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2010.7.7 抄読会
担当:矢山
Relationship between familiar environment and wandering behavior among Korean
elders with dementia
Gwi-Ryung Son Hong, and Jun-Ah Song
Journal of Clinical Nursing, 18, 1365-1373, 2009
Impact Factor:1.37
総評:C-
 認知症患者の行動はその認知症のタイプによって変わらないというのはおかしい。最
近といっても 2002 年のものである。
 認知症のタイプは関係ないと記述があるが、元の論文では異常な移動行動以外のもの
では関係がなかったと述べられている。今回は行動に関する研究なので、それを考慮
すべきだったのではないか。
 倫理的配慮について述べられていない⇒投稿規程をチェックしたが、倫理委員会を通
すべきと書いてある。
 Familiarity を示すためのスケールが、たった 3 つの質問によって評価されており、質
問項目の対象が混同しており、よくわからない。
 使っている尺度の文献を探すが見つからないものがある。ちゃんとした雑誌に掲載さ
れている尺度を使っていないのか、韓国の本の翻訳か。
 結果のところに興味深いなどとの表記がある。
 Discussion で、相関のみをみて関連があると述べている。
 交絡因子に関する言及はほとんどない。
 居住期間と Familiarity を比較した Discussion では認知症の人と undergraduate と比
較している理由がわからない。
 環境と familiarity との関係についてほとんど言及がない。どの機能に対してという
familiarity の定義があいまい。
 上述のように familiarity の定義がないので不明であるが、質問項目から、人物につい
ての見当識(相貌認知も含めているのかどうか不明)のみを環境としている。何につ
いての認知機能をターゲットにしているのかが不明。
 教育レベルによって MMSE が影響されるので、結果に影響している可能性があるので、
そこでバイアスがかかる。
 サンプルの特徴を記述しているが、メソッドに書くべきではない内容まで記述してい
る。
 様々な分析を行っており、統一性がない。
 介護者の選定基準で長期間介助しているなどの項目があるが、その定義も明確でない。
 認知症者の身体的な項目に関する記述がない。
 環境の中に同居時間が含まれている。これは関係性の問題ではないのか。
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 RAWS-CV とは別に、介護者に対して本人が徘徊するかどうか質問しているが、主観的
であり有用であるのか。RAWS-CV 自体が主観的な尺度である。
 表 4 の familiarity の項目で、平均値にあまり差がないのに有意差が出ている。標本数
の問題と、SD の狭さが原因か。
 引用文献に学生の文献などを引用しているのではないか。
 認知症と診断された者と認知症の症状が見られる者を選出した、とされているが、本
当に認知症であるのか怪しい。診断はしっかりと行うべき。
 Discussion の最初に、まとめをしているがまとまっていない。
 Authorship の書き方がまずい。どのようにデータを集めたのか、分析したのかなどを
明記すべき。
 リファレンスが正しくない
 投稿日が書かれていない
感想:タイトルに惹かれ、Impact Factor が 1.37 のジャーナルということもあり、この論
文を選んだ。しかし、研究のメインテーマである familiarity の尺度の内容が薄く、使用し
ている他の尺度も、国際的な雑誌に掲載するには適切とは言いがたいものからの引用であ
り、Reference の整理が十分ではないことが推察できる。さらにその尺度を使った分析も、
統一性のないものであった。discussion も結果に合わせた系統的な構成になっておらず、
筆者の経験や考えのみに基づくトピックになっており、論拠としては不十分であった。そ
のため、対象者のその setting に対する居住期間にこだわる内容になっており、
、discussion
の内容も薄く、総評は C-となった。
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担当:矢山
Abstract
Aim: 韓国の地域の認知症者の徘徊行動と familiar な環境の関係について調査する。
Background: 多くの非薬物介入は認知症者の行動的症状を減らす、QOL を向上するために
開発されている。familiarity の概念はとても重要で、この概念を使った環境介入は認知症
者にとって開発されるべきだが、familiar な環境と徘徊行動の直接的な関係を調査した研究
はまだない。
Design: 記述的、横断調査
Method: 便宜的標本は韓国のソウルとウォンジュで施設に入所していない、地域居住の 77
