解説書 - 全国農業会議所

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解説書
平成24年1月
全国農業会議所
はじめに
(雇用契約書の締結は必須)
雇用を行った場合、賃金や労働時間などに関する重要な労働条件は正社員であれ、パ
ートタイム労働者であれ、必ず書面で明示しなければなりません(労働基準法第15条)。
農業では、労働基準法で労働時間や休憩、休日などが適用除外とされているものの、書
面で労働条件を通知することは義務づけられています。雇用の際に通知する労働条件は
絶対に遵守しなければなりません。
書面で明示する方法は、①雇用契約書を結ぶ、②労働条件通知書を交付する、③就業
規則によって明示する――の3つから選択できます。この中で、最も効果的なのは、
「雇
用契約書の締結」です。労使双方で記名捺印し1部ずつ所持するため、労働条件の透明
性が高まり、誤解や不信感が生じにくくなります。
口頭のみでの雇用契約は労働基準法違反で、30万円以下の罰金が科せられることも
ありますが、それ以上に、従業員に不信感を抱かれることの方が大きな痛手です。雇用
契約は、雇われる側からすると生活を左右する大切な契約で、単なる口約束では不安で
仕方ありません。労使関係の始まりにあたって、雇用契約書の果たす役割は非常に大き
く、その締結は必須といえます。
この「労働条件の設定の仕方と雇用契約書の記載例」は、雇用契約書の労働条件を決
める際にご活用いただきたいと願い、全国農業経営支援社会保険労務士ネットワーク
(通称:社労士ネット)の入来院重宏会長にご協力いただきながら作成しました。「モ
デル雇用契約書」に記載している変形労働時間制の準用や固定残業手当などについても
詳しく説明しており、農業法人、農業者の皆さまの就業環境整備の一助になれば幸いで
す。
全 国 農 業 会 議 所
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1.農業と雇用
(1)正社員を雇用し、経営の核に育てる・・・・・・・・・・・・・・・3
(2)要員計画を定める際の留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・・3
2.雇用と責任
(1)労働基準法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(2)業務災害の補償責任・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・4
(3)安全配慮義務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
3.労働条件を決定するうえで考慮すること
(1)労働条件の原則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・5
(2)他産業並みの労働時間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
(3)地域別最低賃金額の遵守・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6
4.契約時に定めなければならない労働条件
(1)労働条件の明示義務・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(2)正社員と非正社員・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(3)明示すべき労働条件・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・7
(4)期間の定めのある労働者(有期契約労働者)の労働条件・・・・・・8
5.賃金の設定
(1)賃金の原則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・8
(2)賃金を設定するうえでの留意点・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(3)賃金形態・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(4)男女同一賃金の原則・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(5)賃金体系・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・9
(6)賃金水準・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10
(7)賃金表・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(8)諸手当・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11
(9)賞 与・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・12
(10)固定残業手当の活用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13
6.所定労働時間の設定
(1)労働基準法の労働時間・休憩・休日の制限を受けない農業・・・・14
(2)農業と所定労働時間・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・15
(3)変形労働時間制の準用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・16
(4)1か月の所定労働時間の設定方法・・・・・・・・・・・・・・・16
(5)休 憩・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(6)休 日・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
7.労働・社会保険の適用
(1)労働保険の適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(2)社会保険の適用・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・21
(3)パートタイム労働者の労働・社会保険の適用・・・・・・・・・・21
8.退職金
(1)月例賃金や賃上げとの分離・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
(2)中小企業の退職金の額・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・22
2
(3)中小企業退職金共済制度(中退共制度)2・・・・・・・・・・・22
1.農業と雇用
(1)正社員を雇用し、経営の核に育てる
農業を志す若者が増えているという話をよく耳にします。また、地元の高校や大学を
卒業し農業法人等に「正社員」として就職するケースも増えています。これまで地域産
業の中心であった土木・建設業の業績が大きく落ち込んでいることや、農業が「未来の
ある将来性豊かな産業」として広く認知されてきていること等が理由として考えられま
す。
ところで、正社員とは一般的には「期間の定めのない労働契約を締結している労働者」
をいいます。一般的には長期雇用を前提にした労働者です。労働者を長期間にわたり継
続的に雇用するためには「事業が継続的に発展」しなければなりません。そのためには、
生産量や売上高を増やし、生産性の向上を図る努力等が必要となります。
また、農業には作物によって農繁期と農閑期があります。冬季に仕事そのものがない
という地域では、1年を通して労働者を雇用することが困難です。
正社員以外の雇用形態で経営の核となれる人材は望めません。正社員として雇用し、
複数年におよぶ長期的な視野で人材を育てる覚悟が必要です。そのために最も大切なこ
とは、長期間に渡って勤務できる環境を整えることです。
労務管理を必要とする農業とは
労働者を継続的に雇用する農業
そのために
そのため
人材を育成する農業
そのため
継続的に発展する農業
(2)要員計画を定める際の留意点
農業者にとっては当然のことですが、農業において雇用労働力を導入する際には、ま
