邦人企業が要求するアラビア語スキル

邦人企業が要求するアラビア語スキル
Japanese Companies’Requirements of
Arabic Language Skills (Report)
鈴木 健
SUZUKI Ken
─ 85 ─
1. 調査の背景と目的
1.1 調査の背景 近年、多くの邦人企業がサウジアラビアやアラブ首長国連邦(以下U
AE)をはじめとするアラブ諸国[ 1 ]に現地事務所を設けている。
2005年の貿易統計によれば、サウジアラビアと日本の両国間の貿易総
額は約3兆5,000億円[ 2 ]にのぼる。進出する邦人企業も 50社を超える。そ
してサウジアラビアは日本への原油供給国の第1位であり、その割合は
年間原油輸入量の 26.5%に達している。サウジアラビアにとっても日本
は第2位の貿易相手国であり、自動車や電化製品などだけで 4,000億円近
い取引がある。2006年4月に発表された共同声明「日本・サウジアラビ
ア王国間の戦略的・重層的パートナーシップ構築に向けて」からも今後、
あらゆる分野でこれらの国々と関係が拡大かつ深化していくことは明白
である。
UAEにおいても、日本と 3兆3,000億円を超える貿易取引を行ってい
る。UAEはサウジアラビアに次ぐ第2 の原油供給国でその割合は約
24%である。1985年から 2000年までは実に 16年間にわたり日本への原油
供給の第1位であった。進出している日本企業は 2005年の段階で 150社
以上に上り、また、在住する邦人数も 1,600人を超えている。
GCC(湾岸協力会議)加盟諸国全体[ 3 ]では、日本は年間10兆円の貿
易取引を行っており、これは日本の総取引額の 8%に相当する[ 4 ]。しか
しながら原油取引に関して見るならば、日本は総原油輸入額の実に 75%
以上をGCC諸国に依存している。また、本年度よりGCC諸国とのF
[5]
交渉を開始し、更なる関係強化に努めている。
TA(自由貿易協定)
1.2 調査の目的
このような背景から、日本においてアラブ諸国とのビジネス推進に資
する人材の需要が拡大することが想定される。本調査では、アラビア語
のスキルを中心に、この分野において邦人企業が求める人材像・スキル
をつかむことを目的とした。アラビア語教育機関ならびに企業がニーズ
─ 86 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
に合致した人材育成を行う上での一助となれば幸いである。また、アラ
ビア語学習者にとって自己研鑽の指標となることを希求する。
1.3 調査の方法と期間 本調査では、まず語学に対する邦人企業の取り組みの一般的現状につ
いて調べた。次に、アラブ諸国との関係が深い 46 の邦人企業に調査票を
配布し、邦人企業が求める語学スキルについてアラビア語を中心として
調査した。回答は半数にあたる 21社から得られた。サンプル数が少ない
ことは否めないが、初めての試みであるということを考慮して読んでい
ただきたい。なお、調査期間は 2006年2月から同年5月までである。
2. 語学力に対する邦人企業の取り組み
2.1日本の語学教育の現状
言うまでもなく、日本において最も重要視されている語学は英語であ
る。第2次世界大戦後、ほぼすべての公立・私立の学校が中学校1年生か
ら英語教育を行ってきた。だが、実際に企業が求める語学スキルに到達
するには、不十分だと考える人々は多い。そこで、民間の語学教育施設
などに通って就職や、留学などの個々の目標に備えたりする。
国の政策を概観すると、文部科学省が国際社会に生きる人材育成のた
めに、「『英語が使える日本人』の育成のための行動計画」を 2003年に策
定しており、来年度までにその育成体制確立を目指している。英語以外
の外国語学習についても推進の必要性は明言しており、「高等学校におけ
る外国語教育多様化推進地域事業」において、現在は中国語推進地域と
して神奈川県、大阪府、和歌山県、長崎県の4府県、韓国・朝鮮語推進
地域として大阪府、鹿児島県の2府県を指定している[ 6 ]。しかしながら、
優先度は英語がはるかに高いことは明らかである。英語とその他外国語
の優先度の違いは、総務省統計局が2006年3月に発表した統計[7]において、
英語の学習者が英語以外のすべての外国語学習者の合計の 3倍以上であ
─ 87 ─
ることにも投影されていると考えられる。
日本においては、公共放送であるNHK[ 8 ]においてラジオとテレビで
「 ビジネス英会話 」 を含む、12種類もの英語の放送教育を行っている。英
語以外の語学に関して言えば、2006年度は、「アラビア語会話」を含む、
