夫婦財産制と財産分与制度

スト893号38頁以下(1987年),大村敦志「判批」法学協会雑誌111巻6号
893頁以下(1994年)〔大村敦志『消費者・家族と法』279頁以下(東京大学出版会,
1999年)所収〕。
」夫婦財産制と財産分与制度
★二宮孝富「有責配偶者の離婚請求」島津一郎古稀『識座現代家族法2夫婦』
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217頁以下(日本評論社,1991年),浦本寛雄「離婚原因と破綻主義」石川稔ほ
1夫Aと妻Bとiま20年間,婚姻関係にあったが,Aの不貞行為を理由と|
か編『家族法改正への課題』189頁以下(日本加除出版,1993年),吉田欣子
Iして,BからAに対して離婚を求める訴えが提起された。
「離婚破綻の原因の認定について」中川善之助追悼『現代家族法大系2婚姻・
離婚」207頁以下(有斐閣,1980年),森田悦史「離婚原因と770条2項の必要
①Bは,離婚請求にあわせて,婚姻後,A名義で購入した土地・家屋の価1
性」婚姻法改正を考える会編『ゼミナール婚姻法改正」162頁以下(日本評論社,
値6000万円の半分にあたる3000万円の支払いを要求した。この請求は認|
1995年)。
められるか。Aが婚姻前から2000万円の預金を有しており,当骸土地・I
家屋がそれを頭金として購入された場合と,婚姻後に取得した金銭の承に:
よって購入された場合とで差異が生じるか。また,Bが専業主婦である場|
合,BがAを店主とする家業を手伝っている場合,BがAとは別の会社|
に勤務し給料を得ている場合,Bが病気がちで多くの期間,入院していた’
場合とで差異が生じるか。
②①と異なり,Bは,離婚請求訴訟においては何らの金銭的な請求もしなi
かつたが,当該訴訟で勝訴した後に,共有物分割請求訴訟を提起し,婚姻I
後,A名義で購入した士地・家屋(価値6000万円)につき2分の1の持ち1
分を主張した。これは認めらるか。
|③①とは異なりLAとBとは離婚していないとする。しかるに,夫婦共同i
lの生活基盤であるところの土地・家屋はA名義で登記されていた。そこI
|で,Bは,Aを相手取って.その2分の1につき所有権移転登記手続を|
|求めて訴えを提起した。これは認められるか。
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*考えるポイント
財産分与制度と夫婦財産制度はどのような関係にあるか。
【参照条文】民法768条,771条,762条,688条2項。
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1財産分与制度についての通常の論点
(1)協議離婚であろうと,裁判離婚であろうと,「離婚をした者の一方は,
相手方に対して財産の分与を請求することができる」(民768条1項,771条)。
さて,離婚時に夫婦の一方から他方へ給付がなされる場合,その給付の性
格にはいくつかのものがありうる。すなわち,夫婦財産の清算,離婚後の扶
養,離婚慰謝料である。そして,民法768条1項・771条に基づく財産分与
として行われるのは,上記の3つの種類の給付のうち何であるのか,が従来
から議論されてきた。しかし,判例は,次のような準則で固まっているとい
える(最判昭46.7.23民集25巻5号805頁〔家族百選19事件〕)。すなわち,
「離婚における財産分与の制度は,夫婦が婚姻中に有していた実質上共同の
財産を清算分配し,かつ,離婚後における一方の当事者の生計の維持をはか
ることを目的とする」ものであって,慰謝料の請求権とは性質が異なるが,
「裁判所が財産分与を命ずるかどうかならびに分与の額および方法を定める
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と
様盈な事情が重要となっている。そして,現在では,夫婦の財産形成に対す
る妻の寄与割合を原則として2分の1としたうえで,当該夫婦の個別的事情
を加味してそれを修正していくという方法が主流になっているといわれる。
1996年に法制審議会で決定された「民法の一部を改正する法律案要綱」の
「第六,二3」においては,財産分与につき,「当事者双方がその協力により
財産を取得し,又は維持するについての各当事者の寄与の程度は,その異な
ることが明らかでないときは,相等しいものとする」とするルール(「2分の
1ルール」といわれる)の採用を提案している。
しかし,さらに遡って,なぜ「清算」すべきなのか,については一致した
見解があるわけではない。
従来の通説は,次のように説明する。すなわち,民法762条は,夫婦財産
の別産制を規定している。そして,「婚姻中自己の名で得た財産は,その特
有財産」とされるのだから個条1項),たとえば夫の給与は夫の財産となり,
その給与所得で購入された財産も夫の財産となる。しかるに,これでは,妻
については,当事者双方におけるいっさいの事情を考慮すべきものであるか
が家事に従事すること等によって夫の給与取得に協力しても,その協力は評
