豊田高専におけるロボットコンテストを利用した創造性教育

豊田高専におけるロボットコンテストを利用した創造性教育
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○渡辺 正人1,杉浦 藤虎
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豊田工業高等専門学校 技術部 技術専門員
豊田工業高等専門学校 電気・電子システム工学科教授
豊田高専電気・電子システム工学科でこれまで行ってきた,ロボットコンテストを利用した創造性教育に関する取り組みを
紹介する。20年前の高専ロボコン取り組み当初,学生の創造力が乏しいことを実感し,創造性に関する調査を行った。その
結果,思考方法の稚拙さに問題があることがわかった。そこで学生の思考形態の改革と洗練を図ることを目的に,KJ法,
TRIZ法など,創造力開発に効果的といわれる手法の導入を試みた。そして,S-A創造性テストおよびYGテストを使用して,
創造性を定量的かつ多面的に計測,評価した。さらに組織力向上のため,プロジェクトマネジメントを導入し,組織運用能
力などの効果を調査した。その結果,導入した様々な手法は創造性を育成する上で極めて効果的であった。そして,創造
性教育には教職員(指導者)に対しても周到な準備や心構えが求められることを理解するに至った。すなわち,(1)学生が
興味を抱くようなおもしろい課題の提示,(2)思考および発展手法の整備,(3)先入観を持たない,創造性に関する懐の深い
理解などである。本論文では上記の調査結果を踏まえて,豊田高専で取り組んできたロボットコンテストを通した創造性教
育の指導の在り方について述べる。
Key Words:ロボットコンテスト,S-A創造性テスト,YGテスト,プロジェクトマネジメント
1. はじめに
豊田高専電気・電子システム工学科(以下E科と略す)は,高専アイディア対決ロボットコンテストに1989年から,そしてロボカップ
サッカー小型リーグに2002年から参加している。それらロボット競技で収めた優秀な成績はロボットコンテストを利用した創造性教
育の結果と自負している。従来の我々の創造性教育の中で,指導のポイントは技術力から創造力へ,そして組織力へと変遷した。
20年前の取り組み当初,学生の創造力が乏しいことを実感し,創造性に関する調査を行った。その結果,思考方法の稚拙さに問
題があることがわかった。そこでKJ法,TRIZ法など,創造力開発に効果的といわれる手法を適用することで思考形態の改革と洗練
を図ることを試みてきた。そして,S-A創造性テストおよびYGテストを使用して,創造性を定量的かつ多面的に計測,評価した。さら
に組織力向上のため,プロジェクトマネジメントを導入し,組織運用能力などの効果を調査した。本稿では以上の調査結果を踏ま
えて,ロボットコンテストを通した創造性教育の指導の在り方について一提案する。
2.
ロボットコンテストについて
(1)高専ロボットコンテスト
ロボットコンテストの意義は東工大名誉教授森政弘先生によれば「人間としての教育」,「創造性の開発」,「物作り」にある1)。この
ような主旨で1988年第1回高専ロボットコンテストが開催された。本校は2011年までの出場23回のうち,全国大会へは19度出場し
ている。これまで大賞,優勝,アイディア賞,デザイン賞,技術賞,デザイン賞、アイディア倒れ賞2回,特別賞2回などを受賞した。
(2)ロボカップ
ロボカップはロボット工学と人工知能の融合および発展のために自律移動型ロボットによるサッカーを題材として日本の研究者
によって提唱された競技である。数あるロボットコンテストの中でも最高難易度の大会として知られる。1997年から世界大会が行わ
れるようになり,日米欧各チームが上位入賞を目指して競い合っている。現在では「ロボカップサッカー」のほか,大規模災害現場
でのロボットの実用を目標とする,ロボットによる人命救助活動を競う「ロボカップレスキュー」,次世代の技術の担い手を育てる目
的で小中高校生が参加する「ロボカップジュニア」などのリーグが組織されている2)。我々は,2002年よりロボカップジャパンオープ
ン小型リーグ(車輪部門)に,2009年より同(人型部門)に参加し,車輪部門では2010年から2連覇,人型部門で2009年より3連覇を
達成している。また2004年からは8年連続で世界大会同リーグに参加し,2010,11年と連続して4位に入賞している。
3.
