行政処分の成立・消滅

2013年 度 行 政 法 レ ジ ュ メ ( 8-2)
Ⅷ-2.行政処分の成立と消滅
一、行政処分の成立と効力発生
教科書等では行政処分の成立と効力発生を分けて論じるので、一応の説明をするが、
重要なのは2の効力発生要件である。
1、行政処分の成立
成立要件
①行政処分の
(効力発生要件と違うので注意)は、行政処分が対外的に表示
されることである。
-
内 部 意 思 の 決 定 だ け で は ( 会 議 で 決 ま っ た と か 、 稟 議 (りんぎ)
係者が押印すること
ない。
-
書類を回覧し関
を終わったとか)、行政処分が成立したことにはなら
最高裁昭和57.7.15判決 ( 民 集 36-6-1146、 判 時 1055-33、 LEX/DB
27000081) 給 油
所変更許可申請不作為違法確認訴訟
行政処分が行政処分として有効に成立したといえるためには、行政庁の内部
において単なる意思決定の事実があるかあるいは右意思決定の内容を記載した
書面が作成・用意されているのみでは足りず、右意思決定が何らかの形式で外
部に表示されることが必要であり、名宛人である相手方の受領を要する行政処
分の場合は、さらに右処分が相手方に告知され又は相手方に到達すること、す
なわち相手方の了知しうべき状態におかれることによつてはじめてその相手方
に対する効力を生ずるものというべきである。(中略)
右の事実によれば、本件許可書の写しの三菱石油大阪支店らに対する交付は、
同 人 ら の 懇 請 に 応 じ 大 阪 通 商 産 業 局 長 に 対 す る 関 係 で 昭 和 47年 度 の 給 油 取 扱 所
の変更の枠を確保することを目的としてあたかも許可処分があつたかのような
状況を作出するためにされたものにすぎず、被上告人に対する許可処分そのも
のは隣接住民の同意書の提出をまつて許可書の原本を交付することによつて行
うこととされ、三菱石油らももとよりこれを了承して許可書の写しの交付を受
けたのであるから、右交付をもつて被上告人に対する許可処分の外部的意思表
示がされたものとみることはできない。したがつて、これだけでは、本件許可
処分は行政処分として未だ成立していないといわざるをえず、…
②内部意思と異なった表示をした場合は、表示された内容の行政処分が成立するとさ
れている。
最高裁昭和29.9.28判決 ( 民 集 8-9-1779、 判 時 37-5、 LEX/DB
27003127)
この場合表示行為が当該行政機関の内部的意思決定と相違していても表示行為
が正当の権限ある者によつてなされたものである限り、(この事実は原審の認
定したところである)該書面に表示されているとおりの行政行為があつたもの
と認めなければならない。
2、行政処分の効力の発生
効力発生要件
①処分の
は行政処分が相手方に到達することである。
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2013 行政法
最高裁昭和29.8.24判決 ( 刑 集 8-8-1372、 判 時 34-22、 LEX/DB
27660386) 検 察 官 免
官発令処分
特定の公務員の任免の如き行政庁の処分については、特別の規定のない限り、
意思表示の一般的法理に従い、その意思表示が相手方に到達した時と解するの
が相当である。即ち、辞令書の交付その他公の通知によつて、相手方が現実に
これを了知し、また相手方の了知し得べき状態におかれた時と解すべきである
最高裁平成11.10.22判決 ( 民 集 53-7-1270、 判 時 1693-133、 LEX/DB 28042452) 医
薬品の製造・輸入承認
医 薬 品 の 製 造 又 は 輸 入 を 業 と し て 行 う た め に は 、 薬 事 法 に 基づく 許 可 を 受 け
な け れ ば な ら な い が ( 薬 事 法 12 条 、 22 条 ) 、 そ の 許 可 の 申 請 者 が 、 製 造 又 は 輸
入しようとする医薬品につき、承認を受けていないときは、その品目について
右 許 可 を 受 け る こ と が で き な い ( 同 法 13 条 1 項 、 23 条 ) 。 承 認 は 、 医 薬 品 の 有 効
性 、 安全性 を 公 認 す る 行 政 庁 の 行 為 で あ る が 、 こ れ に よ っ て 、 そ の 承 認 の 申 請
者 に 製 造 業 等 の 許 可 を 受 け 得 る 地位 を 与 え る も の で あ る か ら 、 申 請 者 に 対 す る
行 政 処 分 と し て の 性質 を 有 す る も の と い う こ と が で き る 。 そ う す る と 、 承 認 の
効力は、特別の定めがない限り、当該承認が申請者に到達した時、すなわち申
請者が現実にこれを了知し又は了知し得べき状態におかれた時に発生すると解
するのが相当である。