人の認知症者と介護者。記述統計、ピアソンの相関、t 検定、重回帰分析を使用。
Result: 認知症者の平均年齢は 76.9±8.0 で、MMSE は平均 13.51±6.1。71.4%がアルツ
ハイマー、多発梗塞認知症、混合型かパーキンソン病の認知症である。環境への familiar
な感情は認知障害や ADL の身体的依存と相関があった。さらに環境への familiar な感情と
ADL の身体的依存は徘徊行動と強い相関がみられた。familiarity や ADL の身体的依存は
「徘徊尺度の全項目」の有意な予測因子となり、全体の 45%説明していた。認知障害は下
位尺度の「空間失見当」だけ有意な予測因子となった。
Conclusions: 環境への familiar な感情は徘徊の特定の特徴と同様に認知症者の認知や機能
能力に影響を与える重要な因子である。しかしこの研究で得られた発見を確かめるべく、
さらなる信頼性のある方法を使った研究が必要である。
Relevance to clinical practice: この研究は心理社会的環境と同様に familiar な自然な機関
(家屋)を通して日常の臨床習慣で familiar な感情を認知症者に与えることは徘徊行動を
減らす利益があるかもしれない。
Background
韓国では 2005 年 65 歳以上の高齢者で約 36 万人
(10.9%)
が認知症で、2020 年には 703889
人(21.1%)と予測されている。認知症の有病率が年齢とともに増加すると考えられており、
認知症者のケアは主に個々の介護者によって提供されており、韓国政府が近い将来高齢社
会に取り組むとしてシビアな社会問題が生まるだろう。
認知症者は以下の行動症状を経験する。精神運動興奮、持続的な会話、幻覚、妄想、理
由のない怒り、徘徊、攻撃性、睡眠障害。地域在住の中程度から重度の認知症者ではこの
ような認知症に関連する行動の発症率は 92-98%と報告されている。認知症関連行動の中で、
徘徊は最も顕著な行動であり、異なる 3 つの民族(白人 58%、黒人 67%、ラテンアメリカ
人 68%)では。韓国の認知症者の徘徊の systematic データない。しかし、85%の介護者が
徘徊は介護負担の影響を受ける最も重要な症状であると示している。最近の研究では、徘
徊行動を示す施設入所の認知症者は 67.5%いると報告している。
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認知症者の徘徊の正確な原因はわかっていない。しかし神経認知的、心理社会的、環境
的、demographic、個人的などの様々な要因徘徊と関係があると報告されている。
認知症者は側頭葉の海馬が侵される。海馬は空間的、言語的、時間的情報を介在する神
経基質なので、環境的なサポート、特に familiar な環境は見当識障害の人にケアを提供す
るには重要である。研究では徘徊の発症では自然的(全体配置、デザイン、光、音)
、社会
的(社会的接触、個人のネットワーク、混雑のレベル)の環境が重要な役割だと強調する。
特に Cohen-Mansfield らはナーシングホームに入る直前の期間、他施設からの入所者の存
在、現在の居住の familiarity の欠如のような unfamiliar な環境では明白な徘徊パターンと
関係していると報告している。
Familiar な環境の概念は環境と個人の間の相互関係の概念に基づいている。個人の行動
や健康というのは、いかによくそれらがフィットするために環境を紺コントロールできる
かによって決まる。あるいはニードと一致するかによって決まる。潜在記憶の Familiarity
の感覚は保護された認知症者の潜在記憶を利用した介入を始めるために示されたものであ
る。
ある研究では familiar な環境と機能的な能力の関係は社会的機能を増加させることと
familiar な環境では完全な機能的な空間能力を増加させることを示したが、新しい環境では
能力は低下した。機能的な空間能力は写真、イメージ、教科書のような環境的なきっかけ
の利用や familiar な環境と新しい環境両方ナビゲートする能力が含まれる。ナーシングホ
ームでは肖像画のような写真や個人の記憶に残っているものを入所者の部屋の外に置くこ
とで 45%部屋の発見率が高くなると報告している。
familiar な環境に関係する心理社会的な側面の観点から、Algase らは仲間を探す、空腹
のニードの表現として、徘徊を示している。徘徊は以下のことによって説明することがで
きる。個人が familiar なものを探す、それは場所や人、食べ物等に関係するいくつかの様々
な経験が含まれる。Rader らはさらに患者が困惑した時、familiar なものや人を探すこと
を観察し、徘徊は孤独や別居を軽減する意味であると提言している。
過去 10 年間、様々な非薬物的な介入、それは認知刺激や身体的、心理社会的な介入も含
まれる環境介入、自己介入の統合、娯楽が含まれる介入、感情介入、行動的介入があるが、
それらは認知症者の行動症状を減らすため、QOL を向上させるために開発された。
