パーソントリップ調査結果を活用した移動困難者の評価手法に関する提案

パーソントリップ調査結果を活用した移動困難者の評価手法に関する提案
A Proposal of Evaluation Method for People with Mobility Difficulties using the Person Trip Survey Results
小林 寛*・平田 晋一**
Hiroshi Kobayashi* and Shinichi Hirata**
Japan is one of the nations that face rapid population decrease and ageing with fewer children. In particular, rural
areas are expected to encounter challenges in daily travel such as decline of public transport services, the increasing
elderly population with driving difficulties, etc.
This study first identified areas with difficulties and inconvenience with public transport modes in daily lives.
Second, it identified populations with difficulties and inconvenience in daily travel using the public transport modes
and cars. Then, it proposed a concept for evaluation and extraction of identified areas and populations, and evaluated
those nationwide. Finally, it proposed a forecast method taking into account of changes in public transport service
levels caused by forthcoming ageing and population decrease. Through nationwide evaluation using the proposed
method, authors gained insights about transport environment of daily travels including future outlook.
Keywords: areas with difficulties in public transport use, people with mobility difficulties, person trip
公共交通利用困難地域, 移動困難者, パーソントリップ
1.はじめに
人口減少、少子高齢化社会を迎える我が国にとって、特
に地方部では公共交通サービスの衰退や高齢のため自動車
の運転が困難になる方の増加等により日常生活を営む上で
の移動について大きな課題となることが予想される。平成
24年6月に出された社会資本整備審議会道路分科会建議中
間取りまとめにおいても、
「人口減少の著しい地域において、
地方鉄道の廃線やバス路線の減少が進行しており、自動車
を運転できない者の利便性の観点から課題がある。また、
都市の郊外部においても、今後、自動車を運転できない高
齢者の増加により、大量の買物難民・通院難民等の移動困
難者が生じるおそれが指摘されている。
」
といったことが示
されている。
そこで、本研究では、人の移動、特に日常生活で必要と
なる交通を対象に、
公共交通利用困難もしくは不便な地域、
さらに自動車での移動を含めて移動自体が困難もしくは不
便な者を定義するとともに、それらを評価・抽出するため
の考え方の提案及び試算を行った。さらに、今後の高齢化
や人口減少に伴う公共交通サービスレベルの変化を考慮し
た将来推計についても試算を行った。
本研究における移動困難者および移動不便者の考え方の
定義を図-1 に示す。公共交通(鉄道及びバス)と自動車の
利用環境を考慮したもので、具体的には、公共交通利用困
難地域または公共交通利用不便地域に居住し、日常的な自
動車利用が制約されている者をそれぞれ移動困難者・移動
不便者と定義した。なお、公共交通利用困難地域について
は、最寄りの鉄道駅及びバス停が日常利用できないほど遠
い地域とした。また、公共交通利用不便地域については、
最寄りの鉄道駅及びバス停が遠いため、日常的に利用しづ
らい(利用する気になれない)地域、もしくは近くに駅や
バス停があったとしても運行本数が少なく日常的に利用し
