調達購買マネジメント実現による企業価値の向上

調達購買マネジメント実現による企業価値の向上
2006 年 1 月
目次
1.調達購買マネジメントが必要となっている背景 ................................................ 1
1.1 調達購買業務の 5 つのモデル ...................................................................... 2
分散購買モデル ........................................................................................... 2
集中価格交渉モデル..................................................................................... 2
全社集中購買モデル..................................................................................... 2
企業グループ集中購買モデル ........................................................................ 3
開発購買コラボレーションモデル ..................................................................... 3
1.2 調達購買マネジメントと企業の戦略目標.......................................................... 4
2.調達購買マネジメントの構築・定着 .............................................................. 5
2.1 調達購買マネジメントとは何か?.................................................................... 5
2.2 戦略購買サイクルの構築と定着 ..................................................................... 6
分析プロセス ................................................................................................ 6
評価プロセス ................................................................................................ 8
ソーシングプロセス ...................................................................................... 10
購買実行プロセス........................................................................................ 11
3.調達購買マネジメントを支えるインフラ .........................................................13
3.1 調達購買マネジメントにおける購買部門のあり方 ............................................ 13
3.2 調達購買マネジメントにおける購買パーソンのあり方 ....................................... 14
3.3 調達購買マネジメントを支えるITインフラ ....................................................... 16
購買実行プロセスにおけるITインフラ ............................................................. 16
ソーシングプロセスにおけるITインフラ............................................................ 17
4.まとめ .....................................................................................................19
【株式会社 アジル アソシエイツについて】 ......................................................21
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1.調達購買マネジメントが必要となっている背景
2005 年 8 月に弊社が実施したアンケートによると、8 割を超えるマネジメントが「調達・購
買部門を戦略的な機能として位置づけ、改革を重点的に促進したい」と答えている。一方で、
「自社の購買部門が期待される成果をあげていない」と、厳しく評価しているマネジメントが 5 割
を超えている。また 9 割を超えるマネジメントが「コスト低減活動の強化による収益力の向上」を改
革の方向性に掲げており、厳しい経営環境において、マネジメントが調達・購買部門に対してよ
り密接な収益への貢献を求めていることが伺える。(図1、2 参照)
(図1)購買・調達業務の今後の方向性
(図 2)経営的な課題に対する購買・調達業務の現状
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1.1 調達購買業務の 5 つのモデル
弊社ではこれまで様々な企業の購買改革を支援させて頂いたが、そうした経験を踏まえ
て、企業の調達購買業務はその進展度により以下の 5 つのモデルに分けて見ている。(図 3)
(図 3)調達購買業務の 5 つのモデル
分散購買モデル
購買機能が社内で確立されておらず、各ユーザがその時に必要になったものを場当たり
的に購入し、数多くのサプライヤから手間を掛けて少量ずつ調達している。よって価格交渉が行
われるにしても、品目毎、ユーザ毎に個別に価格交渉が行われ、労力を掛けていたとしてもサプ
ライヤから適正な価格が引き出せていない。
集中価格交渉モデル
初歩的な購買機能が立ち上がり、事業部や事業所単位と、ある程度まとめて価格交渉が
行われる。価格交渉に購買データが使用される様になり、事業部・事業所単位で契約、期間も
年契約にまとめられる様になる。カタログ購買システムの導入も一部の企業では実施される様に
なる。しかしそのスケールメリットによる購買力は限定的で、且つ社内統制も利かず契約外購買
が止まらないといった要因が更に集中価格交渉で得られるはずのスケールメリットを減少させて
いる。
全社集中購買モデル
事業部や事業所を超えて企業レベルでの需要をまとめた形で交渉、契約が行われる。
