シリーズ:経営者のための経済・市場環境 定点観測 vol.2

EY Institute
13 March 2015
シリーズ:経営者のための経済・市場環境
定点観測 vol.2
景気の現状ハイライト
執筆者
家計
n 回復の勢いを欠いた消費
▶ 消費税率引き上げを含む物価上昇に、賃金上昇が追い付かず、消費の回
高垣 勝彦
復が遅れている。足もとでは、原油安による負担感の低下に加えて、賃金
EY総合研究所株式会社
未来経営研究部
エコノミスト
上昇への期待感から、消費者マインドが改善。
企業
▶ 企業収益の増加が見込まれる中で、設備投資は停滞している。昨年末か
<専門分野>
► 経済・金融市場分析・解説
► 資本市場リレーションシップ
► 産業組織・ガバナンス
►
移転価格分析・コンサル
ティング
n 収益増の一方で、設備投資は停滞
ら輸出向け出荷が増えたことで、足もとでは在庫が減り、生産が増える好
循環の兆しが見えている。
金融市場
n 高い流動性と低金利環境により世界的な株高を記録
▶ 金融市場は各国の緩和政策により高い流動性を確保。日経平均は原油
安による好業績を背景に、海外機関投資家の買いを巻き込み、2000年4
鈴木 将之
EY総合研究所株式会社
経済研究部
エコノミスト
<専門分野>
► 日本経済の実証分析・予測
► 産業関連分析
月以降15年ぶりの高値水準に到達。
4-6月期の見通しハイライト
家計
n 実質賃金プラスで消費は回復へ
▶ 4月以降消費税率引き上げの影響が剥落し、原油安などから物価上昇率
が縮小する中で、賃上げが重なり、実質賃金がプラス圏に顔を出すと期待
される。こうした中で、消費は回復ペースを速めるだろう。
企業
n 輸出増と設備投資の回復
▶ 米国向けなどを中心に、輸出の増加が期待される。それに伴い、これまで
減速してきた設備投資が反転しそうだ。賃上げ分による負担増が懸念され
るものの、総じて、企業収益は堅調に推移すると見込まれる。
Contact
EY総合研究所株式会社
03 3503 2512
[email protected]
金融市場
n リスクは残存、流動性維持、株式市場は業績重視へ
▶ 欧州債務問題や、米国の利上げによる新興国からの資金回避リスクは残
存するため、各国中銀による流動性は維持。株式市場は流動性相場から
個別企業の業績を見極める業績相場へ。
景気動向
景気の現状と先行き
図1 景気動向指数(一致・先行指数)の推移
(2010年=100)
先行指数
115
■現状:消費は弱いものの、企業収益は外部環
一致指数
境の好転により改善、景気は回復を続けてい
る。
110
14年8月に底を打ってから足踏み状態にあった
景気は、同年12月から回復ペースを取り戻し
105
た。それは、14年10-12月期の実質GDPが、前
期比年率1.5%と3四半期ぶりのプラス成長に
100
戻ったことから裏付けられる。
15年1月に入ってからは、これまで伸び悩んで
95
2012
2013
2014
2015
きた輸出数量や資本財出荷が増えるなど、景気
の回復ペースが加速したようだ。ただし、これま
出典:内閣府『景気動向指数』よりEY総合研究所作成
(注)影(シャドー)部分は景気後退局面を表す。
で個人消費や設備投資などの内需の弱さが目
立っている。
今後の景気動向を見通す上では、底堅い雇用
図2 実質GDP成長率
(前期比
個人消費
年利率%)
輸出
15
10
5
5.6
4.3
-0.6
環境を背景にした個人消費や、企業収益増を追
3.3
民間投資
公需
い風にした設備投資が増えるのかが、注目点
輸入
GDP
だ。
5.1
■先行き:内需が緩やかに改善、米国の経済成
1.4
0
1.5
-1.2
る。
-6.4 -2.6
-1.4 -2.2
-5
長にも後押しされ、景気回復が続くと見込まれ
先行きに関しては、米国の景気回復にけん引さ
-10
れて、輸出が増えると予想される。加えて、原油
2012年
2013年
10-12
7-9
4-6
1-3
10-12
7-9
4-6
1-3
10-12
7-9
4-6
1-3
-15
安によって企業や家計のコスト負担が減ってい
るため、国内の購買力が高まっていることが注
目される。特に、4月以降の賃上げや15年夏季
2014年
ボーナスによって購買力が回復するため、個人
出典:内閣府『四半期別GDP速報』よりEY総合研究所作成
(2014年10-12月期・第2次速報)
消費は持ち直すだろう。また、企業収益の改善
を背景に、設備投資も底を打つと見られる。
このため、内需・外需のバランスがとれた経済
成長になる可能性が高い。年前半は前期比年
率2.0%を軸にした景気回復が続くとみられる。
EY Institute
2
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
