県内一次産品の高度利用技術の研究開発

佐賀県工業技術センター研究報告書 a997)
県内一次産品の高度利用技術の研究開発
ーテンペ(大豆発酵食品)に関する研究(1D
化学食品部食品技術研究室
増田照雄,服部新
テンペは大豆をテンペ菌(りゾープス菌)で発酵させた食品であり,発酵することによ
つてビタミン類の増加や抗酸化性の増大等が予想されることから,機能性食品として有望
であると考えられる.そこで,テンペの成分的特性及ぴ製造条件等を明らかにし,テンペ
利用拡大に役立てるため,テンペの製造過程における水分,全窒素,水溶性窒素,遊籬ア
ミノ酸,酵素力価(中性プロテアーゼ),外観等の変化及ぴこの時の抗酸化性について調
べた.その結果,テンペの製造における成分等の主な変化としては全遊離アミノ酸,酵素
力価(中性プロテアーゼ),抗酸化性が見られた.全遊離アミノ酸含量は煮大豆で530昭/
100Ξ,テンペ菌を接種後増加し,発酵48時間で2,626mE/10OEになった.酵素力価(中性プ
ロテアーゼ)は煮大豆で34Units/'E,テンペ菌接種24時闇で213Units/Ξ,48時間で162Un
辻S/gであった.また,テンペのオイルに対する抗酸化性は発酵時問が長いほど増大した.
1.はじめに
大豆
大豆をテンペ菌で発酵させたテンペはインドネシ
テ、ン^保1
ア,マレーシア地方の伝統的食品で,良質の植物性
蛋白質供給源として800年来利用されている食品で
サラダオイル
:佐賀県白石産"むらゆたか"
:秋田今野商店より購入
:理研農産加工(株)の食用調合
油
2.2 テンペと大豆の分析方法
ある.
我が国でも健康ヘの関心が高まり動物性蛋白質の
水分
:加熱乾燥法
過剰摂取に由来する成人病を予防するため,蛋白質
の供給源を動物性から植物性に転換する目的で植物
性蛋白質であるテンペが注目されてきた.
窒素
:ケルダール法
遊離アミノ酸: 80%エタノールで抽出,ピコ
佐賀県白石町では新品種の県産大豆(むらゆた力→
が栽培されるようになったのを契機にしてテンペの
酵素力価(中性:萩原ハンソン法
プロテアーゼ)
特産品づくりに取り組むようになった.そこで,テ
ンペの成分的特性及ぴ製造条件等に関する検討を行
い,この利用拡大のために支援していくことにした.
2.3 テンペの製造方法
タグ法
テンペの製造は図1の方法で行った.
2.4 抗酸化試験
前報ではビタミンを中心に大豆とテンペの分析比
恒温器を90゜Cに設定した雰囲気の中で,20om1の
較を行いビタミンBI,ビタミンB2ではテンペが若
トールビーカーにオイルを10om1入れ,これに所定
干増加していたこと,またテンペをスライスして調
量の乾燥粉末化した煮大豆及びテンペを添加して,
味料をつけて食ベる場合は味噌タレ,すだちポン酢
が好まれたこと,またテンペのサラダオイル及ぴコ
空気を約50oml/minの割合で下方から吹き込み,経
時的にオイルをサンプリングして過酸化物価(POV)
を測定した.過酸化物価の測定は衛生試験法の変質
ーンオイル中における抗酸化性を調ベた結果,明ら
かにテンペに抗酸化性が認められたこと等を報告し
試験の過酸化物価測定法によって行った.なお,抗
た.
酸化試験用テンペは図1の方法で試作したテンペを
今回は,テンペの発酵過程における遊離アミノ酸,
酵素力価(中性プロテアーゼ)等の変化と抗酸化性
凍結乾燥した後,すり鉢ですりつぶして24メッシュ
の網を通過したものを用いた.
に注目して検討を行った.
3.試験結果及ぴ考察
2.試験方法
3.1 テンペ発酵中の成分及び外観の変化
2.1 実験材料
発酵中のテンペを発酵16時間,24時間,48時間に
1
県内一次産品の高度利用技術の研究開発
原料大豆
区回
__ーーーー^
水分14%
ー_"^
ーー.^
圧1回
区回
.^
区回
ーーーーー^
ーーーーー^
PH調整
クエン酸にて
PH4 5に調整
煮沸20分
テンペ菌接種混合
゛ーーー.^
網袋に入れ脱
水機で脱水
ーー^
水煮
ーーーーー^
水中で手もみに
よる脱皮
煮沸20分
巨ヌ
匝1司
』一ーー^
カッターで粗粉砕
ピニール袋中で煮大豆
と菌体を混合(菌体2.5
d/煮大豆IKg)
成形,袋の孔あけ
、ーーーー^
ーーーーーー^
ビニール袋のテンペの
厚み調整,治具による
ビニール袋の孔開け
(1.5Cm閻隔)
ビニール袋に
10ogつつ分取
巨回
ーーーー.^
32てで24時
テンペ(製品)
冷蔵保存
間発酵
図1 テンペの製造方法
にサンプリングして成分分析及び外観の観察をした測定した中性プロテアーゼが発酵24時闘まで増加し
ていることと関連しているものと思われる.
結果を表1,表2 に示す.
水分と全窒素については48時闇の発酵期間中ほと
また,テンペ発酵途中のテンペの外観は,発酵16
時闇では菌の生育が少なく煮大豆が若干白くなった
んど変化が見られなかった.