ら,分与の請求の相手方が離婚についての有責の配偶者であって,その有責
行為により離婚に至らしめたことにつき請求者の被った精神的損害を賠償す
べき義務を負うと認められるときには,右損害賠償のための給付をも含めて
財産分与の額および方法を定めることもできる」というわけである。
もちろん,この判決ですべての問題が解決したわけではない。なぜ,「離
婚後における一方の当事者の生計の維持をはかること」が他方当事者の義務
となるのか,また,婚姻継続中の不貞行為についてはともかく,離婚自体に
ついて慰謝料が観念できるのか,については現在でも議論が多い。しかし,
以下ではそれらの問題は扱わない。財産分与制度における「夫婦が婚姻中に
有していた実質上共同の財産を清算分配する」という要素について,-歩踏
価されないことになる。これでは困るので,夫死亡時には配偶者相続権によ
染込んで検討しようとするものである。
と説かれるに至った。この流れに属する見解も様食に分かれるが,ここでは
(2)「清算」について,実務においては,小間①で例として示したような
り,離婚時には財産分与制度により,妻の協力を評価する。いうなれば,妻
は夫名義の財産につき潜在的持分を有しているのであり,これが夫死亡時や
離婚時には顕在化するのである。これが「清算」の意味である。
しかしながら,家事を分担するというかたちでの財産形成への協力が,潜
在的持分として夫死亡時・離婚時にしか評価の対象とならないということに
は批判もあった。1つには,期待された財産分与制度が妻に十分な財産を与
えるものとして運用されなかったということもあるが,理論的にも「潜在的
持分」という概念があいまいであることが指摘された。そして,現行法の下
でも,妻の家事労働等の協力を,もっと積極的に評価することが可能である
2つを取り上げる(詳しくは,犬伏・後掲111頁以下,高木・後掲300頁以下参照)。
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』夫婦財産制と財産分与制度ァ
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第1は,このことを,民法762条2項の解釈によって導き出そうとする見
解である。夫婦が協力して取得し,共同生活の経済的基盤を構成していたも
のは,夫婦の共有であると推定されるのであり,民法762条2項はまさにこ
れを規定したものである,という考え方である。この考え方によれば,財産
分与による「清算」は,まさに共有財産を分割するという意味を有すること
になる。
第2は,夫婦の間に組合関係または類似の関係の存在を認め,婚姻共同体
という組合の解散時における残余財産分割(民688条2項)に準じるものと
して「清算」をとらえるものである。これも,正面から「共有」を認める考
え方だといえる。
(3)それでは,共有物を分割することが「清算」の意味内容ならば,別段,
財産分与請求という特別の形態によらなくても,通常の共有物分割請求によ
ることは可能だろうか。あるいは,組合に擬して考えるのならば,民法688
条2項に基づいて請求していくことはできるのだろうか(以下では,共有物分
割請求についての象論じる)。
明示に論じる学説は少ないが,おそらくは共有物分割請求は否定されると
いうのが一般的な考え方であろう。すなわち,小間②におけるBの主張は
認められない。民法771条によって準用される768条に基づいて,財産分与
を請求しうるの糸である。もっとも,財産分与請求は離婚訴訟において主張
する必要があるわけではない。したがって,Bは,離婚訴訟で勝訴した後に,
新たに財産分与の審判を求めることができる。
ただし,どうして認められないか,について,従来の学説は必ずしも十分
な回答を与えてくれていないようである。
2共有物分割請求訴訟の許否
(1)共有物分割請求が認められない理由として,設問における不動産など
は,夫の所有名義とされることが多く,財産分与請求によらざるをえないの
だ,と説明するものもある。しかし,共有物分割請求は,分割対象となる財
産の登記名義いかんによってその請求が妨げられるわけではない。登記はあ
くまで第三者対抗要件であり,共有者間においては,登記なしに自己の共有
持分を主張しうる。したがって,この説明はとれない。
(2)おそらく,遺産につき相続人による共有物分割請求訴訟が認められな
い,とされている理由を参考にすべきであろう(凶参照)。最判昭62.9.4
家月40巻1号161頁〔家族百選91事件〕は,「遺産相続により相続人の共
有となった財産の分割について,共同相続人間に協議が調わないとき,又は
協議をすることができないときは,家事審判法の定めるところに従い,家庭
裁判所が審判によってこれを定めるべきものであり,通常裁判所が判決手続
で判定すべき屯のではない」としている。この理由としては,通常,遺産分
割においては民法906条の分割基準に基づいて,全体として分割されるべき
であり,各々の財産が個別的に分割されるべきではないことが説かれる。典
型的には,遺産が農業・商工業の物的基盤を形成しているときを考えればよ