討 し て も 承 認 の 告 知 方 法 を 定 め た 規 定 は 存在 し な い が 、
薬 事 法 14 条 1 項 、 13 条 1 項 等 の 文 理 か ら す れ ば 、 告 知 に 関 す る 規 定 が な い こ と を
もって、同法が、承認について申請者への告知を不要としているものとは解さ
れず、他に申請者への到達なしに承認の効力が生ずることをうかがわせる定め
そして、関係法令を検
はない。
律 に 効 力 発 生 時 期 に 関 す る 特 別 の 規 定 が あ る 場 合 は 、 行 政 処 分 に 附款 ( 停止条 件
or始期 ) が 付 さ れ て い る 場 合 は そ れ に よ る 。
法 律 の 特 別 の 規 定 は 宇賀Ⅰp. 349 以下 に 紹介 さ れ て い る が 、 そ れ に よ る と 、 国籍 法
§ 10② ( 帰化 ) 、 文化財 保 護 法 § 28② ( 重 要 文化財指 定 ) 、 森林 法 § 33② ( 保 安
林 の 指 定 及び 解 除 ) な ど が あ る 。
②法
③一般処分の場合は公示の方法をとることがある(一般的な規定はないので個別法律
の 規 定 に よ る 。 例 え ば 道路 法 § 18)
※ 一 般 処 分 と は 、 道路 の 供 用 開始 処 分 や供 用 廃止 処 分 の よ う に 不 特 定 多数 の 者
を相手としてなされる行政処分のこと。
③ 相 手 方 の 所 在 が 不 明 の 時 に つ い て も 一 般 的 な 規 定 は な い の で 、 行 政 処 分 の 性質 に 従
って個別に判断することになる。
最高裁平成11.7.15判決 ( 判 時 1692-140、 判 例自治 195-45、 LEX/DB 28041261)
失踪 公 務 員 に 対 す る 懲戒 免 職 処 分 の 通 知 方 法 と 効 力 発 生 時 期
所 在 が 不 明 な 公 務 員 に 対 す る 懲戒 処 分 は 、 国家 公 務 員 に 対 す る も の に つ い
ては、その内容を官報に掲載することをもって文書を交付することに替える
こ と が 認 め ら れ て い る ( 人 事 院 規 則 1210 「職 員 の 懲戒」 5 条 2 項 ) と こ ろ 、 地
方 公 務 員 に つ い て は こ の よ う な 規 定 は 法 律 に は な く 、 兵庫県条例 に も こ の 点
に 関 す る 規 定 が な い の で あ る か ら 、 所 在 不 明 の 兵庫県職 員 に 対 す る 懲戒 免 職
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2013 行政法
処分の内容が
兵庫県 公 報 に 掲 載 さ れ た こ と を も っ て 直 ち に 当 該 処 分 が 効 力 を
生ずると解することはできないといわざるを得ない。
主張 に よ れ ば 、 上 告 人 は 、 従 前 か ら 、 所 在 不 明 と
な っ た 職 員 に 対 す る 懲戒 免 職 処 分 の 手 続 に つ い て 、 「 辞 令 及び 処 分 説 明 書 を
家族 に 送 達 す る と 共 に 、 処 分 の 内 容 を 公 報及び新聞紙 上 に 公 示 す る こ と 」 に
よ っ て 差 し 支 え な い と し て い る 昭 和 30年 9 月 9 日 付 け 自丁 公 発 第 152 号 三 重 県 人
事 委 員 会 事 務 局 長 あ て 自治省 公 務 員 課 長 回 答 を 受 け て 、 当 該 職 員 と 同 居 し て
い た 家族 に 対 し 人 事 発 令 通 知 書 を 交 付 す る と と も に そ の 内 容 を 兵庫県 公 報 に
掲載するという方法で行ってきたというのであり、記録上そのような事実が
う か が わ れ る と こ ろ で あ る 。 そ う で あ る と す る な ら 、 兵庫県職 員 で あ っ た 被
上 告 人 は 、 自 ら の 意 思 に よ り 出 奔 し て 無断欠勤 を 続 け た も の で あ っ て 、 右 の
方 法 に よ っ て 懲戒 免 職 処 分 が さ れ る こ と を 十 分 に 了 知 し 得 た も の と い う の が
相 当 で あ る か ら 、 出 奔 か ら 約 2 箇月後 に 右 の 方 法 に よ っ て さ れ た 本 件 懲戒 免 職
しかしながら、上告人の
処分は効力を生じたものというべきである。
※ 行 政 処 分 の 効 力 発 生 の 有 無 に か か る 最高裁 判 例 は 少 な く な い 。 そ れ を 知 っ て お く こ と
は 実 務 上 有 益 で あ る の で 、 そ れ ぞ れ TKC で 確 認 し て お く こ と ( 以下 判 決 日 だ け を 列挙 し
ておいた)
..
..
..
..
..
..