familiarity の概念はとても重要で、この概念を利用した環境的介入は認知症者にとって発
展すべきだが、我々の知識では、familiar な環境と徘徊の直接的な関係を調査した研究はま
だない。したがって、この研究の目的は韓国の地域在住の認知症者の徘徊行動と familiar
な環境の関係を調査することである。3 つのリサーチクエッションを明確にした。
1.予測因子(年齢、familiarity、認知機能障害、ADL の身体的依存、現在住んでいるとこ
ろの居住期間)と徘徊行動の関係は何か。
2.徘徊者と非徘徊者の予測因子の違いは何か。
3.予測因子と徘徊行動の前兆となる関係は何か。
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Method
Design and sample
記述的、横断的調査方法をおこなった。データは直接インタビューのフォーマットで構成
されたものを使用することのないサンプリング方法で収集した。入所しておらず、地域在
住の家族介護者 77 人のサンプルを韓国のウォンジュやソウルのクリニックや福利センター
の外来患者からリクルートした。認知症者の選定基準は
1.60 歳以上(韓国伝統の「高齢者」の定義に基づいて)
2.医療的に認知症の診断を受け、認知症の症状を呈している
3.MMSE が 24 点以下
4.独歩可能
最近の研究では認知症関連行動は AD 患者かそれ以外のタイプかによって違わないこと
がわかっている。したがってこの研究でも認知症のタイプをコントロールしていない。認
知症者の介護者の選定基準は
1.親族(18 歳以上)
2.主介護者で、長い期間、親密な知識をもっている
3.インタビューに同意した
Description of sample
年齢は 60-94 歳で、平均 76.9±8.0 歳。49 人(63.6%)が女性で、29 人(27.7%)が形式
的な学校教育を受けていない。MMSE は平均 13.51±6.10 で範囲は 1-23。51 人(53.2%)
が結婚し、配偶者と住んでいる。71.4%が AD や MID、ミックスタイプあるいはパーキン
ソン病のような知られているタイプの認知症と診断されている。介護者の平均年齢は 53.9
±15.5 歳。範囲は 20-83 歳。認知症者の平均介護期間は 40.2±35.0 カ月。72.7%が女性で、
87%が結婚しており、54.5%が仕事をおらず、68.8%が週に 40 時間以上認知症者のケアを
している。33.8%が配偶者が主介護者で 23.4%が娘か、息子の嫁である。
Procedures
それぞれの施設の所長より同意の承認が得られた後、データ収集者が神経科のクリニッ
クや福利センターの待合室で介護者や認知症者へ研究に参加するかどうかを尋ねにアプロ
ーチした。インフォームドコンセントが得られた時点で、トレーニングされたデータ収集
者の管理のもと、主介護者が以下の質問項目に記入した。Demographic 情報、familiarity
な質問、ADL の身体的依存状況、徘徊行動。認知機能テストは精神錯乱を最小化し、プラ
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イバシーや尊厳を強化するためにプライベートルームでその時に認知症者に行われた。福
利センターから集められた何人かの参加者は、家族介護者の準備後トレーニングされたデ
ータ収集者が認知症者や介護者の自宅でインタビューを行った。
Instruments
認知レベルは MMSE によって測定した。韓国版 MMSE は感度が 0.70-0.83。特異度であ
る 0.91 は 145 人の韓国の認知症者は 23 人が認知症でないと示す。最大 30 のスコアで 6 つ
の下位尺度から成り立つ。低いほど認知機能障害がある。韓国版 MMSE のα係数は 0.82。
この研究ではトータルスコアをデータ分析に使用する。完成に最大 10 分要する。
環境への familiarity は 3 つの質問の 1(強く同意しない)-4(強く同意する)のリッカ
ートスケールで評価される。
1.対象者は家族とは仲が良いですか。
2.長い期間あなたの家族はあなたのことを知っていますか。
3.家族は現在の居住地を十分に知っていますか。
主介護者がこの 3 つの質問に答えた。3 項目の平均点が計算され、データ解析に利用され
る。最近の研究ではα係数は 0.68 で新たに開発された尺度の容認レベルである 0.70 より若
干低い。
ADL の身体的依存は韓国の認知症高齢者のために開発された Physical Instrumental
ADLs Scale の全 18 項目から 9 項目選んだ。1(全く助けを必要としない)~5(常に助け
を必要とする)のスケールで、PADL のスコアが高いと PADLs の依存が高いことを意味す
る。この尺度の詳細な情報は Son の研究に十分に書かれている。全スケールの内的一貫性
であるα係数は 0.96 であった。9 項目の平均をデータ解析に使用した。最近の研究では
PADLs の 9 項目の信頼性α係数は 0.94 であった。
