド イ ツ に お け る 学 力 問 題 と 教 育 改
革」 大桃敏行・井ノ口淳三・植田健男・上杉孝
實編『教 育改革の国際比較』 ミネルヴァ書房,
pp36-37
[17]文 部 科 学 省 2010『 高 等 学 校 学 習 指 導 要 領 解 説 国
語編』教育出版.
[18] R W. Tyler, 1973“ The Father of Behavioral
ず今後さらに精緻化する必要があるという問題を抱え
ているものの‘活用する力 ’概念の受け止め方が日本
の 学 習 指 導 要 領 お よ び 先 行 研 究 と IB 関 係 者 の 受 け 止
め方の違いを提示している点で今後の‘活用する力’
概念研究の射程を広げるという意味で意義があるとい
える.今後の課題としては ,ヒアリングサンプル数の
増加とカリキュラム全体の系統方法の違いを明確に示
Objectives Criticizes Them: An Interview with
Ralph Tyler”, Phin Delta Kappan.
すことが求められるだろう .
文
献
i
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[12]吉 田 孝 2013『 文 部 科 学 教 育 通 信 』No.314, p20.
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performance. John Wiley & Sons. 『 コ ン ピ テ ン
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リ キ ュ ラ ム は ,思 考 力・判 断 力・表 現 力 等 の 育 成 を は じ
め 学 習 指 導 要 領 が 目 指 す「 生 き る 力 」の 育 成 や ,日 本 再
生 戦 略 ( 平 成 24 年 7 月 31 日 閣 議 決 定 ) が 掲 げ る 課 題
発 見・解 決 能 力 や 論 理 的 思 考 力 ,コ ミ ュ ニ ケ ー シ ョ ン 能
力等重要能力・スキルの確実な修得に資するもの 」と
記載している.
(国際バカロレアの趣旨を踏まえた教育の推進:文
部科学省)
http://www.mext.go.jp/a_menu/shotou/kyoiku_kenk
yu/ ( 閲 覧 日 2013 年 5 月 31 日 )
ii 論 文 検 索 サ イ ト 「 CiNii」 で 「 思 考 力 ・ 表 現 力 」
の キ ー ワ ー ド を 入 れ る と 500 件 以 上 ヒ ッ ト し た .
iii 中 高 大 一 貫 校 で は ,積 極 的 に 「 国 語 表 現 」 の 授 業 を
受講しているケースがみられた.
79