EQ理論

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MANAGE
感
情 知
能
EQ理論
ハンドブック
ー
「安心して働ける環境」と
「活力ある個と組織」
を共に創るー
株式会社 アドバンテッジ リスク マネジメント
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EQとは?
EQ とは?
IQだけでは成功しない
EQ(Emotional Intelligence Quotient)理論は、
株式会社アドバンテッジ リスク マネジメントの
研究開発顧問で現在イェール大学学長を務めるピーター・サロベイ博士とニューハンプシャー
大学教授のジョン・メイヤー博士によって提唱されました。
彼らが着目したのは、心理学の立場から、ビジネス社会における成功の要因とは何かを探るこ
とでした。
ご存知のとおり、アメリカは能力主義の世界であり、
その能力を測る指標のひとつとして有力視
さ れ て い る の が 修 士 や 学 士と い った 学 歴 で す。こ の た め 、学 歴 が 高 い 、す な わ ち I Q
(Intelligence Quotient =知能指数)が高い人材がビジネスでも成功すると一般的に考えら
れてきました。
IQ
EQ
ビジネス社会における成功の要因とは?
しかし、IQが高くともビジネス社会で成功しない人はいくらでもいます。
とすると、
ビジネスにおける能力とはいったい何なのでしょう。IQが一定の役割を果たしている
ことは間違いありません。しかし、
それ以外に成功のためには別の能力が必要なのでしょうか。
両博士は、この仮説に立って、ビジネスパーソンを対象にした広範な調査研究を行ないました。
その結果、明らかになったのが
「ビジネスで成功した人は、ほぼ例外なく対人関係能力に優れている」
というものでした。
ー1ー
EQとは?
それは具体的には、ビジネス社会で成 功
した人は「自分の感情の状態を把握し、
そ
れを上手に管理・調整するだけでなく、他
者の感情の状態を知覚する能力に長けて
いる」というものでした。
このため、クライアントなど社外との関係
もうまく維持調整することができ、社内的
にも多くの協力者を得ることができるた
め、結果的にハイ・パフォーマーとしての
成果を生み出していたのです。
これらの研究結果から、
サロベイ、メイヤー両博士が提唱したのが「感情をうまく管理し、利用
できることは、
ひとつの能力である」というEQ理論です。
世界的には『EQこころの知能指数』
(ダニエル・ゴールマ
ン著、邦訳は講談社刊)がベストセラーになり、世界トッ
プ企業といわれる「フォーチュン500社」のうち、8割の
企業が研修等の教育などによって自社になんらかの形
でEQを導入しています。
日本でも企業の研修だけでなく、教育現場における人材
育成などにおいて各自治体などでも広く取り入れられる
ようになってきています。
IQとEQ
Column
E Q と I Q は 相 対 する 概 念 として 注 目さ れて き ました
が 生 産 性 が上 がり、ミ スも 少 な ること が 実 証 さ れて
が 、互 い に 別 々 に 独 立した 関 連 の な い も の で も 、対
います。さらに、個 人レベ ルで いうと、例 えばイライラ
立 する 概 念 で も ありま せ ん 。むしろ、E QとI Q は 極 め
した 気 持 ちや 怒りで 頭 が カッカして い る 状 態 で は 、
て 密 接に 結 び つ いており、互いに 助け 合 い 、補 完しあ
勉 強 や 仕 事 に 集 中 することはで きませ ん 。つ まり、そ
う関 係にあります。たとえば 、心 理 学 の 実 証 研 究によ
の 時 々における 感 情 の 状 態によってIQ の 発 揮 度には
ると、アイデ アを 考 える企 画 会 議 のような 場 合、重 苦
差 が 出 るので す。よって、そ の 状 況 に ふさ わしい 感 情
し い 気 持 ち より楽し い 気 持 ち の ほうが 多くのアイデ
を 作り出 すこと が で き れ ば 、もてるI Q を 十 分 に 発 揮
ア が 出 ること が わ かって い ま す。ま た 逆 に 経 理 の よ
で きるということに なりま す。E Q の 活 用 が I Q を 生 か
うに 数 値 を扱ったり、細 かなチェック作 業 を 伴う業 務
すのであり、E Q をうまく活 用で きな け れ ば 、せっかく
の 場 合 、うきうきした 気 持 ち より沈 ん だ 気 持 ち の 方
のIQも十 分に生 かすことが で きな い ので す。
ー2ー
EQとは?
