Structured Finance

Structured Finance
グローバル/ストラクチャード・ファイナンス
ストラクチャード・ファイナンスの包括格付基準
マスター格付基準
主な格付要素
資産の隔離:ストラクチャード・ファイナンス(SF)案件の投資家は、その元利払いを主と
して案件の担保となる裏付資産プールに依拠している。法人であるオリジネーターの信用リス
クから資産を有効に隔離することによって、SF 証券がオリジネーター・レベルの損失から十
分に保護される場合、SF 証券はオリジネーター自体の格付を上回る高い格付を取得すること
が可能となる。
格付分析:案件の契約条項に従って、投資家に対して全額支払が履行されるか否かを評価する
ために、フィッチ・レーティングス(フィッチ)では SF の基本となる 5 つの観点である法的
構造、資産の質、信用補完、財務ストラクチャーならびにオリジネーターおよびサービサーの
質を重視している。5 つの観点のすべてが、案件の信用プロファイルを形成し、案件の格付意
見を決定するうえでの主要な要素となっている。
法的構造:SF 案件の特徴は、裏付資産の原保有者即ち「オリジネーター」の企業信用リスク
からの裏付資産プールの隔離、即ち「切り離し」にある。その目的は、案件の主な信用リスク
を、オリジネーター固有の信用リスクではなく、資産プール自体の信用リスクに関連付けるこ
とにある。
本レポートは、2011 年 8 月 4 日付
の同名のレポートに取って代わるも
のである。
関連格付基準
Counterparty Criteria for Structured Finance
Transactions (2012 年 5 月)
Criteria for Special-Purpose Vehicles in
Structured Finance Transactions
(2012 年 5 月)
Criteria for Rating Caps in Global Structured
Finance Transactions(2011 年 8 月)
アナリスト
Grant England
+44 20 3530 1130
[email protected]
Stuart Jennings
+44 20 3530 1142
[email protected]
照会先
黒田 篤
03-3288-2692
[email protected]
斉藤 直毅
03-3288-2631
[email protected]
山下 彰
03-3288-2783
[email protected]
資産の質:フィッチでは、ベース・ケース・シナリオにおける予想損失を導出するために、通
常、資産の信用特性を分析する。この予想には、各格付カテゴリーの順に応じてストレスが付
加され、高い投資適格カテゴリー(すなわち、「AAAsf」「AAsf」)に格付された証券に対す
る予想損失は、蓋然性が低く、かつ、ストレスの度合いが高いシナリオに沿ったものとなって
いる。
信用補完:信用補完は、裏付資産プールの損失から債券保有者を保護する仕組みであることか
ら、SF 案件の重要な要素となっている。各債券に対するフィッチの格付は、当該債券格付に
対応する格付ストレス・シナリオ上でフィッチが想定する裏付担保資産プールのデフォルト時
損失に対して十分に耐え得る利用可能な信用補完を、当該債券が有しているか否かを反映して
いる。
財務ストラクチャー:フィッチでは、財務ストラクチャー評価の一環として、デリバティブ、
銀行口座および金融保証の提供といった、カウンターパーティに対する依存度を分析する。こ
れは、カウンターパーティに対する依存が、証券化された資産プール以外の信用エクスポージ
ャーを表すこととなるためである。裏付けとなる組織や保証提供者の信用力に依拠するような
SF 案件の信用リスクは、ストラクチャー上のリスク緩和策が存在しない場合、通常、当該組
織の信用力にリンクすることとなる。
オリジネーターおよびサービサーの質:案件当事者としてのオリジネーター、サービサーおよ
び CDO アセット・マネージャーは、裏付資産のパフォーマンス、ひいては SF 案件に影響を
与え得る。フィッチのオペレーショナル・リスク、ファンドおよびアセット・マネージャーを
担当するチームまたは特定資産の格付を担当するアナリストが、フィッチが格付する SF 案件
に関与する各オリジネーター、サービサーおよびアセット・マネージャーに関するオペレーシ
ョン・プロセスを評価する。
サーベイランス:フィッチでは、案件に格付を付与した後、当該証券が全額償還する、または
格付が取り下げられるまで、フィッチのサーベイランス・プロセスを通じて、案件のパフォー
マンスをモニタリングすることとなる。上述の 5 つの主要な格付要素のうち、資産の質、信用
補完ならびにオリジネーターおよびサービサーの質については、案件期間中を通して、変化す
ることがよくみられる。他方、法的構造および財務ストラクチャーは、通常、安定しており、
特定の事象によってのみ影響を受ける。
ストラクチャード・ファイナンスの包括格付基準
www.fitchratings.com/www.fitchratings.co.jp
2012 年 6 月
2012 年 6 月 6 日1
Structured Finance
格付基準の対象範囲と制約
ここで論じられる原則は、住宅ローン担保証券(RMBS)、商業用不動産ローン担保証券
(CMBS)、資産担保証券(ABS)、ストラクチャード・クレジット(SC)案件を始めとす
る SF の資産クラス全体に適用されるものである。また、本レポートで説明する格付基準は、
すべての SF 案件に適用される包括的な枠組みを提供するもので、フィッチが公表する資産ク
ラス個別の詳細な格付基準を補完するものである。フィッチでは、当該原則のうち適用できな
い部分がある場合には、必要に応じて、資産クラス個別の格付基準レポート上で、言及または
説明することとする。
個別の法的構造上の問題、資産の質(ポートフォリオおよびデータの妥当性を含む。)、信用
補完、財務ストラクチャーまたはオペレーショナル・リスクが原因となって、フィッチが案件
に対して格付を付与できない、または、分析上達成可能な格付に上限が設けられる場合がある。
かかる制限が主にどういった場合に設けられる可能性があるかについては、2011 年 8 月 9 日
付格付基準レポート「Criteria for Rating Caps in Global Structured Finance Transactions」に
詳述されており、www.fitchratings.co.jp から入手可能である。
フィッチの格付分析は、その時点における関連する法的枠組みに基づいており、通常、想定外
の法改正(税制関連法の変更を含む。)による影響に対応するものではない。しかしながら、
関連する法的枠組みに対する不確実性が高い場合、フィッチでは、上述の格付基準にしたがっ
て、格付キャップを適用し得る。法改正は、本レポートの「サーベイランス」セクションにて
概説のとおり、信用事由として分析される。過去に想定されなかった法改正の実施が、影響を
受ける債券の格付変更へとつながる場合がある。極端な事象に格付がどのように対応するのか
に関する詳細については、2011 年 7 月 22 日付レポート「Addressing Extreme Events」を参