4、 昭 和 33 . 10 . 21、 昭 和 38 . 11 . 26、 昭和42.7.5、昭和47.9.22 、 昭 和 56 . 3 . 27、 昭 和 5
7 . 7 . 23
昭 和 28 2 20、 昭 和 30 4 12、 昭 和 28 9 3、 昭 和 30 3 29、 昭 和 30 6 21、 昭 和 33 5 2
※行政処分が成立していないのに、あるいは行政処分が効力を生じていないのに、行政
庁 が 処 分 の 有 効 を 主張 す る 場 合 に は 、 「 処 分 不 存在 確 認 訴 訟 」 ま た は 「 処 分 無 効 確 認
訴 訟 」 を 提 起 す る こ と が で き る ( 行 政 事 件 訴 訟 法 § 3④ ) 。 勿 論 、 公 定 力 も 生 じ て い な
い の で 、 当 事 者 訴 訟 で 処 分 の 不 存在 ま た は 無 効 を 主張 す る こ と も 可 能 で あ る 。
二、行政処分の効力の消滅
消滅 す る の は 次 の よ う な 場 合 で あ る 。
1.職 権 に よ る 撤 回 ま た は 取 消 ( こ れ ら は 行 政 処 分 で あ る )
2 .争 訟 に よ る 取 消 ( 不 服 審 査 の 裁 決 等 や裁 判 所 の 判 決 に よ る 取 消 )
3. あ る 事 実 の 発 生 や 時 の 経過 に よ る 失 効 ( こ れ は 行 政 処 分 に よ る 失 効 で は な い )
法律に定められた失効事由が生じたとき
行 政 処 分 に 付 さ れ た 附款 ( 解 除条 件 ・ 終 期 ) に よ る 失 効
そ の 他 、 当 該 処 分 の 性質 上 、 あ る 事 実 の 発 生 に よ る 失 効 が 認 め ら れ る と き ( 行
政 処 分 の 対 象 と な る 行 為 ( 工 事 な ど ) の 終 了 又 は 相 手 方 の 死亡若 し く は 対 象物
の 消滅 な ど )
行政処分の効力が
1、撤回と職権取消
1 撤回
(
)
①
適 法 に 成 立 し た 行 政 処 分 を 後 に 発 生 し た 理 由 に よ っ て 取 り 消 す こ と を 撤回 と い う 。 撤
概念 は 学問 上 の も の で 、 法 律 で は 「 取 消」 と 規 定 さ れ る こ と が 多 い 。 ま た
回という
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2013 行政法
「廃止」 な ど 他 の 用 語 が 使 わ れ る こ と も あ る 。
②
撤回は、主に次のような理由で行われる。
・ 処 分 を 維持 す る 必 要 が な く な っ た た め ( 保 安林指 定 理 由 が 消滅 し た と き の 保 安林
指 定 解 除:森林 法 § 26)
・ 資格 要 件 を 満 た さ な く な っ た た め ( 医 師 が 成 年 被 後見 人 と な っ た と き の 医 師 免 許
の 取 消: 医 師 法 § 3と § 7① )
・後発的違法状態の発生のため
・ 違 法 行 為 や 許 可 条 件 違 反 が あ っ た た め ( 交 通 違 反 に よ る 運転 免 許 取 消 な ど 、 制裁
としての機能を持つ)
・新たな行政上の必要が生じたため(行政財産を本来的目的で使用するための目的
外 使 用 許 可 の 取 消 し 。 ま た 長 沼ナイキ 訴 訟 で 問題 と な っ た 保 安林指 定 解 除 は ナイ
キ基地 と い う 公 益 目 的 の た め に 行 わ れ た 。 そ の 公 益性 の 有 無 を め ぐ っ て 自衛隊 の
合 憲性 が 争点 と な っ た の は よ く 知 ら れ て い る 。 )
③撤 回 権 者 は 処 分 庁 で あ る ( → 上 級 機 関 は 撤 回 権 を 有 し な い ) 。
④撤 回 の 効 果 は 将来 に 向 か っ て の み 生 じ る 。
⑤利益 付 与 処 分 の 撤 回 と 根拠 規 定 の 要 否
a ) 問題 の 所 在
・ 伝統 的 に は 、 撤 回 事 由 が 存在 す る 場 合 に は 、 撤 回 を 認 め る 根拠 規 定 が な く と も 撤
回 を 行 え る と い う 「撤 回 自由 原 則」 が 通 説 で あ っ た 。 今日 で も 、 撤 回 に 常 に 法 律
上 の 根拠 規 定 を 必 要 と す る も の で は な い と い う 見 解 が 多数 で あ る 。 塩野Ⅰp. 173 参
照。
・ し か し 、 戦後 、 利益 付 与 処 分 の 撤 回 は 、 相 手 方 の 権 利 ・ 利益 保 護及び信頼 保 護 の
要 請 に よ り 自由 に は な し え ず 、 相 手 方 の 同 意 又 は 行 政 処 分 の 附款 と し て 撤 回 権 が
留 保 さ れ て い る 場 合 を 除 き 、 法 律 の 根拠 を 要 す る と い う 説 が だ さ れ 、 戦後 行 政 法