EQとは人のOSである
これまで、心理学の世界ではさまざまな研究がなされてきました。
ただ、
その多くは「後ろ向き」の感情に注目したものでした。たとえば、人の感情は6つに分けら
れるとした心理学者ポール・エクマンの分類も、
「幸せ」
「驚き」以外は「怒り」
「嫌悪」
「悲しみ」
「恐れ」など後ろ向きの感情で占められています。
一方、EQとは感情を上手に管理し利用することで、
「前向き」な感情を生み出すことを主眼とし
ています。
「明るい」
「喜び」
「楽しい」
「意欲的な」
「安らぎ」
「やる気」といった積極的な感情です。
こうした感情は前向きな思考につながり、前向きな行動を生み、成果に結びつけることができ
るのです。前向きな感情は大きな「資産」でもあるのです。
みなさんの企業や職場にも、上司や同僚、部下たちから仕事ができると一目置かれ、人格的に
も尊敬されているような、
そんな人はいませんか?
そういった人材が持っている能力はどのようなものでしょうか。
ビジネスに必要な能力には、IQやスキル、業務知識や経験など、いろいろなものが考えられま
すが、優れた人材はこれらの能力に加えて、仕事に対する高いモチベーションや、相手の気持ち
を理解し、行動できる能力を持っています。
こうした「人間的魅力」を支えているのがEQなのです。
パソコンにたとえると、EQは基本システムであるOS(オペレーティング・システム)といえます。
その土台がうまく機能してから、はじめてIQやスキル、業務知識などのアプリケーション・ソフト
が最大限に発揮されるようになるのです。
LOW
HIGH
100%
50%
EQはPCのOSに
例えることができる。
ー3ー
EQとは誰もが持っている能力
EQとは誰もが持っている能力
EQとは「今の感情の状態」を認識し、それをコントロールする能力
EQは誰もが持っている能力であり、日常生活の中でしばしばその能力を発揮しています。
EQ理論提唱者のサロベイ、メイヤー両博士は、
「人の態度や物言いなどのあらゆる言動は、
そ
の時々における自分自身の感情の状態に大きく左右されている。したがって、
このことを意識し
てうまく利用することができるのは1つの能力であり、
この能力は誰もが備わっているもの。だ
から、適切な訓練によって、
その発揮能力を高めることができる」と説いています。
つまり、自分の「今の感情の状態」を認識し、
それをコントロールすることができれば、自分に
とって適切な行動を取ることができるし、前向きな感情を生み、前向きな行動を作り出すこと
ができるのです。
また、相手の「今の感情の状態」を認識することができて、相手に対して配慮できる言動をとる
ことができれば、対人コミュニケーションをうまく保つことができるのです。
EQは決して難しい理論ではありません。
何気なく過ごす日々の中で、誰もが必ず使っている能力を整理した理論です。
たとえば、社内にいて、仕事上のミスをした部下を大声で叱っているところだとします。そこに、
大事な取引先からの電話がかかってきました。するとあなたはそれまでの感情を抑え、冷静に
なって電話に応対するはずです。つまり、叱っていた場面から、大切な取引先からの電話という
場面に状況が変化すると、ほとんど無意識に、あなたは自分の感情の状態を新しい状況に合
わせて変化させているのです。
このように誰でもが日常的にそれと気付かずに行っている、
こうした感情の動きや行動がすべて
EQなのです。個人によって程度の差こそあるものの、EQは誰にでも備わっている能力なのです。
エグゼクティブから広まったEQ
∼EQは重要な意思決定にも影響を与えうる∼
Column
EQはアメリカのビジネス界にも大きなインパクトをもっ
のときは、ポジティブな評価に偏る傾向があるのです。
て迎えられました。最初に、この理論の有用性に着目し
判断の基準となる情報やデータが同じであっても、経営
たのは、アメリカ企業の最高経営者たちです。EQ理論に
者の感 情の状態によってデシジョンの結果が異なってく
よれば経営者が各種のデータや事業 状況に基づき何ら
るのはビジネスを遂行する上で決して好ましいことでは
か の 意 思 決 定 を 行う際、経 営 者自身 の 感 情 の 状 態 に
ありません。そのため、多くの経営トップが、ビジネスに