ず、「農業労働の特殊性」を再認識しておく必要があります。具体的には、①農業は作
物によって農繁期と農閑期があり、労働分配に不均衡が生じる、②作物の成長過程に応
じて作業が異なり、その一つひとつの作業を分業化して同時並行的に進めることができ
ない、③作物にはその栽培に適した時期があり、時期に応じた作業を一定の順序で行わ
なければならない、④農業は一般に屋外労働が多いため、天候などの自然条件の影響を
受けざるを得ない、⑤農作業は一般的に広い耕作地で行われるため、移動労働が多くな
る――などが挙げられます。要員計画を検討するうえでは、これらの農業労働の特殊性
を十分考慮しなければなりません。
①の農業労働の季節性に関していえば、作物栽培の作業管理過程においては、播種か
ら収穫まで、季節や時期に応じ異なる農作業等が必要となるので、農繁期と農閑期が生
じます。このため、労働資源配分上不均衡が生じるので、労務管理においてはコスト面
に配慮しつつ年間を通じた労働力の確保が必要となります。また、農繁期と農閑期で作
業量に大きな差がある中で通年雇用の常勤労働者を雇用するときには、「農閑期に何を
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させるか」を検討することになります。たとえば、普段やらせることのない事務関係の
職務を経験させるということも一つの方法でしょう。年間の総労働時間を他産業並みに
設定している農業法人では、所定労働時間の設定を農繁期は長く、農閑期に短くするた
めに、農閑期に休日を多く設定している例も数多くあります。
また、耕種農業のように屋外労働が主体の場合は天候の影響を大きく受けるというの
も大きな特徴です。基本的に屋外労働の場合は、工場生産のような労働時間の計画配分
は困難です。それを前提として、毎月の所定労働日や所定労働時間等をどう設定するか、
あるいは必要な労働力をどのように確保するか等の検討や運用が日常の労務・作業管理
上のポイントになります。
反対に屋内等の天候の影響を受けにくい作業であれば、労働時間の計画配分は比較的
容易となります。例えば、年間の必要労働時間が把握できれば、それを基に通年雇用の
常勤労働者の所定労働時間を設定し、足りない分をパートタイマーや季節従事者の雇用
で調節することができます。
2.雇用と責任
(1)労働基準法
人を雇用すると使用者は様々な責任を負います。労働契約とは労働者の労務供給に対
して使用者が賃金を支払う契約です。使用者は労働者の労務提供に対して約束の賃金を
支払うのは当然ですが、賃金支払義務だけでなく、労働者に対して様々な責任を負うこ
とになります。その中心になるのが労働関係法規で、最も重要な法律は労働基準法です。
労働基準法は憲法 25 条 1 項(生存権)と憲法 27 条 2 項(勤労条件の基準)を具体化
したものです。労働者の保護を目的とした法律であり、総則、労働契約、賃金、労働時
間・休憩・休日及び年次有給休暇、安全及び衛生、年少者・女子、技能者の養成、災害
補償、就業規則、罰則等を定めています。
たとえ1人でも労働者を雇い入れて農業を営む場合は、個人経営であれ法人経営であ
れ、労働基準法の適用を受けます。ただし、農業は、その性質上天候等の自然条件に左
右されること等を理由に、労働時間・休憩・休日に関する規程は、適用除外になってい
ます。(年次有給休暇に関する規定は、適用除外ではありません。)
労働基準法は、「労働条件の最低基準」を定めたものであり、労使ともにこの法律で
定める基準を上回るよう努力することが望まれます。
(2)業務災害の補償責任
労働基準法では、使用者に対して、労働者の業務上の負傷に対して様々な補償義務を
課しています。使用者は、労働者が業務上負傷し、又は疾病にかかった場合には、必要
な療養を行い、又は療養の費用を負担する義務を負っています。また、療養のために、
労働することができず賃金を受けない労働者に対しては、平均賃金の 60%の休業補償を
行う義務を負っています。他にも後遺障害が残った場合には、その程度に応じて障害補
償が義務づけられていますし、万一労働者が死亡した場合には遺族に対する補償も義務
づけられています。これらの補償義務は、使用者の過失の有無は問いません。労働基準
法では、労働者を災害から守るために様々な規定を設け、労働者や家族に一定の補償を
行うよう義務づけているのです。
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しかし、法律でこれらの規定を義務づけても使用者が無資力のため補償されないこと
も考えられます。そのため、国が労働者に対し、直接災害補償する制度として誕生した
のが労災保険です。「労働者が労災保険法に基づいて補償を受けられる場合には、使用
者は災害補償義務を免れることになる(労基法 84 条)」のです。
農業では、常時雇用している労働者が 5 人未満の個人経営の事業所は労災保険の加入
が任意であるため、従業員を雇用していても労災保険に加入していないケースがありま
すが、この場合に万一従業員がけがをしたときには、使用者が自らの負担で補償しなく
てはなりません。労働者の業務災害は経営の最大のリスクであり、労災保険の加入はリ
スク管理の基本中の基本です。
(3)安全配慮義務
また、使用者は労働者に対して安全配慮義務を負っています。平成 20 年 3 月 1 日に
施行された労働契約法では、使用者に対して「使 用 者 は 、労 働 契 約 に 伴 い 、労 働 者
が そ の 生 命 、身 体 等 の 安 全 を 確 保 し つ つ 労 働 す る こ と が で き る よ う 、必 要 な 配
慮をするものとする」と義務付けています。
安 全 配 慮 義 務 の 内 容 は 裁 判 例 に よ る と 、「 労 働 者 が 労 務 提 供 の た め 設 置 す る
場 所 、設 備 も し く は 器 具 等 を 使 用 し 又 は 使 用 者 の 指 示 の も と に 労 務 を 提 供 す る
過程において、労働者の生命及び身体を危険から保護するよう配慮すべき義
務 」と さ れ て い ま す 。具体的には、①物的・環境的危険防止義務、②作業行動上の危
険防止義務、③作業内容上の危険防止義務、④宿泊施設・寮における危険防止義務――
の4つに分類できます。
過去の判例では、電力会社の保守役が架空高圧線の工事に従事中に感電死した事故に
ついて、「労働者に十分な保護具を着用させていなかった。さらに安全教育も不十分で
あった」として、使用者に安全配慮義務違反として、遺族に対して損害賠償を命じてい
ます。
3.労働条件を決定するうえで考慮すること
繁忙期に一時的に雇用する季節労働者やパートタイマー等ではなく、通年雇用を前提
とした正社員として地域の若者等を雇用するというのであれば、それなりの条件を用意
する必要があります。いわゆる「他産業並み」の労働条件を用意する努力が必要となり
ます。
(1)労働条件の原則
労働基準法では、「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充
たすべきものでなければならない」(労基法 1 条)と定めています。この「人たるに値
する生活」については、
「その標準家族の生活を含めて考えること」
(昭 22.9.13 発基 17
号)とされています。
したがって、賃金についても、生計維持者である正社員の賃金については、労働者と
その家族が養える額以上でなければなりません。
使用者は地域別最低賃金を守ることは当然ですが、「最低賃金さえ守っていれば、労
働者の年齢や扶養家族の有無等については検討の余地はない」と考えるのでは、労働条
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件の原則に背を向けることになります。
また、
「労働条件は、労働者と使用者が、対等の立場において決定すべきものである」
(労基法 2 条 1 項)とされており、「労働者及び使用者は、労働協約、就業規則及び労
働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」(労基法 2 条 2 項)
とされています。
労働契約は労働基準法を下回ることはできず、これは就業規則も同様です。なお、就
業規則は常時使用する労働者が 10 人以上いる場合には、作成と労働基準監督署への届
出が義務となります。就業規則の基準に満たない労働契約は、その部分において無効と
