ドキュメンタリージャパン煙草谷有希子さん

IDFA 特別セッション報告書
ドキュメンタリージャパン
煙草谷
IDFA 特別セッション報告書
11/22(土)
BBC Nick Fraser と DR Mette Hoffmann Meyer によるセッション
事前に、BBC の Storyville で放送された「Google and the World Brain」1 及び
「Brakeless」2、そして DR の新作「Democrats」3(今回の IDFA で初上映)
を見た上で、それぞれの制作秘話やなぜその企画が採用されたのかなどをお話
しいただきました。
「Google and the World Brain」は、Nick と何度か組んだことのある Ben Lewis
という監督の作品。当初は、
「Copywrong」というタイトルで、ネットでヒット
曲を勝手にシェアしている謎の人物に迫る、という内容だった。しかし、Nick
はそれでは全く売り物にならないと諭し、更なる調査を進めると、Google が著
作権のある書籍もデータ化しているという事実を突き止めた。構想から 2 年か
けて完成。オフライン編集期間は 12 週間。
プロデューサーとして Nick が大切にしたのは、「何が面白いのか」を常に監督
とやりとりすることだった。「Google and the…」も、どうすれば面白い内容に
なるか 4〜5 ヶ月議論を重ねた。そして制作中も今どういう状況なのか、どの方
向に進もうとしているのか、を確認しながら進めたという。企画段階から撮影
する内容、構成が変化することは構わないが、
「何が面白いのか」という視点が
ブレないことが大切。
(例として「Small Town Ecstasy(2002 年・米)」という、
MDMA にハマった父親とその子どもたちを追った作品をあげていた)
また、この作品のように様々な登場人物が出てくる場合、自分の意見と合うこ
とを話してくれる人を見つけることが大切。その人物が作品全体の導き役にな
ってくれるから。
企画のプレゼンに必要な書類について、Nick 自身は撮影台本(Shooting script)
を必要としないが、必要とする人もいる。但し、Google……のように込み入っ
た作品の場合は、編集している内容を台本に書き起こす方が、方向性が見えて
良い場合もある。
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提案書を書く場合、これも人によるが、Nick は 3 ページ以内が好もしい。しか
し、フランスの TV 局は 30 ページ以上要求してくる。
「Brakeless」は、日本の列車が時刻通りであることが重要視されている事実と、
なぜ日本人はより速さを求めるのかを追求する内容で、JR を非難する内容でな
かったことが評価されている。現代社会をテーマにしたものは常に求められる
題材。
※日本の企画をヨーロッパで見せるには
日本のサブカルチャーや東京で暮らすとはどういうことか、働きづめのサラリ
ーマンの実態など、日本には興味を引く題材は多くある。重要なのは、作品を
通して本当にその国の社会について理解することができるか?という視点。
日本では当たり前のことでも、まだまだ海外では知られていないことが多い。
海外ではどのように日本が報道されているのかを知るのも重要な手がかりにな
る。例えば、ニューヨークタイムズ紙を読めば、記事にされないトピックは必
ずあり、「知られざる日本」は企画になる可能性を持つ。
三宅響子さんの次回作「Tokyo Girls」はアングラのアイドルシーンとそこに集
うファンたちを追ったもの。日本では当たり前のアイドル産業は、海外ではま
だ知られていない。そこに新たな日本を知る余地がある。
「Democrats」は、ジンバブエで民主化を進めるために新憲法を作ろうと奮闘
する、2 人の対立政権の政治家の様子を 3 年間追いかけたもの。この作品の監督
Camilla Neilsson は大学で人類学を専攻した女性で、映像制作の経験はほとん
どなかった。
この題材がニュース/報道ではなく、ドキュメンタリー作品になったのは、
対立する 2 人がそれぞれ置かれた立場でプレッシャーをかけられていく様子が
しっかりと捉えられているから。それは、Camilla の人類学者としての視点に
