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2015.1.9
(株)イデアルスター太陽電池勉強会資料
「有機太陽電池の基礎」
山本恵彦
(イデアルスター特別技術顧問、産業技術総合研究所客員研究員、筑波大学名誉教授)
第3章:変換効率向上施策
3-3節 活性層 Morphology の最適化
3-3-3項 熱処理
目次
第Ⅰ編.P3HT:PCBM BHJ への Chemical Additive と Heat Treatment の比較
第Ⅱ編.熱処理と Morphology 変化 (ITO 及び MEH-PPV/C60 BHJ)
第Ⅲ編.太陽電池特性に及ぼす熱刺激及び表面エネルギーの影響
第Ⅰ編.P3HT:PCBM への Chemical Additive と Heat Treatment の比較
Low Bandgap Copolymer, PCPDTBT(Poly[2.6-(4,4-dialkyl-4H-cyclopenta [2.1-b:3,4-b’]
dithiophene)-alt-4.7-(2,1,3- Benzothiadiazole)]を用いた太陽電池の光電変換効率を向上さ
せるためには溶媒に ODT (1,8- Octanedithiol) を添加(Chemical Additive)することが有効
であることについて述べた[1]。一方、Sariciftci らは P3HT:PCBM BHJ に関して Chemical
Additive (n-Octylthiol)効果と従来からも行われている熱処理( 120C /数分)効果との比較
を行った[2]。
図1 P3HT:PCBM BHJ の光吸収係数に与える各種処理の効果 [2]
1
図1は各種処理による P3HT:PCBM BHJ の光吸収係数特性変化を示す。1は処理無し、2
は熱処理のみ、3は溶媒への n-octylthiol 添加、4は n-octylthiol 添加プラス熱処理の場合
である。
熱処理及び n-octylthiol 添加により吸収係数が増大し Red Shift すると共に Phonon
との相互作用を示す微細構造(Vibronic peaks)が顕著になる。一方、3と4との差が小さい
ことは n-octylthiol 添加効果が支配的であることを示す。挿入図には P3HT:PCBM BH 膜
の色彩変化を示す。
熱処理や n-octylthiol 添加による光吸収係数の大幅な改善は、図2に示すように外部量子効
率を飛躍的に向上させる。これには電荷担体密度及び移動度の増加が寄与していると考え
られる。
図2 P3HT:PCBM BHJ の外部量子効率に及ぼす各種処理の効果 [2]
図3は模擬太陽光(AM1.5, 100mw / cm )での電流電圧特性(第4象限表示)を示す。熱処
2
理(2と4)及び n-octylthiol 添加(3と4)では光吸収スペクトルを反映して処理無し(1)
に比べ大幅な短絡電流の増加が確認できる。短絡電流の増加には電荷担体密度の増加(あ
るいは再結合率の減少)と電荷担体移動度の増加の両者が寄与していると思われる。
図3 P3HT:PCBM BHJ 太陽電池特性に及ぼす各種処理の効果 [2]
2
図4に上述太陽電池の暗電流特性を示す。逆バイアスにおける暗電流特性には熱処理や添
加によって大きな差は生まれないが、順バイアスでは大きく異なり整流特性の差異が顕著
になる。逆バイアスでの暗電流 CELIV (Dark Charge Extraction by Linearly Increasing
Voltage)法により求められた Intrinsic な電荷担体密度は1、2、3、4に対してそれぞれ
14
3
15
3
15
3
15
3
の 5.5x10 / cm 、 1.3x10 / cm 、 3.8x10 / cm 、 1.7 x10 / cm である。添加による密
度増加は最大約7倍である。このように熱処理や n-octylthiol 添加による密度の増加は無視
できないが短絡電流密度や外部量子効率と量的な一致はしていないことが分かる。
図4 P3HT:PCBM BHJ 太陽電池の暗電流特性 [2]
順バイアスでの暗電流特性から電荷担体の移動度を求めることが出来る。図5は順バイア
スでの暗電流 j と順バイアス電圧から太陽電池の Built-in Potential(開放電圧)Vbi を差し