づらい地域とした。こうした公共交通の利用状況の判断基
準については、後述するが、地域の特性や年齢、移動目的
を考慮し分析した結果を用いていたものとなっている。
本研究で検討する「移動困難(不便)者」とは、移動し
たくても移動する交通手段がない、もしくは利便性が非常
に悪いといった状況にある者を、
パーソントリップ調査
(以
下、PT 調査)の結果(トリップの量)等より推計するもの
である。特に、公共交通の利用が不便な地域の検討にあた
っては、当該交通手段を活用するトリップが少ないといっ
た事実(PT 調査結果)に着目し、当該交通手段が利用し
にくい、つまり当該交通手段を活用した移動が困難または
不便であるといった論理に基づき移動困難(不便)者を評
価するものとなっている。これは、公共交通利用環境(距
離や運行本数)の条件が厳しくなると、当該交通手段分担
率やトリップ数が減少する関係等を示した既往研究 1)の成
果とも合致するものである。
また、PT 調査結果を移動困難(不便)者の判別の根拠と
しているため、例えば、移動が容易であるにもかかわらず
最寄りバス停まで
のアクセス距離
公共交通利用
困難地域
高齢者(75歳以上)
免許無
世帯で自動車非保有
バス停
最寄りバス停の
運行本数
移動困難者
バス停
最寄り駅の
運行本数
公共交通利用
不便地域
バス停
駅
最寄り駅までの
アクセス距離
移動不便者
高齢者(75歳以上)
免許無
世帯で自動車非保有
図-1 移動困難者および移動不便者の考え方の定義
* 正会員 国土交通省国土技術政策総合研究所道路研究室(National Institute for Land and Infrastructure Management, MLIT)
** 正会員 一般財団法人計量計画研究所都市・地域計画研究室(The Institute of Behavioral Sciences)
表-1 公共交通空白(不便)地域の設定の例
公共交通空白地域
計画等
鉄道駅
までの距離
(都市)
国土 地域公共交通づくり 500m~
交通省 ハンドブック/H21.3
(地方)
1000m~
地域公共交通総合
北広島市
1000m~
連携計画案/H23.4
500m~
地域公共交通総合
土浦市
連携計画/H22.1
1000m~
第 2 次都 市計 画マ
宇都宮市
スタープラン/H22.4
1500m~
250m~
公共交通空白地域
練馬区
改善計画/H21.3
800m~
300m~
(2本/時~)
地域公共交通総合
連携計画/H21.3
700m~
300m~
地域公共交通総合
秦野市
連携計画/H22.11
700m~
300m~
八王子市
西宮市
地域公共交通総合
連携計画/H23.6
500m~
300m~
公共交通空白地等
及び移動制約者に
福岡市 係る生活交通の確
保に関する条 例案
/H22.12
1000m~
1000m~
生活交通ネットワー
ク計画/H24.3
300m~
~1本/時
(~300m)
500m~
公共交通を中心とし
姫路市 た姫路市総合交通
計画/H21.4
日出町
公共交通不便地域
バス停
鉄道駅
バス停
バス停
までの距離 までの距離 までの距離 の運行本数
(都市)
300m~
(地方)
500m~
300m~
~15本/日
(片道)
~15本/日
(往復)
1000m~
500m~
500m~
個人の意思決定の結果として移動しない者を移動困難(不
便)者から除外することは不可能である。本研究では移動
困難者を個別に特定することではなく、地域単位でその割
合をマクロ的に把握することを目的としているため、上記
に示したような PT 調査で判別困難な特性を持つ者は、一
定少数存在するとしても地域によらず一律とみなし、分析
を行った。
に、国交省のハンドブックにおける目安値(アクセス距離)
の記載のほか、各自治体の条例及び地域公共交通総合連携
計画等に地域に応じた値(アクセス距離や運行本数)をそ
れぞれ定めている。また、木澤ら 3)は、鉄道での移動しや
すさを含む活動パターン別に人々が「歩いて行きやすい」
と感じる確率を算出し、それらを積み上げることで総合的
な徒歩アクセシビリティの評価を行っている。
このように、
鉄道またはバスそれぞれについて、アクセス性や運行頻度
等のサービス水準と移動しやすさの関係を分析した研究は
あるものの、公共交通利便性と自動車利用可能性について
総合的に評価し、全国ベースで移動困難(不便)者数の実
態や将来動向について分析した既往研究はない。
そこで、本研究では、移動困難者及び移動不便者を定義
するとともに、既往研究における課題に対し全国ベースで
移動困難
(不便)
者を抽出する考え方や判断基準について、
PT 調査結果等より提案を行う。具体的には、東京 PT 調査
や平成 22 年全国都市交通特性調査(以下、全国 PT 調査)
、
国土数値情報等を活用し、鉄道駅・バス停までのアクセス
