様式第2号 平成 22 年度 独 創 的 研 究 助 成 費 実 績

様式第2号
平成
22
年度
独 創 的 研 究 助 成 費 実 績 報 告 書
平成
申
請
者
調査研究課題
学科名 保健福祉学部看護学科
職 名
准教授
代
表
調査研究組織
分
名
所属・職
24日
杉村寛子
者
専門分野
役割分担
文献渉猟・学会等の出席に
よる実践例の見聞・教材と
なる作品の選定および教育
方法の考案
杉村寛子
保健福祉学部看護学科
准教授
桂宥子
情報工学部情報通信工
学科
教授
英語圏児童文
学,カナダ文
学
文学教育に関する研究論文
等の資料渉猟・教材となる
作品検討
星野裕子
保健福祉学部保健福祉
学科
教授
語学教育,文
化間コミュニ
ケーション,
文化研究
文学教育関連の学会に出席
による実践例の見聞・教材
となる作品検討
担
調査研究実績
の概要
3月
文学教育の可能性を探るー「そうぞう(想像+創造)力」の構築をめぐって
氏
調査研究実績
の概要○○○
氏 名
23年
英文学
平成22年度研究調査の概要
本研究は平成21年度独創的研究助成を受けた「岡山県立大学における文学教育再考—学
士教育の一環として」を引き継ぎ,専門に至るまでの教養教育における文学教育の在り方
および位置づけを確認し,確立する目的で始まった.平成20年12月に発表された中央教育
審議会答申の「学士課程教育の構築に向けて」の2.汎用的技能の4項目目に当たる「論理
的思考力(情報や知識を複眼的,論理的に分析し,表現できる)」を受け,文学教育によ
って「論理的思考力」を涵養する方法論を探究してきたが,今年度はブッククラブでの実
践を通し,それを実証しようと考えた.
具体的な研究調査実績は以下の通りである.
1.学会および研究会等を通して,他大学における実践例の見聞
年5回開催されるJACET関西支部文学研究会および平成23年2月Liberit(文学教育)学会の
参加(杉村,桂,星野)
特にJACET関西支部文学教育研究会において,自らが考えていた文学教育方法論に近似す
る「教育的文体論(pedagogical stylistics)」およびそれ基づく教育実践に触れたの
は,得るところが大きかった(兵庫県立大学寺西雅之氏による実践報告).教育的文体論
が目指すところは,単に作品を味わう能力だけではなく,文学を用いて汎用的な力(論理
性や微視的な分析力)をも育てようとするものであり,これは文学を専門としない本学の
学生を対象にブッククラブを組織し,同様の力の涵養を試みる本研究調査者の考えに通じ
るものであった.また教育的文体論そのものは,英米において実践されている文学教育方
法論で,言語学的アプローチを特徴とするが,言語分析結果を根拠とし作品についての解
釈を打ち出すという点で文学研究とを折衷した方法論になる.詳細は以下の3を参照のこ
と.
2.学会および研究会等においての研究調査者自身による実践報告
(1)平成22年5月 ポスター発表「文学教育再考—ブッククラブの試み」於平成22年度OPUフ
ォーラム(杉村,桂,星野)
(2)平成22年11月 口頭発表「文学教育再考—ブッククラブの試み」於奈良女子大学英語英
次頁に続く
米文学会(杉村)
(3)平成23年3月 口頭発表「文学教育の可能性を探る:ブッククラブからリーディング・
ネットワークの構築に向けて」(杉村)
3.ブッククラブにおける指導方法の確立
平成21年度の調査では,言語分析を中心とした分析の視点を5つ提示し(視点・話法・物
語と言説・登場人物の性格分析・イメージとシンボル),それに基づく作品の読み方=文
体論的アプローチの指導に終始したが,本年度は新たに指導のモデルに改良を加えた.
言語学的アプローチ
作品が書かれた当時の
読者反応論的アプロ
=言語分析
社会的・文化的コンテ
ーチ=読者としての
クスト
素朴な反応
文学作品へのアプローチのモデル
平成21年度後半から22年度にかけてのブッククラブの指導実践から,文学批評の中の新批
評(New Criticism)を典型とする言語分析だけにとどまらず,作品の捉え方に広がりをも
たせるためには,作品の書かれた当時の社会背景や文化状況についての情報も適宜必要で
あると考えた.また表現力を高めるためには,まず学生自身のオリジナルな考えを引き出
すことから始める必要があると考え,読者反応理論に基づくアプローチも視野に入れ,上
記のモデルに従って読みの指導実践を行なうこととした.
以上を踏まえた指導の成果として,ブッククラブに参加した学生(10名)の半構造的ア
ンケート調査による結果を一部(あ.かなり気をつけるようになった/い.時々気をつけ
るようになった/う.あまり気をつけていない/え.まったく気をつけていない,以上4段
階の尺度で回答する質問項目のみ)記す.まず「語り手の存在(誰が語っているか)につ
いて」,8名がブッククラブでの読みの訓練から意識するようになったと回答しており,誰
の視点から出たことばかによって作品への見方が変わることが理解されていると考えられ
る.それに関連し「一人称の語り手の信頼性(語り手の言うことの真偽)について」は2名
の学生がかなり気をつけるようになったと,さらに3名が時々気をつけるようになったと回
答しているが,これはブッククラブの中で取り上げた作品の中で一人称の語り手の場合嘘
をついている可能性もあることを示唆した回に参加していなかった学生も回答者の中に含
まれるため,半数程度の肯定的な結果しか得られなかったと思われる.また「登場人物の
話すことばや話し方について」の,かなり気をつけるようになった4名,時々気をつけるよ
うになった5名,および「作品のなかで象徴的な機能を果たしていることば(=シンボル)
について」の,かなり気をつけるようになった4名,時々気をつけるようになった4名とい
う回答結果から,学生の中にことばそのものへ注意の喚起が見られることを示している.
アンケートの実施対象がかなり少数であるのが弱いところではあるが,少なくともブック
クラブでの指導実践が少なからず功を奏しているとは言える.今後,全学教育科目で新規
開講を希望し,授業を通じてより多くの学生に指導する機会があれば,調査の対象者も増
え,こうした文学教育の妥当性をさらに追求することができるであろう.