因るところが大きかったかもしれない。
デンマークでは、制作中に、他の編集者や同僚などに試写をしてもらって意見
を交換するという文化がある。同じ職業の人間の別の視点を聞くのも大切。
1Google
and the World Brain 書籍のデータ化及びネットでアクセス可能にするシステムにおい
2
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て、Google が著作権のあるものも、許可を取らずにデータ化していることが判明して、様々な
知識者がそのことについて語る、というもの。25 カ国に売れた。76 分、80 分、100 分版を制
作
2Brakless
JR 福知山線の脱線事故を、なぜ日本社会が時間を守る几帳面さを重要視するように
なったのか、という視点から捉えた作品。
3Democrats
独裁政権の続くジンバブエでの民主化への動きを、新憲法の作成に取り組む 2 人の
対立する政治家を追い続けた作品。
11/23(日)
ITVS Claire Aguilar、CAT&Docs Catherine LeClef、LIC China Steven
Seidenberg 各氏によるセッション
Claire Aguilar
『ドキュメンタリーストーリーテリング』
(フィルムアート社)をテキストに主
に構成を書く際にどのような要素が必要かをお話しいただきました。
その前に、ITVS の紹介として、20 年の歴史があり、全体の 9 割がドキュメン
タリーへの助成である、ということでした。
物語性のあるドキュメンタリーとは、個性的な登場人物(strong character)と
3 部からなる物語で構成されるドキュメンタリーのこと。
アークについて
どのように話が始まり、クライマックスがどこにあり、そしてどう終わるか、
その構造のこと。
例えば、ローラ・ポイトラスの「シティズン・フォー」4 は、香港のホテルで数
日間行われたインタビューを撮影したものが中心を成すドキュメンタリー作品。
それでもきちんと「アーク」がある。
物語の「アーク」はどこにあるのか?と聞かれた場合、答えるべきことは 2 つ
で、1 つはどのようなエンディングなのか、2 つ目は物語の主軸は何なのか。重
要なのは、どの時点で(何が撮れたら)撮影を終了しようと思っているのか、
が分かっていること。
例え物語が見つかっていないとしても、構成は頭に思い描けている必要がある。
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ログライン、シノプシス、トリートメントについて
ログラインは、作品のあらすじを1つの文章(one sentence)で表したもの。
シノプシスは、ログラインをより具体的に何が起こるのか、を書いたもの。
トリートメントは、撮影スタイルや視点、そして登場人物の紹介などを書く。
例)この作品は「…………なスタイルで撮影」。構成は 40%がインタビュー、
60%が起こっていることを撮影(live action)…など
トリートメントを読めば、どのようなビジュアルスタイルの作品になるのか、
が見えるよう詳しく説明してあると良い。
トリートメントは、自分が作品を通して何を取り扱おうとしているのか、を明
確にする作業。
様々なフェスティバル in USA
South x Southwest…テキサス州オースティンで開催、毎年 3 月
Full Frame…ノースキャロライナ州
Telluride…コロラド州
4Citizenfour
米国家安全保障局を告発したエドワード・スノーデンのインタビューを撮影したド
キュメンタリー。
Catherine LeClef
主にどういう方法で配給先を見つければいいのかなど、お話しいただきました。
その前に CAT&Docs では、人々の目を開かせるドキュメンタリー、何が重要な
のか、人々に考えるきっかけを与えるような作品を求めている、とのことでし
た。
自分の作品をより多くの人に見てもらうには
下記の3つの方法がある。その場合、尺が変わってくる。
1. 映画祭に応募する場合は、Feature-length(長編)が好まれる
2. 映画館での上映を目指すなら 90 分以下が好ましい
3. テレビ放送は 52 分くらい
自分に合ったセールスエージェントをどう見つけるか?
