①観光を中核として産業の複合化の事業実現に関する調査研究

観光を中核として産業の複合化
の事業実現に関する調査研究
概
要
版
2005年3月
岩佐 吉郎
i
調 査 概 要
0.調査の目的と内容
調査目的
昨年(平成 15 年度)とりまとめられた「自立型経済構築に向けた観光・リゾート産業を
中核とした産業の複合化(産業間の連携方策)に関する調査」において、観光・リゾート
産業と、①健康長寿産業、②感性系産業、③エンターテイメント産業、④農林水産業との
連携強化の具体化方策が提案された。本調査研究では、同調査で提案された具体化方策を
実現化(事業化)するための諸課題を整理(フォローアップ作業)するともに、沖縄の観
光・リゾート産業の実態に即して、実現可能な戦略を検討提案することを目的とする。
調査の内容
①提案された産業間の連携・複合化方策の実現化に向けた課題の整理
昨年調査では、観光・リゾート産業、観光関連産業の実態・ニーズ、観光客のニーズを
把握した上で仮説を設定して、理想と現実のギャップを検証しながら、具体化の提案がな
されている。これらの提案について、まず観光・リゾート産業の実態と再度てらしてあわ
せて、次のステップでの実現化(事業化)への課題を整理する。
②沖縄観光における産業間の連携・複合化の現状
実現化(事業化)にむけた条件として、人的資源面、資金面、技術的な面、マーケティ
ング(市場熟度、立地性など)面、資源容量などがあげられる。こうした問題について、
土産品製造、販売の現状、エンターテイメント産業の現状、農林水産業の現状などを、既
存資料をもとに整理する。
③実現化(事業化)にむけたアクションプラン
短期的に実施可能なもの、長期的に条件整備をしながら進めていく必要のあるものを整
理するとともに、沖縄観光振興との連携度合い、寄与度合いにより事業のプライオリティ、
事業可能性などを評価して、実現化(事業化)のアクションプランを策定する。
本研究「観光を中核とした産業の複合化の事業実現に関する調査研究」
におけるアプローチ
(先行事例研究)
観光リゾート産業
A.健康長寿産業
1.先行事例の選定
2.連携への障害
3.事業化へ障害
B.感性系産業
・人的資源面
・資金面
・技術面
・マーケティング面
(市場熟度、立地性)
・資源容量
先行事例の研究
C.エンター
テイメント産業
4.成功の秘訣、
きっかけ
観光リゾート関連産業
連携に有効な
(実効性のある)
方策
D.農林水産業
5.望まれる支援
ii
求められる
公的な支援方策
④今後の課題
アクションプランに基づいて具体化していくために、今後必要となる取り組みや推進体
制、公的なバックアップなどについて整理する。
調査の方法
前年度成果で提案されたプロジェクトを沖縄観光の実態に即した形で具体化するために
は、どういった課題があり、またどういった条件整備が必要かを明らかにするために、沖
縄観光の実態を新聞記事など関連情報資料の収集、関係者ヒアリングを行う。
1.既研究で提案された連携・複合化方策の検討
既研究の調査概要
1)観光・リゾート産業と観光関連産業との連携・複合化の実態およびニーズの把握
①観光・リゾート産業からみた産業の連携・複合化の実態とニーズの把握
②観光関連産業からみた連携・複合化の実態とニーズの把握
2)観光客のニーズ・欲求の把握
①沖縄来訪者のニーズ把握
②全国の沖縄に対するニーズ把握
③外国人観光客のニーズ把握
3)産業間の連携・複合化のあり方に関する仮説の設定
4)産業間の連携・複合化方策および連関領域の拡大方策の検討
既研究「自立型経済構築に向けた観光・リゾート産業を中核とした
産業の複合化に関する調査」におけるアプローチ
観光リゾート産業
