EJ37 J - Maxim

無線機のフロント
エンド性能を
改善するSiGe技術
のネットワークのノイズファクタ(F)は、次式で表す
ことができます。
F=
(アンプの実測出力ノイズパワー)
(RSOURCEに起因するアンプの出力ノイズパワー)
N Fはネットワークの入出力ポート間の信号対雑音比
(SNR)の悪化の指標であり、通常はdB単位で表現され
ます:NF = 10log10F。
セルラハンドセットやその他のディジタル、ポータ
ブル、ワイヤレス通信機器において、3つのパラメータが
重要性を増しつつあります。即ち、低消費電力及び軽量
電池が機器に独立性をもたらす一方で、高感度フロント
エンドが受信距離を伸ばし、フロントエンドの直線性は
許容ダイナミックレンジに直接影響しています。この
最後のパラメータは、p /4DQPSK及び8QAM等の非一定
エネルギー変調方式の台頭と共に重要度を増しています。
ゆえに、
F =入力SNR/出力SNR
= (PIN/NIN)/(POUT/NOUT)
= NOUT/(NIN · G)
問題になるのは、サーマルノイズ(ジョンソンノイズ
又はホワイトノイズとも呼ばれます)及びショットノイズ
(ショットキノイズとも呼ばれます)です。このノイズが
どのように発生するかは、バイポーラトランジスタの
詳細な高周波等価モデル(Giacoletoモデル -- 図2を参照)
を見ると理解できます。このモデルは、SiGe技術がなぜ
LNAのフロントエンド雑音指数を低減できるかについて
も示しています。
GST-3はレシーバの消費電力、感度及びダイナミック
レンジを同時に改善するための最新技術であり、シリ
コン・ゲルマニウム(SiGe)を基にした新しい高速ICプロ
セス技術です(遷移指数fTが35GHz)。標準フロントエンド
ブロック図(図1 )に、複合ミキサ及び低ノイズアンプ
(LNA)においてSiGe技術で可能になる性能(1.9GHz)を
示します。
サーマル及びショットノイズ
温度が絶対零度(0゜
K)よりも高い伝導体の中では、電荷
キャリアのランダムな動きがランダムなノイズのもとに
なる電圧と電流を発生します。伝導体の温度が高くなる
と電荷キャリアのランダムな運動の速度が増すため、
ノイズ電圧も増大します。トランジスタ内の寄生ベース
抵抗によって生成されるサーマルノイズは、Vn(f) =
4kTRbb ¢ です。ここで、Vn(f)はV 2 /Hz単位で表した
ノイズ性能
ダウンコンバージョンリンクにおける雑音指数に寄与す
るのは、主にLNAの最初のトランジスタ入力段のノイズで
す。雑音指数(NF)は、実際のネットワークのノイズを
理想的なノイズのないネットワークと比較する際に便利
な指数です。電力利得(G = POUT/PIN)のアンプやその他
dB
NF = 7.0 .2dB
14
=
1
8
IN
6
A
G
m
MAX2
= -6.1dB
MIXER IIP3
641
MAX2
LNA*
dB
NF = 1.3 .4dB
4
1
=
GAIN
dBm
4
=
3
P
II
R
R
T
T
ADIO
MHz R
*1900
図1. 標準的な無線機の入力回路は低ノイズアンプとミキサで構成されています。
3
T END
FRON
Siバイポーラ及びSiGe技術のいずれの場合も、
R SOURCE = Vn(f)/Inb(f)が最小の雑音指数を与えるため、
ソースインピーダンスをこの値に近似化させてLNAを
設計することにより、SiGeプロセスの利点をフルに活用
できます。
C
B
ワイヤレス設計のもう1つの重要な側面は、周波数に
よる雑音指数のディレーティングです。標準的なトラン
ジスタの電力利得は、図3の上側の曲線に似ています。
この曲線は、図2の等価トランジスタ回路を考慮すると
理解できます。実効的にこのモデルは、周波数が2倍に
なる度に利得が6dBずつ低下するRCローパスフィルタ
になっています。コモンエミッタ電流利得(b)が1(0dB)
になる最大理論周波数は、遷移周波数(fT)と呼ばれます。
L N A の 利 得 ( G ) は bに 直 接 依 存 す る た め 、 雑 音 指 数
[F = N OUT/(N ING)]のディレーティングは利得のロール
オフで始まります。
E
RSOURCE
Rbb¢
B
Cb¢c
B¢
C
4kTRbb¢
Inb
Rb¢e
Cbe
g · Vb¢e
= blb
RLOAD
E
図2. この詳細なNPNトランジスタモデル(Giacoletoモデル)により、
周波数効果の解析が単純化されます。
