自由落下する音源を用いたマイクロホン位置推定 ∗

2-1-8
自由落下する音源を用いたマイクロホン位置推定 ∗
☆保田速人,中村康祐, 及川靖広, 山
芳男 (早大理工)
はじめに
1
z
音響測定を行う際,マイクロホンの位置を正しく知
y
音源 B
ることは重要である.我々はこれまでに,分散配置し
たマイクロホンを用いて音源位置を推定するなど複
x
ℓAB
数のマイクロホンを用いた音響測定を行ってきた [1].
音源 A
本研究では 2 種類の信号を発するスマートフォンを
自由落下させ,ドプラ効果により変動する周波数を解
ℓB
析しマイクロホン位置を推定する手法を提案する.
マイクロホン位置推定
2
マイクロホン O
一般的なドプラ効果の式
2.1
図–1
ドプラ効果とは観測点と音源の相対的な速度差が
あるとき,観測点での信号の周波数が実際の信号の周
波数と異なって観測される現象のことである.観測
点が静止している時,観測地点での周波数 f [Hz] は
音速を c [m],音源の速度を vs [m/s],観測点と音源
の移動方向ベクトルがなす角度を θ[rad],原周波数
ℓA
音源とマイクロホンの位置関係
ホン O と音源との相対的な位置関係を推定する.具
体的にはマイクロホン O で観測された信号 fo (t) と式
(3) から得られる理論的な値を,以下の最適化問題を
解くことでカーブフィッティングさせ各変数を得る.
minimize ∥fo (T ) − F (T )∥2
を f0 [Hz] とすると
(4)
l,h,c,g ,t0
c
f = f0
c − vs cos θ
(1)
と表される.
2.2 音源が自由落下している場合のドプラ効果の式
式 (4) を解くことによって得られたマイクロホンと音
源の距離,音源の初期位置を用いてマイクロホン座
標は
2
2
 
lB
−lA
Ox
2l
AB
√
  
lAB
2
 Oy  = 
± lA − ( 2 −
Oz
−h
測される信号の周波数変動を解析することによりマ
イクロホンの位置を推定する.自由落下時の音源の
位置 x は,時刻を t [s],初期位置を h [m],重力加速
度を g [m/s2 ] とすると