い。このとき,その財産を解体してしまうのではなく,当該農業・商工業に
支障を来さないことを考慮しつつ,(たとえば金銭の支払で調整するなどして)
分割が行われなければならない。個奄の財産についての共有物分割請求によ
り,それらが個別に流出していくことを避けなければならないというわけで
ある。
同様の考慮の必要性は,離婚にあたっての財産分与についてはより強く妥
当する。たとえば,夫婦の財産として家屋があるとき,それについて一方か
らの共有物分割請求を認めてしまうと,結局は生活の基盤たる家屋を売却せ
ざるをえなくなる。ただ単に二分すればよいというわけではなく,両当事者
のこれからの生活を考え,金銭の支払で調整するなどしながら分配しなけれ
ばならない。したがって,財産分与制度を用いることによっての象請求が可
能であり,共有物分割請求訴訟等は用いえないとすべきなのである。
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』夫鰯財産制と財産分与制度”
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3離婚前の移転登記請求
ったとして贈与税が課されるはずの事案なのである。
(3)それでは,妻には婚姻時点で預金等の資産もなく,また,婚姻後はい
(1)以上の説明は,離婚時に共有物分割請求ができないことの理由を述べ
るの糸である。それでは,離婚に至らないうちはどうか。夫婦の財産を夫婦
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わゆる専業主婦で現金収入がない場合はどうか。おそらく,従来からの通説
の共有だというのならば,居宅が夫の単独名義で登記されているのは実体に
に従えば,潜在的持分はあっても,財産分与というかたちで顕在化しない限
合致していない。妻は,自分との共有の登記にせよ,と請求できるはずであ
り,移転登記請求はできないという結論になろう。しかし,正面から共有を
る。
認める学説を採るときは,移転登記請求を排斥すべき理由は見いだしにくい
実際にはすでに婚姻関係が破綻していた事例ではあるが,離婚に至る前に
妻が夫名義の建物について共有持分を主張し,夫に対して移転登記請求をし
た裁判例が存在する。東京地判昭和35.8.6法曹新聞156号9頁である.
ようにも思われる。
それでも,婚姻破綻後については何とか説明できる。個別的な移転登記請
求は実質上,共有物分割請求と同様の効果を有するのであり,離婚時の財産
判決は,夫と妻とは同じく小学校教員であり,ほぼ同額の収入を得ていた
分与において両当事者の生活に配慮した合理的な分割を可能にするために認
ところ,建物の建築代金支払のための借り入れが夫妻の共同でなされ,連帯
められない,というわけである。そして,婚姻破綻前にあえて移転登記請求
債務を負っているし,代金の一部は妻によりすでに支払われたことなどを認
をする当事者はほとんどいないから,以上の説明で実質的に困るわけではな
定したうえJ「本件不動産は原,被告の共有に属すると判断するのを相当と
い。しかし,理論的には,婚姻破綻前の請求も視野に入れておかなければな
する。しかして共有者の持分は,相等しいと推定されているから,以上の認
らないはずである。
定以外に他に特段の事情の存することのなんら認められない本件においては,
移転登記請求権を否定するために従来の通説に戻るというのも1つの選択
原告は,本件不動産につき,それぞれ二分の一の共有持分を有するといわざ
肢であるが,逆に,移転登記請求を正面から認めればよい,とも考えられる。
るをえない」として,妻の請求を認めた。財産分与制度との関係について,
難しいところである。
この判決は,「通常の場合,夫婦間の財産関係は,離婚の際における財産分
与の問題として清算されることが多いのであるが,婚姻関係の破綻を離婚に
ゴ1
しる当然である。逆に,夫単独の所有名義にすると,妻から夫への贈与があ
型判例法理の整理
よって清算する以前の段階において,夫婦間の財産関係を明らかにするとい
設問では問われていないが,最後に,判例法理について整理しておきたい。
うのであれば,もとよりその権利関係を明らかにする利益を否定すべきもの
民法に直接関係する判決として,最判昭34.7.14民集13巻7号1023頁
ではない」としている。
(2)この判決の事案は1つの特殊性を有している。いわゆる共働きの夫婦
〔家族百選7事件〕があるが,この判決は,「所論の原判示は相当として是認
できる」と述べるの承であり,必ずしも参考にならない。
であり,建物の取得代金の半分が妻の現金収入から支出されていることが明
つぎに,分与者(夫)が判決により財産分与として金銭の支払を命じられ
らかだった事例なのである。このような事例では,従来からの通説に従って
た後に破産したとき,請求者(妻)はその額について取戻権(破87条)を有
も,通常の共有にすぎず,妻からの移転登記請求が認められるべきことはむ
しない,とした判決がある(最判平成2.9.27家月43巻3号64頁〔重判平成2
|於孔宍 二=
6.
