APPROACH 71号 - 一般財団法人海外産業人材育成協会

vol.71
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2012年11月2日
APPROACH
編集責任者:JODC事業部 派遣業務部長 中村 比呂志
http://www.hidajapan.or.jp/jp/pr/approach/index.html
▲バックナンバーが閲覧できます。
今回は専門家育成事業の特集号です。
専門家育成事業について
立野 宏季若手専門家(ベトナム)
内藤 俊児若手専門家(インドネシア)
橋本 幸太若手専門家(中国)
大竹 寿仁若手専門家(インドネシア)
小川 智弘若手専門家(中国)
波多野 綾一若手専門家(フィリピン)
APPROACHは、(財)海外産業人材育成協
会(HIDA)の専門家として海外各国で活躍さ
れている方々の指導現場での貴重な体験談を
掲載しております。
と飲み会を開く内に(ベトナムの人はお酒が強く、私は寝
1.専門家育成事業の紹介
てしまうこともありましたが)徐々に打ち解けていき、現地
海外の新興市場の急成長や経済のグローバル化に伴い日
本の中小企業において海外展開・海外現地法人の競争力強
スタッフからも挨拶をしてくれるようになりましたので、私
からは、日本語の挨拶の仕方を教えました。
化、国内では若手人材における内向き志向対策が重要な課題
となっています。
そこで当協会では、我が国中小企業の若手人材に海外経験
(技術指導・調査業務)を積ませることにより、将来の海外現地
法人の中核を担い、世界で活躍できる若手人材へと育成する
ため「専門家育成事業」を平成23年度に初めて実施致しまし
た。本事業では、以下のような工夫を凝らして特徴ある事業を
試みました。
① 派遣前に4泊5日の合宿型研修(異文化コミュニケーション
▲現地スタッフとの飲み会の様子
等)を実施 ② 派遣中には現地ベテラン技術者の指導方法を
教えていると、日本語に興味が出てきたようで、日本語
身近に観察しながら自身も技術指導を体験 ③ 併せて、現地
をもっと教えて欲しいと言われました。そして、日本語を
企業を取り巻く産業環境、政府の施策等の調査も体験
教える代わりにベトナム語を教えてもらうことになりまし
参加企業、参加者からは大変好評をいただきました。本事業
に参加した6名の若手専門家の経験談を紹介します。
2.立野 宏季若手専門家 Mr. Hiroki Tateno ベトナム・ビンズン省
派遣期間: 2011/11~2012/5 指導内容: 金型 の仕組 みとメンテナンスに関 する技術指 導
調査内容: 現地調達先(プレス加工後の後処理加工
業者)に関する調査
現地スタッフとのコミュニケーション
赴任した先の受入企業はインサート成形や精密板バ
ネ部品を製造しています。まず初めにしたことは、現地語
であいさつからコミュニケーションを図ったことです。最初
は「シンチャオ」と挨拶をしても返事が無かったり、こちら
から挨拶をしないとしてくれないなど、コミュニケーション
が取れませんでしたが、休憩時間や仕事の始まりと終わ
り時間に片言のベトナム語で話しかけたり、現地スタッフ
た。そうしたところ、私が半年経ってもあまりベトナム語を
理解できなかったのに対して、現地スタッフの上達ぶりは
早く、日本語である程度の会話が出来る様になりました。
3.内藤 俊児若手専門家 Mr. Shunji Naito インドネシア・チカラン
派遣期間: 2011/11~2012/5 指導内容: ローカル技術者へのしぼ加工技術の指導
調査内容: 自動車関連の日系自動車メーカー、部品メ
ーカー及び金型メーカーの市場動向調査
現地スタッフの心をつかむ方法
インドネシアへ指導体験・調査体験のためのプログラ
ムに参加するということで、私は海外生活で大切なことは
言葉だろうと思い、インドネシア語会話の本を12冊購入し
て、今回、技術指導する受入企業に赴きました。私が滞
在する場所は、首都ジャカルタから東方約30kmに位置す
るチカラン地区という地で、そこで指導を行いました。到
現地スタッフとのコミュニケーション
着後、最初の壁は言葉でした。現場で技術的な打ち合わ
自分自身、以前中国に留学していたこともあり現地スタ
せをする際、相手の話していることを理解しなければ指
ッフとのコミュニケーションは特に問題はありませんでし
導になりません。インドネシアに赴任してから会話の本を
たが、逆に現地スタッフの方が日本語を学びたいという意
片手に持ち、独学で勉強。必死でインドネシア語を学びま
欲がとても強く、講師として私に日本語講座を開いてほし
した。最初は言葉の違いもあり、指導に戸惑いがありまし
いという声がたくさんあり、驚きました。そのため、週2回
たが、現地スタッフの積極的な受講姿勢のおかげで、す
の割合で希望者を集め、現地の日本人駐在者にも協力
ぐにスムーズな指導を行えるようになりました。
して頂きながらゼロからの日本語講座を始めました。主
また、上司、現地の女性スタッフからはインドネシア語