引いた正味のバイアス電圧 U との関係を両軸対数でプロットしたものである。
図5 順バイアスでの暗電流の両指数関数プロット [2]
3
図から U  1V では空間電荷制限領域にあるものと考えられ、この場合電流は
9
U2
j   0  3
8
d
で与えられる。ここで、  は比誘電率、  は求める移動度、 d は活性層の厚さである。
この図から熱処理や n-octylthiol 添加を行った試料と処理や添加のない試料の移動度はそ
れぞれ約   10 cm / V 及び   10 cm / V と計算される。即ち電荷担体の移動度には
3
2
4
2
約1桁の差が認められる。
図6 AFM による各種処理後の表面形態(Nanomorphology)観察 [2]
図6は AFM による各種処理後の表面形態(Nanomorphology)観察結果である。無処理(1)
に対し、処理後の形態は大幅に変化する。熱処理のみ(2)に比べ n-octylthiol 添加により
粒子径が増加することが分かる。それに伴い表面粗さ RMS は、
(1)無処理(0.2 nm)、
(2)
熱処理(0.6 nm)から(3)n-octylthiol 添加では 7.1 nm、(4)熱処理プラス n-octylthiol
添加では 4.3 nm、と大幅に増加する。この Nanomorphology 変化によって移動度が1桁
以上増加すると考えられる。即ち、光電変換効率の向上は P3HT:PCBM BHJ のネットワー
クの緻密化による Photon Harvesting の増大と移動度の増加によるものと結論される。な
お P3HT ネットワークの緻密化と移動度に関する詳細な研究も報告されている[3]。今回取
り上げた課題の重要な点は、熱処理を行うことなく Blend の Network 緻密化が可能になる
ことを証明したことであり、太陽電池の大型パネル化に貢献すると思われる。
4
参考文献
[1] 高性能 Donor Polymer の開発: 第3章 第1節 第2項 New Polymer その1
[2] Sabstituting the postproduction treatment for bulk-heterojunction solar cells using
chemical additives: A.Pivrikas et al., Organic Electronics 9 (2008) 775.
[3] Effect of the silanization and annealing on the morphology of thin poly
(3-hexythiophene)(P3HT) layer on silicon oxide: G.Scavia et al., Surf.Sci. 602 (2008)
3106.
第Ⅱ編.熱処理と Morphology 変化 (ITO 及び MEH-PPV:C60 BHJ)
1.はじめに
有機太陽電池の製作工程において熱処理は極めて重要である。BHJ 型太陽電池活性層の相
分離による最適化や電極界面制御は適切な熱処理によって行われる場合が多いが熱処理の
定量的な理解は不十分であると考えられる。本編ではこれらに関する報告を紹介する。
2.ITO 表面 Morphology
ITO は通常は正電極薄膜として、
逆型構造では負電極薄膜として欠かせない。
ITO は 90 wt%
の In2O3 と 10 wt%の SnO2 の成分から成っており、希少金属である In の将来的な安定供給
が危惧されている。また ITO 薄膜が曲げストレスに弱いことも分かっている[1]。
ITO 薄膜表面の Morphology は界面を接する PEDOT-PSS や TiOx などの特性に影響を与え
ることが予想される。図1は清浄化した ITO 試料(a)を大気中で 200C (a) 及び 300C (c)
にて1時間熱処理した後の表面 Morphology を AFM で計測したものを示す [2]。
図1 熱処理による ITO 表面 Morphology の AFM 観察 [2]
5
熱処理により粒径の大きな突起が成長し、次第に密度の低い大きな粒子状態に凝集するこ
とが分かる。この結果を基に表面粗さを統計処理した RMS 表面粗さを表1に示す[2]。RMS
表面粗さは熱処理温度と共に増大することが分かる。
表1 熱処理による RMS 表面粗さの増大 [2]
以上の結果から、電極界面での接触の密度や緻密性を確保するためには ITO の熱処理には