企業活動
図3 生産:鉱工業生産の推移
生産
(2010年=100)
106
(予測)
鉱工業生産は昨年8月を底に回復傾向が続い
ている。1月は前月比4.0%と大幅に増え、15業
104
種中13業種で増産となるなど、その回復ぶり
102
がうかがえる。また、在庫(同0.6%)が減り、出
100
荷(同5.8%)が増えた。輸送用機械やはん用・
98
生産用・業務用機械などで、輸出向けの出荷が
96
増えた影響が大きかった。
94
生産の先行きについて、製造工業予測指数に
92
2012
よると、2月(前月比0.2%)に微増、3月(同
2013
2014
2015
れでも、1-3月期の生産は前期比3.4%と、14
出典:経済産業省『鉱工業生産指数』よりEY総合研究所作成
(注)2月、3月は、製造業生産予測指数で伸ばしている。
年10-12月期の1.7%を上回り、2四半期連続
図4 生産:出荷・在庫動向
(前年同月比%)
25
出荷
▲3.2%)にいったん減速する見込みである。そ
で増産となる見通し。
ただし、出荷・在庫バランスをみると、前年に比
(-)在庫
出荷在庫バランス
べて、出荷が伸び悩んでいる点が懸念される。
20
15
もちろん、前年には消費税率引き上げ前の駆
10
け込み需要の影響があったものの、足もとの在
5
庫の解消には、当面時間がかかりそうだ。実
0
際、輸出向け出荷は増えた一方で、国内向け
出荷は勢いを欠いた状態が続いている。
-5
4-6月期以降については、輸出向けに加えて、
-10
-15
2012
2013
2014
国内向け出荷も次第に持ち直し、前年よりも増
2015
産ペースが加速するとみられる。
出典:経済産業省『鉱工業生産指数』よりEY総合研究所作成
貿易収支
図5 貿易収支:輸出入の推移
(兆円)
貿易収支(右軸)
8.0
輸出
輸入 (兆円)
0
-0.2
7.5
-0.4
-0.6
7.0
6.5
5.0
2012
2013
2014
▲1.4%)ことで、貿易赤字は▲0.4兆円と4カ月
連続で縮小している。この中で、特徴が二つあ
る。一つ目は、昨年6月をピークに原油価格が
-1
低下していること。二つ目は、輸出数量が2カ月
-1.4
5.5
月比1.8%増)、輸入額が減った(7.2兆円、同
-0.8
-1.2
6.0
15年1月には、輸出額が増えて(6.8兆円、前
連続で前年より増えていることだ。
-1.6
先行きについては、単月では貿易黒字に転じる
-1.8
可能性も出てきた。原油価格が低水準にある
-2
2015
ため、LNGなどの価格も低下することで輸入額
が抑えられる一方で、米国の景気回復などに
出典:財務省『貿易統計』よりEY総合研究所作成
よって輸出額が増えると想定されるからだ。
EY Institute
3
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
設備投資、公共事業
設備投資
図6 設備投資:資本財出荷と機械受注の推移
(2005年=100)
(億円)
資本財出荷(除く輸送機械)
9500
130
機械受注(民需、除く船舶・電力)(右軸)
125
9000
120
8500
115
110
105
状況が続いている。14年10-12月期には前期
比▲0.1%と3四半期連続の減速となった。
ただし、足もとでは反転の兆しが見え始めたよう
8000
だ。まず、設備投資に先行する機械受注が持ち
7500
直している。また、設備投資動向に一致する資
7000
100
設備投資は、14年度当初計画に比べて、弱い
本財出荷も15年1月に前月比12.8%と大幅に
伸びてきている。
95
2012
2013
6500
2015
2014
出典:経済産業省『鉱工業生産指数』内閣府『機械受注統計』よりEY総合研究
所作成
回復に向かうだろう。4-6月期以降に、前年度計
画の積み残しの出現が期待される。
住宅投資
図7 住宅投資:住宅着工動向
(万戸)
3.5
先行きについては、14年末を底に設備投資は
新設住宅計(右軸)
貸家
持家
分譲
(万戸)
9
15年1月の新設住宅着工戸数は、6.7万戸(前
年同月比▲13.0%減)と11カ月連続で前年の水
準を下回った。これまでのところ、消費税率引き
3.0
8
上げ前の駆け込み需要の反動減から脱却でき
ていない。内訳をみると持家2.0万戸(前年同月
2.5
7
2.0
比18.7%減)、貸家2.7万戸(10.3%減)、分譲住
宅2.0万戸(11.2%減)と、軒並み二桁減と、反
動減の大きさが確認できる。
1.5
2012
2013
2014
6
2015
出典:国土交通省『住宅着工統計(建設着工統計調査)』よりEY総合研究
所作成
先行きについては、補正予算の住宅市場活性
化策(住宅金融支援機構フラット35Sの金利引