距離及び運行本数といった公共交通のサービス状況とトリ
ップ数の実態を比較し、公共交通利用困難(不便)地域を
抽出するための考え方を整理するとともに、自動車免許・
世帯自動車保有率や年齢等を考慮し移動困難(不便)者を
抽出する。
3.公共交通利用困難地域、不便地域の抽出
3-1 分析に用いたデータと考え方
分析については、それぞれ a)鉄道駅へのアクセス距離、
b)鉄道運行本数、c)バス停へのアクセス距離、d)バス運行本
2.本研究の特徴
数を用いた。アクセス距離については、住区の偏りを考慮
著者の既往研究 1)において、鉄道駅及びバス停へのアク
し面積重心ではなく PT 調査ゾーン(東京 PT 調査は小ゾー
セス距離や運行本数といった公共交通の利用環境や、自動
ン、全国 PT 調査は調査区)の人口重心から最寄りの駅ま
車の保有状況、自動車免許の取得状況、年齢といった自動
たはバス停までの距離とした。人口重心は、2 分の 1 地域
車利用環境と、東京都市圏 PT 調査(以下、東京 PT 調査)
メッシュデータの人口(平成 22 年国勢調査)4)を活用し、
から算出される外出率やトリップ原単位等の交通移動実態
5)
との関係を分析することにより、移動不便者の定義設定の (1)式 を用いて PT 調査ゾーンごとに定めた。
根拠となる判断基準の検証を行っている。この研究では、
 w1 x1 cos( y1 )
x
日常的に利用する交通手段として、代表交通手段を鉄道、
 w1 cos( y1 ) x, y :人口重心の経度・緯度
(1)
x1 , y1 :各メッシュの図心の経度・緯度
バス、自動車、自宅からの端末交通手段について徒歩、自
w
y
 11
w1 :各メッシュの人口
y
転車を想定し、不便さの面から日常移動する交通手段につ
w1

いて総合的に勘案した分析を実施している。一方、ここで
鉄道駅及びバス停の位置については、国土数値情報 6)「鉄
提案した判断基準は比較的、交通サービスが充実している
東京都市圏での移動実態に基づいたものであるため、公共 道データ」
、
「バス停留所データ」のそれぞれのデータを活
交通サービス水準が東京都市圏と異なる地域での判断基準 用した。鉄道の運行本数については、PT 調査で整備された
の考え方や我が国において深刻な課題となる移動困難者の 1 日の運行本数について鉄道運行時間を 5 時~23 時で想定
抽出においては課題が残る。
し 18 時間で除し、時間あたりの本数として分析に用いた。
関連する研究としては、公共交通の利便性に着目した研 バスの運行本数については、国土数値情報における「バス
究が多い。例えば、谷本 2)は、路線バスに着目し、生活活 停留所データ」と 1 日の平均運行本数(平日)が格納され
動を保障する上で必要となる最低限のサービス水準につい ている「バスルート」の 2 種類のデータを組み合わせて設
て住民アンケート調査から導出している。なお、公共交通 定した。ただし、
「バス停留所データ」のバス停位置は、
「バ
空白地域や公共交通不便地域については、表-1 に示すよう スルート」
データのバス路線上に厳密には重なっておらず、
周辺1
周辺2
中京都市圏
中心
周辺
地方中核都市圏
(中心市40万人
以上)
中心
地方中核都市圏
(中心市人口
40万人未満)
中心
周辺
周辺
周辺
その他の市
町村部
※「中心」「周辺」とは、それ
ぞれ全国PT調査で「中心都市」
「周辺都市」として調査対象と
なった自治体群を指す
18 4 15 24 2 24 2 18 21 33 2 41 22 2 13 19 2 27 24 24 4 18 4 32 22 22 3 17 3 48 16 1 14 18 3 49 15 2 14 18 1 1 63 8 1 11 15 1 57 8 4 10 18 2 63 6 3 7 18 2 55 3 4 16 18 5 73 3 1 8 13 2 61 1 3 16 16 3 68 4 1 10 14 3 73 1 1 9 14 2 77 3 1 6 11 2 37 鉄道
バス
自動二輪
自転車
【本研究における地域区分】
1400m~
1300m~
1200m~
1100m~
900m~
1000m~
800m~
700m~
600m~
500m~
400m~
300m~
200m~
0m~
100m~
最寄バス停へのアクセス距離
6
0.30
バス原単位
t値
0.25
5
1400m~
1300m~
1200m~
1100m~
1000m~
900m~
800m~
700m~
600m~
0
500m~
1
0.00
400m~
2
0.05
300m~
3
0.10
200m~
4
0.15
0m~
0.20
最寄バス停へのアクセス距離
(2)トリップ数のパーセンタイル(累積)値から利用度合を判断
し、判断基準(閾値)を特定する手法
216/6,232