なり、就業規則の基準が適用されます(就業規則の基準を上回る労働契約はそのまま適
用されます)。
(2)他産業並みの労働時間
他産業では、労働基準法で定められた原則 1 日 8 時間、1 週間 40 時間を超える所定労
働時間(事業所で定めた労働を義務づけた時間)の設定はできません。たとえば週 40
時間を超えた労働時間は、時間外労働となり、その時間に対しては 25%以上の割増率で
の割増賃金を支給しなければなりません。一方、農業は労基法の労働時間規制が適用除
外となっています。
したがって、1 日 10 時間とか 1 週間 48 時間の所定労働時間の設定も可能であり、月
給制であれば、月額賃金を所定労働時間で割った 1 時間あたりの額が地域別最低賃金を
下回らなければ、他産業では考えられないほど長い労働時間を定めることも可能です。
しかし、労働者の健康と安全を確保し、優秀な従業員を獲得するために、所定労働時間
はできるだけ法定時間である「1 週 40 時間」を目安に設定するようにしましょう。
(3)地域別最低賃金額の遵守
賃金の最低額は、法律(最低賃金法)に基づいて定められており、「使用者は、最低
賃金の適用を受ける労働者に対し、その最低賃金額以上の賃金を支払わなければならな
い」(最低賃金法 4 条)としています。これは、正社員はもちろんのこと、パートタイ
ム労働者、アルバイト、外国人労働者(外国人技能実習生含む)等雇用形態の違いにか
かわらず、すべての労働者に適用されます。
最低賃金額は、都道府県ごとに「地域別最低賃金額」として定められています。労働
者の生計費及び賃金並びに通常の事業の賃金支払能力を考慮して定められているため、
地域によって 645 円~837 円とばらつきがあります。
(平成 23 年 11 月時点:全国平均は
737 円)。なお、地域別最低賃金額は都道府県ごとに見直され、例年 10~11 月にかけて
全国の地域別最低賃金額が改定されます。
賃金が日給制の場合は、日給額を 1 日の所定労働時間(日によって所定労働時間が異
なる場合には週平均所定労働時間)で割った額が、月給制の場合には月額賃金を月の所
定労働時間(月によって所定労働時間が異なる場合は年平均 1 か月所定労働時間)で割
った額が、地域別最低賃金額を下回らないようにしなければいけません。
注1)最低賃金額との比較にあたって次の賃金は算入しません。
① 臨時に支払われる賃金(結婚手当など)
② 1か月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
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③ 所定労働時間を超える時間の労働に対して支払われる賃金(時間外割増賃金な
ど)
④ 所定労働日以外の日の労働に対して支払われる賃金(休日割増賃金など)
⑤ 午後10時から午前5時までの間の労働に対して支払われる賃金のうち、通常の
労働時間の賃金の計算額を超える部分(深夜割増賃金など)
⑥ 精皆勤手当、通勤手当及び家族手当
4.契約時に定めなければならない労働条件
(1)労働条件の明示義務
労働契約に際し、使用者は労働者に対し重要な労働条件を書面で明示しなければなら
ないとされています(労基法 15 条)。従事する業務の内容や労働時間、賃金等の労働条
件を明示した労働条件通知書か雇用契約書を労働者に交付しなければなりません。
(2)正社員と非正社員
正社員と非正社員の法的な定義はありませんが、一般的に正社員とは「期間の定めの
ない労働契約を締結している労働者」をいい、長期雇用を前提にした労働者です。
たとえば、定年制がある事業所であれば定年まで雇用することを前提として雇用され
る労働者であり、従業員教育と人事異動を通して職業能力を身につけ(キャリア形成)
させていく労働者です。非正社員とは正社員以外の労働者をいいます。非正社員には、
パートタイム労働者、アルバイト、契約社員等様々な雇用形態があります。
一般的にパートタイム労働者は、期間を定めて雇用され、正社員と比較し所定労働時
間が短い労働者(短時間労働者)であり、家事や育児等の私生活と調和をとった家計補
助的な立場を前提として雇用されている労働者です。しかし、農業の現場では、実態と
して「期間の定めのない労働契約を締結」しているパートタイム労働者(女性など)も
多く、これらのパートタイム労働者は子育てが一段落し、フルタイムで仕事ができるよ
うになると社会保険に加入し、正社員となる場合があります。
正社員と非正社員の違いを社会保険の加入の有無(所定労働時間や労働日数)で区分
している事業所もあります。いずれにせよトラブルを防止するためにも自社内の雇用形
態の区分として、契約期間や所定労働時間を中心に整理し、その地位・定義・処遇等を
明確化しておくことが重要です。
(3)明示すべき労働条件
労働者を雇用する際、明示しなければならない労働条件は下記のとおりです。
イ 必ず明示しなければならない事項(労働基準法第 15 条 1 項施行規則 5 条 1 項 1 号
~4 号)
① 労働契約の期間(期間の定めがない場合は、「期間の定めなし」とする。)
② 就業の場所、及び従事すべき業務
③ 始業・終業の時刻、所定労働時間を超える勤務の有無、休憩時間、休日、休暇、交
替制における就業時転換
④ 賃金に関する事項(決定、計算、支払方法、締切り、支払時期)
⑤ 退職(解雇の事由を含む)
7
ロ
定めをする場合には、明示しなければならない事項(労働基準法施行規則 5 条 1 項 4 号
の 2~11 号)
① 退職手当の定めが適用される労働者の範囲など退職手当についての事項
② 臨時で支払われる賃金、賞与等、最低賃金額
③ 労働者に負担させる食費、作業用品等
④ 安全及び衛生
⑤ 職業訓練
⑥ 災害補償及び業務外の傷病扶助
⑦ 表彰及び制裁
⑧ 休職
上記イの必ず明示しなければならない事項(①~⑤)については、書面による交付に
よる明示が義務づけられています。(④賃金に関する事項のうち「昇給」に関する事項
は除きます。)
(4)期間の定めのある労働者(有期契約労働者)の労働条件
たとえば、労働者を雇用期間6か月とか1年という有期労働契約で雇用する場合、労
働契約の締結時に、使用者は労働者に対して、当該契約の満了後における当該契約に係
る「更新の有無」、
「当該契約を更新する場合又はしない場合の判断基準」を明示しなけ
ればなりません。(労基法 14 条第 2 項、平 15.10.22 基発 1022001 号)
また、
「短時間労働者の雇用管理の改善等に関する法律」
(パートタイム労働法)によ
り、労働基準法で労働条件の明示が文書の交付によって義務づけられている(3)イ及
びロの事項に加え、「昇給」、「退職手当」、「賞与」それぞれの有無についても文書の交
付等による明示が義務となっています。
雇用期間
契約更新の有無
<雇用契約書の更新条項の例>
平成23年4月1日 から 平成24年3月31日
ア,更新する
イ,更新する場合がありえる
○
ウ,更新しない
更新する場合又はし 業務上の必要性があり、かつ本人の健康状態、能力等につき業務
ない場合の判断基準 に支障がないと認められること、さらに人事評価結果を踏まえる
ものとする。
5.賃金の設定
(1)賃金の原則
賃金は原則として労働時間に対して支払われるものであるということに留意するこ
とが重要です。農業では、賃金を「出来高」で支給しているケースがありますが、労働
基準法第 27 条では、
「出来高払い制その他の請負制で使用する労働者については、使用
者は労働時間に応じ一定額の賃金を保証しなければならない」と規定しています。これ
は、出来高払いのみの賃金を支払うということが禁止されていて、労働時間に応じた最
低保障給を支払わなければならないということです。
労働時間に対して支払うといことは、時給制であれば働いた時間の分だけの賃金です
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から問題ありませんが、月給制の場合であれば、その月額賃金の額は「月の所定労働時
間労働した場合の賃金」です。したがって、所定労働時間を超えて労働した場合は残業
代が発生します。反対に早退、私用外出等により提供すべき労働を提供しなかった時間
があるとき、その時間に応じて賃金を減額することは適法です。これを「ノーワーク・
ノーペイの原則」といいます。
(2)賃金を設定するうえでの留意点
