7 国体馬術競技会における防疫対応

7 国体馬術競技会における防疫対応
〇芳野正徳 長田典子
要 約
第 68 回国民体育大会が 54 年ぶりに東京都で開催された。この大会の馬術競技会は、あきる野市特設
馬術競技場において 10 月に開催され、
46 都道府県から 177 頭が出場した。馬術競技会の防疫対応のために、
2年前に都庁のスポーツ振興局と産業労働局による「馬事衛生本部」を設置し、国体開催に備えてきた。
馬術競技会の実務は、主に産業労働局の職員により行なわれたが、競技会前までに完了すべき手帳確認
や消毒作業などは家畜保健衛生所(家保)職員により対応した。入厩中は消毒マットの管理や馬の臨床
検査を行い、その結果、伝染性疾病の発生もなく、無事、馬術競技会を終了した。今回行ってきた防疫
対策は、特定家畜伝染病の発生に備えることでもあり、家畜防疫の視点から有意義であり、実践的であっ
た。
平成 25 年、東京都で国民体育大会が開催され、
馬事衛生対策要綱の策定
その中の馬術競技会において、出場馬の防疫対応
馬術競技の円滑な運営に行なうために、平成
を行った。
24 年、
「馬事衛生対策要項」を策定した。この要
第 68 回国民体育大会の概要
項に馬事衛生本部を設置することを明記し、ワク
国民体育大会は、毎年、各都道府県の持ち回り
チン歴などの確認、厩舎・入場車両の消毒、入退
で開催される国内最大の国民スポーツの祭典であ
厩時の臨床観察、伝染病発生時の対応、厩舎地区
り、東京都での開催は 54 年ぶり3度目であった。
への必要のない者の立入制限などを規定した。
馬術競技会は、今年の 10 月にあきる野市で開催
馬事衛生本部の組織および業務内容
され、46 都道府県から 177 頭が出場し、1県1
頭が棄権した。なお、
東京都は 13 頭の出場であっ
表2に馬事衛生本部の組織と業務内容を示し
た。競技場は、平成 12 年に廃校となった都立秋
た。この組織は4係7班体制とし、馬術競技会を
川高校の跡地で、
家保から車で 30 分の場所であっ
主管するスポーツ振興局の担当者の他、産業労働
た(表1)
。
局の職員により構成した。なお、家保は農林水産
表2㻌 馬事衛生本部の組織および業務㻌
表1㻌 第㻢㻤回国民体育大会㻌
①馬事総務係㻌
・・・㻌 各班の連絡調整㻌
㻌 ・総務班㻌
㻌 ・入退厩確認班㻌 ・・・㻌 入退厩時の馬運車の確認㻌
㻌
㻌
②馬事受付係㻌
馬事衛生本部の構成
㻌 ・受付誘導班㻌 ・・・㻌 車両の誘導㻌
㻌 ・スポーツ振興局(1)
㻌 ◆手帳確認班㻌 ・・・㻌 ワクチン歴の確認㻌
㻌 ・産業労働局(48)
㻌 㻌 㻌 㻌 農林水産部(30)㻌 㻌
・・・㻌 車両の消毒㻌
㻌 ◆消毒班㻌
㻌 㻌 㻌 㻌 雇用就業部(8)
㻌 ◆馬体照合班 ・・・㻌 出場馬の個体確認㻌
㻌 㻌 㻌 㻌 商工部(4)
㻌 㻌 㻌 㻌 金融部(3)
㻌
㻌
③衛生検査係㻌
㻌 㻌 㻌 㻌 総務部(2)
㻌 ◆防疫検査班㻌 ・・・㻌 出場馬の臨床検査㻌
㻌 㻌 㻌 㻌 観光部(1)
(隔離施設班)・・・インフルエンザ疑い時㻌
㻌
㻌 ・和歌山県(1)
④馬診療係㻌 ・・・㻌 獣医師、装蹄師との連絡調整㻌
・国民体育大会は、都道府県持ち回りで毎年開催される
・国内最大の国民スポーツの祭典
・東京都での開催は、54年ぶり3度目(1949年、1959年、2013年)
◆馬術競技会㻌
期㻌 間
平成25年10月3日~10月7日
会㻌 場
あきる野市特設馬術競技場
出場頭数
177頭(46都道府県)
東京都は13頭
本庁
競技場
家保
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
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出入口
手
帳
確
認
車
両
消
毒
馬防
体疫
照検
合査
↑厩舎地区
図1 馬術競技場における動線
表3㻌 手帳確認システム(入力フォーム)㻌
部に所属し、13 名が対応した。本部長は農林水
No.1
番㻌 㻌 号
産部食料安全課長、副本部長は家保の所長が担当
No.2
No.3
No.4
県㻌 㻌 名
馬㻌 㻌 名
登録番号
した。馬事衛生本部における各係の内、手帳確認
品㻌 㻌 種
性㻌 㻌 別
毛㻌 㻌 色
班、消毒班、馬体照合班、防疫検査班の班長は家
生年月日
年㻌 㻌 齢
保の職員が務め、各班の指揮を執った。
産㻌 㻌 地
伝貧最終検査日
日脳接種日1
日脳接種日2
馬術競技場における動線と入厩時の防疫対応
インフルエンザ㻌 基礎1
㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 〃㻌 㻌 基礎2
㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 〃㻌 㻌 初補強
㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 㻌 〃㻌 㻌 㻌 㻌
4
図1に馬術競技場における馬の動線を示した。
競技場に入った馬運車は先ず手帳確認を受ける。
ここでは、証明手帳と乗馬登録証を確認するが、
◆馬データ
表4㻌 手帳確認システム㻌 (確認フォーム)㻌
県㻌 名
馬は馬運車にいるため個体の確認はできない。次
に、車両消毒が行われ、厩舎地区の手前で馬が降
○○○
㻌
東京都
㻌
記載責任者
馬㻌 名
TOKYO
㻌
生年月日・年齢
馬運車NO.