よって判断結果が 微 妙に左 右される傾向があることが
即した最適な判断を行うためには自分の感情とどのよう
明確に示されています。たとえば、気分が落ち込んでい
に向き合い、どのようなEQ能 力を備える必要があるの
るときは同じデータであってもそれをネガティブな方向
か、という観点からEQに大きな関心を寄せることになっ
に過大評価する傾向があり、逆に、
うれしく楽しい気持ち
たのです。
ー4ー
EQとは誰もが持っている能力
EQは開発できる能力
EQは誰にでも生まれながらに持っている能力ですが、
その発揮度には個人差があります。
周囲と上手にコミュニケーションがとれる人がいる一方で、対人関係は苦手という人がいる
のはそのためです。
EQは後天的に高めることができる能力です。教育や学習、訓練などによって伸ばすことがで
きます。IQが先天的要素が大きく、伸ばすには限界があるといわれているのと異なり、EQは
適切な訓練によって伸ばすことができます。
EQを高める第一歩は、感情の大切さを
知り、感情に注目することです。
それによって感 情 に賢くなり、自分 や
他者の感 情をより深く認識することが
できます。
「自分はいま能力を発揮しているのだ」
と考えることができれば、
「相手はいま
どんな気持ちだろうか」と意識的に相手
の 感 情を 識 別 するようになりますし、
EQは学習や訓練により
後天的に高めることができる
相 手 に共 感したり、自分を モ チベート
したりすることにも積極的になります。
次に大事なことが、自分のEQを知ることです。
EQは基本的に「感情の識別」
「感情の利用」
「感情の理解」
「感情の調整」という4つの個別
能力を循環的に発揮することで機能しています。
これら の 個 別 能 力は 緊 密 な 関 連 を 持 ち、常に 互 い を 補 完し合うように 連 繋して 動 いて
います。
自分の感 情を識別できなければ、
それを利用することもコントロールすることもできません
し、他者の感情の原因やその後の変化を類推できなければ、適切な働きかけを行なうことは
困難です。
つまり、適切にEQが機能するためには、EQを構成する4つの能力がバランス良く発揮される
ことが重要になります。
ー5ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
EQ理論とは?
∼感情能力の4つのブランチ∼
EQは大きく分けると、感情の識別、感情の利用、感情の理解、感情の調整という4つのブラン
チで構成されています。4つのブランチをうまく開発することにより、個人が感情をうまく使い
こなすことが可能になります。
ブランチ1
Identify
ブランチ2
感情の識別
Use
自分自身の感情や周囲の人たちがどのように感じている
かを知覚し、識別する能力です
ブランチ3
Understand
理解した感情に対し、自らの思考や行動を助けるための
感情を生み出す能力です
ブランチ4
感情の理解
Manage
感情が生み出された原因や特性を理解し、次に生まれる
感情を予測する能力です
感情の利用
感情の調整
自らと相手が求むべき結果が得られるよう、感情を思慮
深く調整し行動へと繋げる能力です
わたしたちの行動や思考は、
その時々の感情の状態によって、大きく左右されています。EQとは、
その感情の動きを感じ取り、理解し、知的活動に応用するために調整していく能力と言えます。言
い方を変えれば、感情を調整し、適切に利用することができれば、正しい行動を起こすことがで
きるのです。
ー6ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
ブランチ1
Identify
感情の識別
自分自身の感情や、周囲の人たちがどのように感じているかを知覚し、識別する能力です。
自分の感情を知る
いま、自分はどんな感情なのか?「いま、自分はどんな感情なのか」
あるいは「周囲や相手がどのような感 情の状 態にあるのか」を読
み取り、知覚することはEQのもっとも基本的な 能 力であり、良 好
な 対人コミュニケーションのためのスタートとなる能力です。
「感情の識別」は二つの領域から成っています。
一つは「自分自身の感情を知覚すること」であり、
もう一つは「相手