観光リゾート事業者
インタビュー
沖縄来訪者ニーズ
実態・ニーズ
の把握
全国マーケットニーズ
連携の強化
方策検討
実態・ニーズ
の把握
有識者インタビュー
関連産業事業者
インタビュー
外国人客ニーズ
観光リゾート関連産業
iii
提示された連携課題
提案された連携方策
健康関連産業:「ぬちぐすいの里おきなわ」
A.健康長寿産業
*健康関連産業の効能の評価検証
*原産地にこだわった商品開発の支援
*長期滞在療養患者等をマーケットとした加工品等の販売
*生産現場の公開
*訴求力の提示
*健康を軸としたメニュー展開の不足
健康関連サービス産業:「ヘルシー・ステイおきなわ」
*健康サービス体制の構築
*ヘルス・コンサルティング体制づくり
*医療・美容・健康現場の視察ツアー
B.感性系産業
a)ものづくり(伝統工芸品など)
*商品としてのデザイン力や製品開発力の強化
*販売が好調な製品について事業拡大のステップアップの仕組み作り
*伝統工芸の経営資源の強化
*県内生産体制の確立
b)感性を感じる(工房体験プログラムなど)
*メニューの魅力づけと差別化
*雨天時の代替活動メニューとしての地位の確立
*質量ともに適切な情報発信
*工房と観光客をつなぐコーディネーターの育成
*滞在期間、体験の所要時間など多様なニーズに対応できる受け入れ
体制の整備
感性系ものづくり:「沖縄の上等のものづくり」
*うるまワールドコンテストの開催
*世界のデザイン・技術と沖縄県産品とのコラボレーション促進
*バリエーション豊かな製品の開発
*観光・リゾート産業における県産品の積極的な活用
*観光・リゾート産業を通じた沖縄素材の魅力PR
*『おきなわでつくる』楽しみづくり
*沖縄デザイン、沖縄景観づくり
伝統工芸:「オンリー・ワン・クラフトの里」
*みる(ホテルなど宿泊施設での製作過程を披露)
*買う(体験につながる工芸土産物の販売)
*体験する(体験のきっかけとなる短期間完成のメニューの提供)
*再体験する(もう一度同じ工芸体験をしても楽しめる仕組みづくり)
*修得する(より高度な技術の修得を希望する客への対応)
C.エンターテイメント産業
a)伝統を感じる
*認知度の向上
*体験メニュー情報の一元化
*長期滞在型マーケットの拡大
b)おきなわの"今"を感じる
*伝統芸能や観光・リゾート産業との連携意識の啓発とインディーズシー
ンにおける沖縄イメージの定着
*オリジナリティのあるアーティストの継続的な発掘
*アーティストを支える音楽スタッフ、音楽ビジネスに通じた人材の育成
伝統芸能:「沖縄芸能の融合、発信」
*もてなしを目的とした芸能披露
*沖縄発インディーズとの合同イベントの開催
*沖縄らしさを感じられる場所での芸能会の開催
*「みる」から「体験する」へ
沖縄インディーズ音楽:「暮らしに音楽のある島おきなわ」
*地元アーティストの発掘の仕組み
*沖縄発インディーズへの投資・支援の仕組み作り
*県内ライブのプレミアム化
*定期イベントによる沖縄音楽の発信
D.農林水産業
「おきなわスローライフのススメ」
*安定供給の確保
*コスト高
*優位性・効能の明確化
*安全・安心の醸成
*需要と供給のシーズナリティの合致
*魅力メニュー・プログラムの提示
*健康・安全として訴求力の高い農産品の供給
*観光も考慮した産地形成
*少量定期供給から安定大量供給へ
*パッケージング・表示のブランド化
*沖縄素材を活用した調理方法の開発・企画提案
*生産現場の公開、市場の公開
*後継者育成、定住者増加に向けた農業体験
*オーナー制度の整備
iv
2.産業間の連携・複合化の現状
(1)観光土産品製造業
①
塩
塩は、ミネラル分の含有量が世界一としてギネスブックの認定を受けるなど、県内生産
