国際取引法情報の取得とLEXIS

法律情報調査とLEXIS -NEXIS®
国際取引法情報の取得とLEXIS
帝塚山大学 法政策学部
助教授
高杉 直
LEXIS-NEXIS
「日本は、典型的な貿易立国であり、外国との付き
また仮に、裁判外での紛争解決が図られる
合いなしには、国としての存続すら不可能といえる国
としても、裁判手続によった場合の結論予測
である。貿易によって国を支え、外国と付き合ってゆ
なくして互譲は不可能であろうし、互譲が可
くためには、諸外国のいろいろな情報が必要である。
能だとしても、例えば和解契約の成立・効力
特に経済および社会情報が不可欠である。そして、経
の問題、仲裁手続の問題、仲裁裁定の効力の
済および社会を規律し、スムースに運営するための基
問題等、結局のところ国際条約、国家法、民
準が、すなわち法律および規則等である。相手国の経
間団体が作成した統一規則等が関係してくる
済や社会が、どのような法律や規則によって規律され
場合が多い。
ているのかを知らなければ、その相手国とのスムース
国際取引を行う際には、このような私法的
な付き合いは出来ないであろう。」(モーリス・L・コ
法規だけでなく、さらに外国の公法的法規、
ーエン=ケント・C・オルソン/山本信男訳『入門ア
とくに独占禁止法などにも注意が必要となる。
メリカ法の調べ方』
(成文堂、1994年)
「訳者あとがき」
361頁より)。
このように、国際取引の法規整を検討する
際には、国際条約、諸外国の国家法、民間団
体の統一規則等に関する正確な法情報(以下、
Ⅰ 国際取引法とリーガル・リサーチ
国際取引法の研究・教育および実務におい
て、リーガル・リサーチは極めて重要な位置
国際取引関連法情報)を入手することが不可
欠である。
国際取引関連法情報の入手方法としては、
を占める。というのは、国際取引の法規整に
まず、書籍や雑誌等の印刷媒体によることが
関して日本法以外の多数の法規が関係してく
考えられる。特に、わが国が当事国になって
るからである。
いる国際条約や、わが国にも支部を有する民
これは、国際取引紛争の法的解決方法を考
間団体の統一規則等は、日本語に翻訳され日
えれば容易に判るであろう。国際取引紛争の
本で発行されている場合も多い。しかし、国
当事者は、自己に都合の良い結果を求めてい
際取引関連法情報全体からすれば、このよう
くつかの解決方法を選択することになる。裁
な事態は例外中の例外である。残念ながら、
判外での紛争解決(和解、仲裁等)が図られ
必要な国際取引関連法情報が記載されている
ない場合には、いずれかの国家の裁判所に訴
印刷媒体の大部分は、外国の出版社から公刊
えを提起するほかない。その場合、当該国家
されているのが通常であり、日本に居ながら
の裁判所が訴えを受理して審理するかどうか、
にして即時に入手することは容易なことでは
また、受理したとしてどのような判決を下す
ない。
かを事前に予測することが必要である。この
しかしながら、このような困難さを大きく
予測のためには、当該国の国際裁判管轄に関
低減する道具がある。すなわち、「LEXIS」と
する法規則、その他の手続法規則、国際私法
いう、オンラインによる「国際法令判例文献
規則、国際私法によって指定される国の実質
データ・ベース」である。これを利用すれば、
法規則等を調査しなければならない。
研究室・書斎または会社から即時に最新の正
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確な国際取引関連法情報を容易に入手するこ
とができる。しかも、これらの情報は加工す
ることができ、また、保存するにしてもスペ
ースを取らないというメリットがある。「レク
シスだけでも、東京大学の外国法文献センタ
ー(日本で最大の外国法文献情報を収集して
いる)の資料に十分匹敵するものを各研究室
に備えたことと同じ意味をもち、その利用価
値は大きい」(田島裕『法律情報のオンライン
図1
検索』
(丸善、1992年)5頁)といえる。
以下では、国際取引法の研究・教育および
実務の視点から、国際法令判例文献データ・
ベースの活用の具体例を通して、その有用性
を検討したい。なお、本稿の執筆において使
用した機器は、システム:Mac OS 9(Apple)
、
ソ フ ト ウ ェ ア : L E X I S - N E X I S Research
Software Ver.2.9.1 for Macintoshであるが、
