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1 テンソル代数

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1 テンソル代数
1.1 ベクトル
K を R または C とする. 集合 V が K をスカラー体としてベクトル空間の公理を満たす時, V を K 上のベ
クトル空間という. 以下, 本稿では実数体上のベクトル空間を考える.
いかなるベクトルも, それが属するベクトル空間の次元 n と同じ数の線形独立なベクトルの線形結合として
表現できる. すなわち
⃗x = x1⃗e1 + x2⃗e2 + · · · + xn⃗en =
n
∑
xi⃗ei
(1.1)
i=1
i n
i
このとき, n 個のベクトルの組 {⃗ei }n
i=1 を基底ベクトル, 数 {x }i=1 をこの基底上の成分という. ここに, x に
おける i は累乗の指数ではなく, 単に何番目の成分なのかを表す添字であることに注意せよ. このようにベク
トルの成分を表す添字は上付き, 何番目の基底かを表す添字は下付きで書くと約束する.
1.2 総和規約
式 (1.1) において, 総和の記号
∑
を省略して ⃗
x = xi⃗ei と表記することがしばしば行われる. 添字 i は
上付きと下付きで1回ずつ登場している. このような添字については (総和の記号がなくても) 自動的に
所定の範囲で和をとっている ものと約束する. これをアインシュタインの総和規約という. 和をとる添字はダ
ミーな添字といい, そうでない添字はフリーな添字という. ダミーな添字は xi⃗ei = xj ⃗ej のように適当に文字
を変更しても良い*1 .
基底の中でも, 特にその成分が
⃗e1 = (1, 0, · · · , 0)
⃗e2 = (0, 1, · · · , 0)
..
.
⃗en = (0, 0, · · · , 1)
j
であるような基底が重要である. あるいは, 添字を用いると (⃗ei )j = δi . このような基底を正規直交基底とい
う. その言葉の意味は次第に明らかになる. 今後は, 正規直交基底に対してのみ記号 e を用いることにする.
1.3 1 形式
V をベクトル空間とする. V から R への線形写像
ϕ˜ : V −→ R
˜ x)
⃗x −→ ϕ(⃗
*1
これは積分における積分変数は積分の過程で消える変数であり, 文字を変更してもよいことに対応する.
∫
∫
f (x)dx =
1
f (t)dt
を線形汎関数という. このとき, 線形汎関数の和とスカラー倍を
˜ x) = ϕ(⃗
˜ x) + ψ(⃗
˜ x)
(ϕ˜ + ψ)(⃗
˜ x) = cϕ(⃗
˜ x)
(cϕ)(⃗
(1.2)
(1.3)
で定義すれば, このような線形汎関数の全体がベクトル空間をなすことは容易に示せる:
˜ x + b⃗y ) = ϕ(a⃗
˜ x + b⃗y ) + ψ(a⃗
˜ x + b⃗y )
(ϕ˜ + ψ)(a⃗
˜ x) + bϕ(⃗
˜ y ) + aψ(⃗
˜ x) + bψ(⃗
˜ y)
= aϕ(⃗
˜ x) + b(ϕ˜ + ψ)(⃗
˜ y)
= a(ϕ˜ + ψ)(⃗
˜ x + b⃗y ) = cϕ(a⃗
˜ x + b⃗y )
(cϕ)(a⃗
˜ x) + cbϕ(⃗
˜ y)
= caϕ(⃗
˜ x) + b(cϕ)(⃗
˜ y)
= a(cϕ)(⃗
このような線形汎関数の全体のなすベクトル空間を, ベクトル空間 V に対する双対空間といい, V ∗ と表す双
対空間の次元は元の空間の次元と同じである. また, 双対空間の双対空間は自分自身である:(V ∗ )∗ = V . そ
して, 双対空間 V ∗ の元を1形式, 双対ベクトル, 共変ベクトル, コベクトルなどという. 本稿では1形式の呼
˜ などと書くことにする.
