ブロードバンド ビジネスと 著作権

政
策
調
査
室
だ
よ
り
1
Vol.17
この点について、I Tに造詣の深い弁護
士の早野貴文さんも、連合のブロードバ
デジタル情報の
保護には無理がある?
ブロードバンド
ビジネスと
著作権
ンド勉強会(注3)で講演し「明らかなフ
リーライドは許容できないが、Aを保護
するあまり亜Aを禁圧すると科学技術・
文化の発展が阻害される弊害がある」と
知的財産権保護の視点
専門家の立場から情報技術の法的保護の
難しさを明らかにしている。
情報産業に働く労働者の成果であるソ
情報労連は、ブロードバンドビジネス
フトウエアの価値を正当に評価し、保護
に関連する著作権関連の問題を大きく二
するためには、デジタル時代の知的財産
つの視点から捉えている。
権保護のあり方を検討する必要がある。
第1は、ブロードバンドサービスを支え
る「技術」であり、同時に提供される
2
執筆/田中一三 (政策局) 「コンテンツ」でもあるソフトウエアの価
値を正当に評価するという知的財産権保
護の視点である。
知的財産権は図のように、工業所有権
(特許権、実用新案権、意匠権および商
権利処理を簡易化し
コンテンツを豊富に
標権)と著作権に分類される。工業所有
権は特許庁に登録して発生する権利だ
●
5月31日、映画や音楽のファイルを
が、著作権は制作された時点で権利が発
ブロードバンド普及のために
生する。ともに「財産権」であり、財産
として処分できる。
第2 の視点は、ブロードバンドを普及
やり取りするファイル交換ソフト(注
元来、著作権法では著作物を「思想ま
1)
「Winny」の開発者が、著作権法違
たは感情を 創作的に 表現したもので
反(送信可能化権の侵害)
(注2)ほう
あって、文芸、学術、美術または音楽の
情報労連が主体となって運営している
助の容疑で起訴された。今年3月には
範囲に属するもの」と定義していた。そ
「21世紀情報通信政策研究会」は、2002
メーカーに無断でゲームソフトのプロ
れがスペースインベーダーやパックマン
年7月、
『ブロードバンド情報市場の確立
など人気ゲームソフトの模倣事件を契機
に向けて』と題する研究報告を発表した。
に、85年の著作権法改正でコンピュー
この中でブロードバンドならではの魅力
タ・プログラムも著作物であると明文化さ
あるコンテンツを流通させるための課題
れたのである。
のひとつとして、著作権関連の権利処理
グラムをサーバーに置き、送信可能に
したWinnyユーザの少年が著作権法違
反で有罪判決を受けているが、ソフト
ウエアの開発者が逮捕されたのは世界
で初めてである。
インターネットのトラヒックの8割
がファイル交換だといわれるブロード
バンド時代を象徴するような事件で賛
ここで問題になるのは、ディスプレイ
上の映像や音響ではなく、プログラムそ
のものを著作権の対象としたことである。
させるため、魅力あるコンテンツを数多
く配信できるようにすることだ。
を円滑化させる必要があることを指摘し
た。
ブロードバンド・インターネットのユ
このため現在までプログラムの著作権を
ーザは、今年3月で約1500万加入となっ
争う訴訟では、プログラムの 創作性
ているが、このインフラの能力に見合っ
スの発展には著作権に関わる課題が多
が争点になっているが、デジタル情報は
たコンテンツがどれだけ配信されている
いことを指摘してきたが、今回は改め
複製・改変が極めて容易な一方、プログ
だろう。これはわが国の著作権法がコン
て論点を整理してみよう。
ラムは小説などと違い、限られた言語と
テンツの二次使用を難しくしているから
厳格な文法で作成されるという特徴があ
だ。音楽についてはJASRAC(日本音楽
るため、 新たな創意を加えても 表現が
著作権協会)が一括して権利処理をして
類似すると裁判官に判断される可能性は
くれるが、映像はそうなっていない。
否両論が渦巻いている。
情報労連は、ブロードバンドビジネ
●
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REPORT 2004.6
高い。コピーを前提としていなかったア
例えばテレビ番組の場合、制作した放
ナログ時代の著作権法で、何度コピーし
送事業者が再放送することは何の問題も
ても劣化が起きないデジタル情報の知的
ないが、ブロードバンド事業者がインタ
財産権を保護することに無理はないのか。
ーネットで配信しようとすれば、放送会