賃金の設定とは具体的には、支払形態の選択と賃金額を考えることです。支払形態と
いうのは、時給制、日給制、月給制、年俸制などのことで、これらの中からいずれかを
選択することになります。賃金額の決定要素には、一般的に、①仕事の量や質・内容、
②労働者の経歴、能力や勤務態度、③仕事の成果、④生計費――などがあります。この
要素に最低賃金額、地域賃金の世間相場や同業者の賃金水準等を加味して決めることに
なります。また、扶養家族がいる者に対して家族手当を支給するかどうか、住宅手当や
通勤手当は支給するかなど各種手当の検討も必要になります。
(3)賃金形態
時給制にするか月給制にするか等、賃金をどのような形態にするかの選択は、従業員
の働きをどのような時間単位で測ったら適当なのか、従業員の生活サイクル等を考慮し
た場合にどのように支給するとより効果的かなど考え方によって異なってきます。
正社員であれば、本人と家族の生活の安定を保証する意味で、月々安定した月給制、
パートタイム労働者やアルバイト等は、単純に労働時間に比例して支給する時給制とす
るケースが一般的です。
なお、月給制とは、月払いで支払うことを指すのではなく、毎月固定された月給額を
支払う給与形態です。
時給制のメリット
月給制のメリット
単純に労働時間だけ自分の労働力を売
ればよいので、会社の所定労働時間に縛
られず仕事ができる。家計補助的な収入
確保目的で働くパートタイム労働者や空
いている時間を有効活用できる学生のア
ルバイトなどに適している。
賃金額が月の所定労働日数や所定労
働時間に左右されず、毎月安定した収
入を確保できる。正社員の賃金として
ふさわしく、とくに扶養家族を支える
生計維持者にとっては月給制が絶対条
件といえる。
(4)男女同一賃金の原則
労働基準法では、賃金について男女差別を禁止しています。(労基法 4 条)
したがって、女性だからという理由で同様の仕事をする男性と賃金に差をつけること
はできません。賃金以外の労働条件についての規制は、「男女雇用機会均等法」の定め
によります。
(5)賃金体系
賃金は、一般的に毎月支給される月例給与と特別に支給される賞与に大別されます。
月例給与は、通常、所定労働時間に応じて支給される基準内給与と所定労働時間外の労
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働に応じて支給される基準外給与に分けられます。基準内給与は「基本給のみ」とする
か、または「基本給+手当」とするか、基本給の決定要素をどうするか、通勤手当は支
給するか、扶養家族がいる者に対して家族手当を支給するかなど各種手当をどうするか
等の検討も必要になります。
<賃金体系の例>
所定内給与
基 本 給
家族手当
諸手当
月例賃金
皆勤手当
通勤手当
固定時間外手当
賃 金
時間外労働手当
所定外給与
賞
休日労働手当
与
深夜労働手当
(6)賃金水準
3(1)の労働条件の原則でも述べましたが、「賃金の額は労働者とその家族が生活
できる額以上でなければならない」。これが正社員の賃金の額を考えるときに最低限守
らなければならないルールです。生活するのに必要な額については人事院の作成した
「世帯人員別標準生計費」が参考になります。標準生計費には税金や社会保険料が含ま
れていないので、25%増ししたものを「推定負担費」とし、これを基にモデル賃金を作
成すると下表のようになります。
たとえば、高卒(18 歳)初任給を 14 万円(月額)として勤続 12 年(30 歳)時の賃
金を 26 万円とすれば、12 年間で昇給額が 12 万円(月額)、1 年当たりの昇給額は約 1
万円(月額)となります。これ以上定期昇給を続けるのが難しいというのであれば、定
期昇給は 30 歳(26 万円)までとし、それ以降は扶養家族の有無や数、役職に応じて賃
金に差をつけるという方法もあります。
なお、年収イメージとしては、「世帯主年齢 × 10 万円」です。
世帯人員別標準生計費(人事院/平成 20 年 4 月)と推定負担費・モデル賃金
費目
世帯人員
1人
2人
3人
4人
5人
食料費
25,230 円 36,650 円 47,300 円 57,950 円 68,590 円
住居関係費
26,340 円 59,880 円 52,250 円 44,610 円 36,980 円
被服・履物費
4,900 円
7,000 円
8,390 円
9,770 円 11,160 円
雑費Ⅰ ※1
30,100 円 50,150 円 67,840 円 85,540 円 103,230 円
雑費Ⅱ ※2
13,160 円 28,210 円 32,310 円 36,410 円 40,520 円
計(a)
99,730 円 181,890 円 208,090 円 234,280 円 260,480 円
年齢設定
推定負担費(a×
1.25)
モデル賃金
18 歳
26 歳
30 歳
35 歳
40 歳
124,663 円 227,363 円 260,113 円 292,850 円 325,600 円
13~15 万円 230,000 円 260,000 円 300,000 円 330,000 円
10
※1 雑費Ⅰは、保健医療、交通・通信、教育、教養娯楽
※2 雑費Ⅱは、その他の消費支出(諸雑費、こづかい、交際費、仕送り金)
(7)賃金表
賃金表とは、「この条件のときにいくらの賃金になる」という条件別の賃金額を表に
したものです。従業員にとっては「今は×円だけど、頑張って×年後に主任になれれば
×円の賃金になる」という、将来の希望やモチベーションの維持につながります。賃金
表を整備することは、従業員から見ると、生計費の増大に応じて一定の昇給が行われる
ため、生活設計が可能となり、生活の安定につながります。たとえ少しずつであっても
毎年確実に昇給することに非常に大きな意味があります。
また、賃金表を公開することは、公正で透明な賃金制度の基本です。従業員の賃金に
対する不満の多くは、その額よりもその決定方法の不透明さにあります。
賃金表は、賃金を公正に支給するために会社と従業員双方にとって、無くてはならな
いものです。
(8)諸手当
手当は本来、基本給でカバーしきれない賃金格差を是正するために支給するものです
が、退職金や賞与額の高騰を防ぐ人件費抑制の目的で便宜的に利用される場合もありま
す。
① なぜ手当を支給するのか
イ.賃金決定基準の明瞭化・公平化を図るため
事業場内には様々な仕事が混在しており、賃金に一定の格差を設けないと公平性に
欠ける場合があります。
例:高度な技能を必要とする作業を行う者に支給する → 職種手当
ロ.賃金を効果的に支払うため
(ⅰ)一定の支給基準を設け該当する従業員にのみ支払いが可能な手当を設けること
で、生計費に配慮しつつ人件費を効果的に支出することができる
⇒ 家族手当、住宅手当 等
(ⅱ)出来高を基本給とは別立ての手当として支給することにより、個人業績が明ら
かになり、インセンティブとして効果的に支給することができる
⇒ 歩合手当 等
ハ. 退職金・賞与への跳ね返りを抑制するため
退職金制度を有する多くの企業が、支給額の決定において、
「基本給×勤続係数」と
しています。月例賃金の上昇が即、退職金の額に反映してしまうため、それを避け
るため、全社員に支給しているにもかかわらず手当としているケースがあります。
例:全員一律に支給される食事手当、住宅手当が全員に支給される場合のその最低額
② 手当の種類
手当は、固定的仕事関連手当、変動的仕事関連手当、生活関連手当、実費弁償的手
当の 4 つに大別できます。
イ.固定的仕事関連手当の例
管理職手当・・・役付手当に管理職の時間外割増賃金分を含めたもの
固定残業手当・・一定時間分の残業代を固定額として支給される
職種手当・・・・高度の専門職種を対象とする
11
技能手当・・・・職務遂行に必要な技能や社内外の資格の保有者に支給される
ロ.変動的仕事関連手当の例
時間外手当・休日勤務手当・深夜勤務手当
交替勤務手当
歩合手当
ハ.生活関連手当の例
家族手当・・9 割の企業で採用されている
住宅手当・・7 割の企業で採用されている
ニ.実費弁償的手当の例
通勤手当
③ 手当の額
ⅰ)役付手当の例(2007 年、東京都「中小企業の賃金事情」より)
部長 68,334 円
課長 42,045 円
係長 20,166 円
※同一役職につき同一金額を支給する企業の平均額
ⅱ)家族手当の例(2007 年、東京都「中小企業の賃金事情」より)
第 1 扶養(配偶者)11,670 円