称を採用する. 今後は, すべての1形式を, 記号の上にチルダをつけて ϕ
ベクトル同様, 1形式についても基底と成分を考えると便利である. すべての1形式は適当な基底1形式の
組 {˜
ω i } を用いて ϕ˜ = ϕi ω
˜ i と展開できる. 今, ベクトル空間 V の基底として {⃗ei } をとる. このとき, 1形式 ϕ˜
の i 成分を
˜ ei )
ϕi = ϕ(⃗
(1.4)
˜ x) は容易に
として定義する. 1形式の成分は下付きの添字を持つことに注意する. この時, 線形性から数 ϕ(⃗
˜ x) = ϕ(xi⃗ei )
ϕ(⃗
= xi ϕ(⃗ei )
= xi ϕ i
(1.5)
と書かれることがわかる. このようにベクトル ⃗
x と1形式 ϕ˜ から数 xi ϕi を作る演算を縮約という.
1形式の成分を定義するのに, 基底ベクトルを用いた. このことは, 基底ベクトルと基底1形式の間にある関
係性を見出せることを示唆している. これは実際に可能であって, ベクトルと1形式をそれぞれの基底で展開
して縮約を考えると
˜ x) = (ϕi ω
ϕ(⃗
˜ i )(xj ⃗ej )
= ϕ i xj ω
˜ i (⃗ej )
(1.6)
式 (1.5) と式 (1.6) を見比べると, 次を結論づけることができる:
ω
˜ i (⃗ej ) = δji
(1.7)
この関係でもって, {˜
ω i } を {⃗ei } の双対基底という. ここまでの議論は内積を全く必要としていない. 双対空
間あるいは1形式の存在, ベクトルと1形式の縮約は, 内積が定義されていなくとも V がベクトル空間であれ
ば自動的に付いてくる, より基本的なものであることに注意されたい. 内積を定義すれば空間に計量という強
力な機能が備わるが, それには内積に先立ってメトリック・テンソルが定義されていなければならない.
2
ところで, 1形式の基底ベクトル上の値はその1形式の成分であった. このことから, 式 (1.7) は基底1形式
の成分を与える. すなわち, 正規直交基底ベクトルに対する双対基底の成分表示は,
ω
˜ 1 = (1, 0, · · · , 0)
ω
˜ 2 = (0, 1, · · · , 0)
..
.
ω
˜ n = (0, 0, · · · , 1)
あるいは (ω i )j = δji .
1.4 変換則
2組の基底ベクトル系 {⃗ei }, {⃗ei } をとる. 添字の上にバーがついているものは別の基底であることを示して
いる. 一方の基底から他方の基底への変換はどうなるかを考えよう. この時, 基底間の関係はある正則行列 R
を用いて
⃗ej = ⃗ei Ri j
(1.8)
と表される. R の第一の添字について和をとられているので, 行列の計算としては行ベクトル (⃗e1 , ⃗e2 , · · · , ⃗en )
の右から行列 (R) がかけられていることに注意する. ところで, 基底の選択は人為的なものであり, どの基底
を用いてもベクトルは同じ形で ⃗
x = xi⃗ei = xj ⃗ej と表現されなければならない. この要請から, ベクトルの成
分に関する変換則を導くことができる. すなわち,
⃗x = xj ⃗ej = xj ⃗ei Ri j = ⃗ei (Ri j xj ) = ⃗ei xi
(1.9)
したがって, 成分は次式に従い変換される:
xi = Ri j xj
(1.10)
行列 R は正則なので, 逆行列 S が存在し RS = SR = I. 添字を用いて書くと Ri j S j k = S i j Rj k = δki
*2 .
