掲載記事

C NSCA JAPAN
Volume 16, Number 9, pages 18-19
National Strength and Conditioning Association Japan
プロフェッショナル
~ S&C 最前線~
SINCE
1991...
トップアスリート指導に携わるS&C専門職は、どのような経験を
BRIGDING
THE GAP
し、どのような軌跡をたどってきたのか。絶え間ない努力が今を形
作っているのは言うまでもないが、第一線の現場で仕事をしている
彼らの言葉は、貴重な示唆となるはずだ。
between science
ande practical
選手の自主性を育て、自律した
大人の集団を作る
application
けは?
大石 徹 CSCS, CPT, 日体協AT, 鍼灸
按摩マッサージ指圧師
■ No. 003
Q1 S&C指導者を目指したきっか
おおいし てつ
・筑波大学大学院修了
・東芝ブレイブルーパス ヘッドトレーナー、メディカル
スタッフディレクター
・(財)日本ラグビーフットボール協会 競技力向上委員
・(財)関東ラグビーフットボール協会 安全対策委員
えるよりも、できることをしっかりや
できます。その資質を買われて、東芝
ればいい。ポジティブな人とポジティ
ラグビー部へ入部しました。
大石 私は以前、日産サッカー部に選
ブな仕事をしていく。常に目標がある
現在ではヘッドATというだけでは
手として所属し、プレーしていたので
すばらしい職業だと今でも思っていま
なく、メディカルスタッフディレク
すが、ケガで選手としての道が絶たれ
す。
ターという多くの事柄をコーディネイ
トし、決定する立場になって、やりが
ました。このとき、その後もスポーツ
にかかわって生きていきたいと考えま
した。その中でも、ストレングス&コ
Q2 現職場(東芝ラグビー部:ブレ
イブルーパス)へはどのように?
いは増えています。早いもので13年も
同じチームにいますので……楽しませ
ンディショニングコーチ
(以下:S&C
大石 私はS&Cコーチからこの世界
コーチ)
、
そしてアスレティックトレー
に入ったのですが、より人体への理解
ナー(以下:AT)を志したのは、ア
度を深め、そしてより強固にトレーニ
スリートは皆、
「勝ちたい、より強く
ング効果を引き出すために、鍼灸按摩
なりたい、速くなりたい」など、ポジ
マッサージ指圧師という(準)医療資格
大石 CSCS、NSCA-CPTに関しては、
ティブな気持ちを持っているからで、
を取得しました。S&Cコーチと治療
日本で受験できるようになった第1回
こんなポジティブな人たちと仕事がし
家は、ともすれば相反する立場になり
目の試験を受けました。まだ情報が少
たかったんです。もちろん、ケガやス
がちですが、両方の知識と技術を持っ
なく素の状態で受けたのですが、苦労
ランプでネガティブな時期もあります
てチームでの仕事ができるという優位
という感覚はなかったですね。日体協
が、そこをマネジメントするのも我々
性は、選手とチームにかかわる幅が増
ATも含め、私は現場をすでに経験し
の仕事。できないことをくよくよ考
えますし、幅広い知見でチームに貢献
ている状態での受験だったので、現場
18
November 2009 Volume 16 Number 9
てもらっています。
Q3 各種資格を取得するときに苦労
されたことはありますか?
