植物粗精製油を用いた高品質バイオディーゼルの大量生産

(別紙1)
助
成
事
業
結
果
報
告
書
1.助成事業の名称
植物粗精製油を用いた高品質バイオディーゼルの大量生産
2.実用化開発の経過
(1) 実用化開発担当者
(主任研究者及び研究担当者の氏名、職名、所属並びに分担した実用化開発の事項)
主任研究者:松村正利 取締役会長 サンケァフューエルス株式会社 開発研究の統括
研究分担者:住川武嘉 取締役
サンケァフューエルス株式会社 パイロットプラント建設
中村信行 研究員
サンケァフューエルス株式会社 BDF生産プロセス開発
田中順子 研究員
サンケァフューエルス株式会社 低温流動性改善剤の開発
サマン・ 研究員
サンケァフューエルス株式会社 酸化安定化の開発研究
ビジェセカラ
鈴木信義 研究員
サンケァフューエルス株式会社 エンジニアリングの適正
坪田 宏 研究員
サンケァフューエルス株式会社 品質評価・内燃機関
山根浩二 教授
滋賀県立大学工学部
ひまわりBDFの燃料及び
排気ガス特性
野村名可男 講師
筑波大学生命環境科学研究科
ひまわりBDF生産プロセス解析
および品質評価
松寺昌文
課長 西日本鉄道株式会社新規事業室
バスの走行試験
(2) 実施場所
(実施場所の名称、所在地及び電話番号、2以上に分かれるときはそれぞれの場所で実施した主たる
実用化開発項目)
サンケァフューエルス株式会社研究所 茨城県土浦市木田余 4679-1 TEL:029-835-5677
BDF生産プロセス開発、低温流動性改善剤の開発、
酸化安定化の開発研究、パイロットプラントの評価
滋賀県立大学工学部機械システム工学科 滋賀県彦根市八坂町 2500番地
TEL: 0749-28-8377
ひまわりBDF燃料及び排気ガス特性解析
筑波大学生命環境科学研究科
茨城県つくば市天王台 1-1-1 TEL: 029-853-6624
BDF生産プロセス解析および品質評価
西日本鉄道株式会社自動車教習所
福岡県大野城市山田 3-12-15 TEL: 092-581-2854
バスの走行試験
(3) 実用化開発の期間
開始
平成18年9月 1日
終了
平成19年3月20日
平成18年度 平成18年9月1日から平成19年3月20日
平成19年度 平成19年3月21日から平成20年3月20日
-1-
(4) 実用化開発の日程
(実用化開発の開始から完了(終了又は廃止)までの実用化開発の日程を研究の段階に従って記載す
ること。)
開 発 日 程 表
期間
開発項目
平成18年度
9月~12月
1月~3月
平成19年度
4月~6月
7月~9月
10月~12月
1月~3月
BDF連続製造プラント
生産プロセス解析
プラント製作・設置
プラント稼動
プラント改造
BDF製品の一部提供
添加剤の大量生産
生産技術の基礎研究
化審法の取得・MSDS作成
大量生産の問題点抽出と
OEM生産の検討
製品安定性評価
BDF混合軽油
混合燃料の特性調査
パームBDF混合燃料、大豆
BDF混合燃料の製造と製品
評価
バス走行試験と排ガス解
析
(5) 実用化開発の実績
(申請書の内容説明書と対応させて、実用化開発のために使用した設備、材料及び実用化開発の経過
並びに内容に付いて、図面、図表又は写真等も含めて詳細に記載すること。)
本年度は下記の4つの開発課題について研究をすすめた、
[I]
パイロットプラントを用いた高品質ひまわりBDFの連続生産
[II]
パイロットプラントで生産されたヒマワリBDFのエンジン排気特性と長期走行試験
[III] 流動点降下剤の大量生産と新規利用方法の開発
[IV]
BDF混合軽油の低温流動性改善
-2-
開発課題[I] パイロットプラントを用いた高品質ひまわりBDFの連続生産
パイロットプラントで生産されたひまわりBDFの品質の安定性および製造コストについての検証を実施
した。また、不飽和脂肪酸含有量の高いひまわりBDFの欠点である酸化安定性についても適切な抗酸化剤を
見出すことに成功し、安定性の向上につながった。また、実際の長期使用時に問題となるBDF中の水分の影
響を明らかにし、その対策技術の開発につなげた、
(I-1)数値シュミレーションを用いた製造プロセスの解析(筑波大学委託)
バイオディーゼルの品質は、酸化安定性、低温流動性などのように原料油の特性に由来するものと、反
応中間体や石鹸などの不純物残存量のように製造プロセスに由来するものとに大別される。バイオディー
ゼル混合軽油の強制規格およびこの混合軽油の製造に用いられるバイオディーゼルのニート規格が平成
19年3月31日に施行される。このニート規格値は欧州規格EN14214に準じており、反応中間体のモノー、ジ
ーグリセリドの残存量がそれぞれ 0.8, 0.2%と極めて厳格な値である(表I-1-1)。
表I-1-1. 国内BDFニートおよび混合軽油規格
バイオディーゼルを製造する化学反応(メチルエステル化反応)は図I-1-1に示すような逐次、可逆反応
である。この反応式から明らかなように、逐次反応の最終段階に位置するモノグリセリドの変換がもっと
も困難である。我々は、このメチルエステル化反応の反応速度定数を得ており(図I-1-2)、数値シュミ
レーションによってモノグリセリド残存量を 0.8%以下に抑制し得る反応操作を探索した。
反応プロセスとしては、単槽連続反応プロセスと2段階連続反応プロセス(図I-1-3)について数値計算
を行った。
-3-
図I-1-1.メチルエステル化反応の素反応
図I-1-2.メチルエステル化素反応速度定数のアウレニュースプロット
単槽連続反応における反応開始時から定常状態に達するまでの数値解析結果を図I-1-4 にまたこのとき
の物質収支を表I-1-2 に示した。表I-1-2 から明らかなように、メチルエステル(FAME)への変換率は98.23
%であるが、モノグリセリド(MNG)は1.61と規格を満足していない。
ついで2段階反応では、第1段と第2段それぞれへのメタノール・触媒混合液の投入量を50:50, 60:40,
70:30と変化させモノグリセリド残存濃度への影響を検証した。
-4-
図I-1-3.単槽および2段階連続反応プロセスの概要
F:植物油、M:メタノール、触媒混合液、R:エステル化反応液、G:粗グリセリン層、
B1:粗メチルエステル層、B2:メタノール除去メチルエステル層、A:回収メタノール
第1槽、第2槽への触媒分配比70:30の場合を1例として図I-1-5 に示した。2段階反応での1段目および2
段目での反応経過を示し、表I-1-3 に物質収支を示した。メチルエステル(FAME)への変換率は99.48%に
達し、モノグリセリド(MNG)の残存濃度は 0.42%と著しく減尐し、完全にニート規格を満足するものとな
った。
これらのシュミレーションの結果に基づいて実際のパイロットプラントの設計を行った。
図I-1-4.単槽連続反応における反応経過
-5-
表I-1-2.単槽連続反応における物質収支
Mass Flow
(kg/h)
MeOH
NaOH
F
41.67
0.00
0.00
M
15.43
98.65
1.35
R
57.10
18.26
0.00
G
13.14
47.60
0.00
B1
43.95
9.49
0.00
A
4.17 100.00
0.00
B2
39.78
0.00
0.00
Reactor Volume Requirement = 46.2 L
Stream
Composition
TRG
DIG
100.00
0.00
0.00
0.00
0.01
0.11
0.00
0.01
0.01
0.14
0.00
0.00
0.02
0.15
(% wt)
MNG
GLY
0.00
0.00
0.00
0.00
1.16
7.17
0.15
31.14
1.46
0.00
0.00
0.00
1.61
0.00
図I-1-5.2段階反応プロセスにおける反応経過
上図:第1槽、 下図:第2槽
-6-
FAME
0.00
0.00
70.56
9.20
88.91
0.00
98.23
Soaps
0.00
0.00
2.74
11.90
0.00
0.00
0.00
表I-1-3.2段階反応における物質収支(触媒分配比 70:30)
Mass
%wt Composition
Flow
Stream
(kg/h)
MeOH
NaOH
TRG
DIG
MNG
F1
41.67
0.00
0.00 100.00
0.00
0.00
M1
10.80
98.65
1.35
0.00
0.00
0.00
R1
52.47
12.08
0.00
2.49
2.06
2.19
G1
9.84
38.66
0.00
0.40
0.33
0.35
F2
42.63
5.95
0.00
2.98
2.46
2.62
M2
4.63
98.65
1.35
0.00
0.00
0.00
R2
47.26
14.20
0.00
0.02
0.05
0.28
G2
6.22
64.75
0.00
0.00
0.01
0.06
B1
41.04
6.54
0.00
0.02
0.06
0.31
A
2.68 100.00
0.00
0.00
0.00
0.00
B2
38.36
0.00
0.00
0.03
0.06
0.34
Reactor Volume Requirement (First-Stage) = 12.4 L
Reactor Volume Requirement (Second-Stage) = 16.6 L
GLY
0.00
0.00
7.05
37.60
0.00
0.00
1.13
8.62
0.00
0.00
0.00
FAME
0.00
0.00
72.04
11.53
86.00
0.00
83.32
19.00
93.06
0.00
99.57
Soaps
0.00
0.00
2.09
