発現細胞の検出

一23一
平 成12年12月(2000年)
マ ウ ス リ ンパ 組 織 の レプ チ ン レセ プ タ ー
発 現 細 胞 の検 出
阪口
恵子,佐 藤
久湊
紘子,徳 永
雅美,西 津
尚子,松 永 美沙子,宮 田
Identification
of leptin
in lymphoid
堅司
receptor-expressing
tissues
cells
of the mouse
Keiko Sakaguchi, Hiroko Satoh, Masami Tokunaga,
Shyoko Hisaminato,
景子,
Keiko Nishitsu,
Misako Matsunaga and Kenji Miyata
Leptin, the product of the ob gene expressed in adipocytes, is shown to influence energy intake
and expenditure, proliferation of CD4+ T cells, neovascularization and intracellular triglycerides
homeostasis in non-adipocytes. Leptin acts on target cells through receptor (OB-R) . There are at
least five different types of OB-R in mouse due to alternative splicing from db gene transcripts.
OB-Ra OB-Rd share identical extracellular and transmembrane domains and JAK binding consensus sequence at cytoplasmic domain. Only OB-Rb has an additional STAT binding motif and is
essential for most of leptin' s physiological functions through JAK-STAT pathway. OB-Ra is also
reported to transduct weakly leptin's signal through JAK-phospholyration pathway.
On this paper we examined which kinds of cell express OB-Ra or OB-Rb in lymphoid and fat
tissues of the mouse. Both types of OB-R were detected in thymus, spleen and gastrolienal fat tissue by RTPCR method, then the constitutive cells were separated from dissected tissues and cultured in GIT medium with 10% heat-inactivated FBS. Primary cultured lymphocytes isolated from
thymus or spleen expressed both OB-Ra and OB-Rb. On the other hand, in adhesive cells disparsed
with enzymatic digestion and primary cultured OB-Rb was not detected, though OB-Ra detectable.
Similarly, primary cultured adhesive cells of gastrolienal fat tissue expressed only OB-Ra. It is
therefore most parsimonious to conclude that only lymphocytes express OB-Rb and response
effectively to leptin in thymus.
1.は
Ra∼OB-Rdの
細 胞外 領 域 お よび膜 貫 通 領域 は 同
一 で あ り,細 胞 内領 域 の み ア ミノ酸 配 列 が 異 な る。
じ め に
脂 肪 細 胞 の 産 生 す る レ プ チ ン は,エ
ネ ル ギ ー摂 取
を 抑 制 し 消 費 を 促 す ホ ル モ ン 作 用 の み で な く,サ
イ
トカ イ ン と し て 種 々 の 生 理 機 能 を 有 し て い る こ と が
OB-Reは
細 胞 外 領 域 の み か ら な る 可 溶 性 レセ プ
タ ー で あ る 。5種
は302ア ミノ酸 残 基 か ら な る 最 も 長 い 細 胞 内 領 域 を
明 らか に され つ つ あ る 。 レプチ ンは レセ プ タ ー
持 ち,OB-R
(OB-R)を
る。
はdb遺
介 し て 標 的 細 胞 に 作 用 す る1,2)0マ
