人工股関節について

人工股関節について
人工関節は約50年以上の歴史があり、世界で幅広く使用されて
います。臼蓋形成不全による変形性関節症だけでなく、リウマチ
や骨頭壊死、外傷などにより変形した関節を再建する事は、昔も
今も患者さんにとって福音です。世の中の発展に伴い人工関節も
進歩してきました。しかし、機械であるため、様々な制限があり、
いつかは取り替えなければならない日が来ることは確かです。痛
みもなく、違和感もありませんので、機械である事を実感しろと言
う方が無理かもしれません。また、股関節は腰と共に体の軸をな
し、歩行時には動きの中心となります。体の一部ではありますが、
球関節のため動く範囲が大きく、荷重もかかり丈夫に作られてい
ます。よく考えると随分大きな役割をなすこの関節の大切さをみ
なさんにもわかっていただければと思う次第です。
•人工股関節の手術は、股関節の手術の一手段であり、すべて
に対応できるものではありません。変形した関節をあきらめ、新し
い関節を造るしか方法のない末期関節症のみ適応となります。
但し、高齢で、このまま変形が進行する事がはっきりしている場
合は、今後の筋力や体のバランス能力が低下する事を考慮し、
早めに、手術に踏み切る場合があります。
・末期関節症の状態は、本人がつらい痛みや動きの悪い関節に
苦しんでいますが、他から見ると、その状態がわかり難いもので
す。しかも、次第に悪くなるものですから、本人も何とか適応しよ
うとして時間が経つため、体の他の部位を悪くしているのも気付
きません。(例えば、股関節の動きを補うため悪くなる腰椎の変
形:腰−股関節症候群や反対側の膝の変形の進行など) 特に、
両側の末期股関節症のまま、長い期間放置された状況の患者
さんによく見られます。
X線での変形性股関節症の進行
次第に、関節が外側へ
ずれてきている
臼蓋形成不全とは、生まれつき
荷重の掛かる面積が少ないの意
臼蓋形成不全はあるが、
関節の隙間は保たれ
骨の変化は少ない
初期
関節の隙間が狭くなり
骨の中も変化している
進行期
関節の隙間は消失し
骨の中の変化も著しい
末期
(模擬骨に挿入した人工股関節)
人工股関節は下記の3つのパートに分かれています
骨盤
大腿骨側人工関節
(ステム側)大腿骨の中
支柱を差し込む事で安定します
大腿骨
臼蓋側人工関節
(ソケット側)臼蓋を削り
お椀型の金属を設置し、内側に
骨頭をうける素材を入れます
骨頭(へッド)
動きの中心
※クリーンルーム(無菌手術室)での
人工股関節手術風景
ーその手術についてー
◆人工股関節手術はすべてこの手
術室でおこなわれる。現在まで、感
染例は1754例中2例である。
◆手術時間は約1時間。
◆創は12〜15cm、筋肉のダメージを最小限にして、最小侵襲という
言葉にとらわれない技術を用い、高度なリハビリが可能となった。
◆出血は平均280㏄、術中セルセーバーを用い、輸血例はない。
◆尚、術前、週1回ずつ2週にわたり、400㏄×2の貯血し(自己血
を貯める)術後、本人に戻す。
◆術後1〜2週で全荷重、その間に、リハ師と街中歩行、床より立ち
上がり訓練、バランス訓練(平衡感覚訓練)、スクワット、ランジ、エ
アロバイク、ステッパー等を組み合わせた徹底した日常生活機能改
善システムで指導し、退院時、杖なし歩行が原則である。
人工股関節術後成績と合併症
(術後おこる問題点の意)
1. 術後15年成績:人工関節術後15年成績は日本整
形外科学会の点数評価で、93%が良好、 6%が他
の疾病で死亡又は老衰のため調査不能。
歩行能力は(連続歩行で判断すると)20分以上が
97%で あった。日常生活に股関節不便を感じない
が98%であった。
尚、当院の退院時は杖なし歩行が原則である。
2.術後人工関節脱臼: 初回手術例0.4%、再置換術
例 0.7% である
3. 術後感染: 0.2% ( 3/1754 例)
4. 肺塞栓症: 0.1% ( 1/1754 例)
最近のトピックス
07より骨頭が大きくなり、関節はさらに安定したが磨耗は減少すると
いう、利点の多い人工関節が出来、当院でも採用している。
26mm
骨頭径:26mm
28mm
28mm
42mm
42mm
人工股関節手術例1
術前、股関節は脱臼位であり
下肢長差も著明である。痛みがあり
関節の拘縮(動きの制限)も明らか
で、日常生活の制限を認めた。
手術後X線像
人工股関節置換術後、股関節は適切な位置に
設置され、下肢長差も補正され、骨盤の傾きは
正常になった。また、関節の動きも改善した。
術後の生活について
基本的に、毎日ランニングとか勝利優先のスポーツは避けて
いただきますが、ダンス、ウオーキング、ゴルフ、
等は、怪我に気をつけて行うことを許可しています。
数十年もの永きに渡りお使いいただくための、
ストレッチや筋力エクササイズは入院中はもと
より、外来でも指導いたします。
両側人工股関節手術例の患者さん方