に会話中心に進めていきましたが、この講座を通じて現
の発音を習いました。そして、仕事後は現地スタッフと食
地スタッフとの距離が近くなり、改めて私自身も人に指導
事に行ってコミュニケーションを図ったり、積極的に現地
する難しさを体験出来たため、いい場が作れたと感じて
スタッフに話しかけ、楽しい時間を過ごすことも出来まし
います。
た。どのようにすれば、現地スタッフと心をひとつにしてモ
ノづくりが出来るのか・・・。とても悩みましたが、コミュニ
ケーションを重ねていく中で、単純に指示をするだけでな
く、一緒になってひとつのモノをつくっていくという意識を
強く持とうと決心しました。どんなに時間がかかっても通
訳を介さず、直接自分の言葉で目的を伝えることを徹底、
コミュニケーションを重ねるうちに、相手の考えも理解す
るようになり、技術指導はよりスムーズになりました。
▲受入企業の様子
また、現地スタッフの日本語習得に対する熱心な態度
に、私自身いい刺激を受け、こちらも見習う点が多々ある
ことに気づかされました。ちなみに、私の帰国後も日本人
駐在者の方々が引き続き協力して、日本語講座を行って
くれていると聞いて非常にうれしく感じました。
現地スタッフとの交流
▲受入企業の様子(左端が内藤若手専門家)
私の派遣先の受入企業では各部署に毎月交流費とい
当初は重責を果たそうという気負いから、現地スタッフ
うのが出ており、その予算で退社後、何度か現地スタッフ
の心情を考えず、強引に指導を進めたこともありました
が集まり一緒に食事に行きました。私の所属していた部
が、現地スタッフから『それでは誰もついてこない』と言わ
署はとても纏まりがあり、プライベートを含め、その場で
れ、悩む日々が続いたことを今でも覚えています。
お互いに悩みなどを相談したりしていました。こちら中国
インドネシアで技術指導という貴重な体験が出来まし
では乾杯は一般的に飲み干さなければ失礼にあたるた
た。この半年で学んだことを今後の仕事に活かしていき
め、一度乾杯が始まるとお酒があまり強くない私にとって
たいと思います。
は人数分の乾杯はとても厳しく大変でした。
4.橋本 幸太若手専門家 Mr. Kota Hashimoto 中国・広州
派遣期間: 2011/11~2012/5 指導内容: 各種電子基板の製造及び品質管理に関す
る指導
調査内容: 製 品 の顧 客 評 価 と他 社 の動 向 に関 する調 査
ただ、このような食事会を通じて、普段交流が少なかっ
た現地スタッフと仲良くなれ、現地のいろいろなことが聞
けたので、とてもいい交流の場でした。
また、非常に珍しかったのが、会社が毎月、誕生月の
現地スタッフに誕生会を行っていたことです。実際に私も
参加させてもらいましたが、皆でケーキを食べ、粗品をプ
レゼントしていました。その場でも、現地管理者と現地ス
タッフとの交流が図られており、現地スタッフとのコミュニ
は言葉が話せなくても、なんとかなるものだなと、今回の
ケーションを大切していることが感じられました。
赴任を通して強く感じました。
▲誕生会の様子
5.大竹 寿仁若手専門家 Mr. Hisato Otake インドネシア・ブカシ
▲受入企業の様子(手前が大竹若手専門家)
休日の過ごし方
インドネシアでの休日は主にゴルフをして過ごしていま
派遣期間: 2011/11~2012/5 した。経験者の方の話しによると「日本と比べてコースの
指導内容: 自動車部品鋳造工程における品質改善及
アップダウンも少なく、初心者でも気軽に始められる」との
び生産性向上
こと。赴任前まではゴルフ経験の無かった私もゴルフの
調査内容: 現地部品サプライヤーの品質・設備・生産能
練習に行く様になり、コースデビューもしてきました。ゴル
力等の実態調査
フの才能が無いのか中々上達はしませんでしたが、ゴル
フを通じて受入企業や近くの企業、JODCの先輩、他業種
現地スタッフとのコミュニケーション
の同年代の方等、普段はあまり接点の無い様な方とも一
海外へ赴任された殆どの方がまず最初に言葉の問題
緒にプレーすることができました。ゴルフ以外でも色々な
にぶつかると思います。今回の赴任が初めてのインドネ
お話しをすることができたのでゴルフを始めて良かったな
シアになる私も同じでした。旅行であれば、通じない・わ
と思いました。ゴルフをしない時はジャカルタ市内へ買い
からないことがあっても、その場をしのげればそれで済む
物に行ったりもしました。いつもの通勤からそうですが、イ
かもしれませんが、仕事となるとそうはいきません。赴任
ンドネシアの渋滞は日本とは比べものになりません。3車
前にも少しインドネシア語を勉強していましたが、簡単な
線の道に車が5台並び、その隙間を縫ってバイクが走っ
挨拶程度しか覚えておらず、「Selamat Pagi(おはよう)」と
て行くのも日常茶飯事です。みんなが我先にと進もうとす
言ったはいいものの、その後に何も言葉が出てこない状
るので、車間距離は殆どありません。秩序が無い様であ