GST-3 SiGeプロセスがどのように高周波数において
雑音指数を改善するかについて簡単に説明します。トラン
ジスタのPシリコンベースにゲルマニウムを加えると、
ベースのバンドギャップが80mV∼100mV減少するため、
エミッタとコレクタジャンクションの間に強い電場が形
成されます。電子を急速にベースからコレクタに集める
ことにより、この電場はキャリアが狭いベースを通過す
るために必要な通過時間(tb )を短縮します。その他全て
のファクタが一定に維持された場合、このt b の短縮に
よってfTが約30%増加します。
電圧スペクトルノイズ密度、kはボルツマン常数(1.38・
10-23ジュール/ケルビン)、Tはケルビン単位の絶対温度
(℃ + 273゜
)です。
ショットノイズは、電荷キャリアの粒子的性質によって
生じます。半導体中のDC電流はどの瞬間も一定と見な
されることが多いのですが、実際にはどの電流も個々の
電子及び正孔からなっています。実は、これらの電荷
キャリアの時間平均された流れが一定電流に見えます。
電荷キャリアの数が変動するとその瞬間にランダム電流
が発生し、これがショットノイズと呼ばれます。
同面積のトランジスタの場合、GST-3素子はGST-2
素子と比較して1/2∼1/3の電流で所定のfT を実現でき
ます。fTが高いと高周波ノイズが減ります。これは、bの
ロールオフがより高い周波数で起こるためです。
ベース電流中におけるショットノイズのスペクトル
ノイズ密度は、Inb(f) = 2qIb = 2qIc/ b です。ここで、
InbはI 2 /Hz単位で表した電流スペクトルノイズ密度、Ib
はベースDCバイアス電流、qは1個の電子の電荷(1.6・
10-19クーロン)、bはトランジスタのDC電流利得です。
このように、トランジスタの入力段で発生する全ノイズ
スペクトル密度はサーマル及びショットノイズの和にな
ります。
超低ノイズSiGeアンプ(MAX2641)
MAX2641は、シリコンバイポーラLNAと比べて有利
です。後者のNFは2GHzに近い周波数において落ち込み
ます(即ち、1GHzにおいて1.5dBに対し、2GHzにおい
gn = 4kTRbb¢ + RSOURCE 2qIc/b
マキシム社の新しいSiGeプロセスGST-3は、GST-2
(遷移周波数27GHzのバイポーラプロセス)の拡張として
開発されたもので、トランジスタのベースをゲルマニウム
でドーピングすることによって実現しています。この
結果、Rbb ¢ が減少し、トランジスタのベータが著しく
増大しています。これら2つの変化の複合効果により、
(同様のコレクタ電流を持つシリコントランジスタと比較
した場合)SiGeトランジスタの雑音指数が改善されてい
ます。標準的なトランジスタの雑音指数は次式で表され
ます。
[
F = 1 + Vn 2 (f)/R SOURCE + Inb 2 (f) × R SOURCE
GAIN (dB)
NF (dB)
fC
BETA (1 + f/fC)
GST-2
GST-3
FREQUENCY
(GHz)
NF vs. FREQUENCY
fT = 27GHz
fT = 35GHz
]
4kT
図3. SiGeバイポーラトランジスタは高利得と低ノイズ特性を示します。
4
て2.5dB)。SiGe素子は逆アイソレーションが高いため、
互いに影響を与えずに入力マッチングネットワークと
出力マッチングをそれぞれ調節できます。
上限は信号歪みの許容最大レベルによって決まります。
最適なダイナミックレンジを実現するには、消費電力、
出力信号歪み及びノイズに対する入力信号レベルの間の
妥協が必要です。
MAX2641は、1400MHz∼2500MHz範囲の動作用に
最適化されています。標準性能は、利得が1 4 . 4 d B、
入力IP3(IIP3)が-4dBm、逆アイソレーションが30dB、
1900MHzにおける雑音指数が1.3dBとなっています
(図4)。本製品は6ピンSOT23パッケージで提供され、
+2.7V∼+5.5V単一電源動作、消費電流3.5mA、そして
内部バイアスになっています。通常必要になる外付部品
は、2素子入力マッチング、入力及び出力ブロッキング
コンデンサ及びVCCバイパスコンデンサだけです。
標準的なレシーバのブロック図(図1)に、LNA及び
ミキサにおける雑音指数及び直線性の相対的な重要性を
示します。LNA入力はアンテナからの非常に低レベルの
信号によって直接供給されるため、そのNFが主要なパラ
メータになります。ミキサの場合は、LNA出力からの