伝 子 の 転 写 産 物 で あ るpre-mRNAの
ラ イ シ ン グ の 違 い に よ り,少
OB-Reの5種
ウスで
ス プ
な く と もOB-Ra∼
類 の レ セ プ タ ー が 存 在 す る1-3)。 OB一
類 の レセ プ タ ー の 中 で,OB-Rb
Long
type(OB-RL)と
前 報 に お い て4),マ ウ ス の リ ン パ 組 織 に お け る
OB-Rbの
胸 腺,お
発 現 を 検 討 し,一
次 リ ンパ 性 器 官 で あ る
よび 二 次 リン パ 性 器 官 で あ る脾 臓,リ
節 お よ び バ イ エ ル 板 でOB-Rbが
京都女子大学家政学部食物栄養学科栄養学第二研究室
も 呼 ばれ て い
と,さ
ンパ
発 現 して い る こ
らに,胸 腺 お よび脾 臓 か ら分 離 した リンパ 球
ー
2
4-
5号
食物学会誌・第 5
が OB-Rbを発現していることを明らかにした。リ
間後に培養液を交換することにより浮遊細胞を取り
ンパ組織では,上皮様の細胞がネットワーク構造を
除いた。その後 3~4 日毎に培養液を交換しながら,
とり枠組みを構成している。これらの細胞間隙にリ
ほぼコンフルエントな状態になるまで培養を継続す
ンパ球やマクロファージが存在する。また,結合組
ることにより付着性細胞集団を得た。
織性の被膜やトラベキュラには線維芽細胞などの結
2
. RNAの抽出
合組織性細胞が存在する。これらの細胞の中でリン
1
) 器官,組織およびリンパ球の RNAの抽出
パ球は浮遊性であり,その他の細胞は付着性を示す。
したがって,
リンパ組織を酵素処理することにより
分散させた細胞集団を培養すれば,
リンパ球以外の
凍結した器官,組織およびリンパ球より,酸性グ
アニジウムチオシアン酸
フェノール
ム法によってトータル RNAを抽出し,エタノール
付着性細胞の集団を得ることができる。本報では,
沈殿法により精製した 5
.九
胸腺および牌臓で OB-Raおよび OB-Rbを発現し
2
) 付着性細胞の RNAの抽出
ている細胞の同定を試みた。また,脂肪組織の構成
付着性の細胞がほぼコンフルエントな状態になっ
た後にトータル RNAを抽出した。生理食塩水 1ml
細胞についても同様の検討を行った。
法
1 方
クロロホル
で培養ディッシュを 2回洗浄し,顕徴鏡下に細胞が
付着していることを確認後氷上で冷却した。 8
00μl
1.材料
3週 齢 の 雌 BALB/cマ ウ ス ( 体 重 9~12 g,
のグアニジウムチオシアン酸溶液を加え,ピペッテ
ィング操作により細胞を溶解させた後エッベンチ
SLC)を用いた。
ューブに移した。その後,酸性グアニジウムチオシ
1)器官,組織の摘出
アン酸ーフェノールークロロホルム法にしたがって
頚椎脱臼後開腹開胸し,胸腺,牌臓,胃牌間膜脂
トータル RNAを抽出し,エタノール沈殿法により
肪組織を摘出した。摘出した試料はサンプルチュー
精製した。
ブに入れ,直ちに液体窒素中で凍結した後 -800C
3
. RTPCR
トータル RNAを鋳型として RTPCRを行った。
で保存した。
2
) リンパ球の分離
逆 転 写 反 応 は M・MLV リ パ ー ス ト ラ ン ス グ リ プ
無菌的に摘出した胸腺および牌臓を生理食塩水中
ターゼ (RT-PCRh
i
g
h,東洋紡),
6塩基ランダム
で細切し,ピンセットで軽く圧迫することにより遊
プライマーを用い, 3
0 Cで 1
0分,さらに 4
20C で
離してくる細胞を遠心操作(約 8
00g
) により集め
1時間行った。 ggoCで 5分処理することにより反
た。細胞ベレットを GIT培養液(日本製薬)で洗
応を停止させた。この反応産物に, OB-Rを増幅す
浄後, 10%FBSを加えた GIT培養液で培養した。
るためのプライマーおよびリコンビナントタック
1日後遠心操作により得た細胞ベレットを生理食塩
水 1mlに再懸満し,マウスリンパ球分離溶液 Lym-
DNAポリメレースを加え PCRを行った。マウス
p
h
o
l
y
t
e
M(
C
e
d
a
r
l
a
n
eL
a
b
o
.L
t
d
.,
Canada)2mlに
の 3種類のプライマーを準備した。
重層した。lOOC,1
,3
0
0gで2
0分間遠心し,上層と
0
の OB-Raおよび OB-Rbを検出するために,下記
プライマー OBR-F3
5
' p-ACACTGTT
AA
TTTCACACCAGAG
下層の界面の細胞をパスツールピペットで分取し
た。生理食塩水で洗浄後,遠心操作により細胞を回
プライマー OBRB2
幽
5
' p-TGGATAAACCCTTGCTCTTCA
収した4)。細胞ベレットを液体窒素中で凍結した後,
プライマー OBR-B4
-800Cで保存した。
3
) 付着性細胞の分離
5
' p-ATTTGAACTCAGGACCTTTGGA
無菌的に摘出した胸腺,牌臓および胃牌間膜脂肪
を 5ml生理食塩水中で細切した。 2.5%トリプシン
プライマー OBR-F3と OBR-B2 との組み合わせに
よって,マウスのレプチンレセプターの中で, OB-
液(大日本製薬) 0
.