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全社の購買データが統合され、それを用いた支出分析に基づきサプライヤとの交渉が進められ
る。またこの段階では購買機能の能力が高くなければ務まらず、サプライヤの絞込み、購買プロ
セスの改革と標準化、ベンチマークといった先進的な購買改革の手法が用いられる。
企業グループ集中購買モデル
一企業の枠或いは国境を超え、企業グループやグローバルレベルで需要がまとめられ
交渉、契約が行われる。ローカルとグローバルのバランスは各企業グループにより異なるものの、
企業グループやグローバルの購買機能が一つの統合された組織にまとめられる。合わせて企業
グループ全体或いはグローバルでの購買データの統合や調達購買システムのグループ、グロ
ーバルへの展開が進む。
開発購買コラボレーションモデル
部品統合と設計への部品推奨、サプライヤからの提案の活用が推進される。コンポーネ
ントサプライマネジメントシステムを通じて全社での購買部品・技術データの統合及びサプライヤ
管理、開発購買が進められる。
日本では、90 年代後半に米国を追随する形で、購買改革が一時的に大きく採り上げら
れた。その一つの波は大手外資系企業で、これらの企業では親会社からトップダウンの形で企
業グループ集中購買モデルの導入が進められた。もう一つの波は日本の名門製造業を中心と
するもので、集中価格交渉モデルから全社集中購買モデルへの転換が図られ、購買システム導
入を梃子としてモデル転換が進めるというものであった。ところが、後者においては、設計と購買
或いは各事業部門といった部門の壁を越える形ではなかなか購買改革が進展しなかった。そう
したところに企業業績が一段落し、当時の一時的な改革の熱は冷めてしまったかの様に見受け
られる。こうした現状を鑑みると、これまでの購買コスト低減の取り組みや、巷で購買改革と呼ば
れていたものは短期的な収益改善の手段としての場当たり的なものが多かったのではないかと
危惧される。
一方で、希望が持てる動きもある。既に購買改革に着手した企業の幾つかは、地道なが
ら継続的に改革を進めている。また、通信や流通等の成長企業や非製造業の中から、90 年代
後半に発達した調達購買業務の新しい考え方を採り入れる企業が出てきている事である。これ
らの成長企業はこれまでは集中購買という概念さえなく、分散購買モデルに留まらざるを得なか
ったが、収益力強化や昨今の株主からの株価上昇の期待に応えるために購買改革に着手し、
一気に企業グループ集中購買モデルや開発購買コラボレーションモデルへの転換を図り、更な
る成長を図っている。
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弊社は初期の購買改革の波が起こった時から皆様の購買改革を支援させて頂いたが、
弊社が支援させて頂いているのは、幸いにも、一時的な流行に踊らされずに現在も継続して改
革の灯を絶やさない、という心意気のある企業の方々となっている。弊社も同じ思いでお手伝い
しているが、弊社が提唱している購買改革は、単にサプライヤを締め付け買い叩く事により短期
的なコスト削減を図る事でも、システム導入に終始する事でもなく、企業の購買能力を向上させ、
直接的に企業価値及び評価を高める為の業務に変革していく、調達購買マネジメントを構築、
定着させることである。
これまでのコスト低減活動は短期的な収益改善の手段として品目単位でのコスト削減とし
て語られる事が多く、なかなか経営者の視点で語られる事が少なかった。そうしたコミュニケーシ
ョンでの問題が、購買部門のコスト低減への日々の努力やその成果を、「購買部門があれだけコ
スト低減したと言っているのに、業績は向上していない」といった経営者から見て分かりにくいも
のにしてしまい、経営者の購買業務に対する関心の低下や、先述の期待外れの成果、につなが
っていることは否めない。
1.2 調達購買マネジメントと企業の戦略目標
果たして購買部門の改革活動は企業の戦略目標と合致していないのだろうか。決してそ
の様なことはなく、企業価値及び評価の向上を調達購買マネジメントの目的と位置づけ推進して
いくことにより、企業は購買業務や購買部門を企業の戦略目標に密接に結びつけることができ
る。
例えば、購買業務がしっかりマネジメントされていれば、不要な支出を抑え、外部支出を
最適化し、事業コストは削減されている。ニーズ・シーズが高度化し、一社単独での製品・サービ
スの提供が難しくなる一方だが、購買部門は力のあるサプライヤを発掘し開発段階から巻き込
む事で、魅力ある製品・サービスの開発やそのチャネルづくりで貢献していくこともできる。調達
購買業務の中でも、コア業務とノンコア業務を見極め、IT やアウトソーシングを活用することによ
り業務を効率化することで、経営資源の有効活用への貢献が可能となる。これらは全て直接的
に企業価値を向上させる要素である。そして、こうした改革のスピードを上げ、成果の刈り取りを
前倒しにしていくことは、改革の成果の現在価値を高める事になり、更に企業価値を向上させる。
グリーン調達、CSR(社会的責任)調達を進めていく事や、取引先の決定∼検収∼支払と金銭の
やり取りに関わる購買業務でコンプライアンスや業務管理を徹底していく事は、ひいては企業ブ
ランド、評価の向上につながっていく。
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資本市場の経営に対する影響力は大きくなっている。企業価値及び評価の向上はその
資本市場からの要請でもあり、企業の究極的な目標でもある。ここで実際の企業を基に作成した
財務モデルを通じて、調達購買マネジメントの具体的な企業価値へのインパクトを検証してみよ
う。
ここに売上高 2,000 億円、営業利益率 3.25%、総資産 1,330 億円、ROE5.5%、株価
2,350 円の企業を想定する。
z
調達購買マネジメントを通じて 2 年間掛けて間接材全体の支出を 5%低減させると、
キャシュフローが改善し、株価が 289 円(12%)上昇する。
z
ノンコア業務のアウトソーシングを通じてそのオペレータや IT 資産を 2 年後に 12 億
円圧縮すると、ROE が改善し期待成長率が高まり、株価が 27 円(1%)上昇する。
z
サプライヤとの協業により製品や売り場の魅力を高め、顧客への訴求力向上を図っ
た結果 2 年後に売上が 10%増加すると、キャッシュフローの増加と ROE 改善による
期待成長率の上昇の二つの相乗効果で、504 円(19%)株価が上昇する。
z
改革を加速させる事でこれらの改善効果を 1 年前倒しで引き出す事ができれば、改
善効果の現在価値が高まる為、もともとの改善効果による上昇後の株価 3,713 円か
ら更に株価を 187 円(6%)引き上げる事ができる。
この様に、調達購買業務は経営者の戦略目標の達成に直接関わるものである。但し、こ
こで見てきた様に、経営者の目標達成には短期的な品目単位でのコスト低減では不十分であり、
調達購買マネジメントの構築・定着がその条件となる。それでは具体的には調達購買マネジメン
トとはどういうものなのか?次章でそれについて説明している。
2.調達購買マネジメントの構築・定着
2.1 調達購買マネジメントとは何か?