十分な配慮が必要であることがわかる。
2.MEH-PPV:C60 BHJ
重量比が 5:1 の MEH-PPV (poly[2-methoxy-5-(2’-ethyl-hexyloxy)-p-phenylene vinylene])
と C60 からなる Bulk Heterojunction (BHJ)太陽電池の熱処理効果に関する定量的な評価
[3]について以下に述べる。太陽電池の構成は ITO/PEDOT-PSS/MEH-PPV:C60/Al であり、
光源としては Xe ランプ光を分光して 400~ 700 nm の波長の光を照射した。得られた結果
を図2に示す。図中、特異な特性を示す熱処理温度を矢印で示す。なお熱処理時間は150C
以下では 10 分、 160C 以上では 3 分である。
図2 MEH–PPV:C60 BHJ 太陽電池の基本特性 [3]
6
開放電圧 VOC は熱処理温度 100C を超えると次第に減少して 200C で最低となりその後少
し増加する。一方、短絡電流 J SC は熱処理温度と共に増加して 120C 付近で極大になった
後、減少して 180C 付近で一旦極小を経て再度増加して 200C でにて最大となる。その後
は減少する。 FF (Fill Factor)は VOC と類似な特性を示すが、 200C 以降は J SC と類似な特
性となる。変換効率 は全領域に亘り J SC と類似な特性となる。
以上の結果を解析するための EQE(外部量子効率)及び規格化された光電流の波長依存性を
それぞれ図3及び図4に示す。
図3 外部量子効率と熱処理温度の関係(波長依存性) [3]
図2と図3から、外部量子効率特性が短絡電流特性と類似していることが分かる。
図4 規格化された光電流と熱処理温度の関係(波長依存性)[3]
図4から低温熱処理部( 60C  150C )及び高温熱処理部( 160C  280C )にて特徴的
な傾向が読み取れる。
7
低温熱処理部では 530 nm 付近に肩が現れ、波形としては約 20 nm の Red Shift が観察さ
れる。一方、高温熱処理部では 620 nm 付近に新しいピークが発生するが、波形全体としては
約 25 nm の Blue Shift が観測される。また、520 nm 以下の波長領域で波形が下に凸にな
る。
図5は 480 nm の光で励起された試料からの Photoluminescence (PL)スペクトルである。
熱処理温度により大幅なスペクトル変化が観察される。
熱処理により 571 nm の MEH-PPV
の基本的ピークの外側の 620 nm 及び 658 nm ピーク強度が増大する。これらは MEH-PPV の
凝集(結晶化)に起因するものである。更に高温になると凝集が解けてこれらのピーク強度
は減少する。
図5 PL 強度と熱処理温度の関係 [3]
以上述べた事柄から図2(及び図4)の結果を考察すると以下のようになる。
(1)120C
付近での短絡電流や変換効率の極大は MEH-PPV の凝集(結晶化)による。
(2)200C 付
近での短絡電流や変換効率の最大値付近では MEH-PPV の凝集と C60 の凝集が最適化する。
(3)低温熱処理での MEH-PPV の凝集の結果、HOMO レベルが浅くなるため開放電圧が
減少する。
(4) 180C 付近での短絡電流の減少は C60 の凝集が電荷移動を阻害するためと
考えられる。
参考文献
[1] Efficient and Flexible ITO-Free Organic Solar Cells Using Highly Conductive
Polymer Anodes: S-I.Na et al., Adv. Mater. 20 (2008) 4061.
[2] Morphological characterization of ITO thin film surfaces: D.Raoufi, Appl.Surf.Sci.
255 (2009) 3682.
[3] Effect of molecular aggregation by thermal treatment on photovoltaic properties of
MEH-PPV: Fullerene-based solar cells: H.Jin et al., Solar Energy Materials & Solar
Cells 93 (2009) 289.
