OECD・BEPS 行動10の討議草案の公表 グローバルバリュー

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OECD・BEPS 行動10の討議草案の公表
グローバルバリューチェーンにおける利益分
割法の使用
16 January 2015
In brief
2014年12月16日、OECDはBase Erosion and Profit Shifting (BEPS)プロジェクトの行動計画10に関して、グ
ローバルバリューチェーンにおける利益分割法の使用に係る討議草案を発表しました。
行動計画10は、移転価格税制において、第三者との間では発生しないか、発生したとしても非常に稀にしか
発生しない取引を関連者間で行うことで生じるBEPSを防止するルールを策定することに焦点を当てています。
本討議草案では、一方の関連者のみを検証対象とする独立企業間価格の算定方法(伝統的取引基準法や
取引単位営業利益法等の「片側検証の方法」)の使用が困難で、取引単位利益分割法の使用が適当と考え
られる事例について検討しています。
本討議草案に対するコメントは2015年2月6日までに募集されており、2015年3月19日、20日にパブリックコンサ
ルテーションが行われます。その後、OECDの第6作業部会で検討され、OECD移転価格ガイドライン第2章
「移転価格算定法」の取引単位利益分割法の見直しが提言される予定です。
In detail
1. 本討議草案の概要
本討議草案が取り扱っている「グローバルバリュー
チェーン」とは、多国籍企業がグローバルに展開する
事業活動におけるすべての価値創造のプロセスを指
し、製造業であれば、製品のコンセプト作りから、デ
ザインの設計、製作、マーケティング、販売、最終消
費者へのサポート等、事業全体の活動を含みます。
多国籍企業のバリューチェーンは様々な地域にまた
がり、取引単位利益分割法の使用に複雑な判断を
必要とするケースが多いため、実際には、取引単位
利益分割法(特定の関連者取引から生じる関連者に
分割すべき合算利益を識別して、その後経済的に根
拠のある基準に基づき、利益を分割する方法)はあま
り適用されておらず、ほとんどが片側検証の方法を
使用しています。しかしながら、多国籍企業のグロー
バルバリューチェーンでは、グループ内の多くの企
業が相互に携わり、貢献し合うことで、シナジー効果
を創出し、より大きな便益を生み出しており、独立企
業間価格の算定にあたり、取引単位利益分割法の
使用が適当となるケースも存在すると考えられます。
本討議草案では、グローバルバリューチェーンにお
いて、取引単位利益分割法の使用が適当と考えられ
る事例を検討しています。この結果はOECD移転価
格ガイドライン第2章に対する追加の指針に向けた提
言として反映される予定です。
www.pwc.com/jp/tax
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2. 取引単位利益分割法の使用が考えられる事例
(1) バリューチェーン
多国籍企業のグローバルバリューチェーンにおいて、グループ内の複数の企業が相互に携わり、貢献し合うことで、シナジー効
果を生み出し、個別の企業が単独で活動するよりも大きな便益を生み出していると考えられる場合には、取引単位利益分割法
の使用が適当となるケースが考えられます。たとえば、多国籍企業グループ内で複数の企業がOEM製造(相手先ブランド名製
造)を行っており、事業方針の決定や部品・完成品の供給等を共同で行っているケースが考えられます。
(2) 多面的ビジネスモデル
多国籍企業のグローバルバリューチェーンにおいて、グループ内各社が複数の機能を果たしている場合には、取引単位利益
分割法の使用が適当となるケースが考えられます。たとえば、世界中の顧客にインターネットサービスを提供するIT多国籍企業
において、現地子会社が、現地顧客向けにオンラインサービスを提供するだけでなく、広告サービスが現地のニーズに合うよう
に調整を行っているケースが考えられます。
(3) ユニークで価値のある貢献
多国籍企業のグローバルバリューチェーンにおいて、関連者双方が「ユニークで価値のある貢献」(Unique and valuable
contribution)を行っている場合、取引単位利益分割法の使用が適当となるケースが考えられます。2014年9月16日に発表され
たOECD移転価格ガイドライン第6章「無形資産に対する特別の配慮」の修正案(暫定)でも、無形資産に係る取引において、関
連者双方が「ユニークで価値のある貢献」を行っている場合には、取引単位利益分割法が最も適切な方法であるとしています。
ここでいう「ユニークで価値のある貢献」とは、事業上の競争優位に直接つながる貢献であるとされています。たとえば、テクノロ
ジー機器を製造する多国籍企業グループにおいて、親会社が研究開発を担当し、グローバルな商標等の所有・管理も行う一
方、子会社は第三者への販売活動を通じて、顧客との関係を構築し、在庫管理やアフターセールスサービスを行うことで、単な
る経常的な販売活動以上の貢献を担うことがあります。このようなケースにおいて、取引単位利益分割法の使用が適当となる可
能性があります。
(4) リスクの共有と機能の細分化
多国籍企業のグローバルバリューチェーンにおいて、事業戦略上のリスクが二者以上によって共同して管理されている場合に
は、取引単位利益分割法の使用が適当となるケースが考えられます。適用にあたっては、詳細な機能分析を通じて、事業戦略
上のリスクがどのように管理されているかを確認する必要があります。たとえば、医療機器を製造・販売する多国籍企業において、
海外の関連者2社が次世代の機器とその主要部品の開発と生産を行い、親会社が開発された新しい機器を第三者に販売して
いる場合、開発と販売の成否に係るリスクは海外の関連者と親会社の双方によって共同して管理されているといえます。このよう