W i n d o w sマシンでも同様である(ソフトウェ
図2
アはむしろW i n d o w sの方が利用しやすいかも
しれない)。
Ⅱ リーガル・リサーチにおけるLEXISの利用
1. LEXIS で入手可能な国際取引関連法情報
LEXIS を立ちあげると、右のような初期画
面が現れる(図1)。これによって、ライブラ
リーが一覧できる。「LIBRARIES -- PAGE 1
of 3」と画面の上部に表示されているように、
この画面は、計3頁あるライブラリー一覧のう
図3
ちの1頁目に過ぎない。次のページを見る場合
ところで、LEXIS は、1965年に米国オハイ
には、画面の上部の「NEXT PAGE」のアイ
オ州の弁護士が中心となって作成したデー
コン部分をマウスでクリックすれば(あるい
タ・ベースを基本として出来上がったもので
は「.np」と入力してリターン・キーを押せば)、
あり、もともとは米国の弁護士による利用を
自動的に2頁目が表示される(図2)。同様にし
念頭においたものであった。したがって、当
て、次の3頁目も表示される(図3)。
然のことながら、米国に関する法情報が最も
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詳細かつ大量に所蔵されている。これはライ
3列目の " I N T L - L A W "表題の第2段目)を取り
ブラリー一覧を見ても頷けるであろう。1頁目
あげる。
の右端二列と2頁目・3頁目の全て(つまりラ
このライブラリーを開くと、図4のような画
イブラリー一覧の半分以上)が米国法関係の
面が現れる。以下、計1 0頁にわたって国際取
ライブラリーで占められている。日本に居住
引法に関係する多数のファイルが置かれてい
する研究者および実務家にとっては、これら
る。まず、1頁からは、北米自由貿易協定
のライブラリーを利用することで、米国の弁
(NAFTA)、世界貿易機関(WTO)および貿
護士や企業の法務担当者と同様に、米国の連
易関税一般協定(GATT)、国際経済法、国際
邦および各州のそれぞれのほとんどの法情報
租税法などの関連文書のほか、欧州共同体に
の入手が可能となるわけである。
関連する広範な情報を入手することができる。
米国法に加えて、LEXIS では、国際条約や
条約の条文、パネルの判断、裁判所の判断、
他の諸国の法情報も比較的広範に集められて
国際組織の作業文書、最新の動向などの情報
いる。例えば、上記1頁目の初期画面には、
が置かれている。
" U K - L A W "、" C W - L A W "、" I N T L - L A W "、
2頁目(図5)には、リサーチ・ツールとし
"IR-LAW"、"MEX-LAW"等の表題が見えるが、
て、合衆国対外関係法第三リステイトメント
これらは、それぞれ、連合王国、コモンウェ
ルス諸国、国際法(後出のように諸国の国内
法を含む)、アイルランド法、メキシコ法に関
す る ライ ブ ラリ ーで あ る。 この 他 にも 、
"AUST"(オーストラリア)、"CANADA"(カ
ナダ)、"HKCHNA"(香港)、"MALAY"(マ
レ ー シ ア )、 " N Z " ( ニ ュ ー ジ ー ラ ン ド )、
"PHLIPP"(フィリピン)、"SAFRCA"(南ア
フ リ カ )、 " S I N G " ( シ ン ガ ポ ー ル )、
"EURCOM"(欧州共同体)等のライブラリー
図4
が置かれており、これらのライブラリーを通
じて、米国以外の諸国の国際取引関連法情報
を取得することができるのである。
次に、このような各ライブラリーにどのよ
うな法情報が存在するかを、さらに詳細に見
てみよう。全ライブリーを見るには紙面の余
裕がないため、ここでは国際取引関連法情報
を比較的豊富に有しているライブラリの一例
として、"INTLAW"(図1:初期画面の右から
図5
***************************************************3
図6
図7
図8
図9
その他の情報が置かれている。
関係判例、米国の国際法関係の制定法および
3頁目(図6)には、各国の判例に関する情
報を入手することが可能である。具体的には、
米加自由貿易協定に関するファイルが置かれ
ている。
連合王国、オーストラリア、カナダ、香港、
6頁目(図9)には、貿易、国際金融、国際