増幅された信号が入ってくるため、直線性が主要なパラ
メータになります。
完全にリニアなトランジスタは存在しないため、出力は
決して入力信号の正確な複製にはなりません。出力信号
は常に高調波、相互変調歪み(IMD)及びその他のスプリ
アス成分を含んでいます。図5において、P OUT式の第2
項は第2高調波又は第2次歪みと呼ばれ、第3項は第3
高調波又は第3次歪みと呼ばれます。いずれも、素子の
入力をワントーン又は周波数の近い2つの純粋なサイン波
トーンからなる信号で駆動することによって測定されます。
直線性
通信機器は、ノイズと有限な帯域幅の他にも、信号の歪
みによる制限があります。システムの有用性は、ダイナ
ミックレンジ(即ち良質の処理が可能な信号範囲)に依存し
ます。ダイナミックレンジは雑音指数によって決まりま
す。雑音指数の下限は感度レベルによって決まり、
LNA PERFORMANCE TUNED @ 1900MHz
16
VCC
1000pF
MAX2641
15
VCC
14
BIAS GENERATOR
470pF
100pF
2.5nH
1900MHz
RFIN
LNA
RFOUT
GAIN (dB)
13
NF (dB)
2
1.2pF
MAX2641
1
0
1800
2000
1900
FREQUENCY (MHz)
図4. この集積化低ノイズアンプは雑音指数が非常に低いことに注目して下さい。
POUT = K1PIN + K2PIN2 + K3PIN3
POUT + K1ACOS (w1t + w2t) + K2A2COS (w1t + w2t)2 + K3A3COS (w1t + w2t)3
PIN = ACOS (w1t + w2t)
IM3
2w1 - w2
w1 w2
IM3
2w2 - w1
2w1
2w2
3w1
3w2
w1 w2
IM2 = w1 - w2
IM2 = w1 + w2
図5. 2トーンテストにより高調波及び相互変調歪みが測定されます。
5
2w1 + w2
IM3
2w2 + w1
IM3
POUT
POUT
OIP3 = IIP3 + GAIN
IIP3 = +0.5dBm
POUT = PIN + PLO + GAIN
K3A3 = IM3 (2w1 - w2)
FUNDAMENTALS
w1, w2
56dBc
56dBc
1dB/1dB
3dB/1dB
FREQUENCY (GHz)
PIN
1.949
(6a)
1.950
1.951
1.952
(6b)
-25dBm
図6. このSiGeダブルバランスドダウンコンバータは(a)低IIP3レベル(0.5dBm)及び(b)56dBcのダイナミックレンジを提供します。
例えば、MAX2681の第3次相互変調歪みは1950MHz
及び1951MHzの2つのトーンからなる-25dBmの信号
によって測定されます。
です。LOからIFへの漏れ及びその他のスプリアス成分は、
狭いバンドパスI Fフィルタで除去できます(図1参照)。
MAX2681(SiGeダブルバランスドダウンコンバータ)は、
標準ICC電流僅か8.7mAでこの性能を実現しています。
P O U T の周波数グラフに示すように、この出力は基本
周波数w1 及びw2 、第2次高調波2 w1 及び2 w2 、第3次高
調波3w1及び3w2、第2次相互変調積IM2及び第3次相互
変調積IM3からなっています。図5はまた、狭帯域動作
周波数(即ち数十メガヘルツでオクターブ未満)のセルラ
ハンドセットやその他の機器において、IM3スプリアス
信号(2w1 - w2)及び(2w2 - w1)だけがフィルタパスバンド
内に存在することを示しています。この結果、 w1 及び
w2に関連する希望の信号に歪みが生じます。
もう1 つのダウンコンバータミキサ(MAX2680)は、
これとは異なる性能仕様を提供しています。超小型
6ピンSOT23パッケージで提供されているこの素子は、
シングルエンドR F、L O及びI Fポート接続部を備えた
ダブルバランスドギルバートセルミキサからなっていま
す。MAX2681と同様、+2.7V∼+5.5V電源で動作し、
400MHz∼2500MHzのRF入力を受け付け、10MHz∼
500MHzのIF出力にダウン変換します。シャットダウン
モードにおける消費電流は、0.1µA以下(typ)です。LO
入力は、標準VSWR(400MHz∼2.5GHz)が2.0:1より
も良好なシングルエンドの広帯域ポートです。
出力電力が低レベルである場合、POUTの式の係数K1Aは
