第3章② - 全国老人福祉施設協議会

第3章 対応すべき課題と展望
第2節
入所者への対応等
≪本節のねらい≫
本節では、入所者の心身状況の特性や抱える生活課題について理解を深めることを目的とし
ています。入所者の尊厳を保持し、その自立した日常生活を支援するためには、画一的な支援
ではなく入所者の特性をふまえた支援が展開されなければなりません。さらに大事なことは、
本節で学んだ専門知識から入る(例:A さんを認知症から見る等)のではなく、いかなる特性
であろうとも A さんという“個人”として見るという価値を身につけていくことに留意して
ください。
1
認知症の特徴と留意点
【認知症とは】
認知症とは、記憶力や判断力などの認知機能が後天的な脳の障害によって低下して、日常
生活や社会的生活に支障をきたした状態をいいます。
認知症を発症する高齢者は年々増加しています。いまや 65 歳以上の約 1 割の高齢者に認
知症がみられるとされ、認知症の早期診断・早期発見と適切なケアのあり方について体制整
備が求められています。
【原因疾患等】
認知症の原因となる病気は多岐にわたります。
最も多いのは「アルツハイマー病」です。脳の神経細胞が障害され、
脳が委縮していく病気で、認知症の約 50~60%を占めています。次に
多いとされているのが「血管性認知症」です。脳の血管が詰まったり、
破れて出血したりして神経細胞が障害され、約 30%を占めます。次に、
大脳皮質などの神経細胞に「レビー小体」がたまる「レビー小体型認
知症」は約 10%、脳の前頭葉や側頭葉が委縮する「前頭側頭葉変性症」、
ほかにも、
「突発性正常圧水頭症」
、
「慢性硬膜下血腫」などがあります。
治療を行うことにより認知症の症状が改善したり治ることがありま
す。認知症と疑われる場合には放っておかずに早めに受診して原因を
確認することが大切です。
91
第3章 対応すべき課題と展望
【症状】(概要)
認知症の症状は、
「中核症状」と「BPSD」
(問題行動・周辺症状:Behavioral and Psychological
Symptoms of Dementia)に大別されます。
「中核症状」は、脳の神経細胞が障害されることが直接の原因となって起こる症状で、
「認
知機能障害」とも呼ばれます。「中核症状」は、脳の神経細胞の障害によって直接的に表れ
るもので認知症の症状の基盤となります。
この「中核症状」があるために、周囲の人とのかかわりあいの中で生じる症状が「BPSD」
です。
「認知症の行動・心理症状」をさし、
「周辺症状」とも呼ばれます。
「BPSD」は、脳の
障害からの影響で起こる症状で、必ず現れるというわけではありません。しかし、妄想・徘
徊・暴言・暴力などは本人はもとより、介護する者にとっても大きな負担となります。しか
し、認知症への理解をより深め、介護の仕方を工夫することで「BPSD」が改善することも
あります。
区
中
核
症
状
(
認
知
機
能
障
害
)
B
P
S
D
(
周
辺
症
状
)
分
症
状
記憶障害
・特に最近の出来事を覚えることができなかったり、思い出したりすること
ができません。年相応の「物忘れ」は単語が覚えられない、思い出せない
ということが多いのですが、認知症では、
「昨日○○をした、今朝○○を食
べた」という出来事自体の記憶が抜け落ちます。
失語
・
「物の名前が出てこない」などのほか、
「その言葉が指す意味がわからない」
という症状が現れることがあります。
失行
・「着替えができない」「道具をうまく使えない」など、運動機能に問題はな
いのに、目的とする行動ができなくなります。
失認
・視覚などの感覚機能に問題はないのに、目の前にあるものが何なのか理解
できなくなります。
遂行機能障害
・「物事の段取りが立てられない」「計画が立てられない」など、順序立てて
物事を行うことができなくなります。
不安・焦燥
・初期には、認知機能の低下を自覚して不安感が募ります。また、落ち着か
なくなったり、不平を言ったり他人のことを無視したりすることがありま
す。不安はだんだん強くなり、暴言・暴力などに発展することもあります。
幻覚
・実際にはないものが見えたり(幻視)
、実際にはいない人の声が聞こえたり
します(幻聴)
。幻視はレビー小体認知症でよく表れる特徴的な症状です。
妄想
・現実ではないことを誤って認識してしまいます。多いのは「財布を盗まれ
た」など、猜疑的な妄想です。
うつ症状
・気分が落ち込み、何もしたくなくなります。椅子に座ったまま何もしない
など、活動性が低下します。うつ症状から寝たきりにつながることがあり
ます。
睡眠覚醒リズム
障害
・昼と夜が逆転してしまい、夜は覚醒し、昼はウトウトとした状態になりま
す。
食行動異常
・食べ物ではない物を口にしてしまう「異食」が現れたりします。
徘徊
・家を出たがり、外を歩き回ります。本人は目的があって歩き回るのですが、
周囲の人にはその目的がよくわかりません。
暴言・暴力
・怒鳴ったり、奇声をあげたり、相手に手を上げたりします。認知機能障害
が進んだころに多くなるといわれています。
介護拒否
・入浴や着替えなどで、介護する人が補助しようとするのを嫌がります。
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第3章 対応すべき課題と展望
【認知症に伴う合併症状】
高齢者、特に認知症になると起こりやすい合併症状は以下のとおりです。
区
分
症
状
摂食・嚥下障害
・食べたいという欲求や食べる行為は脳からの指令によるものなので、
「食べない」
「食
べ過ぎる」などの摂食障害が起こることがあります。また、食べ物が気管に入らな
いように、飲み込む時に気管にフタをする仕組みである「嚥下反射」が鈍くなり、
気管に入った異物によって「誤嚥性肺炎」が起こりやすくなります。
失禁
・排尿をコントロールしている自律神経系の働きが弱くなり、トイレに間に合わなか
ったり、尿意が感じられずに失禁することが多くなります。
便秘
・加齢などで運動量が少なくなったり、生活のリズムが変化したりすることなどから、
便秘しやすくなります。
脱水
・体内の水分の量を調節する仕組みがうまく働かなくなったり、のどの渇きが感じら
れなくなったりして、脱水になりやすくなります。
浮腫
・体内の余分な水分をうまく排出できなくなり、むくみが起こります。
運動障害
・筋肉が硬くなって動きにくくなり、歩行などに障害が出ます。
不随意運動
・自分では動かそうとしていないのに、手足が勝手に動いたりします。
痙攣発作
・「てんかん」のような手足の痙攣が起こります。
転倒・骨折
・運動機能の低下や筋力の低下、バランス能力の低下などにより転倒して骨折しやす
くなります。骨折が原因で寝たきりになることが多いので、注意が必要です。
低栄養
・食べ物を消化吸収して栄養を摂取する働きが弱まったり、摂食障害などが加わって
栄養不足になることがあります。
褥瘡
・長時間同じ体位で寝ていたり、体の同じ部位が長時間に渡って圧迫されると、血流
が悪くなり皮膚や皮下組織が壊死します。体位に注意することが必要です。
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第3章 対応すべき課題と展望
【認知症の診断と治療】
認知症の診断や治療、そして予防については世界中で研究が進められています。超高齢社
会を迎えてその研究に期待が寄せられていますが、早期診断・早期治療が基本です。認知症
の診断は問診をはじめ、認知機能テストや様々な検査などから総合的に行われます。
また、認知症の治療は、進行を遅らせる薬などを使いながら、楽しくリハビリテーション
を行い、進行の予防を心がけることが大切です。
1)認知症の診断
①問診
どのような症状があるのか、いつごろからどのように現われてきたのか、また、生活への
支障はどの程度なのか、詳しく聞かれます。受診は付き添って行い、医師の質問に対しては、
本人の症状や日常の様子について記録やメモなどに基づいて正しく伝えます。
②認知機能テスト
認知機能がどの程度なのかを客観的に調べるために、
「MMSE」や「長谷川式簡易知能評
価スケール改訂版」などの認知機能テストが行われます。テストの点数だけでなく、テスト
を受けている様子なども観察されて認知症の判断が行われます。
: 「今日は何日ですか」
「ここは何県ですか」など 11 項目の設問(30 点満点)が
あり、23 点以下だと認知症の疑いがあるとされています。国際的に最も広く用いられ
ている簡易テストです。
長谷川式簡易知能評価スケール(改訂版)
: 年齢、時間、場所などの 9 項目の設問(30 点満点)
があり、20 点以下だと認知症が疑われるとされています。
MMSE
③血液検査
血液検査は認知症を引き起こす内科的な病気の有無を鑑別するために行われます。
「ビタ
ミン B12 欠乏症」や「甲状腺機能低下症」などの有無を血液検査で調べます。血糖値や LDL
コレステロール値などをチェックして、生活習慣病の有無などを調べておくことも認知症の
診断には重要です。
④脳脊髄液検査
脳と脊髄は骨に守られており、その周囲は「脳脊髄液」という透明な液体で満たされてい
ます。腰椎に針を刺して脳脊髄液を採取し、アルツハイマー病の診断のために脳脊髄液の中
に含まれる「アミロイドβ」や「タウたんぱく」を調べます。
⑤画像検査
画像検査で見る脳の画像は、脳の形を調べる「形態画像」と、脳の働きを調べる「機能画
像」があります。
形態画像:
機能画像:
CT(コンピューター断層撮影)
、MRI(磁気共鳴画像)
SPECT(単一フォトン断層撮影)
、PET(ポジトロン断層撮影)
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第3章 対応すべき課題と展望
2)認知症の治療
原因となる病気がある場合は、その病気の治療を行うことで認知症が改善することがあり
ます。しかし、アルツハイマー病や血管性認知症、レビー小体型認知症については根本的な
治療方法がない現状です。そのため、認知症の治療は、適切な介護やリハビリテーションの
実施と、必要な場合には薬物療法により、認知機能の低下を少しでも遅らせることや、認知
機能障害があってもできるだけ快適な生活を送れるようにすることが中心となります。また、
血管性認知症の場合は、脳卒中の再発を予防して認知症の進行を予防することが治療の重要
な目的となります。
①認知機能障害に対する薬
アルツハイマー病の薬はこれまでドネぺジル(アリセプト)だけでしたが、平成 23 年度
に新薬が承認されました。現在は、リバスチグミン(リバスタッチパッチ)
、ガランタミン
(レミニール)
、メマンチン(メマリー)の 4 種類が使われています。いずれの薬も進行を
抑える効果があります。
②BPSDに対する薬
BPSD の症状が強く、他の方法ではなかなか抑えられない場合には、症状に応じて次の薬
が使われることがあります。
非定型抗精神病薬: 不安・焦燥、幻覚、暴力、徘徊、せん妄などの症状が強い場合に用いられ
ることがあります。リスペリドン、クエチアピン、オランザピンなどの薬です。しか
し、転倒しやすくなったり、嚥下機能が低下して誤嚥性肺炎を起こしやすくなるなど
注意が必要です。そのため、少量から慎重に使われ、使用する期間もできるだけ短く
します。
漢 方 薬: よく使われるのは抑肝散です。漢方薬の効果にはこれまで科学的なデータがあまり
ありませんでしたが、現在は治験も行われ、その効果に期待が寄せられています。
抗うつ剤: うつ症状が強い場合に用いられます。前頭葉側頭葉変性症の症状改善のために用い
られることもあります。認知症に伴ううつ症状には、SSRI(選択的セロトニン再取
り込み阻害薬)
、SNRI(セロトニン・ノンアドレナリン再取り込み阻害薬)など、副
作用が少ないタイプの薬が使われます。
睡 眠 薬: 睡眠を妨げるような明確な原因がないのに、不眠を訴えるような場合に用いられま
す。不安感を和らげるために、作用のよく似た抗不安薬が使われることもあります。
ベンゾジアゼピン系薬がよく用いられますが、転倒の危険性が高まりますので注意が
必要です。
③リハビリテーションによる治療法
薬物療法以外の治療として様々なリハビリテーションが行われています。コミュニケーシ
ョンをよくとりながら楽しく行うことが大切です。楽しく行うことによって脳に快い刺激を
与え、現在の生活を維持するだけでなく、残された機能を高めることも期待できます。
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第3章 対応すべき課題と展望
認知機能刺激療法: クロスワードパズルやトランプのゲーム、文章の音読、簡単な計算などを行
います。周囲の人が一緒に喜ぶと、本人の取り組み意欲や学習意欲が高まります。
回 想 法: 自分の過去を思い出して語り合う方法です。周囲の人が熱心に聞くことにより、自尊
心が高まり、穏やかになれます。
音楽療法: 音楽を聴いたり、楽器を演奏したり、カラオケで歌ったりして楽しみます。
アートセラピー: 認知症の人が絵を描きます。その絵の出来栄えを周囲の人が褒めたり喜んだり
することが大切です。
現実見当識訓練: 日付けや季節・場所などの見当識を高めていく訓練です。地図やカードを用い
て行いますが、認知症が進行している場合はかえって混乱させる場合があります。
④運動やバランスのとれた食事の効果
1 日 30 分以上のウォーキングを週 3 日以上習慣的に継続することや、不飽和脂肪酸を多
く含む魚類や抗酸化作用をもつビタミンC・Eを含む野菜や果物など、バランスの良い食事
を心がけることが、認知症予防に効果があるといわれています。
【認知症ケアの基本】
認知症の高齢者へのケアについて重要なことは、認知症の原因疾患別ケアを行うこと、
そして、重症度に合わせたケアを行うことです。認知症が疑われる早期の段階で受診につ
なげていくこと、正しい診断を受けて認知症という病気についての理解を深め、それぞれ
の特徴をつかんでケアを行うことで BPSD の発症を軽減させていくことができます。
次に、代表的な認知症のタイプ別特徴と重症度に応じたケアの留意点について示します。
1)アルツハイマー型認知症
区分
症状
特徴
・海馬周辺から大脳の表面にかけて神経細胞が徐々に死んでしまい、その結果、脳が委縮
していく原因不明の病気です。知能は低下しますが、身体の動きは良好なのが特徴です。
妄想は物盗られ妄想など現実的なものが多く表れます。
BPSD の現
れ方
・軽度の段階は、記銘力障害や時間の見当識障害から発生すると思われる「物盗られ妄想」