5mlを加え, 3
7 C, 5分間イ
4
6
Rbの cDNAの膜貫通領域から細胞質側領域の 4
ンキュベートした。 GIT培養液 5mlを加え,ピペ
塩基対の DNAフラグメントが増幅され6),プライ
ッティング操作により遊離してきた細胞を遠心操作
マー OBR-F3と OBR-B4との組み合わせによって
により回収した。 GIT培養液で洗浄後, 10%FBS
OBRaの cDNAの膜貫通領域から細胞質側領域の
含有 GIT培養液に懸濁し培養ディッシュ (
T
i
s
s
u
e
6
5
7
塩基対の DNAフラグメントが増幅される 3,7
L
0
C
u
l
t
u
r
eD
i
s
h3
5m m,IW
AK
I)に播種した。 4
8時
司
PCRの条件は,反応溶液容量 5
0
μ1,鋳型変性温
平成 1
2
年1
2月 (
2
0
0
0
年)
2
5
度9
60Cおよび変性時間 3
0秒,プライマーアニーリ
製 し た ト ー タ ル RNA約 3
00ngを 鋳 型 と し て
ング温度 5
50Cおよびアニーリング時間 1分,相補
RTPCRを行った。いずれのリンパ球においても,
鎖合成反応温度 7
2Cおよび反応時間 2分
, 3
5サイ
OB-Raおよび OB-Rbの発現を示す増幅バンドが認
クルに設定した。
。
)
められた(図 3
0
PCR終了後,反応産物溶液 1
0
μ
lをアガロース
ゲルで、電気泳動した。電気泳動終了後,エチジュウ
3
. 胸腺および牌臓の付着性細胞のレプチンレセプ
ターの検出
ムブロマイド液で染色し,ポラロイド撮影を行った。
トリプシン処理により分離してくる細胞を 1
0日間
マーカー DNAO/HindI
I
I) O
.5μgを同時に電気
以上培養し,付着性の細胞集団を得た。この細胞集
泳動し,増幅されたノミンドの大きさを確認した。
団を顕微鏡観察すると,胸腺では,線維芽細胞,胸
4
. ジェノミック DNAの抽出
腺上皮様の細胞,樹状細胞,敷石状にコロニーを形
凍結した牌臓の組織片より,プロテネース K 処
成した細胞が多く認められ,さらに,マクロファー
理,フェノール抽出法によりジェノミック DNAを
ジや脂肪滴を蓄積した細胞も認められた。牌臓で、は,
抽出した 8)。
線維芽細胞,粁状の細胞,マグロファージが多く認
められた。これらの付着性の細胞集団から精製した
i
l
l
.結 果
トータル RNA約 3
0
0ngを鋳型として RTPCRを
1
. リンパ性器官および脂肪組織のレプチンレセプ
行った。いずれの場合にも, OB-Raの発現を示す
増幅パンドが認められた。 OB-Rbの発現を示すバ
ターの検出
胸腺,牌臓,胃牌間膜脂肪のトータル RNA1μg
を鋳型として RTPCRを行った。胸腺および牌臓
では OB-Raおよび OB-Rbの発現をあらわす明瞭
ンドは認められなかった(図的。
4
. 胃牌間膜脂肪組織の付着性細胞のレプチンレセ
プターの検出
な増幅バンドが認められた(図 1)。胃牌間膜脂肪
胃牌間膜をトリプシン処理することにより分離し
組織では OB-Raの増幅バンドは認められたけれど
てくる細胞を 1
0日間以上培養し,付着性の細胞集団
も,試料によっては OB-Rbの明瞭な増幅バンドは
を得た。この細胞集団には線維芽細胞および敷石状
)
認められなかった(図 2。
にコロニーを形成した細胞が認められた。これらの
2
. リンパ球のレプチンレセプターの検出
胸腺および牌臓から培養分離したリンパ球から精
4321m
4 321m
~~コ
図 1 胸腺および牌臓の OB-Rの検出
トータル RNA1μgを鋳型として RTPCR
を行った。いずれの器官においても OB-Ra
および OB-Rbに特異的な 6
57b
.