学 の 重 要 な 論 争点 に な っ た 。 ま た 、 許 可 の 相 手 方 に 対 す る 改善命 令 処 分 や営 業 停
止命 令 処 分 に は 法 律 の 根拠 が 必 要 で あ る の に 、 そ れ よ り 相 手 方 に 対 す る 不 利益 の
大 き な 撤 回 ( 許 可 取 消 等 ) に 法 律 上 の 根拠 を 必 要 と し な い と な る と 平仄 が 合 わ な
い と い う 問題 も 指摘 さ れ た 。
・ こ の 説 に 対 し て は 、 撤 回 の 要 否 を 考慮 し て す べ て の 立 法 が な さ れ て い る 訳 で は な
く、明文規定がなくとも撤回を必要とする場合を否定できないと言う反論もあっ
た(山内一夫)。
スモン 訴 訟 東京地裁 昭 和 53 . 8 . 3判 決 ( 判 時 899-48) は 、 承 認 後 に 有 害性 が 判 明
し た 薬 品 製 造 承 認 の 取 消 規 定 が 欠落 し て い る と し て も 、 承 認 を 取 り 消 さ な い こ
と が 違 法 と な り う る と し た 。 薬 事 法 の 製 造 承 認 取 消 規 定 は 本 判 決 後 の 昭 和 54年
改 正 で 明 文化 さ れ た 。
・ ま た 、 処 分 の 性質 に よ り 分 け て 考 え る べ き で あ る と い う 見 解 も 出 さ れ て い る 。
b ) 最高裁 判 例 の 立 場
こ の よ う な 学 説 状 況 の な か で 、 優性 保 護指 定 医 取 消 事 件 ( い わ ゆ る 菊田 医 師 事 件 )
最高裁昭和63.6.17判決 ( 判 時 1289-39、 ケースブックp. 51、 LEX/DB 27802430) が 、 撤 回
すべき公益上の必要性が高い場合は直接明文の規定がなくとも撤回は可能であると
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いう判
断を示した。
菊田 医 師 事 件 と は 、 上 告 人 が 中 絶 の 時 期 を 逸 し な が ら そ の 施術 を 求 め る 女性
に 対 し 、 勧 め て 出 産 を さ せ 、 当 該 嬰児 を 子供 を 欲 し が っ て い る 他 の 婦女 が 出
産 し た と す る 虚偽 の 出 生 証 明 書 を 発 行 す る こ と に よ っ て 、 戸籍 上 も 右 婦女 の
実 子 と し て 登 載 さ せ 、 右 嬰児 を あ っ せん す る 、 い わ ゆ る 赤 ち やん あ っ せん を
行ってきたことを理由に、優生保護医の指定が医師会によって取り消された
事件。
師 会 が 昭 和 51年 11 月 1 日 付 の 指 定 医 師 の 指 定 を し た の ち に 、 上 告 人 が 法
秩序遵守 等 の 面 に お い て 指 定 医 師 と し て の 適格性 を 欠く こ と が 明 ら か と な り 、 上
告 人 に 対 す る 指 定 を 存続 さ せ る こ と が 公 益 に 適 合 し な い 状 態 が 生 じ た と い う べ き
と こ ろ 、 実 子 あ っ せん 行 為 の も つ 右 の よ う な 法 的 問題点 、 指 定 医 師 の 指 定 の 性質
等 に 照 ら す と 、 指 定 医 師 の 指 定 の 撤 回 に よ っ て 上 告 人 の 被 る 不 利益 を 考慮 し て も 、
なおそれを撤回すべき公益上の必要性が高いと認められるから、法令上その撤回
について直接明文の規定がなくとも、指定医師の指定の権限を付与されている被
上告人医師会は、その権限において上告人に対する右指定を撤回することができ
被上告人医
るというべきである。
c ) 主 な 学 説 :学 説 状 況 に つ い て は 百選Ⅰp. 184( 石 川敏 行 ) を 参照 さ れ た い 。
・ 塩野Ⅰp. 174は 、 利益 的 行 政 処 分 の 撤 回 に つ い て 、 上 記 の よ う に 撤 回 権 の 根拠 を 許
認可等の授権規定に求めつつ、撤回制限の法理で対応すべきであるとしている。
・ 芝池 は 、 授 権 規 定 が 撤 回 権 の 根拠 と な る と い う 見 解 に 疑問 を 呈 し て 、 法 律 の 根拠
な く撤 回 が で き る 場 合 と し て 、 本 人 同 意 ま た は 撤 回 権 留 保 の 他 、 「 行 政 行 為 の 要
件 事 実 と く に 基幹 的 な そ れ が 事 後 的 に 消滅 し た 場 合 ( ま た は 欠格 事 由 が 発 生 し た
場 合 ) の 撤 回 で あ る 」 を あ げ て い る ( 芝池p. 179) 。
・ 利益 的 処 分 の 撤 回 は 法 律 上 の 根拠 法 規 が な け れ ば な し え な い と い う 見 解 も 有 力 で