11.13
0.00
0.00
0.99
7.55
0.00
0.00
0.00
(I-2)パイロットプラントの設計、施行、運転
a) 最適操作条件の決定と品質規格
上記の数値シュミレーションの結果に基づき、申請書に記載した1段反応プロセスを2段階反応プロセ
スに変更し、三菱化工機と共に図I-2-1 に示すようなパイロットプラントの設計を行い、平成19年3月
に写真 I-2-1に示すプラントが完成した。
本プラントのプロセスは、「反応工程」、「中和・洗浄工程」、「精製工程」の三つに大別される。そ
れぞれの特徴と実証試験中に得られた知見(今後の改良点を含む)をまとめる。
● 反応工程
反応工程は反応槽を二つに分割し、各々において副産物であるグリセリンを反応と同時に抜去すること
で逆反応による反応達成度の低下を抑制している。反応を正反応(エステル化進行方向)に強化するため
にはメタノール、触媒の過剰投入か、温度・攪拌等反応強度を高める必要がある。一方で逆反応を抑制し、
反応中間耐(グリセリド類)を低減するために、グリセリンを除去する。しかし、反応強化のために過剰
量のメタノールを投入することは結果的にエステルとグリセリンの比重差を尐なくし、物理的な分離速度
は低下する傾向があるため、製造速度の向上、及び連続的操作においてバイオディーゼル品質規格値を満
たす反応条件を見出すことは単純ではなかった。
触媒量増加によって反応を強化した場合、後段の中和プロセスへの影響、及び反応中に派生する遊離脂肪
酸量を増加させる傾向があり、中和洗浄後の「酸価値」を基準値以上に増加させることも確認された。遊
離脂肪酸の発生はバイオディーゼル(脂肪酸メチルエステル)の収率低下にも繋がるため、過剰投入は望
ましくないことを実際に確かめた。7月までの試験運転においては反応到達度を最優先項目としていたため、
全体収率は低く、更に反応工程後段のメタノール蒸留操作においてエステルの変質を引き起こす結果とな
った。いくつかの再現テストの結果、余剰の触媒と遊離脂肪酸がエステル中に存在し(鹸化物として存在
-7-
するため主にグリセリン相に配向する)他場合においてメタノール蒸留操作時にエステルの変質を確認す
ることが出来た。
反応工程において、現状設備における最適化結果を確定することが出来た。しかし、エステル中のグリ
セリン(又は含まれる鹸化物)濃度が高まらないようにスケールアップ時には滞留時間制御よりも遠心分
離による機械分離が適切であると考えられた。
●中和洗浄
本パイロットプラントでは、反応触媒としてNaOHを、また中和剤として酢酸を使用している。製品エス
テル中の残存アルカリ濃度の分析結果に示される通り、Na等陽イオン除去は十分な結果であった。この工
程は、500Lの未洗浄エステルに500Lの酢酸温水を混合・分離する中和と、500L温水と混合・分離する2段階
湿式洗浄工程である。不純物除去に水を使用しない乾式洗浄と比較して排水処理工程が必要になり、また
最終工程において製品バイオディーゼルから水分除去を行う必要がある、油水分離には三菱化工機株式会
社製の遠心分離機(Self Jector)を用い、高い収率で油水分離を達成でき、またスケールアップ時におい
ても同方式が有効であることを確認できた。
● 蒸留工程
蒸留工程は湿式洗浄操作後の残存水分率調整として行う。連続遠心分離機試験報告書にもあるように、
洗浄操作後約2000ppm前後まで低下した水分率を500ppm以下まで蒸留する。本パイロットプラントの
真空蒸留において250ppmまで低減する運転条件を「処理速度」、「温度」、「循環流量等」のバランス
から確定した。「温度」については以前に出光テクノリサーチに依頼した分析結果よりバイオディーゼル
の初留点が300℃近いことも考慮した。
この操作条件の検討はスケールアップデザイン時、シミュレーション根拠として一定の成果となると判
断された。
以上述べたように、各工程の精査に基づいて操作条件が改善された。この最適操作条件の下で得られた
ひまわりBDFの品質分析結果を表I-2-1に示した。
-8-
図I-2-1. BDF連続生産プロセスチャート
写真 I-2-1. BDF連続生産パイロットプラントの全景
-9-
表 I-2-1. ひまわりBDFの品質分析表
b) バイオディーゼルの生産性
本パイロットプラントの運転に際して、原料油から製品であるバイオディーゼルを製造するまでの収率
を評価した。その結果、定常運転時における収率は、反応工程99%以上、中和・精製工程が99%以上と見
込まれ、全体で98%(油容量)以上の回収率を達成した。プラントの立ち上げ・停止期間等におけるロス
-10-
等はここでは含まないものとした。運転試験期間中において得られた収率、及びランニングコストより、
本パイロットプラントにおけるバイオディーゼル製造価格を試算した。当プラントのオペレーション想定
人員を加味して、その価格を評価した。
表.I-2-2. バイオディーゼル製造原価積算
BDF 原価(1L)積算
ケース
ケース
ケース
ケース
①50KL/Y
②90KL/Y
③135KL/Y
④220KL/Y
原価合計
1,583
1,304
1,143
902
大きな比率を占めている原価要素
1)ヒマワリ油原料
15.7%
20.6%
21.8%
18.2%
64%
59%
61%
66%
80.1%
79.9%
82.8%
84.2%
2)人件費
3)事務所経費
4)設備減価償却費
合計
条件
1.人件費は 700 万/人・年とした
2.事務所経費、間接人件費などは除外した(③、④は2人計上)
3.設備減価償却費は パイロットプラントのみ
4.流動点降下剤は原価から除外した
本パイロットプラントは試験設備であり、生産設備ではないため固定が大きな比重を占め原価は極めて
高いものとなった。そこで、海外(フィリピンを予定)で50k/日プラントを製造した場合の建設費用概算
を試みた。固定費のうち、減価償却費用については、プロセスを共同開発している三菱化工機株式会社に
商業用50K/日プラントをフィリピンに設置した場合の概算費用を評価いただいた。その結果、約15億程
度の設置費用(製品輸送等のインフラは含まない)が見込まれている。年間300日稼動として試算して10
年の償却期間で約10円となる。
減価償却を加味し、原料価格以外の費用(固定費用及び一部変動費用込み)は、26円/L程度と見積もる
ことが出来た。現在は商社を介してひまわり油を購入しており、ひまわり油250円/Lを筆頭に原料費用トー
タルでは270円近くかかっており、製造原価は300円近くと計算される。原価100円以下を見込むには原料費
用、特にひまわり油を安価に確保することが必須である。
-11-
50K/日プラント建設工事見積書
c) バイオディーゼルの供給および品質管理体制
使用試験を実施するに当たり、バイオディーゼルの供給体制を整備する必要から、給油ポンプステーシ
ョンの増築を行った。これは、パイロットプラント設置計画当初におけるバイオディーゼル使用量、およ
びその輸送パッケージ等に変化があったためである。18年度時点では、コスト削減のため、大容量パッケ
ージで一度に出荷する計画としていたが、バス会社等での試験導入において扱い易さを優先する、また大
容量パッケージでの輸送は受け入れ先において消防法上の取り扱いが不可欠になる等の課題があり、簡便
性を高めるために変更を決定した。
さらに、製造時及び保存中の品質务化等を評価する上で「酸化安定度」をロット毎に測定することとし、
油脂安定性試験装置を購入した。これは务化した燃料を誤って使用しないためである。
(I-3)酸化安定性の改善に関する検討 (筑波大学委託)
A) ひまわりBDFに適した抗酸化剤の探索
バイオディーゼルの品質は、反応中間体や石鹸などの不純物残存量のように製造プロセスに由来するも
のと、酸化安定性、低温流動性などのように原料油の特性に由来するものとに大別される。
原料油の特性(特に、不飽和脂肪酸の含有量)に依存する酸化安定性は、実際の使用において燃料の保
存性を左右する重要な因子である。現在、フェノール系、アミン系に大別される数多くの酸化安定剤が市
-12-
販されており(図 I-3-1)、菜種BDF、大豆BDFについてはその効果が明らかにされている(表I-3-1)。
図I-3-1.代表的なフェノール系抗酸化剤とアミン系系抗酸化剤
表I-3-1.菜種BDFに対する抗酸化剤の効果
しかし、我々が使用しているひまわり油は、不飽和脂肪酸含有量が高く、酸化を受けやすいBDFであり
これまで適切な酸化安定剤の探索はなされていなかった。本年度は、ひまわりBDFに適した酸化安定剤を
選択すると共に、脂肪酸組成の異なるひまわり油についてその酸化安定性を調べた。
実験に用いたバイオディーゼルは、リノール酸含有量の高いひまわり油を用いてパイロットプラントで
生産されたBDFである。その脂肪酸組成は、リノール酸が 50%、オレイン酸 39%を含む。酸化安定性試験
には、Rancimat 743を用い、110 oCで測定した。抗酸化剤には、BHT (Butylated Hydroxytoluen)、
2,2’-methylene-bis-(4-methyl-6-tert.-butylphenol) (商品名BAYNOX PLUS;Degussa Japan)、およ
びアミン系抗酸化剤を用いた。前述の国内BDF品質規格における酸化安定性は、当事者間の合意に基づく
とあいまいにされているが、ここではEN14214での規格6時間を基準とした。
図I-3-2 は、最も一般的な抗酸化剤として知られているBHT (Butylated Hydroxytoluen) を用い、品質
基準を達成するために必要な添加量を調べたものである。添加量4500 ppm においても酸化安定性に関わる
