中国建設機械業界の現状と今後の展望

【香港駐在報告】
HKIR.2012-27
2012 年 8 月
中国建設機械業界の現状と今後の展望
足元、インフラ整備や不動産開発などの需要セクターの停滞を背景に、中国に
おける建設機械販売は冴えない状況が続いている。本稿では、中国建設機械業界の
今後の見通し、台頭する地場メーカーの動向を踏まえつつ、外資系建設機械メーカー
の採るべき戦略について簡単に考察を行った。
【 要
約 】
— 第 11 次五ヵ年計画期間(2006 年∼2010 年)における世界経済は 2009 年
にマイナス成長に陥るなど、厳しい状況にあったものの、4 兆元の景気対策
の恩恵により、中国の建設機械業界は著しい成長を遂げてきた。
— しかしながら、足元、インフラ整備、不動産開発、鉱山採掘など、中国建設
機械業界の主要な需要セクターが冴えない展開となっており、建設機械
の販売も大きな影響を受けている状況にある。
— 金融緩和などを背景に、2012 年後半には建設工事が持ち直す兆しがある
ものの、中古建設機械が大量に市場へ出回ると考えられるため、短期的
に見れば、中国における新車建設機械販売は本格回復に至らない見込み。
— 一方、中長期的に見れば、第 12 次五ヵ年計画の大規模な投資計画が実行
に移されるに連れて、中国の建設機械業界は底堅く成長していくであろう。
— 但し、従来と異なるタイプの建設プロジェクトが増加する可能性がある
など、需要の一部が低価格な国産モデルへとシフトしていくとも考えら
れる点に外資系メーカーは留意が必要。
— 加えて、M&A や業界再編を通じて、競争力を高めた地場メーカーが外資
系メーカーの市場を脅かす可能性もある。特に低スペックあるいは小型
の建設機械については、外資系メーカーは苦戦を強いられる見通し。
— 外資系メーカーが中国で競争力を維持するためには、品質面での優位性を
活かしつつ、準純正部品市場への進出、販売金融の高度化、地場メーカー
との連携強化など、中国事業でのビジネス領域拡充が求められよう。
目
次
1.中国の建設機械市場 .......................................................................................... 1
(1)市場の概要 ................................................................................................. 1
(2)需要セクター別の動向................................................................................ 2
2.中国建設機械業界の競争環境 ............................................................................ 5
(1)主要企業..................................................................................................... 5
(2)製品別の競合状況....................................................................................... 6
3.中国建設機械市場の今後の見通し ..................................................................... 8
(1)市場規模の見通し....................................................................................... 8
(2)建機需要の構造変化 ................................................................................. 10
4.地場メーカーの台頭 ........................................................................................ 12
(1)クロスボーダーM&A................................................................................. 12
(2)中国国内での業界再編.............................................................................. 13
5.外資系メーカーの採るべき戦略 ...................................................................... 14
(1)準純正部品市場への進出 .......................................................................... 14
(2)販売金融の高度化..................................................................................... 15
(3)地場メーカーとの連携強化....................................................................... 16
1
1.中国の建設機械市場
(1)市場の概要
◇ 油圧ショベルとホイールローダーが市場の大半を占める
¾ 近年、中国の建設機械(以下、建機(注) )市場は概して拡大傾向にあり、世界
の建機需要を牽引してきた。
¾ 具体的には、世界経済が 2009 年にマイナス成長に陥るなど厳しい状況に追い
込まれる中にあっても、中国の建機市場については、中国政府が打ち出した
4 兆元の景気対策の恩恵を受け、2010 年に急成長を遂げた(図表 1)。
¾ また、中国工程機械工業協会によると、2011 年の中国国内の建機販売額は