8 カ国語のプログラムが放送されている。アラビア語に関しては日常会
話に焦点をあてた内容となっている[ 9 ]。
他の言語に関しては、中国の急激な経済成長に伴い、中国語の学習人
口が、民間の語学教育機関や大学などの教育機関を含め、100万人を超過
している[ 10 ]。また、近年の韓流ブームの影響で、韓国語を学ぶ人々が増
加し、学習人口はおよそ 400万人と報告されている[ 11 ]。
2.2 語学力に対する企業の判断方法
邦人企業が、社員の語学力判断の参考とするものとしては、財団法人
国際ビジネスコミュニケーション協会[ 12 ]が日本で実施・運営している
TOEIC®( Test of English for International Communication )が最も一般
的であり、事実上、現在の日本企業の英語標準規格となっている。この
ため年間149万9,000人[ 13 ]が受験し、受験者数は 12年連続で過去最高を記
録した。今後も経済・社会のグローバル化を背景として、英語力の必要
性は益々高まるものと考えられる。それに伴い、2006年度は TOEIC テス
ト 151万人、TOEIC Bridge[ 14 ]は、12万4,000人の受験者数が見込まれて
いる 。 日本だけではなく、TOEIC は世界60 カ国で実施され、約450万人
が受験している。
TOEIC と並んで日本の企業が英語能力の判断基準としている英語検定
[ 15 ]
試験には、財団法人日本英語検定協会が行う、通称「英検」
が挙げら
れる。TOEIC では合否でなく 10点から 990点までの取得点数によって能
力が識別されるが、英検は級ごとに異なる試験が設定されており、どの
級に合格したかによって英語力が判別される[ 16 ]。
例えば、企業では入社時の採用基準として「TOEIC700点、
英検2級以上」
といった形で最低基準を設ける場合が多い。TOEIC が発表する語学力基
準(図1 )によれば 700点は、「 日常生活のニーズを充足し、限定された範
─ 88 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
囲内では、業務上のコミュニケーションができるレベル 」 とされている
[ 17 ]
。
アラビア語に関して言えば、上記のような検定試験などは 2006年現在、
存在していない。
図1 TOEIC スコアとコミュニケーションレベルとの相関表
出典:TOEIC Official Website http://www.toeic.or.jp/toeic/data/data05.html
2.3 企業が求める語学力のレベル
企業が求める語学力のレベルについて、ビジネスコミュニケーション
において現在最も重要視されている英語を例にとって検証した。
前出の国際ビジネスコミュニケーション協会が 2005年1月に行った調
─ 89 ─
査によれば、回答した企業506社における TOEIC スコアに関する期待値
と実際値は図2 のようなものであった。海外部門の社員には平均でも 666
点、最も高い企業では 800点をとることが期待されている。これは、
「ど
んな状況でも適切なコミュニケーションができる素地を備えている」と
いうレベルの語学力を意味している[ 18 ]。 1 年社員
海外部門
営業部門
技術部門
点
840
800
800
750
750
665
640
750
690
650
650
650
600
500
450
400
590
600
477
479
550
436
495
400
295
295
295
200
期待値
実際値
期待値
実際値
期待値
実際値
期待値
実際値
図2 TOEIC スコア期待値と実際値
出典:「第13回 TOEIC テスト活用実態報告」
( 2005年7月)
資料提供:(財)国際ビジネスコミュニケーション協会
同調査によれば、「 TOEIC スコアを社員採用時に考慮するか」という
問いに対して、
「考慮する」と回答した企業は半数以上を占め、
「考慮し
ていない。しかし将来は考慮したい」と回答した企業をあわせるとその
割合は約4分の 3 に上る。また、
「 TOEIC スコアを昇進・昇格の要件にし
ているか」という設問に対しては、
「要件としている」と回答した企業は
約2割にとどまったが、「要件としていない。しかし将来は要件としたい」
と回答した企業をあわせると半数近くに達した。
─ 90 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
無回答
36社
(7.1%)
要件としていない
今後ともその予定はない
219社