品質基準 6時間を満足していない。先の表I-3-1 に示されているように、BHTは菜種BDFに対しても顕著な
効果を示していない。
-13-
O x id a tiv e
s)t a b i l i t y
めた。
( h r s
そこで、国内メーカーで製造・販売されている別のフェノール系、アミン系の抗酸化剤について検討を進
7.0
6.0
5.0
4.0
3.0
2.0
1.0
0.0
0
500 1000 1500 2000 2500 3000 3500 4000 4500
B H T
( p p m)
図I-3-2.ひまわりBDFに対するBHT の抗酸化効果の検討
2,2’-methylene-bis-(4-methyl-6-tert.-butylphenol) (商品名BAYNOX PLUS;Degussa Japan)はドイツ
製であるが、精工化学株式会社 (http://www.seiko-chem.co.jp) においてもノンフレックスMBPの商品名
で市販されている。精工化学では、大豆BDFなどに良く用いられている 2,5-Di-tert-butylhydroquinone(ノンフレックスアルバ)およびアミン系抗酸化剤であるDi-tert-butyl-diphenilamine(ス
テアラーECOTIVE)も製造している。図I-3-3 は、フェノール系、アミン系抗酸化剤のひまわりBDFに対す
る効果を比較して示したものである。
フェノール系抗酸化剤 BAYNOXは3000 ppmの添加によって品質規格6時間をほぼ満足し、前述のBHTより優
れている。また、アミン系抗酸化剤は1200 ppmですでに規格を満足しており、不飽和脂肪酸含有量の高い
ひまわりBDFにはより適していると言えよう。今後さらに数種類のアミン系抗酸化剤と2,5-Di-tert-butyl
-hydroquinoneについてつきか実験を実施し、効果と価格の両面から検討し、ひまわりBDFに最適な抗酸化
剤を決定する。
-14-
1 1 0
a t
( h r s
s t a b i l i t y
O x i d a t i v e
10
9
8
7
Standard limit
6
5
4
3
2
1
0
0
200
400
600
800
1000 1200 1400 3000 4000
An t i o x i d a n t
( p p m )
B a y n oSx e i k o
図I-3-3.フェノール系抗酸化剤 BAYNOXとアミン系抗酸化剤 SREARA-ECOTIVEの抗酸化効果の比較。
B) BDFの脂肪酸組成と酸化安定性
表I-3-2 は、同一の種(高リノレン酸種)をタンザニア、タイ、フィリピンで栽培した時の脂肪酸組成
の違いを示したものである。タンザニアとフィリピン、タイとでは18:1と18:2 との割合が全く異なる。植
物は温度センサーを有し、気温の高い場所で栽培された場合には、リノール酸含有量が下がり、オレイン
酸の濃度が高まる。タンザニアでは、キリマンジェロの高原地帯で栽培されたため気温は日本とほぼ同様
であった。BDFの酸化安定性は不飽和脂肪酸の含有量が高まるに連れて低下する。ひまわり油の場合、
オレイン酸含有量の高い油は、表I-3-3 で示すように、安定性が高いことが既に知られている。よって、
気温の高い場所で栽培することにより、酸化安定性の高い原料が得られることとなる。
-15-
表I-3-2表2.異なる国で収穫されたひまわり油の脂肪酸組成
.栽 培 地 の 気 温 に よ る 脂 肪 酸 組 成 の 変 化
Tanzani
a
Philippin
e
Thaila
nd
Shima
ne
(Japan)
High
Oleic
Pilot
plant oil
12:0
0.42
0.09
0.04
0.07
-
-
16:0
5.79
5.02
4.40
4.98
3.32
5.77
16:1
0.06
0.11
0.10
0.08
-
0.1
18:0
7.16
4.22
2.50
3.82
2.78
3.2
18:1
29.61
51.22
56.20
37.97
90.1
38.89
18:2
54.77
37.68
35.05
51.58
3.54
50.09
18:3
0.46
0.33
0.20
0.27
0.27
0.5
20:0
0.12
0.10
0.24
0.15
-
0.17
22:0
1.00
0.82
0.72
0.76
-
0.67
24:0
0.25
0.30
0.32
0.3
-
0.26
Fatty
Acid
profile
表I-1-3.オレイン酸高含有ひまわり油を原料とした BDFの酸化安定性
1
3
Type of Sunflower oil
Oleic acid (%)
Pilot plant oil
High oleic
38.89
90.1
Oxidative stability
(hrs at 110 °C)
3.47
13.63
C) BDFの酸化と水分
EN14214によると BDFの保存期間は6ヶ月を目指している。一方、BDFは生分解性を有しており、長期間保
存中には酸化分解が進行する。この酸化を抑制するために抗酸化剤が添加されるが、この対策だけでは不
十分な事もある。
図I-3-4 は、携行缶にBDFを詰めてトラックに掲載していた場合に生じた問題である。缶内に褐色の沈殿
物が発生した。この携行缶の材質は鉄を亜鉛でメッキしたボンデ鋼板であった。沈殿物中の金属分析の結
果、鉄、亜鉛が検出され、携行缶の腐食が進行したことが明らかである。この金属腐食の発生機構につい
て検証した。
-16-
図I-3-4.BDFの酸化に伴って発生した沈殿物(上:携行缶底部、下:携行缶上部)
図I-3-5 は、BDF(メチルエステル)が加水分解後に酸化を受けて酸化力の強い蟻酸や酢酸を生成する機
構を示したものである。また、酸化分解によって発生する有機酸、脂肪酸によって酸価は増大する。この
酸価の変化とBDF中の水分濃度の変化を対比し、図I-3-6 に示した。BDFの水分の規格値は 500 ppmである
が長期保存中にはこれを超える可能性も十分ある。水分の増加に伴って、図I-3-5 の反応はさらに促進さ
れていく事も明らかであり、水分管理が極めて重要となる。
図I-3-4 に示した携行缶内部を詳細に調査すると、水滴の存在が確認された。この水滴は、外部から混
入したか、あるいはBDF中における水分が過飽和状態になって生成されたか不明であるが、この水滴が金属
腐食に極めて重大な影響を与える事が判明した。
図I-3-5.BDFの酸化分解に伴って発生する蟻酸、酢酸の生成機構
-17-
図I-3-6.酸価の増加に伴って増加する水分
下の写真I-3-1 は、ひまわりBDFにボンデ鋼板の小片を加え、長期間放置して変化を観察したものである。
左右の瓶の違いは尐量の水滴の有無である。水滴を加えた左の瓶では、携行缶と同様に褐色のスラッジが
発生している。一方、水滴の無い右の瓶では、BDFの酸化の進行にもかかわらず腐食は発生していない。こ
の違いについて以下のように考えている。
BDFの酸化に伴って、図I-3-6で示したように蟻酸、酢酸は発生するが、水滴が無い場合にはBDF全体に分
散されおり、その濃度も然程高くない。しかし、水滴が存在すると、蟻酸、酢酸の分配係数は圧倒的に水
に対して大であるため、水滴中の酸性は極めて高くなり、容易に直接接触する金属を腐食する。
写真I-3-1. 金属腐食に及ぼす水滴の影響
以上の検討から、燃料タンクおよび保存用ドラム缶などにおいては、水滴の外部からの混入には十分な注
意が必要である。また、水分の過飽和によって発生する水滴に対しては新たな水分除去法の開発が必要で
-18-
ある。
開発課題 [II] パイロットプラントで生産されたヒマワリBDFのエンジン排気特性と長期走行試験
(滋賀県立大学および西日本鉄道委託)
本年度のハイライトの一つである実車に長期試験を実施した。また、滋賀県立大学では、定置コモンレ
ールエンジンを用いた燃焼試験とその排気ガスについての検証がなされた。特に、走行におけるエンジン
潤滑油の燃料希釈と务化状況,噴射ノズルの先端のデポジット堆積状況を観察した.その結果、軽油に比
べて特段の問題点は見出されなかった。
(II-1) 燃料性状とエンジン排気特性
バイオディーゼル燃料は,ニート使用のみならず,低濃度での混合使用でも自動酸化に対する貯蔵安定
性や使用時の熱安定性の担保が大きな課題となっている.これら酸化安定性に関しては,欧州のバイオデ
ィーゼルのニート規格であるEN14214では,加速酸化試験による過酸化物誘導期間で6時間以上,米国のニ
ート規格ASTM D6751-07aでは 3時間以上と規定している.日本では,自動車燃料-混合用ニートFAMEとし
て2006年10月にJASO M360-06が定められ,2007年1月15日に改正軽油品確法が公布され,軽油への混合を5
質量%まで許容している,その中には酸価および酸価増加量で酸化安定性を定めている.なお,2008年2
月20日には,混合用ニートFAMEがJASO規格からJIS K2390規格となっている.
そこで本研究では,未使用ヒマワリ油を原料とする BDF(SuME)の燃料性状,とくに酸化安定性ならびに
エンジン排気特性を明らかにし、SuMEの有用性を示すことを目的とした.
1)燃料性状の分析
供試燃料のEN酸化安定性を調べるために,EN14112試験方法に準拠したランシマット試験機を用いた. 図
II-1-1 はその原理を示す.試験は約 4g の試料に10L/h の空気を吹き込み,試料を一定温度(110℃)に
保ちながら強制酸化させる.加熱容器内で発生したギ酸などの過酸化物は蒸留水に溶解し導電率の変化と
して連続測定される.導電率が急増するまでを過酸化物誘導時間 IPとする.