前年比 25%増加して、5,470 億元に達した模様。
¾ 一方、製品別の販売構成に目を向けると、道路工事・ビル建設・鉱山採掘な
ど、幅広い用途で使用可能な油圧ショベルとホイールローダーに対する需要
が最も大きく、両者を合わせた販売台数は建機全体の約 80%に達している。
(注)本レポートでの「建機」とは、図表 1 に含まれる製品群を指す。
《図表 1:中国における建機販売台数・売上高》
(千台)
<販売台数>
600
500
油圧ショベル
ホイールローダー
ブルドーザー
トラック・クレーン
その他
400
300
200
100
70
26
14
0
2001
91
104
121
139
136
135
122
2009
43
22
61
49
48
70
96
109
2002
2003
2004
2005
2006
2007
2008
204
221
216
217
2010
2011
(10億元)
<建機業界全体の売上高>
547
600
437
222
277
316
162
56
77
104
116
126
400
200
0
(注)「その他」とは、舗装機械、ロードローラー、コンクリート機械などを指す。
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
1
(2)需要セクター別の動向
◇ 主要な需要セクターでのニーズは急増後、足元、冴えない展開となっている
¾ 建機の主な需要セクターはインフラ整備(40%)、不動産開発(17%)、
鉱山採掘(15%)であり、中国の建機販売に大きな影響を与えている(図表 2)。
《図表 2:中国における建機の主な用途(2010 年)》
その他
20%
①
インフラ整備
40%
工業用など
建物建設
8%
③
鉱山採掘
15%
②
不動産開発
17%
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
① インフラ整備
¾ 中国では、第 11 次五ヵ年計画期間(2006 年∼2010 年)に北京オリンピック
や上海万博などの国際的な大イベントが開催されたほか、2009 年初頭から実
施され始めた 4 兆元の景気対策効果もあり、近年、高速道路や鉄道の建設が
急ピッチで進められてきた(図表 3)。
¾ 即ち、極めて活発なインフラ投資を背景に、中国における油圧ショベルと
ホイールローダーに対する需要は大きく押し上げられ、建機メーカー各社は
増産対応に追われることとなった。
¾ しかしながら、実需を超えた大規模な景気対策の結果、地方政府は多額の負債
を抱えることになったほか、鉄道省を巡る汚職事件や高速鉄道追突事故などが
勃発した結果、足元、中国における交通インフラ投資は前年割れとなっている。
《図表 3:中国の交通インフラにおける年初来累計固定資産投資額の前年比伸び率》
250%
高速鉄道列車追突事故
景気対策
200%
150%
100%
50%
0%
-50%
2007
2008
2009
交通インフラ全体
2010
鉄道
(資料)CEIC 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
2
2011
高速道路
2012
② 不動産開発
¾ 概して、中国での不動産開発は政府の金融政策に大きく左右される傾向にある。
中国人民銀行は過熱する不動産市場の沈静化などを企図して、2010 年から
2011 年後半にかけて断続的に金融引締めを実施。
¾ 金融引締めの結果、資金供給量の減少が続いたため(図表 4)、不動産開発
に資金が回り難くなり、足元、新設着工面積も前年割れとなっている(図表 5)。
¾ また、金融引締めにより、建機購入予定者がファイナンスを受け難くなった
ことも、2011 年の建機販売に影を落とすことになったと考えられる。
《図表 4:中国における資金供給(M2)の前年比伸び率》
35%
金融引き
締め政策
30%
25%
20%
15%
10%
5%
0%
2007
2008
2009
2010
2011
2012
(資料)CEIC 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
《図表 5:中国における販売用不動産の年初来累計新設着工面積の前年比伸び率》
80%
60%
40%
20%
0%
前年割れ
-20%
2007
2008
2009
2010
(資料)CEIC 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
3
2011
2012
③ 鉱山採掘
¾ 近年、急増するエネルギー需要を賄うため、中国国内では石炭の増産が行わ
れてきた経緯にある(図表 6)。
¾ しかしながら、足元、安全確保や環境保護を目的に、中国政府は違法操業を
行っている鉱山や生産性の低い鉱山を閉鎖する措置を取り始めている。
¾ また、世界全体の需要低迷により、石炭価格が 2011 年末頃をピークに低下し
ているほか(図表 7)、石炭生産量の伸び率も鈍化傾向にある。
¾ 中国では、ホイールローダーの需要の約 30%と大型油圧ショベル(30 トン以上)
の需要の約 60%は鉱山採掘向けによって占められており、石炭の生産量が急
増していた頃はホイールローダーや大型油圧ショベルの需要も活況を呈して
いたものの、足元、冴えない展開となっている。
《図表 6:中国における石炭生産量》
(万トン)
400
60%
前年比伸び率(右目盛)
350
50%
300
40%
250
30%
200
20%
150
10%
100
0%
50
0
-10%
2009
2010
2011
2012
(注)2010 年 12 月と 2011 年 12 月については、データ入手不能。
(資料)CEIC 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
《図表 7:秦皇島石炭スポット価格》
(米ドル/トン)
160
150
140
130
120
110
100
2010/03
2010/09
2011/03
2011/09
(資料)Bloomberg 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
4
2012/03