照されたい。
格付プロセス
2011 年 10 月 4 日付スペシャルレポート「Understanding the Structured Finance Rating
Process」には、格付プロセスの概要が記載されている。
格付委員会は、アナリストから提示された格付意見案が案件に関連するリスクを反映している
か否かを判断する。これには、裏付資産プールに対する予想損失の評価および既述の基本的論
点がすべて考慮されているか否かの確認が含まれる。格付委員会が、既定のモデルや方法論で
は必ずしも捕捉し得ない案件特有の定性的要因について討議して、当該要因が格付意見に織り
込まれるようにする場合もある。格付委員会においては、各債券に付与される妥当な最終格付
が決定される。
法的構造
SF 案件の特徴は、裏付資産の原保有者即ち「オリジネーター」の企業信用リスクからの裏付
資産プールの隔離、即ち「切り離し」にある。その目的は、案件の主な信用リスクを、オリジ
ネーター固有の信用リスクではなく、資産プール自体の信用リスクに関連付けることにある。
これは、オリジネーター/セラー(売り手)の倒産時に、案件の裏付資産とその収益が破産財
団等の一部に含まれないように、オリジネーターの保有資産のうち特定可能な具体的プールを
特別目的会社(SPV)に直接的または間接的に売却することによって、通常、実現される。
SPV は、通常、債務を発行して、その発行代わり金を、資金生成資産(または資金調達を伴
うシンセティック案件では担保資産)の購入資金として充当する。SPV では、当該資産から
得た資金を債務の利払い、または多くの場合、SPV の債務の全額もしくは一部の弁済に充当
する。例外として、債務を発行せずに、資金調達を伴うことなく参照資産に対するエクスポー
ジャーを提供するシンセティック取引も存在する。
SPV は、その倒産による案件の破綻リスクが、様々なストラクチャー上の特性によって僅少
とみなされることから、「倒産隔離」されていると評されることが多い。SPV に関する契約
上の制約によって、SPV に遂行可能な業務は制限されている。SPV が案件とは無関係の別の
業務を遂行し得ることにより生じる信用リスクから、案件は可能な限り保護されるようになっ
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ている。証券化される裏付資産プールのオリジネーターとは異なり、SPV は事業の運営を意
図していないため、例えば、格付対象またはそれに劣後する債務以外の債務を負うことができ
ない。その名称が示唆するとおり、SPV は、通常、SF 債券の発行という特別で限定された目
的のために設立され、オリジネーターからは法的に分離独立した存在となっている。そのため、
SF 案件に関連するリスク要因が、主に SPV に移転された資産プールに限定されることから、
SPV のパフォーマンスは、企業の信用力と比較して予測しやすくなる。
フィッチでは、様々な法的形態をとる SPV を用いた多様な案件に対して、格付の付与を検討
するように求められる。SPV の法的形態は、それが設立された法域における現地法によって
決まり規制されることとなる。通常、SF 案件における SPV は、(設立地の現地法に従い)有
限責任会社、信託、有限責任パートナーシップまたはその他の法人組織の形態をとる。倒産隔
離に関するフィッチの分析や適用される原則については、フィッチの SPV に関する 2012 年 5
月 30 日付格付基準レポート「Criteria for Special-Purpose Vehicles in Structured Finance
Transactions」にて詳述されており、フィッチのウェブサイト www.fitchratings.co.jp から入手
可能である。
法律意見書と案件関連書類のレビュー
SPV の設立関係書類ならびに特定の案件に関する文書および法律意見書は、オリジネーター
の倒産リスクからの資産の分離度合いや個々の案件におけるストラクチャーの堅牢性、その結
果として案件が予定どおりに機能するか否かを評価するうえで重要である。
フィッチのアナリストは、案件の主要な関連書類をレビューし、当該関連書類がフィッチに提
示されたとおり案件およびそのストラクチャーを示しているかを判断する。アナリストは当該
関連書類の内容について質問し、または関連書類上の特定条項が格付分析に与える影響につい
て説明する場合がある。しかしながら、フィッチが格付する SF 商品の設計や案件の関連書類
の内容について、アナリストが提案または推奨することはない。
フィッチでは、関連する各 SPV や他の各案件当事者が設立される法域の法律、案件の関連書
類の準拠法、資産に適用される法律(資産売却の履行強制可能性を含む)を担当する案件の弁
護士が発行する法律意見書の写しを受領することを想定している。関連する法律の一部または
全部が異なる可能性があることから、フィッチでは法律意見書がすべての関連法を網羅するこ
とを想定している。
フィッチでは法律意見書のレビューを行うが、当該意見書においては、案件の法的観点が言及
されていることを想定している。フィッチでは、倒産手続の包括的な適用除外が当該法律意見
書上で記載されることではなく、各当事者の倒産が当該法律意見書に影響を及ぼす範囲内にお
いて、かかる影響が案件担当弁護士によって特定され説明されることを想定している。
法律意見書においては、案件上の各種譲渡の性質が記載され、SPV に対して譲渡された資産
が、当該資産のセラー倒産時においても、(i)セラーによる回収または取戻しの対象とはな
らず、(ii)セラーに連結されることはない旨の意見が述べられていることが、期待される。
また、フィッチでは、売買または担保権設定のいずれの場合であっても、譲渡人と譲受人(社
債管理の受託者(Indenture Trustee)のための担保権を含むがこれに限定されない)との間の
資産移転に関する対抗要件について述べられた意見書も受領する。
フィッチでは、案件関連書類を
レビューする。法律意見書は、
案件書類が適法かつ有効で、法
的拘束力があり強制執行可能で
あることを含む案件の法的側面
について言及することが、想定
される。
フィッチでは、発行体によって履行される義務、債務および契約が、適法かつ有効で、法的拘
束力があり、その条件にしたがって発行体に対して強制執行可能である旨が記された、発行体
一般および執行可能性に関する意見書をレビューする。また、フィッチでは、案件における発
行体の税務ステイタスについて述べた法律意見書もレビューする。さらに、フィッチでは税務
意見書を受領することを想定しており、案件のストラクチャーに課税されないことの確認また
は課税される場合にフィッチのキャッシュ・フロー分析で考慮する要素としての課税額を算定
するため、税務意見書を受領することを想定している。
案件の担当弁護士が、「明解な」意見を記述できない論点がある場合には、フィッチは、当該
弁護士が残存する法的リスクを特定して説明することを想定している。フィッチは、これによ
り当該リスクを妥当と考えられる範囲内で、信用分析に織り込むことが可能となる。事業会社