第 2 扶養(第 1 子) 5,168 円
第 3 扶養(第 2 子) 4,844 円
第 4 扶養(第 3 子) 4,678 円
※家族により異なる額を支給する企業の平均額
ⅲ)通勤手当
通勤手当は、労働基準法等の法令で支給が義務づけられていないので、支給するか
しないかは使用者の自由です。一般的に、通勤手当は、徒歩や自転車で通える距離
(概ね 2 キロメートル以内)であれば支給しません。農業では、マイカーで通勤す
るケースが多く、通勤手当の額は、下表で示す非課税となる限度額の範囲内で支給
するのが一般的です。
通勤距離(片道)
2km未満
2km以上 10km未満
10km以上 15km未満
15km以上 25km未満
25km以上 35km未満
35km以上 45km未満
45km以上
1か月あたりの非課税となる限度額
全額課税
4,100円
6,500円
11,300円
16,100円
20,900円
24,500円
(9) 賞 与
原則として賞与は利益が出たときに支給するものです。従業員のやる気や生活を考え
て、赤字でも賞与を支給する場合がありますが、従業員に危機感がなくなるなどかえっ
て逆効果となる可能性もあります。
賞与は利益の配分なので「利益をもたらした者がより多くの利益を受けるのは当然」
12
という考えのもと、賞与額の算定においては、役職係数、評価係数、出勤率等を用いる
ケースが一般的です。
<賞与計算方法の例>
賞与額 = 基本給 × 一律係数 × 役職係数 ×評価係数 × 出勤率
(10)固定残業手当の活用
固定残業手当は、残業代の計算を簡素化するもので、残業をしてもしなくても毎月一
律の残業代を支給するものです。たとえば、高卒で初任給 15 万円(基本給 15 万円で支
給)の従業員Aがいます。Aは、雇用契約時に使用者から「残業代込みで 15 万円」と
言われており、Aも承諾しています。使用者はAも納得のうえだから問題ないだろうと
思っていますが、長時間労働が数か月も連続して続いたり、第三者が給与明細を見たり
して、この不明瞭な賃金設定がトラブルを招くことも十分考えられます。
この場合、基本給 12.5 万円+固定残業手当 2.5 万円とすれば、実際の残業代が 2.5
万円以内であれば、基本的に問題ありません。
天候等の条件に大きく左右される農業では、その日予定していた仕事ができず、代わ
りに休日に労働してもらうことや突発的に残業をしてもらうことも多いでしょう。その
ため、結果的に従業員の月の労働時間が月の所定労働時間を大幅に超過することも珍し
くありません。
固定残業手当は、こうした課題への対処法としておすすめできます。
基本給の 1 時間当たり単価を地域別最低賃金以上で設定し、「所定労働時間+固定残
業時間」を過去 1 年間の最も労働時間の長い月をカバーする時間で設定すれば、残業代
の未払いや賃金額が最低賃金を割っているという状態にはならないでしょう。
<Aの初任給を「基本給+固定残業手当」で設計してみよう>
・ 賃金の構成は「基本給+固定残業手当」とし、月額 15 万円程度とします。
・ 月の所定労働時間は、他産業並みの 173 時間とします。
・ 基本給の1時間当たりの単価は、地域別最低賃金とします。
地域別最低賃金を 737 円とすると基本給は、次のようになります。
(ⅰ)基本給 = 737 円 × 173 時間 ≒ 127,501 円
◇ 固定残業手当については、条件を次のように定めます。
・ 固定残業手当の額は、22,499 円(150,000 円-127,501 円)程度とします。
・ 割増率は、他産業並みに 2 割 5 分とします。
時間外労働の時間額は、次のようになります。
時間外労働の時間額 = 737 円 × 1.25 = 921.25 円
固定残業時間は、次のようになります。
固定残業時間 = 22,499 円 ÷ 921.25 円 ≒ 24.42 時間 ⇒ 25 時間
したがって、固定残業手当の A の初任給は、次のようになります。
(ⅱ)固定残業手当 = 921.25 円 × 25 時間 ≒
23,032 円
(ⅲ)Aの初任給 = 127,501 円(基本給)+ 23,032 円(固定残業手当)= 150,533 円
月の労働時間 198 時間(所定労働時間 173 時間+固定残業時間 25 時間)以内であれ
ば、150,533 円(基本給+固定残業手当)を支給していれば、Aに残業代を支払う必要
はありません。198 時間を超えた場合には、1 時間につき 921.25 円の残業代を支給する
13
ことになります。
なお、今回のケースのように、「月額賃金は基本給のみ支給」という賃金体系から固
定残業手当を導入する場合は「支払内訳」の変更となりますし、基本給の減額(上の例
では、150,000 円から 127,501 円)は、従業員にとって不利益変更になりますので、従
業員の 1 人 1 人から同意を得る必要があります。実質的に年収では不利にならないよう
説明し、従業員の理解を十分に得ることが欠かせません。
なお、固定残業制は、残業代支払いの打ち切りではありません。毎月の残業時間が上
記の例でいえば 25 時間を超えた場合は、その分追加で残業代を支払う必要があります。
したがって、就業規則(賃金規定)は別途用意し、「固定残業手当は、固定の時間外手
当である」旨と「計算上不足額が発生する場合は、別途支給する」旨明記する必要があ
ります。
地域別最低賃金を 3 グループに分けた場合のグループごとの初任給の額の例
(平成 23 年度最低賃金使用)
最低賃金
グルー
該当する都道府県
例
初任給(月額)
プ
青森(647)、岩手(645)、秋田(647)、山 例)秋田県(647 円)
660 円未満 形(647)、福島(658)、鳥取(646)、島根 ①基本給:111,931 円(173 時間)
A
(646)、徳島(647)、愛媛(647)、高知(645)、 ②固定残業手当:20,219 円(25
約 13 万円 佐賀(646)、長崎(646)、熊本(647)、大 時間)
分(647)、宮崎(646)、鹿児島(647)、沖 ③ ①+②:132,150 円
縄(645)
北海道(705)、宮城(675)、茨城(692)、 例)栃木県(700 円)
660 円以上 栃木(700)、群馬(690)、新潟(683)、富 ①基本給:121,100 円(173 時間)
B
710 円未満 山(692)、石川(687)、福井(684)、山梨 ②固定残業手当:21,875 円(25
(690)、長野(694)、岐阜(707)、滋賀(709)、 時間)
約 14 万円 奈良(693)、和歌山(685)、岡山(685)、 ③ ①+②:142,975 円
山口(684)、香川(667)、福岡(695)
埼玉(759)、千葉(748)、東京(837)、神 例)千葉県(748 円)
C
710 円以上 奈川(836)、静岡(728)、愛知(750)、三 ①基本給:129,404 円(173 時間)
重(717)、京都(751)、大阪(786)、兵庫 ②固定残業手当:23,375 円(25
時間)
約 15 万円 (739)、広島(710)
③ ①+②:152,779 円
6.所定労働時間の設定
(1)労働基準法の労働時間・休憩・休日の制限を受けない農業
労働基準法では、1 週 40 時間以内、1 日 8 時間以内と労働時間に制限を設けています
が、農業ではこの法定労働時間や、休憩や休日に関して適用除外となっています。農業
や水産業以外の産業では、労働時間、休憩、休日を次のように規定されています。
① 労働時間
14
休憩時間を除き 1 週間について 40 時間を超えて、また、1 日については 8 時間を超え
て労働させてはならない。
② 休憩
休憩は、労働時間が 6 時間を超える場合は少なくとも 45 分、労働時間が 8 時間を超
える場合は少なくとも 1 時間を、労働時間の途中に与えなければならない。
③ 休日
休日は、毎週少なくとも 1 回付与することを原則とする。例外として 4 週間を通じて
4 日以上付与することも可能である。
農業では、労働時間や休憩・休日が適用除外であるということは、他産業では当たり
前のこれらの規定が適用されないということです。農業が労働時間等の適用除外となっ
ている理由としては、①事業の性質上天候等の自然条件に左右される、②事業および労
働の性質から 1 日 8 時間や週に 1 日の休日等の規制になじまない、③天候の悪い日、農