の商品が多数あり、県物産公社「わしたショップ」でもヒット商品の一つとなっている。
近年は、スナック菓子類やコンビニエンスストア等の総菜や料理店での県産品の使用も見
られるなど、県産の塩に対する注目度が高まってきている。
沖縄の製塩業は、年々順調に伸びているものの、全国のシェアでは3%弱にすぎない。
沖縄では自然塩製造が主流であるため、生産性が低いことに原因がある。しかし、一方で、
「手間隙かけて、良い商品を製造している」という点が、逆に沖縄の塩の「質」を高めて
いて、高い評判につながっている。
②
健康食品
平成 9 年に県内健康食品の振興を目的に「沖縄県健康食品協議会」が発足して以来、平
成 17年はじめには約 80 社が加盟して、中小企業の多い健康食品産業界にとって同協議会
の役割は大きい。同協議会が設立された前後の平成 8 年から 11 年にかけて 4 期は、健康食
品関連の総売上高が毎年前年比平均 4 割増の急激な増加が続き、平成 11年には 100 億円
台へ、さらに平成 15 年には約 180 億円の市場規模へと成長した。この要因は、県内企業の
新規参入増加、全国通販網の充実、商品構成の多様化があげられている。
また、健康食品のうち農産物系主要品目の売り上げ構成を見ると、ウコン類が 31.7%、
クロレラ・乳酸菌が 28.8%、健康茶類が 18.5%、アガリクス類が 12.0%、アロエベラが
4.1%と(県農林水産部、平成 11 年度)、これらの 5 品目に集中する傾向が指摘されてい
る。
③
ウコン
ウコンに関しては、県内産が増加しているものの、一方で海外産ウコンの輸入量も増加
しており、県内産を上回る輸入量となっている。県内産の単価が、キロあたり 150〜180 円
に対して、輸入品がキロあたり 35 円と大幅な価格差があり、限られる県内生産量の問題含
めて、海外産に頼らざるを得ないのが現状である。
④
泡盛
沖縄県を代表する地場産品「泡盛」は、製造酒造所が 48 カ所あり約 900 名が雇用されてい
る。売り上げ規模は約 200 億円程度と推計され、平成 16 年の総出荷量は 28,748kl(30°
換算)、そのうち県外出荷量は平成 11 年以降急激に増加しており、県外移出比率は初めて
20%台を超えた。
県外出荷の増加には、東京を中心にしてダイレクトメール販売の増加、沖縄料理店の開
店増、酒造所数社の営業所設置などが影響している。
⑤
やきもの(陶器)
県の工芸産業実態調査(平成 12 年度)によると、123 事業所に 440 人が就業して、土産
品を中心に 11.7 億円の生産額と試算されている。それぞれの事業所はきわめて零細のと
ころが多く、家内工業的で産業といえない状況にある。
v
沖縄の土産品製造業の課題は以下のような点が指摘されている。
―
経営基盤の強化と安定供給・商品開発
―
製品のブランド化とPR
―
科学的データの整備
―
域内自給率を高めることによる経済効果
これらの課題を受けて、製造業の方向性について以下のような提言がなされている。
○県内経済に寄与する戦略的な土産品づくり
―産業づくりからまちづくりまで波及する新しい土産品の再定義―
*
生活視点からの産業化
*
有機的な土産品同士の結合生産を図ることで域内自給を高め、強靱な県経済
形成に資する。
*
市町村を代表する産品とすべく工夫を図り、地域経済の活性化に努める。
*
産地プロデューサーなどの人材育成、活用
○土産品の今後の方向性
*
沖縄の特産品、料理など地元に根付いた独自色のある対象の活用
*
産地表示や品質保証制度などの早急な整備、構築が必要
*
観光立寄り場所として顧客接点を重視した「店づくり」「仕組みづくり」
*
土産品開発への具体案
*