き下げ幅の拡大や省エネ住宅に関するポイント
制度)が、住宅投資を下支えすると期待される。
図8 公共事業:出来高と請負金額の推移
(前年同月比%)
40
公共事業出来高
公共工事請負金額
公共工事請負金額(3カ月移動平均)
公共事業
公共事業に先行する請負金額は、14年年末か
ら前年の水準を下回るようになった。10-12月
30
期の公共事業は、前期比0.8%と増えたものの、
20
1-3月期にはいったん減速する見込み。
10
ただし、先行きについては、2月3日に成立した
平成26年度補正予算では、災害復旧・災害対
0
応の強化など公共事業関連のものが含まれる
-10
ため、一段の減速は避けられそうだ。ただし、こ
-20
2012
2013
2014
2015
手不足は依然問題として残っており、公共事業
出典:国土交通省『建設総合統計』、東日本建設業保証株式会社他
『公共工事前払金保証統計』よりEY総合研究所作成
EY Institute
れまで足かせとなってきた資材価格の高騰や人
が順調に進捗するかには懸念が残る。
4
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
個人消費
図9 消費者マインドの推移
(ポイント)
60
消費者マインド
景気ウォッチャー(家計動向:現状)
(ポイント)
景気ウォッチャー(家計動向:先行き)
47
消費者態度指数(右目盛)
45
55
消費者マインドは、改善している。企業側から
みた消費者マインドである景気ウォッチャーの
現状判断DIは、2月に50.1と14年7月以来7カ
43
月ぶりに50を上回った。先行きは53.2と3カ月
41
連続で上昇している。一方、家計側からみた消
50
45
39
費者態度指数も、2月に40.7と3カ月連続で上
昇している。
40
37
35
35
2012
2013
2014
2015
出典:内閣府『景気ウォッチャー調査』『消費動向調査』よりEY総合研究所作成
先行きについてのコメントをみると、物価上昇へ
の懸念は残るものの、ガソリン価格が昨年より
も低いことに加えて、賃上げへの期待もあっ
て、消費者マインドが下支えされているようだ。
個人消費
図10 個人消費:実質消費の推移
(前年同月比%)
15
実質消費(家計調査)
消費全体(民間最終消費)では4-6月期の前期
実質消費(家計消費状況調査)
比▲5.0%から、7-9月期0.3%、10-12月期
10
0.5%と回復しているものの、その回復ペースは
緩やかだ。家計の消費をみると、消費税率引き
5
上げを含む物価上昇の影響が大きく、前年割
0
れの状況が続いていることが分かる。その中で
も、耐久財の回復が遅れているようだ。
-5
先行きについては、消費者マインド改善に加え
-10
2012
2013
て、4月以降には、物価上昇に賃金上昇が追い
2014
つくようになり、実質的な購買力が高まるため、
出典:総務省『家計調査』『家計消費状況調査』『消費者物価指数』より
EY総合研究所作成
消費も緩やかに回復に向かうとみられる。
販売動向
図11 販売動向:業態別の販売動向
(前年同月比%)
15
10
販売動向をみると、消費税率引き上げ以降、小
商業販売統計(小売)
百貨店
コンビニ(既存店ベース)
スーパーマーケット
売店販売は全体的に見ると伸び悩んだ状態が
続いている。賃金上昇が物価上昇に追いつい
てこなかったことから、14年冬季ボーナスによ
5
る消費の回復効果は限定的だったようだ。2月
には、中国の春節(旧正月)効果などによって、
0
百貨店などの売上げが伸びたものの、その恩
-5
恵は都市部など一部に限られている。
先行きについては、4月以降のベースアップな
-10
2012
2013
どの賃上げに続いて、6月の夏季ボーナスも増
2014
出典:経済産業省『商業販売統計』、日本百貨店協会、日本フランチャイズチェーン
協会、日本スーパーマーケット協会、総務省『家計消費状況調査』よりEY総合
研究所作成
EY Institute
5
えると見込まれることから、販売動向も回復に
向かうとみられる。
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
雇用・賃金環境
雇用環境
図12 雇用環境:失業率と求人倍率
(%)
6.0
完全失業率
有効求人倍率(右軸)
(倍)
1.2
1.1
5.5
1.0
5.0
0.9
0.8
4.5
0.7
4.0
0.6
3.5
0.5
0.4
3.0
2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015
出典:厚生労働省『一般職業紹介状況』、総務省『労働力調査』よりEY総合研
究所作成
雇用環境は、総じて良好といえる。1月の完全
失業率は、3.6%と前月から0.2pt上昇したもの