そこで, 式 (1.10) の両辺に逆行列をかけて
S k i xi = S k i Ri j xj = δjk xj = xk
∴ xi = S i j xj
(1.11)
同様にして
⃗ei = ⃗ej S j i
(1.12)
と, 変換則の別の表現が得られる. 基底の正規直交性から, 変換行列 S, R は直交行列になるという重要な結果
を導くことができるが, これについては後の節でメトリックと内積を導入してから示す.
1 形式の成分の変換則は, 基底ベクトルの変換則と線形性から直ちに得られる.
˜ ei ) = ϕ(⃗
˜ e Rj i ) = ϕ(⃗
˜ e )Rj i = ϕ Rj i
ϕi = ϕ(⃗
j
j
j
(1.13)
これと式 (1.8) を見比べることで, 1 形式の成分の変換則はベクトルの基底の変換則と同じであることがわか
る. 基底 1 形式の変換則は, ベクトルの成分の変換則を導いたのと同じ方法で導出できる. すなわち, 1 形式は
*2
どの添字について和をとっているのかを考え, 行列の積の順序を判断すること.
3
˜ = ϕi ω
基底を選ばずに ϕ
˜ i = ϕj ω
˜ j と表されるべきことから, 次式が結論付けられる:
˜i
ω
˜ j = Rj i ω
(1.14)
基底を定めるということは, 特定の座標をとるということである. ベクトルが用いる座標系によらずに同じ
表式で表されるということは, ベクトルが座標系によらない幾何学的対象であることを意味する. 同様に 1 形
式やもっと高階のテンソルも幾何学的対象である. 表式が座標系によらない, すなわち座標変換の前後で表式
が変わらないことを, 座標変換に対して共変であるという. 現代的な観点では, 物理学における法則は, 座標系
を選ばずに同じ表式で表現されなければならないという共変性の要請のもとに定式化されている. これは解
析力学や相対論などの古典に始まり, 場の量子論に代表される現代物理学にいたって一貫した指針である. 物
理量が座標共変とは, それが座標系によらない意味をもった実在であるということである. 座標系の選択は人
為的なものであるから, 物理的実体としての意味を持つ物理量は座標系に依存してはいけない. 座標を定めて
成分を考えるとより具体的になるので, 個々の問題に対処する上では有効であるが, 我々は常に成分は物理的
実体そのものではなく, ひとつの側面にすぎないことを忘れてはならない. 例えば, 量子力学において粒子の
波動関数 ψ(x) は粒子の存在確率を与え, 具体的なポテンシャルの下での粒子の振舞いを議論する際には大変
便利ではあるが, 波動関数が粒子の状態それ自体を表しているのではない. 波動関数はある基底 |q⟩ 上の成分
ψ(x) = ⟨x|ψ⟩ に過ぎず, 成分と基底をあわせて |ψ⟩ =
∫∞
−∞
dxψ(x)|x⟩ として初めて, 物理的な概念である “状
態” の数学的な表現を与える幾何学的対象となるのである.
1.5 勾配
典型的な 1 形式は勾配 1 形式である. 標準的なベクトル解析の教科書では, 勾配はベクトル場として導入さ
れるが, 以下で示されるように 1 形式と考えたほうがより自然である. f を任意のスカラー関数とする. この
とき, 関数 f の勾配 1 形式は, 適当な (必ずしも正規直交系でない) 座標系で次の成分をもつものとして定義さ
れる.
.
˜ =
df
(
∂f ∂f
∂f
,
,··· , n
∂x1 ∂x2
∂x
)
(1.15)
ここで, 微分に対する次のような記法を定めておくと便利である.
∂f
≡ f,i
∂xi
(1.16)
この記法を用いれば, f の勾配は基底 1 形式を用いて
˜ = f,i ω
df
˜i
(1.17)
と書かれる. このようにして得られた成分 f,i が 1 形式の成分の変換則に従って変換されることは, 偏微分に
関する chain rule からただちにわかる.
f,i =
∂f
∂xj ∂f
=
= Λj i f,j
i
∂x
∂xi ∂xj
(1.18)
ここに (Λ) はヤコビ行列として知られているものである.