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とは異なり、SPV は設立形態や案件の関連書類によって制約されているため、キャッシュ・
フロー不足や資産、証券または案件のストラクチャー上の問題を解消するための借入や資金調
達ができない。単一または複数の法的リスクが残る場合、フィッチは当該証券を格付できない
ことがある。
資産の質
資産クラス
SF 案件は幅広い金融資産を担保とする。住宅や商業不動産を担保とするモーゲージ・ローン、
クレジット・カード債権や自動車ローン等の消費者向け債権、企業向けローンや証券が、最も
一般的な証券化対象資産である。フィッチでは対象となる SF 商品を、RMBS、CMBS、ABS、
ストラクチャード・クレジットの 4 つの主要セクターに大別している。さらにこれらのセクタ
ーは様々なサブセクターに分けられる。例えば、ABS セクターには消費者資産(自動車ロー
ン、クレジット・カード、学資ローン等)や商業資産(航空機リース、フランチャイズ・ロー
ン、事業活動によって創出される将来キャッシュ・フロー等)に加えて、資産担保コマーシャ
ル・ペーパー(ABCP)コンデュイットが含まれる。
デフォルトおよび損失の分析
フィッチでは、通常、信用特性
分析によって、状況が現在の想
定範囲内に留まった場合に最も
蓋然性が高いと思われる結果を
反映した予想損失を導出する。
これは一般にベース・ケース・
シナリオと呼ばれる。
裏付けとなるローンや担保資産からの元利払いは、SF 案件の格付された債券の元利払いに充
当される。フィッチでは、通常、裏付資産の信用特性を分析し、フィッチの現時点のマクロ経
済予測を反映したシナリオ上で予想損失を導出する。これは、通常、ベース・ケース・シナリ
オと呼ばれる。ベース・ケース・シナリオは資産の予想損失のみを表すものであり、損失を減
少させ得る案件上の構造特性を反映していない。ベース・ケース・シナリオ上の予想損失に対
するフィッチの見解は、通常、以下の手法のうち一つを用いて導いた評価に基づいて、格付委
員会でまとめられる。
•
フィッチが開発した分析モデルからのアウトプットを用いて、ローン・レベルの特
性に基づき、個別ローンに対するデフォルト確率と損失率を割り当て、フィッチの
格付委員会における議論の基礎とする。裏付資産プールにおける損失率は、デフォ
ルト・モデルを通じて算出される。本手法は、通常、RMBS や米国のマルチボロワ
ー型 CMBS 案件の分析に用いられる。
•
格付委員会が予想損失を導出するために、オリジネーターの過去のパフォーマンス
に基づく資産ポートフォリオの分析を行う。本手法は、通常、消費者向け債権を裏
付けとした ABS 案件の格付に用いられる。
•
モンテカルロ・シミュレーションを用いてポートフォリオの累積損失率を見積もる。
すなわち、確率論的なプロセスを非常に多く繰り返すことで、裏付ポートフォリオ
の信用リスクの挙動を表そうとするものである。本手法は相関がある企業エクスポ
ージャーからなるポートフォリオに対するフィッチの分析モデル上で使用され、通
常は、CDO や欧州 CMBS セクターの分析に用いられる。個々のシミュレーショ
ン・モデルには、異なる調整やストレスが組み込まれる場合がある。例えば、欧州
CMBS の分析では、賃料収入の低下やキャップ・レートにはストレスが付加された
値が用いられることが多い。
フィッチの「Bsf」格(またはそれをわずかに下回る)ストレス・シナリオに通常相当するベ
ース・ケースの導出に加え、より厳しい想定のもとで予想損失が生成される。「AAAsf」格や
「AAsf」格といった、高位の投資適格カテゴリーに格付された債券の予想損失が、低い確率か
つ厳しいストレス・シナリオにおける損失となるよう、「Bsf」格より高い格付カテゴリーに
なるにつれて、予想損失は次第に高くなる。フィッチでは、将来を見据えた格付方針をとり、
比較的高い格付のシナリオにおいては、景気循環(through the cycle)を考慮に入れた格付手
法、比較的低い格付のシナリオでは予想をベースとした手法を採用している。即ち、高位の格
付シナリオにおいては、予想損失が、長期的に安定した蓋然性の低いストレス・シナリオを反
映することを想定している一方で、低位の格付のシナリオでは、その時点における裏付資産パ
フォーマンスの予想とより密接に関連する想定を反映している。フィッチの「AAAsf」や
「AAsf」格付は最も低いまたは非常に低いデフォルト・リスクを表すもので、予見できる事由
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によって返済能力が悪化する可能性が低いことを示している。
高位の格付カテゴリーにおける予想損失は、ベース・ケースの予想損失に対する倍率で示され
ることが多い。例えば、ベース・ケース・シナリオ上、資産プールのうち 2%の損失が想定さ
れるものの、「AAAsf」格付のシナリオでは、担保資産プールは、ベース・ケース・シナリオ
の 4 倍の損失、即ち担保資産プール残高の 8%の損失が想定される場合がある。
一部の SF 案件では、分散した
資産プールに依存せずに、リス
クが裏付となる組織や保証提供
者の信用リスクにリンクする案
件や、集中した資産プールが裏
付資産となる案件がある。
セクター別格付基準内における格付に対応した予想デフォルトの較正の一例として、「コーポ
レート CDO の包括格付基準」(2011 年 8 月 10 日付レポート)において、観測されたデフォ
ルト率のピークを基準としてモデル・アウトプットを調整することにより、フィッチがその
CDO 格付手法を較正した過程が概説されている。特に、「Asf」カテゴリー以上に格付された
CDO 債券が、デフォルト率のピーク期においても、良好なパフォーマンスを示し、「A」カテ
ゴリーに格付された債務において長期的に観測されたデフォルト・パフォーマンスと同様、デ
フォルトに対する低い脆弱性を有するよう、このデフォルト・モデルは較正された。同様に、
「BBBsf」カテゴリーの債券のパフォーマンスは、デフォルト率のピーク期においても、頑健
性を示すべきである。しかしながら、この水準の場合、過去のピーク・デフォルト率の最悪期
が繰り返されたり、それを上回るときには、デフォルトに対する脆弱性が現れ得る。
大多数の SF 案件は分散した資産プールを裏付けとしているが、例えばファースト・トゥ・デ
フォルト・バスケットのように、より集中したプールに裏付された案件も存在する。さらに、
案件の中には信用力が資産プールに完全には依存せず、裏付けとなる組織や保証提供者に依存
する案件もある。そのような案件における資産の質は、裏付けとなる組織や保証提供者に対す
る格付に由来することが多い。裏付けとなる組織には、単一の企業、金融機関、地方自治体、
ソブリン、金融保証会社などが含まれる。
単一の組織や分散した資産プールではなく、幾つかの大口のエクスポージャーからなる集中し
たプールに裏付されるストラクチャーの場合には、過去のデフォルト・データとの関連性が低
下する場合がある。これは、当初は分散したプールであっても償還期日に近づくにつれて、資
産集中が進行することにより生じることもある。フィッチでは一定の決定論的なストレスを用
いて、資産プールが当該大口エクスポージャーからのデフォルト・リスクに過度にさらされて