の、低水準を維持。また、有効求人倍率は
1.14倍と前月から横ばいで、高水準を保ってい
る。足もとの状況は、職探しを始めた人が増え
ているものの、失業者数が減っていることから、
就職が順調に進んでいるようだ。いわゆる雇用
ミスマッチを除くと、完全雇用に近いほど、労働
需給が引き締まっている。
先行きについても、団塊の世代が本格的に労
働市場から退出しており、景気回復によって、
労働需給はさらにひっ迫感を強めるだろう。む
しろ、非製造業や地方での人手不足が目立つ
図13 賃金動向:現金給与総額の要因分解
など、成長の制約になっていることが懸念され
(前年同月比%)
3
基本給(所定内給与)
残業代(所定外給与)
ボーナス等(特別給与)
2
現金給与総額
る。
賃金動向
1
賃金は、緩やかながら着実に上昇している。15
年1月の現金給与総額(名目賃金)は、前年比
0
1.3%増と、14年3月以来11カ月連続で増え
-1
た。基本給(所定内給与)も同0.9%増と、ベー
スアップや定期昇給の影響がみられる。
-2
2012
2013
2014
2015
出典:厚生労働省『毎月勤労統計調査』よりEY総合研究所作成
また、物価変動を調整した実質賃金は、前年に
比べて1.5%の下落となった。ただし、その下落
幅は徐々に縮小してきていることが注目され
図14 賃金動向:名目・実質賃金の推移
(前年同月比%)
3
実質賃金
る。その理由の一つは、上記のように名目賃金
現金給与総額
が上昇していることである。もう一つの理由は、
2
物価上昇率が縮小していることだ。原油価格の
1
低下をきっかけにガソリン価格など、身近な製
品の価格の上昇幅が縮小していることがある。
0
先行きについては、実質賃金がプラス圏に顔を
-1
出す可能性が高まってきた。なぜなら、15年春
-2
闘では賃上げが議論の軸になり、賃金上昇が
-3
見込まれる上、物価上昇率の縮小が当面進む
-4
2012
2013
2014
2015
押しすると期待される。
出典:厚生労働省『毎月勤労統計調査』よりEY総合研究所作成
EY Institute
とみられるからだ。購買力の回復が、消費を後
6
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
物価動向
図15 物価動向
消費者・企業物価
消費者物価指数(総合・除く生鮮食品・消費税)
国内企業物価指数(除く消費税)
企業向けサービス価格指数(総合・除く国際運輸・消費税)
(前年同月比%)
3
物価については、円安と原油安の綱引きで、わ
ずか半年で半値まで下落した原油価格の影響
が勝っている状況だ。消費税率引き上げの影
響を除いたベースでみると、企業間取引のうち
2
モノの価格指数である国内企業物価指数は、
1
14年11月から前年割れの状況が続いている。
0
15年2月には前年同月比▲2.3%まで減速し
-1
た。ただし、企業間取引のサービス価格である
-2
企業向けサービス価格は、同0.7%とプラスを
-3
2012
2013
2014
保っていることが注目される。
2015
出典:日本銀行『企業物価指数』『企業向けサービス価格指数』、総務省『消費者物
価指数』よりEY総合研究所作成
消費者物価指数(除く生鮮食品・消費税)も、同
0.2%まで上昇率が縮小した。その内訳をみる
図16 財・サービス価格の推移
と、消費税を含むベースで財(モノ)の価格が
(前年同月比%)
6
ピークの14年5月から15年1月まで2.6pt縮小
5
財
している(同5.7%→同3.1%)一方で、同期間の
サービス
サービス価格はほぼ横ばいを保っている。つま
4
り、サービス価格の上昇率が縮小していないこ
3
とが確認できる。先行きを見通す上で、この
2
サービス価格の動きが鍵になる。その一つ目
1
の理由は、サービス価格が賃金との連動性が
0
-1
高いことだ。サービス価格の販売価格が上昇す
-2
れば、その分コストである賃金の引き上げ幅が
-3
2012
2013
2014
2015
出典:総務省『消費者物価指数』よりEY総合研究所作成
広がるからだ。もう一つの理由は、デフレ脱却
の鍵の一つがサービス価格であることだ。モノ
の価格は技術進歩によって低下圧力を受けて
いる。以前よりも高性能なモデルを低価格で購
図17 WTI原油価格の推移
入できれば、それは実質的な値下げになるから
(ドル/バレル)
110
だ。1990年代にモノの価格が下がってもデフレ
に陥らなかった理由はサービス価格が上昇して
100
いたことだった。こうした構造は、欧米でも共通
90
してみられる。つまり、サービス価格の上昇は、
80
デフレ脱却のシグナルといえるため、今後の
70
サービス価格の動向に注目したい。
60
先行きについては、消費者物価は原油安の影