が多くみられます。中等度になると感覚性失語が見られるようになり、言語によるコミ
ュニケーションが困難になり、介護者と意思疎通ができないことに由来する暴言や暴力
が目立ってきます。重度になると場所や人物の見当識障害がみられ、試行判断力が低下
する一方で、身体がよく動くために徘徊や異食など危険な行動が問題となります。
ケアの
留意点
・軽度から中等度の時期は記憶が徐々に悪くなり、時間の見当識障害から場所の見当識障
害がみられるようになる時期です。聞いて分からない言葉が増えてくる感覚性失語がみ
られるようになる時期は中等度の頃からです。だんだんと日常生活でも介助や援助が必
要となります。この状態の時期は、その人が事実と感じていることを否定しないで、そ
の人が感じている事実をそのまま受け入れる対応が基本です。現実を説明したり従わせ
ようとすることは避けた方がよいと思います。その人の感じている事実に沿った対応を
して、その人が癒されるような状況を作り出すことが大切です。
・中等度から重度になると、逆行性健忘という記憶障害が進み、時間と場所の見当識障害
に加えて人物の見当識障害がみられます。親しい人や家族のことがわからない場合も増
えていきます。感覚性失語は中等度からさらに悪化するので、聞いて分からない言葉が
多くなり、話せる言葉も徐々に減っていきます。日常生活ではほとんどが援助や介護が
必要となり、さらに、徘徊や異食など危険な行動が多くなりますので注意が必要となり
ます。
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第3章 対応すべき課題と展望
2)レビー小体型認知症
区分
症状
特徴
・脳が委縮していく原因不明の病気です。後頭葉の視覚野付近の血流や代謝の異常が特徴
的です。知能の低下はアルツハイマー型認知症より進行が遅いですが、身体の動きが悪
くなります。嚥下障害や転倒によるけがに注意が必要です。抗精神病薬への過敏性が見
られます。妄想は突拍子もない非現実的なものが多いのが特徴です。
BPSD の現
れ方
・軽度の段階はアルツハイマー型認知症に比べて試行判断力の低下が緩徐であるため、視
覚的な異常を感じていてもすぐに BPSD として表れてこない場合が多く、注意力や集
中力の変動に伴う失敗などが目立ちます。したがって、軽度の段階では BPSD はあま
り見られません。中等度になり幻視として人が見える場合が増えると、周囲の人たちを
気持ち悪がらせたり困らせることになります。幻視以外にも突拍子もない妄想が起こ
り、突発的に予測できない行動をとることがあります。重度になると身体の動きが悪く
なり、再び BPSD があまり問題とならなくなりますが、身体介護が必要となる場合が
多くなります。
ケアの
留意点
・軽度や中等度の段階は、記憶力や思考判断力の低下はアルツハイマー型認知症に比べて
悪化の進行は遅いものの、注意力や集中力の低下があり、しっかりしているときとぼん
やりしているときがみられます。記憶力や思考判断力も変動があり、良い時と悪い時の
差が大きく、目で見たものがゆがんで見えたり、はっきり認識できないために非現実的
な幻覚や妄想が起こりやすいのが特徴です。感覚性失語についてもアルツハイマー型認
知症に比べると悪化の進行度は遅い傾向があります。できるだけ客観的な事実を伝えた
り、本当の意味での現実を理解してもらうように対応していくことが大切です。
・中等度から重度の場合には症状がかなり進み、非現実的な幻覚や妄想の症状が厳しくな
ります。自分のことをうまく伝えられない状態になります。身体の動きや嚥下の悪さが
目立つようになる人が多くなり、失禁がみられる人も多くなり、身体的介護が必要にな
る状態となります。その人を否定せずに、その人の感覚や思いに沿ってケアをしていく
ことが基本となります。
3)脳血管性認知症
区分
症状
特徴
・脳梗塞や脳出血の後遺症による認知症です。脳の障害される部位や範囲により認知症の
症状はまちまちであり、時間による変動があります。人格や性格が先鋭化する特徴があ
ります。脳血管性認知症の中には、ビンズワンガー状態のように脳の中の神経線維が通
っている部位の血流不全や浮腫により、徐々に症状が悪化する場合もあります。
BPSD の現
れ方
・障害される部位や大きさにより BPSD は大きく異なりますが、同じようなことの繰り
返しが多く見られます。人格や性格が先鋭化して、わがままな言動から BPSD へと変
化する場合も多く、被害妄想的な思考や感覚が起こりやすくなり、嫉妬妄想がみられる
こともあります。
ケアの
留意点
・脳血管性認知症の症状の進行はとても遅い場合が多いので、何年たっても状態が変化し
ないこともあります。しかし、ビンズワンガー状態という脳の中の神経線維が走ってい
る部位の微小循環不全や浮腫がみられる状態があると、症状は徐々に悪化していきま
す。また、症状に多様性があるのが血管性認知症の特徴です。軽度から中等度では、そ
の人のその時の状態や気分、そしてケアする人との相性などで対応が変化していきま
す。長く接するようになると、その人の雰囲気からケアの方法や対応を見極めていくこ
とができます。
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第3章 対応すべき課題と展望
4)正常圧水頭症
区分
症状
特徴
・事故や手術の後遺症ではなく、脳の中の脳室という部分で脳脊髄液の量が増えて、脳室
が大きくなる原因不明の病気です。症状はアルツハイマー型認知症に似ており、軽度の
うちから尿失禁が見られるのが特徴です。歩行障害による転倒や、歩きたがらないなど
の症状がみられます。
BPSD の現
れ方
・アルツハイマー型認知症に似ていますが、物取られ妄想が悪化することは少なく、脳血
管性認知症の中のビンズワンガー状態に近い幻覚や妄想がみられる場合があります。ま
た、人格や性格が形骸化しながらも先鋭化するような微妙な状態がみられ、全般的にみ
るとアルツハイマー型認知症よりも BPSD は問題とならない場合が多いとされていま
す。
ケアの
留意点
・記憶力や思考判断能力は、アルツハイマー型認知症に似たパターンで悪化していきます
が、悪化のスピードは遅いことが特徴です。時間、場所、人物の順に見当識障害が起こ
ります。また、尿失禁や歩行障害が軽い段階から見られますので、その人の行動に常に
注意を払うことが必要です。
5)前頭側頭型認知症
区分
症状
特徴
・前頭葉と側頭葉が徐々に委縮していく原因不明の病気です。本能に抑制がかからないた
め自分勝手な言動が目立つようになり、脱抑制の状態となる特徴があります。アルツハ
イマー型認知症と比較すると、記憶や見当識障害の悪化はやや遅れる印象があり、身体
の動きはとても良好な場合が多いです。
BPSD の現
れ方
・軽度の段階から本能に抑制がかからない状態の脱抑制が目立ち、自分勝手な言動などで
周囲を困らせることが多く見られます。軽度の段階では好きな人ができると大金を渡し
てしまったり、家族の言うことを聞かないで誰かと突然旅行に行ってしまうこともあり
ます。中等度から重度になるとスーパーマーケットでおいしそうな果物があると思うと
その場で食べたり、お菓子を開けてその場で食べたり、重度になるとカップラーメンに
水を注いですぐに食べたりするなど、理解不能な言動がみられることもあります。
ケアの
留意点
・軽度から中等度、そして重度に至るまでの段階は脱抑制が前面に出てくるために、ケア
が困難になる場合が多く、抗精神病薬などの治療が必要となりますので、早めに医師に
相談して対応することが必要です。自分の言うとおりにしてほしいという欲求を我慢し
きれなくなりますので、タイミングをずらしたり、関心をそらしたりという対応が必要
な場合があります。機嫌を損ねて暴力行為に繋がることもありますので注意が必要とな
ります。
6)統合失調症に認知症を合併した状態
区分
症状
特徴
・以前は精神分裂病と言われていた統合失調症ですが、妄想や幻聴を主症状とした原因不
明の病気です。CTなどで脳の形を見ても異常は見られません。統合失調症の人が高齢
になり、認知症の症状を合併することが多いことが特徴です。統合失調症の症状に認知
症の状態が加わったと考えるとわかりやすくなります。
BPSD の現
れ方
・統合失調症に伴う妄想や幻聴が BPSD の主体となります。抗精神病薬により統合失調
症の症状がコントロールされていれば問題となることは少ないですが、暴言や暴力、自
傷行為などが問題となることがあります。
ケアの
留意点
・軽度のうちは記憶力や思考判断力が比較的保たれますが、重度になっても記憶力がまだ
らに保たれている人もいます。閉じこもったり、周囲からの接触を拒絶したりして、良
好な人間関係を作りにくい場合もあります。また、動きたがらないために廃用症候群も
起こりやすく、早くから身体的に弱ってしまう人もいます。自傷行為が多いのもこの認
知症タイプに多いのが特徴です。
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第3章 対応すべき課題と展望
【環境面での配慮】
1)居室
区分
留意点
整理
・できれば居室を使う人みんなで整理すると片づけたものや場所などを共有できます。
目印
・長い間、ずっと使ってきたものや置いてあったものは目印のような役割を果たしている
ことがあります。目印を片づけてしまうとかえって落ち着かない空間になってしまうこ
とがあります。
よく通る
ところ
・入り口から椅子などよく通るところはできるだけ広いスペースをとります。足元ばかり
見てしまう人は、椅子の背やテーブルにつかまりながら歩く人は足元のものに気づきに
くいものです。電気コードや椅子の脚などが出ているとつまづいてしまうことがありま
す。
家具
・背の高い家具が多い中に、背の低い家具があると気づきにくくなります。特に、よく通
るところにちゃぶ台やローテーブルがあると足をぶつけたり、つまづく原因になりま
す。
収納の高
さ
・背伸びをしたり、脚立を使ったり、しゃがんだりするような高さは誰にとっても使いや
すいとはいえません。よく使うものは、楽な姿勢で手が届く高さにまとめると身体に負
担がかかりにくくなります。
家具の配
置
・椅子の背やテーブルにつかまりながら歩く人は、回転する椅子・ロッキングチェアなど
の不安定なものや、ストーブ・扇風機などのつかまると危ないものをよく通るところに
置かないようにします。
家具の角
や取手
・引き出しや扉などの取手は、ほんのささいな出っぱりに見えてもひっかけてしまうこと
があります。これらはクッション材で保護したり、必要に応じて取り外しておくと怪我
をしにくくなります。
椅子
・ひじかけが丈夫で、座面よりも前に出ているもの、座面がやや高めのものは立ち上がり
やすくなります。座面の生地が防水加工されているもの、カバーを外して洗えるものは、
掃除しやすく清潔を保つのに役立ちます。座面の生地が床や壁と対照的な色だとどこに
座ればいいのか判りやすいかもしれません。座面の角で膝の後ろが圧迫されていると、
血液やリンパ液の流れが悪くなってむくみの原因になることがあります。脚がむくみや
すい人はオットマンや脚のせ台を使うとむくみが楽になります。
2)トイレ
区分
留意点
場所
・トイレの場所が判りづらいときには、トイレの方向を示す矢印を壁に貼ると助けになる
ことがあります。夜は、寝室からトイレに続く廊下の明かりをつけておくと真っ暗やう
す暗い中で目覚めるよりもトイレの方向が判りやすくなります。また、ドアはよく似て
いるため、トイレのドアに張り紙や飾りをつけることもありますが、ドアを常に開けて
おけば何のための部屋かすぐにわかります。夜は、常にトイレの電気をつけておくのも
一案です。
ドア
・トイレの内側に開くドアは、出入りするときやトイレの中で向きを変えるときに身体を
動かしにくいものです。トイレの外側に開く扉やアコーディオンドアは内側に開くドア
よりも使い勝手が良いようです。ドアを外してカーテンやのれんを使う場合もあります
が、尊厳保持の観点からやむを得ない場合に限定して考えるべきものです。
片づけ
・ものの形や色の境目が曖昧に見える人には便器とごみ箱などの見分けがつきにくいこと
があります。トイレに、できるだけものを置かないことで戸惑うことが少なくなるかも
しれません。人によって、トイレのマットに足がすくんだり穴があいているように感じ
ることがあります。
99
第3章 対応すべき課題と展望
区分
留意点
床
・マットの段差に足をとられることもあります。必要に応じてマットを片づけることも一
案です。マットやカーペットを使う場合は端がめくれないようしっかりと留めておきま
す。
トイレッ
トペーパ
ー
・左右どちらでも判りやすく使いやすい場所に用意します。腰を浮かさなくても手が届く
位置にペーパーホルダーがあると楽な姿勢で使えます。人によっては、ロール式のトイ
レットペーパーよりも昔ながらの 1 枚ずつ紙片になっているペーパーの方が馴染みが
あり、使いやすいかもしれません。
手すり
・ペーパーホルダーやタオルハンガーが手すりの替わりになってしまっている場合は取り
外します。すべり止めのついた手すりがあると立ち座りの動作が楽になります。トイレ
の手すりは、壁に取り付けるもの、便器周りに取り付けるもの、固定式、可動式などい
ろいろな種類があります。
便器
・ものの形がはっきりしなかったり、立体感がなく平面のように見えてしまう人もいます。
特に和式の便器の場合は、便器と床の境目が曖昧に見えるとどこに足を置けばいいのか
戸惑ってしまいます。便器と床の色が対比的だと便器が判りやすくなる場合がありま
す。洋式便器のフタは、常に開けてある方が使いやすいという人もいます。立ち座りし
やすいように、便座の高さを調整します。
3)浴室
区分
留意点
手すり
・タオルハンガーが手すりの替わりになってしまっている場合は取り外します。浴槽のへ
りにクランプで取り付ける可動式の手すりは、人によっては取り付け、取り外しに不安
があるかもしれません。できれば、壁面に手すりを取り付けられると安心して体重をか
けることができます。
給湯
・温度設定できる給湯システムは、レバーをひねるだけで適温の湯が使えます。湯と水の
栓をそれぞれ開けて温度調整するためには、無意識に多くの操作を同時に行っています
が、
「栓をまわす」という操作が苦手になる人や、
「良い加減」にするための微調整が難
しく感じる人もいます。浴室では裸の身体に熱い湯を浴びてしまう可能性がありますの
で、使い勝手は十分に検討する必要があります。
浴室の床
・タイルが剥がれたり欠けている場所や、排水部分などの僅かな段差に足をひっかけてし