2.中国建設機械業界の競争環境
(1)主要企業
◇ 地場メーカーと外資系メーカーがシェア争いを繰り広げている
¾ 過去 10 年間、州工機械、中聯重科、三一重工をはじめとする大手地場メーカー
は製品ラインナップを拡げながら、多様な機種を扱う総合建機メーカーへと
発展を遂げてきた(図表 8)。
¾ また、比較的小規模な地場メーカーについては、特定製品に特化することで、
ニッチメーカーとしての競争力を高めてきている。例えば、玉柴重工と中国
龍工は投資資金の大半を油圧ショベルあるいはホイールローダーの開発に充
てることで、大手メーカーにも対抗し得る存在となっている。
¾ 一方、外資系メーカーに目を向けると、参入障壁となる政府の規制が緩やか
であることから、キャタピラーやコマツ、日立建機などのグローバル大手
メーカーが中国建機市場でも存在感を示しており、特に高付加価値の油圧
ショベルの製造・販売では相応の地位を確保している。
¾ 但し、外資系メーカーの多くは軸足を油圧ショベルに置いており、戦略的に
他機種も手掛けている企業は少数派。
《図表 8:中国における主要建機メーカーの市場シェア》
企業名
主要製品
2011年
売上
シェア
油圧
ショベル
ホイール
ローダー
ブルドーザー
トラック
クレーン
コンクリート
機械
道路機械
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
○
1
州工機械
15.9%
○
2
中聯重科
15.5%
○
3
三一重工
14.7%
○
4
玉柴重工
6.6%
○
5
柳工
4.1%
○
○
6
キャタピラー
3.8%
○
○
○
7
常林股份
3.6%
○
○
○
8
コマツ
3.1%
○
○
9
成都コベルコ
2.4%
○
○
10
中国龍工
2.3%
11
廈工股份
2.2%
○
2.1%
○
12 臨工・ボルボ
○
○
○
13
日立建機
2.1%
○
14
斗山
1.3%
○
○
○
○
現代重工
○
○
0.6%
(注)1.色付きの企業は外資系メーカー。
2.外資系メーカーの中には、建機以外の売上高も含めてシェアを算出している企業もある。
3.キャタピラーの売上高は 2010 年実績に基づいた推定値。
4.成都コベルコはコベルコ建機と地場メーカーによる合資企業。
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
15
5
(2)製品別の競合状況
◇ 油圧ショベルは外資系メーカーが強く、その他の機種は地場メーカーが独占
① 油圧ショベル
¾ 油圧ショベルは中国建機販売額の 30%弱を占める最大の製品セグメントであり、
40 社以上の建機メーカーが油圧ショベルの製造を行っている。
¾ 油圧機器、トランスミッション、エンジンなどの主要部品を油圧ショベル全
体として効果的・効率的に機能するように組み合わせることが難しいため、
従来、研究開発力に勝る外資系メーカーが高いシェアを確保(図表 9)。
¾ 一方、近年、三一重工などの一部地場メーカーは外資系メーカーのモデルの
リバースエンジニアリングを通じて、相応の性能を有する建機を製品化する
ことに成功したほか、2010 年の輸入中古建機の規制強化を受け、中古建機の
代替需要を取り込むことに成功した結果、市場シェアを大きく伸ばしている。
¾ 但し、地場メーカーのシェア急伸は現金還付や豪華景品の贈呈などの大胆な
販売戦略の賜物との見方もある。
¾ また、地場メーカーの公表販売台数は工場出荷ベースであり、ディーラー在庫
も含まれる(外資系メーカーはディーラー在庫を含まない)ことから、地場
メーカーと外資系メーカーの販売力を単純に比較することは難しい。
¾ 加えて、実際の工事現場では三一重工の油圧ショベルがあまり見られないこ
とから、一部には三一重工の公表数値の正確性を疑問視する声も聞かれる。
《図表 9:中国における油圧ショベルの台数シェア(2008 年、2011 年)》
油圧ショベル全体(2008年)
シェア
油圧ショベル全体(2011年)
シェア
斗 山
コマツ
日立建機
現代重工
コベルコ
キャタピラー
玉柴重工
三一重工
山河智能
柳 工
17%
15%
14%
11%
7%
7%
5%
4%
4%
3%
三一重工
コマツ
現代重工
斗 山
日立建機
コベルコ
キャタピラー
玉柴重工
ボルボ
柳 工
12%
11%
10%
9%
9%
7%
6%
6%
5%
4%
上記地場合計
17%
上記地場合計
21%
(注)色付きの企業は外資系メーカー。
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
6
¾ さらに、油圧ショベルのサイズ別シェアを見ると、外資系メーカーと地場
メーカーの得意分野の違いが鮮明。近年、外資系メーカーと地場メーカーの
性能面の差は縮小している(注)ものの、大型の油圧ショベル製造には技術的な
難しさがあるため、依然として外資系メーカーの独壇場となっている(図表 10)。
(注)耐久性や信頼性などの品質面で、地場メーカーの製品は外資系メーカーの製品に劣後している
ものの、20 トン未満の油圧ショベルであれば、ユーザーが通常使用する限りにおいては性能面
の違いを感じられない程度にまで差は縮小している模様。
《図表 10:サイズ別油圧ショベルの台数シェア(2011 年)》
小 型
(13トン未満)
三一重工
コマツ
日立建機
玉柴重工
斗山
現代重工
山河智能
福田雷沃
キャタピラー
山重建機
上記地場合計
11%
10%
9%
9%
9%
9%
6%
4%
4%
3%
中 型
(13~30トン)
現代重工
三一重工
斗山
コベルコ
コマツ
キャタピラー
日立建機
ボルボ
柳工
玉柴重工
33%
上記地場合計
シェア
12%
12%
11%
9%
9%
7%
7%
6%
6%
4%
大 型
(30トン以上)
コマツ
日立建機
コベルコ
ボルボ
キャタピラー
斗山
三一重工
現代重工
住友建機
山東力士徳
21%
上記地場合計
シェア
シェア
30%
15%
13%
9%
8%
6%
5%
4%
4%
1%
7%
(注)色付きの企業は外資系メーカー。
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