感情を読み取り知覚すること
や周囲の人の感情を読み取り、識別すること」です。
まず、一つめの「自分自身がいまどんな感情なのかを知覚すること」ですが、これはさほど難
しいことではないように思えます。誰でも、自分がいま怒っているのか、喜んでいるのか、ある
いは悲しんでいるのかは容易に判断できるからです。
しかし、実はそうとも言えないのです。
確かに「いま、あなたはどんな感情ですか」という質問を受けた場合は、
「ちょっと緊張してい
ます」とか「少し腹が立ってます」と自分の感情を省みて答えることができます。
しかし、
それは自分を「質問に答えられるような平静な感情」に切り替えられる程度の感情の状態の
場合だけです。
もし、激怒していたり、
憎悪で腹が煮えくり返っていたり、悲嘆にくれているような状
態なら、
「いま、
あなたはどんな感情ですか」という質問を受けても、
「うるさい!」と叫んだり、
怖い顔
で睨んだり、声をあげて泣き続けたりという結果になります。思考が感情によって支配されてしまっ
ており、
自らの感情を省みるという意識的な行動に移行できないからです。
したがって、EQを発揮しようとする場合、
「いま、あなたはどんな感情ですか」という質問を、
自分で自分に投げかけることが重要なポイントになります。
その理由は二つです。
一つは、
この質問を投げかけることによって、自分の感情を意識して捉えることができるという
ことです。わたしたちは意識しなければ、自分の感情を認識することはできません。無意識のま
まだと、単に感情に流されるだけです。わたしたちの思考や行動は感情によって左右されます。
したがって、対人コミュニケーションにおいてEQを発揮しようとする場合、自分自身のその時
の感情を意識的に把握しなければ、自分が相手に対してなぜいまのような態度を取ったのか
を判断することもできません。
ー7ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
もう一つの理由は、
「いま、あなたはどんな感情ですか」という質問を、自分で自分に投げかけ
ることで、自分の感情を瞬時に「質問に答えられるような平静な感情」に移行させることがで
きることです。質問をする行為自体がすでに平静な感情を含んでいるのです。
激怒や強い憎悪や悲嘆のような状態では、自ら質問をするという行為を行なうこと自体が困
難です。その場合は少し時間を置くことです。
たとえば、突然、怒りでカッとした場合の感 情のピークは6秒程 度で収まるとされています。
憎悪や悲嘆などは、
その原因や置かれた状況によって収まる時間は異なりますが、少なくとも
自分で自分に「いま、どんな感 情ですか」という質問を投げかけることができれば、
その時点
で、感情のピークは過ぎているということであり、
その質問に答えることでさらに気持ちを落
ち着かせることができ、次のプロセスである「感情の利用」への移行が容易になります。
一方、
「感 情の識 別」能力を高めるためには、
「感 情を表現する言葉 」をできるだけたくさん
知ることも重要です。
わたしたちは何かを感じたり、物ごとを思考するとき「言葉」にして考え、認識します。
楽しいと感じたとき、人は自分の笑い顔を思い浮かべてそう感じるのではなく、
「楽しい」とか
「面白い」という言葉を思い浮かべて、自分の気持ちを認識するのです。
たとえば、氷がたくさん入った水に手を入れれば、誰でも「冷たい!」と感じます。それは「冷たい」
という表現を知っているからで、
その言葉を知らない幼児が手を入れたら、他の知っている
言葉、たとえば「痛い」とか「寒い」と感じるのです。感情も同じで、
「感情を表わす言葉」を多く
知れば知るほど、自分や他者の感情をより正確に識別し、表現することが可能になります。
感情を識別するとは、多彩な表現手段を持つということでもあるのです。
ブランチ2
Use
感情の利用
理解した感情に対し、自らの思考や行動を助けるための感情を生み出す能力です。
感情を利用し自分をモチベートする
人の行動は、
その時点における感情の状態に大きく影響されます。
「感情が高まり、やる気に満ちているとき」
と
「気持ちが沈み、消極的なとき」
とでは、同じ仕事
をやっても違った結果になります。