まうことがあります。すべりやすいタイルの床は、すべり止め剤を塗る、すべり防止タ
イルに張り替えることができます。水に強いすべり止めシートも市販されています。
浴室の壁
・シャワー受けやタオルハンガーなどの壁から少し出っ張っているものに気づきにくいこ
とがあります。立ち座りする場所や移動のときに通る場所にある突起物は必要に応じて
取り外したり、スポンジラバーなどの緩衝材を使うとけがを防ぐのに役立ちます。浴室
の中が同じような色だと、空間の広がりや床と浴槽の境目が判りづらいと感じる人もい
ます。壁のタイルを貼り替えるとき、壁を塗り替えるときなどは、床や浴槽を引き立て
る色にします。
浴槽
・浴槽に出入りする時はバランスが不安定になりがちです。浴槽の工夫例としては、浴槽
のふちをはっきりさせる(目立つ色のテープを貼るなど)
、身体のバランスを崩しにく
くする(すべり止めマットやすべり止めテープなど)
、水面をはっきりさせる(少量の
食品着色料を入れるなど)、姿勢を助ける(固定するタイプの椅子など)ことなどが挙
げられます。
シャワー
チェアー
・楽な姿勢で髪や身体を洗うことができます。立ち座りの動作が小さいので、バランスを
崩しにくく身体への負担も少なくなります。
照明
・照明を明るくすると、 空間の広がりやものの境目が見えやすくなります。
100
第3章 対応すべき課題と展望
(参考・引用文献)
・竹内孝仁著「認知症ケア」公益社団法人全国老人福祉施設協議会、自立支援介護ブックレット③、2012
・「特別養護老人ホームにおける認知症高齢者の原因疾患別アプローチとケアの在り方調査研究」報告書 公益社団
法人全国老人福祉施設協議会/老施協総研、2011
・伊苅弘之著「タイプ別重度別認知症ケア」日総研、2011
・山田正仁総監修「認知症」NHK出版、2011
・厚生労働省「みんなのメンタルヘルス」http://www.mhlw.go.jp/kokoro/speciality/
・e-65,net「医学からみた認知症」http://www.e-65.net/medicine/
101
第3章 対応すべき課題と展望
2
障害の特徴と留意点
養護老人ホームの入所者の特徴の一つに、障害者比率の高さがあります。従来の三障害(身
体・知的・精神)のいずれもが居宅で生活する高齢者に占める障害者比率よりも上回ってい
る状況は、障害者福祉の領域にも見られない状況であり、これに比肩するものは生活保護法
の救護施設くらいです。また、障害者支援施設では、近年になって法律上の障害種別がなく
なり施設としては一元化されましたが、実際には従来の専門性を活かし、特定の障害種別を
支援している場合が多いのに比べ、あらゆる障害種別が混在している状況にあります。
限られた職員体制の中で全ての障害種別に対応していくには非常に困難な状況にあると
いえますが、可能な限りそれぞれの障害特性を理解し、その特性に応じた支援を展開してい
くことが求められています。
【障害とは】
まず、私たちの障害観を確固としたものとする必要があります。障害者とは、と聞かれた
際に、一般の人は「足が不自由な者」「知的に障害がある者」などと答えるのではないでし
ょうか。実はこれらは“障害のごく一部”である機能面だけを見ているに過ぎません。 上
記の例はいずれも“本人の心身機能”だけに着目していますが、障害とはもっと広い範囲ま
でを指します。このことを理解するために、まず 2001 年まで用いられていた定義である
ICIDH(国際障害機能分類,WHO)に基づき理解をします。
病気/変調
Disease/Disorder
機能障害
能力障害
社会的不利
Impairments
Disabilities
Handicaps
例) 交通事故(①)により下半身が動かなく(②)なった。そのことで、歩いたり階段の
上り下りができなくなり(③)
、それまで続けていた仕事ができなく(④)なった。
上記の例を ICIDH にあてはめると、①(交通事故)が“病気/変調”、②(下肢機能全廃)
が“機能障害”
、③(歩行能力等)が“能力障害”
、④(退職)が“社会的不利”となります。
ここで大事なことは、②から④の全てが障害となるという点です。一方で、多くの人が最初
に思い浮かべる障害は②のみ、機能面のみと考えている点です。
③及び④、特に人間の尊厳にとって最も大事なものは、自己実現・社会参加であり、上記
では④に該当します。この自己実現・社会参加が阻害されている状態を障害と捉えることが
できなければ、
「交通事故に遭い下肢機能を失ったのは不運」
「障害は本人の問題」として理
解されてしまうということです。
ところが上記の例、交通事故に遭えば本当に退職しなければならないのか、このことを理
解するためには ICIDH では限界があります。そこで 2001 年に WHO では ICIDH を全面的
に改訂し、新たな分類として ICF(国際生活機能分類)としました。ICF を用いることで、
102
第3章 対応すべき課題と展望
「課題の原因はどこにあるか」「障害とは何か」についてより正しい理解を得ることが容易
になりつつあります。
先の例をあてはめると、①(交通事故)は“病気/変調”、②(下肢機能全廃)は“心身機
能”
、③(歩行能力)は“活動”
、④(退職)は“参加”となります。ところで、下肢機能が
全廃となった時になぜ退職になるかというと、自宅から会社までの移動が困難という理由に
よるものです。つまり、途中の道路の段差や駅の階段の昇降等の“活動”が著しく困難であ
るためですが、仮に、
「自宅から会社まで、会社内の構造が全てバリアフリー構造になった」
「途中にバリアがあるが、すぐに誰かが車いすの介助をしてくれる」といった場合には、下
肢機能を全廃したとしても“活動”面には何らの問題はなく、会社での仕事(“参加”)には
支障をきたさない、という結果となります。この例の場合、本人の社会“参加”を阻害して
いる要因は、本人の“活動”
(歩行能力)にあるのではなく、“環境”(段差や人的支援の欠
如)であることが容易に理解できます。
ICF の意義は、これまで本人にのみ着目していた分類を、本人を取り巻く背景にまで拡大
し、生活機能として分類を行ったことにあり、本人の生活のしづらさ(参加)の要因として
これら環境を含む背景があることを明らかにしたことにあります。ICF を用いることで、障
害は「人」の問題(障害“者”)ではなく、社会の側が障害を有することを理解することが
できます。
これまでは身体障害を例に理解を進めてきましたが、知的障害についても背景因子との関
係で整理することができます。例えば、現代では多くの者は朝起きると食事をとり、身支度
を整え、交通機関等を利用して会社に行き、多くの機器を駆使しまた同僚と意思疎通を図り
ながら仕事をしています。ところが、高度経済成長以前、特にわが国が農業を中心としてい
た時代には、朝起きて身支度を整えた後は、目の前の田畑を耕し生計をたてていました。一
昔前までは、一つの作業を黙々とこなすことができ、体力もあることでとても働き者とされ
103
第3章 対応すべき課題と展望
ていた若者は、現代社会では、
「交通機関の利用がわからない」
「機器の駆使ができない」
「同
僚と意思疎通が図れない」ことで職を得ることができないというケースが少なくありません。
同じ心身状況であるにもかかわらず、時代(社会)が変化しただけで、私たちはこのような
若者を“知的障害者”と呼んでいますが、本人には何ら変化があったわけではありません。
養護老人ホームには、身体障害者・知的障害者・精神障害者などの障害者が多く入所して
います。施設で働く職員が、これまでのように本人の機能面だけに着目した理解のまま接す
るのか、それとも環境により引き起こされた生活のしづらさを抱える一個人として接するの
かについて、今一度施設内で話し合うことが大事であると考えられます。
【障害者への公的支援の変遷】
1990 年代までは、身体障害・知的障害・精神障害のいわゆる三障害を中心に法制度が構
築され、福祉サービスについてもこれらの障害を有する者に対して個別法により提供されて
きました。このうち最も早く成立したのは身体障害者福祉法(1949 年)で、その後精神薄
弱者福祉法(1960 年,現知的障害者福祉法)が続きますが、精神障害者については福祉の支
援が法に明記されるまでは医療(特に入院加療)を中心とするものであり、現在の精神保健
福祉法となったのは 1995 年です。
2000 年代になって、これまで積み残されてきた課題に対して徐々に公的支援の充実が図
られ始めます。2003 年には身体及び知的障害者の一部のサービスが利用契約制度へと移行
(障害者支援費制度)し、翌 2004 年に発達障害者支援法が成立、2006 年には身体、知的及
び精神障害者への福祉サービスの一元化を目指した障害者自立支援法が全面施行されます。
その後、2011 年の同法改正で発達障害者も対象とされ、なお積み残された難病患者につい
ても、今後の障害者総合支援法において対象となります。
なお、障害児については、障害者自立支援法から今日に至るまで、児童福祉法と障害者自
立支援法による分断が続いており、なお整理すべき課題が残っています。
次に、障害に関する私たちの価値観の転換とは別に、それぞれの入所者を適切に支援して
いくためには、それぞれの(機能)障害がどのような特性を持つものかについての理解が必
要です。以上に上げた各障害のうち、本項では身体障害、知的障害、精神障害及び発達障害
についてその概要を整理することとし、次項では難病について見ていくこととします。
104
第3章 対応すべき課題と展望
【身体障害】
身体障害については、法制度上の障害と実際の障害が異なる場合があります。身体障害者
福祉法では、①18 歳以上で、②別表に掲げる身体障害を有し、③手帳の交付を受けた者をい
います。このため、
「別表にない身体上の障害を有する場合」や「手帳の交付を受けていな
い場合」は、法制度上は身体障害者とはなりません。実際の支援の場では、このような方が
少なからず入所していることもあります。なお、別表の概要は以下のとおりです。
区分
概要
視覚障害
視力又は視野の障害
聴覚・平衡機能障害
聴力の障害又は平衡機能の障害
音声・言語・咀嚼機
能障害
音声機能の障害、言語機能の障害又は咀嚼機能の障害
肢体不自由
上肢・下肢・体幹の障害、乳児期以前の非進行性の脳病変による運
動機能の障害
内部障害
心臓機能、じん臓機能、呼吸器機能、ぼうこう又は直腸機能、小腸
機能、ヒト免疫不全ウイルスによる免疫機能、肝臓機能の障害
以上からも、身体障害者福祉法に規定する身体障害とは、「機能障害を見ているだけに過
ぎないこと」
「上記の障害に限られること(上記にない部位の障害は身体障害とはならない)」
ということであり、実際に支援が必要か否かは別の視点で見る必要があります。
例)ペースメーカーを装着している者は、心臓機能に著しい障害があり、身体障害者手帳で
も重度判定がなされるが、日常生活においては自立している場合、脳機能を損傷したが、
別表以外の部位の障害により日常生活に支援を要する場合、別表にない臓器の障害(膵臓
など)により日常生活に支援を要する場合 など
なお、脳機能を損傷した場合や頸髄損傷などでは、それ
だけで身体障害とはなりませんが、脳機能の障害により上
記のいずれかの障害を有する場合や、頸髄損傷のレベルに
よって上下肢や体幹機能の障害を有する場合などでは、そ
れぞれの区分を適用し身体障害者手帳の交付を受けるこ
ととなります。また、高次脳機能障害は精神障害者として
公的支援の対象となります。
ここで少なからず見受けられる誤解の典型例を紹介し
ます。いわゆる脳性まひや筋萎縮性側索硬化症などによる
言語が不明瞭な場合等ですが、これらは知的障害とは全く
異なるものです。脳性まひによる言語が不明瞭である原因
105
S. W. Hawking(1942~
英国の理論物理学者
)
第3章 対応すべき課題と展望
は、脳機能のうち言語周辺の機能に障害があるために発声等がうまくできないというだけで
あり、知的機能の障害があるわけではありません。
身体障害は、他の障害を重複していない限り、知的機能やコミュニケーション能力に課題
を有することはなく、自らの意思が明確であることが一般的です。また、肢体不自由などの
場合はその機能障害が明確であるために外部に認識されやすく、支援に結びつきやすいとも
言えます。その支援についても、介護が中心となる場合には、高齢者介護の技術を応用でき
る場合が少なくありません。
しかしながら、次のようなケースなど外部にわかりづらい場合もあります。中には機能障
害であることに気付かないことが原因で、対人関係のトラブルに発展したり、職員の誤った
認識に至ることも少なくありません。
区分
間違って理解されやすい事例等
視覚障害
・視野に障害がある場合、気づかずにすれ違う → 無視されたなどと誤解
・明るさで視力に影響がある場合 → 昼夜で態度が違うと誤解
・弱視などで文字の学習に支障があった場合 → 知的障害等と混同
聴覚・平衡機能
障害
・背後からの呼びかけに無反応 → 無視されたなどと誤解(正面では読唇で理解)
・大きな声で話す、補聴器をつけても無反応 → 感音性難聴では改善しない
・発語が不明瞭・文章構成が不明確(先天性に多い) → 知的障害等と混同
・発語がないために呼吸器が小さく持続力がない → 怠惰な性格であると誤解
・歩行にふらつきがある → 体力・筋力低下と誤解
音声・言語・
咀嚼機能障害
・発語が聞き取りにくい → 聞こえていない(聴覚障害)と混同
・吃音により聞き取りにくい → 心因性以外に神経因性・脳機能因性もある
・食事を水浸しにする → 咀嚼・嚥下障害でなく食へのこだわり等と誤解
肢体不自由
・会話に頷くなどの行為が困難 → 無視された・無関心などと誤解
・感情表現や行動開始時に不随意運動がある → 相手の気持ちなどを逆に理解
・集団への参加をしない → 性格的なものとして誤解
内部障害
・疲れやすい、集中力が続かない → 性格的なものとして誤解
・風邪などの感染で症状が悪化するため接触を避ける → 性格的なものとして誤解
・周囲への配慮から引きこもりがちとなる → 性格的なものとして誤解
障害に対する支援が適切でなかったことにより、他の身体の部位に障害を生じる“二次障
害”や、幼少期からの成長過程で差別やいじめに遭うなどにより精神障害などの“二次障害”
を有する場合もあります。
106
第3章 対応すべき課題と展望
具体的な支援の場では、以下の点などに配慮が必要です。
区分
必要な配慮
視覚障害
・名乗ってから話しかける。
・腕を引っ張ったり、後ろから押したりしない。
・「危ない!」と言うだけでなく、状況を具体的に説明する。