② ホイールローダー及びその他建機
¾ 中国建機市場の中で販売台数が最も多いホイールローダーについては、現状、
地場メーカー及び外資に買収された地場メーカーが 4 大メーカーとしての地位
を確固たるものにしている(図表 11)。
¾ また、その他の製品セグメントについては、地場メーカーが 96%以上の市場
シェアを押さえており、地場メーカーによる寡占市場となっている。
¾ 但し、建機の故障が大きな損失に繋がる港湾での荷役作業などにおいては、
信頼性の高い外資系メーカーの建機が使用されることが多い模様。
《図表 11:ホイールローダー及びその他建機の台数シェア(2011 年)》
ホイールローダー
シェア
ブルドーザー
シェア
柳工
中国龍工
廈工股份
臨工・ボルボ
徐工築路機械
山工・キャタピラー
成工
福田雷沃
常林機械
徳工機械
20%
20%
18%
16%
7%
6%
4%
4%
3%
2%
山推工程
宣化工程
移山工程機械
彭浦機器廠
中聯重科
柳工
一拖
大地工程機械
キャタピラー
廈工股份
62%
9%
7%
5%
5%
4%
3%
3%
1%
1%
トラック
クレーン
州工機械
中聯重科
三一重工
柳工
マニトウォック
富華工程機械
テレックス
京城重工機械
北起タダノ
北方交通重工
上記地場合計
78%
上記地場合計
99%
上記地場合計
52%
27%
10%
4%
2%
1%
1%
1%
1%
0%
ロード
ローラー
州工機械
柳工
路通重工機械
厦工機械
山推工程
中国龍工
一拖
三一重工
ダイナパック
常林機械
96%
上記地場合計
シェア
シェア
26%
12%
12%
11%
9%
9%
8%
4%
4%
4%
96%
(注)1.色付きの企業は外資系メーカー。
2.市場シェア算出に使用したデータには、輸出分も含まれている。
3.正確には表中の上位 10 社以外にも中小の建機メーカーはあるものの、販売台数が不明である
ため、本表では上位 10 社間シェアを市場シェアとして扱っている。
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
7
3.中国建設機械市場の今後の見通し
(1)市場規模の見通し
◇ 当面、大きな伸びは期待し難いものの、中長期的には堅調な伸びを示す見込み
① 短期的な見通し
¾ 欧州債務危機問題が広がりを見せる中、経済成長を維持するため、2012 年 5 月
に開かれた国務院常務会議にて、温家宝首相は主要なインフラプロジェクト
の前倒し実施、経済政策の柔軟な運営などの方針を打ち出した。
¾ 実際、足元、相次ぐ金融緩和により市中への資金供給量が増加しているほか、
インフラ投資についても、鉄道建設を中心に、許認可に要する時間のスピード
アップがなされており、建設工事量は増加する見通し。従って、建機需要に
ついても、徐々に回復に向かうと考えられる。
¾ しかしながら、2009 年から始まった 4 兆元の景気対策により、建機販売台数
が実需以上に急増した結果(図表 12)、現在、不稼動の建機が多数存在。
ローンの返済やリース費用の支払いが難しくなっているユーザーも見られる
ことから、今後、中古市場で売却される建機が増える見通し。
¾ 即ち、建設工事量(建機需要)は徐々に回復すると思われるものの、良質な
中古建機が大量に市場へ出回ることが予想されるため、建機販売台数(新車)
の本格的な回復は 2013 年第 1 四半期以降となろう。
《図表 12:油圧ショベルの月次販売台数》
(台)
45,000
40,000
350%
インフラ
投資を加速
させる方針
を発表
4兆元の
政策効果で
急増した
建機販売
300%
35,000
250%
30,000
中古建機が
200%
出回るため、
新車建機販売の
150%
回復は第1
四半期以降
100%
25,000
20,000
前年比伸び率
(右目盛)
15,000
50%
10,000
0%
5,000
0
-50%
2008
2009
2010
2011
2012
(資料)CEIC 資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
8
2013
-100%
② 中長期的な見通し
¾ 短期的には中国の建機市場の急回復は見込み難いものの、第 12 次五ヵ年計画
(2011 年∼2015 年)に大規模な投資計画が盛り込まれており(図表 13)、
過去の実績に鑑みると、投資計画が予定通り実施される可能性が高いことから、
中長期的に見れば、中国建機市場は堅調な伸びを示すと考えられる。
¾ 但し、従来比、建設工事のタイプが異なってくる見込みであり、製品セグメント
により、成長率に違いが見られるようになる可能性がある点に留意が必要。
9 インフラ整備:第 12 次五ヵ年計画では、鉄道・道路建設の投資予定金額が
前回比増加しているほか、足元、中国政府は鉄道建設を再開するスタンス
を明確にしている。また、同計画では水利関連投資額の大幅な増加が予定
されており、水利工事で汎用性の高い小型建機の需要増加が期待できる。
9 不動産開発:第 12 次五ヵ年計画では、3,600 万戸の保障性住宅(低価格住宅)
の建設が計画されている(図表 14)。保障性住宅の建設工事は利幅が薄い
ため、手頃な価格で購入できる地場メーカーの建機が選好される可能性もある。
9 鉱山採掘:中国の石炭生産量は緩やかに増加する見込みであるが(図表 15)、
違法鉱山を閉鎖するという政府のスタンスは不変であるため、大型ホイール
ローダーやスペックの低い建機への需要の伸びはあまり期待できない見通し。
《図表 13:第 12 次五ヵ年計画におけるインフラ投資計画》
投資金額
1. 鉄路総延長
2. 道路総延長
うち、高速道路
2010年実績
第11次
五ヵ年計画
2015年目標
第12次
五カ年計画
91,000 km
4.0 百万km
74,000 km
120,000 km
4.5 百万km
108,000 km
第11次
五ヵ年計画予算
(兆元)
10.2
2.0
第12次
五ヵ年計画予算
(兆元)
20.0
3.0
4.7
7.0
10.0
(2.0/年)
3.5
(0.7/年)
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
n.a.
