中心血行動態と腎障害の関連 - Arterial Stiffness

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第 13 回 臨床血圧脈波研究会 フィーチャリングセッション 4
中心血行動態と腎障害の関連
橋本潤一郎(東北大学大学院医学系研究科中心血圧研究講座准教授、東北大学病院腎高血圧内分泌科)
す中心血圧の影響」
「脈圧増幅と腎血行動態」の 3 点につい
中心血行動態と腎障害の関連については、すでに CKD
て、自験例も踏まえ考察する。
(chronic kidney disease)診療ガイドに記載があるよう
に、高血圧や動脈硬化といった要因が介在する可能性が
中心血圧と腎血行動態・腎障害の関連
示唆されている。
そもそも腎臓という臓器は、心拍出量の 20 ~ 25%にあ
ドプラ超音波で測定する腎動脈の血流波形から求めら
たる血流を受け取る高血流・低抵抗の臓器である。腎臓
れる抵抗指数(resistive index;RI)は、腎予後を規定する
の基本単位である腎ネフロンにおいて中心的な役割を担
ファクターとしてよく用いられている。
うのが糸球体であり、また腎臓の拍動性の血行動態は弓
われわれが実施した検討を図 1 に示す。これは高血圧
状動脈という太い動脈を起点に、小葉間動脈、輸入細動脈、
患者の中心血行動態と RI の関係をみたもので、中心脈圧
糸球体毛細管へと枝分かれする。糸球体は脆弱な毛細血
が増大するに従い RI が顕著に上昇することが確認でき
管で構成されているにもかかわらず、骨格筋等の毛細血
る。この相関は非常に高く、RI は大動脈の脈圧によって
管とは異なり、正常な状態でも拍動性の高い血圧にさら
決 定 されていると考えられる値であった。また増大圧
されている。
(augmented pressure)や 大 動 脈 の PWV(pulse wave
そこで本セッションでは特に病態メカニズムに注目し、
「中心血圧と腎血行動態・腎障害の関連」
「心腎連関に及ぼ
velocity)なども RI と相関が認められたが、平均血圧とは
関連は示さなかった。
0.9
0.9
0.8
0.8
0.8
0.7
0.7
0.7
0.6
0.5
25
50
PPA
100(mmHg)
0.4
0.5
r=0.05
p=0.55
50
70
90
110
MAPA
0.6
0.8
0.8
0.8
0.7
0.7
0.7
0.4
−10
0
10
20
APA
30
40(mmHg)
腎 RI
0.9
r=0.49
p<0.001
0.6
0.5
0.4
100
r=−0.38
p<0.001
120
140
TrA
160
20
40
60(mmHg)
P1hA
0.9
0.6
r=0.55
p<0.001
0.4
130(mmHg) 0
0.9
0.5
36
75
0.6
0.5
r=0.62
p<0.001
腎 RI
腎 RI
0.4
0
腎 RI
0.9
腎 RI
腎 RI
図 1 ● 高血圧患者における中心血行動態と腎抵抗指数(RI)の関係(Hashimoto J, et al. Hypertension 2011 ; 58 : 839 -46 より引用)
180(ms)
0.6
0.5
0.4
0
r=0.51
p<0.001
5
10
15
PWVC-F
20(m/s)
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フィーチャリングセッション 4
図 2 ● 大腿血流指標と腎 RI の関係(Hashimoto J, et al. Hypertension 2011 ; 58 : 839 -46 より引用)
0.80
p<0.001
p=0.006
0.75
*
腎 RI
0.70
*
*
0.65
0.60
0.55
0.50
<10.69
10.69∼14.82
>14.82(%)
<25.9
大腿拡張期/収縮期順流比
25.9∼32.0
>32.0(%)
大腿逆流指数