いないかを評価する。デフォルトを想定するエクスポージャーの数は、目標とする格付水準に
よって異なることとなる。
データの妥当性
フィッチの SF 格付基準における想定は、セクター別格付基準において特定されたデータに関
連して導出される。セクター別格付基準においては、かかるセクター別データの妥当性が、説
明されるとともに、データの妥当性に関する制約が当該セクターの格付キャップをもたらした
か否かについても記される。
案件分析の一環として、フィッチは、証券化対象資産プールに関連するオリジネーター固有の
過去のパフォーマンス・データ(過去 5 年分または少なくとも景気循環の 1 周期をカバーする
期間分のいずれか長い方)を受領することを期待する。オリジネーター固有の情報が十分に利
用できない場合、少なくとも同期間をカバーする市場広範にわたる過去のデータが代替の情報
を提供する場合がよくある。例えば、シンジケート・ローン市場のためにオリジネートされた
資産等、オリジネーターの情報が想定される資産パフォーマンスに限定的な影響しか与える可
能性がない資産クラスにおいて、特にこのことは当てはまり得る。
信用補完
信用補完は、裏付資産プールの損失から債券保有者を保護する仕組みであることから、SF 案
件の重要な要素となっている。各債券に対するフィッチの格付は、当該債券格付に対応する格
付ストレス・シナリオ上でフィッチが想定する裏付担保資産プールのデフォルト時損失に対し
て十分に耐え得る利用可能な信用補完を、当該債券が有しているか否かを反映している。信用
補完には、優先劣後構造、超過利息もしくは超過担保(O/C)等の内部信用補完もしくは金融
保証を行う第三者の保証提供者、準備金勘定、外部エクイティまたはこれらを組み合わせた外
部信用補完がある。クレジット・リンク型の SF 案件は、通常、追加的な信用補完を有するこ
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となく、当該案件の格付は裏付けとなる組織や保証提供者に依存する。
優先劣後構造
優先クラスと劣後クラス(優先/劣後)の単純な 2 クラスのストラクチャーでは、資産プール
に生じた損失のすべてが、劣後クラスの残高がゼロになるまでまず劣後クラスに割り当てられ
るため、劣後クラスが優先クラスに信用補完を提供することとなる。通常、優先トランシェに
対する元利金が優先的に支払われ、残余のすべてのキャッシュが劣後トランシェに支払われる。
劣後債券は、裏付担保資産の実現損相当額が月次で減額される、または回収額が、支払期日の
到来した弁済額に満たない場合には、不足を被る可能性がある。優先債券については、信用補
完の大きさが「AAAsf」格のストレス・シナリオから導かれた予想損失に見合っており、期日
どおりの利払いが可能であれば、「AAAsf」格取得の可能性がある。
SF 案件は、「AAAsf」格から「Bsf」格の範囲にわたる複数の優先/劣後クラスの階層に切り分
け(トランシェ)られることが多い。損失の割り当ては、通常、格付が最下位のトランシェで
あるジュニア・トランシェから開始される逆順となる。ジュニア・トランシェに対する保護と
しては、超過担保(O/C)、超過利息、残高がゼロになるまで損失が第一に割り当てられる無
格付のクラス、第一の損失填補用に発行時に(または月次超過利息によって)十分に確保され
る現金準備金勘定のいずれかが、通常、用意される。ジュニア・トランシェの格付は、当該格
付カテゴリーの損失シナリオを基に、すべての信用補完またはその他の形態の保護の妥当性を
反映する。通常、最上位トランシェが利用可能な保護は、ジュニア・トランシェが利用可能な
信用補完および劣後となるジュニア・トランシェ自体である。
超過利息
債券に利用可能な劣後部分の規模・金額が、当該格付のストレス・レベルにおけるフィッチの
予想損失を下回るような場合であっても、超過利息(超過スプレッドともいう)が損失を填補
する追加的信用補完として利用できる場合には、債券がかかる格付を取得可能な場合がある。
超過利息とは、各支払期日に債券保有者に対して必要額をすべて支払った後の残余の収入で、
通常、資産プールの正味加重平均クーポン(net WAC)と発行債券の加重平均利率に案件上上
位に位置する経費率を加えた合計との差に相当する。発生する超過利息額は、非常に大きくな
ることもあり、案件の要項に従って、当該支払期間における裏付資産プールの実現損および/
または延滞額の残高を上限として、各支払期間の債券保有者に対する元本償還に充当され得る。
信用補完を提供する超過利息の価値は、資産クラスやストラクチャーによって大幅に異なり、
デフォルト、償却または損失のタイミング、裏付資産プールの元本返済率および金利の変化等
に大きく左右される。超過利息は、「活用するか喪失するか(use it or lose it)」という形で
のみ利用可能な場合が多く、従って、一定期間内に損失が実現しなければ、余剰キャッシュは
利用可能であってもウォーターフォール上最下位に位置する受取人に放出される。この場合、
当該キャッシュの信用補完としての価値はゼロとなる。反対に、期間中に損失が発生しても、
元本償還に充当するための余剰キャッシュが存在しない場合もある。各期間に使用されない余
剰キャッシュが、準備金勘定に留保すなわち「トラップ」されるのではなく、放出される場合、
デフォルトや損失のタイミングが非常に重要となる。
超過利息による信用補完としてのメリットを測るうえでは、裏付資産プールの元本返済も重要
な要素となる。高い元本返済率は、現在および将来における損失を填補するために利用可能な
月次超過利息額を減少させ得る。相対的に高クーポンの担保資産において比較的速いペースで
償還が進行またはデフォルトが発生することによって、担保からの受取利息が減少、即ち
WAC が圧縮され、超過利息が減少することもある。また、債券の利息が裏付担保資産の net
WAC よりも速いペースで上昇する場合にも、超過利息は減少する。例えば、債券の金利が変
動金利指標に基づいているのに対して、裏付資産が固定金利の支払である場合やレバレッジが
解消されるにつれて、金利のミスマッチは生じ得る。通貨のミスマッチについても、未ヘッジ
の範囲内で、超過利息に影響を与え得る。
これらの要因が超過利息の利用可能性に直接的かつ重要な影響を与えることから、フィッチで
は超過利息を信用補完として利用する各 SF 資産クラスに対して、キャッシュ・フロー分析を
実施する。資産クラス個別のキャッシュ・フロー・モデルならびに損失発生のタイミング、元
本返済、金利および各資産固有の他の要素に関するフィッチの想定は、超過利息の利用可能可
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能性を分析するために用いられる。各資産クラスにおける格付分析上で超過利息が考慮される
度合いは、各ストレス・シナリオで利用可能と想定される超過利息額によって決まる。キャッ
シュ・フロー格付基準および各資産タイプに適用可能な想定は、フィッチのウェブサイト
www.fitchratings.com から入手可能である。特定の国におけるフィッチの金利想定に関する基
準もウェブサイトから入手可能である。
準備金と超過担保