3. 水利関連
n.a.
《図表 14:保障性住宅の建設計画》
《図表 15:石炭生産量・消費量の見通し》
(百万戸)
10
(10億トン)
5.0
第12次五ヵ年計画目標:36百万戸
8.6
8
3.7
4
0
8.6
4.0
6.0
6
2
8.6
3.0
4.3
2.0
2.2
1.0
0.0
2008
2010
2012
0.0
2014
2.8
2.8
9
3.9%
3.0
3.0
3.2
3.1
3.5 3.4
4.1
3.9
3.3%
生 消
産 費
量 量
2008
(資料)住房和城郷建設部資料より三菱東京 UFJ
銀行企業調査部(香港)にて作成
年平均伸び率(予測):
2009
2010
2011
2015
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部
(香港)にて作成
(2)建機需要の構造変化
◇ 総じて、小型油圧ショベルに対する需要が増える見通し
¾ 中国では、都市化の進展に伴い、当面、農村部からの建設業就業者人口の流出
が続くと考えられる(図表 16)。従って、中国の農村部では、人手不足を補
うことを目的に、建機を購入する動きが増加するであろう。
¾ 特に重慶市や甘粛省、陜西省など、中国西部地区では、元来、人口当たりの
建機(注)保有台数が少ないうえ(図表 17)、今後、西部開発の恩恵を受け、
建設工事が増加することから、建機需要が急速に増加する見込み。
¾ 但し、単に人手不足に対処するためであれば、安価なエントリーモデルでも
十分であるため、建機需要全体に対する小型建機の割合が徐々に高まると
みられる。
(注)本箇所(本文及び図表 17)での建機には、建設工事を行う際に使用する各種機器も含まれる。
《図表 16:都市化の進展と農村部建設業就業者人口の変遷》
(万人)
2000
50%
1600
40%
1200
30%
800
20%
400
10%
0
1982
1986
1990
1994
1998
農村部における建設業就業者人口
2002
2006
都市化率(右目盛)
2010
0%
(資料)中国統計年鑑資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
《図表 17:人口当たりの建機保有台数》
20
(千人当たりの保有台数)
15
10
全国平均: 千人当たり7 .5 台
5
青海
ッ
チチ
ベベ
ッ
トト
海南
吉林
貴州
10
雲南
(注)斜線は西部開発に含まれる地域。
(資料)中国統計年鑑資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
四川
モモ
ンン
ゴゴ
ルル
黒竜江
広西
内
新疆
江西
寧夏
山西
陜西
甘粛
広東
安徽
重慶
上海
河南
山東
福建
湖南
北京
湖北
遼寧
河北
天津
浙江
江蘇
0
¾ また、従来、中国の油圧ショベル市場では、汎用性が相対的に高い 20∼30
トンクラスの中型油圧ショベルが売れ筋となっており、先進国と比べて、市場
全体に占める小型油圧ショベル(特にミニショベル)の割合が低いという
点が特徴(図表 18)。
¾ しかしながら、例えば、第 12 次五ヵ年計画にて、水利関連投資の強化が謳わ
れていることもあり、今後を展望すると、水利工事で利便性の高い小型油圧
ショベルに対する需要が急速に増加すると考えられる。
¾ 加えて、中国では、本来の使用目的に照らすと、油圧ショベルを購入すべき
場合であっても、油圧ショベルが高価であることから、やむなくホイール
ローダーを購入するユーザーが多かった(注)という点も特徴として挙げられる。
¾ 即ち、今後、建機ユーザーの所得水準の向上に伴い、ホイールローダーから
比較的安価な小型油圧ショベルへの買い替え需要が発生する見通し。
¾ 総じて、農村部での人手不足への対応、水利工事など比較的小規模な工事の
増加、ホイールローダーからの買い替え需要の高まりを背景に、将来的に油圧
ショベル全体に対する小型油圧ショベルのシェアが高まるであろう(図表 19)。
(注)本来、ホイールローダーと油圧ショベルとでは機能が異なり、使用される場面も異なるものの、
ホイールローダーが安価であるため、中国では、油圧ショベルの代替品としてホイールローダー
が使用されることもある模様。
《図表 18:中国における小型油圧ショベルとホイールローダーの販売割合》
中 国
国・地域
西 欧
年
2007
2009
2011
小型油圧ショベル÷油圧ショベル
0.2
0.2
0.1
北 米
日 本
2009
0.7
0.5
0.5
先進国
平均
2009
0.6
1.4
1.1
1.0
0.3
0.5
0.3
0.4
ホイールローダー÷油圧ショベル
(注)本表での小型油圧ショベルとは、6 トン以下のミニショベルを指す。各国間・地域間の
比較を行うため本カテゴリーの数値を採用。