な場合には、取引単位利益分割法の使用が適当となる可能性があります。
また、多国籍企業のグローバルバリューチェーン内で各社が機能を分担して事業活動を行っている場合、一つのグループ企業
は、限定的で特定された機能のみを行う場合があります。こうした細分化された事業を担当する企業に対して、同様の限定的な
機能のみを持つ比較対象企業を選定することは困難な場合が考えられます。移転価格ガイドライン第6章「無形資産に対する
特別の配慮」の修正案(暫定)では、一方の関連者が無形資産の法的権利を有し、もう一方の関連者が開発、改良、維持、保
護、利用の機能を果たし、さらにもう一方の関連者が資金を提供するように、グループ各社がそれぞれ限定された機能のみを担
う場合には、取引単位利益分割法の使用が適当となる可能性があるとしています。
(5) 比較対象取引の欠如
片側検証の方法において、信頼性のある比較対象取引が選定できない場合には、取引単位利益分割法の使用が適当となる
可能性があります。このような場合には、同じ経済環境にある別の地域に比較対象選定の範囲を広げ、合理的で適切な比較可
能性の調整を行うことにより、片側検証の方法を用いることもできるとしています。
また、片側検証の方法では、信頼性のある比較対象取引が選定できない場合、取引単位利益分割法は、片側検証の方法を補
完する方法やベンチマーキングによるレンジを確認するものとして用いられます。
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(6) 価値創造に係る課税
利益の分割要素と価値の創造には強い相関関係があると考えられ、価値創造と整合性のある独立企業間価格を算定するため
に、取引単位利益分割法の使用が検討されます。しかしながら、実際には、信頼性のある分割要因を決定することが困難であ
るため、取引単位利益分割法の使用は二次的な取扱いに留まっています。たとえば、テクノロジー関連製品の販売を行う多国
籍企業が、製造を行う子会社から製品を仕入れ、開発を行う子会社からライセンス提供を受けているとします。このようなケース
では、販売会社と製造会社はグループ全体の合算利益を配分し、開発会社に対して相応の対価を支払います。取引単位利益
分割法を使用する場合、信頼性のある分割要因を特定することが重要になります。
(7) 価値の評価が困難な無形資産
価値の評価が困難な無形資産の取引の独立企業間価格を算定する際に、取引単位利益分割法の使用が考えられます。移転
価格ガイドライン第6章「無形資産に対する特別の配慮」の修正案(暫定)では、取引単位利益分割法は、部分的に開発された
無形資産の価値算定に有用であるとしています。
(8) 想定していなかった結果
取引単位利益分割法は、想定した結果から大きく外れた無形資産取引に対して使用できると考えられます。たとえば、新製品
の開発にあたり、関連者の一社が開発を担当し、別の一社が製造を担当している場合、新製品は予定通りの販売をあげること
ができず、各社はコストの回収をすることができなかった場合、取引単位利益分割法を使用することが考えられます。
また、ロイヤルティ料率の算出に当たり、どのように取引単位利益分割法を適用するかも検討されています。たとえば、基礎開発
と開発活動の全般を行い、特許を有する親会社が、開発の後工程を担当しマーケティングを担当する子会社に対して開発した
製薬に関する特許を供与している場合、各社の負担するリスクをウェイトづけしたそれぞれの費用の現在価値により算定し、利
益の分割に用いることが考えられます。このデータに基づき、期待収益からロイヤルティ料率が算出されます。
(9) 事業損失
事業損失の配分は取引単位利益分割と区別して考えるべきケースがあると述べられています。これは取引単位利益分割の配
分要素が、事業損失の場合には適切でないことを前提としています。たとえば、同じ銀行グループに属する3行が共同でストラク
チャードファイナンスを行っている場合、利益が生じた場合には異なるウェイトづけをした多種類の分割要因を用いてこれを配
分しますが、損失となった場合の責任の負担関係は必ずしもこれとの相関関係がない場合があります。
3. 今後の検討
本討議草案では、上記の各事例に対して、取引単位利益分割法が独立企業間価格の算定方法として適用できるか、適用でき
る場合にはどのように適用するべきか、適切に適用するためにはどのような指針が必要か等を質問として挙げています。これら
の事例や質問は、取引単位利益分割法の使用において最も議論されるポイントを網羅しており、より良い解決策を模索するた
めに活用されます。また、幅広い観点から検討されることにより、納税者が直面する多種多様な状況に対してより良い解決策を
模索します。
本討議草案に対するコメントは、OECDの第6作業部会で検討され、今後OECD移転価格ガイドライン第2章「独立企業間価格
算定方法」の取引単位利益分割法の見直しに用いられます。本討議草案に対するコメントは2015年2月6日まで募集されており、
2015年3月19日-20日にパブリックコンサルテーションが行われます。
本討議草案については、以下OECDのホームページをご参照ください。
OECD/G20 Base Erosion and Profit Shifting Project BEPS Action 10: Discussion Draft on the Use of Profit Splits in the
Context of Global Value Chains(http://www.oecd.org/ctp/transfer-pricing/discussion-draft-action-10-profit-splits-globalvalue-chains.pdf)
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