和歌山市監査委員公表第6号 地方自治法(昭和22年法律第67号)第

和歌山市監査委員公表第6号
地方自治法(昭和22年法律第67号)第242条第1項の規定に基づき、平成24年10月9日に請求のあ
った「和歌山市職員措置請求書」に係る監査の結果は、次のとおりであるので、同条第4項の規定により公表す
る。
平成24年12月4日
和歌山市監査委員
伊 藤 隆 通
同
上
田 上
武
同
上
松 本 哲 郎
同
上
戸 田 正 人
第1 請求の受付
1 請求の要旨
和歌山市職員措置請求書及び事実証明書に記載されている事項から、本請求の内容を要約すると次のとお
りである。
① 和歌山市(以下「市」という。)は介護保険法(平成9年法律第123号)の規定に基づき、社会福
祉法人Aに対し、同法人が経営する認知症対応型共同生活介護事業所「グループホームB」(以下「グル
ープホームB」という。)における介護サービス(以下「サービス」という。)の提供に伴う介護報酬の
9割分を、和歌山県国民健康保険団体連合会(以下「国保連」という。)を通じて支払っている。(なお、
残り1割分についてはサービス利用者の自己負担分となっている。)しかし、当該介護報酬のうち、平成
18年4月から給付がなされている医療連携体制加算(以下「体制加算」という。)に係る介護報酬につ
いては、算定条件が充たされていないにもかかわらず給付がなされている状況である。
② 体制加算は介護サービス事業者(以下「事業者」という。)が市に対して体制加算の算定に係る届出
をした後に算定が可能となるが、社会福祉法人Aが市に提出した届出書の内容は極めて簡単に書かれたも
のであった。なお、グループホームBの利用者は当該届出の内容について全く知らされていない。また、
体制加算に基づくサービスは医師による往診など診療行為とは別に提供されるべきものである。しかし、
体制加算に基づくサービスが診療行為と区別が付きにくいため、既存のサービスの一環であると思い違い
をし、これまで社会福祉法人Aからの介護報酬の請求に応じてきた。
③ このように、体制加算に基づくサービスと診療行為との区別が付きにくい状況であることから、市は
勤務時間や支払実績などサービス実態を精査しなければ、事業者により届出内容をすり替えられてしまう
おそれがある。
④ ところが、市は介護保険法の規定に基づくグループホームBに対する指導監査権限を平成18年度に
和歌山県から移譲されていながら、その後、当該権限の行使を違法に怠っている。
⑤ また、市は社会福祉法人Aが受審した和歌山県選定の外部評価機関による外部評価(以下「外部評価
」という。)の結果をその都度受け取っているというが、外部評価の結果の内容にはグループホームBが
体制加算の算定条件を充たすための体制を整備できていないと思われる箇所がある。市は多大な公金の流
出を止めるための資料が手元にあるにもかかわらず、外部評価の内容を適切にチェックしていない。この
ことが不当な公金の支出につながっている。
⑥ 結論として、社会福祉法人Aは法令に違反していながらも体制加算に係る介護報酬を受け取り、何も
知らない利用者に負担を強いるとともに、違法に公金を支出させて市民に損害を与えた。以上の点を踏ま
え、市に対し、以下の措置を講じるよう求める。
ⅰ)過去給付分については違法な公金の支出であるため、返還請求の措置を講ずること。
ⅱ)市がグループホームBに対して行う指導監査については、特別監査を基本とすること。
ⅲ)社会福祉法人Aは連携医療機関との契約更新を毎年実施し、利用者及びその家族に対して説明し、同
意を得るとともに、その旨を市に書面で報告すること。
ⅳ)社会福祉法人Aは毎月、国保連への請求に際し、「医療連携サービスの実態と利用者による利用承認
」を請求書に添えて提出すること。
2 事実証明書
① 「指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基準」(平成18年厚生労働省告示第1
26号。以下「算定基準」という。)及び「指定地域密着型サービスに要する費用の額の算定に関する基
準及び指定地域密着型介護予防サービスに要する費用の額の算定に関する基準の制定に伴う実施上の留意
事項について」(平成18年老計発第0331005号、老振発第0331005号、老老発第0331
018号厚生労働省老健局計画課長、振興課長、老人保健課長連名通知。以下「留意事項通知」という。
)の一部抜粋
② 「指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準」(平成18年厚生労働省令第
34号。以下「運営基準」という。)及び「指定地域密着型サービス及び指定地域密着型介護予防サービ
スに関する基準について」(平成18年老計発第0331004号、老振発第0331004号、老老発
第0331017号厚生労働省老健局計画課長、振興課長、老人保健課長連名通知)の一部抜粋
③ 介護給付費算定に関する提出書類(一部抜粋)
④ 社会福祉法人Aが市に提出したグループホームBの体制加算に係る届出書及び添付書類
⑤ 入所契約書及び重要事項説明書
⑥ 居宅サービス計画書
⑦ 利用者負担金に係る請求書及び領収書
⑧ 預り金出納帳
