寒冷地向けライニング工法の開発

寒冷地向けライニング工法の開発
防災・減災対策への活用
大塚
成太郎
*1
1.はじめに
中川
京子
*2
④流雪溝内面の磨耗対策。
近年、大雨による土砂災害、大雪による災害が多く発
⑤コンクリートの保護(凍害、塩害から遮断)。
生している。その度に交通への影響がよく聞かれるよう
⑥少水量、低勾配でも流雪溝の設置が検討可能。
になった。特に平成 26 年豪雪は、豪雪地帯のみならず
また、今は可変勾配型側溝が主流であるので、塗装を
関東地方にも大雪をもたらし、物流が滞る事態となった。
することで勾配を緩く出来れば、掘削量が抑えられて、
これまで積み重ね研究されてきた雪害対策、除雪技術が
環境負荷軽減に繋がることも考えられる。
豪雪地帯以外の地域にも活用され、防災・減災に役立つ
ことを望みたい。
塗装流雪溝は昭和 56 年豪雪を機に、新潟大学工学部
により研究され実用化成功に至った除雪技術である。コ
ンクリート流雪溝内面に画期的な樹脂ライニング材を塗
布した塗装流雪溝は、25 年経過した現在も滑性作用によ
る流雪能力向上、着雪着氷の軽減により閉塞緩和等の効
果を維持している。
また、コンクリートを被覆することで、摩耗対策、凍
害対策、塩害予防対策、ひび割れ、漏水対策効果もあっ
て、コンクリート水路自体の延命化も図ることが出来る。
水路目地部の漏水対策を目的にした、帯状で塗装する
工法は、コンクリートのり面のひび割れ対策にも効果的
であった。
(a)コンクリート
本文で紹介する樹脂ライニング工法の種々な機能性
(b)コンクリート浸透性防水材
付加価値や長期耐用性が、事前防災・事前減災対策とし
(c)不飽和ポリエステル系ガラスフレーク塗料
て活用されることにより、安全な雪国生活の一助になる
(d)アクリル系樹脂液
ことを望むものである。
(e)エポキシ樹脂+ウレタン樹脂+ガラスクロス
(f)塩化ビニールパイプ
2.流雪溝の機能性向上
(g)超厚膜型ポリウレタン樹脂塗料
昭和の 56 豪雪被害により、旧文部省が豪雪地域におけ
図1
る交通及び生活環境保護のための流雪・融雪技術の開発
室内における塗料・被覆水路と
コンクリート製水路の流雪能力比較
研究を、新潟大学に委託。昭和 58 年から平成 3 年にかけ
て行われた研究成果のひとつが「塗装による流雪能力の
表1
改善」である。
摩擦係数と流雪能力比
摩擦係数
摩擦係数比
流雪能力比
いかに少量の水で沢山の雪を処理するか。無塗装のコ
a
1.061
1
1
ンクリート水路と各種塗装材の流雪能力試験を行った結
b
0.425
0.4
1.1
果、
「無溶剤型ポリウレタン樹脂塗料が最も流雪能力が高
c
0.200
0.19
1.36
く、かつ現場施工性、耐久性も良いようである。」との評
d
0.166
0.16
1.55
価を得た。(図 1、表 1 参照)
e
0.035
0.03
1.64
塗装流雪溝の利点を挙げると、
f
0.013
0.012
2.30
① 雪の処理能力が高くなる。
g
0.014
0.013
2.64
② 屈曲部、分岐部、合流部の閉塞解消。
③ 投雪口付近の着氷、着雪の緩和。
*1
*2
株式会社
大塚工業
勾配別の流雪能力比較は、以下のとおり。(図 2)
写真1
写真2
塗装流雪溝
塗装流雪溝
施工直後
22 年経過状況
流雪溝には摩耗に強い耐久性が求められる。平成 20
年度に近畿農政局と神戸大学が実施した表面被覆工法の
摩耗試験において、超厚膜型特殊ポリウレタン樹脂を被
覆した供試体とコンクリート板の耐摩耗量は以下のとお
りとなっている。(図3)
水色が側壁
図2
青色が底版
室内実験における塗料・被覆水路と
の摩耗量。
コンクリート製水路の流雪能力比較
新潟大学の研究成果を取り入れて区画整理事業で採
用された、新潟県旧小出町の塗装流雪溝経過 22 年時の
状態を観察。異常は生じていない。(写真 1、写真 2)
図3
耐摩耗性試験
摩耗量の結果(参考文献4
から一部抜粋し作成)
イニング面はコンクリート面より着氷率が少なく、着氷
軽減の効果が認められた。
右側のグラフが超厚膜型特殊ポリウレタン樹脂、左側
また、氷の付着強さ試験で、ライニング面への氷の付
のグラフがコンクリート板である。試験前後の供試体の
着強さは、温度の低下とともに増大しているが、ライニ
体積計測による摩耗量(cm3)の比較では、コンクリート
ング面はコンクリート面に比べて、1/5~1/10 の数値と