本実験では,EN酸化安定性であるIPのほか,ハイドロパーオキサイドの含量を示す過酸化物価POV,遊離
による务化程度を示す酸価AV,不飽和脂肪酸の量を示すヨウ素価IV,動粘度,エンジン内部でのカーボン
デポジット生成の目安となる100%残留炭素量,およびメチルエステル構成成分変化を調べた.
Measuring
Unit
Measuring
Cell
Air Intake
Test Tube
Heating Unit
図II-1-1 自動油脂安定性試験装置外観と原理
-19-
なお,ランシマット試験には自動油脂安定性試験装置(メトローム・シバタ製679型)を用い,POV, AV,
IVの測定には自動滴定装置(メトローム・シバタ製794型)を,動粘度はJIS K2283規格に準じて測定した.
100%残留炭素量はJIS K2270準拠のミクロ法を使用したミクロ残留炭素分試験器(田中科学製,ACR-M3)
を.メチルエステル成分の分析には,パックドカラムを用いたGCを使用した.
写真II-1-1. POV,AV,IV測定用自動滴定装置(左)ミクロ残留炭素分試験器(右)の外観
図II-1-2. 供試機関および各測定装置の配置
噴射装置
エンジン
写真II-1-2. 実験に使用したエンジン概観
-20-
8
21.7
53
4
108
図II-1-3. コモンレール高圧燃料噴射システム(左)と供試機関の燃焼室断面(右)
2)エンジン性能および排気測定
使用したエンジンは単シリンダ直接噴射式ディーゼルエンジン(日産ディーゼル社製,FD-1型,ボア×
ストローク108mm×115mm,圧縮比:16.7:1,噴射系:コモンレール式燃料噴射装置ECD-U2,ノズル:5噴孔
ー0.18mm)である.図II-1-2 は,エンジンベンチにおける機関レイアウトと各種測定装置の概要を,写真
II-1-2 にはエンジン概観を,図II-1-3 には,燃焼室の形状とコモンレール燃料噴射系の概略図を示す.
実験では,冷却水温を80℃一定,噴射圧力(レール圧力)を100MPa一定とし,機関回転数(Ne),燃料
噴射時期(Inj.T),機関負荷である正味平均有効圧力(BMEP)を系統的に変更し,正味燃料消費率BSFC,
正味熱効率e,排気微粒子PM,PM中の固形成分ISFと可溶有機成分SOF, 一酸化炭素CO,ガス状未燃炭化
水素THC,窒素酸化物NOx,黒煙Smokeを測定した.
実験において,負荷を変更する場合,高負荷側から徐々に負荷を下げて運転した.また,実験は,供試
燃料で冷却水温度が安定するまで暖気運転を行い,その後に所定の運転実験条件に設定して安定したから
計測を行った.また,ひまわりBDF(SuME)をB100の運転のほか,比較のために,JIS2号軽油との混合である
B5,および参考に報告者のもとで製造した大豆BDF(SME)で機関を運転した.
3)燃料性状分析結果
表II-1-1 およびII-1-2 は,各種分析項目と燃料の脂肪酸組成の測定結果を示している.参考に, 大豆
BDF(SME)の値も一部示す.
表II-1-1 脂肪酸ME組成
SuME
SME(Ref)
C16:0
5.6
11.3
C18:0
2.7
3.5
C18:1
36.2
24.0
C18:2
54.9
54.9
C18:3
0.6
6.3
-21-
表II-1-2 各種性状項目
SuME
SME(Ref)
EN酸化安定性
hours
6.3
2.2
動粘度
mm2/s@40oC
4.22
4.1
密度
g/cm3@15oC
0.89
0.89
酸価
mgKOH/g
0.8
過酸化物価
meq/kg
18
31
ヨウ素価
gI2/100g
118
133
100%残留炭素量 wt-%
水分含有量
ppm
0.01
562
また,100%残留炭素量も低く,燃焼室内でのカーボンデポジットの形成も尐ないと推察される.なお,
酸価と水分含有量がそれぞれEN規格で0.5mgKOH/g以下および500ppm以下となっており,これらより若干高
い値であるが,誤差範囲と思われる.
4)エンジン性能および排気特性
(a)機関負荷の影響
図II-1-4 は,機関回転数Ne=1800rpm一定,燃料噴射時期Inj.T= -5 deg.CA-ATDC(上死点前クランク角
度5degの意)において,正味平均有効圧力BMEPに対する,正味熱効率e,正味燃料消費率BSFC,NOx,Smoke,
PM,PM中のISFおよびSOF,THC,COの変化を示す.
図から,BSFCは,SuMEおよびSMEともに軽油(Gas oil)よりも値が高い.これは,燃料の発熱量が軽油
よりも低いためである.そこで,発熱量ベースでの比較となる正味熱効率は.SuMEおよびSMEともに軽油と
変わらない.かえってSuMEのB5の効率が若干悪いことがわかる.また,Smokeは,SuMEおよびSMEともに高
負荷運転時でも軽油よりも低い.B5においても,軽油より低く,スモーク排出量の低減の観点では,B5で
も十分と言える.なお,Smokeの測定は,BSUの単位で0-10で表し,10が一番高い値であり,今回の測定値の
零以下は,ほとんど無煙に近い値を意味している.NOxに関しては,いずれも軽油より若干高い値を示して
いる.
また,SuMEおよびSMEともにSOF排出量は,中低運転時に軽油よりも高いためPM排出量が高く,SMEよりも
SuMEの方が若干高いこともわかる.これは,自着火性の高い脂肪酸ME成分であるパルミチン酸ME(C16:0)
が SMEよりも SuMEの方が低いため,未燃焼の燃料成分が残りやすいためと考えられる.なお,THCは軽油
より低く,SMEよりも若干低い.COは軽油よりも高い値と示している.
(b)機関回転数の影響
図II-1-5 は,機関回転数を低速から高速まで変化させた際の機関性能および廃棄特性を示している.図
から,機関回転数に係わらず,SuMEのB100は,BSFCが軽油よりも悪いが,熱効率では軽油と変わらない.
Smokeもほとんど軽油と変わらない.NOxは,B5が全回転数で若干低い.
図から,THCは全回転域で軽油よりも低いものの,SOFが中・高速で高い値を示している.COに関しては,
B100およびB5ともに軽油よりも若干高い.なお,機関回転数が増すほど,燃焼室での高温保持の実時間が
短くなるため,NOxは機関回転数の増加とともに低減される.また,中・高速でB100においてSOFが高い値
を示すのは,高温保持時間が短いため,気化性が軽油よりも务るB100では,混合気が燃料過濃となりやす
く,それがそのまま未反応のまま排出され,SOFが増加したと考えられる.
(c)燃料噴射時期の影響
図II-1-6 は,燃料噴射時期を変更した際の機関性能および排気特性を示している.一般に,燃料噴射時
期を遅らせる(たとえば,-7.5deg.CA-ATDCからTDCへ)ことによって,NOxが低減される,図に示されてい
-22-
るように,噴射時期を遅らすほどNOxは下がるが,SuMEのレベルは軽油よりも高い.一方,噴射時期を遅ら
せると黒煙の排出量が一般に増加するが,100MPaの高圧噴射のため,無煙運転が可能となっている.正味
熱効率は,TDCまで噴射時期を極度に遅らせると低下することがわかる.この傾向はいずれの燃料も同様で
ある.
図から,SuMEのSOFの排出量は,噴射時期を遅らせることによって低下することがわかる.つまり,十分
に圧縮した高温雰囲気へ噴射する方が気化がよくなることと,自着火が確保され未燃焼成分が減るものと
30
200
1500
1000
500
400
SuME B100
SuME B5
SME B100
Gasoil
2
0
1
100
1
0
0.2
0.4
0.6
0
200
0
2
300
200
CO ppm
ISF g/kWh
0
1
0
1
SOF g/kWh
PM g/kWh
202
SuME B100
SuME B5
SME B100
Gasoil
THC ppmC
%
40
e
300
NOx ppm
400
BSFC g/kWh
Ne=1800rpm, Inj.T=-5 deg.CA ATDC
2
500
Smoke BSU
考えられる.ただし,極度の噴射時期を遅らせると,かえってSOFやCOが増加する傾向を示す.