案件の中には、上述の形態の代替または追加として、準備金または超過担保(O/C)を信用補
完として用いる場合がある。準備金は発行時に(例えば現預金または劣後ローンによって)資
金拠出され得る。同様に、超過担保についても発行時において、案件の裏付けとなる資産価値
が、(例えば無格付のジュニアまたは劣後クラスの証券によって)格付された発行証券の価値
を上回ることで創出され得る。案件の仕組みの中には、超過利息が、各支払期間に損失を填補
した後、放出されないものもある。その代わりに、キャッシュは準備金への積立て(または上
積み)や債券の元本償還に充当される。残余の超過利息は、一定額に到達するまで現金準備金
に積み増される場合もある。準備金が目標額に達すると、未使用部分の超過利息は案件から放
出される。準備金の残高が目標額を下回る場合、超過利息によって再び補充されることとなる。
案件によっては、損失填補後の残余の超過利息が債券の元本償還に充当される。利息を元本償
還に充当することによって、債券の未償還元本残高は、担保を追加創出する裏付資産プールの
場合と比較して、速いペースで減少する。創出された超過担保は、超過利息によって吸収され
なかった損失を填補するために、使用可能となる。プール残高に対する一定の割合で示される
目標超過担保額が、多くの場合設定され、その目標額に到達した場合には、当該期間における
未使用超過利息が、案件から放出されることとなる。
未使用超過利息を直ちに放出し
ない案件や発行時から準備金や
超過担保を有する案件は、放出
する特性を有する案件に比べ
て、通常、劣後クラスが小さ
い。
あらゆる種類のストラクチャーにおける超過利息の利用可能性評価において、キャッシュ・フ
ロー分析および想定は同じである一方、発行時に準備金もしくは超過担保を備えた、または未
使用の超過利息をトラップする案件は、外部に放出する案件に比して、通常、劣後クラスが小
さくなる。これは、各格付シナリオで利用可能な超過利息を減少させるといったフィッチの格
付ストレスにもかかわらず、キャッシュが準備金として留保される、残存する債券の弁済に用
いられて超過担保を形成するといった場合、フィッチの分析上、このような「ハード」な信用
補完額に対してより重きが置かれるためである。
第三者の保証
SF 案件には、外部のカウンターパーティから信用補完が提供される場合がある。損失保証を
行うカウンターパーティは、支払期日を迎えた裏付担保資産の元利金と実際に受領したキャッ
シュとの差額、即ち実現損相当額を SF 債券保有者に支払うこととなる。SF 債券保有者への
支払が完全に履行されることを確保するうえで、カウンターパーティによる当該支払義務が重
要となる。そのため、第三者による損失保護が組み込まれた SF 案件に対する格付意見には、
裏付資産プールに関連する主たる信用リスクに加えてカウンターパーティ・エクスポージャー
に関連するリスクが反映される。
外部信用補完に関連する主要リスクは、カウンターパーティの支払義務に対する SF 案件の依
存度である。この外部の関係当事者に対する依存は、事業体であるカウンターパーティに関連
する固有リスクからの SF 案件の隔離を弱めることとなる。しかし、SF 案件には、通常、カ
ウンターパーティの信用力への依存とエクスポージャーを最小化するためのストラクチャー上
の手当てが含まれている。フィッチでは、SF 案件のカウンターパーティ・リスクに関する格
付基準に従って、当該ストラクチャー上の手当てを分析する。詳細については、フィッチのウ
ェブサイト www.fitchratings.co.jp から入手可能なカウンターパーティ・リスクに関する格付基
準レポートを参照されたい。
案件をカウンターパーティから隔離するうえで、ストラクチャー上の手当てが十分ではなく、
カウンターパーティによる信用補完が、格付を維持するうえで重要である場合、当該案件はカ
ウンターパーティの信用力に依存する可能性があり、その場合、当該案件に対する格付をカウ
ンターパーティに対する格付から切り離すことができなくなるであろう。いわゆる「モノライ
ン・ラップ」を提供する金融保証会社がその一例である。この場合、金融保証会社のエクスポ
ージャーを軽減するストラクチャー上の手当ては存在せず、当該案件は、通常、カウンターパ
ストラクチャード・ファイナンスの包括格付基準
2012 年 6 月
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Structured Finance
ーティの信用力に依拠することとなる。
財務ストラクチャー
劣後部分、超過利息、超過担保
によって有格付トランシェに提
供される信用補完額は、通常、
財務ストラクチャーに影響され
ない一方、資産プールから回収
される元本の分配方法は、債券
ごとに異なる。
優先・劣後クラスからなる SF 案件では、劣後クラスよりも優先クラスの元利払いが優先され
る。しかし、通常「AAAsf」格が付与されるトランシェである最上位の優先クラスは、償還期
日や支払スケジュールが異なる複数の債券に分けられる場合が多い。劣後部分、超過利息また
は超過担保を通じて提供される有格付トランシェのための信用補完額は、通常、財務ストラク
チャーには影響されない一方、資産プールから回収される元本の分配方法は債券によって様々
である。
様々なストラクチャーに対するフィッチの分析手法は、資産個別の格付基準レポートまたはキ
ャッシュ・フロー格付基準レポートに説明されており、フィッチのウェブサイト
www.fitchratings.com から入手可能である。SF 案件において最も一般的なストラクチャーの種
類については、以下で概説される。キャッシュ・フローのモデリングは各格付レベルにおける
信用補完の妥当性を評価するうえで、当該案件特有のストラクチャーを反映する。キャッシ
ュ・フロー格付基準は、各格付レベルで適用される多くのストレス想定を含み得る。ストレス
には次のものが含まれる。
フィッチは、デリバティブが内
包されている、または超過利息
への依存度が高い場合、財務ス
トラクチャーの評価にキャッシ
ュ・フロー分析を行う。
•
期限前返済(プリペイメント)に対する上方および下方ストレス
•
収入水準にストレスを与える裏付資産のクーポンの低下
•
デフォルトまたは損失の発生時期を前期または後期(またはその他のタイミング)
に集中
•
未ヘッジのエクスポージャーの重要性およびデフォルト資産に関するキャリー・コ
ストを評価するための金利ストレス
•
資産と負債における異なる金利基準に関する未ヘッジのエクスポージャーを評価す
るためのベーシス・リスク・ストレス
•
未ヘッジの為替リスクに対するエクスポージャーを評価するための為替ストレス
適用されるキャッシュ・フロー・ストレスの範囲や性質は、関連する資産クラスや種別および
当該案件の財務ストラクチャーによって決まる。例えば、キャッシュ・フローが内包されるデ
リバティブの契約条件に著しく依存している場合には、案件に合わせた個別のストレスが適用
されることもある。
プロラタ・ペイ方式の債券
プロラタ払いのストラクチャーにおいては、資産プールからの元利回収金が、各トランシェに
対してその残高比に応じて支払われることとなる。例えば、優先クラス 90%、劣後クラス
10%からなるストラクチャーにおいては、担保資産からの全受領額の 90%が優先クラスに分