8
第Ⅲ編.太陽電池特性に及ぼす熱刺激及び表面エネルギーの影響
1.はじめに
有機太陽電池活性層(Blend)の Morphology は動作温度や保存温度等の熱刺激の影響を受け
素子の信頼性に影響を与えることが予想される。一方、定格動作温度より高い温度での初
期 Aging は活性層の Morphology を最適化するために不可欠とされている。活性層の
Morphology、特に Bulk Heterojunction (BHJ)の場合は下地材料への堆積時の条件によっ
て水平及び垂直(Lateral and Vertical)相分離など影響を受けることが分かっている。この際、
堆積時の条件として堆積温度のみならず下地材料の表面エネルギーも関与することになる。
本編では有機太陽電池特性に及ぼす熱刺激(温度)や表面エネルギーの影響について述べ
る。
2.熱刺激(温度)の影響
図1は順構造(Normal Structure), ITO/PEDOT-PSS/P3HT:PCBM/Al 構成の BHJ 太陽電池
における太陽電池特性の動作温度依存性を示す[1]。これらは 130oC/2min Aging 後の特性
である。
図1 BHJ 太陽電池特性の動作温度依存性 [1]
変換効率と短絡電流密度には最適温度[それぞれ(20~30oC)及び(30~70oC)]が存在し類似
な温度依存を示す。Fill Factor (FF)には大きな変化がないが 60~100oC 付近に最適温度が
ある。開放電圧は動作温度と共に低下する。
短絡電流密度 J SC は太陽光吸収効率及び生成された自由電荷の移動度  に依存する。FF は
電荷移動度  と電荷再結合時間  の積に比例すると共に直列抵抗に逆比例する[2]。電荷再
結合時間  は電荷が通過する媒体の欠陥密度や熱雑音の大きさに依存して短くなる。開放電
圧 VOC は P3HT の HOMO レベルと PCBM の LUMO レベルとのエネルギーギャップ E gap に
依存するが、暗電流密度の影響も受ける。変換効率は J SC x VOC xFF に比例する。
9
図2 Aging 後素子の光吸収の波長依存性 [1]
図2は 130oC/2min Aging 後素子の光吸収特性を示す。P3HT 由来の長波長側の吸収は温度
の低下と共に増大し、スペクトルが Red Shift する。これは P3HT 分子の共役長が増大す
ると共に相互の積層が規則的になるからである。一方、PCBM 由来の紫外光吸収には温度
依存がほとんどない。従って活性層の光吸収効率は温度の上昇と共に低下することになる。
図3 量子効率の温度依存性(500nm 付近)[1]
図3は上記 Aging 後素子の 500nm 付近の量子効率の温度依存性を示す。温度と共に電荷移
動度は増加するが逆に光吸収が減少するため量子効率に最適温度が存在する。これが短絡
電流密度変化に反映される。
高温動作における問題点は媒体の欠陥密度の増加と熱雑音による自由電荷の再結合時間短
縮である。FF は電荷移動度  と電荷再結合時間  の積に比例[2]するが、両者の温度依存性
が逆であるため最適温度が発生する。
開放電圧は正負電荷の見かけの(非平衡)フェルミエネルギーの差である[3][4]。即ち、
eVOC  E Fn  E Fp
(1)
ここで E Fp 、 E Fn はそれぞれ正負電荷の見かけの非熱平衡フェルミエネルギーであり、
EFn  ECB ( A)  kT ln(n / Nc )
(2)
EFp  EVB ( D)  kT ln( p / Nv )
(3)
と近似される。 n , p は負電荷と正電荷の密度であり N C , N v は伝導帯底及び価電子帯天井
の状態密度である。また
10
E gap  ECB ( A)  EVB ( D)
(4)
である。簡単化のために N C  N CB  NVB とすると開放電圧は次式で与えられる[3]。
N 2
eVOC  E gap  kT ln  C
 np




(5)
この式から分かるように開放電圧は温度の上昇と共に減少するが電荷密度も同時に増加す
るため変化は複雑になる。実動作においては次式に示す暗電流密度 J 0 の影響も考慮する必
要がある。
VOC 
nkT  J ph (VOC ) 
ln 

e
 Jo

(6)
以上の結果が総合されて図1に示すような変換効率の温度依存性となる。
図4 Aging 過程における光吸収特性変化(右図は拡大) [1]
今まで述べてきたのは 130oC/2min Aging 後素子を用いて得られた結果である。
以下に Aging について述べる。図4は昇温(-10~140oC)過程における光吸収特性変化を示