徘徊行動は地域版韓国版アルゲイス徘徊尺度(K-RAWS-CV)で評価された。K-RAWS-CV
は 39 項目で 6 つの下位尺度で、固執した歩行(PW)
、反復的な歩行(RW)
、逃避行動(EB)
、
空間失見当(SD)、陰性の結果(NO)、食事中の衝動性(MI)である。認知症者の徘徊行
動にもっとも身近な主介護者がその質問に答えた。K-RAWS-CV の全項目と下位尺度の内
的一貫性は 0.82(NO)-0.96(全項目)であった。K-RAWS-CV の構成概念妥当性は十分に確
立されている。K-RAWS-CV の英語版と韓国版は地域で徘徊者と非徘徊者の区別がしっか
りしたツールだとレポートしている。最近の研究では K-RAWS-CV の全項目の信頼性のα
係数は 0.96 で下位尺度では 0.80(NO)-0.94(PW)であった。この尺度は最大 15 分要す
る。
Data analysis
データは SPSS12.0 で管理し、分析された。統計解析は K-RAWS-CV の全項目と下位尺
度を説明変数での重回帰分析が含まれる。認知症者の年齢、familiarity、認知機能障害、
PADL や現在の居住期間の影響を比較するために平均をあたえた。
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Result
Descriptive statistics
変数や K-RAWS-CV の下位尺度の記述統計や信頼係数は表 1。K-RAWS-CV の全項目は
1.82±0.64(範囲 1-5)。下位尺度の平均は 1.49(MI)-2.11(EB)記述統計は K-RAWS-CV
の全項目と下位尺度のいくつかの変数を映しているが、低い値に偏っている。
The relationship among predictors and between predictors and wandering
scale
ピアソンの相関分析は変数(年齢、認知障害、familiarity、ADL の依存度、現在の居住
期間)との関係を調査するために行った。また変数と徘徊尺度の全項目と下位尺度の相関
もみた。表 2 は相関のマトリックスで、すべての変数との関係をみており、-0.02(認知障
害と現在の居住期間)~-0.44(認知障害と PADL)の範囲である。高齢になれば MMSE
の結果である認知障害が強くなる。
認知障害が強いと環境への familiarity が弱くなり、
ADL
依存度が高くなる。さらに familiarity の得点が高いと ADL 依存度が低くなる。
表 3 はすべての変数と徘徊尺度の全項目と下位尺度の相関を示している。PADL と
familiarity は徘徊尺度の全項目と最も有意な強い相関がみられ、続いて認知障害も相関が
ある。年齢は下位尺度の PW、RW、EB と有意な相関がみられたが、SD、NO、MI は有意
ではなかった。認知障害では徘徊尺度の全項目と NO、MI を除く下位尺度と有意な相関が
みられた(-0.24~-0.43)
。興味深いことに familiarity と PADL は徘徊尺度の全項目と下位
尺度に有意な相関がみられた(0.25~0.64)
。familiarity スコアが高いと徘徊行動のすべて
のタイプで低くなり、ADL の依存度が高いと徘徊行動のすべてのタイプで高くなる。現在
の居住期間はこの研究ではいかなる徘徊行動タイプとも有意な相関がみられなかった。
Group differences between wanderers and non-wanderers
徘徊者と非徘徊者ですべての変数に差があるか t 検定を行った(表 4)
。K-RAWS-CV に
は徘徊者と非徘徊者のカットオフポイントがないため K-RAWS-CV の追加項目として、対
象者は徘徊しますか?という単一の質問を以下の 4 つの徘徊レベルによって介護者に質問
した。
1.徘徊しない 2.時々徘徊する 3.徘徊するが問題にならない 4.徘徊し問題である
それぞれのカテゴリーではサンプルサイズが小さいため、1.を非徘徊者、2、3、4 を徘徊
者と分けた。すべての変数において徘徊者と非徘徊者で有意な差がみられた。
The predictive relationship between the predictors and wandering behavior
重回帰分析は徘徊尺度の全項目と下位尺度それぞれおこなった(表 5)。Familiarity と
PADL は徘徊尺度の全項目と有意で、total variance の 45%を説明していた。Familiarity
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は下位尺度の PW、RW、EB、NO と有意であり、PADL は SD、MI と有意であった。認
知障害は PADL に次いで唯一 SD と有意であった。興味深いことに現在の居住期間はどの
徘徊行動のタイプとも有意でなかった。
Discussion
この研究の 4 つの発見は以下。
1.認知症者は高齢であるほど、認知障害が進んでいる。
2.より認知障害が進んだ認知症者は環境への familiarity が低く、ADL 依存度も高い。