閑期等適宜に休養をとることができるため労働者保護に欠けるところがない――など
があげられます。要するに、農業では農閑期に十分休養をとることができるなどの理由
で、法律で規制する必要がないと考えられているのです。
(2)農業と所定労働時間
1 か月の所定労働時間とは、月給制の従業員が 1 か月間に働くことを義務付けられて
いる時間のことです。したがって、所定労働日に欠勤、遅刻、早退などで労務の提供が
できなかったときは、一般に労働者の都合による労働契約の不履行に該当し、労働の対
価である賃金の請求権が発生せず、使用者の支払義務もありません。反対に使用者の命
令に基づき労働者が所定労働時間を超えて労働した場合には、その超過時間分の賃金の
請求権が発生し、使用者は支払義務が生じます。
「(1)労働基準法の労働時間・休憩・休日の制限を受けない農業」で述べたように、
農業では労働時間関係について労働基準法の規制がないので、所定労働時間を自由に設
定できます。これは、農業では、法定労働時間から大きく逸脱しない範囲で、1 日の所
定労働時間や 1 週間の所定労働時間、または 1 か月の所定労働時間を自由に設定するこ
とが可能だということであり、この労働時間の設定が農業の労務管理の大きなポイント
だといえます。
しかし、ここで注意しなければならないのは、農業については労働時間関係が労働基
準法の適用除外であるということは、農業は、農閑期に十分休養を取ることができる等
の理由から、法定労働時間等の原則を厳格な罰則をもって適用することは適当でなく、
法律で保護する必要がないと考えられているからです。したがって、使用者は、「労働
者に長時間労働をさせてもよい」などと誤った理解をしないよう留意しなければなりま
せん。
たとえば、農繁期には労働時間を長く、反対に農閑期には労働時間を短く設定すると
いったことが可能です。休日は、他産業では週休 2 日制が一般的になっているなか、農
業では月に 4~6 日程度というケースが多いようですが、農繁期は少なく、その分農閑
期に多くし、年間を通じた休日数を他産業並みに付与しているという例もあります。
最近の農業労働は、機械化・通年化の進展や、他産業を下回るような労働条件で優良
な労働力を確保することは困難なこと等の理由から、他産業並み、もしくは他産業を上
回るような労働条件の確保に努めている事業所も増えてきています。具体的には、所定
15
労働時間を法定労働時間の「週 40 時間」に設定している事業所が農業の現場でも年々
増えています。所定労働時間や休憩・休日の設定は、できるだけ法定労働時間に近づけ
るよう努力すべきでしょう。
ところで、農業では残業代に時間外の割増率をつける必要はありません。ただし、下
記の理由等により割増率をつける例は増えています。
① 地域雇用の受け皿となるべく、他産業と同等の労働条件を確保するため
② 6 次産業化を円滑に推進する上で、全社一律の労働条件を確保する必要があるため
③ 外国人技能実習生を受入れる事業場が増えているため(外国人技能実習生に対し
ては、割増率をつけることが求められているため)
なお、午後 10 時から午前 5 時までの間の深夜労働の割増率(時間単価の 1.25 倍)は、
労働基準法上適用除外とされていないので注意が必要です。
(3)変形労働時間制の準用
変形労働時間制とは、労働の繁閑の差を利用して休日を増やすなど、労働時間の柔軟
性を高めることで、効率的に働くことを目的とする制度です。(労基法 32 条の2~5)
他産業においては、法定労働時間である 1 週 40 時間、1 日 8 時間を越えた場合は、法
律で定められた割増賃金を支払わねばなりません。変形労働時間制は、労働基準法で定
められた手続を行えば、その認められた期間においては、法定労働時間を超えて働いた
場合でも、この期間内の平均労働時間が法定労働時間を越えていなければ、割増賃金の
対象として扱わないとする制度です。
たとえば、農場の他に加工や直売所等の事業所を有している農業生産法人の場合、農
場労働者に変形労働時間制を導入することによって、全事業所(全従業員)で法定労働
時間を遵守することが可能となります。また、天候等の自然条件に左右されない現場や
機械化・高度化された農業の現場では、労働力の予定も立てやすく、変形労働時間制を
準用している例も増えています。
変形労働時間制は、仕事内容等に応じて「1 か月単位」「1 年単位」「1 週間単位」「フ
レックスタイム制」があります。とくに季節や月によって繁閑の差が大きい業種が導入
している「1 年単位の変形労働時間制」は農業でも準用しやすいと考えられます。
なお、変形労働時間制は、法定労働時間を弾力的に扱う例外的な規定であり、本来は
労使協定の締結や労基署への届け出等の手続きを義務づけています。天候や作物の生育
度などに左右される農業ではこれに対応することが難しいわけですが、そもそも労働基
準法の労働時間規制は農業には適用が除外されていますので、届出の手続きは不要です。
年間の作業計画をもとに、毎月の出勤日や始業就業時刻はなるべく早い時期に(たとえ
ば 30 日前)決定し、労働者に通知するようにしてください。
(4)1 か月の所定労働時間の設定方法
農業では、作目によっては農繁期と農閑期があり、1 か月の所定労働時間を設定する
際、まず、考慮しなければならないのは、この季節によって農繁期と農閑期があるかど
うかです。繁閑の差がある場合は、月ごとによって所定労働時間に差を設けることにな
ります。
16
1 か月の所定労働時間は、基本的に 1 週 40 時間に設定する
季節によって労働に繁閑の差があるか?
ある
① 1 年を平均して 1 週 40 時間となるよう勤務表を作成する
⇒「1 年単位の変形労働時間制」の準用
ない
②
1 か月の労働日数を決め、勤務表を作成する
③1 か月の休日数を決め、勤務表を作成する
④
1 週 40 時間とし、かつ定型休日を付与する
⑤
1 か月を平均して 1 週 40 時間となるような勤務表を作成する
⇒「1 か月単位の変形労働時間制」の準用
①
1 年を平均して 1 週 40 時間となるよう勤務表を作成する
農業では、多くの場合、農繁期と農閑期があります。農繁期と農閑期があるときは、
時期(月)によって所定労働時間に差を設けることで、労働力の効率的な運用が可能に
なります。
1 週 40 時間を基本に設定すると年間の所定労働時間は、約 2,085 時間(1 年間の週数
×40 時間)となり、各月の所定労働時間は、仕事量に応じて按分します。たとえば農繁
期は 220 時間、農閑期は 120 時間という月の所定労働時間の設定も可能です。
例)他産業並みに「1 年を平均して 1 週 40 時間」となるように各月振り分ける
この場合は、年間の所定労働時間は 2,085 時間(≒365 日÷7 日×40 時間)に設
定します。
月
<1 年間の所定労働時間を 2,085 時間として各月に振り分けた例>
1月 2月 3月 4月 5月
6
7月 8月 9月
10
11
12
月
月
月
月
17
合計
所定労働日数(日) 17
所定労働時間(時 102
間)
20
150
27
216
25
200
25
200
24
18
0
23
162
20
160
26
205
27
210
23
160
23
140
280
2085
1月の予定表<所定労働日数:17 日/1 日の所定労働時間:6 時間/1 か月所定労働時間:102 時間>
1(火)休み
8(火)6時間 15(火)休み
22(火)6時間 29(火)6 時
間
2(水)休み
9(水)6時間 16(水)休み
23(水)6時間 30(水)6 時
間
3(木)休み
10(木)休み
17(木)休み
24(木)休み
31(木)休み
4(金)6時間 11(金)6時間 18(金)6時間 25(金)6時間
5(土)6時間 12(土)6時間 19(土)6時間 26(土)6時間
6(日)休み
13(日)休み
20(日)休み
27(日)休み
7(月)6時間 14(月)休み
21(月)6時間 28(月)6時間
週労働時 18 時間 週労働時 24 時間 週労働時 18 時間週労働時 30 時間 週労働時 12 時
間
間
間
間
間
間
3月の予定表<所定労働日数:27 日/1 日の所定労働時間:8 時間/1 か月所定労働時間:216 時間>
1(土)休み
8(土)休み
15(土)休み
4(火)8時間
5(水)8時間
6(木)8時間
7(金)8時間
11(火)8時間
12(水)8時間
13(木)8時間