(14,256/361,911)
72/5,358
(5,732/258,961)
60/2,878
(1,535/92,542)
38/2,959
106/4,018
111/3,865
114/1,595
25/12,155
360/6,217
297/8,381
286/8,294
74/10,469
232/8,348
90/8,652
77/9,671
118/10,812
徒歩
その他
自動車
地域①
地域②
地域③
地域④
図-3 本研究で設定した地域区分
(地域区分別の代表交通手段分担率とサンプル数)
■累積値での評価のため、サンプル規模による影響が少ない
10000
9000
8000
7000
6000
5000
4000
3000
2000
1000
0
95%
88%
トリップ数
パーセンタイル値
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
最寄バス停へのアクセス距離
■「利用不便」と「利用困難」の意味合いの評価も表現可能
50
45
40
35
30
25
20
15
10
5
0
95%
85%
トリップ数
パーセンタイル値
最寄バス停へのアクセス距離
図-4 判断基準の分析方法
1
0.9
0.8
0.7
0.6
0.5
0.4
0.3
0.2
0.1
0
パーセンタイル値
中心
0
■サンプル数が少ないケースでは、特異値的に目立つ値が発生
する場合あり
バストリップ数
地方中枢
都市圏
1
0.00
0m~
100m~
200m~
300m~
400m~
500m~
600m~
700m~
800m~
900m~
1000m~
1100m~
1200m~
1300m~
1400m~
中心から30km未満
中心から30km以上
2
0.01
100%
自宅発バストリップ数/サンプル人数
()
内は東京PT調査、その他は全国PT調査
※
中心
80%
3
0.02
0m~
100m~
200m~
300m~
400m~
500m~
600m~
700m~
800m~
900m~
1000m~
1100m~
1200m~
1300m~
1400m~
周辺2
京阪神都市圏
60%
4
0.03
パーセンタイル値
中心から40km以上
40%
5
0.04
t値
周辺1
20%
6
バス原単位
t値
0.05
バストリップ数
中心から40km未満
0%
0.06
t値
東京都市圏
中心
■有意差ありと判断される閾値が複数発生する場合あり
バス原単位(
グロス)
地域区分(全国PT調査)
(1)全体を2グループ(地域)に分割し、有意差検定(t値検定)を実
施し、判断基準(閾値)を特定する手法
バス原単位(グロス)
3-2 地域の交通特性を踏まえた地域区分の設定
公共交通サービス水準の高い都市部と自動車での移動が
中心となっている地方部では、日常の交通利用特性が異な
る。本研究では、全国ベースで公共交通利用困難(不便)
地域を抽出することを想定していることから、交通特性を
踏まえて地域を区分し検討することが適切であると考える。
そこで、全国 PT 調査で設定している 10 地域区分をベース
に自宅を出発地とするトリップの代表交通手段分担率を集
計した(図-3)
。なお、東京都市圏については最もサンプル
数の多い東京 PT 調査を用い、その他の地域については全
国 PT 調査を用いて算出した。特徴として、1)三大都市圏と
地方都市圏で公共交通分担率に顕著な差が見られる、2)三
大都市圏では、東京都市圏「中心・周辺1」と京阪神「中
心」について、比較的公共交通分担率が高くかつ自動車分
担率が低い、3)中京都市圏「周辺」は、三大都市圏よりも
地方都市圏の分担率に近い、ことが分かる。これらの特性
を考慮するとともに都市圏以外の地域を区分するため、図
-3 に示す 4 地域区分に設定とすることとした。
なお、
本来、
交通特性を踏まえ、より細かい地域区分を用いて分析をす
るべきであるが、PT 調査のサンプル数を考慮し、本研究で
は 4 つの地域に区分することとした。
3-3 抽出に用いる判断基準を導くための分析手法
公共交通利用困難(不便)地域の抽出に用いる判断基準
(閾値)を設定するために、図-4 に示す 2 種類の分析手法
を試みた。具体には、既往研究 1)の成果より PT 調査データ
と公共交通の利用環境(距離、運行本数)の関係から公共
交通の利用困難(不便)地域の判断が可能と考え、分析を
行った。また、PT 調査は、一般に活用でき、かつ当該地域
を代表する交通データである。さらに、属性(地域、年齢、
目的等)の分類も容易であり、属性に応じた分析も可能と
100m~
また両データを結合する共通情報(ID 等)がないため、バ
ス停毎に 10m のバッファを設定し、そこを通過する路線を
当該バス停の路線データとして定義し運行本数を集計し
た。
なお、
本研究においては日常の移動を対象とするため、