⑨ 社会福祉法人Aの履歴事項全部証明書
⑩ 「社会福祉法人指導監査要綱の制定について」(平成13年雇児発第487号、社援発第1274号、
老発第273号厚生労働省雇用均等・児童家庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知)
⑪ 「社会福祉法人の認可等の適正化並びに社会福祉法人及び社会福祉施設に対する指導監督の徹底につい
て」(平成13年雇児発第488号、社援発第1275号、老発第274号厚生労働省雇用均等・児童家
庭局長、社会・援護局長、老健局長連名通知)
⑫ 市指導監査課監査状況
⑬ 「『指定地域密着型サービスの事業の人員、設備及び運営に関する基準』第72条第2項及び第97条
第7項等に規定する自己評価・外部評価の実施等について」(平成18年老計発第1017001号厚生
労働省老健局計画課長通知)
⑭ 平成20年度、22年度及び23年度に実施したグループホームBの運営に関する自己評価及び外部評
価の結果
⑮ 重要事項説明書及び契約書のガイドライン(2006年版)
⑯ 「認知症対応型共同生活介護 医療連携体制加算について」(大阪府泉南市作成)
⑰ 「指定認知症対応型共同生活介護等に関するQ&Aについて」(平成18年5月2日厚生労働省老健局
計画課事務連絡)
⑱ 体制加算に関する届出書 市と他市(大分県豊後大野市)との比較
⑲ 「認知症対応型グループホームにおける『医療連携』を進めるために」(社団法人全国訪問看護事業協
会作成)
⑳ 認知症対応型共同生活介護事業所の経営者が訪問看護ステーション経営者と締結する業務委託契約書及
び業務契約書別紙のサンプル(社団法人全国訪問看護事業協会作成)と、社会福祉法人Aと協力医療機関
であるC医院が締結した契約書との比較
(注)現在、市は請求人が介護報酬を不正受給していると主張する事業者に対する検査を実施しているところ
である。この点を考慮し、法人、施設及び協力医療機関の名称については「社会福祉法人A」、「グルー
プホームB」及び「C医院」と置き換えた。以下、この公表文について同じとする。
3 請求の受理
本件は、市が介護保険法に基づくグループホームBに対する指導監査権限の行使を違法に怠ったことが、
社会福祉法人Aによる介護報酬の不正受給へと結びつき、ひいては公金を違法に支出させていることから、
不当な介護報酬分に係る返還請求の措置及び市の指導監査権限の適切な行使を求める請求であると解し、地
方自治法第242条第1項に規定する要件を具備しているものと認め、平成24年10月24日にこれを受
理した。
なお、本件については平成24年10月9日付けで収受したものの、請求内容の一部に補正を要する箇所
があったため、同月15日に請求人に対して補正を求めた上、同月24日にこれを受理している。
4 本件請求に関連する制度等について
本件請求に関連する制度等の概要について説明すると、次のとおりである。
① 介護保険制度について
介護保険制度は、介護が必要になっても高齢者が地域で安心して暮らしていくことができることを目指
すとともに、いつまでも自立した生活を送ることができるよう支援するため、高齢者の介護を社会全体で
支えるための制度として平成12年4月1日から実施されている。
介護保険を行う者(保険者)は市町村及び特別区であり、被保険者となる者は65歳以上の者(第1号
被保険者)及び40歳以上65歳未満の医療保険加入者(第2号被保険者)である。
② 介護報酬について
介護が必要と認定された者がサービスを利用した場合、事業者は当該サービスの提供に要した費用等を
介護報酬としてサービス利用者及び国保連へ請求する。
なお、介護報酬については、原則として当該報酬の1割分を利用者負担金としてサービス利用者へ請求
するとともに、残り9割分を介護給付費として国保連へ請求する。
③ 国保連に対し請求された介護給付費の流れについて
事業者は、利用者がサービスの提供を受けた月(以下「サービス提供月」という。)の翌月の10日ま
でに国保連に対し、介護給付費の請求を行う。請求後、国保連は当該請求の内容が適切であるかどうかを
確認し、請求内容に誤りがなければサービス提供月の翌々月に事業者に対して請求額を支払う。また、国
保連はサービス提供月の翌々月に事業者へ支払うべき介護給付費相当額を市に請求し、当該請求額の支払
いを受ける。
④ 地域密着型サービスについて
地域密着型サービスとは、要介護や要支援状態になっても住み慣れた自宅や地域での生活を継続できる
ようにするためのサービスをいう。これらのサービスの基本は、サービスを受ける者が住み慣れた地域の
中で馴染みの人間関係などを継続しながら暮らし続けることができるようなサービスを受けることが特徴
であることから、原則として自分が住んでいる市区町村においてのみ利用することができる。
なお、認知症対応型共同生活介護は地域密着型サービスの一種である。
⑤ 認知症対応型共同生活介護について
認知症対応型共同生活介護とは、要介護者であって認知症である者(その者の認知症の原因となる疾患
が急性の状態にある者を除く。以下同じ。)について、その共同生活を営むべき住居において、入浴、排
せつ、食事等の介護その他の日常生活上の世話及び機能訓練を行うことをいう。