板に比べ、側壁で約 1/18、底版で約 1/6 の摩耗量であり、
なり、氷が取れ易いことがわかった。(図4)
耐摩耗性に優れているという結果を得ている。
また、付着力試験も行っており、一般的な建研式によ
る鉛直方向の接着力ではなく、表面被覆材の剥離はコン
クリートの膨張収縮によるせん断剥離であるとして試験
を行い変位を確認し、超厚膜型特殊ポリウレタン樹脂を
被覆した供試体においては、平均付着強度約 1.8N/mm2
という十分な付着強度を確認している。
3.着雪、着氷対策への取り組み
流雪溝塗装工事を通し、流雪溝の壁面、投雪口への着
氷が緩和され、閉塞解消に繋がることが分かった。
コンクリートは吸水性があるため、水が浸み込み易く、
雪の付着や水のとばしりが凍ると、取れにくくなる。反
面、ライニングしたコンクリートは、被膜により水の浸
み込みを防ぎ、摩擦係数値が小さいため雪の滑りを良く
し、雪氷が付着しても剥がれ易い。
そこで、コンクリートとライニング被膜の着氷状況を
比較し数値化する試験を、平成 20 年度、富山大学との共
図4
超厚膜型ポリウレタン樹脂ライニング
およびコンクリートと氷の付着強さの結果
同研究で実施した。
コンクリート壁面に対する飛沫着氷の軽減、着氷初期
段階での剥離などを目標に、零下環境に風速を加えた着
氷率を確認した。(写真3)
4.事前災害対策の施工事例
滑性を利用し、自然落雪を期待して施工した事前災害
対策の事例を紹介する。
橋桁構造物(写真4、写真5)、コンクリート吹付け
のり面(写真6)など、雪がまとまって落ちると事故や
車体損傷が発生するために、自然落雪を期待してライニ
ングの採用がなされている。
写真3
超厚膜型ポリウレタン樹脂ライニング
の着氷試験
(写真左がコンクリート面
写真右がライニング面)
結果、着氷率は温度が低いほど多く、風速が高いほど
増大する傾向にあった。垂直と 60°傾斜を比べると、垂
直面の着氷率が少なくなる場合が多かった。そして、ラ
写真4
高さ制限構造物の落雪対策
5.まとめ
これからの時代は、環境、エネルギーを土壌とした産
業の育成、技術革新と意識改革が必要であると考える。
本文は滑性機能を重点に紹介したが、工法の目標は、
保護技術による構造物長寿命対策実現への挑戦である。
長期維持するには基礎理論も大切で、それが長寿命化と
なり、環境負荷軽減と省エネルギーに結び付くものであ
る。
科学技術の進歩により開発されたこの土木用塗料は、
塗料+技術で長期耐用を可能にし、加えて様々な機能性
は新分野においても期待されている。災害予防対策技術
写真5
橋梁トラスの落雪対策
もそのひとつであり、今後も雪国地方で生活する住民各
位の安全性と利便性に役立つよう望むものである。
参考文献
1) 大熊孝他:流雪溝と消流雪溝の標準的計画・設計法
に関する基礎的考察,日本雪氷学会誌雪氷 51 巻 4
号,PP.239-251,1989 年
2)富山大学理学部、㈱大塚工業:ミゼロン塗装面の着
氷試験,寒地技術シンポジウム論文・報告集 Vol.24,
2008 年
3)福井県雪対策・建設技術研究所:橋梁トラスの着雪
防止技術の研究,地域技術第 10 号報告,1995 年
写真6
モルタルのり面の落雪対策
(グレーの部分が塗装面
周りのモルタル吹付面
の雪は落ちていない。)
4)島田和久他:老朽 RC 開水路改修における表面被覆工
法の力学特性について,農業農村工学会大会講演会
要旨集,PP.580- 581,2009 年
5)大塚成太郎他:OM 水路ライニング工法によるコンク
また、コンクリート吹付けのり面等に発生したひび割
リートの凍結融解抵抗性について,(社)農業農村
れに対し、地山内部への雨水浸入防止を目的に、施工し
整備情報総合センターARIC 情報第 95 号,PP.61-65,
た事例もある。(写真7)
2009 年
積雪地では雨水浸入以外にも、融雪水の浸入や雪の重
6)大塚成太郎他:有機ライニング工法による災害予防
みが加わることが想定されるため、簡易的でもひび割れ
対策事例
補修による事前防災が必要である。
活用,ゆきみらい 2013in 秋田
無溶剤型特殊ポリウレタン樹脂塗料の
研究発表論文集,
2013 年
7)政策総合研究所:コンクリート水路の保護・補修・
長寿命化!!事前防災・事前災害に貢献する OM ラ
イニング工法,特別企画「国土強靭化推進への技術
開発」Vol.Ⅱ,2014 年
写真7
コンクリートのり面
ひび割れ補修