配され、残りの 10%が劣後クラスに支払われる。資産セクターの中には、期限前返済やデフ
ォルト・ローンおよび実現損といった予定外の元本については、全額を優先トランシェに対す
る支払に充当する一方、劣後クラスに対しては予定元本回収分のみが比率に応じて支払われる
ものがある。当該ストラクチャーでは、劣後クラスが予定外の元本回収額の受領からロックア
ウトされることとなる。
予定外の元本回収金をすべて優先トランシェに分配することで、優先トランシェの残高が劣後
クラスに先んじて速く減少することとなり、劣後比率を上昇させる。通常、数年間に固定され
たこのロックアウトという特性は、担保のデフォルトの後期集中または逆選択による損失から
優先トランシェを保護することを意図したものである。案件期間の終盤で、案件がストレス期
に入った場合に、デフォルトの後期集中が起こり得る。信用力が最も高い担保資産の期限前返
済が進み、シーズニングが進んだ資産プールの大部分が、信用力がより低くリスクの高い資産
で占められる場合に逆選択が生じることとなる。
ストラクチャード・ファイナンスの包括格付基準
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Structured Finance
シークエンシャル・ペイ方式の債券
シークエンシャル・ペイ方式に基づくストラクチャーでは、元本が優先順位に従って償還され、
最上位の優先債券がまず償還される。また、同順位内の債券が、償還期日ごとに償還されるシ
ークエンシャル・ペイ方式債券に分割されている場合がある。その場合、元本回収金のうち当
該クラス分に分配された金額のすべてが、最も早期に償還期日を迎える債券が全額償還される
まで、その弁済に充当されることとなる。当初はプロラタ方式を採用していた債券が、主に裏
付担保のパフォーマンスに基づく一定のトリガーに抵触することで、シークエンシャル・ペイ
方式に切り替わる場合がある。
一括償還型の債券
期日一括償還型の債券には、各支払期間中は利払いのみが行われ、定期的な元本償還はない。
当該債券の元本は、社債と同じように、予定償還期日に一括償還されるか予定償還期日前の 6
カ月から 12 カ月の期間内に一括償還される。リボルビング期間と呼ばれる利息だけが支払わ
れる期間中は、裏付担保からの回収金が新たな債権に再投資されることが多い。リボルビング
期間は、裏付資産クラスに応じて、予め決定される。リボルビング期間がある SF 案件は、通
常、クレジット・カード債権、自動車ディーラーのフロアプラン・ローンやホーム・エクイテ
ィ信用枠などのリボルビング資産を裏付けとしているが、住宅ローンといった長めの資産を裏
付けとする場合もある。
主にリボルビング期間の終期など一定の時期に、元本の特定勘定への積立てまたは既定の分割
償還スケジュールに従った債券の弁済が開始される。担保資産のパフォーマンスの急激な悪化、
低水準の期限前返済または再投資もしくは債権残高の維持が不可能になる等の一定の事象の発
生によって、早期償還事由に抵触する場合がある。その場合、予定された積立開始日または予
定償還期日前に、元本の積立てまたは分配が開始される。全額償還は、通常、予定償還期日を
基準としているものの、フィッチでは、予定償還期日から通常は数年後となる法的償還期日ま
でに元本が全額償還されることを格付の対象とする。フィッチの格付分析は、デフォルト資産
のワークアウト後の回収分を含む元利回収金の分配が、法的最終償還期日までに債券が全額償
還されるために十分であるか否かついての評価を行う。
すべての種類の財務ストラクチャーについて、フィッチでは、該当する特定の資産クラスに対
して、必要に応じてキャッシュ・フロー格付基準を適用する。例えば、当該基準では、様々な
期限前返済スピードを含むシナリオを指定している場合があり、裏付資産の償還期日よりも法
的償還期日が早い比較的短期の債券が、当該償還期日に全額償還されるか否かを見極めるため
に、期限前返済率の低下ストレスが用いられる。類似のストレスを用いて、案件ストラクチャ
ーが十分な元本返済用資金を積立て、法的償還期日までに一括償還できる能力を評価すること
もある。フィッチでは、予定償還期日から法的償還期日までが、ローンのワークアウトを行う
うえで十分な期間であるか否かについても評価を行う。プロラタ方式の支払を行う債券につい
ても同様に、資産クラス別の基準に沿ったテストを実施し、ポートフォリオの償還が進み、ポ
ートフォリオ内に資産の集中や逆選択のような問題が発生し得る案件の後期においても、信用
補完が十分であり続けているか否かについて評価する。
カウンターパーティ・リスク
財務ストラクチャーに対する評価の一環として、フィッチでは、証券化対象となる資産プール
以外の信用エクスポージャーとなるデリバティブ、銀行口座、金融保証等、カウンターパーテ
ィへの依存度を分析する。
裏付けとなる組織または保証提供者の信用力に依拠する SF 案件の信用リスクは、ストラクチ
ャー上のリスク緩和策が存在しない場合、通常、当該組織の信用力にリンクすることとなる。
フィッチによるカウンターパーティ・リスクに関する分析については、2012 年 3 月 12 日付格
付基準レポート「Counterparty Criteria for Structured Finance Transactions」に詳述されてお
り、www.fitchratings.co.jp にて入手可能である。
オリジネーター、サービサー、アセット・マネージャーのレビュー
案件当事者としてのオリジネーター、サービサーおよび CDO アセット・マネージャーは、裏
付資産のパフォーマンス、ひいては SF 案件に影響を与え得る。フィッチのオペレーショナ
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Structured Finance
フィッチのオペレーショナル・
リスク・チームまたは格付アナ
リストが、格付対象の SF 案件
に関わる各オリジネーター、サ
ービサーおよびアセット・マネ
ージャーのプロセスについて評
価する。
ル・リスク、ファンドおよびアセット・マネージャーを担当するチームまたは特定資産の格付
を担当するアナリストが、フィッチが格付する SF 案件に関与する各オリジネーター、サービ
サーおよびアセット・マネージャーに関するオペレーション・プロセスを評価する。評価は、
内部スコア、意見または公開格付によって示されているか否かにかかわらず、案件のベース・
ケースとなる予想損失および信用補完水準への調整、格付キャップの設定、またはフィッチに
よる案件への格付付与の謝絶に至る場合もある。フィッチによるオリジネーター、サービサー
およびアセット・マネージャーの評価に関する格付基準は、各資産セクターの格付基準レポー
トの一部または独立した格付基準レポートとして公表されており、フィッチのウェブサイト
www.fitchratings.com から入手可能である。
オリジネーターのレビュー
フィッチでは、オリジネーターが提供する商品、プログラムおよび審査基準に関するリスクを
評価する。当該評価には、緩慢でアクレッシブなオリジネーション実務および管理を行う場合
に内包されるリスクを検討することも含まれるが、それは、当該資産のパフォーマンスが、よ