本来高速バスを除いた運行本数とすることが望ましい。し
かしながら「バスルート」データには、高速バスを特定す
る情報が整備されていないため除去することが困難である
ことから、本研究では、運行本数が不明となっている系統
(全体の 1.2%)以外の全ての種類のバスを分析対象とした。
0
95パーセンタイル値
90パーセンタイル値
85パーセンタイル値
80パーセンタイル値
50パーセンタイル値
1
3
運行本数・両方向(本/時)
運行本数・両方向(本/時)
2
4
5
6
7
8
9
バス停アクセス
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
鉄道アクセス
0.0
0.1
0.2
0.3
0.4
0.5
0.6
0.7
0.8
0.9
1.0
1.1
1.2
1.3
1.4
1.5
1.6
1.7
1.8
1.9
2.0
2.1
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
10
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
アクセス距離(m)
2000
1900
1800
1700
1600
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
鉄道運行本数
バス運行本数
75歳未満
95パーセンタイル値
90パーセンタイル値
85パーセンタイル値
80パーセンタイル値
50パーセンタイル値
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
バス停アクセス距離(m)
2000
1900
1800
1700
1600
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
鉄道アクセス距離(m)
図-5 パーセンタイル値の地域比較
2000
1900
1800
1700
1600
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
75歳以上
75歳未満
75歳以上
図-6 パーセンタイル値の年齢(高齢)比較
通勤・通学
私事
2000
1900
1800
1700
1600
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
95パーセンタイル値
90パーセンタイル値
85パーセンタイル値
80パーセンタイル値
50パーセンタイル値
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
バス堤アクセス距離(m)
2000
1900
1800
1700
1600
1500
1400
1300
1200
1100
1000
900
800
700
600
500
400
300
200
100
0
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
地域①
地域②
地域③
地域④
全国
3-4 判断基準の設定と抽出方法
公共交通利用困難地域は、利用しやすさの物理的指標と
なる鉄道駅およびバス停までの距離に着目し、公共交通の
利用が極めて困難と想定される地域④の 95 パーセンタイ
ル値を判断基準と仮定した。
個々には、
図-6 に示すとおり、
鉄道アクセス距離については、高齢による差が顕著であっ
たため、75 歳未満と以上を区別して地域④の 95 パーセン
タイル値を判断基準とした。一方、移動目的については、
図-7 に示すとおり、通勤・通学と私事で差が見られるもの
の、相対的に公共交通利用の必要性が高い通勤・通学目的
が全目的の場合とほぼ同じ傾向であることから、移動困難
という意味を勘案し、今回は目的による区分をしないこと
とした。また、バス停アクセス距離については、高齢によ
る差が大きくはなかったため、年齢を問わず地域④の 95
パーセンタイル値を判断基準とした。
公共交通利用不便地域は、公共交通を日常的に利用しづ
らい地域としたことから、
ここでは 80 パーセンタイル値を
判断基準と仮定した。ここでも鉄道アクセス距離のみ高齢
による影響が見られることから、鉄道アクセス距離のみ高
齢による区別を行った。また、不便の意味については、全
国一律の尺度をもって不便さを評価する場合と、地域に応
じた不便さの評価、両方考えられる。そこで、全国一律基
準での評価については、
全国地域での 80 パーセンタイル値
を用い設定した。また、地域に応じた評価については、地
域ごとの特性を考慮した評価とした。具体的には、図-5 に
示すとおり、鉄道運行本数については地域①②と地域③と
地域④で差があり、それ以外のサービス水準は地域①~③
と地域④で差があるため、これらに基づき判断基準を設定
した。以上を踏まえ、公共交通利用困難地域・不便地域の