マーケティングやプロモーション活動
(2)観光土産品販売業
沖縄への入域観光客数は、復帰以降ほぼ順調に増加してきており、平成 15 年には 508 万
人と、初めて 500 万人を突破して史上最高の数値を記録した。それに伴って、観光客の土
産品消費額もほぼ順調に増加して、平成 15 年は約 856 億円と推定される。
一人あたりの土産品購入額は減少しているが、入域観光客数が増加しているため、全体
の消費額としては拡大している。
①
県内事業所販売
食品菓子が 50%、キャラクターグッズ、地域限定菓子(県外品)も人気。贈り物として、
「沖縄の土産品」
②
のわかりやすさが求められる。
県外事業所販売
もろみ酢、ウコン等の健康食品が人気。しかし、1/3は県外産品。ついで、化粧品等
の身の回り品、沖縄そば等加工食品が人気
③
通販販売
果物をはじめとする生鮮食品、加工食品、健康食品が人気。
沖縄の土産品販売の課題は以下のような点が指摘されている。
―
「沖縄らしさ」のブランド化と商品の多様性
―
観光とリンクしたプロモーション戦略の必要性
―
製造、販売事業者の意識改革
―
店舗の品揃えと、個性化の必要性
―
観光と物産の連携の必要性
vi
このような状況を打破するための今後のあり方として以下のような点が指摘されてい
る。
○
沖縄らしさ
のブランド化と商品の多様性
○ 観光とリンクしたプロモーション戦略の必要性
(3)エンターテイメント
エンターテイメントの素材や対象そして、エンターテイメントの場としては以下のよう
なものが上げられる。
① エンターテイメント資源
沖縄の生活や歴史・文化、伝統、芸術、音楽など様々なエンターテイメント資源が
継承されてきている。近年の沖縄ブームの中で、観光客の参加(自らから体験、見
学・鑑賞)も増加してきている。
エイサー/組踊り/琉球舞踊/琉球音楽/沖縄芝居/那覇マラソンなど
② エンターテイメントの場
実際のエンターテイメントの場としては、以下のような公的な劇場・施設や、民間
の立寄観光施設などで、エンターテイメント資源を活用して披露している。公的な施
設では、一部伝承者の育成や資料収集、保存・活用も行われている。一方、民間施設
では沖縄ブームとリピーター増加に伴って、数多くの観光客を集めている施設もみら
れる。
小劇場あしびなー/国立劇場おきなわ/てんぶす那覇/県立郷土劇場
うどい/立寄観光施設/ライブハウス/民謡酒場
③ パブリックスペースにおけるエンターテイメントの場
上記②の施設とは別に、公共のパブリックスペースや広場でエンターテイメントを
資源を披露しているところもある。エンターテイメント資源を活用することによって
楽しい場所や雰囲気づくりで魅力づくりを行っている。
グスク/首里城
那覇空港/北谷アメリカンビレッジ/アウトレットモールあしびなー
「エンターテイメント事業可能性調査」によると、エンターテイメント振興の課題と方
向性としては、以下のような点が指摘されている。
(エンターテイメント振興の課題)
① 音楽・芸能などの文化性のある地域資源が十分に活かされていない
―資源を持ちながら、有機的なネットワークが整備されていない
② 地域性を生かしたエンターテイメントの展開
③ 伝統芸能を通じた雇用が創出され、人材が活用される仕組みづくり
④ 質の高いエンターテイメントを可能とする演出家や技術スタッフなどの人材育成
⑤ 琉球舞踊をはじめとする伝統芸能は「継承」が中心で「創作」に乏しい
―流派の伝統の継承に重きを置かれて、エンターテイメント性に欠ける
⑥ 観光PR・情報発信に向けた一体的な推進体制の確立
⑦ ターゲットを明確にし、そのニーズに応じたエンターテイメントの展開
vii
(エンターテイメント事業展開の方向性)