⑥ 認知症対応型共同生活介護事業所について
認知症対応型共同生活介護事業所(以下「グループホーム」という。)とは、要介護者であって認知症
である者が少人数(5人から9人)で家庭的な環境のもと、介護職員等のサポートを受けながら共同生活
を営む居住施設のことをいう。
⑦ グループホームにおけるサービスの提供に伴う介護報酬について
グループホームにおけるサービスの提供に伴う介護報酬には、まず基礎的な報酬となる認知症対応型共
同生活介護費がある。これについては、利用者の介護度や当該グループホームのユニット数などによって
単位数が異なるため、利用者の心身の状況やどこのグループホームでサービスを受けたかにより、報酬額
が異なってくる。
また、認知症対応型共同生活介護費以外に介護報酬に含まれるものとして、各種加算がある。加算は算
定基準に規定された加算算定条件を充たすことで介護報酬として請求が可能となる。
⑧ 体制加算について
体制加算とは、グループホームにおけるサービスの提供に伴う介護報酬に含まれる加算の一種のことで
ある。厚生労働大臣が定める基準に適合するものとして市区町村長に届け出た介護サービス事業所(以下
「事業所」という。)において当該加算に係るサービスの提供がなされた場合に算定することができる。
なお、厚生労働大臣が定める基準については「厚生労働大臣が定める施設基準」(平成12年厚生省告
示第26号。以下「施設基準」という。)の27「指定認知症対応型共同生活介護における医療連携体制
加算に係る施設基準」において、以下のとおり規定されている。
(イ)当該指定認知症対応型共同生活介護事業所の職員として、又は病院若しくは診療所若しくは訪問看
護ステーションとの連携により、看護師を1名以上確保していること。
(ロ)看護師により24時間連絡体制を確保していること。
(ハ)重度化した場合の対応に係る指針を定め、入居の際に、入居者又はその家族に対して、当該指針の
内容を説明し、同意を得ていること。
体制加算の算定にあたっては、環境の変化を受けやすい認知症高齢者が可能な限り継続してグループホ
ームで生活を継続できるように、日常的な健康管理に加え、通常時及び利用者の状態悪化時における医療
機関(主治医)との連絡・調整や、あらかじめ利用者又は利用者の家族から同意を得た「重度化した場合
における対応に係る指針」(以下「重度化対応指針」という。)に基づく看取りの実施など、医療ニーズ
が必要となった場合に適切な対応ができる体制を整備していることが必要である。
また、当該業務については看護師が行うこととなっているとともに、グループホームを経営する者には、
当該看護師に対してこれらの業務を当該グループホームにおいて行うために必要な勤務時間を確保するこ
とが求められている。
⑨ 主治医について
主治医とは、ある患者の疾患の診療方針全般に対し、主たる責任を有する医師のことをいう。患者の身
体、健康、その他の状態について最もよく理解している者であることが期待される。
⑩ 協力医療機関について
協力医療機関とは、運営基準第105条の規定に基づき、グループホームを経営する者があらかじめ定
めている医療機関のことをいう。
なお、協力医療機関が果たすべき業務は運営基準上、次のとおりとなっている。
ⅰ)利用者の病状の急変等への対応
ⅱ)利用者の入院や休日夜間等における対応への円滑な協力
⑪ 社会福祉法人について
社会福祉法人とは、社会福祉事業を行うことを目的として、社会福祉法(昭和26年法律第45号)の
規定に基づき設立された法人のことをいう。
⑫ 社会福祉法人に対する指導監査について
社会福祉法第56条の規定に基づき、中核市の長には当該市が所管する社会福祉法人に対する指導監査
(以下「法人監査」という。)の実施権限が付与されている。なお、法人監査は一般監査と特別監査に区
分される。
ⅰ)一般監査:関係法令や通知等に基づき、原則毎年度1回、実地において実施する。
ただし、前年度の一般監査の結果等から良好に法人運営がなされていると認められる法人
については、一般監査の実施を2年に1回とする。
ⅱ)特別監査:運営等に重大な問題を有する法人を主たる対象とし、随時実地において実施する。
⑬ 事業所に対する指導監査について
事業所に対する指導監査(以下「事業所監査」という。)は介護保険法第23条及び同法第76条等の
規定を根拠法令として実施されるものである。なお、事業所監査は指導と監査に区分される。
ⅰ)指導:介護給付等対象サービスの取扱い及び介護報酬の請求等に関する事項について周知徹底すると
ともに、厚生労働省令で定める基準等に照らし改善の必要があると認められる事項について、
適切な助言及び指導を行うことを目的として実施する。なお、指導の形態は集団指導と実地指
導に区分される。
ⅰ-①)集団指導:市町村等が指定、許可の権限を有する事業者に対し、必要な指導の内容に応じ、一定
の場所に集めて講習等の方法により実施する。
ⅰ-②)実地指導:市町村等が指導の対象となる事業者等の事業所において実地で実施する。
ⅱ)監査:介護給付等対象サービスの内容、介護報酬の請求及び業務管理体制の整備に関する事項につい
て不正又は著しい不当が疑われる場合等において、事実関係を的確に把握し、公正かつ適正な