創造性教育における指導点の変遷
これまで本校で行った創造性教育の中で特に重点的に取り組んだ事例について紹介する。
(1) 技術差を克服するために(1989-1993)
ロボコン創成期には他高専との技術レベルの差(見劣りするロボットの貧弱さ)を感じ,忸怩たる思いに駆られた。これは,我々
がE科母体のチームゆえに機械的知識(材料,構造,設計)や加工技術の欠如に原因があった。そこで機械技術を実習工場の技
術職員に依頼し,指導を受けた。積み重ねた技術は担当した学生個人に帰属するため伝承されにくいという課題もあったが,1992
年より技術伝承資料として,ロボコンマニュアルを作成することで解決した。このマニュアルは技術や組織についてのノウハウやデ
ータを後輩に伝承するためのもので,作成当初は機械工作,電子回路,ソフトウェア,製作過程,感想を含めた60頁程度のもので
あったが,近年ではアイディアの捻出方法,プロジェクトマネジメント,安全対策等も含めた200頁超の大作となっている。
(2) アイディアを創出するために(1994-1998)
他高専の高い技術力に対抗するためにはアイディアで勝負するしかないと考えた。そのため,アイディアの捻出,選定には時間
をかけた。しかし,学生から公募したアイディアは稚拙で夢のないものばかりであった。そこで学生に,アイディア捻出に関する質問
をしたところ,ほとんどの学生は多くの時間を費やし考えたと回答した。一方,どのようにアイディアを捻出したのかとの問いには「自
分で考える」,「友達に相談する」といった思考形態が目立った。これでは期待する発想は生まれないと直感した。
表1 画像パーツの仕様
動画
MPEG1 160×120ドット フルカラー
200K~500KB(再生時間5秒前後) 総数100
点
静止画
GIF 320×240ドット フルカラー 50KB 総数140
点
分類種目
打つ,つかむ,取り込む,持ち上げる,足周り,
サーボ使用方法,伸縮機構,制御回路,素
材,その他
図1 パーツマニュアルメニュー画面
そこで,1997年に思考形態の改革と洗練を試みるため,ロボコンマニュアルに「創造性に関する本を1冊読み,その要旨を提出
すること」の項目を追加した。彼らの要旨を総合すると,「創造とは現象を項目ごとに細分化し,これを再構成すること」であった。そ
こでロボットを細分化し,パーツマニュアルを作成させることにした。このマニュアルでは,NHKで放映された高専ロボコンのビデオ
(1994年分~)を分析し,各ロボットを機能ごとに分解した。機能は,打つ,投げる,つかむ,取り込む,移動方法などである。ロボッ
トの機能を文章で表現することは難しいため,具体的イメージの理解の補助として,動画も採用した。この動画はインターネット上で
の検索を容易にするため,1つのファイル容量を最大500KB以下のMPEG1形式圧縮画像を採用した。データベースメニューを図1
に,仕様を表1に示す。
3. 創造性開発に向けて(1999-2002)
創造性は一部の天才に備わったものだとされていたのを,普通の人を対象として研究を行い始めたのが南カリフォルニア大学
のGilfordであった3)。Gilfordは知的能力を知性の3次元構造モデルにまとめ,そこに約150の知的因子(認知,記憶,拡散的思考な
ど)を想定し,その一つ一つを,因子分析法を使用して実証,解明しようとした。このうち創造性に当たるものは拡散的思考に関連
する一群の因子として説明されている。Gilfordの研究をさらに押し進めたのがジョージア大学のTorranceである。彼は創造性を言
語と図形からなる,拡散的思考と問題解決を含むものとして研究を行ない,テストを開発した。一方,そのテストの問題点は,テスト
の得点が知能と非常に高い相関を持つ,単一の創造的思考を測っているものなのか,それとも雑多な諸能力の合算値(これが
我々の望む拡散的思考力)を生み出したものなのか,を区別し,検討することが必要になるという点である。また一般に,創造性の
妥当性を外的基準によって検証することは難しく,各種テストの創造性の評価は,その分野の専門家の主観的評価に委ねられ,
創造性に対しては何の定義も与えられていないのが現状である。さらに,このテストの再テストの確度は70%にすぎず,創造性開
発の進捗状況を図る尺度としては不十分かもしれない。しかし,1998年高専ロボコンで優勝した際,試験的にS-A創造性テストを使
用して定量的な計測を試みた。その結果,実際のテスト高得点者とアイディアの独創性には強い相関があることが見て取れた。ま