(43.3%)
要件としている
95社
(18.8%)
要件としていない
しかし将来は要件としたい
156社
(30.8%)
図3 TOEIC スコアを昇進・昇格の要件にしているか
出典:「第13回 TOEIC テスト活用実態報告」
( 2005年7月)
資料提供:(財)国際ビジネスコミュニケーション協会
中国語に関する動きとしては、近年、中国側と日本側双方の学習者、
教員、そしてビジネス界の人々からの強い要望をうけ、中国と日本の合
[ 19 ]
同試験(国際試験)として「中日通検」
が誕生したのは注目に値する。
先行モデルとしては英語・日本語間の通訳能力を証明する検定試験とし
て 1973年から 33年間にわたり行われてきた通訳技能検定試験(略称「通
検」)がある。
「中日通検」は、日中間のより良いビジネスと交流の進展の
ために、コミュニケーションとしての語学能力や異文化理解度を検定す
るものである。「 中日通検 」 は、「 プロの会議通訳者(通訳士)」 を認定す
る 「 専門通訳者認定試験( CILE )
」 とビジネスや市民交流に役立つコミュ
ニケーション能力を検定する「ビジネスコミュニケーション試験(BCT)」
と2つに大別されている。BCTは、初級レベルの一般的コミュニケーショ
ン能力を計る「 2級認定試験」とビジネス分野のコミュニケーション能力
を計る中級レベルの「 1級認定試験」にさらに分かれている[ 20 ]。
2.4 語学力向上に対する企業の取り組み
次に社員の語学力向上に企業がどのような取り組みをしているかに関
し、これまでに発表されている調査結果をいくつか紹介したい。
まず松下電器産業では、1960年代より、積極的なグローバル人事戦略[ 21 ]
─ 91 ─
に取り組んでいる。同社においては、語学はコミュニケーションツール
として全社員の必須のスキルと位置づけられている。
次に 2002年3月に大阪府立産業開発研究所[ 22 ]が行った「大阪の卸売業
のグローバル化への取り組みに関する調査」である。回答した 296社の内
の 9割が自社内に「外国語で商談のできる社員がいる」と答えた。そして
「事業のグローバル化に取り組む上で基盤となるのは人材である」と回答
した。一方で、回答した 9割の企業の 3割強が「海外ビジネスの為の外国
語や実務に優れる人材が不足している」と回答した。
そして前出の国際ビジネスコミュニケーション協会が 2005年7月に発
表した第13回 TOEIC テスト活用実態報告書によると、企業・団体を対象
に調査した結果、回答企業506社中4割近い 198社が社内の英語研修に、
過半数の 294社が自己啓発に TOEIC を利用していることがわかった。6
割強の企業が受験費用を全額負担していることからも、TOEIC を積極的
に英語研修カリキュラムに取り組んでいる姿勢が見えるといってよいで
あろう。
3. 邦人企業が求めるアラビア語スキル
本章では、今回アラブ イスラーム学院が行った調査「邦人企業が要求
するアラビア語スキルについて」の結果を報告する。調査対象群として、
アラブ諸国と関係が深い邦人企業46社を選択し、調査票を配布した。回
答は半数弱にあたる 21社から得られた。なお、回答企業の業種は大きく
分けて以下の 9 つに分類[ 23 ]することができる。これらの企業は、サウジ
アラビア、UAE を中心に合計53 の事業拠点(支店、事務所、工場など)
を有している(表1)。
① 石油開発
② 化学
③ 建設
④ 石油
⑤ 鉄鋼
⑥ 電気機器
─ 92 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
⑦ 機械・輸送機器
⑧ 商業
⑨ 電力・ガス
表1 回答企業21社に関するアラブ諸国事業拠点数
事務所
サウジアラビア
UAE
クウェート
エジプト
カタル
オマーン
バーレーン
ヨルダン
リビア
イエメン
合計
4
3
2
2
1
1
0
1
0
0
14
関係
会社
3
2
1
0
1
0
0
0
0
0
7
合弁
会社
1
0
0
0
0
0
0
0
1
0
2
支店
工場
0
1
0
0
0
0
0
0
0
0
1
1
0
0
0
0
0
0
0
0
0
1
プロジェ その他
クト現場
3
9
0
4
0
1
0
2
1
1
1
1
1
1
0
1
0
1
1
0
7
21
合計
21
10
4
4
4
3
2
2
2
1
53
3.1 アラビア語
3.1.1 人材評価におけるアラビア語スキルの位置づけ 人材の採用時の語学スキルの取り扱いについて、まず「貴社への就
職希望者がそのアラビア語スキルをアピールした場合、評価の対象とし