措置を行うことを目的として市町村等が実施する。
⑭ 指導対象の選定について
介護保険法第23条の規定を根拠法令として実施する指導の対象は、すべての事業所の中から、重点的
かつ効率的な指導を行うため、毎年度作成する実施計画において事業種別ごとの状況に応じて選定する。
なお、社会福祉法の規定に基づいて実施される社会福祉法人に対する一般監査とは異なり、関係法令や通
知等において指導の実施頻度に関する規定はない。
⑮ 外部評価について
平成18年度の介護保険法改正により創設された地域密着型サービスのうち、グループホーム及び小規
模多機能型居宅介護事業所(以下「グループホーム等」という。)については、自らその提供するサービ
スの質の評価を行うとともに、定期的に外部の者による評価を受け、それらの結果を公表し、常にその改
善を図ることが義務付けられている。
グループホーム等は各都道府県の定める基準に基づき、まず自ら評価を行った上で、各都道府県が選定
した評価機関の実施するサービス評価を受け、その評価結果を踏まえて総括的な評価を行い、常にその提
供するサービスの質の向上を図ることが求められている。なお、評価の実施を担保する観点から、それら
の結果については利用者及び利用者の家族へ提供するほか、インターネットや市区町村窓口などにおいて
公表されている。
第2 監査の実施
1 監査対象事項
和歌山市職員措置請求書に記載された事項などを勘案し、サービスの提供に係る介護報酬の不正受給につ
いて、市職員が違法又は不当に財産(債権)の管理を怠ったという事実があるのかということを監査対象事
項と定めた。
2 請求人による新たな証拠の提出及び陳述
地方自治法第242条第6項の規定に基づき、請求人に対して新たな証拠の提出及び陳述の機会を設けた。
請求人からは、和歌山市職員措置請求書の記載事項の補足として、大要以下の陳述が行われた。
① 体制加算を算定するにあたっては、グループホームBにおける看護師の勤務実態が条件のひとつとなる
が、家族がグループホームBに入居していた時の状況から考えても、そのような実態はない。
② 社会福祉法人Aは体制加算の算定に係る届出を行うにあたり、C医院と締結した契約書の写しを添付し
ている。しかし、C医院から往診に伴う診療報酬については説明があったものの、グループホームBにお
ける医療連携体制についての説明はなかったことから、C医院には体制加算に対する認識がないか、もし
くはあっても極めて薄いものと推測される。
③ 平成18年度の介護保険法改正に伴って体制加算が新設されたが、グループホームBの職員から体制加
算の新設に関する説明は一切受けていない。
④ 体制加算を算定するにあたっては、重度化対応指針を定め、利用者又はその家族等に対して当該指針の
内容を説明し、同意を得ることが必要であるが、グループホームBの職員から当該指針を見せてもらった
ことがないし、説明も受けたことがない。よって、同意のしようもない。
⑤ 重度化対応指針に盛り込むべき項目のひとつに「看取りに関する考え方、本人及び家族との話し合いや
意思確認の方法等の看取りに関する指針」が挙げられている。また、体制加算を算定している事業所が行
うべき具体的なサービスのひとつに「看取りに関する指針の整備」が挙げられている。
しかし、グループホームBの職員から「看取り」という言葉を聞いたのは平成24年4月になってから
のことである。
⑥ 市は、社会福祉法人Aから提出された体制加算の算定に係る届出書に添付されている契約書の写しや重
度化対応指針の写しの中に不備があり、補正を求めるべきであるにもかかわらず、補正を求めないまま届
出書を受理している。なお、契約書の写し及び重度化対応指針の写しにおける不備の内容は次のとおりで
ある。
ⅰ)契約書の冒頭に「協力医療機関として次の契約を締結する」と記載されており、「医療連携体制の確
立」を目的とした契約書ではない。
看護師を確保することなく、単に協力医療機関の医師による定期的な診察が行われているだけでは加
算は算定できず、協力医療機関との契約のみでは算定できない。
ⅱ)「契約の締結日」及び「体制加算算定の開始日」が契約書に記載されていない。
また、契約条件(サービス内容と支払条項)に該当する部分が不明確である上に、契約更新に関する
記述もない。
ⅲ)医療連携体制を確立するのが目的とするのであれば、契約書の一部として重度化対応指針がないとお
かしいが、契約書の本文には当該指針を参照・添付する記述がない。
ⅳ)契約書には「C医院はグループホームBの利用者の日常健康状態について、健康状態を把握し適切な
指導管理を行う。」と記載されているが、看護師の配置に関する記述はない。
ⅴ)契約書には「グループホームBの利用者に関し、急性期における対応について、C医院は24時間連
絡を取れる体制を確保するものとする。」と記載されている。しかし、これは「24時間オンコール体
制」について規定しているのみで、体制加算の算定において必要とされる具体的なサービス(①利用者
に対する日常的な健康管理 ②通常時及び特に利用者の状態悪化時における医療機関(主治医)との連
絡・調整 ③看取りに関する指針の整備)については全く記載がない。