す。昇温によって変化するのは P3HT 由来成分のみである。右図は P3HT 由来成分の拡大
図である。複雑な挙動を示すことが分かる。
図5 500nm 付近の光吸収強度の変化 [1]
図5は図4から得られる 500nm 付近の光吸収強度の昇温変化(1),(2)と 140oC 昇温後の降温
11
変化(3)を示す。最初は昇温と共に光吸収強度は図2同様に減少するが、臨界温度後は昇温
により P3HT の結晶化が進むため光吸収強度が逆に増大する。一旦 140oC に到達した後は
図2と同様な変化をし、その後の変化は Reversible となる。
図6Aging 過程における量子効率変化(500nm 付近) [1]
図6は Aging 過程における 500nm 付近の量子効率変化である。臨界温度以上になると光吸
収特性の向上に連動して量子効率が増大する。このように Aging によって活性層の
Morphology が最適化され太陽電池の特性が安定化する。
3.表面エネルギーの影響
活性層 Morphology は活性層が堆積される下地の表面エネルギーにも依存する。以下の3例
は逆構造(1例目)及び順構造(2,3例目)の太陽電池特性最適化に関するものである。
3-1 逆構造の例
図7 太陽電池特性の活性層堆積の下地層表面エネルギー依存性 [5]
12
図7は ITO/ZnO/SAM/P3HT:PCBM/MoO3/Ag 構成の逆構造(Inverted Structure)太陽電池
における太陽電池特性に及ぼす下地層の表面エネルギー依存性を示す[5]。
下地層は SAM(詳
細後述)で被覆された ZnO(30nm)であり Hole Blocking Layer として働く Buffer Layer で
ある。図から分かるように大きく変化するのは短絡電流密度とその結果としての変換効率
に限られ開放電圧に変化はない。Fill Factor(FF)と直列抵抗 RS には弱い負の相関がある。
ここで表面エネルギーとは単位面積( m )の表面を作り出すに必要なエネルギー( Nm )とし
2
て定義され単位は( N / m )である。大雑把には表面エネルギーが小さいと表面は
Hydrophobic (疎水性) 逆に大きいと Hydrophilic (親水性)と呼ばれる。
図8(a)には用いた太陽電池の構造を、(b)には被覆層による ZnO Buffer Layer の表面エネ
ルギー制御の概念図に示す。(c)のエネルギー図に示すように被覆層によって ZnO の仕事関
数が減少し(4.6 →4.3eV)、PCBM の LUMO レベルとの Energy Level Alignment が向上す
る(Ohmic Contact になる)。
図8 太陽電池構造(a)、ZnO Buffer Layer 被覆層による表面エネルギー制御の概念(b)及び
被覆層によるエネルギーレベル制御(c) [5]
SAM 被覆層
図9 SAM 被覆層の構成 [5]
13
被覆層は2成分の混合 SAM である。
Hydrophilic な Aminopropyltrimethoxysilane 分子(略
して Aminesilane)と Hydrophobic な Octyltrimethoxysilane 分子 (Alkylsilane)の2成分
である。これら分子は図9に示すように Hydrophilic ( 71mN / m )な ZnO 表面に Silane を
基板側にして単分子層を形成する。図 10 は表面エネルギーと仕事関数の Alkylsilane 成分
%依存性を示す。Alkylsilane 成分の増加と共に表面エネルギー(■)が減少することが分
かる。この際、被覆層の構成成分によって仕事関数(▼)が変化しないため仕事関数とは
独立に表面エネルギーが制御できる。
図 10 SAM 被覆層によって制御される表面エネルギー(■)と仕事関数(▼)[5]
太陽電池特性
太陽電池特性を図 11 に示す。(a)は電流電圧特性、(b)は外部量子効率である。実線は最高
の変換効率を示す表面エネルギー( 51mN / m )の被覆膜を選んだ場合、点線は被覆膜のない
場合( 71mN / m )である。被覆により短絡電流が増加することが分かる。これは外部量子効
率の増大に起因するものであるが(b)、肩特性に差が無いことから、特性向上が P3HT の結
晶性向上による Bandgap 縮小ではなく、相分離の最適化によるものと思われる。
図 11 太陽電池特性及び外部量子効率 [5]
14
Morphology
図 11 に示す特性の差は Morphology によるものと考えられる。図 12 は活性層表面の AFM