50
40
2012
響によって、いったん、前年同月比0%近傍まで
2013
2014
低下するだろう。その後は、原油安の一服や
2015
サービス価格の下支えや賃上げなどもあって、
出典:IMF, Primary Commodity PricesよりEY総合研究所作成
プラス圏を推移するとみられる。
EY Institute
7
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
金融市場
金融市場
図18 主要中央銀行のバランスシート
500
金融政策:2月末の日本のマネタリーベース(資
2008年1月=100
450
QE3
400
350
金供給量)は278兆8658億円となり、7カ月連続
QE2
300
日銀が金融政策の目標としている資金供給量
QE1
250
で過去最高を記録した。この増加の背景として、
QE2
QE1
200
QE1
を、これまでの年60-70兆円から年80兆円に増
150
やしたことが挙げられる。日銀が計画通り、この
100
ペースで市場に資金を供給し続けると、15年末に
50
FRB
BOJ
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
は約355兆円とGDPの7割強にまで増える計算
2008
0
ECB
だ。 ECBによる月間€600億規模のQE(国債を含
む大規模な資産購入プログラム)も開始され、年
出典:米連邦準備理事会(FRB)、日銀(BOJ)、欧州中央銀行(ECB)より
EY総合研究所作成
央に向けても流動性は引き続き高い状態で推移
し、市場の下支え要因となろう。
図19 各国の長期金利
5
米国の2月の雇用統計によると、非農業部門雇用
(%)
者数は前月比29.5万人増加し、失業率は5.5%と
4.5
前月の5.7%からさらに低下した。 雇用者数の伸
4
3.5
びが20万人超を記録したのは2月で12カ月連
3
続。これは95年3月以降で最長となる。それを受
2.5
けて、金融政策見通しの変化に最も敏感に反応
2
1.5
する2年債利回りは、今年の最高水準に上昇して
1
いる。
0.5
日本国債10Y
米国債10Y
英国債10Y
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
0
ドイツ国債10Y
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
ト化が進行している。景気回復の局面で、インフレ
加速のリスクがほぼない状態で、短期金利の上
昇を織り込みつつ、景気が拡大していることを示
唆している。FOMCがインフレ目標の基準としてい
図20 日米のイールドカーブ
2.5
これを表すように、米国のイールドカーブのフラッ
る、1月の個人消費支出(PCE)価格指数は前年
(%)
同月比0.2%の上昇にとどまり、2%目標を33カ月
連続で下回った。このように、短期金利に影響を
2
1.5
1
日本国債(2014/11/28)
与える金融政策と、長期金利に影響を与える物価
日本国債(2015/2/27)
がイールドカーブのフラット化を説明していること
米国債(2014/11/28)
が分かる。
米国債(2015/2/27)
他方、日本の債券市場では、歴史的に低い利回
0.5
りが続く中、さらに7-10年の利回りが低下してい
0
2
3
4
5
-0.5
6
7
8
9
10
残存年数
る。黒田日銀緩和第2弾では、買い入れの平均残
存期間を、7~10年程度に延長したことが同期間
の利回り低下を招いており、年央にかけても長期
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
金利の下げ圧力は維持されよう。
EY Institute
8
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
金融市場
図21 主要通貨の推移
為替市場
(円)
(円)
230
210
130
120
米ドル:米国の景気回復による米金利先高観
から、一時07年7月以来7年8カ月ぶりの122
190
110
170
100
150
130
90
110
80
90
70
EUR/JPY
GBP/JPY
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
70
円台までドル高・円安が進行。
昨年末の総選挙や日銀追加緩和といった注目
材料が出尽くしていたため、今年に入りドル円
相場が116~120円台といったレンジでのもみ
あいが続いていた。この状態を表すように、
IMM投機筋のドル円ポジション(先物)では、円
ショートポジションが年末の11万枚台から2月
USD/JPY(右軸)