態でした。そこで私がしたのは、1冊のメモ帳と辞書を常
るのか、これで事故が起きないのが不思議だなといつも
に持ち歩く様にし、現地スタッフが発する言葉に
思っていました。そんな渋滞を抜けて、モールに辿りつく
「apa(何)?」と言いながら単語を教えてもらうことでした。教
と、高級ブランド店や電化製品、スポーツショップ、日本食
えてもらった単語を辞書で調べ、理解できたら次にメモ帳
料理等の並ぶ、日本と大差の無いモールの規模に驚き
に記入する。この作業を繰返してインドネシア語を少しず
ます。日本と比べて安く手に入る物が多いため、ついつ
つ覚えていきました。自作の単語帳であるため、微妙な
い買い過ぎてしまうこともありました。日本にある物がす
言葉のニュアンスの違いや、この場面ではこれを使うとい
べて手に入る訳ではありませんが、思った以上に発展し
った違いもわかりやすく、赴任終了時まで重宝しました。
ているインドネシアにとても驚きました。
初めは自分の考えをスムーズに伝えることができず苦
労しましたが、徐々に伝わる様になってくると、現地スタッ
6.小川 智弘若手専門家 フも理解できたことが嬉しかった様で、「もっと教えて欲し
中国・北京市
い」と言ってくる様になりました。言葉を徐々に覚えてくる
派遣期間: 2011/11~2012/5 と簡単なコミュニケーションが取れる様になり、最後には
指導内容: 配線作業及び資材調達に関する指導
現地スタッフと冗談が言い合える様にもなりました。最初
調査内容: 中国製部品の品質及び価格調査
Mr. Tomohiro Ogawa 現地スタッフとのコミュニケーション
今回の派遣が決まる前から少し勉強をしていたのです
とです。特に技術指導については、やって見せてその通り
できることをチェックすることが大事です。
が、実際に中国に行き現地スタッフと話そうとしてみまし
あとは歯止めの意味で、書いたものを作成しておくこと
たが、全然会話になりませんでした。最初は、ジェスチャ
も大事です。今回、英文の作業指示書と作業マニュアルを
ーや絵を書いてみるなどいろいろ試しましたが、派遣から
作成してきました。
1ヵ月後、もっと現地スタッフとコミュニケーションをとりた
いと思い、先生を探してもらい、北京で中国語の勉強を始
めました。単語や普段使えそうな言葉から勉強していきま
した。また習った言葉を現地スタッフに向かって言ってみ
ることで、それまで話したことのなかった現地スタッフとの
会話がわずかですが出来る様になっていきました。
今、振り返ってみると現地で勉強したことにより、派遣
期間をより充実した日々をおくるための要素になった気
がします。自分が中国語を勉強している姿を見たのか分
▲受入企業の工場外観
かりませんが、現地スタッフも日本語の勉強を始めたり、
自分にも日本語の発音を聞きに来てくれたりと、だんだん
コミュニケーションが増えていきました。それ程、上達した
訳でもないですが、コミュニケーションをとっていく上で非
常にためになりました。
7.波多野 綾一若手専門家 最近受入企業(指導先企業)で起こった出来事
派遣期間の最後の月に新しい日本人向けの寮が完成
しました。これは受入企業の10周年を記念して迎賓館を
兼ねた寮で、日本から来られたお客様や出張者、駐在員
Mr. Ryoichi Hatano フィリピン・バタンガス
派遣期間: 2011/11~2012/5 指導内容: 金型部品製作計画の立案と指導法/生
が宿泊する施設です。予定より完成が1ヵ月ほど遅れまし
たが、早速入居させて貰いました。今まで住んでいた借
家の寮に比べると、立派なお風呂も付いていて、遥かに
快適でした。
産改善の手法と指導法/金型設計のノウハウ指導
調査内容: 東南アジアにおける工作機械の動向と比国
内実績比較
現地スタッフとのコミュニケーション
今回、専門家育成事業でフィリピンの子会社に行く機
会を与えて戴きました。海外に出かけたのは今回が初め
てで、指導する上で一番苦労したのは現地スタッフとのコ
ミュニケーションでした。英語が流暢であれば問題はあり
ませんが、そうではないため、いろいろと工夫をしました。
まずは英語で単語を言いながら身振り手振りで意思を
伝える方法です。仕事上のコミュニケーションでは、技術
▲新しく完成した寮
用語も英語で知っている単語が多いので、英語が分かる
そのほかフィリピンの生活に関して少し話をします。食
フィリピンの人には伝えやすかったです。しかも技術的な
べ物は川の魚が多かったです。少し土臭い匂いがしまし
話では、図面という万国共通の媒体が極めて効果を発揮
たが、味は美味しかったです。休みの日は食料の買い出
します。図面の一部を指し示しながら、身振り手振りをす
しや買い物に行くことが多かったです。
れば大体通じます。
もう一つの方法は 日本語がわかるローカルスタッフの
リーダーの助けを借りて指導対象者に実地指導をするこ
若いうちに海外に行ける機会は少なく、今回は大変良い
経験になりました。 こういう機会がもっと増えるように、国
での予算を考えて戴きたいと思います。