100
0
0
0.8
BMEP MPa
0.2
0.4
0.6
0.8
図II-1-4. 機関負荷が正味熱効率e,正味燃料消費率BSFC,排気中の窒素酸化物NOx,黒煙Smoke,微粒
子PM,PM中の可溶有機成分SOFと不可溶成分ISF,一酸化炭素CO,およびガス状全未燃炭化水素THCの排出濃
度に及ぼす影響
-23-
30
1000
e
%
NOx ppm
200 1500
1
0
2
0
1
1600
2000
300
200
100
100
CO ppm
2
0
1200
400
SuME B100
SuME B5
Gasoil
SOF g/kWh
PM g/kWh
500
1
ISF g/kWh
0
40
202
1
Smoke BSU
300
SuME B100
SuME B5
Gasoil
THC ppmC
400
BSFC g/kWh
BMEP=0.47MPa, Inj.T=-5 deg.CA ATDC
500
2
0
50
0
2400
1200
Engine speed rpm
1600
2000
2400
図II-1-5. 機関回転数が正味熱効率e,正味燃料消費率BSFC,排気中の窒素酸化物NOx,黒煙Smoke,微
粒子PM,PM中の可溶有機成分SOFと不可溶成分ISF,一酸化炭素CO,およびガス状全未燃炭化水素THCの排出
濃度に及ぼす影響
-24-
300
200
%
NOx ppm
40
e
30
1000
1
0
1
-5
500
400
300
200
100
0
100
CO ppm
2
2
0
-10 -7.5
600
SuME B100
SuME B5
Gasoil
1
ISF g/kWh
1500
500
0
1
0
SOF g/kWh
PM g/kWh
202
SuME B100
SuME B5
Gasoil
THC ppmC
400
2
BSFC g/kWh
500
Smoke BSU
Ne=1800rpm, BMEP=0.57MPa
50
0
-10 -7.5 -5
Injection timing deg.CA-ATDC
-2.5 TDC 2.5
-2.5 TDC 2.5
図II-1-6. 燃料噴射時期が正味熱効率e,正味燃料消費率BSFC,排気中の窒素酸化物NOx,黒煙Smoke,
微粒子PM,PM中の可溶有機成分SOFと不可溶成分ISF,一酸化炭素CO,およびガス状全未燃炭化水素THCの排
出濃度に及ぼす影響
(II-2) ヒマワリ油 BDF(B100)による車両走行試験
本走行試験は,西日本鉄道路線バスにヒマワリ BDF(SuME)をB100で使用し,その運転上の課題を抽出
することを目的としている.試験は,90年登録の使用過程車両を用い,とくに走行におけるエンジン潤滑
油の燃料希釈と务化状況,噴射ノズルの先端のデポジット堆積状況を観察した.
-25-
1)使用した車両と分析項目
使用した車両は,短期規制(平成2年~平成6年規制)適合車の6気筒直接噴射式ディーゼルエンジンを
搭載した三菱ふそう6D40である.
分析は以下の項目に絞って行った.
・ エンジンオイルの务化(酸価)
・ 噴射ノズル先端のカーボンデポジット堆積状況観察
2)走行試験の結果の概要
a) エンジンオイルの务化状況
B100を燃料とする場合,エンジンオイルに燃料である BDFが混入し,潤滑油の潤滑性が低下し,务化が
早まることが懸念される.図Ⅱ-2-1は,2台の車両をおよそ3000km走行するまでの過程におけるオイル酸
価の変化を示している.
通常,务化が進んでいれば酸価が高くなるが,図から,ほとんど変化が無いことがわかる.なお,酸価
4.0
1.0
車両
2月7日
1月17日
12月27日
11月14日
車両 No.4517
12月7日
1.5
2月7日
2.0
1月17日
2.5
12月27日
3.0
12月7日
3.5
11月14日
エンジンオイルの酸価
mgKOH/g
の計測法は,JIS K2501電位差滴定法であり,SVC東京に分析依頼して行われた.
No.4516
図Ⅱ-2-1 走行過程におけるエンジンオイルの酸価の変化
b) 噴射ノズル先端のカーボンデポジット堆積状況
図Ⅱ-2-2 ~5 は,走行試験前後のノズル先端部の様子とノズル開弁圧の計測結果を示している.
図Ⅱ-2-4と5 を比較すると,ノズル開弁圧は,走行前後でほとんど変化がないことがわかる.噴霧の様
子に関しては,2007年11月13日の試験出場時に「不良」と判定された2筒や4筒のノズルは,2008年2月25
日の試験入場時にも同じ「不良」であったことから,噴霧の様子には変化がないと思われる.
しかし,図Ⅱ-2-2と3 におけるノズル先端部のカーボンデポジットの堆積量を観察した結果,軽油走行
後(今回の走行前)の図Ⅱ-2-3 上段の写真の2,4,5 番ノズルにおいても,かなりのカーボンが堆積してい
るが,噴孔は確認できる.しかし,走行運転後(図Ⅱ-2-3下段の写真)のノズル先端において,噴孔の確
認が困難なほどカーボンが堆積しているのがわかる.さらに,走行前にノズルチップを新品に交換した
1,3,5 番ノズルにおいては,今回の走行距離の3000km 程度の走行運転でも,かなりカーボンが堆積したこ
とが示されている.なお,カーボンが堆積しても,図Ⅱ-2-4 および5
で示されたように噴霧状態にはほとんど問題が生じていないことは,噴孔内に析出物が固着していない
ことを意味している.なお,一般に軽油運転時の堆積したカーボンは,乾いた性質のものであり,負荷の
変化によって堆積・脱落を繰り返すため,問題になることは尐ない.しかし,BDF の場合は,固着した高
粘性の堆積物となることがある.とくに低品質のバイオディーゼル燃料の場合,その残留トリグリセリド
-26-
や残留グリセリンの量に比例して,カーボンデポジットを生成量も増すと考えられている.
図Ⅱ-2-2. 走行試験前後の燃料噴射ノズルホルダの様子
-27-
2008年2月25日
図Ⅱ-2-3. 走行試験前後の燃料噴射ノズル先端部の様子
-28-
図Ⅱ-2-4. 走行試験前の燃料噴射ノズル開弁圧および噴霧の状況
-29-
図Ⅱ-2-5. 走行試験後の燃料噴射ノズル開弁圧および噴霧の状況
-30-
C) まとめ
今回の走行試験では,とくに走行に影響が生じるようなトラブルは確認できなかったが,ノズルチップ
先端部へのカーボンデポジットの堆積が,通常の軽油運転よりも多いことは,間違いない.しかし,今後,
パイロット噴射やポスト噴射を行う新長期規制対応車両などでは,エンジンオイルへのBDFの混入の問題や,
コモンレール式高圧燃料噴射システム用の長微細燃料フィルター(5ミクロン以下)では,燃料中の不純物,
たとえばステロールなどが付着しフィルターが目詰まりすることなどが報告されており,最新排気規制対
応車両を使用する際には注意する必要がある.
開発課題 [III] 流動点降下剤の大量生産と新規利用方法の開発
化審法の申請、MSDMの作成は昨年度実施した。化審法の申請に際しての分解試験結果から、大規模生産
への認可申請に際しては多大な試験費用が予想される。弊社の資金状況を鑑み、大量生産は国内大企業と
共に海外でOEM生産を目指し、国内においては現在取得した化審法の認可範囲、年産1トン以下の小規模生
産のみに限定することとし、製造プロセスを確立した。
BDF の低温流動特性は、流動点 のみならず曇り点 (CP)、目詰まり点 (CFPP)で評価されている。特にEU
では CFPPが重要視されている。我々が新規に開発した添加剤 “OzOil” は、流動点改善効果の高いこと
を既に昨年度報告した。本年度は、ひまわりBDFのCFPPを改善する方法について検討し、異種の添加剤を混
合使用することによって流動点のみならず目詰まり点をも改善し、3号軽油に匹敵する低温流動特性を付与
することに成功した。
(III-1) 小型添加剤製造設備の確立と製造原料の決定
a) 小型添加剤製造設備の確立
我々が開発した新規添加剤は、植物油をオゾン処理することにより得られるが、添加剤を構成する化学物質は新
規化学物質と見なされ、「化学物質審査規制法(化審法)」の対象となる。現在、添加剤について「少量新規化学物
質製造」の申請は行っており、年間1トン以下であれば製造することができる。しかし、年間1トンを超えて製造しよう
とすれば、「低生産量新規化学物質製造」の届出を行わなければならない。
昨年度の「SCF流動点降下剤の安定性評価試験」において、「分解度試験(非GLP)」を行ったが、これは「低生産
量新規化学物質製造」申請のための予備試験であった。化審法の分解度試験としては、BOD分解度が60%以上、分
解生成物が1%未満、物質終始90%以上であれば、「良分解」と判定され、「低生産量新規化学物質製造」が許可され
る。しかし、SCF流動点降下剤は、標準活性汚泥によるBOD分解性は61%と良好であったものの、分解生成物が多
数確認できたため、「良分解」とは判定されなかった。そのため、現状では「低生産量新規化学物質製造」の申請が
出来ず、年間生産量は1トンまでしか製造できない。
よって、今年度も添加剤の大量生産装置を設置せず、小型製造設備を改良し、製造コストを下げ、生産量3 kg/日
で安定的に製造できるように改良した。
添加剤は、オゾン-酸素混合ガスを植物油に通気して製造される。これまでオゾンを発生させるのに必要な酸素
ガスは、シリンダーに入った圧縮ガスを利用していた。しかし、添加剤製造に非常に多くの酸素ガスを要するため、
酸素ガスのコストが非常に高く、製造コスト(原材料費+電力費用)の75%を占めていた。製造コストを下げるため酸
素ガスの供給方法を検討した結果、液体酸素から酸素ガスを供給する方が大幅にコストを下げ、10分の1以下にな
ることが分かった。そこで、新たに液体酸素から酸素ガスを供給する設備を設置した(図 III-1-1)。
-31-
図 III-1-1 酸素ガス供給設備
(左側の容器に入っている液体酸素は、右側にある蒸発器でガスになり、供給される。)
次に添加剤の製造コストを下げるために、オゾン発生器の発生効率を上げることを検討した。現在弊社が使用し
ているオゾン発生器(Ozonia CFS-6A)は、水冷が必要であり、十分な冷却能力がないと不安定になり、オゾン発生
効率が低下していた。そこで新たに冷却装置(Eyela製 冷却水循環装置 CA-3110)を設置し、オゾン発生効率の改
善を図った。その結果、オゾンの発生は安定し、オゾン発生効率も70%近く上昇した。
図 III-1-2 に添加剤製造設備の全体図を示すが、上記2点の改良により、製造コストを20分の1にすることができ
た。
図 III-1-2 添加剤製造設備
上記設備を利用して、2ヶ月間連日運転し、132 kgの添加剤を製造した。製造された添加剤の品質は良好で、生産
量も3 kg/日で安定的に添加剤を製造できるようになった。
b) 原料油脂の精製度合いの検討
食用植物油は、通常油脂植物の種子から圧搾等により得られた粗油を、4段階で精製されて食用となる。
搾油
脱ガム
①脱ガム油
脱酸
②脱酸油
-32-
脱色
③脱色油
脱臭
④精製油
新規添加剤の研究には、これまで精製油から製造した添加剤を用いてきたが、精製度合いが上がればそれだけ
原料コストが上がってしまう。一方、精製度合いの低い油脂を原料として使用することで、製造中に余分な副生成物
が生成し、添加剤としての性能が悪化する可能性がある。また、製造にオゾンガスを利用するため、主反応とは別
の反応が起こることで、製造時の危険性が上がる可能性もある。
そこで、新規添加剤の油脂原料として、どこまで精製する必要があるかを検討した。食用油の精製工場より、各精
製段階の菜種油4種(①脱ガム油、②脱酸油、③脱色油、④精製油)を入手し、製造した添加剤の性能を比較した。
表 III-1-1 は、ひまわり油又は大豆油より製造したバイオディーゼルに、4種の菜種油から製造した添加剤を1重
量%添加した時の、バイオディーゼルの曇り点及び流動点である。曇り点及び流動点は、田中科学機器製作㈱ 流
動点・曇り点試験器 MPC-101Aで分析した。
ひまわりバイオディーゼルの流動点は-4℃であり、4種の菜種油添加剤を加えると、添加剤の違いに関わらず流
動点は-32℃まで降下した。4種の添加剤の流動点降下作用には違いが見られなかった。大豆バイオディーゼルの
場合も同様に、流動点が-2℃のバイオディーゼルが、添加剤の違いに関わらず流動点は-6~-7℃まで降下し、精
製度合いによる流動点降下作用の違いは見られなかった。
表 III-1-1.