』夫鰯財産制と財産分与制度61
年度民訴5事件〕)。しかしながら,金銭が支払われる場合には,-定額の金
銭についての取戻権というものが観念できないことは破産法上当然であり
(取戻権の対象は特定物),財産分与一般についての判例法理を示すものではな
い。
むしろ参考になるのは,租税法に関する判例である。最判昭50.5.27民
集29巻5号641頁〔租税百選32事件〕は,離婚に際しての財産分与として,
夫から妻に不動産等が分与されたが,これに対して譲渡所得課税を行うこと
の適否が争われたものである。判決は,財産分与について,離婚の成立によ
って発生し,実体的権利義務として存在するに至るという理解を示し,「財
産分与に関し右当事者の協議等が行われてその内容が具体的に確定され」,
これに従い金銭の支払い,不動産の譲渡等の分与をすることによって,分与
義務者は「分与義務の消滅という経済的利益を享受」する,としている。
ここでは,夫婦財産を正面から夫婦の「共有」とする説は斥けられている。
共有不動産の分割は,何らの譲渡所得も発生させず,所得課税の対象は生じ
ないとするのが確定した理解であり,正面から「共有」を認めるならば,譲
渡所得課税はなされないはずである。つまり,上記判決は,財産分与を共有
物分割とは異なるものととらえ,離婚の成立によって他方配偶者の潜在的持
分が顕在化し,一方から他方に対する義務が発生するととらえているのであ
;
ときはどうか。また,以上の結論は,Bが専業主婦である場合と,BがAとほぼ
同じ給与を得ているときとで異なるか。
2小間③で,A・B間に,「婚姻後取得した財産についてはすべて2分の1ずつの
共有とする」という夫婦財産契約が存在するときはどうなるか。
《参考文献》
☆犬伏由子「夫婦財産制」星野英一編集代表『民法講座7親族・相続』97頁以
下(有斐閣,1984年),高木積夫「財産分与の対象となる財産の範囲」中川善之
助追悼『現代家族法大系2婚姻・離婚』299頁以下(有斐閣,1980年),瀬川信
久「財産分与制度」山畠正=泉久雄『演習民法(親族)』141頁以下(青林謹院,
1985年)。
★鈴木眞吹「離婚給付の性格とその決定基準」島津一郎古稀『講座現代家族法第
2巻夫婦』243頁以下(日本評譲社,1991年),大津千明「財産分与の方法」判例
タイムズ747号138頁以下(1991年),伊藤昌司「同族会社の経営に協力した
妻の財産分与」判例タイムズ747号140頁以下(1991年),石川稔「離婚給付」
戸籍時報428号31頁以下(1993年),同「離婚給付」私法56号28頁以下
(1994年)。
り,民法学の従来からの通説に従っているわけである。
〔関連問題〕
1AとBとは結婚して20年になる。最近,やっとマイホームを購入したが,そ
の登記はAの単独名義にしておいた。しかるに,Aは,Bに無断で,当該家屋を
第三者Cに売却し,Cは所有権移転登記を経由した。
Bは,当該家屋はAとBとの共有であり,Bの共有持分についてCは権利を
取得することはできないと主張し,Cに対し移転登記の一部抹消を求めた。これ
は認められるか。Aによる処分がBに無断で行われていることをCが知っていた
I
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』夫婦財産制と財産分与制度‘ョ