た能力を発揮できずにいる学生がいることも示された。以下では創造性の評価として利用したテストとアイディア捻出方法について
述べる。
(1) 創造性テスト
S-A創造性検査C版はTorrance方式を参考にしている。テストa,b,cは,それぞれ創造活動領域の応用力,生産力,空想力の
検査に相当する。またテストごとに,創造的思考の特徴である,流暢性(Fluency),柔軟性(fleXibility),独創性(Originality),具体
性(Elaboration)を評価している。
テストは2000年にE科1年生42名および高専ロボコン3年間以
上の参加者11名の合計53名に対して行った。Ta(応用力),Tb
(生産力),Tc(空想力),F(思考の速さ),X(思考の広さ),O
(思考の独自さ),E(思考の深さ)について,高専生53名分の平
均値を項目ごとに求め,ロボコン参加学生との比較を行った。図
2に結果の一例を示す。ロボコン参加学生A,Bの傾向は平均値
と比べ,生産力,空想力の項目で判断値は約0.6高く,また思考
の深さのそれは1.5以上も高い値となった。この事実は,ロボコン
参加学生は思いつきにとどまらず,思慮深く,細部まで考えて表
現できる,完結性の高い思考特性をもつことを示している。
図2 高専E科学生の創造性テストの結果例
(2) KJ法およびTRIZ
上記テストの結果から,創造性は思考の速さおよび広さを訓練することで伸びると予想し,KJ法をアイディア捻出の基本手法とし
て採用した。KJ法とは川喜田二郎氏(東京工業大学名誉教授)がデータをまとめるために考案した手法である。すなわち,4人を1
グループとして5分間に思いつくアイディアをカードに記載し,カードをグループごとにまとめて,図解し,アイディアの元ネタにまと
めてゆく手法である。この過程を通してルールに沿った標準的なロボットを調べ,記載されたアイディアをもとにロボットの基本デザ
インを考えさせる。さらに決定した基本デザインをパーツに分解し,パーツごとに再度KJ法を行うことで実現性の高いロボットへと発
展させていく。 TRIZはロシア生まれの「発明的に問題を解決する」理論である。KJ法により基本デザインを決定した後,個々の問
題を解決する手段として参考にした。
4. 創造性と性格について(2003-)
高専ロボコンは主に機械工学向けの祭典であり,電子情報系の要素は限られる。また本校E科では基本的に1年生から3年生ま
でが高専ロボコンに携わり,4,5年生になると参加できない4)。2001年当時,高専ロボコンメンバーに優秀な学生がたくさん在籍して
おり,難易度の高いロボットコンテストに参加する気運が高まったため,ロボカップに参戦することにした。ロボカップはロボット工学
と人工知能などの複合技術が要求され,世界大会も開催されるなど,我々の目的に合致するものであった。この参加によって従来
の1~3年生までの3年間の創造性教育が全学年を通した5年間に伸び,機械工学中心から,人工知能,画像処理,制御技術,英
語(世界大会参戦に必須)と多種多様な組み合わせが可能となり,高度な創造性教育を行う素地が整った。
すでに述べたように,創造性教育の成果はS-A創造性テストで計測してきたが,知性との相関関係が強く,正確な創造性を計測
していない可能性もある。一方,これまでの経験から性格と創造性には強い相関が予測された。そこで,矢田部-Gilford性格検査
(以下YGと略す)を併用することで,多面的に創造性を計測することを試みた。その結果を踏まえて,豊田高専が目指す「オンリー
ワンかつナンバーワン」のロボット作製をどのように達成しようとしているのかも紹介する。
(1) YG性格検査
Gilfordの原版に忠実な翻訳でなく,谷田部が日本人のデー
タを解析した結果から,図3に示すように,「M 男性性」尺度を
削除した12尺度×各10項目の計120項目からなったものである。
YG検査はパーソナリティを多次元的にとらえる特性論の立場
に立脚した,簡便で信頼性の高い検査として,様々な分野で利
用されている。
図3 YG性格テスト
S-A創造性検査およびYG検査を16歳から18歳までのロボットコンテスト経験者33名に対して行った。S-A創造性検査値とYG検
査項目,および平均型,独善型,平穏型,管理者型,異色型との相関関係を調べた。その結果,ロボコン参加学生の性格は明確