アイルランド、メキシコ、北アイルランド、
租税、国際環境に関係するファイルが置かれ
ニュージーランド、南アフリカ、スコットラ
ている。
ンド、シンガポール、マレーシア、ブルネイ
7頁目(図 10)には、American Journal of
などの諸国に関するファイルが置かれている。
International Lawや、International Legal
4頁目(図7)には、各国の制定法に関する
Materialsなどの、国際法関係の雑誌に関する
情報を入手することが可能である。具体的に
は、カナダの連邦および諸州、中国、エスト
ファイルが置かれている。
8頁目(図11)には、各国での事業活動の際
ニア、クロアチアなど含む東欧・中欧諸国、
に参考となる「Doing Business」シリーズの
イングランド、イタリア、ハンガリー、イス
ファイルのほか、海事、租税、著作権、国際
ラエル、メキシコ、ロシアなどの諸国につい
労働法などに関連するファイルが置かれてい
てのファイルが置かれている。
る。
5頁目(図8)には、米国の裁判所の国際法
9頁目(図 12)には、カナダ判例、租税関係
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図10
図11
図12
図13
のファイルが、1 0頁目(図1 3)には、ヨーロ
ッパ関係のファイルが置かれている。
以上の各ファイルのさらに詳細な内容は、
法令は、原則として大陸法諸国における主
たる第一次的法情報であり、また、コモンロ
ー諸国においても、最近では多数の制定法が
ファイルの名称の右側に付されている頁数を
作成される傾向にあり、その重要性は増大し
入力することにより知ることができる。たと
つつある。
えば、10頁目の右列一番上の[EUNIT]ファ
ここではまず、L E X I Sが最も力を発揮する
イル(Business Guide to EU Initiatives)の
場面であると考えられる、米国法関連の情報
内容を知りたいのであれば、「1」と入力すれ
の取得について見ていこう。
ばよい。これは、他のライブラリーやファイ
ルでも同様である。
自分の求めている情報が明確かつ具体的で
あって、その所在が判っている場合には、初
期画面からでも即座に当該情報を入手できる。
2. LEXIS による国際取引関連法情報の取得
次に、LEXIS の利用によって法情報の入手
たとえば、合衆国法律集9巻1条の内容につ
いて知りたければ、「lexstat 9 us code 1」と
がいかに容易となるか、法令、判例および文
入力すれば、当該条文の内容が表示される。
献の検索に分けて一例を示してみたい。
また、アラスカ州法 0 9 . 0 5 . 0 1 5条については、
(1)法令の検索
「lexstat alas code 09.05.015」と入力すればよ
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い。このように、制定法の条文内容について
場合には、これを利用すればすぐに目的の法
知りたい場合には、
「lexstat」を使えばよい。
文にたどりつけるであろう。
次に、ある事項に関する法令を全て検索し
(2)判例の検索
たい場合を考えてみよう。この場合も、キー
判例は、コモンロー諸国における第一次的
ワードを入力して検索することになる。たと
法情報であるのはもちろん、大陸法諸国にお
えば、売買に関する中国の法令を検索したい
いても重要な役割を果たしている。
場合には、「CHINAL」ファイル画面で「sale」
ところで、国際取引法に関して「印刷媒体」
と入力すればよい。その結果、137件がヒット
として入手できる判例情報は、予算その他の
した。法令の内容について詳しく見たい場合
制約によって限定される。しかし、少なくと
には「.fu」を入力(または"full"のアイコンを
も米国の主要な判例については、LEXIS を利
クリック)すればよいが、どこに所在する規
用することにより、ほぼ網羅することができ
定かの一覧だけが見たければ、「. c i」と入力
るであろう。
(または"cite"のアイコンをクリック)すればよ
い。
以上のような要領で、その他の諸国や欧州
米国の判決を実際に検索してみよう。まず、
検索したい判決の出典が判っている場合には、
「lexsee」を利用するのが便利である。即座に
共同体等の法令の検索を容易に行うことがで