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
《図表 19:サイズ別に見た油圧ショベルの需要構造の変化の見通し》
大 型
(30トン以上)
中 型
(20∼28トン)
水利工事など比較的
小規模な工事の増加
小 型
(20トン未満)
農村部などでの
人手不足への対応
ホイールローダー
からの買い替え
潜在需要
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
11
4.地場メーカーの台頭
(1)クロスボーダーM&A
◇ M&A により、基幹部品の調達力や開発力の向上を図る地場メーカーも見られる
¾ 地場メーカーの弱点として、コア技術についての開発能力不足が挙げられる。
特に油圧ショベルについては、基幹部品であるエンジンや油圧機器を外資系
メーカーからの輸入品に依存している状況(図表 20)。
¾ また、小型建機を通常使用する限りにおいては、外資系メーカーとの性能格
差は小さい模様であるものの、地場メーカーの建機は耐久性や信頼性などの
品質面で外資系メーカーに劣後しているという面は否めない(図表 21)。
¾ 従って、近年、財務余力のある中国地場メーカーの中には、海外販売網の拡充
のほか、基幹部品の調達力や開発能力の向上を企図して、クロスボーダーの
M&A を実施する企業も見られる(図表 22)。
《図表 20:主要な地場メーカーと外資系メーカーの技術力比較》
自社技術力
企業名
(国籍)
エンジン
油圧機器
三一重工(中)
△
△
州工機械(中)
△
△
中聯重科(中)
△
△
斗山(韓)
◎
○
現代重工業(韓)
◎
○
キャタピラー(米)
◎
◎
コマツ(日)
◎
◎
日立建機(日)
◎
◎
特 徴
□エンジンや油圧機器の開発力が低く、基幹部品は他社に依存
□主な調達先 《エンジン》カミンズ、ドゥーツなど
《油圧器機》川崎重工、レックスロス、ナブテスコなど
□エンジンは主に自社開発だが、油圧機器は日米などに劣る
□主な調達先 《油圧機器》川崎重工、ナブテスコなど
□基幹部品の開発などで高い技術力を持つ企業が多い
□特別な部品については、部品メーカーと共同開発も実施
(注)◎:高い、○:やや高い、△:低い、ということを示す。
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
《図表 21:地場メーカーと外資系メーカーの建機の品質比較》
地場メーカー
外資系メーカー
平均故障間隔(MTBF)
300∼600 時間
1,000 時間以上
オーバーホールが必要
となる稼働時間
4,000∼8,000 時間
油圧作動油漏れが頻発
8,000∼12,000 時間
油圧作動油漏れは稀
排ガス規制対応
国Ⅱ(中国国家基準Ⅱ)
ユーロⅢ以上
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
《図表 22:中国地場メーカーによるクロスボーダーM&A の事例》
買収先
買収先の主要事業
州工機械
Fluitronics(ドイツ)
□油圧システムの開発
2011
州工機械
AMCA(オランダ)
□油圧制御バルブや流体制御装置の製造
柳工
HSW(ポーランド)
□ブルドーザー、ローダーの製造
2012
州工機械
Schwing(ドイツ)
□コンクリート機械(注)の製造
三一重工
Putzmeister(ドイツ)
□コンクリートポンプ機械(注)の製造
(注)コンクリート機械及びコンクリートポンプ機械メーカーの買収は溶接技術の獲得に繋がり得る。
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
12
(2)中国国内での業界再編
◇ 中国政府は大手地場メーカーの育成を強化する方針
¾ 中国建機業界の第 12 次五ヵ年計画では、技術力や品質の向上に加えて、地場
メーカーが達成すべき多数の目標が掲げられている(図表 23)。
¾ 中でも、第 12 次五ヵ年計画期間中に、売上高 1,000 億元規模の大手メーカー
を 3∼4 社育成するという目標の達成が重要な課題となっている。
¾ 大手メーカー育成方針の下、今後、中国政府は排ガス規制や品質基準などの
ハードルを段階的に引き上げ、製品開発力の劣る中小メーカーの再編を促す
とみられる。即ち、中国の建機市場では上位集中化が進み、大手地場メーカー
と中小地場メーカーの格差が更に拡がることになろう。
¾ 外資系メーカーは高い技術力を有しているため、中国国内の排ガス規制や
品質基準などのハードルが上げられたとしても、直接的な影響は軽微に留ま
ると考えられる。
¾ また、現状、外資系メーカーが大きなシェアを維持している大型建機市場に
ついては、総合的な高い技術力が求められるため、少なくとも短期的には、