当検討ではまた、腎臓の微小血管障害を表す微量アル
昇の予測因子を検討したところ、eGFR や年齢、BMI、糖
ブミン尿との関連も調べた。多変量ロジスティック回帰
尿病などを補正した場合でも、アルブミン尿が BNP 上昇
分析した結果、RI は他のさまざまなファクターを考慮し
の有意な予測因子であることが分かった。このことから、
ても有意なアルブミン尿の予測因子であることが判明し
アルブミン尿と BNP 上昇の関連は中心脈圧の上昇や動脈
た。RI の代わりに中心脈圧や大動脈 PWV を投入しても同
硬化によって強く仲介されており、中心脈圧の上昇や動
様で、有意なアルブミン尿の予測因子となった。
脈硬化も心腎連関の中軸的な役割を担っていることを示
健常な軟らかい血管では、拍動圧は大動脈から腎臓深
唆する所見であると考察した。
部にある糸球体近傍の微小血管に至るまでの間の、輸入
細動脈などで吸収される。しかしながら動脈が硬化し中
脈圧増幅と腎血行動態
心脈圧が増大すると拍動圧は吸収しきれず、微小血管に
脈圧増幅とは中心大動脈から下肢や上肢の末梢の筋性
まで伝播する。直接的に毛細血管の血管壁が傷害される
動脈にかけて脈圧が増大する現象を指している。3 つめの
とともに糸球体の過剰濾過が生じ、アルブミン尿が出現
検討としてわれわれは大腿動脈の血流に注目し、脈圧増
するとの推測が成り立つ。つまり、このことは中心血行
幅の生理的・病態生理的影響を調べた。
動態の異常が腎臓での血行動態の異常をもたらし、高血
大腿動脈では、収縮期には大動脈から大腿動脈へと順
圧性腎障害を引き起こすことを示唆する。
行性の血流が、収縮終期から拡張早期では大腿動脈から
心腎連関に及ぼす中心血圧の影響
大動脈に向けての逆流が認められ、拡張中期では大動脈
から大腿動脈に向かって血流が流れるというように、血
近年、心腎連関は Ronco らによって CRS(cardio-renal
流動態が 3 相に分かれることは昔から知られている。こ
syndrome)
として、心臓障害と腎臓障害の方向性
(心→腎、
の逆流は健常な人ほど明瞭で生理的な現象ではあるが、
腎→心)と急性・慢性などから、5 つの病型に分類されて
その機序については明らかにされていなかった。これに
いる。心臓と腎臓の障害が同時に生ずる病型(Type 5)の
ついて、われわれは脈圧増幅により血圧勾配が生じて血
原因として、Ronco らは糖尿病やアミロイドーシスといっ
流が逆流すると考察した。同様の逆流は腎下部大動脈に
た全身性疾患(systemic diseases)を挙げているが、ここ
も存在すると考え大腿血流指標と腎 RI について検討を行
に含まれていない高血圧、中心血圧や中心血行動態がど
い、両者には有意な関係を示すことを見出した(図 2)
。
の程度のインパクトをもつのかについて、予備的な検討
を試みた。
まとめ
高血圧患者を対象に、腎動脈の指標と B 型ナトリウム
中心血圧は腎血行動態に直接的な影響を及ぼし、中心
利尿ペプチド(B-type natriuretic peptide;BNP)の関係
脈圧の増大はアルブミン尿の原因となる。さらに高血圧
を調べたところ、尿アルブミン/クレアチニン比が増大
に伴うアルブミン尿と BNP 上昇の関連には、中心脈圧の
するに従い BNP 値も有意に上昇する、推算糸球体濾過
増大が中軸的な役割を演じている可能性がある。一方、
量(estimate glomerular filtration rate;eGFR)の低下で
脈圧増幅には大動脈内の拍動性血流を規定し、腎血流に
BNP 値が上昇することなどが明らかになった。BNP と中
影響を及ぼす可能性があり、中心脈圧は CKD や末期腎不
心脈圧、大動脈 PWV の関連でも高い相関がみられたが、
全における心血管予後を予測する因子であることが示唆
末梢 PWV との間では関連を認めなかった。次に BNP 上
された。
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