精製度合いの違う4種の菜種油添加剤の流動点降下作用への影響
曇り点 [℃]
ひまわりバイオディーゼル
流動点 [℃]
3.0
-4.0
+ 1% 脱ガム油添加剤
3.0
-32.0
+ 1% 脱酸油添加剤
3.0
-32.0
+ 1% 脱色油添加剤
3.0
-32.0
+ 1% 精製油添加剤
3.0
-32.0
大豆バイオディーゼル
1.0
-2.0
+ 1% 脱ガム油添加剤
1.0
-6.0
+ 1% 脱酸油添加剤
1.0
-6.0
+ 1% 脱色油添加剤
1.0
-7.0
+ 1% 精製油添加剤
1.0
-7.0
精製度合いの違いにより、添加剤の構造にどのような影響があるかを調べるため、各添加剤の1H-NMR分析を
行った。NMRは、Bruker製 AVANCE-600 NMR Spectrometerを使用した。その結果、精製度合いの違いにより新
たな構造を示すピークは見られなかったものの、流動点降下作用を示す主生成物(オゾニド)と副生成物(アルデヒ
ド)の割合に違いが見られた。図 III-1-3 に4種の添加剤に含まれる、オゾニド構造とアルデヒド構造の割合(トリグ
リセリドを1とする)を示す。精製度合いの最も良い精製油から製造された添加剤には、流動点降下作用を示すオゾ
ニドが最も多く含まれ、副生成物であるアルデヒド類の割合が低かった。一方、最も精製されていない脱ガム油か
らの添加剤には、オゾニドの割合が低くアルデヒド類の割合が最も高かった。脱酸油からの添加剤では、オゾニド
やアルデヒド類の割合を見ても、精製油と比べてそれ程差がなかった。
-33-
トリグリセリドを1とした時の各構造の割合
3.00
白絞油
精製油
脱色油
脱酸油
脱ガム油
2.50
2.00
1.50
1.00
0.50
0.00
主生成物
主反応物
1,2,4-trioxolane
(オゾニド)
副生成物
副反応物
-CH2COH
(アルデヒド)
図 III-1-3. 精製度合いの違いによる添加剤製造時の生成物への影響
上記結果より、精製度合いの違いにより、添加剤の流動点降下作用には影響が見られなかったものの、その構
造には違いが見られた。精製度合いが良い程、添加剤製造中の主反応が進み、副生成物の生成割合が低下した。
添加剤製造時の安全面を考えると、主生成物以外の物質が多く生成されるということは好ましくない。よって、添加
剤の原料油脂としては、脱ガム、脱酸処理をした油脂が好ましいと判断した。
バイオディーゼルの原料であるひまわり粗油から添加剤の原料油脂を得るため、新たにひまわり油精製設備を
設置した。精製プロセスを下記に示す。
原料の供給
ひまわり粗油の投入
脱ガム工程
粗油に水を加え、加温し、遠心分離機にてガム質を除去
脱酸工程
脱ガム油にリン酸を加え水溶性のガム質を除去後、苛性ソーダを加え脱酸
洗浄工程
脱酸油を水で洗浄し、セッケン分等を除去
精製工程
蒸発缶で、洗浄油内の水分を除去
まず、脱ガム工程で、粗油に水を少量加え加温し、水溶性のガム質(主にリン脂質)を遠心分離によって除去する。
次いで脱酸工程で、リン酸、苛性ソーダを添加して、遊離脂肪酸をセッケン分にして除去する。得られた脱酸油を洗
浄工程で水洗し、最後に精製工程で蒸留により水分を除去する。
本精製設備によりひまわり油を精製したところ、各工程において表 III-1-2 のような性状の油が得られた。ガム分
は、脱ガム工程で約80%除去され、脱酸工程において完全に除去された。遊離脂肪酸(FFA)は、脱酸工程で約70%
除去され、洗浄工程において完全に除去された。最終的に得られたひまわり油は、中性油を99.99% 占めるまで精
製された。この精製油を原料として製造された添加剤は、これまで使用していた食用植物油を原料とした添加剤と
比べても、遜色なかった。
-34-
表 III-1-2.
各工程におけるひまわり油の性状
(III-2)ニートひまわりBDFのCFPP (目詰まり点)の改善方法の開発
我々は植物油を原料とした流動点改善剤を既に開発し、その特徴を明らかにしてきた。本添加剤
“OzOil”は、菜種BDF、ひまわり油BDFなど飽和脂肪酸含有量の尐ないBDFに対しては、写真 III-2-1およ
び表III-2-1 に示すように、結晶の凝集化を著しく抑制し、BDFの低温下での流動性を維持することが出来
る。
バイオディーゼルの偏光顕微鏡写真
パームBDF
(10℃)
無添加
+ 1% OzOil
無添加
1% OzOil
ひまわりBDF
(-20℃)
写真 III-2-1. BDFの結晶生成と添加剤によるその抑制効果
-35-
表III-2-1. OzOilの各種BDFに対する流動点改善効果
バイオディーゼルの結晶化へのOzOil の影響を調べるため、示差走査熱量計(島津製作所製 示差走査熱量計
DSC-60)を用いてひまわりバイオディーゼルの熱分析を行った。図 III-2-1 にひまわりバイオディーゼルと1%
OzOil 入りひまわりバイオディーゼルのDSC曲線を示す。DSC曲線より、OzOil の有無により、結晶化温度はほと
んど変わっていないが、ピークの大きさには大きく差が見られた。添加剤が混合されたことにより、ひまわりバイオ
ディーゼルの結晶化による発熱量は大きく低下した。これは、OzOil によりバイオディーゼルの結晶に違いがある
ことが示された。
図 III-2-1.
ひまわりバイオディーゼルのDSC曲線
(上: ひまわりバイオディーゼル
下:1% OzOil 入りひまわりバイオディーゼル)
-36-
軽油の品質規格は、低温流動性の違いによって特1号から特3号まで5段階に分類されており(表
III-2-2)、季節、地域によって使い分けられている。特3号は、厳冬期の北海道などで用いられる。
表III-2-2. 国内軽油の低温流動性に関する規格
特1号
2号
3号
特3号
2.5以上
2.0以上
1.7以上
-2.5以下
-7.5以下
-20以下
-30以下
CFPP [℃]
-1以下
-5以下
-12以下
-19以下
引火点 [℃]
50以上
動粘度 (30℃) [mm2/s]
流動点 [℃]
1号
2.7以上
+5以下
45以上
BDFの低温流動特性も、流動点のみならずCFPP(目詰まり点)、曇り点でも評価される。特に、EUでは CFPP
による評価が一般的である。そこで、ひまわりバイオディーゼルを用い、流動点だけでなく、曇り点を改善する方
法を検討した。曇り点・流動点の分析には、田中科学機器製作㈱製 流動点・曇り点試験器 MPC-101Aを、CFPPには、
田中科学機器製作㈱製 目詰まり点試験器 AFP-102型を用いて行った。
ひまわりバイオディーゼルにOzOil を1重量%加えた時の低温流動性を表III-2-3 に示す。OzOil により流動点は-21
℃まで降下させることができているが、目詰まり点、曇り点はほとんど改善できなかった。
表III-2-3.