つまり、何かの課題達成を目的に行動を起こすとき、その行動にもっともふさわしい感情の
状態に自らを持っていくことができれば、よりよい結果が期待できるのです。
それを、自ら行う
能力が「感情の利用」です。
ー8ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
自分自身の明確かつ具体的な目標を持つことも、
「感情の利用」
能力の発揮につながります。
たとえば、舞台俳優になりたいという明確な目標を持った人は、劇団での下積みも苦になりま
せんし、アルバイトに明け暮れる日々も平気です。舞台に立って自分を表現したいという強い
気持ちが、
自らをモチベートしているからです。
一方、同じアルバイトで生活している人でも、確たる目標を持たない人はなかなか自分をモチ
ベートすることは難しくなります。
そのため、すぐ休んだり、時間に遅れたり、ちょっと嫌なこと
があればすぐバイト先を辞めたりしがちになります。
「感情の利用」能力を発揮するもう一つの方法は、物事
に対する見方を少し変えてみることです。
たとえば、
「自分の担当している仕事は、
自分の義務だ」
と考えれば、気持ちは重くなりがちです。
しかし「自分
の仕事は上司や周囲の人たちからの期待なのだ」とと
らえれば、
気持ちを前向きにすることができます。
行動にふさわしい感情の
状態に自らを持っていくこと
「苦労こそ自分を成長させる」という考え方をするのも
有効です。
目標を持たず、とりあえずアルバイトで生活し
ているという人でも「この苦労は必ず自分の役に立つ」と考えることができれば、多少の面倒
なことや嫌なことくらいは簡単に乗り越えられます。
このように物事の見方をちょっと変えてみたり、価値観をすこしずらしてみたりすることによっ
て、何らかの課題解決や目標達成のためにふさわしい感情をつくりだしたり、自分をモチベー
トすることも
「感情の利用」
能力の発揮の一つです。
「共感」と「同情」
「感情の利用」
は、
対人関係においては
「相手に共感する能力」
として位置付けることができます。
相手の立場に立って考え、相手の感情に共感できれば、自分の感情をその場にふさわしいも
のに変えていくことができるからです。
また
「共感」
によく似た感情に
「同情」
があります。
しかし、
この二つは似て非なるものです。
共感が
「相手の気持ちや感情を自分のものとして感じ取ること」
であるのに対し、同情は相手
の気持ちや感情をまったく共有することがなくても感じることができます。
そのため、共感が
目的を持った行動を生みやすいのに対し、
同情はなかなか目的行動にはつながりません。
たとえば、ある苦境に陥った人がいるとします。
その状況を知るだけで、たとえそれがテレビの
ニュース画面であっても、新聞の紙面であっても、わたしたちはその人に同情することができ
ます。
同情という感情の裏には、自己の優位性を確認するという意識が隠れているからです。
しかし、同情しただけでは、その人に対して何らかの行動
(たとえば救済活動など)
を取ることは
ほとんどありません。
ー9ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
わたしたちが、その苦境に陥った人に対して何らかの行動を取るのは、その人の考えや感情に
共感した時です。
たとえば、その人が陥っている苦境から逃れるために必死に苦闘している姿勢や、逆に、自分の
力ではどうにもならないと嘆いている表情から、わたしたちは、その人の考えや感情を読み
取り、
共感することで
「何とかしてあげたい」
という気持ちになり、
それが行動につながるのです。
もちろん、同情も相手のことを思うという意味では共感と同じです。
ただ、同情して悲しんだ
り、哀れんだりすることの多くは、単に相手に自分を同一化させているだけであり、心理的に
は実は自分のために悲しんだり、哀れんでいることが多いのです。
つまり、言い方は悪いかも
しれませんが、
「相手のために悲しんでいる自分が好き」
というケースが多いのです。
ブランチ3
Understand
感情の理解
感情が生み出された原因や特性を理解し、次に生まれる感情を予測する能力です。
感情の持つ特性を知る
その感情はどのような状況や要因によって生じ、どのように推移していくのか?