ますか?」という質問に、「はい」または「いいえ」の二者択一で回答を求
めた。結果は 21社中11社( 52.4% )が「いいえ」と回答、
「はい」と回答し
た 10社( 47.6% )をわずかながら上回った(図4 )
。社内に活用部署を有し
ている 11社( 3.1.3参照)に限ってアラビア語スキルをアピールする就職
希望者に対する評価を調べたところ、6社( 55% )が評価の対象とすると
回答していた。さらに興味深い点として、評価の対象としないと答えた
残りの 5社のうち、すくなくとも2社はそのようにアピールする就職希
望者がビジネスで役に立つアラビア語が身についているとは思っていな
いことがわかった。設問設計の不備により、精度の高い統計値としては
通用しないものの、傾向値としての意味はあるものと思われる。
─ 93 ─
図4「貴社への就職希望者がそのアラビア語スキルをアピールした場合、評価の対象とし
ますか?」
(有効回答数21 )
補足質問として、評価の対象となる経歴を尋ねたところ、「外国語大学
アラビア語学科卒.アラブ諸国での留学経験、駐在経験」、「外国語大学
アラビア語学科卒が考慮の対象にはなる(評価の対象とは限らない)
」
「実
際にアラビア語が使えるかどうかが重要と考えます。経歴(語学の)には
こだわりはありません。」などの回答が得られた。
次に「アラビア語を事前に学習していることは、アラブ諸国を担当す
る判断材料となりますか?」を同じく二者択一で質問した。結果は 21社
中14社( 66.7% )が「はい」と回答、
「いいえ」と回答した 7社( 33.3% )を
上回った(図5 )。
図5「アラビア語を事前に学習していることは、アラブ諸国を担当する判断材料となります
か?」
(有効回答数21 )
─ 94 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
また、「 2006年現在、アラビア語には公式的な検定試験などが存在し
ま せ ん。 ア ラ ビ ア 語 に も 客 観 的 な 評 価 の 基 準( 例 え ば ア ラ ビ ア 語
TOEIC )があればよいと思いますか?」との設問には、有効回答19社の
うち、8割近い 15社( 78.9% )が「はい」と回答した(図6 )。
図6「 2006年現在、アラビア語には公式的な検定試験などが存在しません。アラビア語に
も客観的な評価の基準(例えばアラビア語 TOEIC)があればよいと思いますか?」
(有
効回答数19 )
3.1.2 アラビア語人材の育成
「貴社ではアラビア語研修を実施していますか?」という質問に対
し、21社中17社(81.0%)が「いいえ」と回答、
「はい」と回答した 4社(19.0%)
を大幅に上回った(図7 )。
図7「貴社ではアラビア語研修を実施していますか?」
(有効回答数21 )
─ 95 ─
「はい」と回答した 4社のうち1社は自社で独自に作成したプログラム
による研修を、残り3社は社外の語学教育機関などが作成したプログラ
ムによる研修を行っていることが明らかになった。また、研修を行って
いる場所については国内が2社、アラブ諸国が2社と同数であった。研
修時期としては入社直後に2社、残り2社はアラブ諸国への赴任時など、
業務上必要になったときに行っていることがわかった。研修には4社中
3社が半年以上の期間をあてており、最長では2年間に及んでいる。こ
れらの研修の対象となるアラビア語は4社中3社ではフスハー(正則アラ
ビア語)であり、のこり1社がフスハーとアーンミーヤ(アラビア語方言)
の両方としていた。最後の「アラビア語研修の成果は出ていると感じま
すか?」との設問には、4社中3社が、「はい」と回答した。「いいえ」と
回答した1社は、短期研修では挨拶程度しかできるようにならないこと
を、その理由として挙げた。
3.1.3 アラブ諸国担当者に求めるスキル
「アラブ諸国に関連したプロジェクトの担当者に、どのようなスキルを
どの程度求めますか?項目ごとに評価してください」との質問により、
各スキルの必要レベルを5段階の点数制で評価するよう求めた(1:不
要、3:どちらでも構わない、5:必要である)
。結果を 5点満点の加重
平均値として表2 にまとめた。通訳、翻訳、交渉、パソコン、そして文
化理解の5分野において計13 の選択肢を設けたところ、その中で際立っ
て高得点( 4.4点)であった項目が「 13. アラブ・イスラーム文化の理解」
であったことは特筆に価するであろう。ワード、エクセルといった基本
的なパソコンスキル( 3.3点)とアラビア語通訳を介さない折衝( 3.0点)
がこれにつづく。アラビア語の通訳・翻訳に関してはすべての選択肢が