調達購買マネジメントとは、戦略購買サイクルの構築および定着を行うことである。分析
∼評価∼ソーシング∼購買実行の業務プロセスからなるプロセスを整え、それだけでなく、それ
を回すエンジンとなる、購買戦略、人・組織、IT インフラ、部門・スタッフの業績評価システムを整
備する。(図 4)これらのエンジンを用いて、継続的に戦略購買サイクルの水準を高めていくこと
で、企業の購買能力を向上させること、この一連の活動が調達購買マネジメントであり、ここまで
行って初めて購買業務を直接的に企業価値・評価の向上に結びつけることができる。
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(図 4)調達購買マネジメントの概念図
つまり調達購買マネジメントは、既存の購買部門を短期的なコスト削減目標の達成や、
個別の品目を安く調達する役割にとどめず、組織的かつ継続的に企業に競争優位をもたらす機
能に変革していくことにつながる。
ここでは、経営者の方々が調達購買マネジメントを推進していく上での参考となる様、ま
ず戦略購買サイクルとその構築に向けた課題と解決方策について俯瞰し、次いで、調達購買マ
ネジメントにおける部門・スタッフのあり方や、プロセス、IT インフラについて述べる。
2.2 戦略購買サイクルの構築と定着
分析プロセス
分析プロセスで行うべきことは、支出分析、コスト分析、コスト削減機会の抽出、品目別購
買方針の定義である。支出分析では、まず自社の購買実績をサプライヤ別、品目別、部署別等
の切り口で分析する。コスト分析では、見積明細にある情報等を用いて、コスト構成要素毎の単
価や仕様の違いによる単価の違い、ベンチマーク等を用いて、より詳細に現在の単価が適正な
ものか否かを確認する。コスト削減機会の抽出では、これらの分析で得られた情報を基に、実際
のソーシングに掛かる手間とそこから期待されるコスト削減額のおおよその見込みから、どの品
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目に対して改善を図っていくかの優先順位付けとそれらの選別を行う。そして、品目別購買方針
の定義で、選別された品目に対して、それぞれ業務効率化やコスト低減方策といった改善の方
向性を示す購買方針を作成する。
分析プロセスにおける主な課題(図 5)は、多くの企業で購買状況や購買コストの分析が
殆ど行われていない、もしくは分析のための分析になっていることである。そこには支出データが
どれだけコスト削減機会の抽出に役立つのかが認識されておらず、そもそも実績データを蓄積し
ていない、データを改善機会の発掘の為にどの様に分析してよいのか分からない、分析スキル
持つ人間が居ない、或いは居ても分析をする時間がないといったことがある。
(図 5)分析プロセスの課題と解決策
購買システムを導入しておらず、実績データを取得できない場合には、まず利用可能な
データで分析を行うことが必要である。経理データといった現在利用できるデータで、どの様な
品目にどれ位支出しているかの大まかな把握から始めれば十分である。社内のデータを補完す
る上で、主要な取引サプライヤからデータを入手する手段もある。精度の高いデータが無いと先
に進めないという考えを捨てることがまず大切である。データを改善機会の発掘の為につなげら
れないことについては、分析担当者の育成またはバイヤーの分析能力向上が対策となる。社内
でそうした対応が取れない場合には、外部の専門機関に研修を委託するか、外部からそうしたス
キルを持つ人材を採用する方法がある。社内にそうした人材を抱える余裕が無い場合には外部
の専門家に委託する方法もある。この様に、社外リソースを上手く使いながら分析能力を確保し、
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分析の手法と実施するタイミングを確立、継続して分析し改善につなげていくことで、分析プロセ
スが定着していく。
評価プロセス
評価プロセスでは、まずサプライヤ評価制度を確立し、その評価方法と購買実績に基づ
いて、しがらみに捉われずに客観的にサプライヤを評価することが中心となる。合わせて、実際
の評価で優良なサプライヤを推奨サプライヤまたは認定サプライヤとし、取引をこれらサプライヤ
に絞り込んでいく推奨サプライヤ制度の導入や、新規サプライヤの開拓を行い、優良なサプライ
ヤの開拓・育成やそれらとの取引拡大を図っていく。
サプライヤ評価制度の確立では、分析プロセスで抽出された品目を中心に、サプライヤ
評価を行う材と材毎にサプライヤの評価項目を決定する。例えば、品質に関しては不良率やサ
プライヤの品質管理体制、納期に関しては納期遵守率やサプライヤの生産管理体制等を評価
項目とする。そして、これらの評価項目のウエイトと採点方法を決め、サプライヤ評価の枠組とす
る。これと並行して、実際に各項目を評価する評価者を決定し、実績情報の取得、サプライヤか
らの情報入手、採点、評価といった評価プロセスを確定する。こうして出来上がったプロセスに従
ってサプライヤを評価し、それらを文書化し誰もが見えるように可視化することにより、サプライヤ
評価を制度として確立させる。
サプライヤ評価ではそうして作られた制度に基づきサプライヤを評価していく。まず、材
の市場動向、需給状況、サプライヤのマーケットでの地位といった市場情報の収集、分析から始
まる。既存サプライヤの場合は、購入単価に加えて、社内関連部門よりサプライヤの品質情報等
を収集し、サプライヤからは、財務状況、品質管理体制、生産管理体制、技術、主要販売品目、
開発ロードマップ等の情報を収集する。社内関連部門の協力を得て、これらの情報を評価する。