① 多彩な地域資源を掘り起こし、魅力ある観光資源として積極的な活用を図る
② いつでも、どこでも楽しめる多彩なエンターテイメント事業の展開を図る
③ 各地域の特性を活かし、ターゲットを明確にした相乗効果の高い事業展開を図る
④ 県民と観光客との多彩な交流を通じた地域密着型の事業展開を図る
⑤ 沖縄観光共通プラットホームと連携した事業展開を図る
⑥ エンターテイメント事業の継続・発展のための官民一体となった支援体制の構築
以上のような点から、エンターテイメントを活用した連携・複合化の課題としては、以
下のような点があげられる。
―
観光とのネットワーク機会の増大
―
エンターテイメントの利用方の工夫
―
「ライブ」の魅力づくりと活用
―
人材の流出、不足
(4)農林水産業
農林水産業の課題としては以下のような点が指摘できる。
・ 後継者不足、高齢化
・ 島嶼県であるための輸送コスト
・ 農家が単価の変動に敏感で、品目を変更しやすい
・ 冬春期型
・ 「定時、定量、定質」が維持できない
・ 農家としての基盤が脆弱
・ 耕地面積の減少、通勤農業
一方で、農産品で今注目されている品目は、いずれも沖縄観光の好調による沖縄ブーム
と健康ブームによって注目されている。
① 沖縄ブームによるヒット商品「ゴーヤ」、「シークァーサー」
② 最近問い合わせが殺到する品目「野菜用パパイヤ」、「ノニ」
(健康・美容ブームと、エスニック料理ブームの使用食材として)
③ その他在来野菜「島らっきょう」、「ニガナ」、「サクナ」、「紅芋」、「田芋」
また、地域的に観光農業がうまくいって、注目されているところは、
① 東村慶佐次(エコツーリズムと農産品直売所)
② 恩納村(商工会活動による観光と農業の連携プログラム)
③ 読谷村(修学旅行客対象の農業体験)
④ 北中城村大城(花一杯運動など農村集落整備)
⑤ 下地町(農家民宿中心にグリーンツーリズム推進)
⑥ 石垣市名蔵(マンゴなどの観光農園)
⑦ 竹富町小浜島(サトウキビ援農隊)
viii
農林水産業を活用した連携・複合化の課題としては、以下のような点があげられる。
―
観光客と接する機会、場所があること
―
観光と農業を結びつけるコーディネーターが存在すること
―
しかも、そのコーディネーターは観光客とのネットワークを持っていること
3.実現化(事業化)に向けたアクションプラン
(1)課題の整理
複合・連携化の現状から以下のような点が指摘される。
① 資源、素材の活用方策に集中
② 島嶼性による資源の限界
③ 産業振興、育成の限界
健康食品や泡盛などのようにすでに連携・複合化に成功しているものと、昨年度調査で①
健康長寿産業、②感性系産業、③エンターテイメント産業、④農林水産業の分野で連携強
化の戦略的取り組みが提案されているものがある。
本研究では、こうした状況をふまえて、今後の沖縄振興にとって観光を中核として産業
間の連携・複合化を図ることによって、各産業の育成が促進されればと言うことが当初の
問題意識であった。
しかしながら、現状の問題として、連携・複合化を図る前に沖縄自体が持つ「島嶼」と
いう制約条件を克服して、各産業がそれぞれどの程度成長できるのか、また沖縄がもつ資
源や素材が有限であること、さらに今取り組まれている振興策の多くがその資源や素材の
利用方策に偏っていることなどあげられ、振興策の限界が危惧される。
そのジレンマをどう打開していくかが沖縄振興の課題となる。
複合・連携化にむけた沖縄の課題
資源、素材
の活用方策
に集中
沖縄振興
島嶼性による
資源活用
の限界
産業への
育成の限界
ix
(2)諸条件の整理とその可能性の検討
県内自給率と観光ニーズ(アピール)の関係からみると、関連産業の業種は観光ニーズ