をイメージしながら学習を進めること
育成を目指し、選手の自主
ができ、比較的スムーズに知識を吸収
性を育て、自律した大人の
できたと思います。その後、鍼灸按摩
チ ー ム を 作 る 」 …… こ れ
マッサージの資格も取得しましたが、
が、私がチームにかかわる
すべては連動していてとても楽しみな
ときのポリシーです。そん
がら学習できました。日々の出来事が
な選手に囲まれれば、S&C
自分のキャパシティに深みと広がりを
コーチやATはもっとクオ
どんどんつけてくれたと思います。詳
リティの高い仕事に集中で
細な身体の構造や生理学を理解するこ
きる。そんなチームはどん
とは、治療だけでなく、ケガからの
どん強くなるんです。この10年、東芝
復帰のためのトレーニング種目の選択
は強いでしょ。
うことを実証したいと思っています。
やリハビリにも生きてきますし、当然
逆に、指導者が1から10まで何でも
また、これらはラグビーに限ったこ
チーム全体として取り組むフィットネ
してあげて、指導者の存在が選手と依
とではないですし、スポーツを愛好す
スやパフォーマンス向上のトレーニン
存し合う関係を作ると、選手自身、そ
るすべての人に必要な知識や技術でも
グにも貢献できます。そもそも身体の
してチームをダメにすると考えていま
あると思います。S&CコーチやATが
ことについては、選手も知りたいこと
す。我々は選手の持つ
「勝ちたい」
「強
選手に対して言ったり、行ったり、環
だらけなんですよね。これらの知識を
くなりたい」
「コンディション良くあり
境を整えたりする
「トレーニング、栄
上手に伝えられたら、選手の意識も驚
たい」
という内面を有効に掘り起こし、
養、コンディション」に関する事柄は、
くほど変わるし、チームに新しい文化
単に選手のフィジカル面を強化するだ
すべての人が知っていて、自然にやっ
を築いていけると思います。このよう
けでなく、選手自身による様々なコン
てほしいことだと思うんです。ほんと
ないい循環を作れると、チームはあっ
ディションマネジメントにおいても、
うなら学校教育の中で教えてくれれば
という間に強くなります。私にとって
世界と戦えるトップレベルの資質と能
いいのですが、そんな環境が整えば、
資格はあとからついてきたもので、や
力を持った選手育成を目指し、様々な
もっと多くの選手たちが小さなけがに
りたいことに対して方向性が見えてい
取り組みを実施してくことが大切だと
悩まされず、もっと高いパフォーマン
たから取得したといえます。
考えています。
スを発揮するチャンスを得られるであ
写真提供:志賀由佳©東芝ブレイブルーパス
ろうし、一般のスポーツ愛好家の方に
Q5 大石さんの今後の展望(目標)に
とっても、長くスポーツを楽しむこと
ついてお話しください。
ができるのではないでしょうか。これ
大石 私の指導方針・目標は、
「すべ
大石 2019年 に、 日 本 で ラ グ ビ ー の
からの高齢化社会を考えた場合、パ
ての選手をS&CコーチやATに育てて
ワールドカップが開催されます。具体
フォーマンスの向上と外傷・障害予防
しまう!」ことです。自分の目標と、
的には、そこで活躍するであろう選手
についてのフィードバックは、S&C
そのときの自分の身体の状況を的確に
らに対して、世代に応じた選手教育を
コーチやATがいるチームだけの特別
把握し、必要なことに取り組むことが
継続実施し、自己管理意識の高い、自
なものじゃないと思うんです。身体を
できるのは選手
(自分)
自身です。S&C
律した選手を育てることです。そして
動かす前にはウォームアップをする、
コーチやATができることって、しょ
ワールドカップで勝つチーム作りにか
運動後にはストレッチやアイシングを
せん他人の感覚です。そのときに
「ど
かわることができたらうれしいと思っ
する、アイスバスに入る……このよう
んなメニューを考えて、実行して、ど
ています。そしてS&Cコーチ、ATと
なことが当たり前になって一般化され
んなものを食べて、何をして過ごすの
いう立場の我々の仕事が、単にフィジ
れば、すべての人が楽しく、そして長
か」……指導者に言われなくても選手
カルの強化だけでなく、選手自身によ
くスポーツを継続することができて
自身が判断して行動できれば、それが
る様々なコンディションマネジメント
人生をもっと楽しむことができるし、
ベストな選択です。選手教育を中心に
においても、世界と戦えるトップレベ
S&CコーチやATの立場やステイタス
した指導者による様々な仕掛けによっ
ルの資質と能力を持った選手育成を実
ももっと上がっていくのではないかと
て、
「自らをマネジメントできる選手
行することで、大きな成果を生むとい
考えます。◆
Q4 指導の中で
『S&C』をどのよう
な位置づけとして考えていますか?
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