像である。縮尺は 1m である。表面エネルギーが 71mN / m (a)では表面が Rough であるが
表面エネルギーの低下(b), (c)と共に Smooth になる。更に表面エネルギーが低下(d)すると
再び表面は粗くなり P3HT の偏析が顕著になる。
図 12 活性層表面の AFM 像(尺度は 1m )[5]
図 13 はほぼ同一試料の TEM 像である。縮尺は 100nm である。(a)の黒い部分は前処理で
除去し切れなかった ZnO 残渣である。P3HT(白部)と PCBM(黒部)が相分離しており
ドメインはほほ同寸法である。(b)では相分離がより細かくなっている。(c), (d)では逆に相
分離が大きくなる。高変換効率の条件は Exciton 解離に十分な界面の面積があり、生成し
た自由電荷の移動が容易になる(b)と(c)の中間の相分離状態であると考えられる。AFM 像に
おいてこの領域では表面は極めて滑らかに見える。考察がまだ不十分であるが、このよう
に Buffer Layer の表面エネルギーを制御することにより最適な相分離状態を獲得すること
ができる。
図 13 活性層表面の TEM 像(尺度は 100nm)[5]
3-2 順構造の例(その1)
図 14 は ITO/PEDOT-PSS/P3HT/P3HT:PCBM/LiF/Al 構成の順構造(Normal Structure)太
陽電池の作成プロセスである[6]。通常の順構造の場合、PEDOT-PSS の Hydrophilicity(大
15
きい表面エネルギー)のために Hydrophobic な活性層の成分が堆積中に垂直方向に相分離
して PCBM ( 39.86mN / m )が下地 PEDOT-PSS 側に、逆に P3HT が反対側(負電極側)に
偏在する。この構造は正極(ITO)でホールを収集する順構造の場合には極めて不利であるが、
逆構造ではむしろ有利になる。
不利を回避するために本例では PEDOT-PSS を Hydrophobic ( 25.79mN / m )な P3HT に
て被覆している。Blend 溶媒にて下地の P3HT が溶融するのを避けるため活性層 Blend を
堆積する際に PDMS Stamp 法が用いられている。
図 14 P3HT 被覆 PEDOT-PSS Buffer Layer を用いる太陽電池作成法 [6]
活性層構成成分の膜厚方向分布
TOF-SIMS にて計測された P3HT 分子の膜厚方向分布を図 15 に示す。本計測では下地と
して PEDOT-PSS の代わりに同じく Hydrophilic な Si 基板を用いている。Si 基板の上に
50nm の P3HT を被覆した後 PDMS Stamp にて活性層(P3HT:PCBM)が堆積されている。
図 15 には熱処理前後の膜厚方向分布が示されている。熱処理前において活性層内は基板側
で P3HT Poor、反対側で P3HT Rich の相分離が観測されが、熱処理後には活性層内部の
P3HT 基板側で Rich になっていることが分かる。
図 15 熱処理前後の P3HT 分子の膜厚方向分布 [6]
16
表1は図 15 の結果を裏付けるための表面エネルギー及び接触角の比較である。活性層
(Blend film)の表面エネルギー( 28.22mN / m )は P3HT Rich 状態を反映して P3HT の表面
エネルギー( 25.79mN / m )に近くなるが、P3HT による被覆・熱処理後(Blend/P3HT film)
は 34.95mN / m となり逆に PCBM Rich の状態になる。
表1 表面エネルギー及び接触角の比較 [6]
太陽電池特性
図 16 は P3HT(50nm)被覆が電流電圧特性に及ぼす効果を示す。被覆によって短絡電流密度
や FF が大幅に改善されることが分かる。FF 改善は接触抵抗の低減によるものと考えられ
る。なお、改善の効果は表2に示すように P3HT 膜厚に依存し 50nm が最適であると考え
られる。膜厚を更に増加すると直列抵抗が増大し特性を低下させることが分かる。
図 16 P3HT(50nm)被覆の効果 [6]
表2 太陽電池特性の P3HT 被覆膜厚依存性 [6]
17
3-3 順構造の例(その2)
Jung らは ITO/IrOx/P3HT:PCBM/LiF/Al の構成の順構造太陽電池において Buffer Layer
として PEDOT-PSS に代えて Ir をプラズマ処理にて酸化して作成した膜厚 2nm の IrOx 薄
膜を用いている[7]。
図 17 太陽電池構造(a)、P3HT 積層構造(b),(c)、エネルギー図(d) [7]