以降、4万枚台と縮小しており、ドル円相場のボ
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
ラティリティを低下させていた。しかし、ここへき
て、米国の強い雇用情勢等を背景に、ドル高が
図22 日米2年債金利差とドル円レートの関係
2.5
進んだ格好だ。ドル円相場が次に動くトリガー
(円)
(%)
2
130
は「FRBの利上げ」と「日銀の追加緩和」であ
120
り、今後両者が市場に送るガイダンスに注目し
米金融緩和開始
110
1.5
100
たい。
ユーロ:1月22日の欧州中銀(ECB)定例理事
会でECBがQE導入を決定したことを受けて、
1
90
黒田日銀
緩和開始
0.5
80
21日以来の安値をつけた。それを裏付けるよう
70
に、 IMM投機筋のユーロの対ドルショートポジ
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
0
ションは約20万枚と12年6月以来の高水準ま
USD/JPY(右軸)
日米2年債金利差
ユーロドルは1.05ドル台に突入し、03年3月
で積みあがっている。一方で今後、ギリシャ債
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
務問題の進展や、ユーロ圏やドイツの経済指
図23 IMM通貨先物取引(投機筋)のドル円ポジション
標が市場予想を大幅に上振れることがあれば、
一時的にユーロが戻す場面もあろう。しかしな
(万枚)
15
がら、ECBによる大規模な量的緩和によるバラ
ンスシート拡大で、ユーロに対する減価圧力が
10
ドル買
い越し
(円売
り越し)
5
次第に強まり、年後半に向けては対ドルでパリ
ティ(等価、EUR=1USD)を割り込む水準まで
ユーロ安・ドル高が進むことが考えられる。
0
ドル売
り越し
(円買
い越し)
-5
ユーロ円相場は、3月11日に1ユーロ=127円
63銭を付け、13年6月以来のユーロ安値を更
新しており、 ECB による量的緩和が、13年以
2015
2014
2013
2012
2011
2010
2009
2008
-10
出典:シカゴマーカンタイル取引所よりEY総合研究所作成
EY Institute
降の円安トレンドを反転させた。今後のユーロ
円相場を見通す上では、両中央銀行のバラン
スシートの拡大度合いが注目されよう。
9
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
資本市場
図24 TOPIXと投資家主体別売買動向の推移
2
(兆円)
(TOPIX)
1,600
1,500
1.5
黒田日銀
異次元緩和
2013.4.4
黒田日銀
追加緩和
2014.10.31
FOMC緩和縮小決定
2013.12.18
1
1,400
IMF世界経済
見通し下方修正
2014.10.7
消費税増税
2014.4.1
0.5
1,300
0
1,200
-0.5
1,100
-1
1,000
-1.5
2013
2014
2015
東証第一部.週間(金額).委託内訳 個人(差引)
東証第一部.週間(金額).委託内訳 海外投資家(差引)
東証第一部.週間(金額).金融機関内訳 信託銀行(差引)
TOPIX:終値
900
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
図25 日米長期株価推移
40,000
(円)
35,000
1989年12月29日
38,915円
日経平均:終値
30,000
25,000
2000年4月12日
20,833円
20,000
2007年10月15日
17,358円
15,000
10,000
2009年3月10日
7,054円
5,000
20,000
(USD)
18,000
NYダウ:終値
2007年10月9日
14,164円
16,000
14,000
12,000
2000年1月10日
11,572円
10,000
8,000
6,000
2009年3月9日
6,547円
4,000
2,000
0
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
EY Institute
10
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
資本市場
図26 主要企業のROE・PBR分布(8月末時点・11月末時点)※
8
PBR(倍)
2014年11月末時点
8
7
7
6
6
5
5
y = 13.799x + 0.4672
4
y = 16.774x + 0.3173
4
3
3
2
2
1
1
0
2015年2月末時点
PBR(倍)
0
0%
5%
10%
15%