あ っ た ( 杉村敏 正 説 が 有 名 ) 。
・ 利害 状 況 や撤 回 の 機 能 を も と に 類 型化 し て 検 討 す る 見 解 も あ る ( 今村 成 和 ) 。
※私 ( 石 崎 ) は 、 現 時 点 で は 塩野 説 の 立 場 に 立 つ が 、 明 文 の 根拠 規 定 の な い 利益 処
分 の 撤 回 が 認 め ら れ る 要 件 は 厳格 に 解 す べ き で あ ろ う 。 ( な お 、 薬 害 事 件 の よ う
に、後に違法性が判明した場合でも、それは当初から有していた違法性の事後的
判明と考えるべき場合があると思う。そうだとすると、このような場合の許可や
製 造 承 認 等 の 取 消 は 、 撤 回 で は な く職 権 取 消 で あ る 。 )
d ) 許 認 可 の 撤 回 や資格若 し く は 地位 を 付 与 す る 処 分 の 撤 回 は 、 原 則 と し て 聴聞 手 続 が
必 要 で あ る ( 私 が 示 し た 4区 分 論 の う ち 全 面 的 な 剥 権 処 分 に 該 当 す る ) 。 行 政 手 続 法
§ 13① 参照 。
e ) 利益 的 処 分 で あ っ て も 、 法 律 の 規 定 に よ り 撤 回 が 義 務 付 け ら れ る 場 合 が あ る ( 宇賀
Ⅰp. 357)
⑥撤 回 権 制 限 の 法 理 ( 櫻井 ・ 橋 本 p. 104、 塩野Ⅰp. 174 以下 )
a ) 国 民 に 権 利利益 を 付 与 す る 行 政 処 分 は 、 当 該 権 利利益 の 保 護 な い し 信頼 保 護 の 要 請
により、その撤回は制限される。
・ 何 ら の 撤 回 理 由 な く 、 私 人 の 不 利益 に 撤 回 を す る こ と は 許 さ れ な い 。
・撤回事由が発生したときも、当然に撤回しうることにはならず、相手方の事情を
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考慮 し た 適切 な 利益衡量 が 必 要 で あ る 。
福岡地裁平 成 10 . 5 . 26判 決 ( 判 時 1678-72) 生 活 保 護廃止 事 件
自動車 の 所 有 及び借 用 を 理 由 と す る 保 護廃止 処 分 が 取 り 消 さ れ た 事 例 ( こ
れ は 違 反 の 程 度 に 対 し 保 護廃止 処 分 が 均衡 を 欠く と い う こ と で 、 比例 原 則
違 反 の 問題 で も あ る ) 。
・ 撤 回 理 由 が 法 律 上 制 限 的 に 列挙 さ れ て い る 場 合 は 、 そ れ 以 外 の 理 由 で 撤 回 を す る
こ と は 許 さ れ な い と 解 す べ き で あ ろ う ( 運転 免 許 の 取 消 等 ) 。
※形式的には撤回であるが、もはや原処分とはまったく異なる別の処分と考えた方
が実態に即していると思われる場合もある(公務員免職処分等)。この場合は、
根拠 法 律 が 必 要 で あ る し 、 当 該 処 分 の 可 否 も そ の 根拠 法 律 に よ る こ と と な る 。
b ) 撤 回 に 当 た り 、 損失補償 が 必 要 と な る 場 合 が あ る 。
国 有 財 産 法 § 24、 § 19 参照
最高裁昭和49.2.5判決 ( 民 集 28-1-1、 判 時 736-41、 ケースブックp. 528)
な お 、 こ の 問題 に つ い て は 『 行 政 法 の 争点 ( 第 3 版 ) 』「 許 可 等 の 撤 回 と 損失補
償」 ( 須藤陽子 ) 及び そ こ に 紹介 さ れ た 文献 を 参照 さ れ た い 。
⑦ 不 利益 的 処 分 の 撤 回
不 利益 的 処 分 の 撤 回 は 、 そ の 処 分 を 維持 す る 必 要 性 が 消滅 し た 場 合 に は 原 則 と し て
可 能 で あ る と 考 え ら れ る ( 宇賀p. 356) 。 つ ま り 原 則 と し て 撤 回 可 能 で あ る 。 し か し 、
処 分 要 件 を 充 足 の 状 態 が 続 き 、 か つ 処 分 を 維持 す る こ と に 公 益 上 の 必 要 性 も あ る 場
合 は 、 不 利益 処 分 と い え ど も 、 そ の 撤 回 が 自由 で あ る と は い え な い 。
二 重 効 果 的 処 分 の 場 合 は 、 相 手 方 に と っ て 不 利益 的 な 処 分 で あ っ て も 、 反 対 利害 関
係 者 の 権 利 ・ 利益 保 護 の た め に 、 撤 回 が 制 限 さ れ る こ と が あ る 。
(2)
職権取消
瑕疵 ( 違 法 性 ) を 有 し て い る こ と を 理 由 に 、 行 政 機 関 が 職 権 で 処 分 を 取
り 消 す こ と ( 単 に 「 取 消」 と い う こ と が 多 い ) を 職権取消 と い う 。 そ の 主 た る 目 的