・トイレ誘導時はどのトイレか聞く(障害者用トイレが広すぎて困惑することもある)
・書類などの読み上げは省略しない。
・初めての場所では周りの様子について具体的に説明する。
聴覚・平衡機能
障害
・手続きなどの説明は、メモに書いて示す。筆談は日常使う漢字を使用する。
・携帯電話の電源を切る。
(着信時の電波で補聴器に雑音が入ることがある。)
・口元を隠さない、常に顔の見える位置で話す。
・ゆっくり話す、言葉のまとまりで区切る。
・複数の人が話すのではなく、一人ずつ話す。
音声・言語・
咀嚼機能障害
・話の構成から意味を汲み取る、必要以上に聞き返さない。
・手元に筆談用のメモを用意する。
(ただし最初から渡すなどは失礼となる。)
・食事の形態に配慮する(咀嚼・嚥下障害の場合)
肢体不自由
・移動経路に水濡れや水たまりができないように配慮する。
・車いす介助では、傾斜や段差、溝などでは後向きになるか斜めに横切る。
・片手麻痺等の場合、対象物が動かないようにする(筆記時の紙など)。
・小さくて扱いにくいものの受け渡し時は、直接手のひらの上に乗せる。
・無理な力を加えない(脱臼しやすい障害の場合等)。
・周囲に一定のスペースを確保する(不随意運動がある場合等)。
内部障害
・風邪などをうつさない(体力低下により感染しやすい)。
・座れる場所がある所でゆっくりと話を聞く(動悸、息切れ、疲れやすい等に配慮)
・視力低下がないか注意する(腎性網膜症・糖尿病性網膜症等による視力低下等)
いずれの障害についてもあてはまることですが、身体障害者でも障害のある部位について
の配慮や支援が必要である一方で、別の領域で“強み”を持っていることが少なくありませ
ん(下肢は不自由だが上肢の筋力や器用さは特に優れている等)
。
“できなさ”
“生活のしづらさ”のみに目を向けるのではなく、個々人の“強み・特性”
を活かした日常生活の支援を心掛けることが求められます。
107
第3章 対応すべき課題と展望
【知的障害】
わが国の福祉法制において、知的障害者に関する明確な定義はありません。老人福祉法に
おいて高齢者を定義できないのと同様に、どこからが知的障害であるかを明確に区分できる
境界線を設けることは困難です。現時点では、概ね次の定義が標準的に用いられています。
(知的障害児(者)基礎調査(2000 年)
)
「知的機能の障害が発達期(概ね 18 歳まで)にあらわれ、日常生活に支障が生じているため、
何らかの特別の援助を必要とする状態にあるもの」
以上のように、知的障害かどうかは①知的機能の障害(IQ で概ね 70 まで)と、②日常生
活能力を併せて判断することとなります。決して IQ のみで判断されるのではありません。
しかしながら、わが国では未だに“精神薄弱”と“精神遅滞”の概念に混乱が見られます。
精神薄弱の知的機能の障害と発達期における発展のみに着目されがちですが、これに適応行
動の障害を加えた“精神遅滞”としての認識、つまり、「変化することの少ない知的機能を
重視するのではなく、学習や訓練によって改善・進歩する可能性のある“適応行動”に注目
するという新しい人間観・障害観」として捉えられることが今後の課題です。
アメリカ精神遅滞学会では、2002 年に知的障害について次のように定義しています。
(アメリカ精神遅滞学会(2002 年)
)
「知的障害は、知的機能および適応行動の双方の明らかな制約によって特徴づけられる能力障害
である。この能力障害は、18 歳までに生じる。
」
① 同じ地域社会で生活している同年代の人たちとの比較による。
② その人の感覚、言語、行動上の問題、社会の文化等を考慮する。
③ ある領域で制約が見られても、他の領域では強さがある。
④ 判定は、その人の支援のあり方を知るためである。
⑤ その人にあった支援が継続して提供されれば、知的障害のある人の生活は必ず良くなる。
この定義にはいくつかの重要な点が明確にされています。まずは、知的障害は能力障害(機
能障害だけではない)であることです。次に、同じ社会での同年代との“比較”によること
(絶対的なものではないこと)です。また、“強み”をもっており、全ての面で制約がある
わけではないことや、
“発達・発展”が必ずもたらされるという認識も重要です。知的障害
であると判定することは、その者に制約があると判断することが目的ではなく、まして障害
者であるとレッテルを貼ることであってはなりません。その者の強みを知り、発達を支援す
るための判定でなければ意味がありません。
知的障害者特に年齢が高い場合には、発達期に十分な支援を受けることなく今日に至って
いる場合が少なくありません。特に教育については、養護学校を含め就学が義務化されたの
は 1979 年で、30 年少し前までは“就学免除”等の名のもとに、義務教育の機会を剥奪され
108
第3章 対応すべき課題と展望
たケースが少なくありません。養護老人ホームの入所者は全て就学義務化以前に義務教育の
年齢を超えており、入所者の中には義務教育すら受けることのできなかった者が存在すると
考えられます。また、現在と違って知的障害に対する世間や場合によっては家族の認識は多
分に差別感を含んだものもあり、幼少期より差別やいじめ、虐待を経験した者も存在します。
あるいは親が世間体を気にして家から一歩も出すことなく、半監禁状態で生活し、親の死後
に発見されたが基本的な生活習慣や集団との交流経験を持たない場合もあります。
手帳の支持者比率
所持者の比率
手帳種別
A:
65 歳以上人口比
養護老人ホーム
B:入所者比
B/A
身体障害者手帳
8.61%
17.70%
2.1
療育手帳
0.09%
3.80%
42.2
精神保健福祉手帳
2.98%
4.00%
1.3
A:全体における比率に用いたのは、
65 歳以上人口:
平成 22 年 国勢調査
身体障害者手帳:
平成 18 年 身体障害児・者実態調査結果(在宅のみの比率)
療育手帳:
平成 17 年 知的障害児(者)基礎調査結果・社会福祉施設等調査
精神保健福祉手帳: 平成 21 年 衛生行政報告例
「障害者白書」
(内閣府)では、知的障害者について健康面その他から高齢者での比率が
少ないとする記述となっているが、上記調査等には老人福祉施設などを含んでおらず、
実態を正確に把握したものとは言えない。養護老人ホームほかの老人福祉施設には相当
数の高齢知的障害者が存在することは明らかな結果となっている。
このような高齢の知的障害者は、その本来有する能力の発達の過程を他者により封印され
るなどにより、本来能力よりも低いレベルでしか認識されていないケースもあります。より
悲惨な例として、幼少期から「すみません」「ごめんなさい」と、謝ることばかりを教え込
まれたがゆえに、会話の切り出しなどでこれらの言葉を口にしないと後が続かないといった
ケースもあります。
このような人生を経て養護老人ホームに入所した者について、その持てる能力を引き出し、
周囲からもまた自身としても大事な存在であると認められた日常生活をおくることができ
るよう支援をしていくことが求められています。
知的障害者の支援に際しても他の入所者と同様のしっかりとした支援指針のもとにプロ
グラムを策定する必要があります。個別支援計画作成に際しては、支援領域や支援項目に対
する個々の状態のアセスメントが前提となります。その際の留意点としては、
①本人の状態を始まりから終わりまでを観察し、分析する。
②場面ごとの把握を行う(普段の生活場面~慣れない場面、周囲の人数など)。
109
第3章 対応すべき課題と展望
③本人の意思・意欲の度合を把握する。
④支援目標(達成する目標行動)を設定する。
⑤発達水準に見合った適切な方法を選択する。
などが挙げられます。
支援指針の手がかり
(財団法人日本知的障害者福祉協会)
レベル 1.達成水準
2.理解の程度
3.課題への取り
組み姿勢
4.習得の方法
5.支援の程度
全くできない
理解・認識が全
くできない
自分からやろうとし
ない
支援に対して拒否
嫌がって応じない
支援の受け入れ・動機
づけの働きかけを中
心に支援者との関係
を構築する
手を添えての支援に
より動きに応じる
常時の 密度の高い支
援、全面的支援
やろうとするがで
きない
理解が低くどう
すれば良いかわ
からない
自分からはやろうと
しないが支援には応
じようとする
行為遂行への励まし
等で意欲を喚起する
手を添えての支援や
身振り・絵カードなど
視覚に対する働きか
けを行う
頻繁に働きかける
特定の環境において長
期的に支援
日常的に支援
できたりできなか
ったりする
十分理解してい
ないが試行錯誤
を繰り返しなが
らやろうとする
自分からよろうとす
るが中断する
意欲と技能が十分整
っていない
相手によりムラがあ
る
相手の動作を真似よ
うとする対応を取り
入れる
常時の言葉かけによ
る励まし・受容を行う
必要な期間の継続した
支援から断続的な支援
へと移行
何とかできる
課題・状況の理
解が何とかでき
る
自分からやろうとす
る意欲がある
反復行為は何とか支
援なしにできる
誰とでも対応ができ
る
言葉の理解で行動に
移せる
失敗時でもやり直す
よう励ます
確認することで意欲
を確かなものとする
必要時に一時的又は短
期的に支援
時々の働きかけや見守
り
確認と励まし
ほぼ完全にできる
概ね自立している
課題の理解がで
き、見通しを持
っている
自分から進んで行い
工夫をする
多少の助言と確認を
行う
必要な時にのみ働きか
ける
見守り
Ⅰ
C
Ⅱ
Ⅲ
B
できつつある
Ⅳ
A Ⅴ
自立
様々な場面でも応用
するよう確認・励まし
を行う
このほか、知的障害者の日中生活においては余暇・文化活動等の支援も重要です。これら
の支援に際しては、ADL や IADL 支援と共通点もありますが、それ以上に「画一的な集団
指導の場ではないこと」
「個々のニーズを優先すること」
「苦痛ではなく快適な経験を意識す
ること」
「成功体験によるエンパワメントを意識すること」などに留意する必要があります。
110
第3章 対応すべき課題と展望
【精神障害】
精神障害については、長い間福祉の支援の枠外に置かれてきました。戦後の精神衛生法
(1950 年)~精神保健法(1987 年)~精神保健福祉法(1995 年)への変遷を見てもわか
るように、精神障害者に福祉の支援が明記されたのは 1995 年と、身体障害・知的障害に比
べて極めて遅れています。このことは福祉基盤の量にも大きな影響があり、施設はもとより
居宅サービス分野においても極めて脆弱な状態のまま推移しています。障害者自立支援法に
より他の障害と一元化されてからまだ日が浅く、かつ未だに精神障害者への支援を躊躇する
事業者が存在するなど、正しい知識の普及啓発がまだまだ必要な領域です。
このような遅れを生じさせ、また、正しい知識の普及を妨げているものに、法制度の遅れ
と共にあるのが一般国民の偏見であり、これを助長する報道等があります。少なからずの国
民が「精神障害者は何をするかわからない」として危険視したり、接触を避けるなどの風潮
がありますが、全くの誤解であり、ほとんどの精神障害者はとても繊細な心を持ち、私たち
と同等以上に傷つきやすい存在であることを理解する必要があります。
また、身体障害や知的障害は、その機能面については“症状固定”つまり障害を治すとい
う考え方ではなく、障害とうまく付き合いながら強み(特性)を活かした支援を展開するこ
とが基本となりますが、精神障害については、適切な服薬等により、また環境改善その他に
より障害の程度が軽減したりすることもあるなど、医療・保健と福祉の連携が特に密接な領
域となります。逆に適切な連携と支援が行われないことで、障害の程度が悪化してしまうと
いった危険性も併せ持っています。
精神障害については、精神保健福祉法で以下のとおり定義されています。
(定義)
第 5 条 この法律で「精神障害者」とは、統合失調症、精神作用物質による急性中毒又はその依存
症、知的障害、精神病質その他の精神疾患を有する者をいう。
第 5 条の定義はあくまでも医学的な分類に基づくものであるため、知的障害もその定義に
入っています。しかしながら、実際の福祉の支援その他については、知的障害者は固有の法
(知的障害者福祉法)及び障害者総合支援法等により行われ、精神保健福祉法では知的障害
者支援は対象外となります。
なお、高次脳機能障害は「器質性精神障害」として、本法の対象とされています。また、
障害者基本法や障害者総合支援法では、発達障害は精神障害とみなすこととされています。
(障害者総合支援法第 4 条第 1 項の要約)
第 4 条 この法律において「障害者」とは、身体障害者、18 歳以上の知的障害者、18 歳以上の精神
障害者(発達障害者を含み知的障害者を除く。
)
、18 歳以上の難病患者(障害の程度が厚生労働大
臣が定める程度の者)をいう。
111
第3章 対応すべき課題と展望
精神疾患の患者数(平成 20 年度患者調査(厚生労働省))
てんかん, 21.9
薬物・アルコール
依存症など, 6.6
その他, 16.4
認知症(血管性な
ど), 14.3
認知症(アルツハイ
マー病), 24.0
不安障害など, 58.9
統合失調症など,
79.5
(単位:万人)
うつ病など, 104.1
※
統合失調症や薬物依存をもって精神疾患イメージされている場合がありますが、上記を見て
も統合失調症などは 24%、薬物依存症等は 2%に過ぎません。
精神障害の区分ごとの代表的な症状は以下のとおりです。
区分
症状
統合失調症
・幻覚や妄想という症状が特徴的な精神疾患です。それに伴って、人と交流しながら家庭
や社会で生活を営む機能が障害を受け(生活の障害)
、
「感覚・思考・行動が病気のため
に歪んでいる」ことを自分で振り返って考えることが難しくなりやすい(病識の障害)、
という特徴を併せもっています。また、慢性の経過をたどりやすく、その間に幻覚や妄
想が強くなる急性期が出現します。
・新しい薬の開発と心理社会的ケアの進歩により、初発患者のほぼ半数は、完全かつ長期
的な回復を期待できるようになりました(WHO 2001)
。
アルコール
依存症
・渇望と飲酒行動: アルコール依存症は飲酒への強い渇望にさいなまれます。コントロ
ール障害の典型は連続飲酒です。
・離脱症状: 軽~中等度の症状では自律神経症状や精神症状などがみられます。重症に
なると禁酒 1 日以内に離脱けいれん発作や、禁酒後 2~3 日以内に振戦せん妄がみられ
ることがあります。
・暴言・暴力、徘徊・行方不明、妄想などが見られる場合があります。またアルコール依
存症は、自殺、事故、家庭内暴力、虐待、家庭崩壊、職場における欠勤、失職、借金な
ど多くの社会問題に関係しています。