なタイプとして分類できないことがわかった。極端な性格と思われる学生も各タイプの複合系が多く,特に偏った性格とはならず,
明らかな相関は得られなかった。強いて言えば,創造性と独善型に弱い正の相関(0.32)が示された。このことは,創造するために
必要な膨大なエネルギに起因するものと考えられる。
(2) YG性格検査から得た知見
特に,興味深いデータについて紹介する。我々の事前予想では,創造性の高い学生はYG検査では独善型もしくは異色型との
相関が強いと思われた。しかしYG検査において平均型の最高得点を出した学生が,S-A創造性テストで標準偏差2σの高得点を
出したのである。実際,彼は過去3年間のロボコン参加において,アイディア捻出で非常にユニークなアイディアを提示していた。こ
の学生とのカウンセリングにおいて,後天的に創造的能力の向上が図られたことがわかった。彼は次のように語った。「私の創造的
能力は低いです。しかし広範囲の知識体系に興味があり,これを活用することで高得点が得られたものと思います」と。
すでに述べたように,創造とは現象を分析して再構成することである。創造性の初期段階において,幅広い知見と公正な判断
は新たな可能性を生み出す。分析する際の広範囲な知識による多面性が,多様な因子を生み出し,多様な組み合わせを行うこと
につながるからである。一方,偏った知識は情報の質は高いが,排他的な傾向が強く,広さの面で劣ることになり,解答の方向性
が合致した場合を除き,効率的でない解答に辿り着く可能性が高い。情報処理,機械,制御知識などのバランスの取れた知識が
必要となるロボット工学分野では,個々の学生に全分野での深い専門知識を望むことは難しい。しかし,上記で得られた知見に従
えば,各分野の専門知識を持った学生を寄せ集め,かつ広い基礎知識を持つ人材を育成することで組織的に広く深い知識を得
る体制作りができることが示唆される。この方針が,「オンリーワンかつナンバーワン」ロボット作製の礎となっている。
5. プロジェクトマネジメント(2003-)
高専の独立行政法人化後,諸事情により製作時間を短縮しなければならず,効率的な製作が必須となったため,プロジェクトマ
ネジメントに重点を置いた。優れたアイディアでもロボットが完成しなければ意味が無い。本校では「動かんロボットはガラクタだ!」
を伝統にしている。ロボコンは半年間,一定の予算で数十人の学生がロボットを製作する。プロジェクトマネジメントの訓練には最
適である。高専ロボコン創成期のメンバ数が10人以下の時期には,技術的能力の優れたリーダを中心に,機械班,回路班のサブリ
ーダで組織を構成し,リーダの任務はロボットを作ることが主であった。しかし20人を超えるチームとなった現在では,リーダの職務
はロボットを作ることではなく学生をマネジメントすることに変わった。またマネージャ職を新規に作り,物品購入,書類作成等の作
業分担を行うようにした。マネージングにおいて最も重要なことはクリティカルパスを見つけ,スケジュールを予定通り進めることであ
る。予定通り進めるためには,組織の人数配分を再調整することが重要である。作業班のグループを決めるとグループ間の交流が
少なくなり,各グループで進行状況の差(遅れ)が発生することがある。ロボットの性能はパーツの完成度の乗算で決まり,パーツの
一部でも30%の完成度なら総合完成度は30%となる。このため完成度の低い班への人的補強,チーム全員よる問題点に対するア
イディア捻出などの対処が必要な場合もある。
6. ロボカップシステムの変遷
2002年から取り組んだロボカップは当初,国内4位を目指すところから始めた。当時3位以上のチームは非常にレベルが高く,と
ても手が届く気はしなかったが,なんとかなると感じていた。資金もなく,使われないパソコン,壊れたビデオカメラなど,ジャンク品
の寄せ集めから始めた。幸い,優秀な学生4人の努力によって,全方向移動可能な,当時最新の機能であったドリブル,キック機
能を備えたロボットを短期間で完成させ,他チームから賛辞を頂いた。そのロボットは図4に示すような,木製のフレームを有し,オ
ムニホイルが購入できなかったため,代わりにギヤを削りだして作製したギヤホイルを搭載するなど独創性の塊であった。
図4 初代木製ロボット(左)とギヤホイル(右)
図5 メカナムホイル
参加わずか2年目の2004年ジャパンオープン小型リーグ後期日程で予想外に優勝した。その後,卒業研究と 表2 2002年と2011