本研究では音源を自由落下させ,マイクロホンで観

2 −l2
lB
A 2
2lAB ) 
(5)
と表すことができる.ただし,lA は音源 A とマイク
1
x(t) = − gt2 + h
2
(2)
ロホンが最も近づくときの距離,lB は音源 B とマイ
クロホンが最も近づくときの距離,h はマイクロホン
と表される.式 (1) における vs は式 (2) の微分によ
から音源までの高さとする.また,lAB は音源 A と
り求められ,自由落下する音源の観測点での周波数変
音源 B の距離とし既知であるとする.y 座標は 2 つ
動 F (t) は
求められるが,音源 A,B とマイクロホン O の相対
F (t) = f0
c
)(2h−g(t0 +T ) )
√ 0 +T
c − g(t
2
2 2
2
(3)
できる.
4l +(2h−g(t0 +T ) )
と表すことができる.ただし,マイクロホンと音源が
最も近づいたときの距離を l [m] ,落下し始めた時刻
を t0 [s] ,t0 が 0 となる際の時刻を T [s] とする.
2.3 2 つの音源を用いたマイクロホン位置推定手順
図–1 のように音源 A と音源 B の中点を原点とし
て,Oz < 0 なる任意の点 O(Ox ,Oy ,Oz ) にマイクロ
ホンを,x 軸上の (Ax ,0,0) に音源 A と (Bx ,0,0)
に音源 B を設置する.音源 A,B を地面との平行性を
保ったまま自由落下させ,マイクロホン O での各々
の信号の周波数変動を解析することによりマイクロ
∗
的な位置関係を考えることで一方を決定することが
実験
3
マイクロホン位置推定の実験を行った.
室内にマイクロホンを適当に配置し,全てのマイ
クロホンよりも高い位置から音源を発したスマート
フォンを自由落下させた.使用したスマートフォン
はステレオスピーカを持ち 2 つの音源を別々のスピー
カから発することができる.音源として L に 4000Hz
の正弦波,R に 7000Hz の正弦波を用いた.マイクに
AUDIX の TM1,オーディオインターフェースに MAudio Fast Track Ultra 8R,スマートフォンに HTC
Estimate microphone position by using a free falling sound source. by Hayato YASUDA, Kosuke NAKAMURA, Yasuhiro OIKAWA and Yoshio YAMASAKI (Waseda University)
日本音響学会講演論文集
- 569 -
2014年9月
J One を用いた.まず,早稲田大学西早稲田キャンパ
スの無響室にて一本のマイクロホンで基礎実験を行
4100
4080
4060
い,続いて 59 号館 415 室 (会議室) にて複数マイク
4040
周波数 [Hz]
ロホン位置推定の実験を行った.
4020
4000
実験結果
4
3980
まず,無響室で行った実験の結果を示す.マイクロ
3960
ホン位置で観測された周波数変動を図–2(a),図–2(b)
3940
mic3
3900
示す.
7080
4060
7060
周波数 [Hz]
4040
7020
4000
0.2
0.3
0.4
0.5
時間 [s]
0.6
0.7
0.8
0.9
1
0.9
1
7100
7000
3980
6980
3960
7080
6960
6940
3920
6920
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
時間 [s]
2
2.1
2.2
6900
1.2
(a) 測定値 (4000Hz)
7060
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
時間 [s]
1.9
2
2.1
2.2
7040
周波数 [Hz]
3940
(b) 測定値 (7000Hz)
7100
4080
7080
4060
7060
周波数 [Hz]
周波数 [Hz]
4100
4040
7020
7000
6980
6960
7040
4020
mic1
7020
4000
7000
3980
mic2
6940
6980
3960
mic3
6960
3940
6920
6940
3920
3900
0
0.1
7040
4020
3900
1.2
0
図–3 観測された周波数変動 (4000Hz)
周波数 [Hz]
7100
4080
mic2
3920
に,理論的な周波数変動の様子を図–2(c),図–2(d) に
4100
mic1
6920
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
時間 [s]
0.7
0.8
0.9
1.0
(c) 理論値 (4000Hz)
6900
0
6900
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
時間 [s]
0.7
0.8
0.9
1
0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
時間 [s]
(d) 理論値 (7000Hz)
図–4 観測された周波数変動 (7000Hz)
図–2 周波数変動
観測されたデータのうち,周波数が変動し始めた点
マイクロホン座標の推定結果を表-2 に示す.マイ
と終わった点の間のデータと理論的な周波数変動の
クロホンの位置が遠ざかるにつれて推定される座標
データを式 (4) を用いてカーブフィッティングさせ,
の誤差が大きくなってしまうことが分かる.この誤
スマートフォンのそれぞれのスピーカとマイクロホ
差の原因としてはマイクロホンとスピーカの距離が
ンの距離と,マイクロホンの座標を求めた.
離れることにより SN 比が悪くなる,周波数変動が急
その結果を表–1 に示す.距離,座標ともに概ね推
激になり正確に周波数変動を捉えることができない,
定できていることが伺える.誤差の原因としては落
スピーカ同士の距離がスマートフォンとスピーカ間
下させる際にスマートフォンの座標が動いてしまっ
の距離に比べて非常に短くなり座標を推定する際に
たことや,自由落下する間にスマートフォンが回転し
誤差の影響を受けやすくなる,などが考えられる.
たことなどが考えられる.
5 むすび
次に,会議室にて行った実験の結果を示す.それぞ
自由落下する音源の周波数変動を解析し理論的な
れのマイクロホンで観測された信号の周波数変動を
周波数変動とカーブフィッティングさせることによ
図–3,図–4 に示す.無響室での実験と同じように理
り,マイクロホンとスピーカの距離やマイクロホン
論的な周波数変動とカーブフィッティングすること
の座標の推定を行った.近い位置に存在するマイク
によりスマートフォンのそれぞれのスピーカとマイ
ロホンの位置はほぼ正確に推定することができたが,
クロホンの距離と,マイクロホンの座標を求めた.
遠方のマイクロホンの位置を推定することができな
表–1 実験結果 (無響室)
かった.今後は音源から遠方にあるマイクロホンの
実測値
位置を推定する手法を確立し,より正確な位置推定を
推定値
lA [m]
0.36
0.35
lB [m]
0.29
0.28
マイク座標 (-0.20, -0.25, -0.15) (-0.18, -0.25, -0.13)
目指す.また,4 つのマイクロホンの位置を同時に推
定し,近接 4 点法 [2] の手法を用いて音源の座標を推
定することを目指す.
参考文献
表–2 実験結果 (会議室)
実測値
推定値
Mic1 (0.44, -0.90, -0.82) (0.43, -0.91 , -0.83)
Mic2 (0.85, -1.27, 0.42) (0.90, -1.22, 0.47)
Mic3 (0.56, -2.30, -1.32)
測定不能
日本音響学会講演論文集
[ 1 ] 中村,及川,山 ,
“分散配置した 4 つのマイクロホンによ
る音源位置推定,”音講論集,pp.605-606,(2013.9).
[ 2 ] 山崎,石原,桜井,海老名,伊藤,
“近接する 4 点のインパル
ス応答より求めたホールの空間情報”
,音講論集,pp.759-760,
(1981.5).
- 570 -
2014年9月