3.より環境への familiar な感情を持っている認知症者はより ADL が独立している。
4.ADL が独立しており、環境への familiar な感情を持っている認知症者は徘徊尺度のすべ
ての下位尺度の得点が低かった。認知障害は PW、SD、EB の得点と関係していた。
5.徘徊者と非徘徊者で年齢、認知障害、PADL、現在の居住期間、familiarity で違いがみら
れた。
6. familiarity と PADL は徘徊尺度の全項目で有意な変数で、下位尺度の PW、RW、EB、
NO では familiarity が有意な変数であったが、PADL は SD と MI だけであった。認知障
害は SD の有意な変数であった。
この研究の最も重要な発見は、ADL が自立している認知症者はあまり徘徊行動が頻回に
みられなかった。表 2 の相関表をみれば、ADL の身体機能は韓国の認知症者の認知機能
と綿密に関係しており、多くの先行研究と一致し、徘徊は認知症者の ADL 機能と認知機
能と関係があることが示された。しかしながら最近の研究では ADL の機能は認知障害よ
りも徘徊の強い予測因子となっている。認知機能、身体機能が低下することは認知症に関
連した疾患の経過の最初のサインである。地域在住の認知症者の徘徊行動に関係する医者
は ADL の機能レベルに十分に注意を払うべきだ。
環境への familiar な感情と PADL の両方は、徘徊行動の下位尺度すべてに強く関連して
いた。身体機能、認知機能や患者の個人的で demographic な特徴のような徘徊に関連す
る要因は徘徊の予測因子として先行研究に含まれている時、ほとんどが US で出されてい
るが、認知機能は主として強い徘徊の予測因子である。しかし、環境への familiarity や
PADL はこの研究で予測因子として考えた時、認知機能よりもより強い要因になる。した
がって実験研究デザインを含んだ異なる研究デザインによる、認知症者の徘徊行動におけ
る familiarity な環境の効果を検証するさらなる研究が必要である。
この研究では、徘徊者と非徘徊者では現在の居住期間は統計的な有意差は見られたが、
徘徊者は現在の場所では非徘徊者より短い期間しか住んでいないことを示しており(表 4)
、
familiarity と現在の居住期間は関係がないことがわかった。これは心理学専攻の学生の
familiarity と現在の居住期間との関係は mildly に相関があるという先行研究の事実とは
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異なっている。この二つの研究での矛盾は認知症者と認知機能障害がない学生との違いが
原因であろう。
加えて、著者のオリジナルな予想であったが、現在の居住期間は徘徊行動の有意な予測
因子とならなかった。現在の居住期間は認知症発症年齢に関係なく実際の期間で測定して
いる。測定誤差がこの結果を招いたかもしれない。言い換えると、何人かの参加者は結婚
後すぐにその家に住んでいるかもしれないが、一方認知症発症後からだけ住んでいる人も
いるだろう。さらに、目的の尺度である実際の現在の居住期間は familiar な感情を説明で
きないかもしれない。この関係を理解するために更なる研究が必要だ。
認知症にかかわらず、高齢者の環境への familiarity の尺度の信頼性・妥当性の検討は十
分な先行研究がない。ほとんどの研究が、参加者が環境へどのくらい familiar か尋ねた
familiarity しか評価していない。特に認知症者の familiarity な感情は信頼できないかも
しれない介護者によって調査されている。介護者と認知症者での familiarity な感情の違
いを調査した更なる研究が認知症者での familiarity の概念を使用するための潜在力をよ
り解明するだろう。
Implication
先行研究では心理社会的な環境を強めることによって、入所者の QOL に有意なポジティ
ブな効果がみられ、ナーシングホームの入所者は攻撃的な行動にネガティブな効果がみら
れている。Familiar な環境は認知症者では介入が行われていないが、最近の研究では
familiar な環境の可能な効果として、徘徊や攻撃的な行動を含んだ、認知症者の行動的症
状を減らすことが示されている。認知症者における familiarity と潜在記憶の概念は認知
症者が明確な記憶障害があるにもかかわらず、潜在記憶が保たれていたと示した Son らが
十分にレビューしている。多くの臨床医はすでに毎日臨床で familiarity や familiar な環
境を与える概念を使用している。例えば、familiar な音楽、familiar な活動、familiar な
食べ物、familiar な服は落ち着いた感情や機能の向上のような施設入所認知症者にしばし
ば使われている。この促進する傾向のために強い理論的基礎を与える更なる研究が必要だ。
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