(アピール)の高いものと低いものが業種によって別れる。また、素材や原料の県内自給
率の高い業種と低い業種がある。
このような中で、今後想定される沖縄の課題として以下のような点が指摘される。
① 自給率の維持
② 自給率の低下による沖縄らしさの魅力の低下
③ 活用可能な県内資源・素材の量的限界
沖縄の魅力に現在注目が集まっている構造は以下の図に示すように、「青い海、青い
空」や「亜熱帯性気候」、「健康、長寿」、「琉球文化」、「伝統工芸」、「沖縄音楽」、
「琉球舞踊」、「生活スタイル」、「人」などといった沖縄が持つ特異性と優位性である
『沖縄らしさ』の魅力がベースになっている。
『沖縄らしさ』の魅力は、上述したような沖縄がもつ様々な要素で構成される総体的で
抽象的なものである。こうした魅力の特異性と優位性によって、観光産業のこれまでの発
展が達成されている。
また物産や活動プログラムに関しても、そうした『沖縄らしさ』の魅力がブームになっ
て注目を浴びている。こうした物産や活動プログラムがそれ自体個々で魅力高いものにな
っているかというと、商品・プログラム自体の魅力よりも、沖縄らしさの特異性や優位性
による『沖縄らしさ』の魅力におうところが大きいのが実態である。
沖縄の魅力の構造
観
沖縄の特異性、優位性
青い海、青い空
魅力
亜熱帯気候
沖 縄 ら し さ
健康、長寿
観光客の
増加
安定的
発展
光
観光産業
の発展
琉球文化
伝統工芸
土産品・体験等を通して
沖縄音楽
琉球舞踊
資源
生産
生活スタイル
人
:
育成
活用
商品化
プログラム
化
物産 ・ 活動
x
域外市場
へ出荷
現在では、県内生産・製造したものを沖縄ブランドとして県内市場、県外市場へ販売・
出荷している構造になっている。こうした構造を成立させているのは、前述したように
『沖縄らしさ』の魅力によるところが大きい。しかし、『沖縄らしさ』が枯渇してしまえ
ば、こうした構造は成立しなくなることが危惧される。
そのために沖縄ブランド自体一つ一つが個々で商品・プログラム魅力を持つことが必要
で現行でも「美ら島ブランドづくり」など様々な取り組みが行われているものの、島嶼県
の限界性から、将来にわたって安定的な発展をとげる保証はない。
したがって、以下のような対策が必要なってくる。
① 『沖縄らしさ』保持の重要性の認識
② 沖縄らしさの保持のための方策
③ 県外市場への出荷の調整による『沖縄らしさ』の枯渇化の防止
④ 観光へのプライオリティ
観光のフレキシビリティにより『沖縄らしさ』保持と直結
『沖縄らしさ』保持の重要性
沖縄らしさ
県内
生産
製造
沖縄ブランド
県外出荷
県外市場
健康長寿産業
感性系産業
エンターテイメント産業
農林水産業
域内販売
観光旅行
(ビギナー、リピーター)
県内市場
このように、『沖縄らしさ』を保全・再生して、より質の高い沖縄の魅力を形成してい
くことがこれからの政策には必要である。つまり、沖縄の特異性、優位性のより高質化を
目指すことである。
そのためには、現行の産業振興中心の沖縄振興政策から、次の将来の振興策は『沖縄ら
しさ』を保全・再生する政策を中心におくべきである。
「自立化」をテーマにしたとき、経済基盤を整備して、経済活性化を図ることは当然の
ことである。しかしながら、観光や物産が好調に推移している背景には、沖縄の地域特性
と、今の沖縄の魅力が特異性と優位性からなる『沖縄らしさ』がある状況の中で、沖縄は
『沖縄らしさ』というソフトの基盤インフラを整備していくことが次の大きな課題となる。
xi
次世代型沖縄振興戦略の方向性転換
産業振興政策
『沖縄らしさ』
保全・再生
・産業基盤整備
・活性化支援
・ソフト基盤整備
・活性化支援