3点(どちらでも構わない)を下回った( 2.4 ∼ 2.8点)。しかし、後続の
質問「どのような業務でアラビア語人材が活用されていますか?」という
自由記入式の設問に対して、記入のあった 20社のうち半数の 10社が、人
材がいない、または該当部署がない、と回答していることから選択点数
が低めに誘導されている可能性がある。ここでは個々の点数よりもアラ
─ 96 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
ビア語関連スキルのうちもっとも重視されているのが、直接的な折衝力
であるということに留意すべきであろう。企業が求めているアラビア語
スキルは日常会話レベルではなく、会議や契約交渉などを含む日常業務
における折衝をアラビア語で行えるレベルである。換言するならば専門
分野に関する知識や、交渉相手の論理や考え方の背景(多くの場合イス
ラームに基づいているといえよう)を理解した上で、アラビア語を駆使
した会話展開ができるきわめて高度なレベルである。これは、英語の
TOEIC において企業が求めるスコアレベルと同等のものであり、どんな
言語であれ、ビジネスでの活用にはこのレベルが必要であることが類推
できる。
表2 アラブ諸国関連プロジェクトの担当者に求めるスキル
合計点 有効回答数 平均点
スキル種類
1.通訳 日本語 → フスハー
2.通訳 フスハー →日本語
3.通訳 日本語 → アーンミーヤ
4.通訳 アーンミーヤ → 日本語
5.翻訳 日本語の新聞記事→アラビア語
6.翻訳 アラビア語の新聞記事→日本語
7.交渉 アラビア語でプレゼンテーション
8.交渉 アラビア語通訳を介さない折衝
9.PC アラビア語タイピング全般
10.PC ワード・エクセルの活用
11.PC パワーポイントでプレゼン用資料を作成
12.PC アラビア語検索エンジンの活用
13.アラブ・イスラーム文化の理解
(A)
51.0
52.0
48.0
48.0
53.0
55.0
57.0
59.0
49.0
65.0
65.0
51.0
88.0
(B)
19
19
20
20
20
20
20
20
20
20
20
20
20
(A/B)
2.7
2.7
2.4
2.4
2.7
2.8
2.9
3.0
2.5
3.3
3.3
2.6
4.4
※合計点は選択された必要度点数の合計
3.2 アラブ諸国関連業務・プロジェクトの担当者に求められる諸要素
本章では、アラビア語スキル以外の要件に関して調査結果を報告する。
3.2.1 担当者選定時における考慮点
「アラブ諸国関連の業務・プロジェクトの担当者を選ぶ際、どのような
要素を考慮しますか?重要度の高い順に番号をつけてください(空欄に 1
─ 97 ─
から 4 の数字をご記入下さい)
」との質問により、①語学スキル、②担当
する業務・プロジェクトへの専門性、③アラブ諸国での滞在経験、④体力、
の 4 つの要素の優先順位を調査した。21社からの回答を元にそれぞれの
要素の優先順位をポイント化(最も重要とされた場合は 4点、最も優先順
位が低いとされた場合は1点として合計点を算出)した結果、もっとも
重視される要素は②担当する業務・プロジェクトへの専門性( 80点)、つ
いで①語学スキル( 54点)
、
④体力( 41点)
、
③アラブ諸国での滞在経験( 35
点)の順であった(図8 )。
図8 アラブ諸国関連の業務・プロジェクトの担当者選定の際の要素別優先度(有効回答数
21 )
※重要度の最も高いものを4点、もっとも低いものを 1点とし、各考慮点別の 21社合
計点を算出
これを優先順位別の要素内訳で見ると図9 のようになる。もっとも重
要なものとして選択されているのは②担当する業務・プロジェクトへの
専門性( 18社)と①語学スキル( 3社)の 2 つであり、他の選択肢は選ばれ
なかった。
─ 98 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
3
1位
語学スキル
18
担当業務の
専門性
11
2位
2
3
アラブ諸国
滞在経験
5
体力
2
3位
1
8
5
4位
0%
10
10
25%
50%
6
75%
100%
図9 アラブ諸国関連の業務・プロジェクトの担当者選定の際の優先順位別考慮点比率(有
効回答数21 )
上記語学スキルについての追加質問として、「アラブ諸国関連の業務・
プロジェクトの担当者は、英語とアラビア語の各スキルについてどのよ
うにお考えですか?」とし、5 つの選択肢からひとつを選んでもらった。
その結果は、21社中16社( 76.2% )が、「基本的に英語だが、アラビア語