水溶性窒素は煮大豆で0.5館ノ100宮から発酵16時間だけで菌体による固化は見られなっかた.
発酵24時問では菌が全体的に真白く付着して完全
24時間と増加し0.95E/100Ξになった.この水溶性窒
素の増加は大豆の蛋白質がテンペ菌が生産する酵素に固化していた.しかし,発酵48時闇では完全に固
によって分解されて増加したものと考えられ,今回化しテンペの表面に部分的に黒い斑点が現われ外観
表1 煮大豆と発酵中のテンペの成分及ぴ外観
試験項昌
発酵16時問
発酵24時間
61.フ
62.2
62.0
8.6
8.5
8.6
8.6
0,54
0.価
0.94
0.94
煮大豆
水分(%)
62.0
*
全窒素(K/100幻
水溶性窒素(E/'100κ)
酵素力価(中性プロテ
アーゼ)(units/E)
外観
*
36
80
208
発酵48時闇
166
ブロック化して
菌糸がまんべん
なく大豆表面に
菌糸がまんべん
なく大豆表面に
いない
増殖している.
増殖している.
完全にブロック
化している(白
完全にブロツク
化している、白
色)
色で部分的に黒
菌糸がまばらで
みあり
*全窒素,水溶性窒素の値は乾物試料に対する割合である.
2
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表2
アミノ酸
煮大豆と発酵中のテンペのアミノ酸
煮大豆
発酵16時間
**
発酵24時間
発酵48時間
アスパラギン酸
20.6
25.1
72.2
174.2
グルタミン酸
18.4
125.1
353.3
798.3
フ.3
26.8
50.9
81.0
140.3
セリン
4.0
1.2
フ.3
ヒスチジン
13.1
能.フ
260.1
374.8
アルギニン
51.6
31.3
30.8
21.3
スレオニン
2.1
17.3
40.フ
44.5
フフラニニン
29.5
94.3
601.6
190.4
プロリン
24.1
108.6
337.0
509.0
チロシン
11.1
34.4
61.4
認.3
グリシン
12.4
27.2
78.1
41.4
306.9
199.フ
147.3
59.フ
シスチン
0.0
0.0
0.0
0.0
イソロイシン
3.2
6.フ
33.2
27.1
ノ丈りン
メチオニン
ロイシン
フェニルアラニン
リ 3ニン
合計
5.1
12.6
59.9
43.6
15.9
16.3
33.8
35.フ
4.1
18.8
36.2
26.0
530.2
814.8
2,204.9
2,626.4
**アミノ酸の値は脱脂乾物試料に対する割合で,単位は昭/10OEである
3.2 テンペの発酵と抗酸化性の変化
テンペのオイルに対する抗酸化性が,テンペの発
酵によってどのように増加するかを調ベるため,煮
が悪くなった.
一方,遊離アミノ酸はアルギニンとメチオニンは
テンペの発酵に伴なって減少傾向を示したが,その
他の遊離アミノ酸はすべて増加傾向を示した.なお,
シスチンは煮大豆とテンペに含まれていなかった.
800
.コントロール(オイルのみ)
'煮大豆
この遊離アミノ酸の変化を遊離アミノ酸総量とし
(沙一\dΦ日)逗輝翠纏剰
てみると煮大豆で脇omE/100&発酵16時間で814mE
/10OE,24時間で2204昭/'10晒と急増し,その後,
48時闇では2626昭/10OEと若干増加することが明ら
かになった.すなわち,発酵によって旨味を構成す
る成分等が増加してくることを示している.
以上,今回測定したテンペの成分では,発酵24時
間までは殆んどの成分において増加傾向がみられた
0 テンペ発酵16H
△テンペ発酵24H
ロテンペ発酵48H
600
400
200
が,48時間では同じ値か逆に減少する成分もみられ
た.
また,外観では発酵24時間のものが良好で,48時
間では黒い斑点が現われた.したがって,テンペの
0
0
10
20
30
40
時間(h)
発酵時間はテンペの旨味構成成分の増加等と外観か
ら判断して24時間が適当であるとみられる.
図2
3
煮大豆及び発酵中のテンペの抗酸化性
50
県内一次産品の高度利用技術の研究開発
溶性窒素,遊籬アミノ酸総量及び酵素力価(中性プ
大豆と発酵途中のテンペをサンプリングして抗酸化
性を調ベた.
ロテアーゼ)が発酵の進行に伴なって増加すること
その結果,煮大豆にもオイルの過酸化物価(POV)
上昇を抑制する効果があるが,テンペではテンペの
発酵が進むにつれて順次増大することが明らかにな
がみられた.
一方,水分と全窒素の変化はなかった.
(2)発酵時間の違いによるテンペの外観の変化は,
発酵16時問では固化が不充分であること,発酵48時
間では発酵が進み過ぎて部分的に黒くなること等が
つた.発酵24時間のテンペのサラダオイルに対する
抗酸化性をみると,対照の過酸化物価(POV)が798
meq/蚫に対してテンペ5Ξをオイル10om1に添加した
場合は438meq/蚫と約1/2に抑制された.この酸化
抑制効果から見ると,オイルを用いた調理等におい
ても酸化防止の目的で使えるものと考えられる.
観察され,発酵24時間のテンペが最も良好であると
判断された.
(3)オイルに対する抗酸化性は煮大豆自体にもある
が,テンペでは発酵玲時間,24時間,48時間と発酵
が進むにつれて抗酸化性が順次増大することが明ら
4.おわりに
a)テンペの発酵期間中の主な成分変化としては水
かになった.
4