14(金)8時間
18(火)8時間
19(水)8時間
20(木)8時間
21(金)8時間
29(土)8 時
間
23(日)8時間 30(日)8 時
間
24(月)8時間 31(月)8 時
間
25(火)8時間
26(水)8時間
27(木)8時間
28(金)8時間
週 労 働 時 48 時間
間
週 労 働 時 48 時間
間
週 労 働 時 48 時間
間
週 労 働 48 時間
時間
2(日)8時間 9(日)8時間 16(日)8時間
3(月)8時間 10(月)8時間 17(月)8時間
22(土)休み
週 労 働 24 時間
時間
8月の予定表<所定労働日数:20 日/1 日の所定労働時間:8 時間/1 か月所定労働時間:160 時間>
1(水)8時間 8(水)8時間 15(水)休み
2(木)8時間
3(金)8時間
4(土)休み
5(日)8時間
6(月)8時間
22(水)8時間 29(水)8 時
間
9(木)8時間 16(木)休み
23(木)8時間 30(木)8 時
間
10(金)8時間 17(金)休み
24(金)8時間 31(金)8 時
間
11(土)休み
18(土)休み
25(土)休み
12(日)休み
19(日)休み
26(日)8時間
13(月)休み
20(月)8時間 27(月)8時間
18
7(火)8時間 14(火)休み
21(火)8時間 28(火)8時間
週労働時 48 時間 週労働時 24 時間 週労働時 16 時間 週労働時 48 時間 週労働時 24 時
間
間
間
間
間
間
毎月の所定賃金は、年間平均した 1 か月の所定労働時間分とし、月によって所定労働
時間に大きな差があっても月々の賃金は一定額支払うようにします。
月額所定賃金(基本給)は、時間額(1 時間あたりの単価)×年平均 1 か月所定労働
時間(173 時間)とします。仮に時間額を 1,000 円とすると月額基本給は、173,000 円
です。
所定労働時間を超えて労働させた場合には、時間外労働となり残業代の支給義務が生
じることになります。このケースでは、1 時間の残業に対して 1,000 円支給します。他
産業並みに 25%の割増賃金とする場合は、1 時間につき 1,250 円支給します。
②
1 か月の労働日数を決め、勤務表を作成する
例)・・・1 週 40 時間程度となるように設定する場合
・1 か月の労働日数を 25 日とする
・1 日の所定労働時間は休憩時間を除き 7 時間とする。
⇒ 1 か月の所定労働時間 =25 日×7 時間 = 175 時間
なお、この場合の賃金の時間単価は、
「月額賃金÷1 か月の所定労働時間(175 時間)」
となります。
1 か月が 25 日の勤務表の例(○印が休日)
日曜日
月曜日
火曜日
水曜日
木曜日
金曜日
土曜日
1
2
3
4
5
6
7
8
9
10
11
12
13
14
15
16
17
18
19
20
21
22
23
24
25
26
27
28
29
30
③1 か月の休日数を決め、勤務表を作成する
例)・・・1 週 40 時間程度となるように設定する場合
・1 か月の休日数を 6 日する
・1 日の所定労働時間は休憩時間を除き 7 時間とする。
1、3、5、7、8、10、12 月の 1 か月の所定労働時間・ 7 時間 ×(31 日-6 日)= 175 時間
⇒
4、6、9、11 月の 1 か月の所定労働時間・・・・・・ 7 時間 ×(30 日-6 日)= 168 時間
2 月(28 日)の 1 か月の所定労働時間・・・・・・・7 時間 ×(28 日-6 日)= 154 時間
2 月(閏年/29 日)の 1 か月の所定労働時間・・・・7 時間 ×(29 日-6 日)= 161 時間
なお、この場合の賃金の時間単価は、
「月額賃金÷平均月所定労働時間」となり
ます。この例の平均月所定労働時間は、171 時間{≒(365 日-6 日×12 日)÷12 月×7
時間}です。
1 か月の休日を 6 日の勤務表の例(○印が休日)
日曜日
月曜日
火曜日
水曜日
木曜日
金曜日
土曜日
19
7
14
21
28
1
8
15
22
29
2
9
16
23
30
3
10
17
24
4
11
18
25
5
12
19
26
6
13
20
27
④
1 週 40 時間とし、かつ定型休日を付与する
イ 1 週 1 日の休日(週 6 日勤務)の場合、1 日の所定労働時間を 6 時間 40 分とする。
例)始業時間 8:00
終業時間 16:00
休憩時間 昼 1 時間、午前と午後各 10 分 計 1 時間 20 分
ロ 1 週 2 日の休日(週 5 日勤務)の場合、1 日の所定労働時間を 8 時間とする。
例)始業時間 8:00
終業時間 17:20
休憩時間 昼 1 時間、午前と午後各 10 分 計 1 時間 20 分
⑤
1 か月を平均して 1 週 40 時間となるような勤務表を作成する
1 か月当たりの所定労働時間は、下表のようになります。
月の日数
1 か月の所定労働時間の総枠
31 日
177 時間(≒40 時間×31÷7 日)
30 日
171 時間(≒40 時間×30÷7 日)
29 日
165 時間(≒40 時間×29÷7 日)
28 日
160 時間(≒40 時間×28÷7 日)
なお、この場合の賃金の時間単価は、
「月額賃金÷平均月所定労働時間」となります。
この例の平均月所定労働時間は、173 時間です。
例1)1 日の所定労働時間が 7 時間(第 5 週の 2 日間のみ 8 時間)の場合で下表の月の
所定労働時間は、第 1 週 35 時間+第 2 週 42 時間+第 3 週 35 時間+第 4 週 42 時間+第
5 週 23 時間=177 時間
となります。時間外労働となる時間は、所定労働時間を超えた時間となります。
1(水) 休み 8(水) 7時間 15(水) 休み 22(水) 7時間 29(水) 7時間
2(木) 7時間 9(木) 7時間 16(木) 7時間 23(木) 7時間 30(木) 8時間
3(金) 7時間 10(金) 7時間 17(金) 7時間 24(金) 7時間 31(金) 8時間
4(土) 7時間 11(土) 7時間 18(土) 7時間 25(土) 7時間
5(日) 休み 12(日) 休み 19(日) 休み 26(日) 休み
6(月) 7時間 13(月) 7時間 20(月) 7時間 27(月) 7時間
7(火) 7時間 14(火) 7時間 21(火) 7時間 28(火) 7時間
週労働 35時 週労働 42時 週労働 35時 週労働 42時 週労働 23時
時間
間
時間
間
時間
間
時間
間
時間
間
例2)1 日の所定労働時間が 8 時間(26 日のみ 9 時間)の場合で下表の月の所定労働時
間は、第 1 週 24 時間+第 2 週 56 時間+第 3 週 56 時間+第 4 週 41 時間+第 5 週 0 時間
=177 時間となります。時間外労働となる時間は、所定労働時間を超えた時間です。
20
1(水) 休み
2(木) 休み
3(金) 休み
4(土) 休み
5(日) 8時間
6(月) 8時間
7(火) 8時間
週労働 24時
時間
間
8(水) 8時間
9(木) 8時間
10(金) 8時間
11(土) 8時間
12(日) 8時間
13(月) 8時間
14(火) 8時間
週労働 56時
時間
間
15(水) 8時間
16(木) 8時間
17(金) 8時間
18(土) 8時間
19(日) 8時間
20(月) 8時間
21(火) 8時間
週労働 56時
時間
間
22(水) 8時間 29(水) 休み
23(木) 8時間 30(木) 休み
24(金) 8時間 31(金) 休み
25(土) 8時間
26(日) 9時間
27(月) 休み
28(火) 休み
週労働 41時 週労働 0時間
時間
間
時間
(5)休憩
農業は、休憩が労基法の適用除外です。これは、休憩を与えなくても農業従事者は何
時でも自由に休憩がとれるため、法律で規制する必要がないというのが理由です。
実態はどうかというと、農業において休憩時間は他産業並みかそれ以上の時間を付与
しているケースが一般的で、お昼休憩の 1 時間のほかに午前と午後に各々休憩時間を設
けている例が多いようです。
特に夏期は熱中症対策として、水分補給や休息をまめに取る必要があります。
(6)休日
他産業では、法定労働時間(週 40 時間又は 44 時間)の規制があるため、大企業を中
心に多くの企業が週休 2 日制(1 日 8 時間×5 日など)を採用しています。農業におい