・肝臓障害をはじめとする様々な身体障害や、うつ病や不眠症を代表とする精神障害が合
併します。
薬物依存症
・薬物乱用、薬物依存、薬物中毒という 3 つの概念に整理されます。
・薬物乱用: ルールに反した「行い」に対する言葉で、社会規範から逸脱した目的や方
法で、薬物を自ら使用することをいいます。
・薬物依存: 薬物乱用をくりかえすと、薬物依存「状態」におちいります。薬物乱用の
繰り返しの結果として生じた脳の慢性的な異常状態であり、その薬物の使用をやめよう
と思っても、渇望を自己コントロールできずに薬物を乱用してしまう状態のことです。
・薬物中毒(急性中毒)
: 意識不明の状態を生み出しやすく、生命的な危機を招きます。
このような状態が急性中毒で、乱用による薬物の直接的薬理作用の結果です。
・薬物中毒(慢性中毒): 原因薬物の使用を中止しても出現していた症状は自然には消
えず、時には進行性に悪化していきます。幻覚や妄想を主症状とする覚せい剤精神病、
「無動機症候群」を特徴とする有機溶剤精神病などがその代表です。
112
第3章 対応すべき課題と展望
区分
症状
うつ病
・自分で感じる症状: 憂うつ、気分が重い、気分が沈む、悲しい、不安である、イライ
ラする、元気がない、集中力がない、好きなこともやりたくない、細かいことが気にな
る、悪いことをしたように感じて自分を責める、物事を悪い方へ考える、死にたくなる、
眠れないなど
・周囲から見てわかる症状: 表情が暗い、涙もろい、反応が遅い、落ち着かない、飲酒
量が増えるなど
・体に出る症状: 食欲がない、体がだるい、疲れやすい、性欲がない、頭痛、肩こり、
動悸、胃の不快感、便秘がち、めまい、口が渇くなど
躁うつ病
・精神疾患の中でも気分障害と分類されている疾患(双極性障害)のひとつです。
・躁状態: ほとんど寝ることなく動き回り続ける、休む間もなくしゃべり続ける、何か
に猛烈に取り組むが集中できず完成できない、法外な買い物をするなど
・軽躁状態: いつもとは人が変わったように元気で短時間の睡眠でも平気で動き回る、
人間関係に積極的になりますが少し行き過ぎという感じを受けるなど
・うつ状態: 早朝覚醒、食欲の減退または亢進、体重の増減、疲れやすい、やる気が出
ない、自責感、自殺念慮など
・最初の病相から次の病相まで 5 年くらいの間隔があり、治まっている期間は何の症状も
なくまったく健常な状態になります。この期間に薬を飲まず、治療がきちんとなされて
いないと、病相の間隔はだんだん短くなり急速交代型(年間に 4 回以上の病相があるこ
と)へと移行、薬も効きにくくなっていきます。
摂食障害
・単なる食欲や食行動の異常ではなく、体重に対する過度のこだわりがあることや、自己
評価への体重・体形の過剰な影響が存在するといった心理的要因に基づく食行動の重篤
な障害です。
・神経性食欲不振症(AN): 社会的孤立、抑うつ、不安、強迫症状、完ぺき主義、頑固さ、
性的関心の低下、盗み食い、独特の食べ方(刻んで食べる、油ものを避ける、食事開始
まで時間がかかるなど)などが見られます。
・神経性過食症(BN): むちゃ食いの反復とそれを解消し体重増加防止のための絶食や食
事制限、自己誘発性嘔吐、下剤の乱用、抑うつ、不安、気分の易変動、衝動性などが見
られます。
強迫性障害
・不安障害の一類型で、その病態は強迫観念と強迫行為に特徴づけられます。
・汚染の心配にかられ不必要な頻回の掃除や洗浄を行う、人や自分を傷つける心配にから
れ自他に攻撃的となったり確認を行う、正確性の追求が極端になり頻回の確認や儀式行
為に走る、数字へのこだわりから何度も数を数える、対称性へのこだわり(魔術的思考)
から理解不能な儀式行為に走る、無用なものへのこだわりからあらゆるものを保存しよ
うとするなどが見られます。
パニック障
害
・不安障害の一類型です。
・パニック発作:パニック障害の特徴的な症状で、急性・突発性の不安の発作です。突然
の激しい動悸、胸苦しさ、息苦しさ、めまいなどの身体症状を伴った強い不安に襲われ
るもので、心臓発作の間違われる場合もあります。
・予期不安: 発作を予期することによる不安にさいなまれる、発作のことを心配し続け
る、発作を心配して現在の行動をやめるなどなどの行動上の変化がみられます。
・広場恐怖: 発作などが起きた時、助けが得られないような場所や状況を恐れ、避ける
症状です。場所や状況は広場に限らず、一人での外出、乗り物に乗る、人混みなどがあ
ります。
PTSD(外傷後 ・生死にかかわるような危険に遭遇、死傷の現場を目撃するなどの体験で強い恐怖を感じ、
ストレス障
それがトラウマとなり、当時と同じような恐怖を感じ続ける病気です。
害)
・PTSD を発症した人の半数以上がうつ病、不安障害などを合併しています。また、人に
よってはアルコールの問題や摂食障害を合併することもあります。
・多くの人はトラウマを忘れようとし、無理をしてでも明るく振る舞おうとしていますが、
急に涙ぐんだり、恐怖がこみ上げてきたり、あるいはぼんやりとして話が耳に入らない
ということがあります。落ち着きがなくなったり、些細なことで怒ってしまったりとい
うこともあります。
・再体験症状: ふとした拍子に体験のつらい記憶が突然思い出されたり、体験を思い出
させるきっかけに触れた時に急に思い出したり、不安定になったりします。
113
第3章 対応すべき課題と展望
精神障害の区分ごとの治療の方向性と支援時の配慮は以下のとおりです。
区分
統合失調症
主な治療の方向性と支援時の配慮
・治療は、外来・入院いずれの場合でも薬物療法と心理社会的な治療を組み合わせて行
います。薬物療法なしに行う心理社会的な治療には効果が乏しく、薬物療法と心理社
会的な治療を組み合わせると相乗的な効果があることが明らかとなっています。
・本人・周囲・医療機関の連携が重要であり、周囲に求められることとしては、①病気
とそのつらさを理解する、②医療チームの一員として施設内でのサポート(服薬への
励まし等)を行う、③接し方を工夫する(批判的な言い方や過度の心配を避ける、良
い所を認める、原因を探すのではなく解決法を一緒に考える)などの配慮が必要です。
ア ル コ ー ル 依 ・治療の主体は入院治療で、「解毒治療」、「リハビリ治療」、「退院後のアフターケア」
存症
の 3 段階に分けられます。
・アルコール依存症は、自らが治療を求めない典型的な病気です。ほとんどの場合、い
やがる本人を周囲の人が説得して治療へとつなげています。
・自助グループの例会・ミーティングに参加することにより、断酒と向きあう力が得ら
れることもあります。
薬物依存症
・薬物依存を「治す」特効薬はいまだにありません。しかしながら、まず薬物の使用を
断ち、その後は渇望に打ち勝ちながら、再使用しないように自己コントロールし続け
ることが治療となります。
・それまでの薬物使用に関係していた状況(人間関係、場所、お金、感情、ストレスな
ど)を整理・清算し、薬物を使わない生活を持続させることです。
・これらのことを持続させるためには、認知行動療法を取り入れた治療プログラムで体
系的に習得させてくれる医療施設・相談所に通い続けるか、自助活動団体に参加し続
け、同時に、薬物を使わない新しい仲間をつくることが大切です。
うつ病
・専門医に相談し、抗うつ薬療法を中心とするのか、精神療法によりこころの問題に向
き合うのかを選択します。全てが薬により解決するのではありません。
・典型的なうつ病で、なかなか寝付けず、一方、朝早く目が覚めてしまい、さらには朝
の気分がとても悪い方にとっては、「早寝早起きの規則正しい生活をこころがけまし
ょう」というアドバイスさえ、かえって苦しめたり、追い込んだりする言葉になりか
ねません。うつ病の時は「薬をのんで、休養をとる」のがよいようにいわれますが、
これがあてはまるのも一部のうつ病と考えたほうがよく、信頼できる専門医とともに
状況に応じ対応を変えつつ経過を見守ることが重要です。
躁うつ病
・双極性障害には、気分安定薬と呼ばれる薬が有効です。また、病気をしっかり理解し、
その病気に対するこころの反応に目を配りつつ援助していく一種の精神療法が必要
です。単なるこころの悩みではないために心理療法と薬物療法の双方が必要です。
・本人がいかに早く主体的に再発予防に取り組み始めることができるかがその後に大き
な影響を及ぼします。再発の予防にいちばん必要なのは、とにかくきちんと薬を飲み
続けることです。何も症状がなくもう大丈夫だと思っても、また薬の副作用がつらく
ても、自己判断で薬を飲むことをやめてしまってはいけません。
摂食障害
・治療へのモチベーションを高める工夫が常に求められます。家族をはじめ、カウンセ
ラー、栄養士、また施設などと連携して、チームで治療を進めることが基本です。
・摂食障害は治療に適切に取り組めば必ず回復しうるものです。
・食事や身体に関すること: 規則的な食事の確立、正常な空腹感、満腹感の獲得
・考え方、気持ち、感情に関係すること: 「完ぺき主義」や「全か無か」的考え方など
の考え方の癖に気付かせること、様々なストレスを治療者とともに上手に解決する力
をつけること(ストレス・コーピング)
・対人関係に関すること: 感情のコントロール(特に陰性感情)が食行動の改善に深
く結びついているため、こうした対人関係の改善法や社会適応の仕方に配慮した支援
を心掛ける。
114
第3章 対応すべき課題と展望
区分
主な治療の方向性と支援時の配慮
強迫性障害
・強迫性障害の主要な治療は、SSRI を主とした薬物、および認知行動療法です。
・強迫性障害は病気であり、性格や意志の弱さなどではありません。
「自分の為に治す」
という決意と目標を持ち、適切な努力を諦めず続ければ、治癒や軽快する可能性は十
分あります。薬物は治療の要であり副作用も一時的で安全性も高いものですが、効果
発現にある程度の期間を要するため、自己判断せず規則的服薬を継続しましょう。
・治療を求めかつ継続するように本人を支え励ますことです。そのためには病気の理解
に努め、病気について責めないようにすることです。また、本人に対する過度の罪悪
感や責任感は無用であり、継続できる一貫した応援を心がけ、気長に見守ることです。
パニック障害
・不安障害の治療は、薬物療法と精神療法に分けられます。パニック障害でも抗うつ薬
の SSRI と抗不安薬のベンゾジアゼピン誘導体を中心とした薬物療法と精神療法であ
る認知行動療法を基本とします。
・初診時の罹病期間を短くするためには、早期発見・早期治療につとめる、ソーシャル
サポートを充実させるためには、家族や周囲の人々の理解・協力や社会的な支援体制
を整備するなどです。また、たとえ不安障害に罹患しても、アルコールに依存しない、
うつ病・うつ状態がみられたら早めに十分な治療を行うこと等が、転帰の悪化を防ぐ
可能性があります。
PTSD(外傷後ス ・PTSD の治療においていちばん大切なことは、心理的に保護(安全、安心、安眠の確
トレス障害)
保)をして自然の回復をうながすことです。しかし症状が重い場合や、徐々に悪化す
る場合などでは専門的な治療が必要です。治療には、PTSD の特定の症状を軽くする
為の対症療法と、PTSD という疾患そのものの治療法があります。
・まず、自分の症状をよく理解することが大切です。被害にあったことだけではなく、
その後の不安や気持ちの変化について、「自分はおかしくなったのではないか」と感
じることが多いのですが、同じ目にあった人には誰にでもみられる正常な反応です。
・犯罪の場合であれば犯罪被害者支援センターや、ドメスティックバイオレンスであれ
ば自治体の女性相談センターなどを活用、あるいは精神保健福祉センターや保健所な
どで相談をするか、適切な相談先を確保することが必要です。
老年期は心身の老化のために精神障害が発症しやすい時期です。老年期の精神障害には、
認知症などの老化と関係が深いものもありますが、老年期以前に発症した精神障害もありま
す。老年期の精神障害者の中には、コミュニケーション能力が乏しい者もいるため、矢継ぎ
早に質問すると萎縮してしまう場合があります。相手のペースを尊重した相談・支援を心が
けるとともに、アドボケイト機能(人権権利擁護)を利用することも大切です。
また、相談を受け止め、展開させていく能力を磨くことが大切です。
・ 相談者の不安を和らげる: 相談者の不安(見下される、わかってもらえない、こわい
目に遭うのではないかなど)を和らげるように接することが大事です。
・ よく聴き、求めていることを理解する: 相談者の訴えは、曖昧であったり要領を得な
かったり、怒りや不満をぶつけてくる場合もあります。まずは十分に聴くことに徹し、
話の中や表情・口調などから、真の訴えや求めていることの理解に努めます。
・ どのように展開したらよいか判断する: 相談者の求めていることをある程度理解でき
た後に、どのように相談を展開させていけばよいか、もっと理解するために質問してよ
いか、積極的に助言してよいか判断していくことが求められます。
115
第3章 対応すべき課題と展望
【発達障害】
2004 年、発達障害者支援法が成立し、わが国でもようやく発達障害に対する公的支援が
はじまりました。しかしながら、具体的な支援特に福祉サービスによる支援については同法
に規定はなく、一方で障害者自立支援法では身体・知的・精神の三障害が対象であるなど、
福祉サービスについては支援の狭間に置かれてきました。その後の改正(2011 年)により
発達障害についても支援の対象となりましたが、事業者をはじめとして教育機関や地域にお
ける理解が普及しているとは言い難い現状です。
この背景として、発達障害に関する概念の混乱が考えられます。広義の発達障害は知的障
害を含むものですが、知的障害と同義ではありません。また、発達障害者支援法では基本的
に軽度発達障害と呼ばれる者を対象としていますが、この“軽度”が誤解されたままとなっ
ています。軽度発達障害における軽度とは、
「知的障害が軽い(IQ>70)
」ということであり、
「障害が軽い」わけではないことを理解しておく必要があります。
(「発達障害者援助と権利規定法 2000 年版(アメリカ)
」より)
発達障害とは、重い慢性的・永続的な障害で、
1) 精神的、身体的、あるいは両方の機能障害
に起因し、
2) 22 歳以前に現れ、
3) 明らかに持続するものであり、
4) 主要な生活活動(①セルフ・ケア、②受容お
よび表出言語、③学習、④移動、⑤自己指南、
⑥自立生活、⑦経済的充足)の3つ以上の領
域で本質的な機能的制約をもち、
5) 生涯あるいは長期にわたって、個別に計画
された特別で学際的かつ包括的サービスや
支援を受けるニーズがあるもの.