p
.および
4
4
6b
.
p
.の増幅パンドが認められた。
レーン m;マ ー カ -DNA, 1 ;胸腺 OBRa,2 ,胸腺 OB-Rb,3 ;牌臓 OB-Ra,4 ;
牌臓 OB-Rb
~~コ
図 2 胃牌間膜脂肪組織の OB-Rの検出
トータル RNA1μgを鋳型として RTPCR
を行った。試料 A では OB-Raおよび OB-Rb
に特異的な増幅バンドが認められた。試料 B
では OB-Raの増幅パンドは認められたけれ
ども, OB-Rbに特異的なパンドは認められ
なかった。
レーン :m;マーカー DNA, 1 ;試料 AOBRa, 2 ;試料 A OB-Rb, 3 ;試料 BOBRa, 4 ;試料 BOB-Rb
←
2
6
食物学会誌・第 5
5号
4321m
付着性の細胞集団から精製したトータル RNA約
3
0
0ngを鋳型として RTPCRを行った。 OB-Raの
発現を示す増幅バンドは認められたけれども, OB-
Rbの 発 現 を 示 す パ ン ド は 認 め ら れ な か っ た ( 図
4。
)
5
. ジェノミック DNAを鋳型とする PCR
次に,これらの 4
4
6
塩基対あるし、は 6
5
7
塩基対の増
幅バンドが,混在する DNAによるものではないこ
とを確かめた。牌臓から抽出した DNA0
.1
, 0.5
~é コ
および1.0μgを鋳型として PCRを行ったけれど
も,いずれの増幅パンドも認められなかった。
町.考察
図3
リンパ球の OB-Rの検出
4時間培
胸腺および牌臓から遊離した細胞を 2
養し付着細胞を取り除いた。非付着性細胞か
らリンパ球分離溶液を用いて分離したリンパ
00ngを鋳型として
球のトータル RNA約 3
RTPCRをおこなった。胸腺および牌臓リン
パ球ともに OB-Raおよび OB-Rbに特異的
な増幅パンドが認められた。
レーン m;マーカー DNA, 1 ;胸腺リンパ
球 OB-Ra, 2 ;胸腺リンパ球 OB-Rb, 3 ;
牌 臓 リ ン パ 球 OBRb, 4 ;牌臓リンパ球
OB-Ra
司
マウスレプチンのレセプターには,同ーの遺伝子
転写産物のスプライシングの違いにより 5種類のア
イソタイプ OB-Ra~ OB-Reが存在することが知
られている 1-3)。これらの細胞外領域のアミノ酸配
列は同一であり,レプチン結合サイトを有している。
OB-Ra~ OB-Rdは2
1アミノ酸残基からなる共通の
膜貫通領域を持ち,さらに膜貫通領域に続く細胞質
9
残基も共通している。この領域には
内のアミノ酸 2
J
AK (
J
anusk
i
n
a
s
e
)結合サイトが存在する九 OBRbは 302アミノ酸残基からなる最も長い細胞質内
領域を有し, ST
AT(
S
i
g
n
a
lt
r
a
n
s
d
u
c
e
randa
c
t
i
v
a
-
654321m
t
o
ro
ft
r
a
n
s
c
r
i
p
t
i
o
n
) と相互作用するモチーフおよ
びチロシン 3残基が存在する 10)0 OB-Rbにレプチ
ンが作用すると,細胞質内領域に結合している
JAK2がリン酸化され,
リン酸化された JAK2によ
り STAT3がリン酸化され細胞核にシグナルを伝
える。 SHP-2(SH2domainc
o
n
t
a
i
n
i
n
gp
r
o
t
e
i
nt
y
r
o
-
s
i
n
ephosphatase2
) によって JAK2が脱リン酸化
657→
されて応答が終了すると考えられている 12,
13L した
がって, レプチンの種々の生理機能の発現には OB-
Rbが寄与していると考えられており,器官,組織
3,
1
3
1
7
)
。
レベルで、の発現部位が多数報告されている 2,
7
)
,RNAsep
r
o
t
e
c
t
i
o
n
マウスの脳では, RTPCR法2,
図 4 付着性細胞の OB-Rの検出
胸腺,牌臓,および胃牌間膜脂肪から分離培
0
0ng
養した付着性細胞のトータル RNA約 3
を鋳型として RTPCRをおこなった。いず
れの付着性細胞でも OB-Raに特異的な増幅
パンドが認められたけれども, OB-Rbに特
異的なバンドは認められなかった。
レーン :m;マーカー DNA, 1 ;胸腺付着性
細胞 OB-Ra, 2 ;胸腺付着性細胞 OB-Rb,