大手地場メーカーが外資系メーカーの脅威になるとは考え難い。
¾ 但し、今後、外資系メーカーにとって不利な政策が採られる可能性も否定で
きないほか、大手地場メーカーが力を蓄えていくに連れて、外資系メーカー
といえども、特に小型建機市場では競争激化の影響を受ける見通し。
《図表 23:中国建機業界の第 12 次五ヵ年計画における目標》
具体的な目標
□ディーゼルエンジン、トランスミッション装置、油圧機器、システム制御装置などの
基幹部品の開発を推奨する
技術力の向上
□炭素排出量の抑制、高燃費の実現、高度な情報システムの構築などの目標を
達成するための革新的技術を開発する
品質の向上
環境への対応
□平均故障間隔(MTBF)を 400 時間から 600 時間に伸ばす
□生産工程における材料消費量を 5%、エネルギー消費量を 15%削減する
□排ガス対応を国Ⅲ(中国国家基準Ⅲ)に引き上げる
□大型建機(100 万元以上)の製造を推奨するとともに、同大型建機の地場メーカー
地場メーカーの育成
による生産比率を 65%以上に引き上げる
□売上高が 1,000 億元規模の大手メーカーを 3∼4 社、500 億元規模の中堅企業を
5∼6 社育成する
(資料)中国工程機械工業協会資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
13
5.外資メーカーの採るべき戦略
◇ 競争力を維持するためには、中国事業のビジネス領域拡充が必要
¾ 外資系メーカーは高い技術力とブランド力を有しているものの、需要構造が
変化しつつある中、地場メーカーが台頭し始めていることから、今後、競争
環境激化の影響を少なからず受けると考えられる。
¾ 従って、外資系メーカーには、高い技術力を活かして、製品自体の競争力を
更に高める取り組みが求められるほか、地場メーカーとの競争激化を見据え、
中国事業のビジネス領域を拡充する取り組みも求められる。
¾ 即ち、外資系メーカーとしては、(1)準純正部品市場への進出 、(2)販売
金融の高度化 、(3)地場メーカーとの連携強化 、などの取り組みの是非を
検討することが肝要。
(1)準純正部品市場への進出
◇ 準純正部品の提供により、収益機会の増強を図る取り組みが有効
¾ 低価格モデルへの需要シフト、競争激化が進むため、建機販売自体の利益率
低下は避け難い情勢にあり、アフターマーケットでの収益機会増強が必要。
¾ しかしながら、中国では安価な代替品や模倣品が広く流通しており、高価な
純正品マーケットは限定的な規模に留まっているのが実情。
¾ 従って、高価な純正品に手が届かないユーザーの部品交換ニーズを取り込む
ことが重要であり、例えば、新たなユーザーを獲得する手段として、OEM に
よる準純正部品の提供が考えられる(図表 24)。
¾ また、外資系メーカーの多くが手掛け始めている部品再製造事業(注)も、現在
は代替品や模倣品を購入しているユーザーを取り込む方策として有効。
¾ なお、部品再製造事業は部品のみならず、建機自体のリセールバリューの向
上に繋がるため、ブランドロイヤリティ、ライフタイムバリューを高めると
いう観点でも有意義な取り組みと言えよう。
(注)「部品再製造」とは、使用済みの部品を新品同様に製造し直すこと。再製造品が広く流通して
いる市場では、再製造品は新品に比べて販売価格が 15∼20%程度安いものの、事業者の利益率
は再製造品の方が高くなっている。
《図表 24:準純正部品の提供で広がる収益機会》
品質
純正品
高い
既存顧客層
再製造品
再製造品やOEM品の提
供により開拓できる新規
顧客層
やや
高い
OEM品
低い
代替品
模倣品
低い
純正及び準純正部品で
取り込めない顧客層
やや高い
高い
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
14
価格
(2)販売金融の高度化
◇ リース会社との協働による新たなファイナンススキーム構築も検討に値する
¾ 中国では、現在、建機販売全体の約 2/3 はファイナンスリースや銀行ローンに
よる販売となっており、販売戦略上、金融サービスの提供は欠かせない。
¾ しかしながら、近年、地場メーカーは頭金ゼロなどの過度な金融サービスの
提供により、顧客を無理に惹き付けてきた結果、売掛債権が大きく膨らむなど、
信用リスクの高まりに直面している(図表 25)(注)。
¾ また、一部の外資系メーカーの中にも、審査基準を緩和する動きが見られる。
但し、与信リスク管理の高度化を合わせて実行しなければ、滞納率の上昇、
ひいては自社の競争力低下を招きかねないことに留意する必要がある。
(注)地場メーカーはリース会社や銀行などに対して、通常、買取保証を行うことが多く、オフバランス
での保証債務残高も膨らんでいる。
《図表 25:地場メーカーの信用リスクの高まり》
中国系(2010 年度)
