パリ協定はビジネスの機会

公益社団法人
日本経済研究センター
Japan Center for Economic Research
2016 年 4 月 4 日
パリ協定はビジネスの機会
-気候変動リスク、海外で認識広まる-
日本経済研究センター
2016 年 3 月 22 日(火)に第 23 回会合を開き、2020 年以降の温暖化ガス削減目標を
国際的に定めた「パリ協定」を受けた地球環境問題への政策対応について政府関係者
を招き、議論した。気候変動リスクが高まっているとの認識が海外では広まっており、
投資も活発化している。日本もパリ協定を新ビジネスの機会と考える必要がある。議
論の要旨は下記の通り。
1. パリ協定は、すべての国に温暖化ガスの削減努力を求め、2030 年にとどまらず、
長期的に対策を前進させていく仕組みだ。世界では、気候変動リスクへの認識
が高まりつつある。05 年に米国へ上陸したハリケーン「カトリーナ」は死者 1200
人以上の被害になり、米政府は7兆円の補正予算を組んだ。世界銀行や主要国
の中央銀行、財務省が参加する金融安定理事会(FSB)では気候変動を金融
のリスクととらえ、情報開示方法を議論している。また環境リスクなどに配慮
して投資する「ESG投資」が急速に拡大、12 年は年間 13.3 兆ドルだったが、
14 年には 21.4 兆ドルに拡大した。
2. 国内対策も 30 年度に 13 年度比 26%削減だけでなく 50 年度に 80%削減を目標
にしている。従来の延長線上では難しく、革新技術の実用化には社会構造やラ
イフスタイルを変革することが不可欠になる。より戦略的な取り組みが必要だ。
3. 30 年度に温暖化ガスを 26%減らすには約3億㌧のCO 2 削減が必要であり、う
ち2億㌧は発電部門で削減する計画だ。石炭火力の新増設計画(約 1800 万 kW)
がすべて実行されると、削減目標を 6000 万㌧も超過する。政策対応として火力
の構成が石炭と天然ガスで1:1になるように求めている。日本では義務づけ
ていないが、米国では新しく石炭火力を建設しようとすると、CCS(CO 2 の
回収・貯留)の実施が必要になる。
4. 原発の再稼働は、再生可能エネルギーの普及までの時間的猶予になる。原子力
はエネルギーの自給・自立を求めて 50 年かけて電源の 30%を占めた。再エネに
は 50 年はかけられないが、コストが安くなるには時間が必要だ。
5. 競争力強化の対策が結果として環境にもプラスになることを広く啓発するべき
ではないか。各業界内にも意見対立があるが、長期の削減目標の意味(競争力
や生活の質の低下ではない)を業界や消費者へ浸透させることに力を注ぐべき
だ。温暖化防止の潜在マーケットは極めて大きく、巨大な投資が生まれ、新ビ
ジネス創出の機会になる。
- 1 -
日本経済研究センター
エネルギー・環境の未来を語るラウンドテーブル
「エネルギー・環境の未来を語るラウンドテーブル」メンバー
座長
岩田一政
日本経済研究センター理事長
座長代理
鈴木達治郞
日本経済研究センター特任研究員/長崎大学教授・核兵器
廃絶研究センター長
有識者
山地憲治
地球環境産業技術研究機構
植田和弘
京都大学大学院経済学研究科教授
橘川武郞
東京理科大学大学院教授
増田寛也
野村総合研究所顧問(元総務相・前岩手県知事)
伊丹敬之
東京理科大学大学院教授
竹内純子
国際環境経済研究所
小山
日本エネルギー経済研究所
堅
小西雅子
理事・研究所長
理事・主席研究員
常務理事・首席研究員
世界自然保護基金(WWF)ジャパン
気候変動・エネルギープロジェクトリーダー
枝廣淳子
環境ジャーナリスト
平田仁子
気候ネットワーク理事
日本経済団体連合会
経済団体
経済同友会
エレクトロニクス、エネルギー、化学、住宅、自動車関連、金融機関、
会員企業
商社、食品、IT、建設機械、エンジニアリング、建設、運輸・通信、
不動産など当センター会員企業 22 社
日本経済研究センター特任研究員/慶應義塾大学大学院
アドバイザー
小林光
事務局
小林辰男
日本経済研究センター主任研究員/政策研究室長
高地圭輔
日本経済研究センター主任研究員
特任教授・元環境事務次官
当ラウンドテーブルは、月1回のペースで開催、忌憚ない意見交換を促すため非公
開を原則とするチャタムハウスルール 1* で運営しています。
本稿の問い合わせは、研究本部(TEL:03-6256-7730)まで
※本稿の無断転載を禁じます。詳細は総務・事業本部までご照会ください。
―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
〒100-8066
公益社団法人 日本経済研究センター
東京都千代田区大手町1-3-7 日本経済新聞社東京本社ビル11階
TEL:03-6256-7710 / FAX:03-6256-7924
1
Chatham House Rule。英王立国際問題研究所に源を発する、会議参加者の行為規範である。
チャタムハウスルールを適用する旨の宣言の下に運営される会議においては、当該会議で得ら
れた情報を利用できるが、その情報の発言者やその他の参加者の身元および所属に関して秘匿
する(明示的にも黙示的にも明かにしない)義務を負うというルール。
- 2 -