は 違 法 状 態 の 除去 で あ る 。 但 し 、 職 権 取 消 事 由 を 違 法 だ け に 限 定 す る 見 解 も あ る 。
※瑕疵 が 違 法 性 の 他 に 不 当 性 も 含む の か と い う 問題 も あ る が 、 こ こ で は 違 法 と い
う意味で用いる。
①行政処分が
職 権 取 消 の 根拠 規 定 が な く と も 取 消 権 を 有 す る と い う の が 通 説 で あ る 。
上級行政機関が法律に特別の規定がない場合にも職権取消権を持つかどうかにつ
いては見解が分かれる。但し、上級行政機関に取消権を認めた規定は少なくない
( 地 方 自治 法 § 154の 2) 。
な お 、 学 説 は 伝統 的 に 上 級 行 政 庁 は 当 然 に 取 消 権 を 有 す る と し て い た が 、 近 年 は 、
法 律 に 根拠 の な い 場 合 は 上 級 行 政 庁 と い え ど も 当 然 に 取 消 権 を 有 す る も の で は な
く 、 法 律 ・ 条例 上 の 根拠 が 必 要 で あ る と い う 見 解 が 有 力 に な っ て い る 。
②処分庁は
③ 原 則 と し て 職 権 取 消 の 効 果 は 遡 る 。 つ ま り 最初 か ら 処 分 の 効 果 は 否 定 さ れ る 。
④利益 付 与 処 分 の 職 権 取 消 が 国 民 の 既 得 利益 保 護や信頼 保 護 の た め に 制 限 さ れ る 場 合
があるとするのが学説の大勢である。これを職権取消権制限の法理という。特に継
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続 的 な 資格や 受 給 権 を 基礎 付 け る 処 分 に 職 権 取 消 の 制 限 の 要 請 が 強 い 。
福岡地裁 昭 和 53 . 4 . 14判 決 ( 訟 月 24-6-1267) 在日韓国 人 永 住 許 可 取 消 事 件
永 住 許 可 以前 の 不 法 出 入国 が 仮 に あ っ た と し て も 、 被 処 分 者 の 許 可 取 消 に
よ る 重 大 な 不 利益 に 比 べ 、 取 消 の 公 益 上 の 必 要 性 が な い と し た 事 例
※資格 要 件 を 欠く こ と が 判 明 し た 年 金 給 付 決 定 を 取 り 消 し た 事 件 で 、 将来 に わ た
る 給 付 に つ い て だ け 取 消 し を 認 め た 事 例 が あ る ( 松山地裁宇 和 島 支 部 昭 和 43 . 1
2 . 10判 決 = 行 集 19-12-1896、 判 時 551-22) 。 し か し 、 控 訴 審 は こ の 判 断 を 否 定 。
同 様 に 東京地裁 昭 和 57 . 9 . 22判 決 ( 行 集 33-9-1846、 訟 月 29-3-490、 老齢 年 金 支
給 裁 定 取 消 事 件 ) も 過去 に 遡 る 取 消 を 認 め た 。 私 は 、 将来 に わ た る 取 消 は 許 さ
れ る が 、 過去 の 給 付 の 取 消 し 、 そ の 返還 を 請 求 す る こ と が 許 さ れ な く な る 場 合
があると考える。
⑤ 不 可 変 更 力 の あ る 処 分 の 撤 回 や職 権 取 消 は 許 さ れ な い 。
最高裁昭和30.12.26判決 ( 民 集 9-14-2070、 判 タ 54-26) 訴 願棄却裁 決 取 消 事 件
※ 不 可 変 更 力 は 、 当 該 行 政 処 分 の 特 殊 な 性質 上 、 当 該 行 政 処 分 に 最初 か ら 認 め ら れ
る も の で あ る 。 そ れ に 対 し 、 ④ で 述 べ た 職 権 取 消 権 の 制約 は 、 利益 的 処 分 で 相 手
方 に 当 該 処 分 の 存続 を 信頼 す る 正 当 な 理 由 が あ る 場 合 に 職 権 取 消 が 制 限 さ れ る と
す る も の で あ る 。 つ ま り 、 職 権 取 消 の 可 能性 を 前 提 と し た 上 で 、 相 手 方 の 信頼 を
保護すべき特別の事情が発生したことにより、例外的に職権取消が制限されるも
の で あ る 。 そ の た め ④ の 職 権 取 消制 限 は 不 可 争 力 と は 別 の も の で あ る 。
(
3 ) 撤 回 及び職 権 取 消 の 処 分 性
① 撤 回 も 職 権 取 消 も 、 そ れ 自体 が 一 つ の 独 立 し た 行 政 処 分 で あ る 。 従 っ て 、 撤 回 及び
職 権 取 消 に 対 し て は 取 消 訴 訟 を 提 起 す る こ と が で き る 。 ま た 撤 回 及び職 権 取 消 は 公
定力を有する。
撤 回 や職 権 取 消 が 行 政 庁 に よ っ て 一 方 的 に な さ れ う る と こ ろ に 、 行 政 処
分の権力性の一端が現れている。
②行政処分の