EQ の中でもっとも IQ 的要素が求められる能力が「感情の理解」です。
「感情の理解」能力は、大きく二つの段階に分けて考えることができます。
第一段階は「感 情の持つ特性を理解すること」であり、第二の段階が「感 情と状 況を結び
つけること」
、つまり「その感情がどのような状 況や要因によって生じ、どのように推移して
いくのかを理解すること」です。
感情が生起するのには何らかの理由があります。
わたしたちは嬉しいことや楽しいことがあれば喜び、嫌なことがあれば悲しんだり、怒ったり
します。
こういった感情が生まれる原因はすべて外的要因によるものです。多くの企業のテーマである
対人コミュニケーションに絞るなら、わたしたちの中に生起する感情の原因となるのは相手
であり、周囲の人たちであり、それらを含む状況です。
わたしたちは全員が「自分対自分以外」という構図の中で、
互いに感情を生起する原因になっ
たり、結果になったりしています。
このため、感情は複雑な形を取りがちです。しかし、それらは感情の持つ基本形の組み合わ
せであり、基本形自体はそれほど多くはありません。
ー 10 ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
「感情の持つ特性を理解すること」とは、この感情の基本形を理解することです。
たとえば、感情は勝手にやってきます。わたしたちは感情が生起しないよう制御することは
できません。感情は突然生まれ、生理的な変化を引き起こします。突然、心臓の鼓動を早く
したり、発汗作用をもたらしたり、顔色を変えたりします。
感情は変化や出来事に対する反応です。恋人
に出会うと、誰でも気持ちが特別な反応を起
こすのを感じますし、変 化に遭 遇すると不安
や恐怖、あるいは期待などを感じます。
感情はわたしたちの思考能力や知的活動に影
響します。不安や怒り、憂 鬱などを抱えてい
ると覚えるべき知識も頭に入りませんし、考
感情の基本形を理解すること
えをまとめるにも支障をきたします。
感情は行動を導きます。恋人に出会えば、近寄りたくなりますし、嫌いな人を見かけたら逃
げたくなります。
また、感情の生じ方にもいくつかの特徴があります。感情はあまり単独では生起しません。
たいていの場合、人はいくつかの感情を複合的に感じます。
仕事で失敗したときは失望と同時に悔しさや無念さを感じるものですし、自分に対する憤り
や協力者への申し訳なさ、部下への不満の感情なども感じたりします。
気に障ることを言われ、カッとした場合でも、頭のどこかでは悲しみや不 安、恐れなどの
感情を同時に感じていたりするものです。
人は相反すると思われる感情を同時に感じることも少なくありません。
結婚や就職など新しいスタートに際しては喜びや希望と同時に少なからぬ不安を感じるもの
ですし、大きな仕事が成功したときなどには嬉しさや達成感、満足感で満たされるとともに、
情熱を傾けた仕事が終わったことによるある種の寂しさや喪失感も感じたりします。
また、仕事が十分にうまくいっている時でも、忙しくて家庭を犠牲にしている場合は、満足
感とともに悲しい気持ちも感じるのです。
さらに、
感情は弱から強へと推移する傾向があります。始めはちょっとした困惑だったものが、
状況の継続によって迷惑になり、次第に当事者に対する怒りや激怒に変わっていきます。心
配は恐れとなり恐怖へと推移しますし、関心は期待となり警戒へと移っていきます。感情は
グラデーションのように濃度の濃い方向へと移行していくのです。
ー 11 ー
EQ理論とは?∼感情能力の4つのブランチ∼
ブランチ4
Manage
感情の調整
自らと相手が求むべき結果が得られるよう、感情を思慮深く調整し行動へと繋げる能力です。
適切な言動のために感情を調整する
EQ を発揮するための最後のステップが
「感情の調整」
です。
ここでは、対人関係において相手の気持ちにもっとも適
切かつ効果的な行動をとるために、自分自身の感情に最
後の調整・操作を行ないます。
言葉をかえれば、
「感情の調整」
とは、
「感情の利用」
によっ
てつくりだした自分の感情を、
「感情の理解」で導きだした
対応行動に適したように調整・操作する能力といえます。
違う感情の人が一緒に行動する。
まず「感情の識別」
によって両者の感情を認識し、次いで
「感情の利用」
能力を発揮し、自分の
感情を落ち着かせます。
たとえば、次第に苛立ちつつあった自分の感情をいったん落ち着い
た感情に作り変えるようなものです。
その落ち着いた感情の状態で、次のステップである
「感情の理解」
に移り、当面する状況にお
いて自分が取るべき、
最良と考えられる対応策にたどりつきます。
それは「自分の言葉が相手を傷つけたのが発端だから、まず謝ったほうがいい」というような
ものです。
さらに
「では、具体的にはどうしたらいいだろう。
あまり深刻なのは、かえって気まずい雰囲気
になりかねないし……」
と考えていくことになります。
こうして、取るべき対応を決定すると、ここで最後のステップである「感情の調整」に移りま
す。