座標関数 f = xi の勾配 1 形式を計算しておくとためになる.
i
˜ i = ∂x ω
˜ j = δji ω
˜j
dx
∂xj
4
(1.19)
˜ i は基底 1 形式 ω
すなわち, 座標関数 xi の勾配 1 形式 dx
˜ i に他ならないという有用な結果が得られる. した
がって, 一般に勾配 1 形式は
˜ = ∂f dx
˜ i
df
∂xi
(1.20)
∂f
dxi
∂xi
(1.21)
と書くことができる. この式を, 関数の全微分
df =
˜ i と微分 dxi は別の概念であり, 区別されるべきものである. 勾配 1 形式 dx
˜ i
と混同してはならない. 1 形式 dx
が実際に基底 1 形式として変換されることを示しておく.
i
∂xi ∂xk j
˜ i = ∂x ω
˜ k
dx
˜j =
ω
˜ = Λi k dx
j
∂x
∂xk ∂xj
(1.22)
(xk ),j ω
˜ j が xk の勾配であることに注意する.
1.6 テンソル
1形式は1つのベクトルに数を線形的に対応付ける写像として定義された. これを一般化し, 複数個のベク
トルあるいは1形式に数を線形的に対応付ける写像がテンソルである. M 個のベクトルと N 個の1形式に数
を対応付けるテンソルを
(M )
N
テンソルと表記する記法を採用する. この記法では, 1形式は
たベクトルを1つの1形式に数を対応付ける線形写像と考えれば (V を V
は
( 1)
0
∗
(0)
1
テンソル, ま
に対する双対空間と考える), これ
テンソルである.
˜ ⊗ ψ˜ を定義する. これは2つのベクトル ⃗x, ⃗y に対して数 (ϕ˜ ⊗
テンソル積 2つの1形式のテンソル積 ϕ
()
˜ x, ⃗y ) = ϕ(⃗
˜ x)ψ(⃗
˜ y ) を作る, V ⊗ V から R への線形写像であり, 0 テンソルである. このとき, ϕ˜ ⊗ ψ˜ と
ψ)(⃗
2
()
ψ˜ ⊗ ϕ˜ は別のテンソルであることに注意せよ. 一般の 02 テンソルは, 適当な個数のテンソル積の和で表せる.
()
このことを見るために, 02 テンソルの成分と基底を考える. 1形式の成分を定義した方法からの自然な拡張
()
で, 02 テンソル T の成分を
T (⃗ei , ⃗ej ) = Tij
(1.23)
と定義する. 添字の i, j はそれぞれが 1 から n の値をとり,
(0)
2
テンソルは全部で n2 個の成分を持つ. このと
き, T の任意のベクトル ⃗
x, ⃗y 上の値は
T (⃗x, ⃗y ) = T (xi⃗ei , y j ⃗ej )
= xi y j T (⃗ei , ⃗ej )
= xi y j Tij
となる. 今, 基底
( 0)
2
(1.24)
テンソルを ω
˜ ij とすれば, ω
˜ ij はいかなるテンソルだろうか?1形式の基底を考えたとき
j
を満たすものである. これから容易に ω
˜ ij = ω
˜i ⊗ ω
˜ j である
のことを思い出すと, これは ω
˜ ij (⃗el , ⃗em ) = δli δm
ことがわかる. 結局, すべての
(0)
2
テンソルは, 次のように n2 個のテンソル積の線形結合で表現できる:
T = Tij ω
˜i ⊗ ω
˜j
(1.25)
また, 以上の議論においてベクトルと1形式の役割を入れ替えれば, ベクトルのテンソル積 ⃗
x ⊗ ⃗y , あるいは
もっと一般の
( 2)
0
テンソルを考えることができる. そして, 基底
5
(2)
0
テンソルは単に基底ベクトルのテンソル
積であり, すべての
( 2)
0
テンソルは次のように表現できる:
T = T ij ⃗ei ⊗ ⃗ej
(1.26)
ところで, この段階ではもはや1形式はベクトルに “作用するもの”, あるいはベクトルは1形式に “作用さ
れるもの” というそれぞれの地位を区別した立場から離れることができる. ベクトルと1形式, またはもっと
高階のテンソルは相互に作用しあって1つの数を作り出すと考えるのである. このことを踏まえて, ベクトル
⃗x と1形式 ϕ˜ の縮約, あるいはテンソルのベクトル・1形式上での値を, 次のような記法で表すことにする.