軽度発達障害の特徴と課題としては、理解不足も影響し、
・ 一見して障害が見えにくい:
①親の育児のせいにされることが多い(→育児不安・虐待などに繋がる)
②障害についての親の理解が乏しい(→対応が遅れやすい)
・ 教育や福祉の対象となりにくい:
一般保育所や普通学級に在籍することが多い(→適切な支援が困難)
・ 二次障害(不登校、いじめ、非行)を生じやすく、その問題の陰に隠れて発見:
適切な支援の開始が遅れる
などが指摘されています。まして、現在の養護老人ホーム入所者が幼少期や学齢期であっ
た時代や、その後の青壮年期ではこれら発達障害という概念すらなかったわけですから、適
切な支援や理解が全くないまま現在を迎えているケースがほとんどです。
116
第3章 対応すべき課題と展望
発達障害と知的障害は一部重複しつつも次のような整理が必要です。知的障害は医学的に
は精神遅滞と呼ばれ、知的機能“全般”に発達の遅れや機能の低下があるのに対し、発達障
害は中枢神経の器質的障害による認知面やコミュニケーション領域等に障害を有する状況
をいいます。イメージでとらえれば次のようになります。
正常域
正常発達
学習障害
広汎性発達障害
精神遅滞
わが国の発達障害者支援法では、発達障害を以下のように定義しています。知的障害にお
いて触れたように、定義を行うことには一長一短があり、負の側面としてはこれらの定義に
入らない場合の支援の難しさが挙げられます。
(発達障害者支援法)
第 2 条 この法律において「発達障害」とは、自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、
学習障害、注意欠陥多動性障害その他これに類する脳機能の障害であってその症状が通常低年齢に
おいて発現するものとして政令で定めるものをいう。
(政令)
第 1 条 発達障害者支援法第 2 条第 1 項の政令で定める障害は、脳機能の障害であってその症状
が通常低年齢において発現するもののうち、言語の障害、協調運動の障害その他厚生労働省令
で定める障害とする。
(厚生労働省令)
発達障害者支援法施行令第 1 条の厚生労働省令で定める障害は、心理的発達の障害並びに行動
及び情緒の障害(自閉症、アスペルガー症候群その他の広汎性発達障害、学習障害、注意欠陥
多動性障害、言語の障害及び協調運動の障害を除く。
)とする。
これらの発達障害については、障害者総合支援法の対象となります。具体的な福祉サービ
スの支援特に介護サービス等については、その必要性の判定(障害程度区分)が必要となり
ますが、現行の判定は“できなさ(支援の必要性)
”に着目したものですので、入所者の“強
み(得意な分野など)
”については別途把握しておく必要があります。
117
第3章 対応すべき課題と展望
1)自閉症
自閉症は、一生涯にわたる「発達の障害」です。自閉症の原因は“育児や環境ではなく”
、
中枢神経(大脳)の器質的障害による
認知の障害です。発症率は、最近の調
査では 1 万人に 100 人以上と言われ、
また、自閉症の約 7 割は高機能自閉症、
5 割は正常知能と言われています。か
つては知的障害と自閉症は関連が深
いとされていましたが、これは知的障
害を併せ持った低機能自閉のみをと
らえたものであり、知的障害のない高
機能自閉があることがわかっていま
す。
自閉症に見られる特徴は以下のとおりです。
区分
社会性の障害
特徴
・孤立型: 相手が存在しないかのように、人を道具のように扱う(クレーン現象)。
・受け身型: 従順でいつも笑顔で指示に従い問題行動が少ないので放置されやすく、
いじめの対象になったり、反動で青年期に大きな問題を起こすことがある。
・積極・奇異型: 高機能自閉に多く相手の表情や状況に無頓着で「質問責め」するタ
イプ。自閉的に見えないが、相互的な対人関係を結んでいる訳ではない。
コ ミ ュ ニ ケ ー ・人の心理や暗黙の社会的常識が理解できない(例:「急がなくていいよ」→いつまで
ションの障害
も放っておく)
。
・字義通りの解釈をする(例:「お風呂を見てきて」→湯加減、湯の量を見ない)
。
・皮肉、比喩、婉曲な表現が分かりにくい(例:冗談や登場人物の心理がつかめない)
。
・相手の意図を読み取ることができない(例:大声で言われると怒られていると誤解)
。
・相手の表情や身振りの理解ができない(例:「時計を見る→相手が急いでいる」など
が理解できない)
。
・アクセント、イントネーション、声の大きさが不自然(例:アニメの登場人物の語り
口でしゃべる)
想像力の障害
・同じ状態を好み変化を嫌う、動作が定常的(服を着る順序が決まっていて手伝うと分
からなくなりパニックになるなど)
・具体的で予測可能なことが好き
・それぞれが仮想の役割をもつ遊びや団体競技が苦手(逆にものまねは得意)
・遊びが広がらず反復的になりやすい(何かを並べるだけの作業に集中する)
・収集、分解、組み立てなどを好む
感覚異常
・自閉症の行動を理解する糸口となることが多い。
・視覚: 見ると反応してしまう(例:車のナンバーを読んでしまう)
。
・聴覚過敏: 機械音や摩擦音が苦痛
・嗅覚異常: なんでも匂いをかいで嫌がられる。
・味覚異常: 極端な偏食(味や硬さ、食感への過敏性による)
運動の異常
・前庭覚・体性感覚の異常、協調運動障害などによるもの
・ぎこちなさ、不器用さ、カタトニア(運動の停止)
、ロッキング(体を揺らす)
、ジャ
ンピング(ピョンピョン跳ぶ)、フラッピング(手を振る)、チック (重症になれば
トゥレット症候群)など
118
第3章 対応すべき課題と展望
2)注意欠陥/多動性障害(AD/HD)
以前は落ち着きがないなどとして片づけられてきた障害ですが、現在では一定の診断基準
が確立し、発達障害として位置づけられています。
(AD/HD の診断基準)
・ 「多動・衝動性」
「不注意」のいずれか、または双方が見られるもので、
・ 障害を引き起こしているいくつかの症状が 7 歳以前から存在している。
・ 症状による障害が二つ以上の場面(例えば、学校や職場と家庭など)で見られる。
・ 社会的、学業的、仕事上の機能において、臨床的に著しい障害があるという明確な証拠がある。
・ 他の精神障害や発達障害(自閉症など)では説明できないものである。
注意欠陥/多動性障害に見られる特徴は以下のとおりです。
区分
特徴
多動性
・いつも動き回るタイプ: 男性に多い特徴で、年長になると次第に目立たなくなって
きます。成人では頭の回転がよく活発だが落ち着きがありません。
・動き回ることはないが、なんとなく落ち着かないタイプ: どちらかといえば女性や
成人に多く、学習や会議の時、椅子を回転させたりモゾモゾして姿勢を維持できな
いなどです。
衝動性
・その行為をした結果どうなるかを予測できるだけの知的レベルや経験を持ちながら、
考える前に行動に移してしまう傾向
・妨害、割り込み、順番が待てない。
・質問が終わっていないのに出し抜けに答えたり、つい口をはさんでしまう。
・よく考えないで行動するので失敗が多い
不注意
・関心があることに対しても持続的な注意集中ができない(飽きっぽい、最後までやり
遂げられないなど)
。
・生活上のさまざまな場面で慎重さに欠ける(よく転ぶ、計算ミス・読み間違い・聞き
間違いが多い、忘れ物が多いなど)
。
・周囲の出来事に対して気づかない(呼ばれても気がつかないなど)
。
成人期以降の AD/HD では、部屋は足の踏み場もないほど散らかっている、机の上や引
き出しの中は乱雑で物があふれかえっている、大切なものでもすぐ失くし約束や支払いもす
ぐに忘れる、仕事の時間や締め切りが守れない、段取りが悪い、次々とアイデアが沸き何事
も衝動的に始めるがすぐに飽きる、仕事や計画が完了しないなどが特徴です。
119
第3章 対応すべき課題と展望
3)学習障害(LD)
中枢神経系に何らかの機能障害があり、
全般的な知的発達に遅れはありませんが、
「聞く」「読む」「書く」「計算する」また
は「推論する」能力のうち特定のものの習
得と使用に著しい困難を示す様々な状態
として定義されています。
発達障害に対する支援の留意点として
は以下の理解が前提となります。
・ 発達障害は親のしつけや甘えのせいではなく、脳の障害(成熟の不均衡)の症状である
ことへの理解
・ 自尊心への配慮: 「もう顔など見たくない」などの感情的な捨て台詞が、関係を悪化
させるだけでなく、自尊心(Self Esteem)を著しく低下させる。
・ 説教はしない:
「なぜこんなことができない」などの言葉は、他の者が簡単にできる
ことでも発達障害の場合は大変な努力がいることがあるため、どうすればよいかを簡潔に
伝え説教はしない。
支援の基本は「具体的・肯定的・視覚的」であることです。言葉は少なく一回の指示でひ
とつの内容を心がけ、それらの指示は簡単で分りやすくかつ一貫した内容であることが重要
です。言葉だけでなく、ジェスチュアを交えたり、写真やカード、実物も利用しながら、タ
イミングよく、注目を引きながら、逐次確認の言葉かけをすることが求められます。なお、
支援には時間がかかることを覚悟することや、対象者が上手に SOS が出せる雰囲気をつく
るなどの配慮も必要となります。
また、発達障害者の日常生活支援の場では、危険な行為などについて抑制することは当然
に起こりえます。このような場合、基本的には「叱ることの効果」はないことを理解してお
くことが必要です。叱られると、脳は外部からの「侵害」と錯覚します。叱って効果がある
のは、社会的に成熟した(脳の回路をもった)個体だけと認識を持つことが必要です。通常
はほめて支援する(できて当然のことでもできたことをほめる、よい変化があればそこを指
摘してほめる)ことが基本ですが、叱らなければならない場面においても話を聞いていたこ
とをほめるなどの配慮は可能となります。また、抑制したのちに注意を行う場合などでは、
対象者にとって自然な場所(居室や当該行為が行われた場所など)を選び、不自然な場所(職
員の詰所や事務室など)は避けるべきです。
また、大声で注意をされると脳は「攻撃が加えられた」と錯覚して「警戒モード」に入る
こともあります。発達障害者は聴覚レンジが狭い場合も少なからずあり、警戒モードではさ
らに聴覚レンジが狭くなっているため、大声は雑音にしか聞こえません。
養護老人ホームの入所者は、高齢期にあるということからも、これまでに発達障害として
120
第3章 対応すべき課題と展望
の告知を受けたことがない者がほとんどであると考えられます。しかしながら、正しい情報
提供こそ発達障害の治療及び支援には不可欠となります。治療は恥ずべきことという構図は
マイナスにしかならないため、本人が納得して医師のもとを訪れられるよう配慮した情報提
供を行い、また不適切な罪悪感(悪いことをするから病院へ行かされる等)を与えないよう
自己肯定感を伴う情報提供を行うことで、自分の特性との適切なつきあい方を習得します。
情報提供(告知)はこのようなところに最大の意義があります。
121
第3章 対応すべき課題と展望
3
難病等の特徴と留意点
難病患者については、これまで固有法を持ったことがなく、いわゆる“制度の狭間”とし
て厳しい状況に置かれることが少なくありませんでした。肉体的・精神的な課題により就業
することが困難で、結果的に貧困状態のまま高齢期を迎え養護老人ホームに入所している者
も存在します。
障害者基本法改正(2010 年)によって、難病患者等で、症状の変動により身体障害者手
帳の取得ができない一定の障害がある方々に対して、障害福祉サービスが提供できるように
なりました。しかしながら、どのような基準により判定するのか、患者の特性を把握した事
業者がどれだけ確保できるのかなど、大きな課題が残されています。
いずれにしても、養護老人ホームに少なからず入所している難病患者の特性を理解するこ
とは、本人の尊厳の保持、自己実現のための支援を展開するうえでとても大事な知識となり
ます。
【難病とは】
「難病」とは医学的に明確に定義された病気の名称ではなく、いわゆる「不治の病」に対
して社会通念として用いられてきた言葉であり、難病であるか否かは、その時代の医療水準
等により変化してきました(例:日本人の生活が貧しかった時代には、赤痢・コレラ・結核
などの感染症は「不治の病」であった等)。
その後、1972 年の難病対策要綱において難病は、(1)原因不明、治療方針未確定であり、
かつ、後遺症を残す恐れが少なくない疾病、(2)経過が慢性にわたり、単に経済的な問題のみ
ならず介護等に著しく人手を要するために家族の負担が重く、また精神的にも負担の大きい
疾病と定義されました。症例の研究が進むにつれ、難病として指定される疾病数は増加を続
けています。難病対策要綱では、難病を以下のように整理しています。
※
特定疾患(56)の対象者全てが公費負担医療の対象となるのではなく、所得状況に加え、
軽快者などについて対象外となる場合もある。
122
第3章 対応すべき課題と展望
公費負担医療の対象となる疾患からも明らかなように、難病の治療が困難であることと医
療の必要がないことは全くの別物であり、むしろ治療方法がわららないものの、その症状を
軽減したり進行を抑えるために、長期的に医療を必要とするケースが少なくありません。こ
のような継続的な医療にかかる負担が対象者の生計を圧迫することは容易に推測されるも
のです。治療方法の研究と貧困防止の両面から、公費による医療費の軽減が行われています。
【特定疾患と特定疾病】
特定疾患とは、難病のうち
の公費負担対象となる 56 疾
患のことであり、特定疾病と
は介護保険法における第 2 号
被保険者の要介護・要支援認
定を受けるための要件として
定められた 16 の原因疾病の
ことです。両者の関係は右記
のとおりです。
【新たな難病対策】(2013 年 3 月現在の動向)
これまで研究事業であった難病対策を、恒久的な制度として社会保障費の中に組み込むた
めの作業が行われています。第一に、特定疾患の大幅な拡充(300 疾患程度)と対象者を重
度者へ絞り込むこと。第二に、難病手帳(カード)の交付。第三に、障害者総合支援法(福
祉サービス)の対象疾患を難治性疾患 130 疾患及び関節リウマチとすること。その他、医療
提供体制や難病指定医の整理を含めて検討が進められています。
【難病の例-1:重症化する疾患】
①脊髄小脳変性症
運動失調を主症状とする原因不明の神経変性疾患で、
3 万人を超える患者がいます。
症状としてまず言語障害があり、次に体幹動揺(歩
行時にゆらゆらと揺れる)や失調性歩行、上肢の協調
運動不全と動作時の振戦があります。このために字が
書けず、言語障害とともに意志の疎通を困難にする場
合や、関連症状として眼振があります。
皮質性小脳萎縮症と遺伝性皮質性小脳萎縮症は、そ
の進行が非常に遅く、生命予後も極めて良好です。一
123
小脳全体の萎縮が見られ、特に上部の
萎縮が顕著
第3章 対応すべき課題と展望
方、進行が著しく速く、数年でベッドから起き上がることさえ不可能になることもあるの
がオリーブ橋小脳萎縮症です。
②筋萎縮性側索硬化症(ALS)
筋肉そのものの病気ではなく、筋肉を動かしかつ運動をつかさどる神経(運動ニューロ
ン)だけが障害をうけ、脳から「手足を動かせ」という命令が伝わらなくなることにより、
力が弱くなり、手足・のど・舌の筋肉や呼吸に必要な筋肉がだんだんやせて力がなくなっ
ていく病気です。年間で新たにこの病気にかかる人は人口 10 万人当たり約 1 人、特定疾患
医療受給者数では全国で約 8,500 人と言われています。
手指の使いにくさや肘から先の力が弱くなる、話しにくい、食べ物が のみ込みにくいと
いう症状で始まることもあります。この病気は常に進行性で、症状が軽くなるということ
はなく、やがては全身の筋肉が侵され、最後は呼吸筋も働かなくなり、大多数は呼吸不全
で死に至ります。人工呼吸器を使わない場合、死亡までの期間はおおよそ 3~5 年とされて
いますが、中には人工呼吸器を使わないでも 10 数年にわたって非常にゆっくりした経過を
たどる例もあります。なお、ヘルパーの医療行為は厳禁されていましたが、当該疾患は例
外的に認められるものです。
③後縦靭帯骨化症
脊椎椎体の後縁を上下に連結し、脊柱を縦走する後縦靭帯が骨化し増大した結果、脊髄
の入っている脊柱管が狭くなり、脊髄や脊髄から分枝する神経根が圧迫されて知覚障害や
運動障害等の神経障害を引き起こす病気です。一般外来を受診する成人の頚椎側面単純レ
ントゲン写真からの調査では、骨化が見つかる頻度は平
均 3%と報告されていますが、実際に症状が出るのは一
骨化巣
部です。
頚椎にこの病気が起こった場合に最初にでてくる症
状として、首筋や肩甲骨周辺・指先の痛みやしびれがあ