ⅵ)契約書には看護師の確保に伴う費用の支払いについて記載がない。
契約書において「この契約に定めがない事項で必要な事項は、社会福祉法人A、C医院の協議により
定める。」と記載されているものの、その後、看護師の確保に係る費用の支払いについて、双方にお
いて協議が行われたのかは不明である。
ⅶ)重度化対応指針には協力医療機関の捺印がなく、協力医療機関との合意ができていない。
ⅷ)重度化対応指針には「当事業所は利用者に対する日常的な健康管理を行うと共に医師と24時間の連
絡体制を確保し、…」と記載されているものの、看護師の配置に関する記述はない。また、当該指針に
は日常の健康管理については、看護師ではなく、グループホームBの職員が行う旨が記載されている。
ⅸ)重度化対応指針には「当事業所は…医師と24時間の連絡体制を確保し、利用者の状態が悪化した場
合はすぐに連絡を取り、医師の指示を受け必要な措置を取る体制を整えている。」と記載されている。
しかし、これは「24時間オンコール体制」について規定しているのみで、体制加算の算定において必
要とされる具体的サービス(①利用者に対する日常的な健康管理 ②通常時及び特に利用者の状態悪化
時における医療機関(主治医)との連絡・調整 ③看取りに関する指針の整備)については全く記載が
ない。
⑦ 社会福祉法人AとC医院が体制加算を算定するにあたって締結した契約書には、看護師の確保に伴う
費用の支払いに関する条項がない。そのため、当該費用の支払いについて、市は社会福祉法人Aに対する
一般監査を実施した際、看護師の確保に伴う費用の支払いに関する契約書の条項、当該支払条項に基づく
支払実績を証する領収書、看護師の勤務実績を示した勤務表及び看護師の勤務実態としての勤務内容の4
点を照合していない可能性がある。看護師の勤務実績や勤務実態を確認しないまま体制加算の算定を認め、
介護報酬を支払っていたのであれば、それは不正な公金の支出である。
⑧ 介護保険法が創設されて12年経つが、数年毎に改正される介護保険法はその度に制度が変更され、
大小様々なサービスや加算が新設される。そのため、利用する側にとっては非常に複雑な仕組みとなって
きている。現に、グループホームには厚生労働省が所管する部分と国土交通省が所管する部分があり、さ
らに厚生労働省が所管する部分の中にも介護保険に関する部分と医療保険に関する部分がある。家族の中
で介護の問題を抱えている一般市民にとっては、理解しがたいものである。
そこで、市民が安心して介護保険を利用することができるようにするため、市が果たすべき役割は重大
である。
また、市は医療保険制度と重複することなく、適切に介護保険制度を運用していく立場にあるとともに、
その運用に必要な費用が介護保険料と税金で賄われていることから、市民のためにも無駄なく運用するこ
とができるよう、様々な政策を実施しなければならない立場にもあると考える。
しかし、それにもかかわらず、市は市民から信託された責任をないがしろにしている。これまで、市は
社会福祉法人Aによる体制加算に係る介護報酬の請求に応じてきたが、それは適正かつ必要な監査を怠っ
た結果、漫然と介護報酬の名の下に公金を支出させたものであると言わざるを得ない。
倫理性と正義を欠いた違法な支出行為である以上、介護報酬の給付を差し止めた上で、過去給付分につ
いても返還を求める。
3 陳述に際して提出された新たな証拠
① 留意事項通知の一部抜粋(事実証明書として提出された箇所以外の抜粋)
② 社会福祉法人Aの平成20年度、21年度、22年度及び23年度決算書
③ 請求人が市指導監査課に提出した、グループホームBに対する特別監査の実施に関する依頼文書
4 監査対象部局
健康局
5 監査対象部局による陳述及び説明
本件について、監査対象部局の職員から事情を聴取した。その概要は以下のとおりである。
① 体制加算の算定に係る届出に際しては、添付書類として、協力医療機関をはじめとする医療機関又は訪
問看護ステーションと看護師の確保に係る契約等を締結する場合は、当該契約書等の写しの提出を求め、
当該事業所の職員をもって看護師を確保する場合は、事業所における従業者の勤務体制及び勤務形態の一
覧表と看護師の資格証の写しの提出を求めている。
② 加算の届出は、当該加算を算定しようとする事業所を経営する事業者が、算定要件を充たすかどうか自
ら確認を行った上で届出書に必要事項を記載し、市が求める書類を添付してなされるものである。そして、
これらの書類が整っていれば、市は当該届出を受理するものとなっている。つまり、届け出た加算の算定
要件を充足させることは事業者の責任においてなされるべきものである。また、届出には許認可のごとく
行政庁に対して裁量権が与えられていないため、市が求めた内容に沿って提出された届出書は当然受理す
べきものである。
③ また、届出は加算の算定要件すべてにおいて確認できないと受理できないというものではない。体制加
算の算定に係る届出においても重度化対応指針は必要な添付書類としていないため、当該指針の添付がな
くても届出は受理する。
④ 体制加算の算定に係る留意事項の周知徹底については、平成19年1月に行った集団指導の際、体制加