3 ,牌臓付着性細胞 OB-Ra, 4 ;牌臓付着
性細胞 OB-Rb, 5 ;胃牌間膜脂肪付着性細
胞 OB-Ra, 6 ; 胃 牌 間 膜 脂 肪 付 着 性 細 胞
OB-Rb
法 13),i
ns
i
t
uh
y
b
r
i
d
i
z
a
t
i
o
n法 J4,
1
5により脈絡叢や視
床下部で OB-Rbが強く発現していることが示され
ており,神経細胞が発現していると考えられている。
細胞レベルで、調べた報告もなされており,ヒト末梢
血から分離した CD4十リンパ球が OB-Rbを発現
している 16L また,合成ペプチドを抗原とするウサ
ギ抗 OB-Rポリクローナル抗体により,ヒト瞬帯
静脈内皮細胞が OB-Rbを発現していることが示さ
れた l7L
脈絡叢や,その他多くの組織で発現している OB-
平成 1
2
年1
2月 (
2
0
0
0
年)
一
2
7-
Raの機能は明らかでない。しかし OB-Raおよび
の説明となり得る。たとえば,腎臓や肺では発現し
]AKを発現している COS-1形質転換細胞では,
ていないとの報告2.13),および発現しているとの報
]AKのリン酸化に始まり MAPK経路が活性化さ
告3.15) の両者が存在する。この矛盾は,試料中にリ
れることより, OB-Raもシグナル伝達能を有して
ンパ球が多く混在してくるかどうかに基ずく可能性
いると示唆されている l
l
Lその他のアイソタイプの
が高い。したがって,組織レベルではなく,どの種
機能は明らかにされていないけれども, OB-Reは
類の細胞が発現しているのかを解明することが重要
その構造からレプチンの運搬やクリアランスに関与
となる。そのためには,組織切片を用いた i
ns
i
t
u
していると考えられている l
L
ハイブリダイゼーション法による検討や,各器官の
本報では,膜貫通領域と細胞質領域の境界域に対
する共通のリパースプライマーと,それぞれに特異
細胞を分離して検討することが必要となる。
以上より,胸腺および牌臓で,非付着性細胞であ
的な細胞質領域に対するフォワードプライマーとを
るリンパ球と付着性細胞集団とに分離し OB-Rの
用いて,胸腺および牌臓,脂肪組織の付着性細胞の
発現を調べ,
OB-Raおよび OBRbの検出を試みた。胸腺や牌臓
ることを明らかにした。付着性の細胞集団では OB-
から分離培養した付着性の細胞としては線維芽細
Rbが検出されなかったので,これらの細胞をさら
胞,上皮様細胞,樹状細胞が多く認められる。これ
に分離することは試みなかった。ただし付着性細
らの細胞集団では OB-Raが検出されたけれども,
胞集団のなかで培養中に分裂増殖しない少数の細胞
OB-Rbは検出されなかった。前報では,一次およ
が OB-Rbを発現している可能性は存在する。脂肪
び二次リンパ組織において OB-Rbが発現している
組織の付着性細胞も同様であった。
幽
こと,および胸腺および牌臓から分離したリンパ球
が OB-Rbを発現していることを報告した 4)。した
がって,胸腺および牌臓において発現している OB-
v
.要
リンパ球のみが OB-Rbを発現してい
約
BALB/c雌 3週齢マウスの胸腺,牌臓,および
Rbはリンパ球に由来するものであることが明らか
胃牌間膜脂肪組織でレプチンレセプター OB-Raお
となった。マウス胸腺では,遅くとも 3週齢時には
よび OB-Rbが発現していることを明らかにした。
脂肪細胞が存在しレプチンを産生しているので6),
また,これらの器官・組織を構成する細胞を一次培
OB-Rbを介してレプチンがサイトカインとしてリ
養することにより,どの種類の細胞が発現している
ンパ球に作用していることが示唆された。胸腺内で
のかを検討した。胸腺および牌臓のリンパ球は OB-
はこの伝達経路はリンパ球特異的と考えられ,
Raおよび OB-Rbを発現していた。付着性の細胞
リン
パ球の分化等に関与していることが示唆される。
は OB-Raを発現していたけれども OB-Rbは検出
OB-Raはリンパ球および付着細胞で発現しており,
されなかった。胃牌間膜脂肪組織の付着性細胞でも
ホメオスタティックな機能に関与すると考えられ
OB-Raは検出されたけれども OB-Rbは検出されな
る。たとえば,
レプチンの新しい機能として種々の
かった。