判断基準及び抽出方法を図-8 に示す。
鉄道アクセス距離(m)
なることから、これを活用することとした。
一つ目の分析手法は、既往研究 1)で用いた分担率やグロ
ス原単位をアクセス距離等ごとに集計し、利用の差が顕著
に出てくる場所を特定する手法である。今回はより客観的
に特定できるよう全体を 2 グループに分割し有意差検定を
実施した。しかし、この分析手法では、有意差ありと判断
される t 値(t>2)が多くの箇所で発生する場合があるこ
とや、サンプル数が少ないケースでは、特異値的に目立つ
トリップ・グロス原単位が発生する場合もあり、双方のケ
ースとも閾値を特定することが難しくなる場合がある。
そこで、本研究では、もう一つの手法としてトリップ数
をアクセス距離等ごとに集計し、そのパーセンタイル(累
積)値を求めることで分析を行った。これは、アクセス距
離が長くなる、運行本数が少なくなることによる当該交通
手段の利用限界をトリップ数のパーセンタイル値を用いて
表現するもので、例えば駅までのアクセス距離がある一定
距離以内で地域全体の総トリップのほとんどを占めている
等といったことが分かる。換言すると、アクセス距離が一
定距離(限界距離)を超えるとその地域では当該交通手段
を活用したトリップがほとんど見られないということが表
現される。したがって、パーセンタイル値を評価すること
で、
「利用不便」と「利用困難」の意味合いの差も表現する
ことも可能となる。以下、パーセンタイル値を用いた分析
について述べる。
公共交通利用に関する分析については、サービス水準を
それぞれ a)鉄道アクセス距離、b)鉄道運行本数、c)バス停
アクセス距離、d)バス運行本数とし、分析対象としては、
1)地域的、2)年齢階層別(高齢・非高齢)
、3)目的別(通勤・
通学、私事)とした。また、鉄道については自宅を起点に
徒歩又は自転車でアクセスし鉄道を利用、
バスについては、
徒歩でのアクセスしバスを利用し、目的地に移動したトリ
ップを対象とした。また、4 地域区分毎の分析に加え、全
国 PT 調査のみを使って全国を対象にした分析も行った。
その結果を図-5,6,7 に示す。
通勤・通学
図-7 パーセンタイル値の目的比較
私事
条件から自動車運転の困難さを評価するための目安として
の年齢(既往研究では、75 歳を超えると自動車外出の数が
少なくなることから年齢の目安を 75 歳とした。
)
、
家族によ
る自動車送迎の可否を考慮に入れた世帯での自動車保有の
有無を条件としていた。そこで、本研究においても、この
3 項目を採用した。具体的には、表-2 に示す B~F に該当
する個人を移動困難(不便)者と定義した。上記条件で試
算した結果を図-10 に示す。なお、表-2 中の A~F の属性構
成比は 4 地域区分ごとに PT 調査の世帯票データを用いた
ものとなっている。
4-2 移動困難(不便)者数の将来推計
図-11 に示す条件に基づき、平成 32 年・平成 42 年の移
60
29.5 2.3 全国
地域①
6.4 地域④
全国
2.4 地域③
地域④
0.5 地域②
地域③
地域②
地域①
0.0 0
地域ごとの条件設定
免許保有
免許
非保有
75歳未満
75歳以上
世帯で自動車保有
A
B
C
世帯で自動車非保有
D
E
F
2500
移動困難者の割合
移動困難(不便)者数
14.97 12.10 14.68 8.57 11.25 11.95 13.41 全国一律の条件設定
1000
500
0
全国
地域④
地域③
地域②
地域①
全国
2.54 0.95 0.02 0.22 1.00 地域④
7.92 2.54 0.95 0.02 0.22 1.00 地域③
7.74 地域①
No
1500
18.46 地域②
5
2000
移動不便者の割合
居住人口(
万人)
Yes
2.3 表-2 自動車利用可能性に関する属性カテゴリー
居住人口割合(
%)
最寄り駅
の運行本数
6.4 2000
1000
15.1 2.4 全国一律の条件設定
0
No
■地域ごとの基準
【地域①②】6本/時未満
【地域③】4本/時未満
【地域④】1本/時未満
30.2 25.2 29.9 図-9 公共交通利用困難地域・不便地域の居住人口
10
■全国一律基準
■地域ごとの基準
【75歳未満】900m以上 【地域①~③】900m以上
【75歳以上】700m以上 【地域④】1200m以上
■全国一律基準
Yes
6本/時未満
14.3 0.0 0.5 42.4 35.4 15
No
Yes
3000
42.1 20
20
1000m以上
最寄り駅
までの距離
4000
25
No
Yes
最寄りバス停
までの距離
5000
53.2 30
4.移動困難者、移動不便者の抽出と将来推計
4-1 移動困難(不便)者の抽出方法
図-1 に示したように移動困難(不便)者の抽出方法につ