算を算定するにあたっての要件について説明を行っている。また、平成20年1月に行った集団指導の際
には、厚生労働省から示された体制加算に係るQ&Aを用いて、体制加算の算定上の留意点について周知
している。なお、グループホームBの職員はこれらの集団指導に参加している。
⑤ もちろん、集団指導を実施するのみでは、体制加算の算定に係る留意事項の周知徹底が十分であるとは
考えていない。実地指導の実施件数については今後検討していかなければならないと考えている。ただ、
物理的にすべての事業所に対して実地指導を行うということは不可能であるため、集団指導を実施するこ
とで実地指導を補完しつつ、さらには平成22年度から届出書類を一部変更して確認事項を増やすなどし、
できるだけ効果的かつ効率的な指導監査が実施できるよう努めているところである。
⑥ 看護師の確保に係る契約書等については定まった形式等はなく、一般に使用されているもので契約等を
締結している。
⑦ 社会福祉法人AとC医院が締結した契約書は、書類として適切ではないと言わざるを得ない。しかし、
当該契約の内容はC医院がグループホームBの協力医療機関となる旨のものであることから、当該医療機
関において看護師の確保ができているものと判断した。
⑧ 介護保険法の規定に基づくグループホームBに対する実地指導については、平成18年度に市に指導監
査権限が移譲されて以来、実施していなかった。
しかし、社会福祉法の規定に基づいて実施する、グループホームBの運営主体である社会福祉法人Aに
対する一般監査については、2年に1回の割合で実施している。
⑨ 実地指導の予定を立てるにあたっては、他の業務、具体的には事業所の公募選定に係る業務や、事業所
の新規指定や指定更新に関する業務、集団指導、さらには補助金業務などの事務量や予定を勘案し、実地
指導が可能な時期と件数を決定している。実地指導の実施時期や件数などを決定するにあたり、最も優先
するのが特別養護老人ホームに対する実地指導で、法人監査と合同で実施する。次いで、地域密着型サー
ビス事業所(以下「地域密着型」という。)と介護老人保健施設に対する実地指導の実施時期及び対象事
業所等を決定する。実地指導の実施期間としては概ね2か月から3か月程度となり、その期間内において
特別養護老人ホーム、介護老人保健施設及び地域密着型に対する実地指導の日程を割り振ることとなるが、
地域密着型に対する実地指導については毎年10件未満となっている。
⑩ 特別養護老人ホームをはじめとする事業所等に対する実地指導のうち、地域密着型に対する実地指導の
対象の選定にあたっては、限られた期間で効率的に指導を行うという観点から、市に寄せられた通報や苦
情など事業所に関する情報や事業所における事故の発生状況等を重視して選定している。よって、必ずし
も各事業所へ同じサイクルで実地指導を行っているわけではない。
⑪ また、すべての事業所に対して指導監査を実施しなければならない旨が規定された通知等はなく、あく
までも市が自ら実施計画を策定した上で指導監査を実施することとなっている。社会福祉法人Aが経営す
るグループホームBに対しては、これまで苦情などの情報が市に寄せられていなかったため、実地指導の
対象になっていなかったというのが現状である。
⑫ 市は、請求人から寄せられた情報を総合的に判断した結果、当該情報の信憑性は高く、グループホーム
Bに対する指導監査を実施する必要性があると判断し、平成24年10月2日付けで運営主体である社会
福祉法人Aに対し、介護保険法の規定に基づくグループホームBに対する監査を実施する旨の通知を発出
するとともに、同月10日に市職員がグループホームBに赴き、監査を実施している。
⑬ 現在、グループホームBにおいて保管されていた書類を引き上げてきた上で、検査を行っている。社会
福祉法人Aに対して支払ったグループホームBの体制加算に係る介護報酬について、返還を求めるべきで
あるものなのかどうか、関係書類などをもとに客観的な分析を進めているところである。
⑭ 外部評価は、事業者に対し、運営基準第97条第7項の規定を根拠に実施を義務付けている制度である。
事業所は常にその提供するサービスの質の改善を図らなければならず、自己評価とともに外部評価を実施
し、両評価を踏まえて総合的な評価を行う。
つまり、外部評価は市が実施する指導監査とは直接関係のないものであるが、運営基準において実施が
義務付けられていることから、外部評価を実施していない場合には実施するよう指導を行う。
なお、グループホームBの外部評価の結果からは、客観的に見て明らかに体制加算の要件を充たしてい
ないと言えるものはない。
第3 監査の結果
1 本件に係る検査の実施状況
監査対象部局の職員は現在、グループホームBにおいて保管されていた書類などを確認し、検査を実施し
ているところであるが、書類等の内容から判断された内容は次のとおりである。
なお、当該内容をもとに、監査対象部局の職員は今後、最終的な方向性を決定するため、事実確認等を行
う予定であり、グループホームBにおける不正受給については現時点において確定していない。
① 体制加算の算定に係る届出書に添付されていた契約書について、当該契約書にはC医院がグループホー