入力信号振幅に直接比例し、K2A 2 は入力振幅の2乗、
K3A 3 は入力振幅の3乗に比例します。このため、それ
ぞれを対数軸でプロットすると、応答の次数に対応する
傾きを持った直線になります。
フロントエンド入力感度
MAX2641/MAX2681ダウンコンバータの使用によって達
成できるフロントエンド感度を評価するには、信号
帯域幅4MHzのQPSKを考慮して下さい。計算を単純化
するために、完全に直角な入力フィルタを仮定します。
まず、アンテナスイッチ及びフロントエンド受動フィルタ
による3dBのインサーションロスを補正するために、3dB
のNF(AntNF)が加算される必要があります。次に、LNA
によって生成される歪み(IM3歪み以外の成分)を除去する
ために、ポストLNAフィルタが付加されます。この目的
のために、2dBの減衰及びNFを持つフィルタを使用すると
考えて下さい。1900MHzにおいて、ポストLNAフィルタ
のNFがMAX2681のNF 11.1dBに加算されます。
第2 次及び第3 次インターセプトポイントは、性能の
指標として使用されます。インターセプトポイントが
高いほど、その素子は大きな信号を増幅できます。電力
レベルが高くなると、出力応答は圧縮され、基本の応答
からずれてきます。この偏差ポイント(図6a)は、1dB
圧縮ポイントとして定義されます。これは、出力信号が
曲線の直線部分の外挿と比較して1dB圧縮されたところ
です(G1dB = G - 1dB)。
MAX2681データシートによると、1 9 0 0 M H zより
高い周波数におけるP OUT対周波数グラフはI M 3に
対して-56dBcのスプリアスフリーダイナミックレンジ
(SFDR)を示しています(図6b)。標準動作条件は、
P RFIN = -25dBm、IIP3 = 0.5dBm、変換利得 = 8.4dB
6
合計NF =フィルタNF +ミキサNF =
ます。また、低消費電流及び高直線性を提供します。
マキシム社は、1900MHzにおける変換利得8.4dBで
雑音指数11.1dB(SSB)、標準IIP3が0.5dBmという性能
でしかも消費電流が僅か8.7mAの高直線性ミキサを実現
しました。SiGeは遷移周波数(fT )が高いために高い周波
数の動作が許容され、5GHzまでのアプリケーションが
可能です。
2dB + 11.1dB = 13.1dB
LNA入力は、アンテナからの非常に低レベルの信号に
よって直接供給されるため、高NFを必要とします。ミキサ
NFはLNA利得によって減衰されます。
合計NF = LNA NF + (1/GLNA)(NFTOTAL - 1) = 2.054;
NFTOTAL (dB) = 10log2.126 = 3.12dB.
QPSK変調でB E Rが1 0 - 3 の場合、アンテナにおいて
最小限必要なビットエネルギーとノイズエネルギーの比
はEb/No = 6 . 5 d Bです。+ 2 5℃における絶対ノイズ
フロアは、AbsNfl = -174dBm = 10log(KT)です(ここで
T = +300°
K、K = 1.38・10-23)。フィルタ帯域幅(dB
単位)は、FiltBwth = 10log(4MHz) = 66dBです。図1に
おいて、QPSK変調のフロントエンド感度(BERを10 -3
として)は次式で評価されます。
参考文献
1. Richard Lodge著, “Advantages of SiGe for
GSM RF Front-Ends” [GSM RFフロントエン
ドにおけるSiGeの利点]. Maxim Integrated
Products, Theale, United Kingdom.
2. Chris Bowick著, RF Circuit Designs [RF回路
設計]. (Howard W. Sams, & Co. Inc).
入力感度= AbsNfl + AntNF +
FiltBwth + NFTOTAL + Eb/No = -174dBm + 3dB +
66dB + 3.12dB + 6.5dB = -95.38dBm.
3. Tri T. Ha著, Solid-State Microwave Amplifier
Design [ソリッドステートマイクロ波アンプ
設計]. A Wiley-Interscience publication,
1981, ISBN 0-471-08971-0.
結論
純粋のバイポーラプロセスと比べ、SiGeは1.0GHzを
超える周波数に対して低い雑音指数対周波数値を提供し
7