(
4)撤回請求権・職権取消請求権
①処分の後に違法状態が判明したとき、違法状態となったとき、その他の事由で、当
該 処 分 を 維持 す る と 国 民 の 権 利 ・ 利益 に 重 大 な 危険 が 発 生 す る こ と が 予測 さ れ る 場
合、当該処分の撤回または職権取消が義務付けられる場合があると考えられる。
②
我 が 国 の 行 政 法 で こ の 問題 が 顕著 に 問 わ れ た の は 薬 品 公 害や食 品 公 害 事 件 で あ る 。
ここでは、薬品製造承認等を取り消さないことの違法性が問われた。いわゆる不作
為の違法性を認めた事例として次のようなものがある。
東京地裁 昭 和 53 . 8 . 3判 決 ( 判 時 899-48) 東京スモン 訴 訟
東京地裁 昭 和 57 . 2 . 1判 決 ( 判 時 1044-19) クロロキン 薬 害 訴 訟
な お 、 クロロキン 薬 害 訴 訟 最高裁平 成 7 . 6 . 23判 決 ( 民 集 49-6-1600、 判 時 1539-3
2) は 、 薬 品 製 造 承 認 の 取 消 を お こ な わ な か っ た こ と が 違 法 で は な い と し た 。
③ 行 政 事 件 訴 訟 法 改 正 前 は 義 務 付 け 訴 訟 制 度 が な か っ た の で 、 こ の 問題 は も っ ぱ ら 国
家賠償 訴 訟 で 問 わ れ た ( 薬 品 公 害 訴 訟 等 ) 。 し か し 、 義 務 付 け 訴 訟 が 法 定 さ れ た の
で 、 今後 は 撤 回 又 は 職 権 取 消 の 義 務 付 け 訴 訟 の 可 否 が 議 論 さ れ よ う 。
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2013 行政法
2、争訟による取消
争
消
服
訟による取
には、①不
申立て(異議申立て、審
消と、②取消訴訟による取消がある。
※争 訟 取 消 の 詳細 は 司 法 審 査 論 で 扱 う 。
る取
査請求、再審査請求)によ
服申立てのうち、異議申立ては処分庁が決定し、審査請求は上級行政庁又は法律
で 定 め る 審 査 庁 ( 国税 不 服 審 判 所 な ど ) が 裁 決 す る 。 処 分 が 不 当 ・ 違 法 の 場 合 は 、
原処分を取り消すこととなる。なお、不服申立てでは、取消に変えて原処分を変更
することも可能である(異議申立ての場合、審査庁が上級庁の場合、その他法律に
①不
規定のある場合)。
消訴訟では、裁判所が判決で取消す。ただし、裁判所が処分を取り消すことがで
き る の は 処 分 が 違 法 の 場 合 だ け 。 不 当 と い う だ け で は 取 り 消せ な い 。
※「 不 当 」 と は 、 処 分 が 違 法 ま で は い え な い が 、 行 政 目 的 か ら す れ ば 不 適切 な 処
分という意味。①で書いたように、不服申立てでは、違法と不当の両方が取消
理由となる。
②取
3、その他の理由による失効
1 律
然失
(
)法
①法
の規定による当
効
律 で 期 限 を 定 め る 例 は 少 な く な い ( 法 定 期 限 ・ 法 定 附款 )
運転 免 許 の 有 効 期 限 、 放送 局 免 許 の 期 限 な ど 。
律上、行政処分が失効する場合がある。
国家 公 務 員 の 当 然失職 ( 国家 公 務 員 法 § 76) な ど
最高裁平成19.12.13判決 ( 判 時 1995-157、 LEX/DB 28140153、 レ ジ ュ メ p. 38)
②ある事実の発生によって、法
除条 件 や期 限 ( 終 期 ) に よ っ て 失 効 す る 場 合
土地収 用 に お け る 事 業 認 定 は 、 事 業 認 定 の 告 示 後 1年 以 内 に 収 用 ま た は 使 用 の 裁 決
の 申 請 を し な い と 失 効 す る ( 土地収 用 法 § 29① )
(2)行政処分に付された解
(
3)その他
死亡や 対 象物 の 消滅 に よ っ て 、 当 然 に 失 効 す る 場 合
旅館 業 法 の 許 可 は 、 設備 に も 着 目 し て 行 わ れ る の で 、 施設 が 焼失 す る と 当 然 に 失
①相手方の
効する。
②
建築 確 認 ・ 開 発 許 可 の よ う に 工 事 が 完 了 す る と 、 当 該 処 分 の 効 力 は 消滅 す る 場 合 が
あ る 。 → こ れ は 建築 確 認 等 に 対 し 隣 人 が 取 消 訴 訟 を 提 起 し て い る と き に 、 工 事 が 完
了 後 も 訴 訟 を 継続 で き る か と い う 問題 に 関 係 し て い る 。 判 例 は 訴 え の 利益 が 消滅 す
るとしている。
建築完 成 後 の 建築 確 認 取 消 請 求 に つ き 最高裁 昭 和 59 . 10 . 26判 決 ( 民 集 38-10-1169、