いては、公共交通利用困難(不便)地域を特定し、当該地
域の居住者の中から自動車を利用して移動する機会に制約
がある者を抽出することとした。既往研究 1)において、自
動車を利用したくても利用することが困難であり自動車に
よる移動機会に制約があることを判断する項目として、自
動車運転の可否を評価するための免許保有の有無、身体的
【75歳以上】1300m以上
6000
40
0
【75歳未満】2000m以上
7000
居住人口(
万人)
50
10
最寄り駅
までの距離
公共交通利用不便地域の
居住人口割合
公共交通利用困難地域の
居住人口割合
公共交通利用困難(不便)
地域の居住人口
70
居住人口割合(
%)
3-5 試算結果
全国を対象に、
2 分の 1 地域メッシュ単位
(500m×500m)
4)
で図-8 の手順で公共交通利用困難地域・不便地域を抽出
する。ただし、鉄道運行本数については、バス運行本数の
ように全国ベースで整備されたデータが存在しないため、
今回の試算では考慮しないこととする。
抽出した公共交通利用困難(不便)地域の居住人口割合
を図-9 に示す。全国一律基準と地域に応じた基準の 2 種類
を示すが、不便地域のみ異なった結果を示す。公共交通利
用困難(不便)地域の居住人口割合が最も高いのは、全国
一律基準の場合、地域④であり、困難地域 6.4%、不便地域
53.2%と両方あわせると半数近くとなり、他地域に比べて
公共交通サービス水準が低いことを示している。一方、地
域に応じた基準による試算では、地域③の公共交通不便地
域の居住割合が最も高くなった。地域③の公共交通不便地
域は、アクセス距離について、地域①、②と同条件となっ
ており、このような大都市圏と比較して公共交通サービス
水準が相対的に低いとも言える。全国ベースで見ると約 3
割が公共交通利用困難もしくは不便な地域となっている。
地域ごとの条件設定
図-10 移動困難(不便)者数の試算結果
最寄りバス停
までの距離
■全国一律基準
200m以上
①将来人口(500mメッシュ別/年齢階層別)
No
Yes
最寄りバス停
の運行本数
■地域ごとの基準
【地域①~③】200m以上
【地域④】300m以上
■全国一律基準 ■地域ごとの基準
0.6本/時未満 【地域①②】1本/時未満
【地域③】0.7本/時未満
【地域④】0.3本/時未満
No
公共交通利用
困難地域
公共交通利用
不便地域
その他
図-8 公共交通利用困難・不便地域の抽出フロー
コーホート
要因法
将来人口
<500mメッシュ別>
<5歳階級別>
②将来のバス運行本数
バス停500m圏
人口密度/将来
<系統別>
回帰式
Yes
現況人口
<500mメッシュ別>
<5歳階級別>
運行本数(推計値)
の変化率
【現況→将来】
<系統別>
運行本数
(統計値)/現況
<系統別>
運行本数
/将来
<系統別>
図-11 将来推計において考慮した項目と手法
動困難(不便)者数の将来推計値を試算した。将来人口は、
平成17 年国勢調査の2 分の1 地域メッシュ統計 4)を現在人
口として、社会保障・人口問題研究所が設定した市町村別
の仮定値(生存率・純移動率)7)を用いて、コーホート要
因法により、5 歳階級別人口を推計した。また、将来の公
共交通サービス水準については、全国で整備されている路
線バスの運行本数に着目し、図-12 に示すバス停圏人口密
度を説明変数とする回帰式を求めることによって、将来人
口の変動に応じて将来のバス停別運行本数を推計できるよ
うにした。なお、バス停圏域人口密度は、平成 17 年度国勢
調査 2 分の 1 地域メッシュ統計 4)を用い、バス停からメッ
シュ中心までの直線距離が 500m 以内のメッシュ人口を系
統ごとに集計し、当該メッシュの面積で除した系統単位の
平均値とした。バス停圏については、200m~1000m の範囲
でそれぞれの圏域ごとに人口密度と運行本数の関係式を整
理した。その結果、回帰式の傾向はほぼ同様となったが、
回帰式の決定係数が最も高かった 500m 圏域をここでは用
いた。
将来の免許保有非保有および世帯の自動車保有非保有に
ついては、それぞれの人口構成比を現況と同値とし、推計
y=平日のバス運行本数(
本/日)
16
14
12
y = 0.2857x + 2.8072
R² = 0.9541
10
8
6
4
0
0人/ha~
1人/ha~
2人/ha~
3人/ha~
4人/ha~
5人/ha~
6人/ha~
7人/ha~
8人/ha~
9人/ha~
10人/ha~
11人/ha~
12人/ha~
13人/ha~
14人/ha~
15人/ha~
16人/ha~
17人/ha~
18人/ha~
19人/ha~
20人/ha~
21人/ha~
22人/ha~
23人/ha~
24人/ha~
25人/ha~
26人/ha~
27人/ha~
28人/ha~
29人/ha~
30人/ha~