ひまわりバイオディーゼルの低温流動性
曇り点 [℃]
目詰まり点 [℃]
流動点 [℃]
ひまわりバイオディーゼル
1.0
0.0
-8.0
1% OzOil 入りバイオディーゼル
1.0
-1.0
-21.0
表III-2-3, 4 に示されるように、OzOilの流動点改善効果は優れているが、目詰まり点および曇り点へ
の改善効果は見られない。対照実験に用いた Infineum, Clariant, Chimec は主にヨーロッパで市販され
ている化学合成品(表III-2-5)であり、目詰まり点については優れた効果を示すものもある。
そこで、異種の添加剤を組合せ、流動点と目詰まり点への相乗効果が現れるかを検証した。その結果、
表III-1-5 に示すように、流動点を – 36 oC、目詰まり点を – 17 oC にまで改善できる組合せ、0.5% OzOil
+ 0.1% Chimec を見出した。この複合添加剤の利用によって、ひまわりBDFに3号軽油並みの低温流動性を
付加させることが可能となった。これらの実験結果から明らかなように、流動点、目詰まり点の改善は可
能となったが、曇り点については何ら改善されていない。曇り点は、飽和脂肪酸の結晶化に起因するもの
であり、曇り点を改善するためには飽和脂肪酸メチルエステルを選択的に効率よく除去する方法の新たな
開発が今後必要となる。
表III-1-4. 各種添加剤の低温流動性改善効果
曇り点 [℃]
目詰まり点
[℃]
流動点 [℃]
ひまわりBDF
1.0
0.0
-8.0
1.0% OzOil 添加
1.0
- 1.0
- 21.0
0.1% Infineum R488 添加
0.0
-13.0
-18.0
0.1% Clariant 5305 添加
0.0
-6.0
-33.0以下
0.1% Chimec 6635 添加
2.0
-7.0
-35.0以下
低温流動性改善剤
-37-
表III-1-5. 海外で利用されている低温流動性改善
表III-1-6. 複合添加剤によるひまわりBDFの低温流動特性の改善
曇り点 [℃]
目詰まり点
[℃]
流動点 [℃]
ひまわりBDF
1.0
0.0
- 8.0
0.5% OzOli +0.1% Infineum R488
0.0
-16.0
-20.0
0.5% OzOil +0.1% Clariant 5305
0.0
-16.0
-33.0以下
0.5% OzOil +0.1% Chimec 6635
2.0
-17.0
-36.0
低温流動性改善剤の組合せ
開発課題 [IV] BDF混合軽油の低温流動性改善
パームBDF混合軽油の低温流動性を改善し、BDF混合比率を20%まで高めることを目標とした。流動点に
ついては、20%BDFにおいても – 20 oCと改善できたが、目詰まり点から判断して混合比 20%での使用は
困難と判断した。
1)パームBDF混合軽油
最も、低温流動性の悪いBDFは、パーム油を原料としたものである(表IV-1-1)。このため国内では、安
全性を考慮して BDF5%を軽油に混ぜたBDF混合軽油について強制品質規格が設定されている。しかし、昨
年12月東京都で試用されたパームBDF混合軽油(B5)によってもトラブルが発生したと言われている。これ
が低温流動性による可能性も考えられるため、OzOil によってどれほどパームBDF(B5) の低温流動特性値
が改善できるのかを検証した。
表IV-1-2 はパームBDF混合軽油のパームBDFの割合を増加した場合の流動点の変化、およびそれに対する
OzOilの添加効果を示したものである。なお、BDF混合軽油の調製に用いた軽油は三井石油からのものを用
いた。パームBDF 20%を添加した場合の混合軽油の流動点は - 8oC に上がり、OzOil 0.5%を添加すれば – 20
o
C にまで低下する。しかし、曇り点、目詰まり点への改善効果を確認する必要がある。
軽油の低温流動性は、原油の採掘場所や軽油の精製方法によってことなるため、ここでは三井石油、三
愛石油から軽油を調達し、パームBDF混合軽油 B5を調整した。表IV-1-3 から明らかなように, B5 パーム
BDF混合軽油に1%のOzOilを添加することによって、流動点、目詰まり点に大きな改善効果が見られ、3号
軽油に匹敵する低温流動特性を付与することが出来た。これによって、冬季においても安心してパームBDF
混合軽油B5を使用することが出来る。しかし、B5以上の混合割合については目詰まり点の安全基準を満た
-38-
すことが困難なように思われる。
パームBDF混合軽油の目詰まり点をさらに改善するためには、飽和脂肪酸メチルエステルを選択的に取り
除く技術の開発が必要である。これについても一案を有している。
表IV-1-1. パームBDFの燃料特性と4脂肪酸組成
脂肪酸組成 [%]
パームBDF
パームBDF
比重 (15℃)
0.851
C12:0
0.93
動粘度 (40℃) [cSt]
5.32
C16:0
39.38
曇り点 [℃]
12.0
C16:1
0.20
流動点 [℃]
10.0
C18:0
3.99
引火点 [℃]
178.0
C18:1
43.36
C18:2
10.70
C18:3
0.55
C20:0
0.14
unknown
0.75
表IV-1-2. パームBDF混合軽油の流動点に及ぼすBDF混合割合の影響および
OzOilの改善効果
パーム混合軽油の流動点に及ぼすBDF濃度の影響
曇り点[℃]
流動点[℃]
軽油95% + Palm BDF 5 %
0.0
-18.0
軽 油90% + +Palm
軽油90%
P aBDF
Bl D
m F10%
0.0
0.0
-1 3 . 0
-13.0
軽油80% + Palm BDF 20%
0.0
-8.0
軽油70% + Palm BDF 30%
1.0
-4.0
パームBDF混合軽油の流動点に及ぼすOzOilの効果
曇り点[℃]
流動点[℃]
軽油95% + Palm BDF 5 % + 0.5% OzOil
1.0
-34.0以下
軽油90% + Palm BDF 10% + 0.5% OzOil
2.0
-34.0以下
軽油80% + Palm BDF 20% + 0.5% OzOil
2.0
-20.0
軽油70% + Palm BDF 30% + 0.5% OzOil
2.0
-4.0
表IV-1-3. OzOilのパームBDF混合軽油(B5)に対する低温流動特性の改善効果
三井石油2号軽油で調整したパームBDF混合軽油
流動点 (oC)
B5
+ 1%OzOil
1%OzOil
目詰まり点 (oC)
ー19
<-34.0
<-34.0
曇り点 (oC)
ー1 1 . 0
ー11.0
0.0
ー1 3 . 0
ー13.0
0.0
-39-
三愛石油2号軽油で調整したパームBDF混合軽油
流動点 (oC)
B5
+ 1%
1 %OzOil
OzOil
目詰まり点 (oC)
曇り点 (oC)
ー1 5 . 0
ー15.0
ー8 . 0
ー8.0
ー2 . 0
ー2.0
ー3 0 . 0
ー30.0
ー1 2 . 0
ー12.0
ー2 . 0
ー2.0
3.実用化開発の期間中に特許又は実用新案の登録の出願をしているときはその状況
発明名称:ディーゼルエンジン用混合燃料及びその流動点降下方法
出願番号:特願2007-112823
出願日 :2007(H19)年4月23日
出願人 :サンケァフューエルス株式会社
4.実用化開発の成果
(実用化開発の成果は具体的に詳細に記載し、実用化開発の成果を適用させるため、具体的方法、適用
上の問題点及び実用化開発の技術的・経済的効果、公害防止効果等について、具体的、かつ、詳細に
記載すること。)
開発課題[I] 「パイロットプラントを用いた高品質ひまわりBDFの連続生産」における成果
筑波大学が担当したBDF生産プロセスの数値シュミレーションにより、従来の一段階反応では、EU14214
が規定する反応中間体の濃度を満足することが出来ず、2段階反応が必須であることが指摘された。この結
果を踏まえて当初予定していたパイロットプラントの設計を変更した。新たな反応プロセスに基づいてプ
ラントを建設し、ここで生産された製品の燃料特性、反応中間体などを詳細に分析し、当初予定した規格
EN14214を十分満足するものであることを確認した。これによって、今後のスケールアップへの指針が明確
となった。
原料物質に依存する燃料特性の一つである酸化安定性の検討は実用化において必須の項目である。特に
不飽和脂肪酸含有量の高いひまわりBDFについては慎重に抗酸化剤を選択することが必要である。抗酸化剤
は、フェノール系とアミン系とに大別されており、比較調査の結果、ひまわりBDFにはアミン系が有効であ
り、1200 ppmで規格を満足することを明らかにした。これによって、酸化安定性が欠点と言われていたひ
まわりBDFの利用促進が図れることとなった。さらに、酸化安定性と関る燃料タンクの腐食もんだいについ
てもその原因がタンク中に存在する水滴であることを究明し、今後のBDF実用化におけるノウハウを蓄積し
た。
開発課題[II] 「パイロットプラントで生産されたヒマワリBDFのエンジン排気特性と長期走行試験」
滋賀県立大学山根研究室および西日本鉄道によって、定置コモンレールエンジを用いた排気ガス特性の
調査が行われ、排気特性の解析が行われた。また、実車2台(6気筒直接噴射式ディーゼルエンジンを搭載
した三菱ふそう6D40)による3000 km 走行試験では、エンジン潤滑油の燃料希釈と务化状況,噴射ノ
ズルの先端のデポジット堆積状況を観察した.