判 時 1136-53、 ケースブックp. 357)
工 事 完 了 後 の 開 発 許 可 取 消 請 求 に つ き 最高裁平 成 5 . 9 . 10判 決 ( 民 集 47-7-4955、 判
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時 1514-62、
(
ケースブックp. 362)
4 ) 処 分 の 効 力 の 存否 を め ぐ っ て 争 い が あ る と き
※(1)から(3)であげた行政処分の失効は、撤回等の行政処分によって原処分の
効 力 が 除去 さ れ る も の で は な い 。 従 っ て 、 処 分 の 失 効 を め ぐ っ て 争 い が あ る 場 合 に
「失 効 処 分 取 消 訴 訟 」 と い う も の は 存在 し な い 。
① 国 民 が 「 処 分 の 効 力 は 存続 し て い る 」 と 考 え る 場 合 は 、 処 分 の 効 力 を 前 提 に 民 事 訴
訟 や 当 事 者 訴 訟 ( 給 付 訴 訟 な ど ) を 提 起 す れ ば よ い 。 こ の よ う な 訴 訟 が 困難 な 場 合
は 「 処 分 が 存在 す る こ と の 確 認 の 訴 え 」 を 提 起 で き る ( こ れ は 抗 告 訴 訟 の 一 つ で あ
る : 行 政 事 件 訴 訟 法 § 3④ ) 。
( 1 ) ② で あ げ た 前掲 最高裁平成19.12.13判決 参照
本 件 は 、 有 罪 判 決 を 受 け て か ら 約 27年 に わ た り 国家 公 務 員 と し て 郵便 局 に 勤 務
し て い た 者 ( 上 告 人 ) が 、 国家 公 務 員 の 欠格 事 由 ( 国家 公 務 員 法 § 76、 § 38)
に 該 当 す る と し て 、 同 有 罪 判 決 の 確 定 し た 翌日 ( 1973年 12 月 22 日 ) に 失職 し た
旨 の 人 事 異 動 通 知 書 の 交 付 を 2000年 11 月 13 日 に 受 け た 事 件 で あ る が 、 原 告 は 失
職 通 知 の 取 消 を 請 求 す る の で は な く 、 雇 用 契約 上 の 地位 の 確 認 及び 給 与 の 支 払
い を 請 求 し て い る ( 被 告 は 、 当 初 は 国 で あ っ た が 、 郵 政 事 業 の 民 営化 に よ り 郵
政事業株式会社となった)。
※ 被 爆 者 健康 手 当 に つ き 、 受 給 者 が 海 外 に 渡航 す れ ば 受 給 資格 が 失 効 す る と す る 厚 生
省 402 号 通 達 に よ り 、 健康管 理 手 当 の 支 給 を し な か っ た 事 例 で も 、 原 告 は 不 払 い 分 の
支給を求める給付訴訟(公法上の当事者訴訟)を提起している。これは、行政が勝
手 な 判 断 で 支 給 を サボ っ た の で あ る か ら 、 処 分 ( 給 付 認 定 ) の 効 力 が あ る こ と を 前
提 に 給 付 訴 訟 が 当 然 に 可 能 で あ る 。 海 外 在 住 中 の 被 爆 者 健康管 理 手 当 の 支 給 を 求 め
た 在ブラ ジ ル 被 爆 者 健康管 理 手 当 請 求 訴 訟 ( 最高裁平成19.2.6判決 = 民 集 61-1-122、
判 時 1964-30、 LEX/DB 28130401) は 公 法 上 の 当 事 者 訴 訟 で あ る 。
仮 に 、 被 爆 者 援護 法 に 「 受 給 者 が 海 外 に 渡航 す れ ば 受 給 資格 は 当 然 に 失 効 す
る 」 と い う 規 定 が あ り 、 そ れ に 基づ い て 支 給 を ストップ し た と し て も 、 こ こ に
は 処 分 は 存在 し て い な い の で 、 こ の 場 合 で も 給 付 訴 訟 を 提 起 す る こ と に な る 。
も っ と も 、 上 記 の よ う な 規 定 が 違 憲無 効 で あ る こ と を 裁 判 官 に 認 め さ せ な け れ
ば勝訴できないだろうが…。
②
国民が「処分の効力は失われた」と考える場合も、それを前提に民事訴訟や公法上
の 当 事 者 訴 訟 す れ ば よ い ( 例 え ば 、 土地収 用 裁 決 の 効 力 が 消滅 し た と し て 、 土地 所
有 権 確 認 訴 訟 を 提 起 す る ) 。 公 法 上 の 当 事 者 訴 訟 の 例 と し て 義 務 不 存在 確 認 訴 訟 が
考 え ら れ る 。 ま た 、 こ の よ う な 現 在 の 権 利 に 関 す る 訴 訟 が 困難 な 場 合 は 、 処 分 不 存
在確認訴訟または処分無効確認訴訟を提起することも可能である(これは抗告訴訟
の 一 つ で あ る : 行 政 事 件 訴 訟 法 § 3④ ) 。
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