り、さらに症状が進行すると、次第に痛みやしびれの範
囲が拡がり、脚のしびれや感覚障害、足が思うように動
かない等の運動障害、両手の細かい作業が困難となる手
指の運動障害などが出現、重症になると排尿や排便の障
害や一人での日常生活が困難になることもあります。
④特発性拡張型(うっ血型)心筋症
心室の筋肉の収縮が極めて悪くなり、心臓が拡張してしまう病気で肥大型心筋症に較べ
て予後の悪いものです。かつては診断されてから 5 年生存している人は 54%、10 年生存は
36%とされていましたが、治療技術の進歩により現在では生存率は 76%と良くなっていま
す。不整脈や心不全の重い人では、心臓の腔内に血の塊(血栓)ができて、それがはがれ
て血流に乗って流れると脳の血管などにつまって脳梗塞を生じたりします。
124
第3章 対応すべき課題と展望
平成 11 年の厚生省の調査では全国推計 17,700 人(10 万人あたり 14 人)でしたが、こ
の病気は無症状の人が多いため、実際にはもっと多いと考えられています。
自覚症状として動悸や呼吸困難が運動時に現れますが、症状が進むにしたがって安静時
にも出現し、夜間の呼吸困難などを来します。また、心機能の低下が進むと、浮腫や不整
脈が現れてきます。不整脈で重要なものには、脈が 1 分間に 200 回以上になる心室頻拍が
あり、急死の原因になります。逆に脈が遅くなる房室ブロックがみられることもあります。
この病気は慢性進行性のことが多く、予後がよくないため、欧米では心移植が必要とな
ることが多く、我が国における心移植適応例の 80%以上はこの病気です。厚生労働省の調
査では、5 年生存率は 76%であり、死因の多くは心不全または不整脈です。
【難病の例-2:高齢者に多い疾患】
①パーキンソン病
脳内の中脳という場所の黒質という部分の神経細胞と、ドパミンという神経伝達物質が
減少し、ふるえ、動作緩慢、小刻み歩行などを主な症状とする病気です。
治療の基本は薬物療法です。大きく分けて 8 グループの薬が使われます。それぞれには
特徴があり、必要に応じて組み合わせて服薬する必要があります。どの薬も病気を根本的
に治療する「原因治療薬」ではありません。不足しているドパミンを補うことで症状を緩
和する「補充療法薬」です。したがって薬を服薬しているときは症状が良くなりますが、
服薬を止めれば症状は元に戻ります。
日本では、
人口 10 万当たり 100~150 名の患者さんがおられます。発症年齢のピークは、
50 歳代後半から 60 歳代の比較的高齢者に多いといえます。しかし、例外的に 20 歳代の発
症者や、80 歳を超えてからの発症者もあります。男女比は、日本では女性の方が長命なの
で、女性の方に少し多いですが、発生頻度は男女同数。四大症状は、次のとおりです。
1)安静時のふるえ
力を抜いてリラックスしたときの震え。力をいれたときに震えることもあります。
2)筋強剛(筋固縮)
筋強剛とは関節を曲げ伸ばしするときに強い抵抗を感じることがあります。
3)動作緩慢
動作がぎこちなくなり、動作が少なくなります。まばたきが少なく、表情ひとつ
変えず、寝返りもしません。動けば遅く、スローモーションのように見えます。
4)姿勢反射障害
体が傾いたときに足を出して姿勢を立て直すことです。これが障害されると転び
やすくなります。
125
第3章 対応すべき課題と展望
その他、同時に二つの動作をする能力が低下すると、お盆にのせたお茶をこぼさないよ
う気を配ると足が出なくなります。また、自由な速さのリズムが作れず、全てのリズムが
1 秒間に 4~5 回のふるえのリズムに合うようになります。その結果 1 分間に 240~300 歩
で歩こうとするので足がすくんで前に進まなくなります。また、一日のうちで良くなった
り、悪くなったりを繰り返す症状を運動症状の日内変動といい、特徴の一つと言えます。
②膠原病(こうげんびょう)
人体は様々な細胞が組み合わさって出来ており、その細胞同士を結びつけ、臓器の強度
を保つ働きをしているのが結合組織である。皮膚、関節、筋肉、血管など全身のいたると
ころにあり、その結合組織に病変が生じたものを総称して膠原病と呼びます。また、異物
から身体を守るはずの免疫システムが正常に働かず自分の身体を攻撃する抗体を作る事が
原因とも考えられているため、自己免疫疾患とも呼ばれています。
膠原病には、大きく二種類あり、古典的膠原病として、(1) 関節リウマチ、(2) 全身性エ
リテマトーデス、(3) 強皮症(全身性硬化症)
、(4) 多発性筋炎・皮膚筋炎、(5) 結節性多発
動脈炎、(6) MCTD(混合性結合組織病)
、次に、その他の膠原病・類縁疾患として、(7) シ
ェーグレン症候群、(8) 顕微鏡的多発血管炎、(9) Wegener 肉芽腫症、(10) アレルギー性
肉芽腫性血管炎、(11) 過敏性血管炎、(12) ベーチェット病、(13) コーガン症候群、(14)
RS3PE、(15) 側頭動脈炎、(16) 成人スティル病、(17) リウマチ性多発筋痛症、(18) 線維
筋痛症などの種類があります。
症状には、発熱、関節痛、筋肉痛、こわばりなどがあり、炎症によって生じます。また、
結合組織に病変が起きることや免疫の異常が見られることもあります。治療には、対処療
法として、ステロイドホルモン剤、免疫抑制剤が使用されます
【福祉領域の公的支援】
先に見たように、難病についてはこれまで“法の狭間”といわれ、固有法を持たないばか
りか、障害者にも該当しないという状況が続いてきました。このため、難病患者に対する福
祉的支援は、難病対策要綱の「難病患者等居宅生活支援事業(1997 年~)
」に基づき、地域
における難病患者等の自立と社会参加の促進を図るために、ホームヘルプサービス・短期入
所・日常生活用具事業が展開されてきました。
しかしながら、これらのサービスを利用するためには、①日常生活を営むのに支障があり、
介護等のサービスの提供を必要とする、②在宅で療養が可能な程度に病状が安定していると
医師によって判断されている、③老人福祉法、障害者自立支援法、介護保険法などの施策の
対象でないこと、の全ての要件を満たす必要がありました。理論上は、①②を満たす状況で
あれば、高齢者であれば要介護認定、高齢期以前であれば障害程度区分に該当する状態とな
るわけですが、現実には、
「継続した(6 か月以上)状態でないために要介護認定が下りない」
「身体障害者手帳判定の等級表にある部位の障害ではないために手帳を取得できず、そのた
めに障害程度区分の申請ができない」など、日常生活に支援が必要であるにもかかわらずい
126
第3章 対応すべき課題と展望
ずれの支援からも漏れるといったケースが見受けられています。
また、養護老人ホームに入所した場合には、まずもって上記要綱に基づく支援対象からは
除外され、加えて継続した状態でないために要介護認定も下りないといった場合には、施設
職員による懸命の介護が展開されている状況となっています。
これらの背景をふまえ、2013 年 4 月に施行される障害者総合支援法では、障害者の範囲
に新たに難病患者を含めることとし、これらの者が障害福祉サービスを利用できることとし
ました。しかしながら、従来から対象であった障害(身体・知的・精神)及び発達障害とは
異なり、状態に変動がある疾患などでは障害程度区分による支援の必要度の判定が困難な場
合も想定されます。障害程度区分の認定については、全国の市町村で難病等の特性に配慮し
た円滑な認定が行われる必要があることから、厚生労働省では、2013 年 1 月 23 日付けで各
都道府県に「難病等の基本的な情報」や「難病等の特徴(病状の変化や進行、福祉ニーズ等)」、
「認定調査の時の注意点」などを整理した関係者向けのマニュアルを送付しています。
養護老人ホームで難治性疾患及び関節リウマチに該当する入所者については、2013 年 4
月以降は障害者総合支援法における「障害者」の対象に加えられたことから、障害程度区分
の認定を受けることで障害福祉サービスの利用が可能となるので注意が必要です。特に、介
護保険法における要介護認定・要支援認定では非該当として、外部の介護サービスの利用が
不可であった場合等においては、障害程度区分の認定が可能かどうかについて、市町村の障
害者福祉担当課と十分な協議を行っていくことが必要と考えられます。
なお、これまでの「難病患者等居宅生活支援事業」は、障害者総合支援法施行とともに廃
止されることとなっています。
【支援時における留意点】
難病患者に対する留意点として、入所者が自身の病名と症状を理解し受け入れている場合
とそうでない場合、さらには難病であることすら理解していない場合などがあります。
1)病名を知らせる時
難病であることを理解していない場合には、その病名をいつ知らせるのかが最も重要と
なります。病名の告知は医師によりなされますが、当該医師と入所者の信頼関係が築かれ
るまではたとえ時間がかかろうとも辛抱強く待つことが大事です。病名を知らせることは、
入所者のその後の人生を左右することであるとともに、今後の生活を考えていく上で極め
て重要であるため、入所者の個性や周囲の状況に配慮することが大事です。
また、説明には充分な時間をかけます。入所者(及びその家族)が理解できるように、
時間的にゆとりをもって説明を行う必要があります。さらには、説明はなるべく平易な言
葉で具体的に行うことが大事で、専門的な言葉はできるだけ避け、相手の埋解を確かめな
がら行います。
127
第3章 対応すべき課題と展望
2)病名を知らせた後・既に病名を知っている場合
特に精神的な支えが大切です。病名を知った後の精神状態を注意深く把握し、医療チー
ム及び施設職員全体で支えていくことが重要です。残存機能を活かしていけるように、ま
た、活かすことができるという励ましを行うとともに、原因や治療法の研究も行われてい
ることから、希望を失わないように励ましを行います。
説明当初や職員に対しては理解し、受容したそぶりを見せたとしても、その後に不安が
繰り返されるなどは少なからず起こります。食事や行動・表情などに常に留意し、必要な
時には迅速に寄り添える体制に心がけることが重要です。
3)日常生活での支援
入所者が考え出した希望を尊重します。説明の場やその後の面談等の場は、入所者が考
え出した希望をどのようにして実現していくかを話し合う場でもあります。入所者の言葉
を傾聴し、その価値観を尊重し、日常生活の営みや医療との向き合い方を入所者が選択で
きるように配慮します。また、一度決めたことでも変更できることを伝えておくことも重
要です。
4)他の医療機関等への相談を希望するとき
入所者が他の医療機関等への相談を希望した場合は、たとえ施設のかかりつけ医やそれ
までの主治医以外であっても、その相談ができるように、検査データの情報促供等に十分
配慮します。
5)ピアカウンセリング等を希望するとき
同じ疾患を抱える者やその家族との交流は、当該入所者に多くの影響を与えてくれます。
普段から施設周辺の社会資源を把握し、希望に応じて出かけたり、あるいは施設を訪問し
てもらうなど、信頼関係を築いておくことも必要です。なお、ピアカウンセリング等の重
要性を理解していないことがほとんどであり、入所者自身が言い出さない方が一般的です。
施設側から、これらの社会資源の情報やピアカウンセリングの重要性について入所者に伝
え、入所者の結論を待つといった工夫も必要となります。
【情報の入手】
難病関連の情報は、ホームページから得ることができます。疾病の解説などは「難病情
報センター」を検索してください。また、各地域の難病団体や患者家族会などの情報は、都
道府県に設置してある難病相談・支援センターへ問い合わせれば得ることができます。その
他、自治体によっては独自のサービスや保健所主催の勉強会なども実施されていますので、
行政担当窓口へおたずねください。
128
第3章 対応すべき課題と展望
http://www.nanbyou.or.jp/
制度の説明・疾病の解説
難病情報センター
相談窓口情報
難病情報センターのホームページ ⇒ 各種制度・サービス概要
・地域の行政窓口
①
都道府県担当窓口一覧
・地域の患者会情報
②
都道府県難病情報支援センター一覧
日本難病・疾病団体協議会
サイトマップ
患者/家族会の全国組織
⇒
http://www.nanbyo.jp/
JPA について
⇒
加盟団体
全国パーキンソン病友の会
http://www.jpda-net.org/index.php
全国膠原病友の会
http://www.kougen.org/
日本リウマチ友の会
http://www.nrat.or.jp/
全国脊髄小脳変性症・多系統萎縮症友の会
http://homepage3.nifty.com/jscda/
日本 ALS 協会
http://www.alsjapan.org/
129
第3章 対応すべき課題と展望
4
その他の生活課題の特徴と留意点
【触法等高齢者支援・地域生活定着支援】
入所者の中には、入所前の地域生活において経済的困窮のあまりに犯罪を犯し、刑に服し
た後に矯正施設を退所した者や、心身喪失等の状態で他害行為に及び、医療観察の対象とな
った者がいます。経済状況の低迷・家族構造の変化・地域社会の変化等が重なり、これら高
齢者で居所の確保が著しく困難となった者に対する支援は、本人並びに周囲の地域住民にと
っても大きな課題となります。養護老人ホームは居宅生活が困難となったこれらの者にとっ
てとても重要な役割を果たしています。
一般的な定義として、“累犯”とは「懲役に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の
免除を得た日から 5 年以内に更に罪を犯した場合」
(刑法第 56 条)をいい、
“触法”とは「刑事責任
を問えない者(14 歳未満の少年や心神喪失等の状態にある者)が法律にふれること」をいいます。
かつては、犯罪高齢者や犯罪障害者などと呼ばれることもありましたが、犯罪者とは刑事法(刑法
等)において裁判で有罪が確定した者を意味するため、今日では触法とは明確に区分されています。
また、一般の社会では“前科”のある者の社会復帰に対し必ずしも好意的であるとは言え
ず、これらの環境も再犯の背景となっている場合が少なくありません。矯正施設を退所した
ということはその罪の償いを終わっているということですが、リセットされたはずのかつて
の行いにより差別的に取り扱われたりすることは未だに日常的に見られるものです。
これらの高齢者のうち、心神喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の処遇をおこなう
ものが「心身喪失者等医療観察法」です。
130
第3章 対応すべき課題と展望
「心身喪失等の状態で重大な他害行為を行った者の医療及び観察等に関する法律」(心神
喪失者等医療観察法,2003 年)は、処遇決定の適正な手続きと医療の実施を行うことで、病
状改善と再発防止を図り、心神喪失者等の社会復帰を促進することを目的としています。
心神喪失等を理由として「不起訴」または「無罪等」となった者に対し、検察官は、医療
観察法による医療及び観察を受けさせるべきかどうかを地方裁判所に申立てを行います。
検察官からの申立てに対し、鑑定医療機関での入院等が行われるとともに、裁判官と精神
保健審判員(必要な学識経験を有する医師)の各 1 名からなる合議体による審判で、本制度
による処遇の要否と内容の決定が行われます。
審判の結果、医療観察法の“入院医療の決定”を受けた者は、厚生労働大臣が指定した医
療機関において、医療を受けるとともに、保護観察所に配置される社会復帰調整官により、
退院後の生活環境の調整が実施されます(この時点で、高齢者である場合には、退院後の居
所として養護老人ホームが協議の対象となることが想定されます。)。
医療観察法の“通院医療の決定”を受けた者及び退院を許可された者は、保護観察所の社
会復帰調整官が中心となって作成する処遇実施計画に基づき、原則として 3 年間(最長 5 年
間)
、地域において厚生労働大臣が指定した医療機関による医療を受けます。なお、この通
院期間中においては、保護観察所が中心となって地域処遇に携わる関係機関と連携しながら、
本制度による処遇の実施が進められます。
養護老人ホームは、先に見た入院医療の決定を受けた者が退院後に、あるいは通院医療の
決定を受けた者の生活の場として有効な資源の一つとして考えられるものであり、保護観察
所・市町村・指定通院医療機関と密接な連携を保ちながら、当該高齢者の支援を行うことが
求められます。自立した日常生活の支援において、養護老人ホームの持つ機能には大きなも