˜ x) = ⃗x(ϕ)
˜ ≡ ⟨ϕ|⃗
˜ x⟩
ϕ(⃗
T (⃗x, ⃗y ) ≡ ⟨T |⃗x, ⃗y ⟩
˜ ψ)
˜ ≡ ⟨ϕ,
˜ ψ|R⟩
˜
R(ϕ,
対称テンソル
( 0)
2
(1.27)
(1.28)
(1.29)
テンソル T が対称テンソルであるとは, 任意のベクトル ⃗
x, ⃗y に対して
⟨T |⃗x, ⃗y ⟩ = ⟨T |⃗y , ⃗x⟩
(1.30)
⟨T |⃗x, ⃗y ⟩ = −⟨T |⃗y , ⃗x⟩
(1.31)
が成立することをいう. また,
のとき, T は反対称テンソルであるという. T が対称テンソルであることは, 添字記法では
T ij = T ji
と表現される. 高階のテンソルについても, 例えば
( 1)
2
(1.32)
テンソル T について
T i jk = T i kj
(1.33)
であれば, T の “下付き添字成分” については対称である. このような成分を対称成分という. 高階のテンソル
では, 対称な添字と反対称な添字が入り交じることがあり得る. また, テンソルがある基底上の成分について対
称であれば, すべての基底について対称であることは重要である. 次の定理はしばしば用いられる:
■ 定理 T を対称
( 0)
2
テンソル, S を反対称
(2)
0
テンソルとする. このとき
⟨T |S⟩ = 0
(1.34)
が成り立つ. T が反対称で S が対称である場合も同様. もっと一般の高階テンソルについても一般化でき, 対
称成分と反対称成分の縮約はゼロになる.
テンソルの対称化 任意の
(0)
2
テンソル Tij について, 次の手続きで対称または反対称テンソルを作ることがで
きる:
Tij + Tji
2
Tij − Tji
=
2
T(ij) =
(1.35)
T[ij]
(1.36)
T(ij) が対称テンソル, T[ij] が反対称テンソルの成分である.
6
1.7 メトリックと内積
(0)
2
テンソルの中でも, (あるデカルト基底での) 成分 gij = δij を持つものが特に重要で, メトリック・テン
ソル g という*3 . このとき, g の任意のベクトル上の値は
⟨g |⃗x, ⃗y ⟩ = ⟨δij ω
˜i ⊗ ω
˜ j |xl⃗el , y m⃗em ⟩
= δij xl y m ⟨˜
ωi ⊗ ω
˜ j |⃗el , ⃗em ⟩
= δij xl y m ⟨˜
ω i |⃗el ⟩⟨˜
ω j |⃗em ⟩
j
= δij xl y m δli δm
= δij xi y j
(1.37)
となり, これは通常我々が内積と呼んでいるものである. すなわち, 2つのベクトルの内積は, メトリックのそ
れらのベクトル上での値として定義される. メトリックは対称テンソルであることに注意する.