日系(2011 年度)
中聯重工
三一重工
コマツ
日立建機
(単位)
(10 億元)
(10 億円)
① 売上高
46
33
1,982
817
② オンバランス ファイナンス取引残高
34
12
560
359
売掛金
12
12
560
238
ファイナンスリース債権
22
0
0
120
③ オフバランス 保証債務残高
11
31
0
0
保証残高(対リース会社)
2
10
0
0
保証残高(対銀行)
9
21
0
0
④ 売掛債権回転期間 【(②+③)÷(①÷365)】
355 日
476 日
103 日
160 日
(注)コマツと日立建機は中国以外の建機及び非建機事業の数値も含まれており、参考値。
(資料)各社資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
各企業の業績
¾ 外資系メーカーには、販売金融高度化の一環として、グループ内リース会社
の立ち上げ、あるいは強化といった取り組みのほかに、グループ外のリース
会社などと、メーカー保証のみに頼らない新たなファイナンススキームの構築
を模索するといった動きも求められよう。
¾ 元来、外資系メーカーは建機のリセールバリューの高さや差し押さえの容易さ
などの面で、地場メーカー比優位(図表 26)。従って、グループ外のリース
会社とも協力関係を築き易く、販売金融の高度化を行い得ると考えられる。
《図表 26:リース会社と協力関係を築く上で外資系メーカーが優位な点》
優位な点
リセール
バリュー
の高さ
差し押さえ
の容易さ
背 景
□ 機械としての耐久性が高い
□ メンテナンス体制が整っている
□ 純正(もしくは準純正)部品の供給体制が確立されている
□ GPS システムが完備されている(建機の所在地確認、遠隔でのエンジン停止などが可能)
□ リース会社などとのコミュニケーション体制が確立しており、デフォルトにも素早く対応可能
(資料)三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)
15
(3)地場メーカーとの連携強化
◇ 製品ラインアップや販売網の拡充を企図した地場メーカーとの連携強化も一案
¾ 外資系メーカーの中には、地場メーカーの買収により、製品ラインナップを
拡げ、ブランド名を使い分けることで高価格帯と低価格帯の棲み分けを行い、
異なる客層の獲得に成功している企業もある(図表 27)。
¾ また、地場メーカーは地方政府と強い繋がりを持っていることが多いため、
外資系メーカーであっても、地場メーカーを買収することで、政府主導の
プロジェクトへの参入可能性を高めることができる。
¾ 加えて、買収された地場メーカーの側から見ても、外資メーカーの「耐久性」
や「信頼性」についての好イメージの恩恵を受け、ブランドイメージが向上
するというメリットがある。実際、キャタピラーに買収された SEM を見ると、
買収された後に品質面で高い評価を獲得している。
《図表 27:外資系メーカーの地場メーカー買収によるデュアルブランドの事例》
ブランド名
企業名
説 明
高価格ライン
低価格ライン
ボルボ
"Volvo"
"Lingong"
ボルボが 2007 年に株式を 85%取得
キャタピラー
"Caterpillar"
"SEM"
キャタピラーが 2008 年に株式を 100%取得
(注)企業によって、販売方法には違いがある。キャタピラーは自社ブランドと買収したブランド
を同一販売網で併売しているものの、ボルボは販売網を分けており、併売は行っていない。
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
¾ 一方、販売網の拡充を目指して、地場メーカーと手を組む外資系メーカーも
見られる。例えば、韓国系の斗山は玉柴と業務提携を行い、油圧関連の基礎
技術を提供する代わりに、玉柴が持つディーラー網を活用している(図表 28)。
¾ 即ち、販売網の拡充を目指しているものの、足元、資金面での余力が十分に
はない外資系メーカーにとって、業務提携は魅力的な選択肢の一つであり、
特に今後の需要増加が見込まれる西部地区にて、短期間で販売網を拡充する
ためには有効な方策と言えよう。
《図表 28:斗山と玉柴の業務提携事例》
斗 山
(油圧ショベルメーカー)
中国での販売活動
をサポート
(強み)キーコンポーネントの基礎技術
(弱み)中国での販売網
油圧技術や油圧
部品を提供
玉 柴
(エンジン、油圧ショベルメーカー)
(強み)中国での販売網
(弱み)油圧関連の技術
(資料)各種資料より三菱東京 UFJ 銀行企業調査部(香港)にて作成
以
16
上
(2012.8 香港/竹原 毅洋 +852-2249-3078)
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