サプライヤの経営安定性が特に問題になる場合には、サプライヤの財務情報等の情報につい
て専門の調査機関から情報を入手する方法もある。 さらに、主要材料を供給しているキーサプ
ライヤについては、品質管理部門、製造部門、購買部門がサプライヤを訪問して監査を実施す
る場合もある。
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(図 6)評価プロセスの課題と解決策
評価プロセスにおける課題(図 6)としては、①サプライヤ評価の仕組みがないため評価
が行われていない、或いは限定的であること(例:主要直接材についてはサプライヤ評価を実施
しているものの、間接材についてはほとんど実施していない)、②購買実行データに基づき、評
価が定期的にアップデートされていない、③サプライヤ評価の枠組みが無い為、新規サプライヤ
との取引に手間とリスクがつきまとい、なかなか開拓が進まないといったことがある。
そのため、評価の枠組みとプロセスをきっちりと定め、サプライヤ評価制度として誰もが効
率的に行える様にすることが、実データによる生きたサプライヤ評価と新規サプライヤの開拓に
つながっていくのである。
また、このプロセスでは、サプライヤとのコミュニケーションも重要となる。具体的には、サ
プライヤへの評価情報のフィードバックとサプライヤからの調査である。評価情報をフィードバッ
クし、改善を促していく活動はもちろんのこと、サプライヤから常に新技術や得意分野、品目別の
マーケット状況、自社に対する要望事項等を吸い上げる仕組みを持つことによって、次のプロセ
スであるソーシングのネタを発掘することにもつながる。
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ソーシングプロセス
ソーシングプロセスでは、上述の社内購買実績データの分析結果やサプライヤの評価結
果に基づき、品目別にどのようなにコスト低減や品質向上、サービスレベル向上等を図っていく
か、どのサプライヤに対してどういう形でソーシングを行うのかという品目別ソーシング方針を策
定する。例えば、①都度購買品を継続購買化し、年度毎の契約等の契約購買化にもっていく、
②サプライヤに対する交渉力を強める為に、既存取引の集約によるソーシング対象の取引金額
を増加させる、③新規サプライヤの導入による競合環境の創出等によってより有利な取引条件
を引出す、④戦略部品に関しては、パートナー企業の新技術の取り込み、共同開発等を実施す
る、⑤汎用部品に関しては、標準化、規格化を行う、等が考えられる。
ソーシングの実行にあたっては、最低でも複数のサプライヤからの相見積の実施や見積
明細を取得した上でのコスト分析に基づく査定を行い、必要に応じて、手順を踏んでより詳細な
情報をサプライヤから取得し評価していくプロセスを踏み、絞込みを行っていく。
日本ではこのような手順を踏んだソーシングの取り組みは、一部の先進的な企業や基幹
部品等の一部の品目についてのみ行われるに留まっている。その原因としては、①サプライヤを
設計者や要求者が一方的に決めてしまう等、ソーシング活動に必要な関連部門の協力が得ら
れていない、②ノウハウがないためソーシングプロセスが整備されていない、③サプライヤとの力
関係のみに頼った短期的なコスト削減に注力しすぎて、品目別ソーシング方針が立てられてい
ない、といったことがあげられる。(図 7)
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(図 7)ソーシングプロセスの課題と解決策
こうした課題を解決していくには、ソーシング実行手順をプロセスとして予め規定し、見積
書のテンプレート化等、どの担当者が実施しても同じ成果が出せる様に標準化していく必要が
ある。そして、OJTによりプロセスに沿って戦略ソーシングを実行させ、身に着けていく。
最近では、仕様・見積のやり取りや交渉業務をシステム化した e-RFQ やリバースオーク
ション等のソーシングツールが普及し始めており、円滑に且つより高度なソーシングプロセスの
整備、標準化が可能になっている。或いは、材によっては外部のプロフェッショナルバイヤーに
委託した方が、バイヤー育成の手間も掛からず適しているケースもある。
購買実行プロセス
購買実行プロセスで重要なのは購買管理を進めていく事である。購買管理とは契約購
買、カタログ発注、推奨サプライヤへの相見積りの義務付け、都度見積品目の購買承認の義務
付け等、品目別に定められた購買方針に基づいて発注を行うことである。購買方針やソーシン
グは定められた通りに要求元が発注することを前提としているため、ここが崩れてしまうと取引量
がまとまらない等により、購買方針策定時に見込んでいたコスト低減が実現しない。
次いで重要なのが、コンプライアンス確保の為、購買申請、発注、検収、支払業務の役
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割分離により、内部統制を確保することである。また、品目別の購買データを蓄積し、次のサイク
ルの分析プロセスにつなげていく事も忘れてはならない。
購買実行プロセスでは、①管理購買ができていない、②購買システムは導入したものの、
一部品目のみの導入にとどまっている、或いは契約外購買が多い、③購買申請、発注がシステ
ム化されておらず、手書き伝票が残っている、④購買システムはあっても、契約締結業務、納品
確認、請求業務はマニュアル処理でまだまだ工数が掛かっている、⑤内部統制、コンプライアン
ス確保が充分でない、⑥購買システム導入を検討するも、高額で且つ投資効果も不明のため、