⃗x · ⃗y ≡ ⟨g |⃗x, ⃗y ⟩
(1.38)
ここまでは, ベクトルと 1 形式の間に何の関係もなかった. メトリックが定義されたことにより, 共役関係
が導入され, ベクトルと 1 形式の間に一意的な対応関係が定められる. メトリックにベクトルを 1 つだけ作用
させると
⟨g |⃗x, •⟩ = ⟨gij ω
˜i ⊗ ω
˜ j |xk⃗ek , •⟩ = gij xi ω
˜j
(1.39)
ここに, • はスロットを空けておくことを意味している. このとき, 上式は1つのベクトル ⃗
y に作用して数
⟨g |⃗x, ⃗y ⟩ = ⃗x · ⃗y を作り出す線形汎関数, すなわち 1 形式と見ることができる. そこで, これを x
˜ = xj ω
˜ j と書
くことにする. すなわち xi = gij xj . メトリックによって添字が “下げ” られたのである. ベクトルと 1 形式の
成分を, 添字の位置だけで区別したことに注意する. このようにメトリックは添字を “上げ下げ” する作用を持
つものと考えることができる. 1 形式 x
˜ とベクトル ⃗y の縮約を計算すると,
⟨˜
x|⃗y ⟩ = ⟨g |⃗x, ⃗y ⟩ = ⃗x · ⃗y
(1.40)
すなわち, x
˜(⃗y ) = ⃗x · ⃗y . この関係でもって, 1 形式 x
˜ はベクトル ⃗x の共役な 1 形式であるという. 基底ベクト
ルの共役1形式を考える.
⟨g |⃗ek , •⟩ = ⟨gij ω
˜i ⊗ ω
˜ j |⃗ek , •⟩ = gij ω
˜ j ⟨˜
ω i |⃗ek ⟩ = gij ω
˜ j δki = gkj ω
˜j
(1.41)
この式で, gik ω
˜k = ω
˜ i と添字を “下” げてはならない. 基底1形式は上付きの添字をとるものであり, このよう
な添字の上げ下げは間違いである. ここでのメトリックの定義は, そのデカルト座標での成分が δij であるも
のであった. したがって,
gkj ω
˜ j = δkj ω
˜j = ω
˜k
(1.42)
また, 一般にベクトル ⃗
x = xi⃗ei の共役1形式の成分は
vi = gij v j = δij v j = v i
*3
(1.43)
成分がこのようになる基底 (座標系) が存在することを前提としている. この種のメトリックを時にユークリッド・メトリックとい
う.
7
したがって, 次のことが結論づけられる. k 番目の基底ベクトル ⃗ej の共役1形式は, 単に同じく k 番目の基底
1形式 ω
˜ j に過ぎない. また, 共役関係にある ⃗v と v˜ の成分の関係は, vi = v i である. したがって, 単に成分だ
けを見るならば, ベクトルと1形式は同じである. このように内積によってベクトルと1形式の間に1対1の
対応関係を定めると, 多くの部分でベクトルと1形式を同一視できるようになる.
ここで宿題にしていた, 次の命題の証明を考えよう:正規直交基底に対して, 成分と基底の変換行列は直交行
列になる. 基底ベクトルの変換則 ⃗ei = Rj i⃗ej から,⃗ei の j 成分は (⃗ei )j = ⟨˜
ω j |⃗ei ⟩ = Rj i と計算できる. 一方,
基底 1 形式の変換則 ω
˜ i = Sij ω
˜ j から, ω
˜ i の j 成分は (˜
ω i )j = ⟨˜
ω i |⃗ej ⟩ である. ここで, 共役関係 ⟨g |⃗ei , •⟩ = ω
˜i
を用いると,
Rj i = ⟨˜
ω j |⃗ei ⟩ = ⟨g |⃗ej , ⃗ei ⟩ = ⟨g |⃗ei , ⃗ej ⟩ = ⟨˜
ω i |⃗ej ⟩ = S i j
(1.44)
S = RT または R−1 = RT
(1.45)
添字を用いない記法では
このような, 転置が逆行列になるという性質を持つ行列は直交行列である.
2 微分形式
8
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