当該判決を入手することができるからである。
きる。
例えば、「Babcock v. Jakson, 12 N.Y.2d 473
なお、さらに絞り込みたい場合には、検索
( 1 9 6 3 )」 と い う 判 決 を 入 手 し た け れ ば 、
結果の画面で新たなキーワードを加えればよ
「lexsee 12 n.y.2d 473」と入力すればよい。こ
い 。 た と え ば 、「and tax」と入力すれば、
れは、前述の「l e x s t a t」と同様にどの画面か
「sale」と「tax」の双方が含まれているものを
らも利用できる機能である。
検索せよとの趣旨となり、売買と租税に関す
次に、あるテーマについての裁判例を調査
る法文が検索される(75件がヒット)。キーワ
したい場合には、適切なライブラリーおよび
ードだけでは上手く絞り込めない場合には、
ファイルを選択した上で、キーワードを用い
効率よくヒットさせるために、セグメント
て検索するほかない。その際、セグメントや
(基準区分)を利用するのも一案である。セグ
適切な検索式(w/n、pre/n等)を利用すれば、
メントは各ファイルごとに異なっているため、
効率よく検索できるであろう(検索式および
セグメント一覧を表示させるには、各ファイ
効率的な検索式の立て方については、田島・
ル画面(前述キーワード入力待ちの画面)に
前掲書 1 8 2頁以下を参照)。これは米国だけで
おいて「. s e g」と入力(または「v i e w」のプ
なく、それ以外の諸国についても同様である。
ルダウン・メニューから「segments」コマン
(3)文献の検索
ドをクリック)すればよい。「CHINAL」ファ
雑誌論文等の法学文献についても、判例の
イルでは、法律番号や日付などで検索が可能
検索と同様の方法で検索が可能である。ただ
であることが分かる。法律番号を知っている
し、判決とは異なり、LEXIS に全文が収録さ
**************************************************6
れている文献は限られている。その意味では、
依然として「印刷媒体」にも依存せざるをえ
ないであろう。
むしろ不可欠であるといえる。
本稿では国際取引法の視点に限って、使い
方のほんの一例を示したにすぎない。L E X I S
さて、個別の文献の入手方法についても簡
(および NEXIS )には、民事および刑事等一
単に実例を挙げてみよう。まず、出典が判明
切の法分野に関する法情報はもちろん、それ
している場合には、「lexsee」を利用すること
以外にも、世界各国の新聞その他の政治経済
によって即座に当該文献を入手することがで
社会に関する情報が溢れているのであり、国
きる。例えば、「S y m p o s i u m
Interest
際取引法以外の分野においても使い方次第で
Laws, 46 Ohio
研究・教育および企業活動にとってきわめて
analysis
in
Conflict
of
on
St. L. J. 457 (1985)」という論文を入手したけ
強力な武器となることは間違いない。
れば、「lexsee 46 ohio st. l. j. 457」と入力す
ればよい。
これに対して、あるテーマについての文献
検索を行う場合には、適切なライブラリーお
よびファイルを選択して、キーワードによっ
て検索を行うほかない。この点で有用なもの
として、前述の「INTLAW」ライブラリー内
の「RESEARCH
TOOLS」および
「J O U R N A L S」の表題の各ファイルの他、米
国については「LAWREV」および
「LEXREF」ライブラリー内の各ファイル等が
挙げられる。これらのファイルを利用して定
期的に一定のキーワードによる検索を行って
おけば、自分専用の文献目録が自動的に作成
される。
Ⅲ おわりに
以上、LEXIS を利用した国際取引関連法情
報の入手の実際例を説明した。国際法令判例
文献データ・ベースの有用性の一端が明らか
になったものと思う。短時間に多量かつ正確
な外国法等の情報の入手が必要な国際取引法
の研究・教育および実務においては、L E X I S
のような国際法令判例文献データ・ベースは
レクシス-ネクシスジャパン株式会社
東京都港区虎ノ門1-2-20
虎ノ門19森ビル9F
無断転載を禁ず
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