り厳格な指針や管理のもとで組成された場合に比べて劣る傾向が強いためである。オリジネー
ターに対するレビューでは、ストレス期に、オリジネーターの担保パフォーマンスが競合他社
となるその他のオリジネーターの担保パフォーマンスと比較して同水準、上回る水準または下
回る水準のいずれであるかを評価する。オリジネーションの管理の質や最良の取り組みの実施
によって、良好なパフォーマンス傾向が示される可能性がある。既存ポートフォリオにおける
元本回収金を用いて、将来組成される債権が案件に売却されるリボルビング案件においては、
オリジネーターの実務および管理の質が、特に重要となる。
セクター別格付基準に記載のとおり、特定の資産クラスにおいて、フィッチでは、オリジネー
ター・レビューの一環として、少数のローン勘定のファイル・レビューを実施する。当該レビ
ューの目的は、オリジネーションおよび審査プロセスの事例を予め決め、ポートフォリオのデ
ータファイル上で提供されたデータに照らして検証することにある。かかるファイル・レビュ
ーは、通常、その範囲および数ともに、極めて限られている。例えば、証券化案件内に含まれ
ることが想定されるローン勘定のリストから 10 件を抽出してレビューが実施され得る。選択
された勘定に関し、オリジネーターの書面または電磁的記録をレビューする。書面および電磁
的ファイルの間、または、説明されたプロセスと観察されたプロセスの間に不整合が認められ
た場合には、オリジネーターと協議のうえ、当該不整合の重大性に関するフィッチの見解に応
じて、格付分析に織り込まれ得る。
フィッチでは、通常、オリジネ
ーター/SF 発行体が当該市場に
おいて十分な業歴および資産プ
ールを構成する商品組成実績を
有することを期待する。
サービサーの内部統制の枠組み
は、健全な業務オペレーション
の実践に対するサービサーのコ
ミットメントを表すものである
ため、フィッチの分析上、とり
わけ重要である。
フィッチでは、オリジネーターが、通常、当該市場で十分な業歴と資産プールを構成する商品
組成実績を有することを期待する。また、フィッチでは、オリジネーターからの過去のパフォ
ーマンス・データならびに損失率および回収率に関する過去データの提供も想定している。
サービサーのレビュー
サービサーの主な責務は、債券保有者のために裏付資産からの支払を回収して、受託者に分配
することである。一定の SF セクターにおいては、サービサーが延滞債権を前払いするまたは
貸付金のワークアウトの交渉を行うといった追加的責任を果たす場合がある。サービサーのレ
ビューおよび格付プロセスは、サービサーのローン管理およびデフォルト管理に関するプロセ
スの質、既定ガイドラインの遵守状況、業務と財務上の安定性等を確認し、その評価を行うこ
とを意図している。サービサーの格付プロセスでは、企業における様々な法域および状況にお
ける資産の取り扱いに対する戦略、常に最新の立法動向を把握する手順、法令変更があった場
合にローン・サービシングの業務プロセスに統合させる手法も評価される。加えて、サービサ
ーの内部統制の枠組みも、健全な業務オペレーションの実践に対するサービサーのコミットメ
ントを表すものであるため、フィッチの評価においてとりわけ重要である。
RMBS、CMBS および ABS のサービサーに対しては、公開のサービサー格付が付与されてい
る場合がある。フィッチでは各サービシング業務別の基準を盛り込んだ詳細な個別のスコアカ
ードのメンテナンスを行う。各サービサー格付は選別された一連の基準に基づいており、そこ
から合成スコアが導出される。当該スコアはサービサーの会社組織、財務状況、人員配置、手
順およびテクノロジー上の能力などのレビューに基づいている。フィッチでは、格付対象の
SF 案件に関与している各サービサーに対しては、公開サービサー格付を付与しているか否か
ストラクチャード・ファイナンスの包括格付基準
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Structured Finance
にかかわらず、レビューを実施する。
アセット・マネージャーのレビュー
CDO アセット・マネージャーに対するレビューおよび格付は、対象となるアセット・マネー
ジャーの特定の CDO 案件への適合性、そして新規・既往の格付対象 CDO に関してフィッチ
が想定するデフォルト率、損失率または市場価値のストレスに対して必要に応じて加えられる
調整水準のベースとなる。フィッチが行う CDO アセット・マネージャーの評価には、運用さ
れる資産タイプに基づきアセット・マネージャーを評価するための定性的および定量的基準が
含まれている。運用対象の資産タイプには、レバレッジド・ローン、SF(ABS)、投資適格
企業、ハイ・イールド債、新興市場の債券/ローン、信託優先証券、商業用不動産(ローンお
よび証券)やパブリック・ファイナンス(ローンおよび証券)が含まれる。フィッチでは、格
付を行うすべての CDO について、格付基準に従って CDO アセット・マネージャーに対する
レビューを行う。
サーベイランス
フィッチが SF 案件に対して格付を付与し、当該格付が特定の時点(PIT)におけるものでな
ければ、当該案件は、フィッチの資産セクター担当のサーベイランス・グループが担当するこ
ととなる。本レポート上で概説した 5 つの主要な格付要素のうち、資産の質、信用補完ならび
にオリジネーターおよびサービサーの質は、案件期間の経過とともに、変化することがよくみ
られる。一方、法的構造および財務ストラクチャーは、通常、安定しており、個別の事由によ
ってのみ影響を受ける。
案件は、直近の送金レポートそ
の他利用可能な関連情報を用い
て、レビューされる。
資産の質、信用補完ならびにオリジネーターおよびサービサーの質について、フィッチでは、
サービサーや受託者から提供される資産パフォーマンスおよび送金に関する情報その他関連情
報を用いて、格付案件のモニタリングを行う。サーベイランスの過程では、プール・レベルで
のパフォーマンス指標のモニタリング、現在の信用補完水準と将来の予測やストレス想定との
比較、市場動向が案件のパフォーマンスに与える影響に関する評価、ローン・レベルでの分析
といった、様々な定性的および定量的な要素を取り入れることにより、格付したトランシェの
パフォーマンスを評価する。
格付の見直しは、少なくとも年に 1 回格付委員会によって実施される。報告された案件のパフ
ォーマンス、フィッチの資産パフォーマンスに対する見通しまたは信用事由の発生等の理由に
より、格付アクションの正当性が認められる場合には、委員会による見直しが速やかに行われ
る。一部の案件では、特に、裏付資産プールのパフォーマンスが急速な悪化を示している場合、
格付アクションの頻度が高くなる。
信用事由とは、ある案件の格付分析に影響を与え得る事由をさす。信用事由の例としては、カ
ウンターパーティの格下げ、裏付けとなる法的枠組みの変化、案件文書の変更または信用上重
要な影響を与えると考えられるその他の事由等が挙げられる。かかる事由を認識した場合また
はその旨の通知を受領した場合、フィッチは格付分析に与え得る影響の度合いを検討する。
潜在的に重大な事由に関して、フィッチでは、かかる事由が当該格付に及ぼす影響をレビュー