図 17 は 太陽電池構造(a)、PEDOT-PSS 上の P3HT 積層構造模型(b)、IrOx 上の P3HT 積
層構造模型(c)、
太陽電池のエネルギー図(d)である。
模型図から PEDOT-PSS 上に比べて IrOx
上の P3HT 積層は規則性が高いことが期待されている。これは IrOx 薄膜の表面エネルギー
が小さいため同じく表面エネルギーの小さい P3HT との整合性が良いためと考えられるか
らである。また、IrOx の仕事関数が PEDOT-PSS よりも大きいため図 17(d)に示すように
ITO 電極へのホール移動が有利になる。
蒸留水滴の接触角
図 18 はプラズマ処理(ITO 清浄化や IrOx 作成に必要)が及ぼす蒸留水滴の接触角変化を
示す。プラズマ処理時間と共に初期(約1分間)に IrOx 及び ITO 表面での接触角が減少す
ることが分かる。IrOx 上では ITO に比べて接触角が大きく表面エネルギーが小さいことが
分かる。PEDOT-PSS 上での接触角はプラズマ処理後の ITO 上とほぼ同等である。
図 18 プラズマ処理が及ぼす水滴の接触角変化 [7]
18
仕事関数
図 19 は UPS による ITO, Ir (2nm), PEDOT-PSS, IrOx (2nm)の仕事関数比較である。IrOx
の仕事関数は ITO より大きく、また PEDOT-PSS よりもやや大きいことが分かる。
図 19 UPS による仕事関数比較 [7]
光透過特性
図 20 は光透過特性の IrOx 膜厚依存性及び ITO や PEDOT-PSS との比較である。膜厚 1.3
~1.6nm の IrOx が最適であるが ITO や PEDOT-PSS よりは光透過特性がやや劣ることが
分かる。
図 20 光透過特性比較 [7]
太陽電池特性
図 21 は太陽電池の電流電圧特性を表3は特性の詳細を示す。最適膜厚の ITO/IrOx 系では
ITO/PEDOT-PSS 系に比べて光透過特性を反映して短絡電流密度は小さくなるが FF が大
きいため表3に示すように変換効率が向上する。良好な FF は P3HT 積層の高い規則性と
電極へのホール移動のポテンシャル障壁の低減に伴う直列抵抗の低減によると考えられる。
19
図 21 太陽電池電流電圧特性 [7]
表3 太陽電池特性の詳細 [7]
4.まとめ
太陽電池の活性化にとって Thermal Annealing は極めて有効な手段であり広く用いられて
いる。一旦 Thermal Annealing が完成すれば、その後の温度変動によっても素子特性が可
逆的に再現され素子の安定性が確保される。動作温度は自由電荷の移動度や光吸収特性に
影響を与えるため短絡電流密度には最適動作温度が見られる。動作温度の上昇と共に
Polymer に欠陥が発生するため正電荷(ホール)の再結合が促進され結果として FF が減少
するのみならず暗電流増加により開放電圧も減少する。これらが総合され変換効率には最
適動作温度が生まれる。信頼性の評価に当たっては、太陽電池特性の時間変化が本来の特
性温度変化によるものなのか、劣化による不可逆変化かを見極めることが必要となる。
弱い化学結合が主体である太陽電池の積層膜において表面エネルギーは極めて重要な役割
を担っている。活性層成分の相分離は Exciton 解離や自由電荷の移動にとって重要な要素
であるが、下地基板の表面エネルギーによって制御されることに留意する必要がある。信
頼性において活性層の下地からの剥離は極めて憂慮すべきことであるが、この問題にも表
面エネルギーが関係すると思われる。信頼性確保のためには太陽電池を構成する薄膜層間、
特に活性層と下地との接着に関して表面エネルギーの差異を最適化する必要がある。
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参考文献
[1] Temperature dependence of polymer/fullerene organic solar cells: W.Bagienski and
M.C. Gupta, Sol.Energ.Mater. & Sol.Cells 95 (2011) 933.
[2] 電荷担体(Carrier)の生成・消滅のメカニズムとダイナミクス:第2章 第1節 第 3 項
開放電圧と Fill Factor (FF)。
[3] 電荷担体(Carrier)の生成・消滅のメカニズムとダイナミクス:第2章 第1節 第1項 総
論。
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