31人/ha~
32人/ha~
33人/ha~
34人/ha~
35人/ha~
36人/ha~
37人/ha~
38人/ha~
39人/ha~
2
x=バス停500m圏域の人口密度(系統単位の平均値)
図-12 バス運行本数とバス停 500m 人口の相関
3000
30
全国一律の条件設定
2500
2000
20
15
10
5
0
22.61 20.06 18.46 18.11 16.30 15.98 14.97 14.56 15.01 13.63 13.41 12.10 7.74 8.46 8.95 2.54 2.59 2.86 0.95 0.94 1.00 0.02 0.02 0.02 0.22 0.23 0.25 1.00 1.01 1.10 H22 H32 H42 H22 H32 H42 H22 H32 H42 H22 H32 H42 H22 H32 H42
地域①
地域②
地域③
地域④
1500
1000
居住人口(
万人)
居住人口割合(
%)
25
した将来の 4 地域区分別の年齢階層別人口に適用すること
で表-2 における A~F の属性別将来人口を算出した。ここ
で、移動困難(不便)者の将来値の試算結果を図-13 に示す。
人口が減少していく中、全国の移動困難(不便)者数は、
今後 20 年間で増加傾向が見られることがわかる。また、人
口割合については移動困難者で微増、移動不便者について
は地域③で 3%程度、
地域④で 4%程度増加する結果を得た。
5.まとめ
本研究では、公共交通の利用環境(距離、運行本数)と
PT 調査による利用実態(トリップ数)の関係を分析するこ
とにより、公共交通利用困難(不便)地域の設定の根拠と
なる判断基準の検証を行った。また、自動車利用の制約条
件(年齢、免許等)を付加することで移動困難(不便)者
の抽出、試算を行うとともに、人口及び公共交通サービス
水準(バス運行本数)の変化を推計することで、移動困難
(不便)者の将来推計を試みた。
また、本研究では、真に移動環境が厳しい移動困難者と
日常移動が不便な移動不便者に分けて定義した。これは、
多様な交通政策を検討していく上で、単純に白黒で判断す
るよりは、段階をもった評価を行った方が現実的な施策立
案につながると考えたからである。一方、算出手法につい
ては、トリップ数のパーセンタイル値を活用し、判断基準
(閾値)を特定する手法を用いた。パーセンタイル値につ
いては、具体に困難や不便であるといった状況をそのまま
表現することは困難であるため、この部分については主観
をもった判断となっているものの、施策立案者等が柔軟に
設定できる手法とも言える。このように、本研究では、移
動困難者等を評価する手法を提案したが、各設定値や設定
条件等については、現況の材料を分析することで当面の値
として設定したものであるため、今後の調査データの充実
等によってさらなる精度や説明力の向上が見込まれる。
【参考文献】
1)
2)
0
3)
3000
移動困難者の割合
地域ごとの条件設定
2500
移動不便者の割合
移動困難(不便)者数
20
2000
1500
15
10
5
0
17.35 15.80 1000
8.98 10.13 14.68 13.11 8.57 14.23 12.07 13.13 11.95 11.25 500
7.92 8.40 8.68 2.54 2.59 2.86 0.95 0.94 1.00 0
0.02 0.02 0.02 0.22 0.23 0.25 1.00 1.01 1.10 H22 H32 H42 H22 H32 H42 H22 H32 H42 H22 H32 H42 H22 H32 H42
地域①
地域②
地域③
地域④
に-,土木計画学研究・論文集,Vol.25,2008
4)
公益財団法人統計情報研究開発センター:国勢調査に関する地域メッ
シュ統計
5)
総務省統計局 HP:我が国の人口重心-平成 22 年国勢調査から-,
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/topics/topi61.htm
6)
国土数値情報,国土交通省国土政策局国土情報課,
http://nlftp.mlit.go.jp/ksj/
全国
図-13 将来の移動困難(不便)者数の試算結果
木澤友輔・高見淳史:徒歩アクセシビリティ概念に基づく「歩いて暮
らせる街づくり」に関する研究-多摩ニュータウン初期開発地区を例
居住人口(
万人)
居住人口割合(
%)
25
谷本圭志:地方部における生活交通計画-ミニマム水準の導出に着目
して-,土木計画学研究発表会・講演集,Vol.35,2006
全国
30
小林寛:東京都市圏 PT 調査を活用した移動不便者の抽出,都市計画論
文集,Vol.47,No.3,2012
500
7)
国立社会保障・人口問題研究所:日本の市区町村別将来推計人口(平
成20 年12 月推計)