するために、格付委員会を開催する。当該事由が格付に対して影響を与えることが想定されな
い場合、フィッチは、当該事由の説明、関連する格付および分析の根拠を記したプレスリリー
スを公表する場合がある。こうした事由の発生は、それ自体が必ずしも格付委員会による本格
的な案件のレビューにつながるわけではない。分析は、むしろ個別の事由が及ぼす影響を中心
として行われる。
各資産グループのサーベイランス・プロセスや格付のサーベイランス特有の方法論を説明する
ために、個別のサーベイランス格付基準が各資産グループによって公表される場合がある。例
えば、特定のサーベイランス格付基準においては、ストレスを被ったセクターにおける格下げ
のプロセスに焦点を当てて、格付アクションに至る過程が説明される場合がある。公表されて
いる資産セクター個別のサーベイランス格付基準は、フィッチのウェブサイト
www.fitchratings.com から入手可能である。
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Structured Finance
格付感応度分析
フィッチでは、新規格付の付与にあたって、格付感応度分析を実施する。公開格付の場合、当
該分析は、案件の予備格付レポートまたは新規発行レポート上で公表され、格付対象の各クラ
スに対して、より高い想定ストレスを資産パフォーマンスに対して適用することによる格付へ
の影響を示すものである。例えば、感応度分析において、デフォルトに関するベースケース上
の想定が 50%引き上げられる一方、その他の要素が不変である場合、A 号債の格付が
「AAAsf」から「Asf」へ推移することが示唆されることもあり得る。感応度分析のパラメー
タは、当該資産クラスの主要なパフォーマンス・パラメータに従って選択され、少なくとも 3
種類の想定ストレス・シナリオが含まれる。
合理的な範囲の調査
格付を付与し維持するうえで、フィッチは、発行体、引受人およびその他フィッチが信頼に足
ると判断する情報源から入手する、事実情報に依拠している。フィッチは、格付方法に則り依
拠する事実情報について、合理的な範囲での調査を行い、当該証券に関して、または当該法域
において利用可能な範囲内で独立した情報源による合理的な検証を行う。
ストラクチャード・ファイナンスの包括格付基準
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Structured Finance
(本レポートの英語版は格付基準レポート「Global Structured Finance Rating Criteria」とし
て公表されています。内容に関するご質問・ご不明の点は、上記の担当アナリストにお問い合
わせください。)
フィッチの全信用格付は、所定の制約及び免責の対象となっています。弊社ウェブサイトから当該制約及
び免責事項をご覧ください(www.fitchratings.co.jp :「格付の定義」>「信用格付を理解する:利用と制
約」)。さらに、格付の定義及び利用規約は弊社のウェブサイト www.fitchratings.co.jp に掲載されていま
す。公表された格付、格付基準、格付手法も同サイトに常時掲載されています。フィッチの行動規範、守
秘義務、利益相反、関連会社間のファイアウォール、コンプライアンス及びその他の方針・手続等も
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覧いただけます。
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る情報に依拠しています。フィッチは、格付方法に則り依拠する事実に関する情報について、合理的な範囲での調査を行い、当該証券に関
して又は当該法域において利用可能な範囲内で独立した情報源による合理的な検証を行います。フィッチにおける事実に関する調査の方法
及びフィッチが利用する第三者による検証の範囲は、様々な要因により異なります。その要因とは、格付対象証券とその発行体の性質、当
該証券が募集・販売される、かつ/又は、発行体が所在する法域における要件及び慣行、関連がある公開情報の入手可能性及び性質、発行
体の経営陣及びその助言者へのアクセス、監査報告書・「合意された手続」に基づく報告書・鑑定評価書・アクチュアリアルレポート・エ
ンジニアリングレポート・法律意見書・第三者によるその他の報告書等第三者による既存の検証の利用可能性、当該証券に関して、又は、
発行体が属する法域において十分な能力を有する独立した第三者による検証の利用可能性等です。フィッチの格付利用者は、事実に関する
調査の強化又は第三者検証のいずれによっても、フィッチが格付に関して依拠する情報のすべてが正確かつ完全であることを確保すること
はできないことを、理解すべきです。発行体及びその助言者は、募集書類及びその他の報告書によりフィッチ及び市場に提供する情報の正
確さについて最終的な責任を有します。フィッチは格付の付与にあたり、財務諸表等に関しては独立監査人、法務・税務に関しては弁護士
といった専門家が任務を果たすことに依拠しなければなりません。さらに、格付は本質的に将来を見据えたものであり、事実として検証で
きない将来の事象に関する仮定や予測を含みます。その結果、格付は、現時点の事実を検証するにもかかわらず、格付付与又は据置時に予
想されない将来の事象や状況に影響されることがあります。
本資料に記載された情報は、いかなる表明又は保証もなしに「あるがまま」に提供されるものです。フィッチの格付は証券の信用力に関す
る当社の意見です。この意見は、フィッチが継続的に評価・更新している既定の格付基準及び手法に基づいています。従って、格付はフィ
ッチの集合的な成果物であり、個人又は個人からなるグループが、単独で格付に対する責任を負うものではありません。特別に言及されな
い限り、格付は信用リスク以外の要因によって生じる損失のリスクを含意するものではありません。また、当社はいかなる証券の販売又は
その勧誘も行いません。フィッチのすべてのレポートは、共有著作物です。フィッチのレポート上に記された個人は、レポート内で公表さ
れた意見に関わっていますが、単独でその責任を負うものではありません。照会先としての目的のためにのみ個人名が記載されています。
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受会社から格付手数料を受領しています。手数料は、一件の発行案件に対して 1 千米ドルから 75 万米ドル(米国以外の通貨に関しては、当
該国通貨に換算した額)の範囲内であることが一般的です。また、当社は年間一括手数料を受領し、特定の発行者による発行案件や、特定
の保険者又は保証者による保険、保証対象となる発行案件の全部又は一部について格付することもあります。その場合の手数料の金額は 1
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付与、公表又は情報の提供を行うことにより、米国証券法、2000 年英国金融サービス市場法又はその他の法域における証券法に基づいて作
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