投資を決断できないでいる、といった課題があげられる。(図 8)
(図 8)購買実行プロセスの課題と解決策
管理購買を実行していくには、規定外の購買申請については認めないといった強い姿
勢が必要である。申請、発注業務をワークフローを用いてシステム化すると、単なる業務の効率
化のみならず、内部統制の確保も合わせて推進することが可能となる。また、システムの適用品
目範囲を広げていく事により、品目別の購買データが手間を掛けずに収集でき、戦略購買サイ
クルの定着を促進することにもつながる。
購買システムの導入の決定や導入範囲を広げていくには、支出分析や購買プロセス分
析を行うと、おおよその改善機会がつかめるので、費用対効果を予め検討できる。また、購買シ
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ステムにも購買業務に特化した比較的安価なパッケージソフトや ASP(Application Service
Provider)タイプの使用料課金のシステムも存在する為、効果に見合った投資でのシステム化が
できる様になりつつある。また、システム導入効果のプロモ-ション活動が購買システムの導入範
囲を広げていく上で有効である。システムの導入範囲の拡大は管理購買、内部統制の浸透、外
部支出の捕捉金額の拡大による更なる改善機会の発掘にもつながる。納品確認や請求業務等
の煩雑でコアでない業務やシステムの投資・運営コストといった課題に対して、今後はシステムも
含めたアウトソーシングが購買業務でも普及していくことが予想される。
3.調達購買マネジメントを支えるインフラ
3.1 調達購買マネジメントにおける購買部門のあり方
経営者の意を受け、こうした課題を乗り越え、戦略購買サイクル構築・定着にあたり、企
業の購買能力を高め、購買業務を通じた収益への貢献を効率的に行っていくのが、これからの
購買部門の役割である。よって、①コスト低減による収益への貢献、②調達購買マネジメントの
推進、③この二つの業務の実現が、これからの購買部門の目標になる。
これらの目標実現に向けては、部門のパフォーマンスを客観的に評価できる様にするこ
とが、部門長にとっても、経営者にとっても有効である。購買部門長、部門スタッフにしてみれば、
ただやみくもに努力するだけではなく、自分達が目標に対してどこまでできていて、どこが足りな
いのか、どこを軌道修正すべきなのかが明らかになっていないと、なかなか目標達成は難しい。
一口にコスト低減といっても、これまではその算出方法が曖昧であったり、購買部門独自
のものであったりして、実際の業績と全く連動しておらず、購買部門の活動を正しく反映していな
いケースが多く、いったい購買部門が何をやっているのかよく分からないという声も多く聞かれ
る。
予め購買部門の目標設定の際に、経営者、財務部門、購買部門の三者が購買方針や
サプライヤ戦略、コスト低減額の算出方法、目標額をすり合わせた上で、購買業務を遂行するこ
とにより、事業戦略や業績目標と購買部門の目標や業務が一致し、直接的に購買業務を通じて
収益に貢献できる。調達購買マネジメントの推進については、実際どれだけの購買業務が戦略
購買サイクルに基づいて遂行されているのか、管理購買がどれだけ進められているのか、内部
統制とコンプライアンスの確保がどれだけ為されているのか、購買プロフェッショナルの育成がど
れだけ図られているのか、といった項目を客観的に評価できる指標に置き換える事により測るこ
とができる。
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これまでの購買部門は経営者や他のトップマネジメントに対して、購買部門の目標や活
動状況、または管理購買の為の他部門からの協力等、その達成の為に克服しなければならない
課題や経営陣からの必要な支援について、客観的な論理、データ及び言葉で十分なコミュニケ
ーションが取れていなかったことが問題点としてあげられる。その克服の為にも、経営者や他のト
ップマネジメントと購買部門との購買部門戦略やコスト低減目標とその進捗状況についての客観
的な情報に基づくコミュニケーションが必要である。
厳しい競争環境に置かれている現在の企業においては、業務水準を向上させつつも、
業務効率化を追求していかなければならない。業務の標準化や電子見積・ソーシングツール、
購買システム、外部の購買プロフェッショナル等を上手に活用して、より少ないスタッフでより大き
な成果を上げられる様に常に図っていくことが、購買部門にも当然求められている。業務効率に
ついても、部門予算対購入件数・購入金額、バイヤー一人当たりの購入件数・購入金額、申請
受付から発注までのリードタイム等の指標を用いて定期的に測定し、改善が進んでいなければ
その対応を図ることにより、業務効率は向上していく。
一方で経営者は、購買部門が期待以上の成果をあげる為に、正しい目標設定と部門評
価が不可欠であることを忘れてはならない。現状は、評価項目や仕組みが定められていない、コ
スト低減額の算出根拠で経営者と購買部門とで意見が分かれる、バイヤーのスキル評価が第三
者には難しいといった課題が多く、未だ購買部門の評価を確立している企業は多くない。
もし経営者が調達購買マネジメントを実現したいと考えるならば、購買部門評価方法の
標準化、ベンチマークデータの収集、第三者評価機関による評価等を活用して、自社なりの購
買部門評価の仕組みを作る必要がある。
3.2 調達購買マネジメントにおける購買パーソンのあり方
調達購買マネジメントにおいては購買部門の果たす機能が高度化し、購買パーソンに期