謝罪には言葉と行動が必要です。
そして、
あらゆる言動は感情に影響されます。
たとえばこの際取る選択とは、先ほどまでの二人の話題を利用して、明るく謝るという方法な
どです。
瞬時に自分の感情を明るく謝るためにふさわしいと思われる感情― ―素直な中に茶
目っ気と期待を抱いた気持ち― ―に調整します。
EQ は、
「感情の識別」
からスタートし、
「感情の利用」
「感情の理解」
というコースをたどり、最後
に「感情の調整」を経ることで、対人コミュニケーションにおける「効果的な言動」という果実
を生み出すのです。
ー 12 ー
EQは伸ばせる能力
EQは伸ばせる能力
コミュニケーションに課題がある人は、EQに問題がある
前章にもあるように、EQ は人の感 情を認識することから始まり、最終的に効果的な行動
をとることで完 結されます。
しかし、それらはほとんど無意識のうちに、また瞬時に行なわれるため、たとえば「いま、
自分は『感 情の利用』の段階にいるな」などと実 感することはまずありません。
このため、対人関係がうまくいかず 悩んでいるような人でも、いったい何が原因で、どう
したらうまくいくのかはなかなか分からないものです。
実は、同僚などとの対人関係や部下へのマネジメント、周囲とのコミュニケーションなど
で行き詰まりを感じている人には、
「感 情の識 別」から始まる4つの EQ サイクルのうち、
いずれかの能力、あるいは複数の能力に問題があるケースが多いのです。
もし、自分はあまり周囲とのコミュニケーションがうまくいっていない、あるいは、部下の
動かし方が分からない、上司との接し方が分からないといった悩みをお持ちなら、自分で
自分に以下の質問をしてみてください。これだけでも、自分は EQ のどの個別能力を発揮
していないのかが分かります。
Q 自分は、相手がいま、どんな気持ちかを識 別しているだろうか?
Q 相手が、自分をどう見ているかを感じ取っているだろうか?
Q 目的のために、自分の感 情を適切に利用しているだろうか?
Q 相手の立場に立って考え、相手に共 感しているだろうか?
Q 相手がどう感じるかを先読みし、先手を取る言動ができているだろうか?
Q 自分の感 情に振り回されることはないだろうか?
わたしたちは感情の動物です。感情そのものの生成を止めることはできません。
しかし、
それらの感情を、
目的の達成のために利用することはできるのです。
それを意識的に行う能力がEQであり、
そのための個別能力がEQを構成する4つの能力なのです。
どうしたらEQを伸ばせるのか
サロベイ、メイヤー両博士は、自分のEQを知ることですでにEQの70%は開発できている
と述べています。
ただ、残りの30%については、多少のトレーニングが必要になります。
人のあらゆる行動は感情に影響を受けています。また同時に、行動することで感情を変えること
ができます。
ー 13 ー
EQは伸ばせる能力
わたしたちは誰でも行動にクセを持っていますが、この多くは感 情のクセから出たものです。
行動を意識して習慣づけることができれば、
マイナスに左右しがちな感 情のクセをプラスに
変えることができるのです。
そのために必要なのは、感情のクセを矯正するための「型」を知ることです。
武道や茶道などには基本となる型があり、繰り返すことで基本の型が身につき、
それに自分
のスタイルやオリジナリティが生まれてきます。
感 情もそれと同様に、型を身につけて、何度も繰り返すことで、習慣化することが大 切です。
日常生活の言動や行動を変え、感情の型を身につけていくことで誰もが自らEQ能力を高め
ることが可能なのです。
EQの能力開発の理論はこの考え方を応用したものです。
マイナスな
感情
プラスな
感情
感情を
矯正するための型
プラスの感情にする「型」を覚え、
日頃 から意 識し、言 動・行 動を
変 えることで、感 情 のクセを
プラスに変えることが できる。
EQで感情をコントロールしていくイメージ
EQを知り、高めることは円滑なビジネスライフにおいて
非常に重要なファクターである
ビジネスにおいて、現在EQはIQ以上に注目され、求められる能力と
なりつつあります。
EQは、個々人が自身の感情を理解し、適正な訓練を
行うことで、
後天的にその能力を伸ばすことができるスキルです。
「社 員のモチベーションが低く効率が上がらない」
「社内コミュニ
ケーションがうまくいかないがどうしたらよいか分からない」という
悩みも、
EQの訓練を行い効果的に活用することで改善が 可能で
す。
EQの向上が、本来持っているビジネススキルを発揮させ、円滑
なコミュニケーションを生み出すのです。
EQは今後のビジネスシーンにおいて必須項目となり得るスキルで
す。
ぜひ一度自身の感情へ問いかけ、その能力向上を試みてはいか
がでしょうか?
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EQ理論
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