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だいたいの配給会社は、一つの作品を2〜5年間担当する。彼らの仕事は担当
地域の劇場配給会社に連絡してくれる。
Window( 映 画 の 特 定 の 媒 体 に お け る 利 用 権 を 行 使 し う る 期 間 ) や MG
(minimum guarantee / 最低保証)、手数料などの条件にも気をつけるといい。
CAT&Docs の手数料は 30%だが、35%〜40%とる会社もある。
CAT&Docs は制作段階から関わることもあり、
「Tea Time」5(IDFA Bertha Fund
にて€15,000 の助成金を受けて完成、IDFA2014 で上映)では、ラフカットを 10
回試写した。
頼れるネットワークを持つ
様 々 な 情 報 を 持 っ て い る と こ ろ と し て 、 EDN (European Documentary
Network)が非常に役立つ。登録には年会費がかかるが、ドキュメンタリー制作
に必要となる国境を越えた資金調達(funding/financing)や共同製作、配給な
どについてコンサルティングを行ってくれる。
※ 別途 EDN のディレクターPaul Pauwels さんに会いましたが、日本の制作者
ともつながっていきたいと思っている、と話していました。
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Tea Time 60 年間にわたり毎月のお茶会を続ける女性たちの話。2011 年に IDFA Forum にて
ピッチング、制作及びポスプロ費用の助成金を IDFA Bertha Fund から受けることになったよ
うです。チリの作品。
Steven Seidenberg
アジアの企画をヨーロッパの視聴者向けにどう適合させるかをテーマに、Steve
さんが非常に苦労したという「Dead Men Talking」を中心にお話しいただきま
した。
ヨーロッパの視聴者とは
まず、ヨーロッパの視聴者と一口に言っても非常に細分化されていることを知
る必要がある。例えばイギリスの Channel 4 は若者や都市部に住む知識層など
を主なターゲットにした番組が多い。そして BBC は、BBC One、BBC Two、
BBC Three、BBC Four の 4 つのチャンネルがあり、それぞれターゲットが違
っている。
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(One: 大衆向け
Two:知的・教養番組
煙草谷
Three:30 歳以下の若者向け〈実際に
は 25 歳以下〉Four: 中流階級、高学歴で 60 歳以上を対象、Storyville が放送
されるのもこのチャンネル )
つまり、どのチャンネルに提案をするかによって提案書の内容が変わってくる
ので、事前にピッチする局の番組のターゲットを調べておくことはとても重要。
また、IDFA はクリエイティブドックス (Creative docs)を多く扱うことで有名
だが、これはディレクターの思い主導(author-driven)で作られるドキュメン
タリーのこと。
「Dead Men Talking」は、中国の死刑囚たちをインタビューするという異色の
番組で、ピッチをした当初は“プロパガンダ番組だ”と言われて相手にされな
かった。
完成した番組は最終的にアメリカの PBS 1(?)が配給することになった。PBS を
頼ったのは、ここが OK を出せばそれはプロパガンダではないという証明につ
ながるから。
このケースのように、どの視聴者に届けるのがベストなのかを熟知している人
物に相談すると良い。
「The Last Little Train」は、ドイツ NRD との国際共同製作をした中国の機関
車のドキュメンタリー。NRD 側は、登場人物のインタビューが過去形で話して
いるのが気に入らず、撮り直しとなった。
中国版は物語性の強い作品となり、ドイツ版はより情報性の強い作品となった。
多くの場合、アジア圏のドキュメンタリーは情報性が重要視される傾向が強い。
例えば、「サルが雪の降る中、凍えている」という映像に対して日本では、気
温をテロップ表示する。ヨーロッパでは、寒いのは映像から十分に伝わってく
るので気温のテロップは必要としない。と言う違いが生じる。
これは、ヨーロッパでは情報を一方的に与えられるのを好まず、ドキュメンタ
リーを見ながら自分で発見したいと思っている。自分で理解しながら見たい気
質がある。欧米人は、映像が物語を語るのを好む。
アジアとヨーロッパではこういう違いがあるので、それぞれの市場をよく理解
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煙草谷
しているスタッフをコープロデューサーや編集マンなどとしてチームに入って
もらうのがベスト。放送を行う国の事情に詳しい人と組むことを進める。
日本の企画をどう通すか
三宅響子さんの「Tokyo Girls」はアイドルを通じて日本が見えてくる構成にな
っている。「Brakeless」も、列車事故を通して日本人はなぜいつも電車に押し
込まれているのか?が初めて伝わってくる。
最後に、国際共同製作を望む場合、まずはその国の局の人間にコンタクトをと
るとよい。なぜなら、彼らが方向性の合う製作会社のプロデューサーを紹介し
てくれるから。
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