待される役割はこれまでの交渉や契約書作成といった購買実務にのみならず更に高まっている。
例えば、一つには分析プロセスでの購買実績データの分析、評価プロセスでの対面するサプラ
イヤのマーケット分析やサプライヤ評価、ソーシングでの見積もり評価といった分析・評価スキル
がある。また分析、評価、ソーシング、購買実行それぞれをプロセスとして整備していくスキルも
必要になっている。また、購買業務をIT化する機会も増え、購買パーソンには購買システムの評
価・選定から、ツールを業務にうまく落とし込んでいく業務企画、システム設計能力も期待されて
いる。品目別購買方針やソーシング方針といった戦略立案スキルも求められている。更に、それ
らの戦略を展開していくにあたり、サプライヤや社内の要求元部門等利害関係者に新しい業務
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のやり方を受け入れてもらうべく調整し、抵抗があまりにも激しい時には強いリーダーシップを発
揮しなければならない。これらの業務を推進していく上では、データ処理やコミュニケーションや
プレゼンテーションが多く関わるため、基本的なITツールを使いこなせることが前提となる。さら
に企業がアウトソースや業務委託等の外部サービスを増やしているのに伴い、購買パーソンの
責任範囲がモノ中心からリースやファシリティマネジメント、工事関連支出、請負業務、人材派遣
等のサービスへと拡大し、より広範な知識が要求されている。
これらのスキルは交渉や契約書作成といった購買実務に始まり、定量・定性情報分析、
業務分析・企画、システム設計、戦略立案、コミュニケーション、調整、リーダーシップと非常に高
度で且つ多岐に亘っている。こうした変化に対し、未だ日本企業において購買パーソンのスキル
について検討が進められていない様に見受けられる。企業内でスキル取得の為の教育プログラ
ムを確立している企業が殆どないのが実態である。製造業では直接材については新卒社員を
OJT 中心に育てる仕組みがあるが、特に間接材、サービス領域の購買は、製造業、サービス業
の双方において、専任の購買担当者の採用や育成に注力している企業はまだ少ない
日本ではまだ購買プロフェッショナルが専門職としてのスキルや評価について未確立で
あり、購買担当者の転職による異動も少ない。米国では自社の調達方針を決定する権限を持つ
CPO(Chief Purchasing Officer) という役員職が存在するが、日本では、購買専門の担当役員を
置く企業は少なく、購買パーソンが購買業務を専門領域と捉え、自発的に自己啓発し、購買プ
ロフェッショナルとして長期のキャリアプランを描いていくには難しい環境となっている。
加えて、日本では購買分野に関する調査・研究を進める大学、大学院、研究機関が殆ど
なく、購買プロフェショナルの要請プログラムを提供できるところは本当に限定される。一方、米
国では 150 以上の大学、大学院において購買関連の研究・教育しており、15 の大学において購
買専門の博士課程が設けられている。
日本では購買業務について公認会計士や弁護士のようなプロフェッショナルとしての資
格制度が確立されていないが、米国では ISM(Institute for Supply Management)が購買プロフェ
ッショナルの認定資格である C.P.M.(Certified Purchasing Manager)を発行しており、米系企業
の多くが C.P.M.を中途採用、昇進の条件として採り入れている。現在、全世界で約 50,000 人の
C.P.M.有資格者がいる。英国では C.P.M.ではないが独自のバイヤーの資格制度を設けている。
日本ではC.P.M.の有資格者は約 20 名に留まっており、バイヤーの資格制度として普及するま
でには至っていない。
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この様な厳しい環境の中で調達購買マネジメントを実務で展開していく人材を養成して
いくには、長期的な観点からは、海外で進んでいる購買についての新しい手法、理論といった
研究成果を実務へ採り入れ、実務家からのフィードバックにより更に研究を進めていくといった
産学協同の取り組みが不可欠である。まだ、日本にはそのような教育研究機関は数少ないため、
今後の発展が期待される。
但し、グローバル競争に日々さらされている企業にとってはそんな悠長な事は言ってお
れず、短期的には、外部の購買プロフェショナルを活用し、自社のバイヤーとチームを組ませて
戦略ソーシングや業務改善を遂行させ調達購買マネジメントに必要なスキルの移転を受けたり、
バイヤートレーニングを実施したりする事で改善を図るのが手であろう。また、品目によっては、
購買業務全般を外部の購買プロフェッショナルに委託してしまった方が、効果的である。
3.3 調達購買マネジメントを支えるITインフラ
調達購買マネジメントを実現するためには、近年のインターネットを活用した IT インフラ
の導入、活用が人・組織の側面とともに欠かせない。特に最近はプロセスの標準化を IT インフラ
を活用し実現することや、従来は属人的な業務と捉えられていたソーシングプロセスも含む業務
全体を IT インフラで支援する企業が増えている。
購買実行プロセスにおけるITインフラ
通常、原材料・部品等の直接材のパーチェシングプロセスは生産管理システム、所要量
計算システムなどのシステムから自動的に発注が行われるシステムが構築されている。近年の
SCM プロジェクトでは在庫削減、オーダーto デリバリーの短縮などが目的とされた取組みがなさ
れている。一方間接材・サービスのパーチェシングプロセスは自動化されていないケースが多い。