ても週休 2 日制を採用する例は増えていますが、まだまだ少数です。一般的には、週休
制(週 1 日の休日)や隔週休 2 日制を採用している例が多く、他産業並みの労働条件を
目指す場合、年間の休日数は 85 日を目安にしてください。これは、「1 年単位の変形労
働時間制」を採用した場合の労働日数の限度日数(280 日)を根拠としています。
7.労働・社会保険の適用
(1)労働保険の適用
農業の労働者の労働保険(労災・雇用保険)の適用について、個人経営の場合は、労
働者が常時 5 人未満の場合には、「暫定任意適用事業」といって、原則として任意加入
となっています。労働者が常時 5 人以上いる個人事業と法人事業は、労働保険は強制適
用です。
また、暫定任意適用事業であっても、労災事故による経営のリスクを減らすためには
労災保険は必ず加入すべきです。
(2)社会保険の適用
農業の労働者の社会保険(健康・厚生年金保険)の適用について、おおまかに個人経
営の事業と法人経営の事業に分けると個人経営の場合は、国民健康保険と国民年金に加
入し、法人経営の場合は、健康保険と厚生年金に加入することになります。
(3)パートタイム労働者の労働・社会保険の適用
21
① 労災保険は適用事業所であれば、雇用形態の如何を問わず加入となります
② 雇用保険は、1 週間の所定労働時間が 20 時間以上であり、かつ 31 日以上引続き
雇用される見込みがある者については、加入させなければなりません
③ 健康保険・厚生年金保険は、1 日または 1 週間の労働時間および 1 ヶ月の所定労
働日数が、その事業所において同種・同業の業務に従事する人のおおよそ 4 分の
3 以上ある者が加入の対象となります
8.退職金
退職金を用意していない農業法人は多く、また、他産業を含めた全体的な傾向として
も退職金制度をもたない企業は増加傾向にあります。しかし、初めから長期間勤めるつ
もりのない従業員は別として、一般的には退職金は、やはり従業員にとって魅力がある
ことに違いありません。
退職金制度は、一度導入すると労働者との契約事項となりますので、後になって簡単
に「やめた」というわけにはいきません。導入するかどうか、また、導入する場合の支
給方法等に検討を要します。
(1)月例賃金や賃上げとの分離
退職金制度を新たに設計する場合は、月例賃金(基本給)と連動した仕組みは避ける
ようにします。賃金と分離すれば、賃上げとも切り離されるので、自動的に退職金が増
えるのを防ぐことができます。また、退職金の増加を抑える目的で、無理に諸手当を厚
くして賃金体系を歪めることもありません。
(2)中小企業の退職金の額
東京都の調査(2006 年)によると、中小企業の高校卒モデル退職金の額は、28 歳(勤
続 10 年)時で約 140 万円、38 歳(勤続 20 年)時で約 440 万円、48 歳(勤続 30 年)時
で約 910 万円、60 歳定年時で約 1,380 万円となっています。これは、大企業(資本金 5
億円以上・従業員 1000 人以上)の 6 割の水準といわれています。
(3)中小企業退職金共済制度(中退共制度)
企業独自で退職金制度を持つことが困難な中小企業を対象として、国が法律に基づい
て確立した退職金制度で、独立行政法人退職金共済機構(この項目において「機構」と
いいます。)が運営しています。
機構と契約を結び、毎月の掛金を納付すれば(掛金は全額事業主負担)、あとは機構
から直接従業員に退職金が支払われる仕組みで、以下のようなメリットがあります。
(※従業員は原則として全員加入させてください。期間を定めて使用されるものなどは
加入させなくても良いことになっています。)
中退共制度の主な特色は、次のとおりです。
①
掛金の助成がある
新しく中退共制度に加入する事業主に掛金の 1/2(従業員ごとに上限 5,000 円)を加
22
入後 4 ヶ月目から 1 年間、国が助成します。また、掛金月額(18,000 円以下)を増額す
る事業主に増額分の 1/3 を増額した月から 1 年間、国が助成します。
② 税法上の特典がある
中退共制度の掛金は、法人企業の場合は損金として、個人企業の場合は必要経費とし
て、全額非課税となります。
③ 退職金の管理が簡単
掛金は口座振替で納付できるため手間がいらず、加入後も面倒な手続きや事務処理が
なく、管理が簡単です。また、従業員ごとの掛金納付状況や退職金試算額について毎年
お知らせがあります。
④ 退職金は直接従業員へ
退職金は直接、退職した従業員の預金口座に振り込まれます。一時払いのほか、一定
の要件を満たしていれば、本人の希望により全部または一部を分割して受け取ることも
できます。
⑤ 掛金の選択ができる
年齢や勤続年数などに応じて、従業員ごとに月額 5 千円から 3 万円の範囲で 16 種類
の中から選択できます。
5,000 円
6,000 円
7,000 円
8,000 円
9,000 円
10,000 円 12,000 円 14,000 円
16,000 円 18,000 円 20,000 円 22,000 円 24,000 円 26,000 円 28,000 円 30,000 円
⑥
短時間労働者の加入
短時間労働者については、2,000 円、3,000 円、4,000 円の特例掛金月額から選択する
ことも可能です。(特例掛金を選択して短時間労働者を加入させた場合、新規加入助成
に一定の上乗せがあります。)
23
雇
用
(以下甲という。
)と
契
約
書
(以下乙という。
)とは、下記労働条件で雇用契約を締結する。
・雇用期間
1.期間の定めなし、 2.期間の定めあり(平成
・契約更新の有無
3.
「期間の定めあり」の場合の更新の有無
①
年
月
ある、
日
②
~
平成
年
月
する場合がある、
③
日)
ない
4.更新する場合又はしない場合の判断基準(
)
・就業の場所
・従事する業務内容
・繁閑の差の有無
1.月によって労働に繁閑の差が(有・無)
・始業、終業の時刻
2.始業・終業の時刻(1日の所定労働時間)
・所定労働時間
②
始業
:
~終業
3.1 か月の所定労働時間
・所定外労働の有無
・休憩時間
②
・就業時転換の有無
:
①
(
①
始業
:
~終業
:
(
時間)
時間)
、 ③
始業
:
~終業
:
(
時間)
1 か月の所定労働時間が年間を通して変わらない場合
月によって 1 か月の所定労働時間が異なる場合の月毎の所定労働時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
月
時間
4.1 年間の所定労働時間
時間
5.時間外労働の有無:有(①日・週・月・年
6.休憩時間:①
:
~
:
時間以内、②日・週・月・年
、②
:
7.就業時転換(交代勤務)がある場合
②
時間
始業
:
~終業
:
(
~
:
、③
時間以内)
・無
:
~
:
①
始業
:
~終業
:
(
時間)
時間)
、 ③
始業
:
~終業
:
(
時間)
(詳細は、就業規則による。
)
・休
日
1.定例日:毎週
曜日、
2.非定例日:
・休
暇
年次有給休暇(6 か月継続勤務した場合:10・ 日)
、
(詳細は、就業規則による。
)
・基本給と諸手当
1.基本賃金(時給
円)
(年間
・締切日と支払日
2.諸手当の額
・支払方法
③
・賃金支払時の控除
3.割増率:①時間外労働
・昇給
4.賃金締切日
・賞与
6.賃金支払方法
指定口座に振込み・現金、7.賃金支払時の控除:有(
・退職金
8.昇給:有(
月)
・無、9.賞与:年
・試用期間中の賃金
11.試用期間中の賃金:
・退職に関する事項
1.自己都合退職の手続(退職する
・解雇の事由及び手続き
2.解雇の事由及び手続:
・労働・社会保険
1.雇用保険の適用(有・無)
、2.健康保険・厚生年金保険の加入(有・無)
、3.企業年金(有・無)
・試用期間
4.試用期間:有(1・2・3
円)
(日給
①
円)
(月給
手当
円(
円(
)
、④
手当
3.年間
)
、②通勤手当(
%、②休日労働
日、5.賃金支払日
手当
当月・翌月
回(
円)
額)
)
%、④
%
日(ただし金融機関が休日の場合は前日)
月、
月、
)
・無
月)
、10.退職金:有・無
(詳細は、就業規則による。
)
日以上前に届け出ること)
(※詳細は、就業規則による。
)
か月間、平成
年
月
日~平成
年
月
日)
・無
上記契約の証として本書2通を作成し、甲・乙各1通を保有する。
平成
年
月
日
円
円(
%、③深夜労働
日
甲:
㊞
乙:
㊞
24