XPS・FWHM と TEM・SAED を用いたカーボン構造解析

XPS・FWHM と TEM・SAED を用いたカーボン構造解析
中村昇二
三重大学工学研究科技術部
1. はじめに
著者は、平成 23 年信州大学機器分析技術研究会にて「XPS からグラファイト・アモルファスカーボンをみる」という
テーマ(依頼分析)で発表をおこなった 1)。その依頼研究室から、再びアモルファスカーボンである裏付けをして欲し
いとの相談が寄せられた。一般的に、カーボン構造の評価は、XPS(X 線光電子分光法)の他にレーザーラマン分光で可
能とされているが、そのレーザーラマン分光が本学には設置されていない。また、XRD(粉末 X 線回折)でも可能である
が、サンプルが超薄膜であることから測定困難と判断した。そこで、今回は TEM(透過型電子顕微鏡)での SAED(制限
視野回折)をもちいてカーボン構造の裏付けが可能ではないかと考え試みた。
2. カーボン構造
一般的にカーボン材料は、原子間の結合形態によって多様な構造を構築している。その大きな特徴として、グラファ
イト結合をもつ層状構造は炭素原子から3本手を伸ばして導電性および強い共有結合をもっている(sp2)、一方ダイヤ
モンド結合である立方晶構造は炭素原子から同じく4本の手をだし絶縁性を示す(sp3)
。また、前記二種が混在した構
造をもち、固体潤滑性、耐摩耗性、化学的安定性、低ヤング率、絶縁体等々の特徴を示すアモルファスカーボンとよば
れるものも存在する 2)。
3.XPS・FWHM と TEM・SAED
XPS は、電磁波である X 線を固体表面に照射することにより励起し極表面から放出される電子のエネルギーを分析す
るものである。エネルギー範囲の電子は固体との相互作用が強く、スペクトル上でピークとして観測され、固体表面に
関わる情報等を得られ 3)、同時にそのスペクトルが示す FWHM(半値全幅)は結晶構造状態を示す傾向があるとされる。
一方、TEM とは高速の電子が固体物質に衝突するとき種々の相互作用が生じ、二次的に散乱透過された電子あるいは
干渉波を拡大して結像されたものを観察する。前記像を結像する対物レンズの後方焦点には常に電子回折像が生じてお
り、この面が中間レンズ物面になるようフォーカスさせたものが回折像となり試料結晶に由来する種々の情報が含まれ
る 4)。
4. 試料作製と測定観察
本テーマの依頼研究室の試料は、SKD11 材上にある条件のもとカーボン蒸着を施し
たものである。XPS・FWHM に供する試料は、同じ SKD11 材上に銅メッシュをカーボン
テープで貼付け同条件にてカーボン蒸着をおこなった。一方、TEM・SAED の試料は、
前記作製試料の銅メッシュのみ剥がし制限視野回折をおこなった。図1にカーボン蒸
着後の試料を示す。尚、観察測定に用いた機器は TEM(H-500/hitachi)と XPS
(Quantera/phi)、各々の条件は TEM(75Kv、25uA)
、XPS(100u25W15Kv)とした。図
Fig.1 sample
2、3に機器本体の写真を示す。
5.結果と考察
図4に今回の観察測定結果を示す。XPS のスペクトル結果から、依頼サンプルである sample/SKD11 の FWHM とグラフ
ァイト構造をもつカーボン棒の FWHM は明らかに違いが現われている。また、図1左側の TEM メッシュを貼付けた SKD11
直上のスペクトルである V.D.film/SKD11 と同上の TEM メッシュ直上のスペクトルである V.D.film/TEM_mesh/SKD11 の
FWHM が依頼サンプルと同等である。一方、TEM・SAED をみてみるとグラファイト構造であるカーボン棒の SAED は標準グ
ラファイトおよび標準金単結晶から多結晶であることがわかり、依頼サンプルである V.D.film/TEM_mesh/SKD11 の SAED
は非結晶であることが推測される。
6.おわりに
今回の依頼解析には、少なからず時間を費や
したが予想通りのまた納得のいく結果を導けた
と思っている。ただ、幸運なことに依頼サンプ
ルのカーボン膜作製条件に熱等を加える工程が
無かったことが SAED を進める上において問題
がうまれなかった。もし、加熱工程等があった
場合、TEM メッシュに何らかの工夫が必要であ
Fig.2 TEM(HITACHI/H-500)
Fig.3 XPS(U. Ltd/Quantera)
ることは記すまでもない。
また、本測定観察に用いた機器である TEM は 1979 年設置、XPS は 2010 年設置である。この新旧両機のコラボで今回
の業務を遂行できたことは、改めて今日まで継続してきた機器メンテナンス等の賜物であり同時に技術職員として何か
しら誇らしさを憶えるものであった。
最後に、時間を惜しまず TEM 用の蒸着膜サンプルを作製して頂いた依頼研究室の方々に感謝する。
V.D.film/SKD11
sample/SKD11
carbon rod
std.graphite
No spectrum
V.D.film/TEM_mesh/SKD11
No photo
Fig.4 results of measurement and photo
参考文献
1) 平成 23 年信州大学機器分析技術研究会報告集 2011 年
2) 新総括化学 野村祐次郎著
数研出版株式会社
1993 年
X 線光電子分光法 日本表面科学会編 丸善株式会社
1998 年
4) 透過型電子顕微鏡 日本表面科学会編 丸善株式会社
1999 年
3)
std.Au single crystal
No spectrum