(3)アクションプランの提案
『沖縄らしさ』の保全、再生プロジェクトの提案
これまでは産業活性化プロジェクトの中で、それぞれで活用する資源や素材そのものの
保全や育成の必要性を指摘している。しかしながら、『沖縄らしさ』の保全、再生に関し
ては総合的かつ体系的な取り組みはなされていないのが現状であり、こうした取り組みの
展開により『沖縄らしさ』の重要性をひろく認識することも、このプロジェクトのねらい
である。
① 沖縄らしい素材・才能ある人材の発掘、保全・育成への理解
② 沖縄らしい素材、才能ある人材のストック化
③ 保全・育成のための場とシステムの整備
『沖縄らしさ』保全・再生プロジェクトの提案
沖縄振興
(既存の取り組み)
産業活性化
プロジェクト
各プロジェクトで素材
や原料の保全、育成
の必要性指摘
(新規の取り組み)
『沖縄らしさ』
保全・再生
プロジェクト
保全、再生の総合的
な取り組みの必要性
具体的な取り組みとしては、以下のようなことが必要である。
○景観・環境
・ 「青い海、青い空」の再生
・ ゴミリサイクル運動の強化
・ クリーンアップ運動の活発化
xii
○健康
・ 健康長寿県の復活
・ スポーツアイランドの基盤整備
○歴史・文化
・ 生涯学習プログラムの活用
・ 沖縄人歴史・文化知識検定の実施
・ 学校教育プログラムへの取り込み
○感性系
・ 歴史的建築物や集落・町並みの再生
・ 伝統工芸功労者の活用
・ 伝統工芸技術の保存、継承
・ 日常生活との融合
○エンターテイメント
・ 伝統文化・芸能功労者の活用
・ 保存育成の活動拠点としての場の整備
・ 伝統文化、芸能の保存、継承
・ 日常生活との融合
○農林水産業
・ 「沖縄らしい」産物に対する認識
・ 直販システムの開発
○生活
・ 伝統行事、祭りの継承
・ 風習、習慣の伝承
以上のような取り組みから、保存、再生のための新たな事業化が求められる。こうした
事業の発展が、まさに沖縄振興を持続させる次世代型事業として期待される。
保全、再生に向けた事業化(企業育成)
・高齢者を活用した伝統文化、芸能、技術の伝承事業
・「生活関連・資源保全活用」研究所、コンサルタント
・リサイクル事業、クリーンアップ事業
・沖縄文化・芸能伝承支援サービス事業
・観光との連携化コーディネート事業
・PR、情報サービス事業
・健康増進、管理サービス事業
・自然、環境保全管理・育成事業
・人材育成事業
これらの事業は、民間企業の組織化によって事業可能のものもあれば、NPO組織での
取り組みで可能なもの、民間サイドでの取り組みがなかなか困難なものなど、事業化の検
討を行っていく過程で抽出された課題によってケースバイケースの対応が必要とされる。
xiii
また、単独で事業化は困難で、どうしても公的な支援が必要なものも当然出てこよう。
初期段階だけ必要とするものもあれば、継続的に必要とされるものもある。
いずれにしても、まずは「『沖縄らしさ』の保全、再生の重要性」と「それに対する取
り組みの必要性」についての広い理解が得られていることが基本となる。
その前提のもとに、具体的な事業化の取り組み方について、さらにつめていく必要があ
る。
4.今後の課題
今後の課題としては、具体化に向けて以下のような点を検討していく必要がある。
① 総合的で持続可能な保全再生システムの構築
② 公的支援事業の整備
③ 「沖縄らしい」沖縄の形成に対するコンセンサス
現行の沖縄振興
(行政)
観 光
沖縄振興
支援
公的
体 験
のための
支援事業
産業活性化
物 産
これからの沖縄振興
(行政)
観 光
支援
公的
「沖縄らしさ」
技術協力
素材提供
人材派遣
体 験
の
支援事業
保全再生事業
物 産
公益事業領域
収益事業領域
xiv