5種 類 の レ セ プ タ ー の 中 で OB-Rbが
細胞の脂肪酸およびトリグリセリド量のホメオスタ
]AK-STAT経路を介してシク守ナル伝達に関与する
シスに関与することが示唆されている 18L
とされている。したがって,胸腺で加齢に伴って増
マウス脂肪組織では OB-Rbが極徴量発現してい
殖してくる脂肪細胞が産生するレプチンが,サイト
ることが報告されている 2,13L 胃牌間膜脂肪組織で
カインとしてリンパ球のみに作用している可能性が
は OB-Rbの発現を示すパンドが認められない試料
示唆された。
も存在した。同一試料で同時に RTPCRを行い,
共通のリパースプライマーを用いて OB-Raは検出
されるので,鋳型とした RNAが分解されたり,逆
転写反応や PCRの段階に障害が存在するとは考え
文 献
1
)]
.M.Friedmanand]
.L
.H
a
l
a
a
s
:N
a
t
u
r
e
,3
9
5,
7
6
3(
19
9
8
)
難い。今回,胃牌間膜の一次培養した付着性の細胞
2
) G-H. Lee,R
. Proenca,]
. M. Montez,K
.M.
集団では OB-Rbの発現は認められなかった。した
C
a
r
r
o
l
l,
]
.G
.D
a
r
v
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z
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h,
]
.I
.Leeand].M.
がって,脂肪組織中に混在するリンパ球数によって
F
r
i
e
d
m
a
n
:N
a
t
u
r
e
,3
7
9,6
3
2(
19
9
6
)
OB-Rbの検出結果が異なる可能性が示唆された。
3
) H. Chen,O
. Cha
r
1
a
t,L
.A. T
a
r
t
a
g
l
i
a,E
.A.
このことは,これまで報告されている種々の器官・
Woolf,X.Weng,S
.
]
.E
l
l
i
s,N
.D
. Lakey,]
.
組織での OB-Rbの発現に関する結果が異なること
C
u
l
p
e
p
p
e
r,K.].Moore,R
.E
.B
r
e
i
t
b
a
r
t,G
.M.
2
8-
食物学会誌・第 5
5号
Duyk,R
.1
. Tepper and J
.P. Morgenstern:
1
1
)C
.B
j
O
r
b
e
k,S
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o
t
a
n
i,B
.daS
i
l
v
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宜r
e
y
C
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l
l
,8
4,
4
9
1(
19
9
6
)
i
o
l
.Chem.,2
7
2,3
2
6
8
6(
1
9
9
7
)
S
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l
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1
2
)C
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iand]
.M.F
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d
m
a
n
:P
r
o
c
.N
a
t
l
.A
c
a
d
.
4
)井固めぐみ,草信映子,鈴木真知子,酒井奈美,
白井能富子,永尾命子,職川智子,宮田堅司:
本誌, 5
4,1 (
19
9
9
)
5
)P
. Chomczynski and N
.S
a
c
c
h
i
:A
n
a
l
y
t
i
c
a
l
6
2,1
5
6(
19
8
7
)
B
i
o
c
h
e
m
.,1
6
) 春那美由紀,星島直子,井田めぐみ,草信映子,
鈴木真知子,坪田いずみ,林小百合,宮田堅司:
3,1
3(
1
9
9
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