のがあると言えます。
131
第3章 対応すべき課題と展望
一方で、矯正施設を退所した者の居所の確保と適切な支援が重要であることに鑑み、全国
で地域生活定着支援事業が展開されています。
(地域生活定着支援センターの事業及び運営に関する指針-平成 21 年厚生労働省社会・援護局)
・本指針は、地域生活定着支援事業により各都道府県に設置される地域生活定着支援センターの事業
及び運営についての基本的事項を定め、もってその円滑な実施に資することを目的とする。
・地域生活定着支援センターの事業は、地域生活定着支援事業の趣旨にかんがみ、高齢であり、又は
障害を有することにより、矯正施設から退所した後、自立した生活を営むことが困難と認められる
者に対して、保護観察所と協働して、退所後直ちに福祉サービス等を利用できるようにするための
支援を行うことなどにより、その有する能力等に応じて、地域の中で自立した日常生活又は社会生
活を営むことを助け、もって、これらの者の福祉の増進を図ることを目的とする。
養護老人ホームは、矯正施設に入所している者が退所するにあたり、適当な帰住予定地が確
保されていない者などについて、保護観察所が行う生活環境調整及び地域生活定着支援センタ
ーが行うコーディネート業務に協力するなどの関係が生じます。
(地域生活定着支援センターの事業及び運営に関する指針)
・帰住予定地: 矯正施設退所後に帰住することが予定されている特定の住居地をいう。
・生活環境調整: 更生保護法第 82 条の規定により保護観察所の長が行う、矯正施設退所後の住居、
就業先その他生活環境の調整をいう。
・特別調整: 生活環境調整のうち、高齢(おおむね 65 歳以上)であり、又は障害を有する入所者等で
あって、かつ適当な帰住予定地が確保されていない者を対象として、特別の手続に基づき、
帰住予定地の確保その他必要な生活環境の整備を行うものをいう。
・一般調整: 生活環境調整のうち、特別調整以外のものをいう。
地域生活定着支援センターは、保護観察所、矯正施設、福祉関係機関、地方公共団体その
他の関係機関等と連携しながら以下の業務を行うこととされています。
・コーディネート業務:
保護観察所からの依頼に基づき、矯正施設入所者等を対象に、
福祉サービス等に係るニーズの内容の確認等を行い、受入れ先施設等のあっせん又は福
祉サービス等に係る申請支援等を行うこと
・フォローアップ業務: 上記のあっせんにより、矯正施設から退所した後、社会福祉施
設等を利用している者に関して、本人を受け入れた施設等に対して必要な助言を行うこ
と
・相談支援業務: 懲役若しくは禁銅の刑の執行を受け、又は保護処分を受けた後、矯正
施設から退所した者の福祉サービス等の利用に関して、本人又はその関係者からの相談
に応じて、助言その他必要な支援を行うこと
132
第3章 対応すべき課題と展望
地域生活定着支援事業によって養護老人ホームに入所してきた高齢者、特に特別調整対象
となった高齢者は、矯正施設退所に際し家族や親族等からの拒絶にあうなど、本来の居住地
であった場に帰ることができない場合が少なからずあります。これらの者にとって、養護老
人ホームは安心して日常生活を営める場所であり、また、養護老人ホームで自己を認められ、
自信を取り戻して新たな地域生活を営めるように支援した後に送り出すための通過拠点と
もなります。
これらの入所者の人権に配慮し、適切な支援を継続的・多角的に展開できるという点で、
養護老人ホームの意義は大きなものがあると言えます。
一方で、何らかのトラブルに巻き込まれたり法に触れる行為をした場合に、警察官の無理
解等により、障害等があるにもかかわらず通常の手続きによって起訴され矯正施設に入所し
ている高齢者も少なからず存在することが推測されます。本来は心神喪失等を理由として不
起訴や無罪等となるはずであった者や、重大な他害行為でないために心神喪失者等医療観察
法の対象とならなかった者、心身喪失と認められない状態であるが、法に触れる行為として
の認識がない(低い)者などに対する支援の場としても、養護老人ホームの専門的な機能は
期待されているところです。
133
第3章 対応すべき課題と展望
【所得保障】
わが国における所得保障のうち、高齢者にかかる所得保障は“年金制度”をその中核とし
ています。1961 年の国民皆年金制度の創設から 1985 年の基礎年金制度の導入を経て現在に
至るものですが、養護老人ホーム入所者の多くは、これら年金制度による所得保障の枠外に
置かれたり、極めて低い額の年金しか受給できていない者が少なくありません。年金制度が
成熟するまでの期間において任意加入であった者(結果として未加入、のち合算対象期間と
して算定)や、やむを得ない事情により職を失い、生活保護決定を受けることができず(結
果として法定免除とならない)年金保険料を滞納して受給資格期間を満たさない者にとって
は、老後の生活における経済的状況が極めて厳しい場合があります。
これら高齢者の健康で文化的な最低生活を保障する最後の砦が“生活保護制度”であると
ともに、居宅での生活が困難な場合の養護老人ホームともなります。養護老人ホームでは、
生活に困窮した高齢者に対し、健康で文化的な最低生活を保障するという所得保障機能を有
するだけでなく、老人福祉法の理念に基づく「生きがいを持てる健全で安らかな生活」を保
障する場としての機能を併せ持つ施設であり、その意義は大きなものがあります。
また、養護老人ホームは、入所者の人権を守る機能も期待されています。入所者の財産、
特に年金や預貯金は本人に属するものですが、時には家族や親族からの搾取が行われていた
ケースもあります。家庭での立場の確立を見なかった入所者の中には、入所後もこのような
金銭の要求に苦しむこともあれば、判断能力の低下・喪失等により搾取という認識すらない
場合もあります。
養護老人ホームとして、これら入所者の財産の保全を行うことは、入所者の権利擁護の点
でとても重要な役割であり、家族関係や入所者間の人間関係等に常に注目し、必要な場合に
は成年後見制度等を活用しながら的確な支援を行うことが求められています。
【家族支援】
養護老人ホームに入所している高齢者の中には、やむを得ず家族のもとを離れなければな
らなかった者もいます。高齢期になって家族と離れることの辛さは想像に難くありません。
一方で、様々な要因が重なり、虐待や放棄により入所する高齢者についても、その家族に対
しての適切な助言・指導を行うことで、良好な家族関係が再構築される場合もあります。
入所者にとって、養護老人ホームは“安心・安全”の拠点であり、また、“自己を認めら
れ、活き活きとした老後をおくることができる”拠点である一方で、家族等を取り巻く状況
が改善することを条件として退所することが望ましく、そのための支援を行う機能を期待さ
れています。居宅生活への復帰を強く希望する入所者に対し、本人の生活能力その他の支援
とともに、これら家族への助言や行政等と協力した環境改善などの支援はとても重要なこと
と考えられます。
134
第3章 対応すべき課題と展望
ここで見てきた諸制度などは、時には専門的な知識を必要とするものもあります。通常の
業務のかたわら、職員同士で学びを深め、またそれぞれの領域における講座や研修に参加す
るなどにより知識を習得していくなどの取り組みが必要です。一見すると老人福祉法や高齢
者福祉領域外の知識習得と本来業務との関係性は見えにくい部分がありますが、入所者の
“全人格的な支援”を考えると、とても重要なものであることがわかります。これらの知識
の習得により、入所者支援の幅に拡がりと柔軟性を持たせ、また、様々な支援を“人権”と
いう点で捉えること(この人権という視点に到達することで、はじめてその者を個人として
対等に認めることとなる。
)が可能になると思われます。
135
第3章 対応すべき課題と展望
136
【事業実施体制】
本調査研究事業にご協力頂ける大学准教授・学識者及び本調査委員会・ワーキングチームを
組織し、調査を実施した。委員会及びワーキングチームは次の通りである。
<委員会>
1
委員長
高野
龍昭
東洋大学
2
学識者
谷口
泰司
関西福祉大学
社会福祉学部
3
内部委員
林
正彦
社会福祉法人
施設長
長生共楽園
4
内部委員
阿比留
志郎
ライフデザイン学部
社会福祉法人
梅仁会
社会福祉学部
准教授
准教授
養護老人ホーム
養護老人ホーム
丸山
長生共楽園
施設長
<ワーキングチーム>
5
委員長
谷口
泰司
関西福祉大学
6
学識者
生野
繁子
九州看護福祉大学
7
外部委員
平岡
毅
8
外部委員
中山
泰男
9
内部委員
西井
秀爾郎
10
内部委員
折腹
実己子
11
内部委員
利光
弘文
看護学科
准教授
学科長
教授
社会福祉法人 カトリック聖ヨゼフホーム
養護老人ホーム 聖ヨゼフホーム 施設長
社会福祉法人 リデルライトホーム
養護老人ホーム ライトホーム 施設長
社会福祉法人 鶴林園 理事長 養護老人ホーム 鶴林園
施設長
社会福祉法人 カトリック児童福祉会 特別養護老人ホーム
パルシア 施設長
社会福祉法人
慈照会
四街道老人ホーム
施設長
【調査期間および事業実施スケジュール】
本調査の実施期間は、平成 24 年 7 月 6 日より平成 25 年 3 月 31 日であり、以下のスケジュ
ールに沿って実施した。
8 月 27 日
第1回委員会・WT
調査研究事業の説明、論点整理
9 月 25 日
第2回 WT
調査項目・内容を協議、調査票作成
10 月 24 日
調査票の発送
11 月
調査票の締切
7日
10 月 28 日
第3回 WT
施設内研修手引き書内容の協議・整理
11 月
調査集計期間・分析・まとめ
12 月
4日
第2回委員会・第4回 WT
調査結果の内容確認、クロス集計の確認、
手引き書内容の確認
2月
4日
第5回 WT
報告書内容の確認、手引き書内容の確認
第3回委員会・第6回 WT
報告書内容の確認、手引き書内容の確認、
事業の総括
3 月 15 日
137
【参考資料】
※ 次に掲げている参考資料につきましては、全国老人福祉施設協議会ホームページ
URL: http://www.roushikyo.or.jp に掲載いたしております。
老人福祉法の施行について(昭和 38 年 7 月 15 日発社第 235 号)
老人福祉法施行細則準則について(平成 5 年 2 月 15 日老計第 16 号)
老人福祉法の施行に伴う留意事項等について(昭和 38 年 8 月 1 日社発第 525 号)
児童福祉法施行令等の一部を改正する政令及び児童福祉法施行規則等の一部を改正する省令
(老人福祉関係部分)の施行について(昭和 62 年 1 月 31 日社老第 7 号)
■ 老人福祉法等の一部を改正する法律の施行について(平成 2 年 8 月 1 日 厚生省社第 377 号)
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■「養護老人ホームの設備及び運営に関する基準」(昭和 41 年 7 月 1 日厚生省令第 19 号)
■「養護老人ホームの設備及び運営に関する基準について」(平成 18 年 3 月 31 日付老発第 0331020
号)(平成 12 年 3 月 30 日付老発第 307 号)
■「老人ホームへの入所措置費等の指針について」(平成 18 年 3 月 31 日付老発 0331028 号)
■「老人ホームへの入所措置等に関する留意事項について」(昭和 62 年 1 月 31 日社老第 9 号)
■「老人福祉法第 11 条の規定による措置事務の実施に係る指針について」の一部改正について
(平成 18 年 4 月 12 日付老発第 0412001 号)
■「老人保護措置費に係る各種加算等の取扱いについて」の一部改正について
(平成 18 年 4 月 12 日付老発第 0412002 号)
■「老人保護措置費の費用基準の取扱い細則について」の一部改正について
(平成 18 年 4 月 12 日付老計発 0412001 号)
■「老人保護措置費の費用徴収基準の取扱いについて」の一部改正について
(平成 18 年 4 月 12 日付老発第 0412003 号)
■「社会福祉法人の経営する社会福祉施設の長について」(昭和 47 年 5 月 17 日社庶第 83 号)
■「社会福祉施設の長の資格要件について」(昭和 53 年 2 月 20 日社庶第 13 号)
■「社会福祉施設の長の資格要件について」(昭和 53 年 2 月 20 日社庶務 14 号)
■「老人ホーム被収容者の健康管理について」(昭和 45 年 10 月 26 日社老第 117 号)
■「社会福祉施設における火災防止対策の強化について」(昭和 48 年 4 月 13 日社施第 59 号)
■「社会福祉施設における防火安全対策の強化について」(昭和 62 年 9 月 18 日社施第 107 号)
■「社会福祉施設における宿直勤務の取扱いについて」(昭和 49 年 8 月 20 日社施第 160 号)
■「老人福祉法による老人ホームに収容されている者に対する国民健康保険の適用について」
(昭和 47 年 12 月 15 日保険発第 121 号)
■「養護老人ホーム等の入所者に対する国民健康保険の住所地主義の特例に係る取扱いについて」
(平成 12 年 3 月 31 日老計第 14 号)
■ 措置費の事務について
■ 兼務既定の整理
■ 介護サービス Q&A 集
■ 外部サービス利用型特定施設入居者生活介護の報酬算定に係る協議について
■ 厚生労働省
介護保険関係
課長会議抜粋
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お わ り に
長年にわたってわが国の高齢者の「セフティ・ネット機能」を果たしてきた養護老人ホーム
は、制度的なターニング・ポイントを迎えています。
これは、高齢者福祉の制度的枠組みが介護の必要な人びとに力点を移してきたことによるも
のでもありますし、社会福祉の理念全体が施設から在宅重視に向かっていることによるもので
もあります。
それに加えて、社会福祉の援助に「セフティ・ネット機能」だけでなく、
「トランポリン機
能」が重視されてきていることも見逃せません。
この「トランポリン機能」とは、従来の「セフティ・ネット機能」だけでは①パターナリズ
ム(温情主義)に陥り、②給付費用が増大するのみとなることから、90 年代以降の英国など
でこうした社会福祉の機能に異を唱えられたことが端緒となっています。
すなわち、
「トランポリン機能」とは、セフティ・ネット(安全網)をトランポリンに変え、
社会的な生活から転落した人びとを再び社会のなかで活躍できるようにするような社会福祉
のあり方を意図しているものです。換言すれば、職業訓練や社会生活上のスキルを身につける
支援や訓練などを行って経済活動や自立生活を行える状況まで支援するものであり、社会保
障・社会福祉の役割を、より積極的に捉えているものなのです。こうした社会保障・社会福祉
のあり方を「ポジティブ・ウェルフェア」とも呼び、近年の社会福祉分野における自立支援や
更生保護、就労支援などの基本的理念ともなっています。以後、「トランポリン政策」が注目
されてきました。
養護老人ホームにおいても、サービス利用者にそうした良好な変化をもたらすことができる
ようなスキルが求められ、それを担う有能なスタッフの育成方法がいかにあるべきかというこ
とが重要な時代となってきています。
この手引書は、そのスタッフの育成に活用していただくことを目的に執筆・編集を行いまし
た。これをもとに、新たな養護老人ホームの時代を創っていっていただきたいと思います。
養護老人ホームは、長年の高齢者支援の多様なスキルが蓄積されてきた施設です。地域で複
合的で多問題を抱えた高齢者を受け入れるなかで、生活困窮や社会的孤立に陥っている高齢者
の支援の最先端を走ってきたという自負をもちながら、今後はそのスキルを地域に向けて発揮
していくことが求められます。その一助として、この手引書を用いていただくことを願ってい
ます。
平成 25 年 3 月
「養護老人ホームにおける施設内研修手引書の作成に関する調査研究事業」委員会
委員長 高 野 龍 昭
139
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平成24年度老人保健事業推進費等補助金(老人保健健康増進等事業分)事業
平成24年度
養護老人ホーム施設内研修にかかる手引き
発行 公益社団法人 全国老人福祉施設協議会
平成 25 年 3 月発行
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