年ロボットの性能比較して正規に取り組みを開始し,6輪全方向移動ロボット,図5に示すメカナムホイルの作製など独創的なロボッ
トを作り続け,世界大会にも参加するようになった。しかし,独創的であることと勝敗は別であり,成績は低迷を続けた。2006年世界
大会に参加した際,他チームのロボットを分析,参考にして12Wブラシモータを搭載したロボットを新設計した。2006年世界大会初
勝利後,改良を続けながら,ベスト12,8と着実に成績を上げてきた。2010年30Wブラシレスモータ搭載の新設計ロボットを投入し,
最高位の4位となり,現在に至っている。以下,2011年現在のシステムの性能(仕様)を紹介する。参考のため,表2に2002年当時と
の性能比較を示す。
表2 2002年と2011年ロボットの性能比較
システム
ロボット
AI
画像
ビデオカメラ
(1) SSL(Small Size League)システム
機能
2002バージョン
2011バージョン
最高速度
0.5m/s
2m/s
モータ
DCブラシ
DCブラシレス30W
フィールドの上空に取り付けられた2台のカメラ情報をもとに自
駆動車輪
ギヤホイル
リングホイル
律移動型ロボットがサッカーを行う,ロボカップの中で唯一グロ
駆動方式
3輪全方向移動
4輪全方向移動
ーバルヴィジョンシステムを使用するリーグである。オレンジ色
CPU
PIC16F873
SH2A
のゴルフボールと,1チ-ム5台以内のロボットを使用して試合
LiPo 14.8V 2250mA
が行われる。カメラからの画像は画像サーバによって位置情報
電圧
NiCd 1000mA×10本
30C
に変換される。この位置情報をAIサーバが受け取り,戦略を決
キック速度 2m/s
10m/s
定し,無線機を介してロボットへデータを送る。この一連の動作
通信速度
2400bps
19600bps
装備機構
ドリブル
ドリブル,チップ
COM
Pentium4 2.8GHz
Corei7 64bit
ロボカップ小型リーグは,図6に示すように,約6m×4mの競技
を繰り返すことで試合を行う。
(2) 画像システム
画像システムはカーネギーメロン大学が開発したSSLビジョン
COM
Pentium4 2.8GHz
Core2Extreme X9650
画素数
320×240
640×480
FPS
30(インターレース)
60(プログレッシブ)
ソフトを全チームが共有する。画像サーバはカメラからロボット
やボールの位置を認識し,位置座標をネットワーク配信により
AIサーバに送る。
(3) ロボット
ロボットは4つの30Wブラシレスモータ(maxon EC45 flat)を4個の
Vision server
Overhead-view camera
タイヤそれぞれに使用している。タイヤは図に示されるように,大
車輪の周りに小車輪20個が組み合わされ,全方向移動が可能に
Artificial
Intelligent server
なっている。また,2種類のキック機構を備え,ゴルフボールを直
線的に蹴るストレートキックとループ状に蹴り上げるチップキックが
Wireless
communication
system
5.2m
できる。キックは電磁ソレノイドにより行われ,200Vで充電されたキ
ャパシタで駆動させる。これによりシュート時のボールスピードは
Robots
最大で10m/sに達する。チップキックの飛距離は3mである。メイン
playing field
6.6m
CPUにはSH2Aを,通信にはZigBeeを使用しているドリブルデバイ
スはボールの保持および,受け取る機構で,衝撃吸収機構とロー
図6 SSLシステム
ラーで構成されている。ボールをロボット本体に引きつけるようロー
ラーを 高速に回転させ保持する。
(4) 戦略システム
戦略(AI)システムの構成を図7に示す。Situation Analysis,Strategy,Formation,Actionと
呼ぶ4つの階層から成っており,最上階層のSituation Analysisでは審判の指示やロボットの位
置関係などから試合状況の分析を行う。2番目の階層のStrategyでは上位階層での分析結果
を受けて最適なFormationを選択する。例えば,分析結果が「自チームのIndirect FreeKick」で
あれば,そのための間接フリーキック用のFormationを,「守りを固める必要がある」という結であ
ればディフェンス用のFormationを選択する。
図7 AIシステム構成