ROE(予想)
20%
25%
30%
0%
5%
10%
15%
20%
ROE(予想)
25%
30%
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
※ TOPIX500採用銘柄を母集団として、以下の企業を除外した。対象期間中に株式分割を行った会社、金融機関、PBR10倍以上の企業、ROEが
0%以下もしくは30%以上の企業。ROEは会社予想利益(開示されていない場合は日経予想)を自己資本で除して算出。
資本市場
図27 東証一部企業の自社株取得金額の推移
3月12日、日経平均が直近高値を更新し、00年4
(単位:10億円)
月以降約15年ぶりの高値をつけた。投資家主体
4,000
別売買動向をみると、GPIF(年金積立金管理運
3,500
用独立行政法人)が相場を下支えし、さらに海外
3,000
1,227
2,500
2,000
800
1,500
1,000
500
645
644
262
502
1,164
投資家の買いが重なった格好だ。PBRとROEの
1,166
関係を前回時点(3カ月前)と比較すると、ROEの
高い企業の株価が、より上昇していることがわか
578
る。長期的な成長が見込まれる企業の選別が進
んでおり、海外の長期投資家による影響が強まっ
1,624
ているようだ。企業の自社株買いも14年度4-12
361
0
2012年
4-6月期
7-9月期
2013年
10-12月期
月期で3.4兆円(前年比63%増)に達しており、
2014年
ROE向上や、資本市場における企業価値向上に
1-3月期
向けた活動が活発化している。
出典:QUICKよりEY総合研究所作成
10-12月期の法人企業統計では、全産業の経常
利益が前年比11.6%増の18.1兆円となり、比較
できる54年以降で過去最高となった。原油安が、
主に国内需要に頼る中小企業の増益率を高め、
全産業の利益を押し上げたためである。低金利、
原油安は企業経営には確かに好環境だ。しかし、
さらなる高みを目指すためには、いかに現在の好
環境下で国際競争力を高めていけるかが鍵であ
り、今後の戦略的M&Aや業界再編などに注目が
本レポートは弊社が信頼できると判断した情報源から入手した情報に基づいて作成していますが、これらの情報が
完全、正確であるとの保証はいたしかねます。情報が不完全または要約されている場合もあります。本レポートに
記載する数値等は、過去の実績値、概算値であり、実際とは異なる場合があります。かかる数値、内容等は予告な
しに変更することがありますので、あらかじめご了承くださいますようお願いいたします。
EY Institute
11
集まるだろう。
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
EY総合研究所では、企業が資本市場との関係を「面」で構築するためのご支援するための
サービス・メニューをご用意しています。弊社担当者あるいは表紙の”Contact”までお問い合
わせください。
<サービス・メニューの例>
• コーポレートガバナンス強化
• IR戦略の策定・実行
• 被買収リスク対応
EY Institute
12
シリーズ:経営者のための経済・市場環境定点観測 vol.2
EY | Assurance | Tax | Transactions | Advisory
EYについて
EYは、アシュアランス、税務、トランザクションおよびアドバイザリーな
どの分野における世界的なリーダーです。私たちの深い洞察と高品質
なサービスは、世界中の資本市場や経済活動に信頼をもたらします。
私たちはさまざまなステークホルダーの期待に応えるチームを率いる
リーダーを生み出していきます。そうすることで、構成員、クライアント、
そして地域社会のために、より良い社会の構築に貢献します。
EYとは、アーンスト・アンド・ヤング・グローバル・リミテッドのグローバル・ネット
ワークであり、単体、もしくは複数のメンバーファームを指し、各メンバーファーム
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英国の保証有限責任会社であり、顧客サービスは提供していません。詳しくは、
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EY総合研究所株式会社について
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及び提言をしています。常に変化する社会・ビジネス環境に応じ、時代
の要請するテーマを取り上げ、イノベーションを促す社会の実現に貢
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