またアイテム単位での購買データ管理もなされていないことが多い。ここでは何をいくらで(単
価)どれ位(量)購入したかという基本的なデータの捕捉が不可能なことが多い。またソーシング
プロセスを経て契約を結んだサプライヤから必ずしも購買が行われていないこともある。予算の
範囲内であればどこから何をどれ位購入しようが良いという状態で結果的に支出の最適化が行
われていないことが現状の課題である。
これらの課題に対して解決方策として考えるべきは、購買活動の捕捉である。カタログ購
買システムは、あらかじめソーシング活動を行った契約購買アイテムをリスト化し、同一の品目に
関してはリスト化されているアイテムおよびサプライヤから決められた価格で購入することを支援
するシステムである。これにより、アイテム単位の購買管理を支援することができる。対象の品目
としては事務用品、事務消耗品、工場 MRO、などが上げられる。現状、集中購買化、契約購買
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化が進んでいない企業や IT インフラを活用しないと全社での購買管理が不可能なグローバル
で大規模な企業、買収などを繰り返してきた企業などにはカタログ購買は非常に有効なツール
であると言えよう。
一方でカタログ化が困難な購買品目も多い。例えば契約購買品目でも数量が特定でき
ないため、単位あたりのフィーだけ契約している派遣社員や清掃業務等の品目や、推奨サプラ
イヤは特定されているが、購買案件毎に契約が必要になるコンサルティング費用、プロジェクト
関連の IT 費用、設備工事などがそれにあたる。これらの品目の方が、支出金額の全体に占める
金額が多い。これらの品目の購買把握に関しては e-RFQ の活用などで、案件毎に品目毎の推
奨サプライヤに必ず見積り依頼を発行し、回答をもらった上でサプライヤ・価格の決定→承認と
いうワークフローを回すことで購買管理を実現することができる。
ソーシングプロセスにおけるITインフラ
ソーシングプロセスは、見積り依頼の作成、依頼サプライヤの決定、見積り依頼、見積り
入手、交渉、サプライヤ・価格の決定、契約という一連の流れのプロセスになる。ソーシング業務
は従来属人的な業務であると思われてきた。価格交渉や査定業務などの交渉能力、品目毎の
専門能力が必要な業務と考えられてきたからである。一方、オークションや e-RFQ などの IT ツー
ルの出現や、グローバル最適調達、グループでの調達活動、間接材などの従来力を入れてい
なかった調達業務の推進などの背景からソーシングプロセス自体を効率化・標準化しようという
動きが出て来ている。これがソーシングプロセスでの IT インフラの整備となる。
このソーシングプロセスにおけるIT化の動きは、ソーシングプロセス改革が目指す、「誰も
が同じ情報を元に、定められたプロセス・ツールでソーシングを行うことによって、1.企業としての
購買能力の向上、2.ソーシングプロセスの効率化、3.戦略的なソーシング業務へのシフトを実現
する」ことと全く軌を一にしている。ソーシングプロセスの標準化については直接材、間接材とも
共通の課題が上げられるが、一方で、IT ツールの活用については品目・プロセス毎に異なった
ツールの活用が必要となる。ソーシングプロセスの標準化ツールの代表的なものとして上げられ
るのは e-RFQ、リバースオークション、カタログメンテナンスツールが上げられる。(図 9)
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(図 9)購買業務 IT インフラ
e-RFQ は見積り依頼から回答入手を支援するツールであり、ソーシングツールのコアとな
るものであるが、一方で現状 FAX やメール等でやりとりしている情報のやり取りを行うだけのツー
ルとしてはあまり効果がない。パーチェシングプロセスにおける e-RFQ の活用のところでも簡単
にふれたが、基本的には品目毎に推奨サプライヤのデータベースが連携しており、ある品目の
見積依頼が決められたサプライヤに自動的に発行され、過去の見積りデータや価格データとの
連携により今回の見積りの妥当性をチェックすることができる等のソーシング能力の向上や業務
効率化につながるようなツールの活用が重要なポイントとなってくる。
カタログメンテナンスツールは見積り比較のためのツールになる。これは多数のカタログ
化されたアイテムの比較見積りを行い、年度や半期毎の契約価格見直しを行うためのツールで
ある。最近は e-RFQ のツールでも提案仕様のスペックや見積り明細項目をテンプレート化し、複
数のサプライヤからの見積り比較表を作成できるツールがでてきており、このようなツールの活用
を行うことでソーシング業務を効率化している事例も見られる。
リバースオークションは、交渉業務を自動化するためのツールでありソーシングプロセス
の標準化・効率化、市場価格の取得のために有効である。国内ではオークション=価格ダンピ
ングのためのツールという間違った印象が強く、オークション活用に対するバイヤー企業の心理
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的な抵抗がまだあるが、一方で米国ではリバースオークションの活用は根付いており、今後活用
する企業は増加する傾向にある。
CAPS Research の 2002 年調査によると米国企業の約 50%強の大企業がリバースオークションの
実施経験をもっている。金額ベースでは全支出額の 5%弱とまだまだ低いが企業によっては全支