ができればなおよい」と回答し、残り 5社( 23.8% )は「英語のみできれば
よい」と回答した。他の 3 つの選択肢である「アラビア語のみできればよ
い」、「基本的にアラビア語だが英語ができればなおよい」および「アラビ
ア語も英語も必要ない、日本語で十分」を選んだ企業はゼロであった(図
10 )。
図10 アラブ諸国関連の業務・プロジェクトの担当者の英語・アラビア語スキル(有効回答数21 )
─ 99 ─
さらに英語スキルのとりあつかいに関しては、「採用について、評価の
対象となる英語のスキルの程度は?」との質問に複数選択可能式で回答
してもらったところ、下記図11 の通り、4分の 3以上にあたる 21社中16社
( 76.2% )が英語資格試験の成績と答えている。これは 2 で述べた TOEIC
や英検が、今回の調査対象企業においても採用時の基準となっているこ
とを示唆している。
図11採用の際に、評価の対象となる英語のスキルのレベルは?」
(有効回答数21 )
補足として参考にしている資格試験とその基準となる成績を尋ねたと
ころ、TOEIC について下図12 に示す結果を得た。基準点を設定している
13社のうち 10社が、700点以上を求めており、これはアラビア語を学び、
ビジネスの現場で役立てたいと希望している学生にとって乗り越えるべ
きひとつのハードルと考えることができるだろう。
─ 100 ─
邦人企業が求めるアラビア語スキル
点
∼599
1
600∼699
2
700∼799
7
800∼899
2
900∼
1
0
2
4
6
8
企業数
図12 採用時に基準としている TOEIC のスコア(有効回答数13 )
3.2.2 アラビア語・英語の各スキルの関係
最後に、アラビア語と英語のスキルの重要度を図13 に示す 4種のスキ
ル別に 1 から 5点で評価してもらった( 5:必要、3:どちらでも構わない、
1:不要である)20社からの回答に関して評価点数の平均を求めたところ
下図13 の結果を得た。ここからも再び、英語が前提条件であり、アラビ
ア語は付加的スキルと位置づけられていることがわかる。
図13 各スキルにおける英語とアラビア語での重要度比較
─ 101 ─
4. 今後の課題
以上の調査結果より、邦人企業に資するための今後の課題が浮き彫り
にされた。まず、邦人企業が求めるアラビア語スキルについて具体的に
識別し、現在のカリキュラムが目指しているものとのギャップを正しく
認識すること。次にその結果に基づいた明確な目標設定の上で、アラビ
ア語の教育カリキュラムを策定すること。この過程において、企業にお
ける先進的なアラビア語研修の事例研究が可能となれば、益するところ
大であろう。産学が協力してカリキュラム開発・人材開発に取り組める
ことを祈願する。
また、企業・学習者双方が習熟度の指標として活用できる検定試験の
創設が図られるべきである。
さらには、前述の取り組みと平行して、アラビア語がもたらす効用を、
ビジネスにおける成功事例研究などを踏まえた広報活動によって、広く
認知されるよう努力することも重要である。これにより、企業はアラブ
諸国とのビジネス成功要因を具体的に検証できるとともに、アラビア語
を学ぶものは目指すべきひとつの山頂の姿を見ることができるであろう。
これら 4点は、いずれも、地道で継続的な努力を必要とするが、この
枠組を強固にしておくことが、長く将来にわたって企業とアラビア語教
育機関、ならびにその学習にとって、相乗的かつ相互的利益をもたらす
ことを確信する。
謝辞
本研究を行うにあたり、日本サウジアラビア協会、(財)中東協力セン
ターの皆様には大変お世話になりました。そして、ご回答いただいた企
業の皆様のご協力がなければ本論文は書くことはできませんでした。深
く感謝の意を表したいと思います。
また、本調査のために色々な働きかけをしてくださった在日本サウジ
アラビア大使館のファイサル・ビン・ハサン・トラッド大使に深く感謝
の意を表させていただきます。ありがとうございました。
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邦人企業が求めるアラビア語スキル
注釈
[ 1 ]アラブ連盟加盟国の 22 ヶ国を指す。
[ 2 ]日本原子力文化振興財団からの提供データに基づく。
[ 3 ]サウジアラビア王国、アラブ首長国連邦、バーレーン、オマーン、カタール、クウェー
トの 6 ヶ国を指す。
[ 4 ]財務省貿易統計、国別総額表2005年度12月を合算。
http://www.customs.go.jp/toukei/download/2005/12/d12/d12h05e001.pdf
2006年8月20日採取