Smokeは,ひまわりBDFおよび大豆BDFともに高負荷運転時でも軽油よりも低く、ほとんど無煙に近い値で
あった。B5においても,軽油より低く,スモーク排出量の低減の観点では,B5でも十分と言える.排気ガ
スの可溶有機成分(SOF)については、中・高速回転時に、B100において高い値を示す。これは,高温保持
-40-
時間が短いため,気化性が軽油よりも务るB100では,混合気が燃料過濃となりやすく,それがそのまま未
反応のまま排出されためと考えられる.このSOFの排出量は,噴射時期を遅らせることによって低下する.
つまり,十分に圧縮した高温雰囲気へ噴射する方が、気化がよくなることと,自着火が確保され未燃焼成
分が減るものと考えられる.これらのSOFに関する知見は、BDFの引火性、気化性を高めることの重要性を
示唆している、具体的な方法として、BDF混合軽油(B5)の利用、また我々が開発した流動点降下剤は、流
動点のみならず引火点を下げる効果がある。よって、この添加剤を冬季のみならず、引火性改善効果剤と
して積極的に常時使用することが考えられる。その他の排気特性については、軽油に比べて特段の問題点
は見出されなかった。
今回の走行試験では,とくに走行に影響が生じるようなトラブルは確認できなかったが,ノズルチップ
先端部へのカーボンデポジットの堆積が,通常の軽油運転よりも多いことは,間違いない.今後,パイロ
ット噴射やポスト噴射を行う新長期規制対応車両などでは,エンジンオイルへのBDFの混入の問題や,コモ
ンレール式高圧燃料噴射システム用の長微細燃料フィルター(5ミクロン以下)では,燃料中の不純物,た
とえばステロールなどが付着しフィルターが目詰まりすることなどが報告されており,最新排気規制対応
車両を使用する際には注意する必要がある.
開発課題[III] 流動点降下剤の大量生産と新規利用方法の開発
化審法の制限により、生産量が3 kg/日となったが、添加剤製造装置を整備したことによって、安定的に製造できる
ようになった。その整備内容は、オゾン発生用酸素ガスの供給装置および冷却水循環装置の新たな設置である。この
今回の製造装置の整備により、オゾン発生効率を改善することができ、製造コストは昨年度比20分の1とすることがで
きた。更に、添加剤の原料油脂として必要なスペックを満たすひまわり油を精製するため、ひまわり油精製設備を設
置したことにより、ひまわり粗油から安定的に添加剤の製造が行えるようになった。 しかし、添加剤の製造コストを削
減できたと言っても、現在の製造コストは1 kg当たり1,000円程度かかり、酸素の利用効率を改善することによって更な
るコスト削減が必要である。
また、ひまわりニートBDFのCFPPを改善する方法について検討し、特性の異なる2種類の添加剤を混合使
用することによって流動点のみならず目詰まり点をも改善し得ることを見出した。1例として、0.5% OzOil
+ 0.1% Chimec によって流動点を - 36 oC、目詰まり点を - 17 oC にまで改善し、3号軽油に匹敵する低温
流動特性を付与することに成功した。
開発課題[IV]
BDF混合軽油の低温流動性改善
B5 パームBDF混合軽油に1%のOzOilを添加することによって、流動点、目詰まり点に大きな改善効果が
見られ、3号軽油に匹敵する低温流動特性を付与することが出来た。これによって、冬季においても安心し
てパームBDF混合軽油B5を使用することが出来る。しかし、B5以上の混合割合については目詰まり点の安全
基準を満たすことが困難なように思われる。
パームBDF混合軽油の目詰まり点をさらに改善するためには、飽和脂肪酸メチルエステルを選択的に取り
除く技術の開発が必要である。これについても一案を有しており今後早急にこの技術を確立する。
-41-
5.実用化開発の成果の企業化及び輸出の見通し
(1)バイオディーゼルプロジェクト
ひまわりBDFについて、その品質は国際規格を十分に満足するものであり、製造プロセスの信頼性は得ら
れた。今回の実用化開発では、具体的なユーザーを想定し、パイロットプラントで試験生産したバイオデ
ィーゼルについては、下記の企業にサンプル出荷を行った。
企業名
出荷(KL)
種類
時期
用途
評価
NHK
3.05
B100
H.19.9-H.19.11
報道トラック
一部問題発生・他は可
三井物産・住友建機
7.8
混合
H.19.9-H.19.12
建機
良好
土浦市
0.27
B100
H.19.11- 現在
土浦・コミュニティーバス
3.365
B100
H.20.1 – 現在
バス
良好
茨城県
0.12
B100
H.20.2
送迎バス
良好
西日本鉄道
1.2
B100
H.19.10-H.20.3
教習所バス
良好
良好
結果、先述のNHKでのトラブルがあったもののモニター企業からは、バイオディーゼルの利用につい
て非常に好評であり、今後も継続して使っていきたいとの意見が大半であった。今後、サンプルを出荷し
た企業を中心に引き続きバイオディーゼルの試験供給を行っていき、各企業への納入実績を積みながら営
業を広げ、下記の販売計画に沿った事業化を目指す計画である。
バイオディーゼル
販売単価(円/KL) 販売量(KL) 売上(千円)
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
平成24年度
平成25年度
平成26年度
平成27年度
150,000
150,000
150,000
125,000
120,000
120,000
120,000
120,000
50
50
50
5,000
7,500
22,500
22,500
22,500
7,500
7,500
7,500
625,000
900,000
2,700,000
2,700,000
2,700,000
平成22年度までは、現行のパイロットプラントをベースに、試験製造販売が済んだ後に実販売へ移行
する計画。しかし、パイロットプラントは元々実用化開発の為に設置したラインである為、採算性の面で
はまったく優位性を持っていない。その為、当初3年半は赤字を見込む事になる。平成23年度から実生
産として生産スケールを上げてバイオディーゼルの供給を行う予定にしており、同年度から徐々に利益の
確保が可能と考えている。
一方実生産へ移行するときの問題として、生産能力 50 kL/日の実用装置の制作費も15億円程度と国際競
争力があるが、生産性解析の結果、BDF生産コストに占める原料費(ひまわり粗精製油)が極めて大きくこ
の削減が今後の鍵となる事が明確となった。よって、弊社では価格、量共に安定的に原料を確保する為、
広大な遊休地を有する東南アジアの国々において大規模なひまわりプランテーションを構築し、オンサイ
トでBDFの生産を2011年に実施することを計画している。製造されたBDFの一部を現地で使用して炭酸ガス
排出権(CDM)を得ると共に、残りを日本に輸出する。いわゆる、バイオマス日本総合戦略が推薦する“開
-42-
発輸入型”の生産を目指す計画である。現在、この実生産計画に向けて、フィリピン企業との提携を進め
ており、平成20年度には約10~50haのひまわり栽培を開始する予定である。
また国内・地元では、よりバイオディーゼルの普及を促進する為に、平成19年7月に「土浦地域バイ
オディーゼル燃料普及協議会」を設立し、地元を中心とした茨城県地域でのバイオディーゼル普及に力を
入れ始めている。
☆土浦地域バイオディーゼル燃料普及協議会
・設立 :平成19年7月31日
・役員 :会長 松村正利 (筑波大学名誉教授・サンケァフューエルス株式会社 取締役会長)
・会員 :茨城県・土浦市・筑波大学・中央農業研究所・NPO法人まちづくり活性化土浦・
土浦商工会議所・関東鉄道・関彰商事・宇田川石油・サンケァフューエルス・大塚倉庫
(2)添加剤プロジェクト
新規添加剤 OzOil は、バイオディーゼルだけでなく、バイオディーゼル混合軽油に対しても、低温流動特性を改善
する効果がある事が実用化開発を通して明確となった。しかし、化審法の規定により、現状では年間1トン以上の国内
での製造、また輸入が出来ない。そこで、バイオディーゼル市場が既に大きい欧米での展開が考えられる。
海外での展開を考えると、弊社単独での事業化は難しく、大手商社と組んで添加剤の事業展開を行っていく方向を
模索。現在その準備を進めており、平成20年度中に商社との取組が決まり、21年度から商品として展開していく予定
である。
添加剤
販売単価(円/KL) 販売量(KL) 売上(千円)
平成20年度
平成21年度
平成22年度
平成23年度
平成24年度
平成25年度
平成26年度
平成27年度
500,000
500,000
500,000
500,000
500,000
500,000
500,000
500,000
1
3,000
4,200
5,900
8,300
11,600
12,800
14,100
500
45,000
63,000
88,500
124,500
174,000
192,000
211,500
国内での化審法による制限と、海外で展開する場合には輸送の面からも海外で生産した方がコストも低くて済むこ
とから、海外企業へ委託生産する計画である。既に海外にある大手のオレオケミカルメーカーと接触している。しかし、
日本の化審法のように、米国のTSCA、欧州のREACH等新規化学物質に対する製造量の規制がある。海外で添加剤
が新規化学物質にあたるか、製造量の規制はどうなっているか等、法律面でクリアしなければいけない。更に製造コ
ストを下げていく必要がある。他社添加剤の販売価格を参考にすると、最終的には本添加剤も1 L当たり500~800円
程度に設定する必要がある。
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