ムBの体制加算に係る協力医療機関となる旨が記載されていることから、市はC医院において看護師が確
保できるものと判断した。しかし、看護師はC医院において確保されておらず、C医院は協力医療機関と
しての役目を果たすのみであった。
② 社会福祉法人Aは看護師を確保するにあたり、看護師個人と契約を結び、グループホームBの職員とし
て雇用している。ただし、体制加算の算定期間内の一部において要件に充たない准看護師と雇用契約を締
結するなど、グループホームBにおいて看護師が確保できていない期間があった。
③ 体制加算に係る介護報酬の一部(原則1割)を利用者負担金としてグループホームBの利用者に負担を
求めるにあたり、一部の期間、一部の利用者において、社会福祉法人Aは重要事項説明書や利用料に係る
同意書により、利用者から同意を得ていた。
④ 重度化対応指針に係る同意に関しては書面による同意が望ましいが、口頭による同意でも差し支えない。
そのため、当該指針の内容について、グループホームBの職員は利用者又はその家族から同意を得たと言
っているものの、これに関して確たる証拠がない。
2 本件に係る判断
本件に係る請求人からの訴え、監査対象部局による陳述及び説明、並びに検査の実施状況に基づき、本件、
市職員に係る「財産(債権)の管理を怠る事実」の違法性、不当性については次のように判断する。
① 市職員の違法行為による怠る事実についての判断
ⅰ)体制加算の算定については、算定基準において「別に厚生労働大臣が定める基準に適合するものとし
て市町村長に届け出た指定認知症対応型共同生活介護事業所において、指定認知症対応型共同生活介護
を行った場合は、医療連携体制加算として、1日につき所定単位数を加算する。」と規定されている。
これは、グループホームを経営する者が、自らその経営するグループホームにおいて施設基準を充たす
ことができると判断し、その旨を市町村長に届け出るとともに、当該グループホームにおいて体制加算
に基づくサービスを提供した場合に、当該加算を算定することができる旨が規定されているものと考え
る。
つまり、算定基準によれば、社会福祉法人AはグループホームBにおける体制加算の算定にあたり、
施設基準や当該加算の算定に基づくサービスの提供内容について十分理解した上で届出をする立場にあ
る。
一方、市もグループホームBにおける体制加算の算定に係る届出を算定基準に基づいて受理している。
ここで確認すべき点は、留意事項通知が届出手続きの運用として要件審査と事後調査を示していること
である。これは、すべての要件審査を体制加算の算定に先立って行ったとしても、実行性の観点から現
実的でない面があるため、適宜事後的な調査を行い、当該事後調査をもって要件に合致していないこと
が判明した事業者に指導や行政処分を科すとすることで、実効性を担保しているものと考えられる。こ
の点について、市では事後的な調査として毎年実地指導を行うとともに、集団指導を実施しているとこ
ろである。
以上の点を踏まえて総合的に判断すると、算定基準において、市は事業者によりなされた体制加算の
算定に係る届出に関し、すべての要件を実質的に審査することまでは求められておらず、体制加算の算
定に係る届出書の記載事項に不備がないことを確認するとともに、市の方針に基づいて定めた添付書類
により客観的に審査していれば、当該届出に対する要件審査を違法に怠ったとまでは言えないものと考
える。つまり、添付書類である契約書や重度化対応指針に対する実質的な審査がなされていないことを
もって、市の要件審査に違法性があるとまでは言えないものと考える。
ⅱ)事業所監査について、市には介護保険法第23条及び同法第76条等の規定に基づき、当該監査を実
施する権限が付与されている。
また、事業所監査の実施にあたっては、「介護保険施設等の指導監督について」(平成18年老発第
1023001号厚生労働省老健局長通知。以下「指導監督通知」という。)において、当該通知の別
添1「介護保険施設等指導指針」(以下「指導指針」という。)及び別添2「介護保険施設等監査指針
」(以下「監査指針」という。)を参考にすることと定められている。
つまり、市が介護保険法の規定により付与された事業所監査の権限を行使するにあたっては、指導監
督通知の内容をもとに実施することが必要であると考えられるとともに、請求人は、市が指導監督通知
に基づく事業所監査の実施を違法に怠ったがために、市に損害を与えたと主張しているものと解した。
ここで確認すべき点は、市が実施している事業所監査が指導監督通知の内容に基づき実施されている
のかどうかという点である。
まず指導について、市は限られた時間の中で効率的な指導を実施するため、地域密着型に対する指導
については集団指導を実施するほか、市に対して通報や苦情などが寄せられた事業所等を中心に実地指
導を行っている。これは、指導の対象はすべての事業所とするものの、重点的かつ効率的な指導を行う
観点から、市町村において特に実地指導を要すると認めるサービス事業所等を対象に一定の計画に基づ
いて実施する旨を規定した指導指針の内容に沿ったものであると考えられる。
なお、指導指針において実地指導の実施頻度に関する規定がないことから考えても、介護保険法は各