[ 5 ]二国間または地域間(多国間)の協定により、モノの関税や数量制限など貿易の障害と
なる壁を相互に撤廃し、自由貿易を行なうことによって利益を享受することを目的と
した協定のこと。さらに現在では、モノだけでなく、サービスや投資なども含めたよ
り広範囲な分野での取引の自由化が含まれる。
[ 6『平成17年度 文部科学白書』
]
2006年3月、pp. 373-374。
[ 7 ]総務省統計局『日本の統計2006 』、2006年3月、p. 330。
[ 8 ]日 本 放 送 協 会( Nippon Hoso Kyokai )の 略。 英 文 名 称 と し て“ Japan Broadcasting
Corporation ”も用いられる。
[ 9 ]中国語、フランス語、イタリア語、アラビア語、韓国語、ドイツ語、スペイン語、
ロシア語の 8 ヶ国語。
[ 10 ]人民網日本語版 People ’s Daily Online、2004年8月3日付
http://j.people.com.cn/2004/08/03/jp20040803_41962.html
2006年8月20日採取
[ 11 ]韓国文化院 HP、『日韓友情年2005記念事業フォーラム なぜ韓国語を学ぶ若者がふえ
ているのか 結果報告書』より引用。
http://www.koreanculture.jp/Forum2005Miinutes_report.doc
2006年8月3日採取。
[ 12 ]グローバルビジネスにおける円滑なコミュニケーションの促進を目的として、1986年
2月に通産省の認可を受けた公益法人として設立された。
[ 13 ]TOEIC Official Website in Japan 発表
http://www.toeic.or.jp/toeic/
2006年7月20日採取。
[ 14 ]基礎的なコミュニケーション英語能力を評価する世界共通のテスト TOEIC への架け
橋として生まれた初中級者向けのテスト。
[ 15 ]英検の最高位である1級は、最年少は 11歳、最年長は 74歳の方が受験し、合格した。
5級に至っては、最年少記録は 3歳。2005年は約250万人が受験し、ほぼ半数にあたる
130万人が合格した。
[ 16 ]5級から 1級までの 7段階( 1級、準1級、2級、準2級、3級、4級、5級)に分かれている。
[ 17 ]TOEIC Official Website in Japan、『 TOEIC スコアとコミニュケーションレベルとの
相関表』を引用。
http://www.toeic.or.jp/toeic/about/about03.html
2006年8月4日採取。
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[ 18 ]前掲、TOEIC Official Website in Japan、『 TOEIC スコアとコミニュケーションレベ
ルとの相関表』より引用。
[ 19 ]2005年の春、秋の計2回の試験で合計675名の受験者を得て、372名の合格者(ビジネス
コミュニケーション試験・各級の合計)を輩出。
[ 20 ]中日通検 Official Website より引用。
http://jipta.net/cj/html/about.htm
2006年10月3日採取。
[ 21 ]前掲、TOEIC Official Website in Japan、
『 TOEIC News Letter 』を参考。
http://www.toeic.or.jp/toeic/data/data03.html
2006年8月3日採取。
[ 22 ]大阪産業の再生を目指す、経済・経営の調査研究機関。
[ 23 ]
(財)中東協力センターの分類に準拠
著者略歴
鈴木 健
SUZUKI Ken
1978年仙台生まれ。1997年、アメリカ合衆国オハイオ州
フーバー高校卒業。2004年、東京国際大学大学院国際関係
学研究科にて修士号を取得。大学院在籍時は同大学にて補助
教員として働く。その後、外務省派遣「日本・サウジアラビ
ア王国青年交流使節団」メンバーなどを経て 2004年に財団
法人昭和経済研究所 アラブ調査室に入所。アラブ イスラー
ム学院「日本・サウジアラビア国交樹立50周年特別プロジェ
クト」研究員を兼任。2005年12月、アラブ調査室を退所し、
現在、アラブ イスラーム学院文化・研究部研究員。アラブ
石油戦略懇話会会員。
「豊根村・サウジアラビア王国交流促
進委員会」アドバイザー、東京事務局長。
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