このStrategyはFormationの組み合わせにより作られているため容
易にいくつものパターンをつくることができる。選択されたFormation
はそれぞれのロボットがどのActionを担うか決める。重要度の高い
Actionからどのロボットが最適であるかを判断し,決定する。Action
はFormationで決定されたロボットが実際にどのような動きをするのか
指示する。例えば,Defenseであればペナルティエリアの外側で壁と
なるような配置につく。以上,現在のロボカップシステムについて概
要を述べた。現時点で世界トップクラスのチームの仲間入りを果たし
たが,一方で,参加初期と比べ,ダイナミックな独創性が少なくなっ
たと感じる。更に上位を目指すには真の独創性が必要であり,その
点についてはこれまで述べた手法で克服し,構想を実現したいと考
えている。
7. 創造性教育実施にあたっての要点
豊田高専E科が行ってきた創造性教育の要点をまとめると,(1)おもしろい課題の提示,(2)思考および発展手法の整備,(3)指導
者の創造性に関する理解,(4)倫理,である。その理由は,(1)創造性の開発,向上には乾いた雑巾を更に絞り,一滴のしずくを出
すが如く,深く考えることが求められる。そのためには面白くなければ難しい。(2)「良いアイディアを出して下さい」などと方法論も無
く求めても無理である。KJ法,ブレインストーミング,TRIZ等の思考方法を洗練させる技術,資料,環境を整えることが重要である。
(3)「真の独創性とは次世代のスタンダードを作ることである」ことを学生に理解させる必要がある。また指導者は「創造性に優れて
いる学生は情緒不安定で非活動的,芸術,技術的な才能に対して特徴を持つ」ことを認識する必要がある。やや表現に語弊はあ
るが,人望が薄く,独善的で自己表現の下手な学生の中に創造的なアイディアが埋もれていることが多々ある。これを発掘するに
は指導者が意識してそういう雰囲気(組織)を作らなければならない。(4)純粋なアイディアには倫理的問題を含むものもあり,否と
答える場合も少なくない。我々の倫理は抽象的ではあるが,「おもしろきことも無きこの世をおもしろく」という意味で,人が見向きも
しないところに焦点を当てることにある。
8. おわりに
長年,豊田高専電気・電子システム工学科で行ってきた,ロボコンを利用した創造性教育に関する取り組みを紹介した。創造性
教育の観点から一貫して独創的なアイディアを採用し続けてきた結果,高専ロボコン全国大会の入賞率は約30%である。S-A創造
性テストの独創性は全アイディア数の5%以下のアイディアを評価するとされるが,入賞と独創性がリンクすると仮定すれば,本校
は6倍の成果を出していることになる。しかし良いアイディアが出ない確率(全国大会で入賞できない割合)の方が高く,創造性教
育の別の一面はこのリスク対応にある。本当に良いアイディア30%はSimpleである。しかし残りの70%の独創的なアイディアは完成
させる事は難しい。当初のアイディアとは似ても似つかないものになることもあるが,ロボットを最後まで動かすことはロボコン関係者
にとって最低限のノルマと考えている。製作者にとっては半年間の成果を披露し,応援者や観客にとってはその努力を知り,結果
に期待したいからである。ここにプロジェクトマネジメントの真の重要性があり,この精神が高専ロボコン全国大会出場率80%に表
れていると言っても過言ではない。
謝辞:最後に,無理難題を克服してくれた歴代ロボコン参加学生の奮闘努力に敬意を表す。また歴代の豊田高専校長,電気・電
子システム工学科教員,もの作りセンター技術職員,同窓会,後援会,その他多くの方々のご支援,ご声援,ご厚意により運営され
てき たこと に厚く御 礼申し上 げる 。なお ,本研 究の 一部は文部 科学省 科学研 究費補 助金 (基 盤(C)20500766および 基盤
(C)23501043)の助成を受けて行われた。
参考文献
1)
森政弘:ロボットコンテストの意義と願い,日本ロボット学会誌,Vol.15,No.1 (1997)p.2.
2)
高橋友一,秋田純一,渡辺正人:小型ロボットの基礎技術と製作 共立出版 (2003)
3)
恩田彰,佐藤三郎:創造的能力 東京心理 (1978) pp.3-21.
4)
杉浦藤虎,伊藤和晃,渡辺正人:高専の技術者育成におけるロボコンおよびロボカップ参加の現状とその役割,工学教育
Vol.53,no.5 (2005) pp.71-76