事業所に対し同じサイクルで実地指導を行うことまでは求めていないものと考える。
次に監査について、市は請求人から寄せられた情報を総合的に判断した結果、グループホームBに対
し指導監査を実施することが必要と考え、平成24年10月10日に現地に赴き、監査を実施している。
なお、現在も引き上げてきた書類等をもとに検査が実施されているところである。これについても、通
報や苦情などに基づく情報をはじめとする要確認情報を踏まえて、指定基準違反等の確認について必要
があると認める場合に実施するものと規定した監査指針の内容に沿ったものであると考えられる。
以上の内容からすれば、市が実施する事業所監査が指導監督通知の内容に背いたものであるとは言え
ず、市が違法に指導監査権限の行使を怠っているとは判断できない。
ⅲ)外部評価の結果をもって体制加算の算定条件を充たす体制が整備できていないとしたことについて検
討する。外部評価とは、運営基準第97条第7項の規定に基づき、グループホームを経営する者が自ら
その提供するサービスの質について評価するとともに、定期的に外部の者による評価を受け、これらを
対比させることで総合的な評価を行う制度である。なお、これらの結果については一般に公表されるた
め、グループホームを経営する者には、常に当該グループホームにおいて提供されるサービスの質の向
上が求められる。つまり、外部評価を実施する目的はグループホームにおいて提供されるサービスのさ
らなる質の向上であり、厚生労働省令で定める基準等に照らし、その実施状況等を確認することを目的
とする事業所監査とは目的が異なる。
よって、社会福祉法人Aが自ら実施したグループホームBに対する自己評価の結果及び外部の福祉サ
ービス評価機関によるサービス評価の結果について、市が細部にわたりチェックしなかったことをもっ
て故意又は過失による注意義務違反が発生するとまでは言えないものと考える。
② 社会福祉法人Aの違法行為による返還請求権の行使を市職員が怠る事実についての判断
ⅰ)監査対象部局の検査により、グループホームBにおいて看護師が確保されていない期間があったこと
が判明している点を考慮すれば、市は社会福祉法人Aに対する介護報酬の不正利得返還請求権を有して
いるものと考える。
ⅱ)しかし、介護保険法第22条第3項の規定に基づき、市が事業者に対して支払った介護報酬の返還請
求を行うためには、次の3点が確定されることが必要である。
(1)事業者に偽りその他不正、不当な行為があること
(2)その不正、不当な行為により事業者が介護報酬を受けたこと
(3)その事業者が不正又は不当な行為により支払いを受けた介護報酬の額
ⅲ)なお、監査対象部局による事実確認は現時点においても実施されているところであり、返還請求額等
の確定には至っていない。
ⅳ)以上の点を踏まえれば、市は介護保険法第22条第3項の規定に基づく社会福祉法人Aに対する介護
報酬の不正利得返還請求権を有しているものの、当該請求権を行使する段階には至っておらず、市が返
還請求権の行使を違法又は不当に怠っているという事実は認められないものと考える。
3 結論
以上の内容から、請求人が主張するグループホームBにおけるサービスの提供に係る介護報酬の不正受給
について、市職員が違法又は不当に財産(債権)の管理を怠ったという事実は認められないものと判断し、
これを棄却する。
4 監査結果に添える意見
現在、監査対象部局の職員は請求人から寄せられた情報をもとに、グループホームBに対して監査を実施
している。
監査対象部局の職員がグループホームBに対する監査を実施するにあたり、現時点において書類等の内容
から判断できることは、1点目としてC医院において看護師が確保されていなかったこと、2点目として
体制加算を算定しているにもかかわらずグループホームBにおいて看護師が勤務していない期間があった
こと、3点目として体制加算の算定に伴う利用者負担金の徴収について一部の利用者から書面により同意
を得ていなかったこと、最後に4点目として重度化対応指針に係る内容の説明及び当該指針に対する同意
について、これらが適切になされたのかどうか、確たる証拠がないということである。
今後、監査対象部局の職員は当該内容をもとに事実確認及びその確定にあたるが、グループホームBにお
いて看護師が確保されていない期間があったことが判明していることから、速やかに返還請求額等を確定
させ、介護報酬の返還を求める措置を講じられたい。
また、市職員が違法又は不当に財産(債権)の管理を怠ったという事実は認められないと判断したものの、
介護保険法の創設時に比べて、市には多くの権限が移譲されており、自らの責任において制度をより適正
に運営することが求められている。このことに加え、所管する事業所等の数が増加している点を考慮すれ
ば、指導監査等の実施について、これまで以上に強化することが必要である。今後、監査対象部局におい
ては、事業所に対してより効果的な指導を実施するとともに、迅速かつ適正な監査が実施できる体制を講
じられたい。また、指導監査等の運用面における新たな指針等の整備についても併せて検討し、市民が安
心して利用することができる介護保険制度の確立に努めることを望むものである。