出金額の 25%強をオークションによってソーシングしている。今後のオークション活用は高成長
(10-15%)を見せ、コスト削減だけでなくプロセスの効率化に期待していることが分かる。また、リ
バースオークションの効果は平均約 15%のコスト削減と約 10%のサイクルタイム削減が図れるとい
う結果を示している。アジルアソシエイツの経験によると平均約 20%のコスト削減と約 10%の工数
削減が可能と思われる。
但し、コスト削減はオークションの効果というよりもオークションの実施前に「ボリュームを
増やす検討をする」、「新規のサプライヤを参加させる」、「仕様の明確な定義を行う」などの競争
環境を整備できるかどうか、しっかりとした RFQ が作成できるか、ということが成功要因となる。
4.まとめ
こうして見てきた様に、調達購買マネジメントは、購買業務において戦略購買サイクルを
築き、継続的に回していくことであり、それには購買プロセス、人材育成と人材評価制度の整備、
IT 他の業務インフラの整備が不可欠となってくる。そうすることで初めて必要とするものだけを適
正な価格で継続的に購入していくことが可能になる。ここで提唱している調達購買マネジメントと
は、短期的なコスト削減活動とは異なり、自社が必要とするものだけを適正な価格で購入できる
様に、継続的な視点での仕組みづくりと、人材育成、組織能力の向上を実現する。
そうした中で購買部門は単にもの・サービスを調達するだけではなく、必要なものを適正
な価格で調達しながら、自社の購買能力を高めていくという戦略的な役割を担う事が求められて
いる。購買担当者は、購買プロフェッショナルとして戦略ソーシングや管理購買実現の為のプロ
ジェクトマネジメントスキル等を磨き、その戦略的業務を遂行していく事が求められている。
アジルアソシエイツの今までの活動を通じて、現状多くの日本企業において、この調達
購買マネジメントが欠如していることを実感している。
一方で、サービス、コンサルティング、IT インフラの提供側にもその責任の一因はある。サ
ービス提供者側は顧客の戦略調達サイクル全般の構築・定着を支援する、という視点ではなく、
限られたプロセスに対するソリューションを提供してきたにすぎない。
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アジルアソシエイツは、顧客の目指すべき調達購買マネジメントの実現に不足する機能
やプロセスをサポートし、トレーニングサービス等のサービス提供を行うことで、顧客の購買能力
向上を実現する「調達購買マネジメント実現企業」を標榜している。
調達購買マネジメントは、経営者の「最終目標である自社の企業価値及び評価を高める
為に自社の調達購買業務をどうしていくべきか」という問いに対する答えの一つである。調達購
買マネジメントを推進していくことにより、外部支出を最適化することや、提案力のあるサプライヤ
との協業で魅力ある製品・サービス・チャネルづくりをして顧客への訴求力を高める事は、営業利
益率の改善につながる。外部サービスを活用し、調達購買業務の効率化やノンコア業務に費や
されている経営資源・資産を圧縮していくことは、資産回転率の改善をもたらす。これらの改革の
スピードを上げ、成果の刈り取りを前倒しすれば、それは改革の成果の現在価値の向上という形
で企業価値に還元される。2007 年度中にも「日本版 SOX(企業改革)法」の施行が予定される中
で、グリーン調達や CSR(社会的責任)調達を進め、合わせて購買業務におけるコンプライアン
ス、内部統制を徹底していく事は企業ブランド、評価の向上につながっていく。
このように調達購買マネジメントを推進することにより企業は実際に企業価値及び評価を
向上させていくことができる。経営者は調達購買部門を調達購買マネジメントの実行部門と位置
づけ、彼らを導き、支援していく必要がある。この調達購買マネジメントという考え方が経営者の
皆様の戦略目標の達成への参考になれば幸いである。
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【株式会社 アジル アソシエイツについて】
アジル アソシエイツは「調達購買マネジメント実現企業」です。調達購買関連サービス事
業、コンサルティング事業、IT 導入支援事業、購買コミュニティ運営の 4 つを柱に、顧客企業の
皆様が調達購買マネジメントを実現していくのに必要となるサービスを提供しています。
従来型の事業モデルとの大きな違いは、あくまでも購買企業(バイヤー側)に立った「バ
イヤーエージェント企業」であること。中核能力であるコンサルティング能力、コーディネーション
能力、また弊社ビジネスパートナーとの協業により、企業毎に最適なサービスの組合せ、提供致
しております。
当レポートは、弊社が提唱しています調達購買マネジメントの概念とそれが企業価値の
向上に直結した新しい購買業務のマネジメントのあり方である事をできる限り多くの方に伝えた
いという思いから作成しています。
<会社概要>
会社名:株式会社アジル アソシエイツ
所在地:東京都渋谷区桜丘町 21-12 桜丘アーバンラライフ A305
設 立:2002 年 3 月
代表取締役社長:野町 直弘
TEL:03−5784−1167
FAX:03−5784−1168
H.P: http://www.agile-associates.com
【本件に関するお問い合わせ先】
株式会社 アジル アソシエイツ
中ノ森
T E L :03-5784-1167
e-mail: [email protected]
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