立川○○○
㻌
産㻌 地
ベルギー
登録番号
8001
㻌
所有者住所
東京都○○○
㻌
品㻌 種
ベンジャミンウォームブレッド
㻌
所有者氏名
○○○
㻌
性㻌 別
セン馬
㻌
連絡先
○○○
㻌
東京都馬術連盟
㻌
毛㻌 色
青毛
㻌
所属馬連合
判定
㻌
基準日
H24.01.01
H12.04.20
13
㻌
㻌
◆馬伝染性貧血検査
最終検査
ろされる。この時、乗馬登録証と個体が一致する
H25.02.27
陰性確認
済
適
㻌
接種日
接種確認
判定
㻌
基準日
H25.05.31
済
適
㻌
H25.05.01
H25.06.30
済
適
㻌
◆日本脳炎ワクチン
ことを確認し、臨床検査により症状がなければ厩
◆馬インフルエンザワクチン
舎地区に入ることができる。厩舎地区は周囲を壁
実施年月日
接種間隔
判定
回
実施年月日
接種間隔
判定
基礎1
H21.02.01
***
***
㻌
㻌
㻌
㻌
基礎2
H21.03.01
28
適
㻌
㻌
㻌
初補強
H21.04.01
31
適
㻌
㻌
㻌
㻌
4
H21.09.01
153
適
㻌
㻌
㻌
㻌
回
で囲み、人が勝手に立ち入れないようにした。ま
㻌
㻌
た、3箇所ある出入口には守衛を配置し、関係者
しか厩舎地区に入れない措置をした。なお、関係
入厩前の防疫対応
者は手首にリストバンドをすることを義務付けて
いた。以上が入厩時の防疫対応であったが、これ
手帳によるワクチン歴などの確認、車両消毒場
から入厩前の防疫対応について記載する。
所の設営や厩舎消毒は、入厩前に完了しておく必
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
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要があり、これらの作業は家保の職員により対応
性別、毛色、頭部の白斑、旋毛の部位、肢の白斑
した。本大会に先立ち6月にリハーサル大会があ
の見方を習得してもらった。なお、馬体照合に使
り、1都6県から 49 頭の出場申請があった。こ
用した乗馬登録証は、日本馬術連盟のホームペー
の時の手帳確認(手帳のコピー)は、1頭ごとに
ジからダウンロードして、雨天時に備えて耐水紙
表計算ソフトにワクチン歴を入力して、接種間隔
に印刷したものを使用した。
を確認した。その煩雑さを解消するために、表
馬術競技会から得られた防疫対応要素
3、表4に示す手帳確認システムを構築し、本大
会では馬術競技会のホームページに公開し利用し
本大会が 10 月、それに先立つ6月にリハーサ
てもらった。本大会の出場申請馬は 248 頭であっ
ル大会があり、両大会に備えて一連の防疫対応を
たが、手帳確認システムの公開により入力の省略
行ってきた。また、東京都馬術連盟が他県に先駆
化が図られた。消毒については、家保が所有して
けて入厩したため、手帳確認から臨床検査に至る
いる動力噴霧器や車両消毒器などの器材を競技場
防疫対応は、計4回に及んだ。入厩中は消毒班に
まで運搬して行った。競技場では車両消毒器の設
よる消毒マット管理、防疫検査班による臨床検査
置や消毒マットの敷設を行い、車両消毒場所の設
が行なわれ、その結果、伝染性疾病の発生もなく、
営を行った。そして、3厩舎 240 馬房の消毒を行
無事、
馬術競技会を終了した。
馬術競技会で行なっ
い、さらに厩舎地区の出入口に消毒マットを敷設
た一連の防疫対応は、疫学情報の把握、消毒ポイ
した。馬体照合については家保以外の職員も担当
ントの設営と消毒、発生農場での防疫対応、清浄
するため、照合技術の平準化を目的として、5月
性の確認検査といった防疫演習的要素があり、家
にJRA馬事公苑のご協力のもと、馬体照合の研
実践的であった。
畜防疫の視点から有意義であり、
修を行った。研修内容は「馬の特徴の取り方」で、
平成25年度東京都家畜保健衛生業績発表会集録(2015)
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