知的財産権の分類
図
特許権(特許法)
実用新案権(実用新案法)
意匠権(意匠法)
商標権(商標法)
工業所有権
知的財産権
著作権(著作権法)
営業上の秘密(不正競争防止法)
植物の新品種(種苗法)
その他の権利
注1 インターネットを介して不特定多数のコ
ンピュータの間でファイルを共有するソフ
著作者だけでなく、実演家やレコード製作
どうするかを決定する権利)、同一性保持
者の許諾が必要になる。
権(著作物の内容や題号を著作者の意に
ト。著作権侵害をはじめとする違法な情報
注3 2003年7月に連合の「情報・出版部門連
流通の温床になっているとして非難の対象
絡会」がIT政策を検討する場として設置さ
注5 著作財産権(著作物の利用を許諾したり
となっている。1999年にアメリカの大学生
れた。現在は、自治労、UIゼンセン、電
禁止する権利。他人に譲渡できる):複製
が開発した「Napster」が始まり。
機、JAM、電力など他部門の産別も参加
権、上演権・演奏権、上映権、公衆送信権
し、連合のIT関連政策・制度要求全般を
等(著作物を公衆送信し、あるいは公衆送
総合的に検討している。
信された著作物を公に伝達する権利)
、口
注2 著作権法の「実演家が自分の実演を端末
からのアクセスに応じ自動的に公衆に送信
反して改変されない権利)
し得る状態に置く権利」および「レコード
注4 著作人格権(著作者の人格的利益を保護
製作者がレコードを端末からのアクセスに
する権利。他人に譲渡できない):公表権
展示権、頒布権、譲渡権、貸与権、翻訳
応じ、自動的に公衆に送信し得る状態に
(未公表の著作物を公表するかどうか等を
権・翻案権等、二次的著作物の利用に関
置く権利」
。したがって、インターネット上
決定する権利)
、氏名表示権(著作物に著
で実演やレコードの内容を配信する場合、
作者名を付すかどうか、付す場合に名義を
述権(著作物を口頭で公に伝える権利)、
する権利
社だけでなく原作・脚本・音楽等の著作
かな扱いを検討し、権利処理を簡易にす
め、発注者である放送事業者やプラット
者、実演家(俳優・声優・歌手・演奏者)
ることによりブロードバンド・コンテン
フォーム事業者の支配力が強く、著作権
すべてと著作権、肖像権などの権利処理
ツを豊富化させることが求められる。
や二次利用権が不当に発注者側に帰属さ
せられているという。
を行わなければならない。劇場用映画も
同様である。NHKが国民の財産ともい
える貴重な番組をデジタル化してアーカ
3
は、
「コンテンツ制作委託者が受託者に対
イブに収蔵する作業を行っているが、こ
れをNHK以外の事業者がブロードバン
ド・コンテンツとして提供するにも、関係
者一人ひとりとの複雑な権利処理が必要
コンテンツ産業の発展には
強力な保護が不可欠
米国では、映像コンテンツを映画館、
して優越的な地位にある場合に、著作権
の譲渡やその他の取引条件について受託
者に不当な不利益を与える場合には、優
越的地位の濫用として問題」と指摘し、
だ。まして相手が死亡していたり、行方
不明であれば絶望的といわざるをえない。
公正取引委員会のデジタルコンテンツ
と競争政策に関する研究会報告(2003.3)
コンテンツ制作者の権利保護
委託者には二次利用の収益配分の早期明
示なども求めている。また昨年6月には下
請代金支払等遅延防止法が改正され、ソ
ビデオ、テレビなどマルチユースすること
を前提にした著作権関連の権利処理がビ
著作権処理を簡易にすることと同時に、
フトウエア制作業、テレビ番組制作業も
ジネスとして行われている。わが国にお
コンピュータ・プログラム、音楽、映画、
下請取引の不当な利益侵害から保護され
いても著作権処理を一括して行う団体、
放送番組、アニメーション等コンテンツ
ることになった。
事業を育成する必要がある。またその際、
制作者の権利が強力に保護されなけれ
優秀なクリエーター、プログラマーを育
著作権のうち「人格権」
(注4)について
ば、デジタルコンテンツ産業は発展しな
成するためには、著作権をはじめとした
は最大限配慮する一方、
「財産権」( 注
い。わが国のコンテンツ産業(制作プロ
コンテンツ制作者の権利保護が重要で
5)についてはマルチユースのための柔ら
ダクション)は中小・零細企業が多いた
ある。
REPORT 2004.6
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